これは俺の知ってるもみじじゃない! 第5話<救済>

俺が球場に着いた時には試合は3回の裏が終わって4回の表ツーアウト満塁だった。
『4番、ピッチャー、星野君。背番号1。』
「やっぱすげーや新は。」
 野球で言う4番というのはサッカーで言えばエースストライカー的な位置にいる人でそれとともにピッチャーで1番を背負っているということはエース。チームで一番信頼されている人というわけだ。そしてそういうやつには信頼とともに……
『やっぱ星野君かっこいいなぁ~。彼女いるのかなぁ……』
『私、こ、告白して、みようかな……?』
 っとまぁこんな感じに黄色い声援プラスα―としてこんな人がおまけでついてくるわけである。ちゃっかり新はイケメンだから仕方ないとは思うが。
「あっ!おにぃ!」
 聞きなれている声がするほうを見るといつものようにまぶしいばかりの笑顔で手を振っている紅葉の姿があった。俺はすぐ紅葉のほうに行くことにした。
「おにぃ今どういう状況なのか説明してあげてよ。私説明できなくて……」
「ん?誰に何を説明しろと?」
 周りを見てすぐ理解した。要するに、陸上部全員にこの試合を実況してくれということね……
「わかったよ……。」
「えーっとツーアウト満塁。よーするに塁が全部埋まってるからチャンスなわけですよ。」
 正直言って説明は苦手だ。妹はこれでもちゃっかり野球は好きなので今、どういう状況なのかは分かっているのだが何しろ俺がキャッチャーだったからキャッチャー目線でしか説明ができないのだ。
「ここでヒットが出れば最低でも2点は取れる。長打なら塁にいる人全員ホームに帰ってこれるから3点だな。」
 でも、なんで俺が説明せねばならんのだ……
 そんな説明をしてる間に新は2-3(ツーストライク・スリーボール)になっていた。
『バンッ!!!』
『ボールフォアッ!!!!!!』
「ボールフォアって何?おにぃ。」
「あぁ、フォアボールのことだよ。」
「なるほど……」
 この回は結局1点どまりだった。

 9回の裏ノーアウト満塁のピンチを新が最後の最後でやらかした。小さい時から最終回となるとピンチを背負うことが多かったがその癖は今でも健在なのね……
「今1対0だからここでもしフォアボールだしたら同点、ヒットが出て2塁ランナーがホームに帰ってきちゃうとそこで試合終了で俺たちの負けが決定。」
 陸上部に簡単に説明をする。陸上部の人は紅葉がずっと両手を組んで祈る体制をしている理由がようやくわかったようでみんな新に対して祈り始めた。
『ボールっ!』
 0-3(ノースリー)。このままだとフォアボールでまずい……
『タイムっ!』
 キャッチャーの先輩がタイムをかけて内野全員を集める。何を話しているのかは知らないが新が何かきついことを言われてるのだけは見てわかる。励ますというよりはお前のせいだとかそんなことを言っているのだろう。こんな時俺、いつも何してやってたっけ。紅葉っ……
『しっかりしろって新……』
『そんなこと言われても急にストライクはいんなくなったんだよ……』
『まぁ腕振れよ?こいつ抑えれば終わりだからな。』
『おうっ!』


「新君ッ!!!縫い目みてっ!」
 俺の隣ですごく大きな声でスタンドにいる野球部よりはるかにでかい声で叫んだ女の子がいた。紅葉だ。
 そうだ。俺はいつも試合で新に何にもしてやってない。紅葉だ。全部紅葉が新が入らなくなった理由を見つけてくれたんだ。



 そのあと新は今までにない投球をしてこの後3者三振をかましてゲームセット。俺と紅葉にとってはいつものことだがほかの野球部員、そして陸上部のみんなにとってはすごいことにしか見えない。
「それにしてもよくわかったな、入らなくなった理由。なんでそんなことわかったんだ?」
「そんなのおにぃより私のほうが新君のこと、みてるもん。」
「意味深だな……なんか新に対して嫉妬心が。」
「あっ!、そ、そういふことじゃなふてね?」
「わーかった……まぁありがとな、いつも。」
「うんっ!」
 俺は紅葉の頭をそっとなでる。このシーンの写真はのちにうちの高校で高価な写真として高値で売買されることになったらしい。


紅葉side
 9回裏のピンチ。私は小学校の時いつも新君とおにぃの試合を見てきた。だから少しくらいは分かる。まず新君は動揺してストライクいれられないくらいの心臓じゃない。まずそんな奴だったら練習をさぼったりしない。だから何か絶対的な自信があるはず。
 新君と自分のことを重ねてみた。たまにランニングシューズの紐の結びが甘いとうまく走れないことが……
「新君ッ!縫い目見て!!!」
 陸上部、ましてやおにぃの存在すら忘れて私は叫んだ。新君はこっちを向いて手を軽く振ってくれた。特にこのやり取りに何か意味があるなんて私は何も思ってはいない。だけど、だけど私は違う。なにかが……

これは俺の知ってるもみじじゃない! 第5話<救済>

これは俺の知ってるもみじじゃない! 第5話<救済>

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-12

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