鬼と獣、弐
朝はやっぱり爽やかに。
今日の予定、天国へ出張
長い廊下を進む。辿り着くのはいつもの仕事場。今日も仕事に明け暮れる、予定。
「やぁ、鬼灯君。お早う。今朝は目覚めは良かったかな?」
頭上から野太い声がした。言うまでもなく、地獄の看板 閻魔大王である。
眉間に皺を寄せつつ、頭上へと視線を移す。
「お早うございます。…仕事もろくにしない癖によくそんな口が叩けますね。誰のせいで私が徹夜をしていると?」
「お、おぅ…。今日はしっかりするからさぁ。怖いよ?鬼灯君…」
閻魔大王は苦笑いを浮かべつつ、静かに冷や汗を流した。
鬼灯に容赦は無い。閻魔大王でさえも手中に収めてしまう。
「あ、鬼灯君。そういえば今日は白澤君の所へ行く日じゃなかったかな?」
話題を変えるため、閻魔大王が思い出した様に人差し指を立てて告げた。
「えぇ、そうですよ。彼と顔を合わせるなんて苦行はザラに無い。私が居ない間、しっかり仕事をして下さいよ?何なら椅子から動かない様に縛り付けて置きましょうか」
「だ、大丈夫大丈夫。心配しないで天国にいってらっしゃい。そうだ、シロ君も連れていくといいよ」
閻魔大王は冷や汗をタラリと流しながら椅子に深く腰掛けた。
シロの話題が出たちょうどその時、閻魔殿の扉が開いた。
入ってきたのは白くて丸い、紛れもなくシロである。
「鬼灯様、閻魔大王様おはようございます。鬼灯様天国に行くの?僕も一緒に行ってもいい?」
「おぉ、シロ君ナイスタイミングだね。そして相変わらず察しが良いねぇ。僕が許可するから行っておいで。桃太郎君に会いたいでしょ?」
閻魔大王が救われた様に汗をハンカチで拭き取る。
「シロさん、また太りました?一緒に行くのは構いませんが途中で団子屋の寄り道はしませんよ」
鬼灯もシロに視線を移す。シロが始めてここへ来た時よりもはるかに丸くなったのを見て、鬼灯はダイエットプログラムを考えようと思った。
「そう?仕事だらかね、しようが無いよー。でも、運動不足じゃ無いと思うんだ。亡者が多すぎるの。んー、久しぶりに桃太郎に会えるなぁ、鬼灯様ありがとう」
桃太郎に会えるとわかり、シロは尻尾をブンブンと振った。
尻尾が無ければ白熊だな、と鬼灯が思ったのは秘密である。
「まぁ…、では、シロさんと天国にいって来ます。くれぐれも私の仕事を増やさない様に願います」
「閻魔大王、いってきます!」
鬼灯はくるりと身を翻し、シロを連れて閻魔殿を後にする。
最後に鬼灯の殺さんばかりの冷たい視線とシロの嬉しさの詰まった表情を眺め、閻魔大王は安堵の溜息をつき、小さく手を振った。
鬼と獣、弐