私の幸せ
友人の話を元にした彼女の妄想です
ごとん。
「うっ……」
目の前が真っ暗になった。
全く夢でも見ているのだろうか。なんだこの光景は。
目を覚ました時、私は私を見下ろしていた。
タンクトップに半ズボンの部屋着な私は、地面にうつ伏せになって倒れていた。頭には私の恋人であるベースちゃんが。ああ、相変わらず美しく綺麗なフォルムね。いつも響かせる低音が大好き。それからそれから……などと語っている場合ではなかった。
私の頭は真紅に染まっている。畳も色を吸って変色していた。私に動く気配は無い。とりあえず周囲を見渡してみる。見慣れた部屋に使い古した小物たち。何より、私の大好きなベース。だからやっぱりここは私の部屋で、倒れているのは私だろう。そして、私は私を見下ろしている。
ということは、つまり。
「私はベースに打たれて死んだの!?」
いや、確かに死ぬときはベースに打たれて死にたいとは言ったけれど。けれど。
この歳でこんな……もうベースに触れないじゃん! いやでも夢が叶ったから幸せかも。
ていうかベースちゃんだいじょうぶかな、壊れてないかな……
私はそっとベースを手に取った。ああよかった。だいじょうぶ。傷一つない。でも、赤く染まっていた。拭いたら落ちるかな。
私は部屋を出て水で絞ったタオルを持ってきた。
汚れた部分を丁寧に、丁寧に、丁寧に、入念に、心を込めて拭いたあと、専用のクロスで乾拭きした。
「よし、綺麗。あー光ってる……! いやんもう美しい! はあん……」
念のため、動作確認をしておこう。本当はやっちゃいけないけど、血を落とすために水拭きしたから。心配で。
と言いつつ、ただ弾きたいだけだったり。
いつものようにベースを膝に乗せ、チューニングを確かめる。
よし、準備完了。
と、次の瞬間、世界が変わった。あの音とともに。
ごとん。
「えっ……」
目の前が真っ暗になった。
次に目を覚ました時は、頭部に激痛を感じた。
「いたたた……ん?」
起き上がろうとしたが、やけに重く、不思議に思ってうつ伏せから体勢を変えた。すると、背中から何かが滑り落ちた。
そこにあったのは、私の恋人ベースちゃん。
「なんだ夢か……びっくりした」
髪を掻き毟りながら、ベースをスタンドに戻した。
幸せだなあ、私。いろんな意味で。
私の幸せ