Once You Meet Her
わたしはこの神殿近くの丘が大好き。
そよ風か吹いて、草は波打ち、小鳥がさえずる。
それはまるで天使の歌のよう。
姉さまたちには、後で神殿を勝手に抜け出したことを怒られるかもしれないけどそれでもいい。
だってわたしはこの場所が好きなんだもの。
わたしだけの、この、秘密の場所が。
-きゃっ!
突然きた大きな揺れ。わたしはしばらくの間立っていることもできなかった。
-あれ…?
上を見ると晴れ渡った空のはるかむこうにぽつんとあった灰色の雲。それがこっちに向かってだんだんと広がってきている。それはどんどん加速して不気味なものにさえ感じた。
-いやな予感がする
考えるより先に神殿に向かって走りだしていた。
「エリア!よかった、無事だったのね」
姉さまは神殿の入り口のところにいた。
よかった、さっきの胸騒ぎはわたしの勘違いだったのね。
わたしは駆け寄ろうとしたが姉さまの顔がこわばったのを見て思わず立ち止まった。
「…っ!危ない!」
-え…?
今度は姉さまがわたしに駆け寄ってきた。そしてわたしを突き飛ばし姉さまは…
-…!?
身体を貫かれ血が滴り落ちていた。
振り返るとそこには既に木っ端微塵にされた魔物が。おそらく姉さまのエアロにやられたのだろう。
「エリア、ここは危険だわ…あなただけでも逃げて…」
わたしは首を横に振った。姉さまはぐったりとしながらもなお言葉を続けた。
「水のクリスタルを守れるのは、もう水の巫女であるあなた一人しかいないの。だから…」
「おお、お二人ともここに居られましたか!…なんとその怪我は!?魔物に…?」
そこにやってきたのはわたしたちの世話係であったじいやだった。
「いいところに…じいや、エリアを連れて逃げてください」
「そんな、あなたさまを置いていくなど…」
「大丈夫です、わたしなら」
そう言って姉さまは立ち上がった。
「それに…わたしにはここでやることがまだ残ってます」
「動いてはダメです!お怪我が…!」
「また魔物が来ないうちに神殿に封印を施します。二人とも魔物が血の匂いを嗅ぎつける前にはやく逃げて…」
わたしは首を横に振った
パンッ
「水の巫女ともあろう者がなに我儘を言っているのです!さあ、はやく行きなさい!」
はじめて頬を叩かれ、姉さまは見たこともない険しい表情だった。
「行きますぞ、エリア殿」
わたしは何も言えなかった。
そのあとのことはほとんど記憶にない。覚えているのはわたしとじいやの二人だけ、どこに行くかもわからないまま荒れ狂う海の上にいた。
そこで意識は途切れ、気付くとわたしは暗闇のなかにいた。
エリア…
どこからともなく聞こえた、聞き覚えのある声。
-姉さま?
この闇に包まれた世界を救うには光の戦士の力が必要です…
彼らと出会い、水のクリスタルへと導くのです。
それが水の巫女であるあなたの使命…
-!?待って、姉さま…!
次に目覚めたときは、辺りの眩しさに思わず目を細めた。
ここはどこなのだろう、と虚ろ虚ろ考えていると人がいるのが目にはいった。
「よかった、気付いたみたいだな」
まず話しかけてきたのは銀髪の少年だった。
「あなたは…ここはどこ?」
力の入らないかすれ声でわたしは言った。
「オレはルーネス。クリスタルに導かれて この世界にやってきたんだ」
クリスタル…?それにこの人たちの心の光…
「もしかしてあなた達…」
それが、わたしと光の戦士との出会いだった。
Once You Meet Her