アマイロイロ

SSその1

アマイロイロ

晴れていた天気は崩れ、帰ろうとした矢先、バケツをひっくり返したような降水量に呆然として昇降口に立ち尽くした。
今日に限って天気予報を見るのを忘れてしまった。しかも追い討ちをかけるように日直に当たり、帰りが遅くなってしまった。人気のない校舎が重々しい。
降りやまない空を見上げた。後悔が押し寄せる。

「入れよ」

ふいに後ろから声をかけられた。振り返ると、同じクラスの男子が傘を開いたところだった。

「え………」
「傘、ないんだろ」
「うん……」

申し出は嬉しいが、男子と同じ傘の下に入ることは気恥ずかしくもある。それでも、雨の中走って帰ることはしたくなかったし、せっかくの好意を無駄にしたくはなかった。
少し迷ってから、お邪魔しますと小さく呟いて、隣に並ぶ。
傘を打つ雨音が煩い。

「家、どこ」
「隣の駅の……」
「じゃあ近いな」

無言のまま歩く。ふと視線をあげると、男子の反対側の肩が濡れていた。
自分は濡れていない。それどころかスペースに余裕がある。
二人の不自然に空いた距離に、息を呑んだ。
あと一歩近付けば、二人とも完全に傘に入る。そう気付いたものの、勇気が出せずに距離を保ったまま歩み寄れない。

結局行動に起こせないまま、駅に着いた。罪悪感が募る。とぼとぼとした足取りで購買機へ向かう。切符を買いながら、必死に思考を巡らせた。
なにか言葉をかけなくてはと焦りはするものの思い付くはずもなく、お礼を伝えるだけで精一杯だった。

「ありがとう、ございました」
「はい」

目の前に差し出されたのは、新品の傘だった。袋は破いてある。驚いて差し出し主を見上げた。

「え……」
「これ、使えよ」
「買ってきたの?」
「…………」

駅の入り口にkioskがある。切符を買っていた間に、傘を買っていてくれたのだ。
答えは聞かなくとも分かっていた。慌てて財布を出そうとバッグを漁る。

「ありがとう。いくら――」
「いらないから」
「でも……」
「良いから」

口調こそ静かだが、有無を言わさない物言いに再度お礼を述べて受け取った。

「いらなかったら、あと捨てればいい」

そう言い残して、男子は駅を出た。
わざわざ送るためだけに駅まで来てくれたのだと気付くと、申し訳ない気持ちが込み上げた。同時に、感謝の気持ちもわく。

「ありがとう。また、明日ね」

遠ざかる背中に声をかけた。

雨はまだ降り続き、止む気配はない。
見送る間も、傘をしっかりと握りしめていた。

アマイロイロ

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  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-16

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