無自覚な男

超短編

 男は薄暗い部屋の中、テレビを観ていた。
画面で放送されているのは今日だけの特別番組で、その番組では最近人気のアイドルが出演していた。
アイドルは雛壇で隣に座る芸人の話に明らかな愛想笑いを浮かべたり、退屈なVTRに対してワイプの中で大げさに頷いている。
そんな番組の進行中、ある話題が番組内にのぼった。
ストーカーの話だ。
すると、先ほどまで他人の話にリアクションをするばかりだったアイドルが口を開く。

「そういえば、私、最近ゴミ袋が荒らされてたりするんですよ〜。ストーカーかも〜。」

その言葉に観覧席から「えー」だの「こわーい」だのという声が漏れる。
しかし、そのアイドルは特別可愛いとは言えず事務所から推されているのが丸わかりのうえ、ネットでも彼女がテレビに映るだけで誹謗中傷の荒らしでファンなどいるかどうかすら怪しかった為、男は思わず鼻で笑ってしまった。
「自意識過剰だな」


 それから男は傍らに積まれたゴミの山からコンビニ弁当の空箱を手に取る。
「こんな、自炊もしないでコンビニ弁当ばかり食ってる女がストーカーなんてされるわけないのに」

無自覚な男

無自覚な男

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-13

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