木枯らし色マフラー
SSその2
外に出ると、木枯らしが容赦なく吹き付けた。身を縮こまらせて一歩足を踏み出す。
季節は十一月に入ったばかりではあるが、もう立派に景色も気温も冬仕様だ。
特に部活をしているわけでもないので、放課後になればどっぷりと日が暮れる前に帰路につくことができる。そこだけが救いだった。
曝された首を肩で守りながら進むと、後ろから声をかけられた。寒さで億劫になりながらも声の主を向く。
「寒そうね」
「おー。さみぃ」
幼なじみの鈴木が隣に並ぶ。気の抜けた、ぶっきらぼうな調子で同意を示した。
小さく息をつくと、細く白い息が広がった。寒々とした気持ちで眺める。
「はい」
鈴木がふわふわと丸まったものを差し出してきた。
まじまじと見る。手渡されたのはマフラーだ。見慣れないマフラーに首を振る。
「俺のじゃない」
「あはは、知ってるよ。私のだもん」
その言葉に疑問は深まる。二人が立ち尽くすその間も、木枯らしは止むことはなく体温を奪いにきた。
「貸してあげる」
「いらねーよ」
「風邪ひいちゃうよ?」
「お前だって」
「私は佐藤君と違ってコート着てきたから。賢いでしょ」
最後の言葉に反論しようとしたが、その隙も与えずほらほらと半ば押し付けてきた。渋々マフラーを受け取る。
正直、この申し出は嬉しかった。とにかく寒いので、何か欲しくてたまらなかった矢先のことだから尚更だ。
お礼を述べ、有り難く首に巻く。首元を強化しただけなのに、寒さがかなり緩和された。
「ね。温かいでしょ」
マフラーを渡したことで満足したのか、鈴木は小さく笑った。笑んだ頬が寒さで赤くなっている。
見てしまったことが気不味く、適当に返事をして視線を逸らした。
そして少しでも寒さを防ごうとマフラーで口元を隠す。
「…………」
瞬間、鼻を掠めた匂いにどきりとした。隠したばかりの口元を露にする。
「ねえ、聞いてた?」
「……返す」
「ええ? 良いから使いなよ」
「っ、いらねーよ!」
思わずマフラーを外して投げつけた。柔らかい布は見事に鈴木の顔に命中してしまった。
しまったと思いはしたものの、振り返ることなく駆け出した。
「もう! なんなのよ!」
文句が背中を追いかけてくる。当然だ。
せっかく貸したものを投げて返されれば誰だって困惑するだろうし気分を害する。
しかし今はそのことに構う余裕はない。振り切るように、全速力で走った。
暫くすると息が切れ、速度が落ちた。それでも止まることなく走り続ける。
急に冷たい空気を大量に吸い込んだことで肺はきしきし痛んだが、気にならなかった。
「…………」
完全に息切れがしたころ、漸く足が止まった。世話しなく呼吸音が響いた。
走ったことで身体は温まり、今は暑いくらいだ。はたはたと手で扇ぎながら、歩き出した。
「…………」
無意識に、マフラーが触れていた首を撫でる。
マフラーの質感と鈴木を思い出す。
白い肌、柔らかそうな頬、色付いた唇。マフラーは、そういった素肌に触れる。
「…………っ」
頭を振って考えを消し去った。
温まった顔は、走ったせいかはたまたマフラーのせいか、真っ赤になっていた。
木枯らし色マフラー