しっくり

あるところに兄弟がいた。
兄さんはクソまじめな性格で弟はいつも遊んでいた。
そのせいもあって、兄さんは生きるのがうまかった。
女にはもてる、仕事は信頼を置かれててきぱきとこなす、周囲の人からの評価は日に日に上がっていくばかり。
弟とくれば、人に嫌われまくり、仕事もろくにできず、いつも一人で自分の価値観の中で楽観的に考えながら過ごしていた。
弟はいつでも楽観的だった。でも、たまに痛い程現実の自分の姿を意識してしまって夜も寝付けず、泣く事もできず、ただただ苦しいときを過ごす事があった。
でも、それは兄さんも同じで全てがむなしく感じてしまって、なにもかも感覚的に飲み込めず、このまま死ねばいいのにと思う事がたまにあった。
人生どう生きるにしろ楽しいときは楽しい、悲しいときはそいつと向き合わなければいけないのであるのだろう。

ある時、兄さんはついいろいろカッとなって弟を殺してしまった。
兄さんから見た弟は罪を犯していないようで最もしてはならない罪を24時間犯しているように見えた。
それは本当にたまに思う事だったが、うまい事(運が悪い事)に殺意という奴と合ってしまって事を犯してしまった。
兄さんは警察に捕まり、牢屋に閉じ込められた。
兄さんはずっと考えた。
自分がした事が罪かどうかそれ以前にいろいろ考えた。
罪だとしたら絶対どこかで自分の中に罪悪感が芽生えるはずであった。でも、本当に心から納得のできる罪悪感は見つかってこない。どうしても、あの時はどうしようもなかったんだ、みたいな考えしか浮かばない。兄さんは弟を見る事によって自分の姿、掴みたくてもうまく掴めず、表現できない自分の姿を見てしまって殺した感じがした。殺すつもりはなかったけど結局選ぶ手段は相手の命、存在を消す事だった。初めて人生でしっくりくる事をした気がした。
因果関係、結果の事等なにも考えなくていい。とにかくしっくりきた。
しっくり来たという事は間違った事をしていないに違いない。そう思うと生きて来てよかったなと少し思えて来た。
牢屋には窓があった。窓の外から人が見える。薄い人たち。持ってる物も見れずに、自分が何を持っているのかも知らずに生きていっている人々。そのまま年取って死んでいくだろう。他人が作った他人にしかわからない偽りの幸せの形を自分の生や死に当て込めて、本当の物を見ずにそのまま闇の中に消えていく人たち。別に人を殺さなくても見えるはずである。でも難しいだろう。手っ取り早くこの兄さんみたいに素直に、するっと穴に入ってしまったみたいに行動に起こせば見えるのに。

しっくり

しっくり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-17

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted