王様の絵

王様の絵


昔々ある国に、
それはそれはとても偉い王様がいました。

ある日王様は絵を描こうとしました。
しかし赤い絵の具がありません。
王様は家来に言いました。
「赤い絵の具を持って参れ。」
「王様、赤い絵の具はただ今ございません。」
王様は少し考えて言いました。
「では民をナイフで切って、血液を集めて持って来い。
それを赤い絵の具代わりに使おう。」
家来は早速町に出て、町行く人を片っ端から切って血液を集めました。
そしてそれを瓶に入れて王様に差し出しました。
王様はそれを使って赤い色を塗りました。

黒い絵の具もありませんでした。
王様は言いました。
「今度は黒い絵の具じゃ。どうする?」
「王様、髪の毛はどうでしょう?」
「それじゃ。それを集めて持って来い。」
家来は町行く人の髪の毛を片っ端から切りました。
そして集めた髪の毛を火にかけた釜の沸騰したお湯の中に入れました。
しかし髪の毛はお湯に溶けませんでした。
「王様、髪の毛では黒い絵の具は出来ませんでした。」
「う~む。」
王様はしばらく考えて言いました。
「よし、ホクロじゃ。
民のホクロを削って、集めて持って来い。」
家来は早速町に出て、町行く人のホクロを削りました。
余計な皮膚は丹念に取り除きました。
そうして集めたホクロを火にかけた釜の中に入れました。
しかしホクロもお湯に溶けませんでした。
「王様、ホクロでも黒い絵の具は出来ませんでした。」
「う~む。」
王様は再び考えました。そして思い付いた様に言いました。
「では民の眼球をえぐり取って、さらに真ん中の黒い部分だけをくり抜いて持って来い。
これなら大丈夫じゃろ。」
家来は早速町に出て、町行く人々の眼球をえぐり取りました。
そしてそこから真ん中の黒い部分だけをくり抜きました。
さらに今度はそれを細かく刻んでよく潰してから釜の中に入れました。
ようやく黒い絵の具が出来上がりました。
王様はそれを使って黒い色を塗りました。

さらに白い絵の具もありませんでした。
「次は白い絵の具じゃ。」
「どうしましょう。」
王様は言いました。
「簡単じゃ。先程の眼球の残った白い部分を使えば良いのじゃ。」
「王様、眼球の白い部分はもう全部捨ててしまいました。」
「なんじゃと!?う~む。」
王様はしばらく考えました。家来は言いました。
「爪の先の方はどうでしょう?」
「それは面倒じゃ。とりあえず歯と骨で良いじゃろう。」
「かしこまりました。」
家来は町行く人の歯を、片っ端から折って集めて回りました。
しかし、黄みがかっていたり、黒い穴が開いていたりと様々でした。
「民の歯は汚れておるのう。」
王様は言いました。
次に家来は骨を集めて回りました。
まず町行く人の肉を剥いで骨を取り出します。
そして川に行って骨に付いた汚れを綺麗に洗い流しました。
それを叩くなどして粉々にした後、火にかけた釜の中に入れました。
しかし思ったように白くなりません。
「う~む。」
王様はしばらく考えました。そして突然言いました。
「そうじゃ、母乳はどうかのう?」
家来は早速町に出て、赤ん坊のいる家を回りました。
そして女性の乳房に瓶をくっ付けて母乳を集めました。
赤ん坊が左の乳房に吸い付いている時は右の乳房から、
右の乳房に吸い付いている時は左の乳房から母乳を採取しました。
そうして沢山の瓶にいっぱいの母乳が集まりました。
王様はそれで白い色を塗りました。

さらに黄色い絵の具もありませんでした。
「次は黄色だが」
王様が言いかけた時、家来が口を開きました。
「王様、黄色ならもう集めてございます。」
「なんだと、どうしたのじゃ?」
「先程骨を集めるために肉を剥いだ時に、ついでに脂肪も集めておきました。」
「おお、でかした。」
家来は沢山の脂肪を大きな鉢に入れ、よく練った上で王様に差し出しました。
王様はそれで黄の色を塗りました。

さらに青い絵の具もありませんでした。
王様は家来に言いました。
「青は簡単じゃ。お前たちの腕に青い管が通っているじゃろう?
その青い管から取れば良い。」
家来はナイフを自分の腕に刺し込みました。
しかし赤い液体が出て来ただけでした。
「もっと丁寧にやらんといかん。」
王様は別の家来に命じました。
その家来はナイフでまず管の周りの皮膚を取り除きました。
そしてナイフを横にして管を持ち上げました。
しかし出て来たのは赤い管でした。
「おかしいのう。」
王様はまた別の家来に、今度は首の青い管から出すように命じました。
しかし結果は同じでした。
「う~む。」
すると王様は、家来の胴体の一部が青くなっているのに気が付きました。
「これはどうしたのじゃ?」
「昨日殴られた痕でございます。」
「よしこれじゃ。今度はわしが直接やるぞ。」
そう言うと王様はナイフを手にし、
その皮膚の青くなっている部分を切り取りました。
しかしやはり赤い液体が出てくるばかりで、
切り取られた皮膚は青さを失い少し黒めの皮膚になりました。
家来たちの顔が青くなりました。
床は家来たちの皮膚と赤い液体で酷く汚れました。
「わしは少し外に出て来る。お前達は床を掃除しておけ。」
王様はそう言うと町に散歩に出掛けました。
町には大勢の人が倒れていました。
体が切り刻まれている人や、
目の部分から血を流している人、
骨が露出して膝関節より下が無くなっている人など様々でした。
時折前から、やけに髪の短い女の人がふらふらと歩いて来ました。
中には赤ん坊を抱えている者もいました。
王様はふと立ち止まりました。
そこに倒れている人の体に、
青いような緑のようなもやっとしたものが乗っているのです。
王様は早速家来を呼びました。
「これはカビですか?」
「そうじゃ、これを集めるぞ。
町中の人に付いているカビを瓶に集めて来い。」
家来は町中を回ってカビを瓶に集めました。
青いものと緑のものとはなるべく分けて違う瓶に入れました。
やがて二つの瓶は青と緑でいっぱいになりました。
家来はそれを王様に渡しました。
「よし、ご苦労。」
王様はそれで青い色と、緑の色を塗りました。

それから王様は夢中で絵を描き続けました。
そして長い時間の後、遂にその絵が完成しました。
それは広くて高い壁いっぱいに描かれた、
大きな大きな人間の絵でした。
王様はいつまでもその絵を大切にしました。


おしまい

王様の絵

王様の絵

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-07-15

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