イソ

イソギンチャクによる推理。
それは外れまくれる物。
だって彼の脳みそは形としての意味しかなさないのだから。
彼は自分は頭がいい、頭がいい、と毎日、常に、いつも言っているが、俺はそうは思わない。
彼はとても辛いのである。それだけはわかる。しゃべりまくっている人っていつも悲しみを隠そうとする。見ちゃうと傷つくのはいつも自分だから。だから防御力を全開にしていつも守っているのだ。
自分が発した物から自分の体と心を守るために。そんな事を彼の先祖は何千年前からやってきたから体がそんなフニャトゲトゲみたいになってきたのだ。
へへーん。といつも彼は言っているが、わかってんだよ、お前だって辛い事を。俺なんかよりもきっと何倍も辛いんだろうね。俺はなんとかしてあげたいけど君に与える言葉はいつも波に流されるし、発する思いはすぐ体の中で解けてしまう。とても寂しい事だね。
でも、君、お前は俺の友達。一生付き合っていくかどうかはわからないけど、お前はやっぱり友達、やっばい友達。だから俺からなるべく離れないでくれ。いや、これは怪しい意味で言っているんじゃないんだ。
ただ、あまり、その、遠く行ってほしくない。行くならまず俺に行ってくれ。それはお前と俺が友達でいるかぎり必ず守らなくては行けない事。約束よりも大事な物。契約よりもいい音のする物。運命よりは馬鹿げていないもの。責任よりも軽いもの。そう、空気みたいもの。なくちゃ困るだろ。空気は。死んじゃうぜ。
昨日、すごく楽しかったね。お前はいつも足が速くて、俺は魚のくせにいつもお前に追いつけない。
イソギンチャクに追いつけない魚なんて前代未聞だよ。こんな事親にばれた日には寿司にされて食われる。なんでお前はそんなに足が早いのだ。意味がわからない。第一、お前は止まっているべき存在じゃないのか。動いては魚とイソギンチャクの相互関係が成り立たないんだよ。
でもやっぱり、そんなお前が好き。
俺はいつも精神的な面でお前に一発食らわせる。お前は目に見える形で俺にライトフックをカウンターで食らわす。とてもいいボクシングの試合みたいだ。
お前の流した血と俺の流した血が混ざり合って、いい色合いを作ってくるんだ。
それはまさしく純粋な青。血の色の定義を根本的に覆す反応さ。
すごいだろ。だから俺はこうやってお前に今言っているんだ。俺たちの友情は全てを超える。神も仏もあっというまに倒れる。そんな力を持っているんだ。

イソ

イソ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-17

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