パープルドッグ×目撃者
女子校の正門の前でサングラスをかけた顔立ちの綺麗な背の高い少年は、自分に向けられる女子生徒の熱い視線をうざったく思いながら目的の人物が出てくるのを待っていた。
麻美は正門付近に軽く人だかりが出来てるのを横目に通り過ぎると、少年は「見つけた」と誰にも聞こえないように呟き少し離れて麻美を追った。徐々に人気は薄れ始め、目の前を歩くのが麻美だけになると少年は歩く速度を早め麻美の肩を叩いた。
「ちょっと…」
振り返る麻美にサングラスを少しずらし裸眼で「やっぱり…」と少年は呟く。
麻美はその顔に驚きと脅えを隠せなかった。
「この顔に見覚えがあるようだ…」
「何の事ですか?」と麻美は歩きだし、少年は隣を歩きながら言った。
「昨日君は何も見なかったと忘れるのなら、こちらも見逃す」
「もし、誰かに言ったら私も殺すの?」
「その通り」
「そんな…」
麻美は昨日偶然目撃してしまった事件を思い出していた。
麻美は予備校からの帰り、広いけど人気の少ない公園を通る事にした。
そこで麻美は見てしまった。
暗闇の中、黒っぽい格好をした少年がメガネをかけた中年の男に拳銃を向け近づいて行く所を…。
「なっ何だお前!」
「出しな」と反対の手を伸ばす。
「何の事だ?」
「本社からメモリー持ってっただろ」
男は動揺していた。
「なっ何の事だか…」
「隠しても無駄だ。メモリーを渡せば見逃す…」
「そうか、お前パープルドックか…」
パープルドック? 何それ? と麻美はじっと隠れて見ていた。
「取引をしよう。これを使って金儲けが出来る。半分やってもいい、見逃してくれ!」
「…断る」
「そうか…」と男は持っていたカバンを少年に投げ付け男は走りだした。少年はピーンと腕を伸ばし何とも言えない顔をしながら引き金を引いた。パンッと小さな音がしたと思ったら次の瞬間男は倒れていた。
「ウソ…」
麻美は思わず口を開いてしまい、それに気づいた少年はそちらを見た。目が合い麻美は恐怖を感じて駆け出した。少年が追って来る気配はなかったがそれでも麻美は家に着くまで全力で走った。
私は人殺しの犯行現場を見てしまったんだ。警察へ行こうか…でも信じてくれるかな。それにあんなにあっさり人が死ぬのだろうか…そういえばあの男の人パープルドックって言ってた。それを警察に言えば信じてくれるかな…。
翌日の朝、学校を休みたい気分だったが期末テスト中で休む事が出来なく、リビングに行くとテレビであの公園で中年で男性の遺体が発見されたとニュースになっていた。
「やっぱり…」
麻美は隣を歩く少年を横目に見ながら「どうして、殺したの?」とずっと思っていた事を言った。
「あんたに説明する必要はないだろ…。それより約束しろ、誰にも言うなッ、忘れるんだ。分かったなッ」
「分かったわ…」
「約束だからな」とポンッと軽く麻美の肩を叩き少年は次の曲がり角を曲がった。その後ろ姿を麻美は見送った。少年はまた曲がり角を曲がるとセーラー服を着た少女が待ち構えていた。
「ゲッ」
「ゲッって何よ。何で『力』使わないの?」
「必要ないさ」
「あら、お優しい事」と少女は厭味を言う。
「帰るぞ!」
「えぇ…」
二人は歩きだした。
- end -
パープルドッグ×目撃者