お見舞い
彼氏と蛍を見に行く約束をしていたのに、風邪をひいてしまい、当日の朝になってキャンセル。電話で謝っておいたが、彼氏は「うん」とか「おう」とか言うだけだった。
氷枕で大人しく寝ていたら、夕方、彼氏がお見舞いに来てくれた。私の好きなりんごジュースを持って。……かなり温くなっていたけれど、お腹が冷えなくてちょうどいいや、と思いながら飲む。
彼氏は、私の学習机の椅子に腰掛け、団扇でせわしなく首の辺りを煽ぎながら、いつもの調子で語り出す。
「まあな、どうしても見に行きたいっちゅうわけでもなかったんやから、気にせんと寝とったらええねん。蛍なんか、大体、ただの虫やろ? あんなもんな、光ってへん時にここらに出て来たら、『うわ、ゴキブリや!』って間違えて殺してまうで、絶対」
それを聞いて私は笑ったが、冷静に考えると、どうもおかしい。
「なあ、それって、蛍自体どうでもいいっていうこと? 来年ももう見に行く気ないって?」
団扇を持った手が止まる。
「……いや、そんなこと言うてへんって。お前が見に行きたいんやったら、虫でも何でも見に行ったる。いや、虫でも何でも、ってなんかおかしいな……」
さっきより一層速くばたばた煽いで一人焦っている彼氏を見て、私はげらげら笑う。
いつの間にか、元気になれた。ありがとう。
お見舞い