少年とおじさん

寒い。

夜だからかな。

生まれて初めて、僕は家出した。





『あなたなら大丈夫、いい大学に入って、いいお医者さんになって、私たちをよろこばせてね』

『勉強が足りないぞ!そんなだからお前は馬鹿なんだ。俺が若いころなんかもっと勉強してたぞ?成績を少しでも下げたら許さないからな』


うるさい。


『なんだ!この算数の点数は!!89点だと!?こんな低い点をとってきやがって・・・お前は俺の子供じゃない!!出ていけ!!』


本当に、うるさい。


いわれなくても



「こっちから出てってやるよ、クソジジイ」






とは言ったものの。

これからどうしようか。

なんでこんなことになったんだろう。

僕は医者になんてなりたくないのに。

なんでお父さんもお母さんもわかってくれないんだ・・・。


もう、消えてしまいたい。




と思いながら僕はいつのまにか歩道橋の近くに来ていた。

すると、不思議な光景が目の前に広がっていた。

声がする。

歩道橋の上からだった。

「嫌だぁーーーっ!」とかなんとか悲鳴に似たような声。

高校生の・・・男?

にしては・・・何か違和感が・・・。

あいつ、なにやってんだ?

と、思いながらとりあえず近づいてみた。




「お前、こんなところでなにしてるんだ?」

とりあえず話しかけてみた。

それなのに、その男の顔は死んでいた。

なんか、この世の終わりというか、自分から終わらせようとしてる・・・みたいな。

少しいらっとしたので今度はさっきよりも大きい声で叫ぶ。

「おい!お前!なんで歩道橋なんかで叫んでんだよ!!」



すると

「叫んでるんだろ・・・」

思ったより男の声は高めだった。



中学生・・・か?



僕は小学6年生だけど、小学生にしては背は高い方だ。

その僕より10センチぐらいだけ高い。

こりゃ、僕があと一年すれば追い越せるな。



「ほんっとだよ!なんでお前叫んでるんだよ!うっせーよ!」

やっとこちらの存在に気づいたらしく、男は少しぼーっとしていた。

「僕・・・なんて叫んでた?」

こいつ、無自覚て叫んでたのか。

面白いなあ、と思う。

「嫌だぁーーーっ!って。ずぅーっと叫んでたぜ?うっせえ高校生だなーっておもって近づいたら、全然高校生じゃなかった。中学生?」

すると、男はくすっと笑い、

「高校生?そんな時期もあったけど、もう僕はおじさんだよ」


おじさん!?その顔で!?



「えっ嘘。おじさんなの?全然見えないんだけど」

本当に吃驚した。

おじさんにみえないっつーの。

絶対おじさんじゃない、この人。

あとで実年齢教えてもらわないと。

「で、おじさんはなんでこんなところで叫んでたの?」

本題に戻す。

するとおじさんは、黙り込んでしまった。



「・・・おじさん?」

「現実逃避、しようとしてたんだ。僕はもう、真っ黒だから」

何を言ってるんだ、この人は。

「・・・おじさんの言ってる意味がわかんない」

「わかんなくていいよ、君は大人になったらそう思う事をしないようにしてね」

大人に、こんなことを言われたのははじめてだ。

「おじさんは大人でしょ?」

「そうだね」

大人なのに、なんでお父さんやお母さんみたいなものがないんだろう、謎だ。

胸が、ぽかぽかする。

人とただ話しているだけなのに。



・・・この人なら、

「じゃあさ、ここで会ったのも縁だし、一つ教えてほしいことがあるんだ」

「・・・何?」



僕のことを、僕としてみてくれるのかなあ。




「僕、消えたいんだ」



「とりあえずこれでも飲みなよ」

「・・・ありがとう、おじさん」

とりあえず公園のベンチに連れてこられた。

目の前でおじさんはあたふたしていた。

家に帰らなくて大丈夫か、と聞かれると

大丈夫だ、問題ない。とドヤ顔で僕は答えた。

このやりとりでさえ、僕の周りではありえないことだったので、とても不思議な感じがした。

なんだろう、この気持ちは。

これが、大人ってやつなのか。

僕の知っている大人と、この人は、違う。

そして、この人は


僕と同じだ。




「おじさん、本当は死ぬつもりだったでしょ」

おじさんは買った水を飲みながらこちらを見た。

「そんなこと・・・ないけど」

「嘘。おじさんは死のうとしてた。そんなのダメ。おじさんはいい人なんだから」

「・・・君は、僕の何を知ってるんだ」

「・・・なにも、しらないよ」

「じゃあ・・・」

「でも、わかるんだ。おじさんは、いい人だ」

自分でもわからない、根拠もない、さっき出会ったばかりなのに。


「・・・君は、なんで消えたいなんて言ったんだ」

「・・・それは・・・」

僕はおじさんから目をそらした。

「必要とされてないんだ」

「・・・どうゆうことだ」

僕はいつのまにか、泣いていた。



「お母さんとお父さんは、期待してるんだ」

口が勝手に動く。

「何を?」

「将来、医者になれって。医者になればお金も入るし、貴方は幸せになれるって。だから勉強しろって。友達とは遊ぶなって。」

おじさんは黙って僕の話を聞いている。

「前に、勉強をしたくなくて塾の宿題をサボったんだ。一回だけね。そしたらそれがバレて、お母さんにすごく怒られた。それから毎日の勉強はお母さんにチェックしてもらうことになった。それからかな、友達と遊ばなくなったのは」

おじさんは真剣な顔をして僕の話を聞いてくれている。

「この前、算数のテストがあったんだ。計算を少しミスしちゃって、89点だった。そのテストをお父さんに見せたら、こういわれた」

「お前は俺の子供じゃないって」

なんか、自分で言っていて悲しくなってきた。


「流石に、ショックだったなあ。自分は医者になることしか求められてないって思ったら・・・耐えられなくなっちゃった」


さすがに、ひいたよね、こんな話を急にされたら。

と思っていると、おじさんからは意外な返答が返ってきた。


「それは大変だったね」

大変・・・だったんだ、僕。

「・・・うん。もう家に帰りたくない」

「で、君は医者になりたいの?」

「・・・なりたくない」

「何かなりたいものでもあるの?」

誰にも言えなかったことなのに、この人には言ってもいいと思った。

「・・・歌手」

「歌手!?本当に!?すごいね・・・」

「でも、消えたい」

消えたい、というより、お父さんとお母さんのもとにいたくない。

「・・・もったいないよ。そんなの。」

もったいない?

そんなこと言われたの・・・

生まれて初めてだった。



「かけをしよう」

「・・・え?」

「君が歌手になれたら僕の本名をおしえてあげる」

「なに・・・それ・・・」

「そのかわり、君が歌手になれなかったら・・・そうだな、本名を教えてもらうことにするよ」





「そのかけ、のったよ、おじさん」



本名なんて別に今すぐ教えてもいいのだ。

問題はそこじゃない。

おじさんは、僕に



「僕が歌手になれたら・・・あと、おじさんの実年齢も、教えてもらうね」

「いいよ、教えてあげる」



目標を






与えてくれた。


それは、僕にとって




とっても大きなことだった。

少年とおじさん

怪しくないです!!純粋です!!

少年大人びてるね。^p^

おじさんと少年の少年サイドです。

おじさんと少年(おじさんサイド)http://slib.net/19808

少年とおじさん

おじさん(大学生)と少年(小学生高学年)のちょっとした物語。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-13

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted