鬼と獣、
鬼灯の冷徹、たまにはこんなのもアリでしょう。
徹夜明け、炎が目にしみる
地獄。
貴方はこの固定概念に埋め尽くされた世界に、どの様な感情を抱くだろうか。
また、地獄で繰り広げられる日常はどの様なものであると予想するだろう。
これは、紛れもなく一介の地獄の鬼の話。
貴方が予想し得ないであろう日常の一コマ。
とくと御覧あれ。
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早朝、薄暗い部屋の中に布団からもそりと覗く一本の角。彼はまだ起きない。
餌をせがむ様に庭の金魚草が甲高く叫び始めた。彼の大きな耳がピクリと動く。
布団が大きく盛り上がり、窓からさす日光に照らされて彼のシルエットが白い壁に映える。
「ふう、…徹夜も慣れたものとはいえ、やはり疲れは溜まりますね…」
小さく溜息をつき、布団から起き上がる。寝ぐせであろうか、後ろ髪が小さく跳ねている。
頭を掻きつつ窓を開けると、既に白装束を身にまとった亡者達は叫び声を上げながら遁走に励んでいた。何も変わらないいつもの風景である。
鬼やら獣やらに追い掛け回され、果てて行く亡者達をゆっくりと眺めつつ、鬼灯の模様の付いた一張羅を手に取る。
「さて、金魚草に餌をあげましょう。…今日はどんな亡者がやってきますかねぇ。」
鏡で髪の毛を整え、身支度を済ませて金棒を手に持つ。一度、素振りをした。
今日も地獄は快晴、焼け付く様に真っ赤な炎が目にしみる。
部屋のドアを開け、長い廊下を歩き出す。
さて、今日も閻魔大王第一補佐官 鬼灯の一日が始まる。
夜遊び明け、漢方が体に染み渡る
天国。
貴方はこの固定概念に埋め尽くされた世界に、どの様な感情を抱くだろうか。
また、天国で繰り広げられる日常はどの様なものであると予想するだろう。
これは、紛れもなく一介の天国の獣の話。
貴方が予想し得ないであろう日常の一コマ。
とくと御覧あれ。
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爽やかな日の光と鳥のさえずりが極楽満月を包み込む。
住居スペースには規則正しく拍を刻む包丁の音。そして、朝ご飯の匂い。
彼は布団の中、ではなくトイレの中。
昨晩の夜遊びが過ぎたのか嘔吐が激しい。しかし、彼にとっては女遊びと夜遊びは日常茶飯事である。
トイレに駆け込んだのは今月で何度目であろうか。
出すものを全て出し、げっそりと痩けた姿でトイレから生還した彼は白澤。神獣である。
そして、ひたすら包丁で拍を刻んでいたのはかの有名な桃太郎。
「早上好〜、桃タロー君。今日も爽やかな朝だね…」
燃え尽きた様に力のない声で台所へと声を掛ける。
「お早うございます…、どこが爽やかですか。…薬、飲みます?」
拍を刻む手をとめ、漢方の入っている棚へと向かう桃太郎。
「謝謝、漢方はね、調合によっては精力剤にも成るからね。重宝ものだよ。」
白澤は桃太郎が出した漢方を手際よく調合していく。
桃太郎はいつもの事だと溜息をつき、また包丁で拍を刻み始める。
調合し終わった漢方を服用し、一息つく。みなぎってきた。
「うん。これで今日も可愛い子捕まえられる〜」
大きく伸びをして、深呼吸。
極楽満月のドアを開けて一歩外へ出る。
真っ青な空にきれいな空気。もう一度伸びをする。
こちらは天国、中国の神獣 白澤の一日が始まる。
鬼と獣、