ぜつぼーのほーてーしき!!Ⅱ~Feather of the collapsing angel~

プロローグ 「過去」に堕ちた「翼」

「あ、おはよー。煌火昨日なんかあった?レイカが叫んでた気がしたけど・・・」
 部屋に入るなり一緒に暮らしているポニーテールを横で結んだサイドポニーとやらの女子、もとい鳴沢緋恋が話しかけてきた。
「おはよう。特に何もなかったな」
「あれ、煌火・・・なんか変わった?なんというか、少し明るくなったような?」
 と緋恋が訪ねて来たがまぁ、なんというかその・・・昨日レイカに言われてからもう少し感情を表に出してみてもいいかなぁとか思っちゃったわけなのでございまして俺自身が風邪をひいちゃったとか特に何ら変わりはないわけでございますよ。
「まぁ、少しあってな」
「そっか。ところで煌火、レイカはどうしたの?昨日はこの時間帯に起きてきたはずだけど」
 そういえば少し気になるな。
 それは昨日の夜に見たレイカが寝ている間にうなされていたからつい気になって振り返った時に見てしまった白銀の大小一対ずつの翼のことである。まぁ、具現で翼を展開したのならまだわかるものの現れてからすぐに金色の粒子となって消滅したっていうのが具現ではないということがわかる。具現したものが消える場合その場に消え入るように、というかそのまま消えていくわけだからな。
「まぁ、まだ寝てるんじゃないか?まだ時間帯も早い方なんだし仕方ないことだと思うぞ?」
 時計を見ながら答える。ちなみに今は時計に「5:26」と表示されていた。そう考えると暗殺組織であるソロモンで一睡もしない日が何日も続いたりした俺は慣れているが普通の人間で  ある緋恋は早起きな方なのかもしれない。 
 と、そこに神刀が入ってくる。こいつも早起きな方だな。
「おはよう、煌火君に緋恋さん」
 おはようと俺と悲恋が返すと神刀が俺に対して話しかけてきた。
「煌火君、何か変わった?なんか明るくなったと思うけど」
 このくだりは二回目だぞ・・・まぁ、さっきと同じ返し方をしておいた。
「まぁ、そんなどうでもいいことは放っておくが、俺はレイカを起こしに行ってくるからな」
「あ、ちょっと待って煌火。アタシが起こしに行ったほうが良くない?ほら、もし着替え中だったら大変だと思うし」
 そんなことも考えたけど同じ部屋ということもあって俺が行くことにした。この選択肢を選んだのは間違いだったのか果たしてそうでなかったのか俺は知るよしもなかった。
部屋に入るとレイカは寝ていた。あの時のような翼はないもののやっぱり少し具合が悪そうだ。けどまぁ、そのことに関しては本人に直接聞くのはやめておいたほうがいいだろう。やっぱり人間の過去に関してはあまり関わらないほうがいいだろうし、以前の俺のように人間には知られたくないところとかあるだろうしな。
「レイカー、起きろ」
「ん?んんぅ・・・おぅか、さん?」
デコピンの指をつくって、ピンッと弾く。
「痛いじゃないですか!何するんですか・・・うっ」
 起き上がろうとしたときレイカが頭を抑えてよろめいたから俺が支えようとしたところー
「触れるな!!」
 手を払われてよろめいたところに首を絞められる。レイカの華奢な体には似合わないような強い力でギリギリと首を絞められる。
「ぐ・・・かっ・・・」
 まぁ、締められるのは慣れているんだがさすがにこの状況を回避する為とはいえ〈血塗れの獄鎚〉やなんやらを使うとレイカもろとも消し飛ぶかも知れないし何よりも校則によって禁止されているからな。まぁ、昨日の件は正当防衛として一応見逃してはもらったが・・・?そうか、攻撃魔法じゃなけりゃいいのか。だったら一か八かでやってみるしかない。
 〈虚無の終焉者(ザ・ゼロ)〉レイカから首にかかる力(この場合レイカには絞めている感覚はあるが俺は絞められている感覚がない)をゼロにして酸素を確保する。危なかった。
「お主は誰だ?私はどうしてこのような場所に居る?」
 顔を上げたレイカの目はいつものように蒼ではなく金色をしていた・・・こいつはレイカではないな。
「説明をして欲しければまずお前から名を名乗ったらどうだ?それが礼儀ってもんだろ」
「黙れ。私に逆らうな」
 レイカ(?)の言葉に俺の言葉は一蹴される。言葉を聞く気はないか・・・なら仕方ないか。
 〈式の創造者(コードプログラム)〉〈言の葉の命令式〉言霊によって対象者に命令を聴かせるための式。まぁ、一応限度はあるんだがな。
「手を話せ。そして名を名乗れ」
「ぐっ!?あ、あぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
 手を放し頭を抱えてつんざくような悲鳴をあげる。 
 背中にはあの夜のように白銀の翼が展開されて額にダイヤのようなマークが連なっている模様が現れていた。ちなみにこのマークは見たのは初めてだな。
「貴様っ!私に何をしたぁぁぁぁぁ!!」
 と、俺をひと睨み。
「いいから名を名乗れよ!!そしてお前は誰なんだよ!!」
「いいだろう。私は――」
レイカ(?)は静かに口を開き、言葉を口にする。
「堕ちた天使。ウリエル=イラマクートだ」

第一章「魔族」に封じられた「天使」

 寝室で起こったあの事件はなんだったんだろうな・・・・まぁ、一応俺以外のやつの記憶は消しておいたんだがウリエルというのはやっぱり気になる。やっぱり調べたほうがいいだろうな。
「あ、煌火さん。今日の朝って何かあったんですか?」
 登校途中の道を歩いている途中でレイカが効いてくる。ちなみに今のレイカはウリエルの状態ではないが一応警戒のためワイヤーは手につけておいている。
「いや、特に何もなかったがどうしてそう思ったんだ?」
「あの、朝おきたら私のベッドじゃなくて煌火さんのベッドで寝てて、それで服も軽く乱れていたので・・・」
 ジトーっと緋恋がこっちを見てきた。
「ちょっと待て、俺は何もしていない!無罪だなんだ!だから風紀班を呼ぶのはやめろ。というかなんで俺が責められる羽目になってんだ?」
「いや~、だって。ねぇ?レイカが襲われちゃったんだし・・・?」
「だから言ってるだろ。俺は何もしていない。だったらその時の記憶を見せてやってもいいんだ・・・いや、なんでもない」
 言葉の途中で気づいた。危なかった。もしここで記憶を見せたら確実にウリエルのことがバレてしまう。
「それにしても煌火って意外と大胆なんだねぇ~、にっしし」
「断じて言うが、俺は何もしていない。わかったか?わかったならそれ以上口を開くな」
 睨みながらそう言い聞かせると素直にコクコクと頷いた。
「要領のいいやつは好きだぞ。いい子だ」
 そう言いながら緋恋の頭に手を置いて頭を撫でる。
「ふにゃ~、煌火~・・・そこ気持ちいぃよぉ・・・そこもっとぉ・・・・あっ!うぅぅ、にゃぁぁ」
 目を細めて俺にされるがままになっている緋恋である。と、そこに緋恋がふと我に返って慌て出す。
「って煌火!なにしてくれちゃってんの!?気持ちよすぎて思わず変な声出しちゃったじゃない!!」
「ははは、なめてもらっちゃァ困るな。元はといえば完全者(かんぜんしゃ)の知識に加えて昔一人で公園にいた猫を撫でまくっていたらここまで撫でるスキルが上がったのさ!!」
「煌火君、それさりげなく自分は昔ぼっちだったって言ってるようなものだと思うんだけど」
 しまった!そうだったか。うっかり自分のぼっちな過去を言っちまった!
「煌火さんって昔忙しかったんじゃないですか?その、仕事とかで」
 仕事?仕事・・・あぁ、ソロモンのことか。
「そうだなぁ・・・まぁ、小学校の時とかはほとんど仕事だったからなぁ。まぁ、ちゃんと勉強はしなくても完全者としての知識に欠けはするけど普通の人間のそれの比じゃないから特に問題はなかったぞ?」
「やっぱり完全者ってすごいんだよね?頭良いし運動もできるから」
「なぁ緋恋、知ってるか?体を動かすには反射以外の時は脳が命令を下す時が多いんだ」
「いや、それは知ってるよ?というかアタシどこまで馬鹿だと思われてんの!?」
「え?お前って馬鹿じゃなかったのか!?」
「うわ、ひどっ!!まぁアタシはれっきとした馬鹿だけどね!」
 ドヤァとこっちを見てきた。というかこいつなんでこんなにも自慢げなんだ?
「まぁ、というのはどうでもいいんだが、レイカって魔族の中でも種類は何なんだ?」
「あ、え~っと、確か私の親が言うにはアザゼルって言われてましたね。でもそれがどうしたんですか?」
 ふむ、アザゼルときたか・・・旧暦の神話で言うと堕天使ということだよな。というかどうして堕天使の体の中に普通の天使が・・・まぁ、今考えても仕方ないんだけどな。
「えぇと、まぁ、他の人には秘密ですけどね」
 レイカが苦笑しながら言う、そういえばこの学校に魔族って何人くらいいるんだろうな。後でウルに聞いてみるか。
 それにしても堕天使の一族であるレイカが光の魔法を使っているということはどういうことなんだろうか・・・今までソロモンにいたときは結構堕天使の種族ってのはかなりいたんだが、そいつらが言うには堕天使ってのは闇魔法しか使えないっていう話だったんだが・・・・な。

――ということがあった四月四日の昼の図書室にて――
「え~っと、確か魔族関連の本は・・・っと」
 それにしても高校にあるにしてはかなりの量の文書である。
 見渡す限り本の山だし、そのジャンルもかなりあるしな。まぁ、何よりもかなり広いスペースがあるのは何よりも助かる。
 ちなみに現在は神刀とレイカと緋恋とは別行動をとっていて神刀は同級生と昼食を食べに。レイカと緋恋も同じような理由で一緒に行動していない。要するに完全なぼっち状態であるということだ。しかも図書室には誰もいない。
 そんなことよりもまずは調べ物だな。
「コードプログラム〈空想と現実の体現者(エアリアル)〉」
 本をパラパラとめくりながらその一ページ一ページとエアリアルのデータを照合していくが・・・ずれはない、か。
「あれ?えっと、君は・・・・見ない顔だね?」
 後ろから声をかけられて振り向くと女の人(?)がいた。
 狐のような耳と尻尾が特徴的なうなじまであたりまである茶髪で澄んだシェイクスピアの瞳を持つ少女・・・今までは見たことはなかったが、この人も魔族の一種、だよな。
「えっと・・・あなたは?見るからに魔族の中の獣族(じゅうぞく)だと思うんですが・・・」
「うん、そうだよ。私はね、ここの浮島全体でここにしかない学校付属の図書館の管理をしてる二年生だよ」
 ふむ、こんなにも広い浮島でも学校付属の図書館がここにしかないって・・・まぁ、流石にウルであってもそこまでは徹底できないよな。
「それにしても、なんで二年生なんですか?三年生の方が当たり前な感じはしますけど」
「いや~、それが違うのよ~。三年生はね、すごく忙しいの。だから私たち二年生に仕事が振り分けられるの」
 そういうところはしっかりしてるよな、ウルは。
 本に目を移そうとしたとき、先輩が「あっ!」と何かに気がついたように俺に話しかけてきた。
「そうだそうだ、自己紹介してなかったね。私の名前は夏宮(かのみや)(かなで)だよ。ちなみに種族はさっき君が言ったとおりの獣族なんだ」
「俺の名前は桜葉(さくらば)煌火(おうか)です。これからちょくちょくここに来ると思うんでよろしくお願いします」
「うん、よろしく。となると・・・君が来週対戦相手になったって理事長が言ってたんだけど、現時点で一年生最強って言われてるのは君だったんだね。確かにいい魔力を持ってるね」
 この人は魔力が見えるんだな。まぁ、そりゃさっき見た資料の獣族のところには書いてあったんだけど・・・流石に魔力の流れを見られてるとなると嘘は通じない。魔力ってのは人の心を現すものだからな。まぁ、一応俺もその気になれば見えるんだけど・・・目が疲れる。
 でも、と先輩は続ける。
「多分涙ちゃんには勝てないと思うよ」
 言われると思ってたけど、本当に言われるとはな。まぁ、実際に成功体の完全者は九割がた完成していた俺と比べてもそんなに差はないと思うんだがな。
「その前にひとついいですか?」
「ん、なに?」
 ポン、と頭に手を置き――
「ちょっと昼休みいっぱい俺と付き合ってください」
「え?ちょ、どこ触って!!・・・うぅ、恥ずかしいけど気持ちいいよぉ・・・」
 ちなみに俺が触っているのは頭であり、特にそこについている獣耳である。まぁ、猫と同じようにいくなら・・・というか、先輩かわいいなぁ。
「やっぱり猫とかその他の動物みたいなものなんですか?」
「う、ん・・・・そうだ、よ?という・・か、その・・・・撫でるのやめて、くれな、きゃ・・・あ、んっ」
 それにしてもなんか頭を撫でてるだけなのにすごい背徳感があるっていうかなんかなぁ。俺は先輩の腰のあたりから生えている尻尾の付け根のあたりをなでるように触る。すると先輩はさらに身をよじらせる。
「あ、ふぅ・・・にゃ!?そこは、だめだからぁ・・・」
 ふむ、基本的には猫と同じなんだなぁとか思いつつなんか先輩を撫でるのなんか楽しいなぁとか思ってしまう自分もいる。しかも髪はふわふわしててお香の匂いがするというのがさらに俺を興奮させる。俺って案外変態だった・・・いや、これはただの興味本意で獣族の耳とかを触ってるだけだからなぁ・・・
 と、俺が手を離すと先輩はその場にへたり込んだ。
「あの、先輩。俺はただ単に初めて見た獣族で体に興味がわいたので触っただけです。すいません」
「それって、はぁ・・・・なんか卑猥な感じがするよぅ」
 先輩は呼吸を整えて立ち上がるものの足に力が入らないのか俺にもたれ掛かってきた。
「あの、先輩?どうしたんですか、大丈夫ですか?」
「ぁ、うん・・・ちょっと腰が抜けちゃったみたいなんだ。それとね、さっきの気持ちよかったしさっき昼休み中って言ったんだから、ね?さっきの続き・・・・・・・・・・しよ?」
「ちょォォっっと待ったああああああああああ!!」
 ガラッと勢いよくドアが開いて緋恋が中に乱入してきた・・・ってことはちょっとまてよ、何か勘違いされる予感というかこれはもう確定事項じゃないのかなぁ。もう嫌だ、社会的に死ぬじゃないか。
「緋恋、お前クラスメートといるとかって言ってなかったか?」
 と、椅子に腰掛けながら問う俺に対して語った緋恋によると、昼食を食べたあと暇になったから俺のところに来たらしい。ついでに言うとちょうど奏先輩の声が聞こえてきたから制止の叫びをあげて入ってきたということらしいんだが、図書室では静かにするもんだぞ?
「えっと、君は誰?ひゃん!?」
「というか先輩、なんで俺の膝の上に座ろうとしてるんですか!?」
 俺の膝の上に座ろうとした先輩の尻尾の付け根をギュッと掴んでついでに少し揉んでみたら先輩が腰を落としてきて、何気に尻尾の触り心地が良かったのであまり力を入れすぎないようにして触り続けると先輩が膝の上で身悶えしている・・・あ、なんかこれ楽しい。
「あの、煌火・・・何してるのかな?この角度からだとお尻を触ってるようにしか見えないんだけど、というか煌火ってこんなキャラだっけ?アタシの中の煌火の印象がガラッと変わってるんだけど」
「いや、別にこれはそういうことじゃないんだ。勘違いなんだ。ただ尻尾を触っているだけでなんか感触が気持ちいいなーとか思って触ってるだけなんだ」
「あぅぅ・・・・恥ずかしいよぅ。けど気持ちいい・・・・・・・・・」
「うっわー、煌火って案外Sなんだね。まぁ、煌火がMってのも考えられないけど」
「そん、な。どうでもいいこ、と・・・ひゃぅ、やめさせ、てぇっ!!」
 まぁ、そこまで言うならやめてあげたほうがいいだろう。というか後からが怖いな・・・・・・・・社会的に殺されるかもしれないし。
 と、ちょうど手を離したその時に予鈴が鳴って俺と緋恋は教室に戻って先輩は図書館を閉めてから行くというので先に行って、教室に戻ってからもう一回チャイムが鳴って訓練が開始される。今日の昼休みは今まで見たことなかった種類の魔族である奏先輩のせいであまり進まなかった。まぁ、ほとんど俺の興味本位なんだけどな。
 今日得られた情報を簡単にまとめるとだな、魔族は人間に比べて魔力の量が多いということと、魔法に特化しているため強化魔法を長時間使え、身体能力が高い。それに加え人間と比べると種族が多く複雑で、その多くは旧暦の時代にいた悪魔や神の名前からとって付けられているらしい。
 とまぁ、こんなところだろうけどやっぱりレイカのようにウリエルという天使がアザゼルという堕天使の種のレイカの体の中にいるのか・・・・それが不思議でならない。本人に聞くというのは最後の手段として、今はできる限りのことをやろう。
午後の訓練は筋トレなどといった入学してから続いているメニューだが、まあソロモンの時代にやっていたメニューと比べるとなんとも生ぬるいものではある。ソロモンの時代には・・・・死にかけたこともあったしなぁ。
 まぁ、手を抜いててもついていけるわけだから実際に手を抜いているわけだが、面倒だから早く終わって欲しいものだ。

―放課後―
 俺は少し奏先輩にちょっとした用事があって二年校舎がある浮島に来たんだが、広いな・・・まぁそれもそうか、二年ともなると本土やら海外からも多くの留学生もとっているらしいし、確か一年の二倍くらいの人数がいるとかなんとか聞いたな。これだと先輩は見つかりそうにないな。というかなんか周りの先輩たちって男女でいちゃこらしてんだろうな、あー腹立つ。リア充どもめ。
 などと細かいことを気にしていても仕方ないので〈式の創造者〉の中でも探知能力のある〈天眼〉を使って奏先輩を探す。
 天眼は探しているものの特徴さえ掴めればどこにいるのかわかる。この魔法はソロモン時代にはかなり役立っていたということでその探知能力はよく知っているから先輩の特徴を思い出してみよう。
 まず、目はシェイクスピアで、髪はうなじあたりまでの茶髪。そんでもって狐のような耳が頭に、腰のあたりに尻尾がついてて、多分胸は・・・CかD。というか何を考えてるんだ俺は。気を取り直して体重は47キロくらいかな。膝に乗っかってきたとき軽かったし多分それくらいだと思う。身長は俺の首元あたりだったってことで検索開始。と、おぉ、案外近くに居たんだな。多分このまま待っていても来るだろうから俺はなるべく先輩方に気づかれないように気配を消す。
 ここで先輩に絡まれて無駄に問題を起こすのもなんだからな。と、先輩が来た。一応こっちに気づいたみたいだな。
「あれ?煌火君、どうしたのかな?二年の浮島に何か用でもあるの?」
「はい、ちょっと先輩に頼みがありまして」
「えぇっと、昼みたいな頼みだったら普通に断らせてもらうけど?」
「あ、いや。そうじゃないですけど、このあと空いてますか?もし空いてたら図書館を開けて欲しいんですけど」
 いたって真面目な顔をつくって先輩に言う。
「うん、いいよ。私もちょうど行くところだし」
「じゃぁ早速いきましょう」
 手を取って魔法陣を黒い展開する。〈虚無の終焉者〉今いる場所から図書館の鍵が置いてあるだろうと思われる一年校舎の事務室の前に行く。この場合無くしたのは今いる場所から事務室前までの距離をなかったことにした。ついでに俺と先輩以外の人には見えないようにしておいたため気づかれることはないと思う。
 この魔法はそうそう人に見られていいものでもないと思うし、そもそも通常の魔法とは何かが違うためあまり使わないんだがこういった移動に使うことや色々と用途はあるためたまに使ったりもする。ついこの間やったレイカの記憶操作もそのうちの一つだしな。
「あの、先輩?どうかしました?」
 先輩の方を見ると、先輩が口を開けてポカーンとしていた。
「あ、いや、うぅん。なんでもないよ?今のって煌火くんの魔法なの?」
「はい、そうなりますね。俺の魔法のことはあまり知られていないことも多いので説明はできませんが。それよりも鍵、お願いします」
「そうだね、それじゃぁ行ってくるよ」
 失礼します。とノックしてからドアを開けて室内から鍵を持ってくる。
 と、そこで俺が何かに気づく。先輩の制服のワイシャツの柄が違うこと。まぁ、俺たちはただ単に校章が左のわき腹のあたりにあるだけなんだが、先輩のはよく見ると校章がついていなくて炎をデフォルメしたような模様が左脇腹のあたりについていた。
 これはあとで先輩に聞いてみるか。
「お待たせ、それじゃぁ行こうか」
 先輩が鍵を取ってきて廊下を歩き出す。今のうちに聞いておくか。
「先輩、どうして先輩の制服のワイシャツは柄が違うんですか?校章がついてませんけど」
「あ、これはね二年生のワイシャツはこんな感じなの。このデフォルメされた炎のマークは二年校舎の生徒という証なの。このマークの意味は燃え盛る闘志と向上心だっけな、それで一年生のマークの意味は大切なものを守るための力って意味らしいよ。ついでに三年生はたしかデフォルメされた翼のマークで、一チームだけでも独立していける翼って意味だったと思うよ」
 なるほど、そういう意味があったのか。ウルが考えたのならまだわからないこともないな。ああいった奴は一つ一つの個体に目的を与えてその中で人材を育成するからおそらくは一年の過程を終了する段階までに力をつけさせるのだろうな。
「ありがとうございます。先輩って案外物知りなんですね」
「案外ってのは失礼だと思うけどなー。まぁ、私は図書館の本はかなり読んでるからね」
「そうなんですか。あ、そういえばさっき誘った時にちょうど行くところって言ってましたけど、図書館って放課後も開いてたりするんですか?」
「うん、そうだね。基本的には七時頃までは開いてるよ。学校は基本的に二時半に終わるからかなり長い時間使えることになるかな」
「先輩はどうしてこんな仕事を?」
 ふと疑問に思った。あんまり人が来ない図書館で四時間半もいるような普通の人間なら飽きてしまう仕事を引き受けたんだろうと。
「私はね、魔族だから他の人と比べると違うところがあるじゃない?魔族は魔法を得意としてるんだけどまだ魔族と魔法の関わりはまだ知られていないことが多いんだ。それをこの浮島にあるたくさんのことから学べればいいかなぁって思ったのがきっかけかな」
 ちょうどついた図書館の鍵を開けながら先輩は言う。なるほど、魔族と魔法に関することを学ぶ・・・か、それならちょうどいいかな。
 俺は魔族に関する本と、そこらへんにあった適当な魔道書を手にとって持っていく。
「ところで先輩、魔族のことについて教えてくれませんか?少しわからないことがあるんですけど」
 先輩の真正面にあたる位置にある椅子に腰を落とす。
「う~ん、あんまり詳しくないかもしれないけどどんな事?」
「魔族でも堕天使でアザゼルとかって種族がありますよね?そのことに関してなんですけど」
「アザゼルっていったら旧暦の堕天使から名前をとっている種族だよね。あんまりいないけど一応闇の魔術を得意としているというか、闇の魔法しか使えないってことくらいは基本の知識として知ってるよ」
「そうなりますよね。でもその堕天使であるアザゼルの中に天使がいるとしたらどうなってしまうんですかね?」
「言ってる意味がわからないんだけど、もうちょっと詳しく説明してくれるかな?」
 口実だけだと伝わりにくいのでエアリアルを展開してレイカのステータスを先輩に見せる。そのディスプレイに映っているものをみて先輩は少し驚いたような表情をする。
「これは・・・今まで見たことがないね。堕天使なのに光の魔法、か。それに加えて翼、目の色に人格までとなると今まで読んできた本の中にもこういった事例はないからねー。だとして考えられるのは――」
「封印魔術、ですよね?」
「うん。多分それしか考えられないと思う。でも本来なら相反する種族の堕天使の中に天使がいるっていうこと自体がありえないと思うんだけど」
 俺も最初は信じられなかったけど流石に見てしまったものはしょうがない。あの翼と目、そしてあの人格の変わりようを。
「というか煌火君。ちょっとこの子連れてきてくれないかな?詳しいこと聞きたいんだけど」
「それは無理ですね」
「?・・・どうしてかな?この子ってこの学院の生徒なんでしょ?」
「まぁ、それはそうなんですけど。先輩は人の過去についてどう思っていますか?自分の場合は知られたくない過去・・・あ、これは黒歴史とか言われるものではなくて聞いた人は多分俺から遠ざかってしまう可能性が高いのであまり知られたくないですし、他人の過去を無理矢理聞き出そうとしてその人のトラウマに触れてしまうことは避けたいと思うんですよ」
 実際に俺は緋恋に過去について触れられてキレたことがあったしな。
「たしかにそうだね、ごめん。今のは私が軽率だった。でも本人に聞けないとなると、・・・・そうだ!直接聞いてみればいいじゃん!」
「先輩、聞いてましたか?レイカに直接聞くのは本人の・・・そうか、その手があったか」
 言葉の途中で先輩の言葉の意味に気付く。
「ウリエルに聞いてみればいい・・・ですね?」

※     ※     ※
「ふぁ~~~~ぁ、あ~~~~・・・・・ふぅ~~~~」
空が暗くなってきた頃図書館から出て大きく伸びをして寮に向かって行こうとしたら携帯がなった。呼出主はレアーか、なんだろう。
「もしもし?」
『あ、もしもし。煌火かい?今から時間があったら来てくれないかな?あ、これはいつでもいいことなんだけど』
「いや、今から行くよ、どうせやることなんてないし」
『うん、じゃぁ待ってる』
 通話を切ってバックを適当に上に放り投げて図書館の壁に向かって跳躍してそこから図書館の壁を軽く蹴って三角飛びの要領で跳躍。そして空中でカバンをキャッチしてそこらへんにあった寮の屋根に足音を立てないようにして着地してそこから助走をつけて足音をたてないように屋根を蹴る。もちろん普通なら屋根から落ちるんだが、この浮島では具現を使用できるので黒い二対の黒い翼を展開してそのまま羽ばたいてそのまま飛行する。
 普通に歩くよりこっちの方が移動しやすいため便利なのである。
 三分くらい飛んでいたらレアーの店が見えてきたので店の屋根に着地してその屋根から飛び降りて店内に入っていくとカウンターのところにレアーがいた。
「あぁ、いらっしゃい」
 声をかけてきたのは全身黒いローブに包まれた艶のある黒髪と包帯で隠している右目と黒い左目の小さな少女。とは言っても同じ年なんだが。
「来たけど、用はなんだ?」
「もちろん刀ができたからだよ。君が三日以内って言ったんじゃないか。もしかしてだけど忘れてたとかは言わないよね?」
「そうか、忘れたわけじゃないんだがな・・・最近忙しくてな」
 ここ数日忙しいのは本当なんだよな。まず入学してから数日経って野島と()りあって、それから今朝のウリエル。もといレイカの一件で今日一日調べ物をして過ごしていたし、そのうえ緋恋には無駄に勘違いされるしな。
「煌火が忙しくて用事をすっぽかすこととか昔からだからね。でもまぁ、ここに来て煌火が少しでも変わったようで何よりだよ」
 やっぱりレアーにも言われたか・・・
「ところで煌火現金払い?それともカード?」
「俺のどこにそんな大量の金を入れるところがあると思うんだ?」
「でも昔の煌火なら普通にナイフ十本とか隠してたよね?まぁ、実際はそれ以上だと思うけど」
 まぁ、な。暗殺に必要な道具だったし確実にナイフを回収できるわけではないから投擲用のナイフは結構な数を携帯していた記憶はあるな。
「俺の今の立場は学生だぞ?昔とは違うんだよ。ってことで今回はカードだ」
「ふふっ。了解だ」
 レアーは笑いながら俺が差し出したカードを使って会計を済ませる。
 それにしても相変わらずレアーの店は普段客が入っているのか心配になるくらい静まり返っているな。あたりを見回してそんなことを思ったが口に出すのはやめておこう。
「ところでレアー。その刀ってのは期間が短いってだけに品質が落ちたりってことはないよな?」
「もちろん。昔から私が手を抜くことはあった?けど、今回は・・・」
「そんなことはなかったが・・・ん?どうした」
 レアーは少し俯き、
「今回の刀は、妖刀・・・だよ」
 そう言葉を口にした。
 妖刀というと使用者の魔力を奪っていく刀のことで、性能はかなりいいんだが魔力が無くなった状態で使うと暴走してその使用者の心を蝕んでいく刀のことだよな。ちなみに妖刀となった刀には精霊が宿っているとかなんとか・・・・
「レアー。お前は俺を甘く見ている。妖刀が俺の魔力を吸い尽くせると思っているのか?」
 俺の言葉にレアーは頭の上に?を浮かべて首をかしげる。
「虚無の終焉者。俺の魔法だよ」
その言葉でやっと気づいたらしいレアーはやっと言葉を口にした。
「そうか、その魔法による『絶対虚無能力による拒否権』ということだね?」
 まさにその通りである。あまり使いはしないが実際に自分に対する能力などによる干渉を無効にする。いわばチート行為でもあるし、これに気がついたのはつい最近・・・とは言っても去年の出来事である。
「それじゃ、これね。大丈夫とは言ってるけど気をつけて、ね?」
 レアーがカウンターの下から細長い布切れを取り出す。取り出す部分は巾着(きんちゃく)のようになっているんだが、その近くに忌漸という字が綺麗な行書体で書かれていた。
「レアー、この字ってまさかとは思うが・・・」
「あぁ、うん。それはもちろん銘だよ?忌漸(きぜん)って言うんだけど意味としては妖刀の意味も含めてなんだけど忌まわしきものが少しずつ蝕んでいくっていう意味なんだ」
「おい、ガッツリ不吉な意味じゃねえか!!」
 あっけらかんと言うレアーに対してついツッコミを入れてしまった。
「ところで、ここで抜いてみていいか?ついでに試し切りしてみたいからちょっと施設借りてもいいか?」
 商業地帯にあるとは言え案外と建物の面積は大きく、店が占める面積が四割、工房が四割、それで試し切りの施設や応接室で合わせて二割といった感じだろう。
 ということでレアーに案内されてその施設に来たんだがあるのは刀で傷をつけられた大きめな黄色の菱形のマテリアルがたくさんあった。前にレアーから聞いた話によると実態のある武器では壊れずにその武器の強度と切れ味や威力を測れるものらしい。
 ちなみに武器で壊れないのに傷がついているのはレアーの武器の威力がそれほどであるということだ。
「それじゃ、やるか」
 布袋から忌漸を取り出して鞘から抜こうとすると、ドクンッ―――と心臓が大きく跳ねて一瞬だけ目の前がぐらつくがまぁ大丈夫だろう。
 そして鞘から抜いた瞬間ブワッと黒い瘴気が上がって弾けるように消えていった。
「煌火、何か異常はある?」
「ん?あぁ、いや。特にない」
 実際は『絶対虚無能力による拒否権』を使用していないんだが、何もないということは大丈夫なんだろうな。
「さてと、じゃぁ切るぞ?」
「了解っと。はい、これ」
 マテリアルをレアーが持ってきて、俺は一度忌漸を鞘に収めて姿勢を低くし、腰の左側に鞘をあてて左足を下げる。そして右足に体重をのせる意識で構えをとる。
 そして、その構えを見たレアーがマテリアルからけっこうな距離を取る。
 フッ―――という短い呼吸と共に抜刀。何事もなくマテリアルを通過して忌漸を収める。
「あれ?レアー、表示されないんだが」
「おかしいな・・・今までこんなことなかったんだけど。というか刀が通過した、ってことはまさか!!」
 マテリアルに軽くレアーが触れると、ズズズズ――ゴトッ――マテリアルが横に真っ二つに切れていた。
「おい、これって・・・」
「煌火。その刀、やっぱりやめたほうがいいんじゃない?」
「いや、こっちのほうが面白いだろ?切れ味がいいというのには変わりないんだし」
 切れ味以前に妖刀なんだからやっぱり魔力的な攻撃も混ざっているんだろうか・・・
 もう一回試し切りをするためにもう一つ用意して今度も先程のような居合。というか先程よりも速い技である野島にもやった天幻流第一乃剣〈破鎧閃(はかいせん)〉である。
「さてと、もう一回」
「あの・・・煌火、マテリアルはあんまり無駄にしないでくれないか?」
「大丈夫。これで終わりだから」
 それならいいかとレアーは頷いてくれた。
 マテリアルはあくまでも魔力を込めるたりしたから切れるらしいから刀が俺の魔力を勝手に吸い取っているかも知れないため一旦魔力供給を切るために『虚無の終焉者』を発動する。
 さて、これで準備は整ったということでマテリアルに思いっきり踏み込んで一瞬で四、五発切る。
 切るまでは良かったのだが・・・少し部屋が狭すぎたが故にレアーを思い切り押し倒すハメになった。
「イタタッ・・・って、煌火何してるのーーー!!」
 なんか顔が硬いものに当たっているというかなんというか硬いんだが時々柔らかい温もりが触れてくる―――ってこれはまさか嫌な予感がする。
「なんか、硬いものに当たってるんだ―――がっって痛い痛い!」
 レアーに頭をポカポカと叩かれてその状況を抜け出してレアーが立ち上がろうとした瞬間にさらなる不幸は起きたのだった。
 立ち上がろうとしたレアーの服がハラハラと散っていってレアーが生まれたままの状態に・・・要するに全裸になったということでる。おそらくは先程の破鎧閃でレアーとの距離が近すぎて長めの太刀である忌漸の切っ先がレアーの服に触れていたのだろう。肌には傷がないことが幸いである。
「すまんな」
 首を後ろに向けて見ないようにしても一瞬見てしまったものは仕方ないし、失敗作といえど完全者であるものだから人間よりは記憶力がいいからすぐに忘れられるはずがない。
「すまんなで済むわけ無いでしょ!!」
「あーわかったわかった。これでも着とけ」
 そう言ってテキトーーにローブを具現してレアーに視線を向けないようにして放り投げて渡す。
「ありがとう」
 と軽く嗚咽混じりにレアーが言ってくる。うん。これはやばいパターンだからあとから何かしらで返さなくてはな・・・
「うぅ~チクチクするぅ~~~~・・・・」
 だろうね。そりゃ素肌にローブだもんね。しかも具現だからそんなに質もいいものじゃないから仕方ないな。
「じゃぁ、俺はこれで行くから。今度服買ってやるから勘弁してくれ」
「それは・・・二人で?」
「いや、俺はそういったファッションとかそういったもの興味ないからうちのチームの女子に任せる。まぁ、俺が金は出すから」
「そっか、そうだよね・・・・じゃぁ、また今度。なにかあったらすぐに電話して欲しいな」
 まぁ、大した問題がなかったけどいつ問題が起こるかわからないからな。ということで軽く頷いて店を出た。

※     ※     ※
「あ、おかえり、煌火くん」
 寮に帰るなり普段とは違う声がした。
「え、あ、はい。っていうかなんで奏先輩がいるんですか!!?」
 平然とソファーに座りながら紅茶を飲みながら読書をしている奏先輩がいるものだからびっくりして柄にもなく声が軽く裏返ってしまったではないか。心臓に悪いからやめてほしいものである。
「あ、それはね~、何やら煌火に用事があるらしいんだ~♫もしかして、デートのお誘いかな~~?」
「ところで先輩、用事ってなんですか?」
「が、ガン無視された!?なんで?煌火、そこはもっとなんかリアクションが欲しいところだよぅ!!」
 くだらないことを行ってきた緋恋に対してガンスルーという名の制裁を与えることにした。これはこれでなんだか楽しい。
「煌火くんに一応届けておきたいものがあってね」
 そう言って何かを取り出す。
 取り出したものは、フラッシュメモリか。
「中身は見ればわかるから何か質問はあるかな?」
「はいはーい!、質問があります!!」
 緋恋が質問という単語に反応して速攻で元気よく手を上げる。
「なにかな?鳴沢くんの妹さん?」
 妹?ということは兄がいるのか・・・後で聞いてみよう。
「先輩と煌火ってどんな関係なんですか!?図書室であんなことをしてたんですし、どういった関係なのでしょうか!?」
「あぁ、それはね―――」
「恋人だ」
 ブフッ―――奏先輩が口をつけていた紅茶を盛大に吹き出した。
 ちなみにその吹き出した紅茶はフラッシュメモリを受け取ろうとしていた俺にかかった。むぅ・・・これはこれで悪くはないかな?
「けほっ・・けほっ・・・煌火くん。君はいいのかい?私なんかが恋人でも・・・」
「別に俺は構いませんよ?むしろ先輩みたいな可愛い方でしたら大歓迎です」
「かわっ!?っていうか本気にしちゃっても・・・いい、の?」
 まぁ、別に構いはしないけど。
「先輩こそいいんですか?初対面今日初めてあった人と付き合うだなんて」
 常識的に考えてそうだろう。何も知らない人と付き合うなんておかしいとは思う、が。まぁ、俺の方は付き合ってる人とかもいないし、彼女イナイ歴=年齢っていうもんだしんなぁ。
「い、いや・・・それは、あるけどね?あの、その・・煌火くんにシてもらうの・・・・好き、だから・・・・」
 ブフッ―――今度は違う方から何かを吹き出す音が聞こえた。
 音のする方を見てみるとスポーツ飲料のペットボトルを片手に持った神刀がいた。髪が少し濡れているところからすると風呂上がりにスポーツドリンクを飲んでいるところに先輩の意味深な発言が聞こえてきたということか。
「ゴホッ・・・ゴホッ・・・煌火君。今のは本当かい?というか今日一日ですごい変わった・・・んじゃないよね。どっちかって言うと昔に戻ったって感じだね」
「俺のことは別にどうでもいいんだが、先輩・・・どうするんです?」
 ジッ―っと先輩の目を見つめると、ソー。あ、目を逸らした。
「じゃぁ、まずはペットからという関係で―――」
 ブフッ――――俺と神刀と緋恋が一斉に吹き出して見事なまでにハモった。
「いやいや先輩!それはヤバイですって!!って煌火もなにやってんの!?」
「?エアリアルで首輪を・・・って苦しい苦しい!!」
 エアリアルで首輪を検索していたところ緋恋に思いっきり胸ぐらを掴まれた。
「煌火君、まさか本気なのかい!?」
 コクコク、胸ぐらを掴まれていてうまく呼吸ができないので頷いて返事をする。
「やばい!!煌火って思った以上にやばい人だよぅ!というか先輩もそれでいいんですか!?」
「うん。私は構わないよ?むしろそっちの方が嬉しいかな~。これでやっとご主人様ができたわけだし」
「やばいよ神刀!この先輩もトリップしちゃってる!!」
「というか、ひれん・・・くる、しい・・・」
「あ、ごめん!つい」
 まぁ、離してくれたから別にいいか。
「さてと先輩、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないですか?」
「あ、やっと煌火が落ち着いてくれたよ。このままだったらなんかやばそうだったし」
 俺がいつ冷静さを欠いていたというのだ。まったく。
「う~ん、帰る・・・かぁ~、まぁ、別に帰ってもいいんだけど・・ご主人様と一緒にお風呂に入りたいな♫」
「ダメですダメです!!ダメに決まってるじゃないですか!!!寮内でそんなふしだらなこと!」
「そうですよ先輩、もし煌火君の理性の糸が切れたとしたらとんでもない目にあいますよ!」
 なんか神刀がものすごい失礼なことを超さりげなく喋ってる気がするんだが・・・・まぁ、気にしないでおこう。
 それにしても風呂か・・・俺は別にいいんだが緋恋たちが反対しているわけだしここは俺も反対しておいたほうがいいんだよな。
「・・・先輩、いや、奏。今は帰ってくれ。なんというか流石に今からだとまだ精神的な方で問題があるから」
 昨日までの言い方に戻して声から感情を消し、奏の方に手を置いて耳元で囁くように言う。
 先輩はビクッっと体を震わせつつも言葉を受け入れ、首肯を一つ。
 ここは自分から帰るように言ったんだから送っていくのが義理というもの。ということで緋恋と神刀にちょっと行ってくる告げて「虚無の終焉者」を使って先輩を二年浮島まで送っていった。
 だけどさっきからひとつ不思議に思っていたことがあった。それはレイカが寮の中に居なかったということだ。
 先輩と話している時も薄々気がついてはいたんだが、月が出てきて空は夜へと変わっているのにまだ帰ってきていない・・・これは何かおかしい。それに昨日たまたまみたウリエルという天使のことも気になる。もし仮に今レイカの体を乗っ取っていたとしたら・・・・
 その時一年浮島に一本の巨大な光の柱ができた。
 光が柱のように見えるほどの膨大な魔力・・・今まで見たことはないが、もしかしたらウリエルの状態のレイカならありえる。非常に嫌な予感がするから天眼で光の柱の中心部を見てみるとレイカがいた。いや、違う。レイカじゃなくてウリエルか。ということになるとやはりもう一回話をつけなければな。
「虚無の終焉者」
 そう呟いて俺はウリエルのもとへ行くのだった。











 

「光」の「天使」の「闇」

 光の柱のある所に来るとウリエル状態のレイカがいた。
 幸いにも柱がある場所は空き地で、特に野次馬などがいないため他の奴らに見られる心配はない。だが、今は忌漸を持ってきていないということで虚無の終焉者で取り出す。何かと言ってこの魔法は移動魔法に使えるのである。
 それにしても光の柱は異常にでかいな・・・というか近くにいるだけで眩しい。などと思っていたその時だった。
 光速で何かが飛んできて俺の頬を掠める。危ないな・・・高速ではなく光速。失敗作の完全者の目をもってしても捉えることのできないほどの早さ。
「今のは外してやったが次からは当てる!それ以上は近づくな!!」
「嫌だね。俺はただ質問をしたいだけだ。そんなに身構える必要はないさ」
「貴様に答えることなど何もない!」
 まぁ、その通りだろうな。
「だったら普通に強硬手段しかないよな・・・」
 忌漸を抜きながらそう呟いた。多分次に飛んでくる光速の攻撃は避けることはできないだろう。ならば先手必勝。百六十センチの忌漸を右手で逆手持ちに変える。
「天幻流第二乃剣〈秘継(ひつぎ)〉」
 空いている左手を地面につけて片膝をつくような体勢になってから地を這うように体勢を低くして水鏡深(みかがみ)と同じような高速移動をしてウリエルの方向へ駆ける。それに対してウリエルは手を前にかざして俺の方に攻撃の照準を合わせて・・・来たか。だけど残る距離は三メートル。ここからは秘継のの一番得意な間合いだ。
 左側に少し移動してそこからウリエルの右側へ足を蹴り出して距離を半分につめる。そこで忌漸を構えて振りながら切り抜けようとしたとき、ガキィィィ――!!突如として現れた光の壁によって防がれ・・・た?
「甘いな、途中まではいい動きだったぞ煌火とやら」
「ふっ、それは光栄だな。旧暦の天使に褒められるとはな」
 防がれたことに動揺しつつも軽口を叩いておくことしかできない。なるほど、おそらくは光の形や熱量をイメージして、その形を顕現する場所や向きを操るのが手の役割・・・形は変えられないがほとんど血濡れの極鎚と同じか。とても厄介だ。
 だが距離はとっていない。それはウリエルにとっても俺にとっても間合いに入ったということだ。だったら―――
「天幻流絶乃型〈水鏡深〉」
 ウリエルの背後に回り込む。それまでにいた場所には細くかなりの熱量があると思われるレーザーが残像を焼き尽くしていた。半分チートだろこれ・・・
 今度は反撃のつもりで忌漸をもう一度首に振ってもしゃがんで軽く避けられる。
「私を甘く見たな。光というのは直線上にいくらでも伸びている。しかしそれは形を成さない。私はそれに形を与えることができる」
「ぐ、が・・・あああああああ!!」
 気がついたら槍で腹を貫かれていた。しかも熱量はかなり高め・・・肌が溶けそうだ。
「おっと、誰か来たようだな。今日はこれくらいにしておいてやる。次からはもう近づくな。死にたくなければな」
 誰か、来た?クソ。意識、が・・・目の前が霞んで。声だけは聞こえて、もしかして緋恋たちか。それに気づいたときに意識を手放した。

※     ※     ※
 ここは、どこだろう。目の前が真っ暗だ。
―お前、死ぬのか?―
 誰だろう。声がする。俺と全く同じ声、うっすらと見えてきたその姿は・・・俺?
 目はドス黒く、光が差していなくて顔も全く同じなんだが、髪の長さがかなり長い。それに十字架に磔にされている。
―お前はまだ死ぬべきじゃない―
 そうは言うがここはどこだかわからないし、夢でも見ているんだろうか?
―夢じゃない。ここは精神世界―
 言葉から察するに俺の心の中だろうか、それにしても俺に人格は二つも・・・ないよな?
―実はある。けど何もない―
 あるのかよ!!まぁ、それはいいとしてお前、名前は・・・俺と同じなのか?
―何もない。名前も、心も、何もない。ただ、何もないこともない―
 ?言っている意味がわからん。
 というかそもそもなぜ俺はここにいるんだろう。
―お前は一回死にかけたんだ。旧暦の天使によってな。そして俺がお前の意識をここに連れてきた。体はいま病棟で管理されているから大丈夫だとは思う―
 なるほど、そりゃよかった。だけどお前はどうしてここに俺を連れてきたんだ?
―話がしたかった―
 どんな内容だ?
―お前はどうして俺の魔法を使わない?―
 お前の魔法?使わないとなると普段使わない虚無の終焉者、だよな?
―そうだ―
 それは、俺が弱いから。だよ
―そうか、ならお前に少しだけ知識を授けよう。旧暦の魔法と科学。そして虚無の終焉者に関する知識を―
 そう言われたとき頭の中に何かが流れ込んでくる感覚が意識を支配して俺は目覚めるのだった。

※     ※     ※
 白い部屋、ここは・・・・病室、か。まさか退院したばかりなのにもう一回来ることになるとはな。
「ん?あ、目が覚めたんだね、煌火」
 緋恋だった。
 緋恋がベッドの横で語りかけてきた。
「あんまり体を動かそうとしないほうがいいと思うよ?お腹に穴が空いたらしいから」
 随分と軽い言い表し方だな。まぁ、その通りなんだけど。
 だけど不思議と痛みはない。ものすごい違和感があるので起き上がって腹に巻かれた包帯を取って見てみると・・・・傷が、なかった。普通なら手術して傷跡が残るはずなのに・・・もし仮に誰かが医療魔術をかけてくれたとしても治るはずがないんだ。
「緋恋、どうしよう。傷・・・ない」
「えぇと、煌火?冗談はやめようね?って、えぇぇぇぇ!!本当にない、どうなってんの!?」
 可能性を探ってみる・・・本来ならないはずのことがある。少し考える。考えた結果、あるじゃないか。さっきまで話していたんだから。もう一人の俺よ、これは俺にレイカを救えと言っていると捉えるぞ。
「ところで緋恋、時間は?」
「十時間くらい寝てたから五日の午後の七時だね。ちょっとお医者さんに言ってくる」
「任せた」
 さてと、これはリベンジしなくてはな。今日は金曜日だ。そして明日から休みが始まる。休みの間には二年生代表のチームが対外魔戦をするから見に行かなくてはいけない。だったら今日のうちにかたを付けるとしようじゃないか。
 戻ってきた緋恋が連れてきた医者に退院の許可が出されたので俺は病院を出てすぐに寮へと足を進めた。会議を開かなくてはいけない。全員で。
 寮に戻ると神刀が誰かと通話していた。時々理事長などと聞こえるからウルなのだろう。何かあったのか緋恋に聞くと、昨日からレイカが行方不明らしい。原因はだいたいわかっている。
 神刀が通話を切るのをようやく言葉を口にする。
「レイカを救うために協力してくれ、頼む」
 その言葉にたいして、もちろんと神刀と緋恋は軽く頷いた。
「まずは大まかなことを話すとしよう。レイカは元々アザゼルという魔族で、そのレイカ=イラマクートという器の中にウリエルという天使がいる。この天使が昨日俺をやったやつだ」
「はいはい、質問。煌火、って結局槍に刺されていた形になっていたけどその魔法ってのは実際どんな感じだったの?」
「お前は一応最初の魔戦の時に前線だったからわかると思うけど俺の血塗れの極槌と同じような感じのもあったし、簡単に言うと身の回りにある光を利用して光の何かを作る魔法って感じかな。」
 まぁ、実際に聞いたんだし違いはないだろう。それにもし他に魔法があったとしても・・・俺からもらった記憶を頼りに何とかしてみせる。
 拳を握り締めて自分の無力さを嘆いていた去年とは違うんだ。もし今回で決着をつけられなかったとするとレイカの体をウリエルに乗っ取られてしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。せっかくなったチームメイトを他の人格で塗り替えられる?そんなの俺たちのチームじゃない。
「よし、行こうか」
「そうだね。だけど煌火君は前回のようにならないでね?」
「わかっている」

※     ※     ※
 その日の夜にレイカを探すのは簡単だった。もちろん天眼を使ったんだけど。
「さてと、レイカ。戻ってこい」
「どうして来たんですか!私は煌火さんを傷つけたんですよ?そして殺そうとしたんですよ!?」
「そんなことはどうでもいいさ。俺は死なない。いや、死ねない。未月(みづき)のためにもな。」
 去年死んだ義妹、桜葉未月。俺はあいつの分まで生きると誓ったんだ。
「だからといって、昨日殺されかけた人に会いに来るなんて!!・・・面白い、気に入ったぞ煌火とやら!」
 レイカが言葉を発している途中にウリエルに切り替わったか。まずは先手はとらせてもらうぞ。
 ワイヤーで手を縛ろうとするも光の壁によって阻まれてしまう。実際に目で見えないほど細いから見えないはずなんだが・・・おそらくは光の魔法使いならでは光の反射で見極めているんだろうな。 
 俺はワイヤーを引っ込めて、神刀は特攻。緋恋は神刀の援護をするようにと指示し、俺は忌漸を構える。
「神刀、やつの直線上に入るな!攻撃が来る」
「了解・・・と言いたいところだけど流石に僕の武器じゃキツイかな」
 神刀の武器はナイフ。一応刀身は三十センチあるんだが、流石に攻撃はクロスレンジでしかできない。
 俺もウリエルの動きを先読みし、その射角に入らないように接近し、忌漸で切りつけようとするもやはり光の壁によって防がれてしまう・・・・これじゃぁ打つ手がない。
「相変わらず防御はこれに頼りっぱなしなんだな」
「貴様らなんぞこれで十分だ。『光槍ゲイボルグ』!!」
 展開しようとした隙に神刀が間合いに潜り込んでそのまま首に目掛けて振るうが、それはまたしても防がれる。ただし槍の展開はキャンセルされて命拾いをする。だけどそこで終わるようならまだこいつには勝てないだろうと思っていたら何かが頬を掠めた。
 よく見ると氷の矢だった。まったく、危ないことをするじゃぁないか。一瞬ヒヤッとしたぞ。
 俺を掠めて飛んでいった矢は神刀のナイフを防いでいた壁の延長線上で見事に防がれた。
 光の速さで魔法を展開する。それに加えて距離は無限ならもっと早く。そして、もっと鋭く動いていかないといけないな。
―そんなに焦るなよ。落ち着いて作戦を立て直せ―
 (またお前か、俺よ)
―そうだ。せっかく俺が記憶を与えてやったというのに―
 (記憶?あぁ、そうか。すまん、攻撃一辺倒になってて考えるのを忘れてた)
 そんなやり取りをしているうちに俺が立っていたのはウリエルの射線上、しかも光が手に集まり出している。これは、もう、終わった・・・・
 世界が遅く見える。死を前にした人間ってこんな感じなのかなーとか思って腕で顔を庇うような姿勢をとって目を閉じると周りの温度が高くなった気がした。緋恋からは俺の名を呼ぶ悲鳴のような絶叫と神刀の激昂したような嗚咽混じりの咆哮が聞こえてきた。
 そして光が収まったと思ったら俺の体にはなんの影響もなかった。というより俺自身死んだと思った。あたりを見たらまだ月は煌々としてウリエルの頭上にあって、そのウリエルは流れるような銀髪を振り乱し、激昂した神刀と交戦していた。
―今回は助けてやろう。お前に死なれてもらっては俺も困る。だから、半分体を借りるぞ―
 (お、おい、ちょっと待て!体の半分を借りるってどういうことだ!?)
 借りると言われた瞬間に左半身の力が抜けていく感覚に見舞われて左肩から下がだらっと下がる。
―さて、行こうか。俺はお前の動きに合わせる。だが俺は左手を魔法を使うのに専念するからお前は刀の操作に当たれ。防御は俺がする。それと・・・魔法の無力化もな―
 無力化・・・さて、これはそのままの意味で捉えておくとしよう。
「天幻流第二乃剣〈秘継(ひつぎ)〉」
 宣言するとともに足に魔力を流し込んで、脚力を強化してそのまま横に飛ぶ。元俺の居た場所には光線が貫いていた。
―別によけなくても良かったのにな―
 これは避けたのではない、技の為の移動なんだ。
 そしてそこから踏み込んでウリエルの右側に移動、そのまま勢いを殺してウリエルに忌漸を突き立ててみるも光の壁に阻まれる・・・かと思ったら光は闇に覆われて消えてしまった。
 昨日はとおりもしなかった攻撃が今では通じる。だがこのままではウリエルの首をはねる。それはレイカの死も同時に意味するということであるわけだから鋒が届くその寸前で忌漸を手放してもう一人の俺に話しかける。
 おい、今レイカの体を乗っ取ってる状態のあいつを引き剥がすことはできるか!?もう一人の自分に問う。
―できないこともないが、できる機会は一回だけで、それも一瞬。そして、失敗した場合はあの娘の記憶は全て消える。それでもやるか?―
 と、抑揚のないな声が帰ってくる。だが、俺の答えは決まっている。
(あぁ、もちろんだ。で、どうすればいい)
―まずは娘の頭に触れろ。そうすれば俺が記憶をお前に見せる。お前はその記憶が流れてきたら乗っ取られた時の記憶を俺の能力を使ってなかったことにしてやれ―
(簡単には言ってくれるが・・・・で、その記憶を消すのにはどうしたらいいんだ)
―俺の魔法の一部をやる。受け取れ―
 その瞬間、左手に冷たい感触、いや、温度すらない感触のない感触が伝わってくる。左手をみると黒い炎が燃え盛っていた。
―記憶を引っ張り出して焼き尽くせ。そうすればあの娘も解放される―
(わかった。なら俺も俺の魔法を使わせてもらおう)
 コードプログラム、刻射(こくい)動体視力を極端に高める代わりに脳がかなり疲弊するため使用は避けてきたコード。
 (それにしても、人の記憶の中身を覗くっつーのはどうもいい気がしねぇな)
 暗い空間の中にピカピカと光るディスプレイのようなものに高速で流れる映像・・・おそらくあれがレイカの記憶。
 刻射を使っている状態なのにかなりの速度で流れているということは音速をゆうに越している。それも限りなく光速にくらいの速度。その中から特定の一部の記憶だけを抜き出して抹消しろとはとんでもないムチャぶりをしてくれたものだな。
 巻き戻しなどできない。失敗した場合は相当なリスクがレイカにかかる。緊張感による冷や汗が頬を伝って何もない奈落の底へと堕ちてゆく。
 まぁ、ここまできたら腹を括るしかないんだが・・・っと、そろそろ記憶がここに来てからのものに切り替わったな。
 とりあえず集中してここ最近の記憶を探るがまだ来ない。もう少し待っても来ない。などと思った瞬間映像が眩い輝きを放ちだした。
 思わず輝きに目を覆ってしまうがすぐに目を閉じてたおかげでそんな長く時間をロスしたわけじゃないからもう一回見てみるとレイカとウリエルがリンクしかけているところだった。
 急いで炎を展開してその記憶を燃やしてみる。と、その瞬間に今までいた暗い場所に少しの光が差し込み、一筋の道を作った。
 それはとても儚い光で、今にも消えてしまいそうなのに、とても暖かく優しい光。
 記憶も消したことだからやることもないしとりあえず元の世界に戻りたいなーとか思いつつも光の道を歩いていくと、一本の柱のようなものが見えてき・・・え~と、なんだ、その、女の子に鎖が巻きつけられてあって、しかも全裸で羽の生えた。
 羽の少女は、レイカと同じ程の背丈であって、体型も似たようなものだと思う(流石に全裸を見たことはないからな)。髪は綺麗なまでの桜色。西洋人形のように整った顔立ちに雪のように白い肌が印象的な天使そのものを現したかのような少女。
 なんというか、第一の感想が欲情したとかそんな感じの感情じゃなくて、見惚れた。そんな感じの表現が正しいんだと思う。
 つーか、俺の周りには普通の人間少なくないか?奏先輩といい、神刀といい、レイカ、それに加えてこの羽っ()。えーと、魔族に不死身の魔法使いと堕天使に・・・・これは、天使だよな?
 となると普通の人間はレアーと緋恋くらいしかいないじゃないっすかヤダー。
(で、俺よ。これは、どうしたらいいと思う?)
―どうでもいいんじゃないか?お前の好きにしたらいいと思う―
(本当に適当だな)
 自分で自分にツッコミを入れるという傍から見たらただの危ない人と思われるようなやり取りを数十秒した後、向き合わなければいけない現状に目を向ける。
 流石に全裸で鎖に縛られているままにするってわけにはいかないしな。
 忌漸・・・あ、そっか、ここは精神世界だからあるはず無いか。仕方ない、まだ残っていた炎で鎖を焼き消してその鎖の存在そのものを消し去る。ただ、この場合で焼かれたものは、文字通り『消滅』する。要するに存在そのものがなかったことになる
 でもまぁ、こんなものがあったからレイカは現にああなっていたわけだからないほうがいいのかもしれないな。
 鎖が消えて音もなく精神世界の黒い地に落ちる羽の少女。
 ・・・どうしよう、まぁ、とりあえずは適当に服でも具現して、あれ?
 具現しようとしても具現ができない?物質を具現する際に発生する独特の光もなく具現しようとしていた服が現れるわけでもない。どういうことなんだ。
 仕方がないから具現は諦めて制服であるワイシャツを脱いでそれを天使にかけておく。
 でもなぁ、あれだなぁ、俺は学級で行う魔戦で返り血でワイシャツの下になにか着ているとその分重くなるからという理由でなにも着てないんだよなぁ、変な人だとか勘違いされるというのは非常に困るんだがなぁ・・・
「ん、んんぅ?」
「お、起きたか?」
 起きたようなので声をかけてみた。
「お、おおおおおおおお前は誰だ!し、しかも裸で私に何をした!!!」
 しかし俺は思い切り勘違いをされてしまった。うん、予想通りすぎやしないかな?
「あー、何だその、勘違いをしているだけだとは思うが・・・俺は何もしていない。それと俺はただお前に聞きたいことがあってこちら側の世界に来ただけだ。だけどお前と話をしようをとおもってここまで来たらお前が鎖で封印されていたから助けた。ただそれだけだ。
「そ、それは本当か・・・ならば先程の非礼は詫びる。で、その聞きたい事というのはなんだ」
 透き通った淀みのない声で天使は問う。
「じゃぁ、まずはお前は何者か、ということを一応聞いておこう。それと、この空間に対するお前の認識を教えてくれ」
「私の名前はウリエル。昔は天使だったものだ。それで、この空間というのは・・・悪いが全く心当たりはない」
「なるほどということは今のことは全く知らないんだな?」
「そうだ。だから少し説明が欲しいんだが頼めるか?」
 今までレイカの中にいたと思っていたんだがそれは違ったようだな・・・まぁ、どうせ現状を説明しないと何も始まらないわけだし説明しよう。
「そうだな、まずは何を話せばいいか、だが。今はウリエルが過去に見ていた世界、今の俺達が言うには旧暦っていう時代とは違って天歴って呼ばれてる時代なんだ。それで、ここは精神世界ってところで、お前は魂だけこの中にあるっていう感じかな。で、だ。何か封印をかけられたとかそういった記憶はないか?」
「それは、ある。と言えばあるんだが・・・ひどく曖昧で、それでとても冷たい夢のようなものなんだ」
 大した情報は得られそうにもないし、トラウマを掘り返すような真似はしたくないんだが熟考した末に選んだ答えは聞くことにした。
「すまないが話してくれないか?この状況を打破するためにも必要なんだ」
「わかった。たしか、あれは・・・いつだったか、旧暦というのは確実なんだが、いつかは忘れた。私は人類に大洪水によって多くのものが失くなるということを付けたということは覚えている」
「たしか、ノアとか言われる方舟を造ってどーとかこーとかっつー話だったな」
 元からあった知識の中に組み込まれていた書物からそのことだけを見つけ出して聞いてみる。
「そうだな、そして私は天使として人類から崇められるようになったんだが、問題が起こったんだ」
「そう・・・か、大体わかった。これ以上は言わなくていい、トラウマを無理に引き出させて済まないな」
 歯噛みし、金の瞳にうっすらと涙を浮かべながら話されると、そりゃ誰でも思い出させたくなくなるさ。人としてな。
 そしてウリエルの話から整理をすると、ウリエルは天使。そしてそれを信仰する信者どもがいたという。そこから思いつくことはただ一つ。
 人間による信者の暴走を抑制するためにその信仰対象である天使、ウリエルが人間によって封印か何らかの横暴を受けた・・・と、こんな感じでいいかな?
「さてと、んじゃ、頭ん中の整理も終わったことだしここから出るか。あ、そうだ、名前がまだだったな。俺の名前は桜葉(さくらば)煌火(おうか)。できればお前にも力を貸して欲しいから魔法を教えてくれると助かる」
「私の魔法・・・魔法というものはなんなのか知らないが天使としての能力なら〈暁の明星〉だ。主に光線を飛ばしたり光の密度を高めて壁にしたりすることもできる。そして、光に触れたものを永久にもやしつくつこともできる」
 攻撃系の魔法・・・か、それじゃぁ何も意味ないんだよなぁ。
 目を閉じてもう一人の俺に話しかける。
―ここから出して欲しい、か。なかったことにすれば早いんだろうが、ここが誰の精神世界かわかるか?―
「レイカ、だろ。だからなかったことにしたらレイカの心は失われ、人形のようになる」
―よくわかってるな。それじゃぁヒントをくれてやろう―
「答えを知ってんならさっさと言えよ」
―答えを教えたら何も面白くないだろ?ってことでヒントだ。お前の魔法で全ては開かれる。以上だ―
 よくわからないことだけを言い残してそのままどこかへと消えていった。
「どうしたのだ?さっきから独り言をブツブツと・・・」
「いや、特にどうしたということはない。とりあえず脱出の方法は俺の魔法にあるらしい」
 それにしても、俺の魔法・・・〈式の創造者〉か。〈虚無の終焉者〉とは違った作り出すための魔法。何か作り出す?いや、そんなもんじゃ出られるはずはないだろ。
 考えろ、考えろ・・・ない、こともないのか?もしかしたらこれならいけるかも知れない。
「ウリエル、一瞬光を見せたらその光をそのまま映し出すことは可能か?」
「言ってる意味はよくわからんが光の記憶ならできるぞ?」
「試してみたいことがある。手を貸してくれるか?」
「あぁ、了解した」
 桜色の髪をふわりと揺らしながらコクリとウリエルは頷く。
 協力を得ることができたのなら試してみよう。〈式の創造者〉コード〈天眼〉で神刀を探す。もちろん精神世界ではなく現実世界でのだ。
 内心成功する可能性はかなり低いと思っていたがなんとか成功したみたいだ。外の状況は・・・なんだよこれ、時間が止まってる?いや、そんなことはないはずだ。とりあえず急がなきゃいけないな。
「描け、〈空想と現実の体現者〉。頼むぞウリエル!!」
 叫ぶと同時に大きめの魔力によるディスプレイが天眼の景色を映し出す。
「〈暁の明星〉光を永久のものへと!」
 (まばゆ)い桜色の閃光が(ほとばし)ると同時に目を閉じて視覚を奪われないようにすることに成功し、魔法発動時特有の音が収まったら目を開ける。ついでにディスプレイも戻しておいた。
 そこには収めたはずのディスプレイがそのまま残っていた。
「こんなのでいいのか?どこからどう見てもただ空中に映像が写っているだけだと思うが」
「いや、いいんだ。これでお前と一緒に脱出できる」
 俺は大型の転移魔法陣を展開し、〈式の創造者〉によって視覚に映る場所、要するに間接的ではあるが神刀の近くにもう一つ魔法陣を展開した。
「それじゃぁ行くか」
「行くって、私もか?」
 驚いたように俺の目を見て思ってもみなかった言葉をかけてくる。
「当たり前だろ?お前はこんな暗い世界に一人でいたいのか?」
「だが私は、一度人間という種に・・・」
 目を伏せて、過去を思い出すように弱々しく震えた声で話しかけてくる。
「そうか、そうだよな。だけどな、一回裏切られたからってなんだよ。裏切られたなら裏切られる立場がわかるから違う人に優しくなれるんだぞ?裏切られたものだけが知る優しさ。それだっていいじゃないか」
 それにな――と俺は続ける。
「昔は裏切られた。だけど今の人類は違うかもしれない。だから俺と賭けをしようじゃないか。これから出会う人間はお前に横暴を働くような奴らかどうか、もしそんなことがあってお前が希望を失うようなら俺がお前の生きる希望になってやるよ。だから前を向いていこうぜ?」
 笑いながら静かに手を差し伸べる。その手をウリエルの白く暖かい手が包み込んだ瞬間、ウリエルの目からひと雫の涙がこぼれた。
 その時の彼女は目を細め笑っていた。そう、そんなに笑えるなら大丈夫だろう。
「―転移―」
 静かに呟いた瞬間光に包まれた。

第三章 「光」差す「日常」

 日曜日の朝、五時の目覚ましと共に目覚めたらなぜかベッドがいつもより暖かく、というか生ぬるい?感覚であることに気付いた。
 しかもなぜか右手が動かないし・・・動かないというよりは動かすことができない。押さえつけられてるという意味で。
 無理に動かそうとするとなんか柔らかくてあったかいものに腕が触れてしまうし。朝から理不尽すぎる。このベッドの中の状況を想像してみるが・・・緋恋かレイカに見られてみろ。そりゃぁ、もう、泣いてもいいかな?
 せっかくの日曜日の清々しい朝だというのにとてつもない理不尽に襲われているような気がする。(ある意味ではご褒美なのかもしれないが)
 一応中の状況を確認するために空いた右手でかかっている布団をどかすと・・・案の定、いましたよ。予想していた天使、ウリエルが。それも全裸で。
 ひとまずは、どうしたらいいんだろうね。
 何も打開できるような策が思いつかないから腕が抜けるかどうか試してみるけど、そうですよねー、抜けませんよねー。内心苦笑しつつもう一回目を閉じて寝ようと試みるが目が覚めてしまっているわけでどうにも寝付けそうにない。
 自然と額に当てていた右手をポフッとベッドの上に軽く落としてもう一度ウリエルの方を見てみたら、金色の瞳と目が合ったよ。
「あ~、いつから起きてたんだ、ウリエル?」
「さっきからずっと起きていたぞ?ふふっ、煌火は面白い人間だな」
 さいですか。というか俺は人間じゃないんですがね。
「まぁ、いつからとかはどうでもいいんだ。とりあえず俺の腕を話してくれないか?それとできれば服を着て欲しいんだが」
「手を離すのは別に構わないが、服はないぞ?こっち側に来たのはかなり昔のことだからな」
「そうなだろうな。とりあえず俺のパーカーを貸してやるから来てくれ」
 ため息をつきながらとりあえずは俺のクローゼットの中からパーカーを取り出してウリエルに投げて渡す。
 それをウリエルは受け取って袖を通す。そうなると予想していたので放り投げてからすぐに後ろを向いて正解だった。
 着たということを音で確認したあとに振り返・・・ってなんか全裸より危ないような気がしてならないんだが・・・そこは気にしたら負けだ。
「で、だ。これからどうする?まぁ、まずは服の手配からだな。ちょっと待ってろ」
 ここらへんで服を売っているところはそんなに少なくはないんだが、今はどうしても時間が時間だから開いていないんだよな。
「そうだ、服ってどんな感じのでもいいのか?」
「あぁ、私は別に構わない」
「よし、なら今から行くぞ」
「ちょっと待て煌火、私をこんな格好のまま外に出歩かせるつもりか?」
「そこらへんは大丈夫だ。着くまで一分もかからないから」
 そう言って〈虚無の終焉者〉によってレアーの店との距離をなくして魔法陣の中に入る。そしてレアーの店に着くと鍛冶場の方から甲高い金属音が聞こえてきた。
「さてと、じゃぁ俺はここの店主と話をしてくるから、ついてきたきゃついてこい」
 そうとだけ言って俺は歩き出す。後ろからヒタヒタと石造りの床を歩く音が廊下に響く。
 数メートル歩いていくと目の前に木の扉が現れる。中から金属と金属がぶつかり合う音がしているからおそらくはここで間違いないだろう。
 無言で扉を開けるとレアーが何やら短刀を作っている最中で、鍛錬とかいう作業をしていた。まぁ、俺自身は詳しく知らないんだが確か一人だとできないとか昔ボヤいてたような気もするけどどうにかひとりでできるような技術を見つけたんだな。
 ちょうど休憩に入りそうなところを見計らって声をかけることにしよう。
「なぁ煌火、あれは何をやっているのだ?」
「見て分からないか?刀を作っている最中だ。とはいえあれはその中の工程の一部だがな」
「これは興味深い後であの幼子と話す機会が欲しいんだが頼めるだろうか?」
「幼子じゃないよ!まったくもう。煌火、来るなら連絡の一本くらい入れてくれないと困るんだからな」
 いつの間にか近くに来ていたレアーにツッコまれた。
 しかもなぜか俺が怒られた。起きてるとは思わなかったから電話しなかっただけだ。あ、でもこれだと不法侵入か。
「あぁ、すまない」
 とりあえず棒読みで謝っておく。
 このままでは本題に入る前に無駄な時間をくってしまうので早速本題に入ることにした。
「唐突ですまないが聞いてくれ。お前にしか頼めないことなんだ。頼まれてくれるか?」
 できるだけ真面目な顔つきで目を見て、それでいて声のトーンを落として肩をつかみながら言う。
 それに対してレアーは顔を真っ赤にし、体をビクッ小さく震わせた。
「そ、それで、要件、って・・・・?」
「あぁ、あそこにいる天使、ウリエルの服を見繕って欲しいんだ」
 なんかウリエルの「あ、こいつダメだわ~」的な視線とレアーが「いいもん、どうせ煌火だからこんなことだろうとは思ったよ」と小声で聞こえるように呟いているのが地味に怖い
「・・・わかったけど、煌火どういった経緯で天使と会ったとかどうしてその天使が裸パーカーなのかとか聞きたいんだけど」
「まぁ、それはあとで説明する。だからとりあえずウリエルの服を頼む」
「じゃぁ行ってくるから応接室に移動してて、二時間ほどしたらできるから」
 歩き出そうとしたレアーにウリエルが、
「採寸などはしなくてもいいのだろうか?」
 と、問うた。
「あぁ、そのことなら心配ないさ、私には“視えてる”から」
 そういえばレアーの魔法というものは見たことないな。見えてるという発言からして目の魔法、それでいて多分隠された右目にあるんだろうな。
「さてと、んじゃぁ行くか」
「行く・・・あぁ応接室か、どこにあるのだ?」
「ついてくればわかるさ、じゃぁ行こうか」
※     ※     ※
―二時間後の応接室にて―
 どうしてこうなった・・・
 レアーの店の中の応接室に俺の端末によって呼び出されたレイカ、緋恋、神刀がソファに座って俺が正座させられていた。
「で、煌火さん、朝には部屋にいなかったのですが、それは置いておくとしまして話というのはなんですか?」
 堕天使なのに天使のような微笑みでレイカが。
「煌火にこういった趣味があったんだ~、へぇ~」
 意地の悪い笑みを浮かべて緋恋が。
 そして神刀は終始苦笑を浮かべてこっちを見ていた。
「どうといってもなぁ、俺から話せるのは昨日の夜にあったことしか言えないんだが」
「昨日の夜に天使を無理矢理縛って堕としちゃった~とかそんな感じのこと?」
「その時実際にいた奴がこの場を混乱させるようなことを言うんじゃない。それとレイカと共用の部屋でどうやったら出来るんだよ」
 場が混乱しそうなことを言い出した緋恋に対して適切なツッコミを返した。
「いや、そりゃぁもう、レイカも一緒に堕としちゃったとか?」
 そんなつもりでいた俺が馬鹿だった。
「わ、わわわわ私ですか!?私はそんなことされてませんよ!!」
「私も同じだ。ただ寝る場所がなかったから寝るのにちょうどいい場所があったらたまたま煌火のベッドだったというだけだ」
 レイカのフォローはまだいいとしてウリエルのいったことはちょっとこの場を混乱させるだけではないか!理不尽だ!と心から講義しておこう。
「レアー以外はわかってると思うがレイカの中にいた天使をそのまま連れてきただけだ。ついでに言うなら俺だけの力じゃない。なんか知らないのが色々と力を貸してくれたからだがな」
「そうだな、確かにもうひとり煌火のような感じのがいたがなんか全く別の何かおぞましいようなものだったと思う」
 面倒くさいなぁとか思いながら髪をわしゃわしゃーっと掻きながら説明してるとウリエルがその十字架の方の俺の補足をしてくれた。
 確かにこういった補足は助かるんだが、あいつが見えていたとは。
「えぇと、じゃぁ昨日見えた光の柱はこの天使、ウリエルの仕業で、その騒ぎを止めたのも煌火たちってことでいいのかな?」
 日曜日の朝、五時の目覚ましと共に目覚めたらなぜかベッドがいつもより暖かく、というか生ぬるい?感覚であることに気付いた。
 しかもなぜか右手が動かないし・・・動かないというよりは動かすことができない。押さえつけられてるという意味で。
 無理に動かそうとするとなんか柔らかくてあったかいものに腕が触れてしまうし。朝から理不尽すぎる。このベッドの中の状況を想像してみるが・・・緋恋かレイカに見られてみろ。そりゃぁ、もう、泣いてもいいかな?
「その解釈であっている。ってことで早くウリエルに服を着させてやってくれ」
 顎を軽く動かしてウリエルの方を指すと、レアーは思い出したようにウリエルに服を手渡した。
「じゃぁ私はウリエルの着替えを手伝ってくるから。あ、それと煌火、忌漸の調子はどうか後で感想を聞かせてくれ」
「うぁ、ちょっ、押さないでくれ!」
 ウリエルの背中を押しながらレアーとウリエルが室内に出た。
「ふぃー、そんじゃぁまぁ、今日はウリエルが戻ってきたら――」
「みんなで遊ぼー!あぅち!!」
 ソファに座って姿勢を崩しながら話そうとしたらずいっっと身を乗り出して話に割り込んできたところに指を思いっきり弾いてペチーンという小気味いい音を響かせて会心のデコピンをくらわせてやった。
「アホかお前は、今日はちょっとお前らに付き合って欲しいところがあるんだよ」
 そう言いながら端末をみんなに見せる。
「およ?これは~、おぉ、奏先輩からだ!」
 おでこをさすりながら緋恋が覗き込んでくる。
「それで要件は・・・今日の九時から二年棟に来てください、見せたいものがあります。か、それで煌火君なにか思い当たりでも?」
「あぁ、今日なんか模擬戦があるらしいんだ。二年が。」
 事前に小耳にはさんだ程度の情報だがな。
「煌火さんは、火曜日・・・明後日に備えて戦術を立てておきたい、ということですか?」
「その通りだ。それにそのついでにウリエルにこの学園の敷地の案内もしておきたいからな」
 それに九十九先輩が光の魔法を使うというのはかなり有名だし魔法の性質を同じ光の魔法を使うウリエルに分析してもらえればとても有利になる。
 まぁ、ウリエルがわからなかった場合でもどんな感じの魔法なのか見ておくだけ分かることもあるからな。
「と、ウリエルが来たようだな」
 応接室の扉が開いてウリエルとレアーが入ってくる。
 その瞬間みんなが息を飲んだ。
 それもそうだろう。人間にしてはあまりにも綺麗すぎて目を疑ってしまうほどなんだから。
「うん、似合ってるぞ。ウリエル」
 第一の感想を口にした。とりあえず似合ってるという言葉以外見つからないから。
 黒を基調とした和服のようなデザインの服は胸元と背中が大きくはだけていて、羽を出すことが可能になっているうえに和服特有の帯などは簡略化されているため着やすくなっている。
 また腰のあたりにも通気穴のように切れ込みが入っているためウリエルの羽合計四枚を展開することが可能になっている。
「ありがとう、レアー」
 頬を赤らめて照れ隠しのためかレアーに礼を言っていた。
「さてと、そろそろ行くか。まぁ、その前に俺はレアーと少し話があるからもう少しかかるからどっかでぶらついててくれ。終わったらメールする」
「わかりました、多分そう遠くにはいかないと思うので。それじゃぁまた後で」
 微笑みながらレイカが出て行くとそれに続いてみんな出て行った。
「で、煌火、忌漸の調子は?」
「特に変わったことはない。むしろ快調だ」
「そっか、それならよかった。でもあまり無理に使わないほうがいいかも」
「わかってるさ。いくらお前が鍛えた刀の切れ味がよかったとしても切れるものと切れないものはあるからな」
 実際に昔から無理して壊れた刀剣なんて数え切れないくらいあるんだから。
「で、要件はこれだけということはないんだろう?」
「その通りさ。さすがは煌火、察しがいい。実はわかったことがあってね、忌漸の中にいる精霊のことなんだけど」
 精霊のこと・・・そういえば妖刀とか言ってたしな。
 しかし精霊のことというとそれほどの魔術知識がないとわからないことのほうが多い。実際俺の脳の中にある資料の中にもそういった資料がないわけでもないがかなり少ない。
「どうやって調べたのか知りたいところだがとりあえず精霊のことについて教えてくれ」
 と言うと、レアーは少し残念そうにため息を一つついてから答えた。
「あの刀の精霊はね、実際には精霊には程遠い死霊。それも人間に対して強い恨みを持ったもので、生きていた頃は奴隷だったのかな、そんな感じがする」
「その奴隷だったと思った理由は?」
「簡単だよ、ただひたすらに切りたいと煌火が思ったからその死霊が自ずから魔力を放出することによって本来の忌漸以上の性能を引き出した」
 確かに、実際に刀にしてはあのマテリアルを切った時の手応えが軽すぎた。
 レアーの作った刀剣ならそこらへんの石を切るのはたやすいことだが、それでも魔力石、要するに魔力を持った石と呼ばれるマテリアルを切るのには少なからず魔力も必要になることも多い。
 それでもそのマテリアルに対しても異様なまでを切れ味を発揮した。要するにそれは魔力が放出されたということになる。
「それに、奴隷ならば主人の意思に対しては忠実である。だから切りたいという意思に応えた。そういうこと」
「なるほど。わかったこれなら死霊に無理をさせない方がいいな」
「ふふっ、そっちのほうが煌火らしいよ」
「そりゃぁ、俺は俺以外の何者でもないからな」
 そう言いながら応接室のドアを開けて背後のレアーに向けて手を振った。
「それじゃぁね、煌火」
 そうしてレイカたちにメールをしたあとにレアーと別れた。
※     ※     ※
「お、来た来た!煌火こっちだよー!!」
 レアーの店から出て通りにあるオープンカフェでお茶をしていたレイカたちと合流した。
 時計を見ると午前八時三十分を指していた。移動するのにはちょうどいい時間だな。
「遅れて済まないな。早速だが行くとするか、時間に余裕を持っていきたいしな」
 っとまぁ、カフェの近くにパン屋があったのですぐにラスクを買ってきて当分を補給をする。うむ実に見事な味だ。
「お、案外甘党なんだね、初めて知ったよ」
「そりゃぁな誰にも聞かれなかったし、言ってもいないからな」
 実際俺は甘党である。でもそれほどかなりの甘党というわけでもないがな。
「まぁそんな些細なことはどうでもいいから行くぞ」
 そんなやり取りをしてたらレイカとウリエルがそっくりな顔をして微笑んでいた。
 それにしても本当に似過ぎているな。まぁ、髪の色は銀髪と桜色と違うんだが、かなり似通っている色だし本当に遠目からだとわかりづらいと思う。
 とまぁ、本当にどうでもいいことを考えながら歩き出した。
 ちなみに行き先はモノレール乗り場で、二年棟に行くためだ。
 モノレールに乗るのは入学式の日以来だな・・・つい最近のことなんだが、どうしても一日一日が濃厚だったためかなり昔のことのように思えてくる。
「それにしても煌火君、何か対策をたてたいって言ってたけど煌火君の魔法なら簡単なんじゃないのかな?」
「いや、だめだ。〈虚無の終焉者〉は魔界で使ったとしてもそのものの存在という概念すら世界から抹消してしまうからな。それに加えて〈式の創造者〉は元々攻撃用魔法ではないから大した威力もないから完全者を仕留められるかと言われたら無理だ」
「強大すぎる能力も大変ってことだね~」
 と、道すがらそんな話をしていたらいつの間にステーションについていた。
 まぁ、来る時間丁度になるように来たから待つ時間はないし、料金も学校側からの支給で足りるから問題ないと思った瞬間・・・
「煌火、どうすればいいのだ!?」
 ウリエルが改札に捕まっていた。
 まぁ、ウリエルは旧暦、しかも旧暦の中でもかなり古い方だから知らないのも無理はない。
「ウリエル、これをその光ってるところにかざせー」
 端末をウリエルに放り投げるとたどたどしくウリエルがたどたどしくそれをキャッチしてそのまま改札にかざした。
 改札が開いてウリエルが驚いたようにしながらこっち側に来てため息を一つ吐いた。
「全く、昔の文化とはかけ離れているな」
「そりゃそうだろうな。まぁ、お前はかなり昔に生まれたことになっているからな」
 とは言ってもそのことを全て知っている奴も身近にはいるんだけどな。
「まぁまぁいいじゃん。それよりさ、早く行こうよ」
 緋恋が俺の手を無理やり引っ張っていく。
 俺はそれに合わせて歩いていく。なんかいいな、こういうの。友達がいて、家族のように密接な仲間がいて、一緒にいる。昔失くした感覚が今もう一度感じられるなんて。
「煌火~ニヤニヤしてどうしたの~?」
「いや?別にそんな顔してないぞ。レイカ、お前から見てもそうだったはずだろ?」
「いえ、してましたよ?煌火さんもあんなふうに笑うんですね」
 くすくすと笑いながらレイカも俺が笑っていたという。
 自分ではそんな顔をしているとは思ってもいなかったが、まぁ、こういうのも懐かしいな。

「なんか煌火君が昔みたいに笑っているのはものすごく懐かしく感じるよ」
「まぁ、な。その間に色々とありすぎたからな。俺だって意図して笑ったわけじゃないしどこかにそんな感情でも残っていたんだろうな」
 そんなこんなで立ち話をしている間にモノレールが来たのでみんなでそれに乗り込んで二年棟に行く。
 そうして五分も経たずに着いた二年棟は大きさはそんなに変わらないものの、少しだけ一年棟よりも大きな建物が多数点在していた。
「うわ~、建物が大きくなってるね~」
「そうですね。あ、緋恋さんあの建物はなんですか?」
「あ、あれは大型のショッピングモールだね。こんなところにもあったんだ」
 女子たちがはしゃいでいて丁度話も聞こえそうになかったので俺は神刀に詰め寄って話しかけた。
「神刀。よかったらでいいが、お前がウリエルに今まであったことを説明してくれないか?」
「まぁ、僕が一番それに適任だとは自分でも思うから引き受けさせてもらうよ」
 そうして俺たちは足早に2年校舎に向かうのだった。

「光」後「終わり」

「お、きたね~ご主人さま♪」
 ブンブンと大きく手を振って奏先輩が二年校舎の前で待ってくれていた。ちなみに尻尾も左右に揺れていて絶好調だった。
「ははは、先輩ご主人さまって、あれは本気だったんですね・・・一応周りに変な影響を与えないようにその呼び方はやめてください」
「煌火君はつれないね~。もうちょっとペットに対する思いやりを持ったほうがいいと思うよ」
「いりませんよ、そんな見せかけだけで俺たちに近づくためだけに演じてる主従関係とか」
 投げ捨てるように、俺はそう行った。
 出会ってその日のうちに主従関係を結ぶなどと、普通に考えてみれば馬がよすぎる。もしもそんなことがあった場合何か理由があって近づくと考えるのが妥当だろう。
「なーんだ、バレてたなら仕方ないね。まぁ、実際に私じゃ煌火君に勝てないのは事実だから獣として自分より強いものにつくってのは普通だと思うんだけどな~」
「それで先輩はなんで俺たちに接近しようとしたんですか?」
「ん?それは今日魔戦を見せるためだよ?どーして見てもらわないと気が済まないんだ~って(るい)ちゃんが言ってたからね~」
 まぁ、それくらいのハンデをくれてやろうとかそんな感じか。なんかむしょうにイラッとくるな。
「さて、んじゃ、さっさと行こうか」
 先輩がそう言って案内をしてくれた。
※     ※     ※
 そうして始まった魔戦。
 俺たちは観戦席が設けられた魔界の絶好の観戦スポットに連れられていた。
 はじめのうちは奏先輩ともうひとりの男が応戦して時間を稼いでいるようだった。
 そして、試合が動いた。いや、終了したのは開始からわずか五分足らず。一瞬のうちに閃光が走ったと思うと奏先輩と男の先輩が相手していた二人がコンマ一秒差戦闘不能に、そして、後方支援をしていた先輩二人が一瞬にして葬り去られたのであった。

ぜつぼーのほーてーしき!!Ⅱ~Feather of the collapsing angel~

ぜつぼーのほーてーしき!!Ⅱ~Feather of the collapsing angel~

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. プロローグ 「過去」に堕ちた「翼」
  2. 第一章「魔族」に封じられた「天使」
  3. 「光」の「天使」の「闇」
  4. 第三章 「光」差す「日常」
  5. 「光」後「終わり」