同行者
超短編
女子学生は頼りないフェンスに背中を預けると、自身の憂鬱の気持ちとは正反対の雲一つない青空を見上げた。
ブレザーを探って取り出した箱からタバコを一本咥えて、慣れない手つきで火をつける。
彼が好んで吸っていた銘柄。煙を肺まで吸い込むと、思い切りむせかえった。
それでも少女は吸うことをやめなかった。
吸ってはむせ、吸ってはむせを繰り返しながら自分から吐き出される懐かしいタバコの匂いを嗅いだ。
彼はいつもここでタバコを嗜んでいた。
頼りないフェンスに身を預け、気持ち良さそうに空を仰いでいた。
「そろそろ行こうかな」
あの時の彼と同じ様に、少女はタバコを口から離すと上履きでその火をもみ消した。
それからその上履きをフェンスの前で綺麗に揃えると、少女はフェンスを上った。
軋むフェンスはときおり吹く優しい風にも大げさに揺れる。
フェンスの向こう側までやってきた少女は、しばらくそこに佇んだ。
やがて、目を瞑って息を吸って
ゆっくりと前に倒れて行く。
その頃教室では、少女のクラスメイトたちが噂話に花を咲かせていた。
「ねえ、知ってる? うちのクラスの高橋さん」
「え、なになに?」
「この前自殺した島田先生と付き合ってたらしいよ」
「え〜!?てか島田とか高橋さん趣味悪くね」
「ちょ、死んだやつに対してひどっ! ……まあ確かにあんなやつと付き合うとかないけど」
「ミキも言ってるじゃん!」
「「アハハハハ……」」
同行者