憑依どん
リサイクルショップの従業員がパソコンに取り込んでいた古書は、災難事例を駒に、将棋のような勝負をした太古のマッドサイエンティストの月刊号4冊であった
事務職の中島杏璃(なかじま・あんり)は連日のパソコン入力作業で疲れ、鼻筋を揉んでいた。
リサイクル部門の専務をしている社長の息子、土間丹孝之(どまに・たかゆき)が、持ち込まれた古書の内容を興味本位にパソコンにタイプさせていた。
と言うのも、ただ古びた本なのに強気で売りつけてきた胡散臭い寺の住職に関心を示した孝之は決して複写してはならないという警告に、いたずら心の湧いた彼は、手書きやコピーでなければ善いだろうというこじ付けで、杏璃に指示してパソコンに取り込ませていた。
杏璃は、正確に取り込んで欲しいと言う孝之の指示を受け、読みにくい文字はスキャナーで取り込み、パソコンに転送し、ソフトに解析させ文書に張り付けていった。
彼女自身、内容はさっぱりわからなかったので何も面白いことはなく、ただただ、目が疲れ、頭がぼーっとする作業だったが特別手当を孝之がくれると言うので内心喜びながらも、むっとした表情でしっかり自分のものにしていた。
やせ形で身長160センチで、男の興味を引くという事のない地味な杏璃にも興味を抱く男性がいたが
話しをしてゆくうちに、彼女の素っ気ないキンキンと耳障りな声に距離を置いてしまっていた。
梅雨明けてじめじめした湿気の焼かれた初夏の午前11時、スキンヘッドの大男がリサイクル部門の倉庫にやってきた
190センチの格闘家の等身大パネルの頂点を肩にかすって、気難しそうに埃を払った男は、自分のの大きさに身を避ける若者達にクラッシックカーの盛り上がったボンネットのような頬骨を向けて目で笑いつつ、ラジコンのクルーザー並みの大きさの革靴で、乾いた音をタイミングを計ったように鳴らしてゆっくりと中古のパソコンの山積みで囲まれた杏璃の作業する机の方に向かっていた。
8時出勤の所を一時間早めに出ていた杏璃は、体内時計を腕時計に18回目の休憩の催促をする内心に応えて、両手をYの字に突き上げ大きく伸びをした。
その瞬間、彼女の影が異常に伸びたのを見た大男は連呼するように足音を速めて近ついてきた。
椅子から立ち上がって軽く周りを見渡し、4メートル近くまで通路を来ていた大きなスキンヘッドの大男を見た彼女だったが、面倒なものを感じて疲れ目の瞬きで気が付かない振りをして無視すると、自分の胸の高さに積みとどめたオーディオデッキの上に眼鏡を置いて、庫内の自販機に向かった。
大男は、やってきた目的もさることながら、杏璃のとぼけた知らんふりに、通り過ぎたマネキンの笑顔にキスし甲斐があると鼻で笑った。
立ち去った杏璃に足を止めた大男が後を追おうと意識した瞬間、彼は全身に突きつけられたエネルギーに囚われて動けなくなり、何とか動かせた目で、エネルギーのやってくる方角を見ると、オーディオの上に杏璃が置いた眼鏡からマジックで描いたような目が彼を見ていたのである。
憑依どん