ブローカー/ブレーカー

一話完結の物語です。よかったらご覧になってください。

ガチャ
いらっしゃいませ。
お客様は当店のご利用初めてでございますか?こちらにお名前をご記入ください。
いえいえ、大歓迎でございます。どうぞそちらにおかけください。

カチャカチャ
どうぞ。
ご新規の方には、うちがどのような店かご案内するためにお試しをしていただくこともできますがどうなさいますか?
とんでもございません、もちろん無料でございます。体験していただいたのち、お気に入りになられるのであれば会員登録させていただきます。
どういたしますか?

さようでございますか。それではこちらのモニターをご覧ください。
当店ではこのモニターでゆっくりとした時間をお過ごしいただけます。お飲物や軽食も用意しております。何かありましたら、こちらの電話でフロントの方へお電話ください。
・・・あぁそうでした。申し遅れました、私、今は『ストリート・ブローカー』の「古和護(こわまもる)」と申します。

それではごゆっくり。
ガチャン
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
A
「『解離性同一性障害』、ですか・・・。」
あまりに聞き慣れない言葉に私は復唱した。
「はい。『多重人格』という言葉の方が案外しっくりくるかもしれませんね。」
白衣をまとった土井先生がこちらに体を向ける。相変わらずほっそりとした顔立ちと体型だ。胸にはシンプルなプレートに『土井晴夫(どいはるお)』と書いてある。
「まぁ可能性の一つです。特にあなたの場合ストレスをうちに秘めておく傾向があるので、もしかしたらと思っただけです。」
言葉の選び方から慎重に扱ってくれていることはわかった。
「はい・・・。ただやっぱり私も不安です。ここ最近の状態を考えると・・・。」
私は思い出しながら小さく身震いした。
ふと気付くと部屋のものの位置が変わっていた。友達に送った記憶のないメールも送っていた。登録した筈のアドレスが消えいたり、覚えのないアドレスが携帯に入っていた。そして記憶が遠のく程の眠気が襲ってくる。
そのため以前もお世話になった精神科医の先生に相談しに来たのだ。
「大丈夫ですよ。雉村さんには江嶋君がついているじゃないですか。それに私もいます。いつでも相談にきてください。」
その言葉は、わけのわからないものに直面した不安を少しだけ拭ってくれた。そうだ、私は一人じゃないんだ。
「ありがとうございます、土井先生。」
「いえいえ、お薬出しておきますね。朝夕の食後にお飲みください。」
ふと先生の机の時計を見るともう11時を回っていた。
「あっ!」
もうこんな時間だ。今日はお昼から流太さんとデートの約束をしていた。
「ん?デートですか?」
ニコニコの笑顔で聞いてくるので、私は頷くだけだ。おそらく顔は赤くなっているだろう。


その日は二人で買い物の予定だった。ファミレスで昼ご飯を食べて、デパートとか商店街をまわった。夕方近くになると、うちの近くのスーパーで食材を一緒に買った。晩御飯は彼が作ってくれる。
彼との時間はとても楽しかった。でもその楽しみは特別だなんてこれっぽっちも感じてなかった。小説やドラマで『この当たり前を噛みしてる』なんてよくあるけど、そんなことできなぐらい自然な当たり前。その当たり前が当たり前じゃないと気がついたのは次の日の朝。もう6月なのに少し肌寒さが残っていた朝。
彼は死んでいた。

「・・・え?」
寒気を感じて目を冷ますと、私はリビングのソファーで横たわっていた。でもそんなことより目の前の現実に言葉を失う。
床も服も血まみれになった彼の姿―いや、むこうを向いて倒れているので彼かどうかすらわからない。でもなんとなくわかった。それが昨日まで愛し合っていた江嶋流太(えじまりゅうた)だと。
「ちょっと・・・なに?ドッキリ?嘘でしょ・・・ねぇ!」
彼を起こそうと、これが夢だと気づくために伸ばした手を見て全てが壊れた。血まみれの両手。

意味がわからない
何が起きてるの
怖い
寒い
お腹すいた
流太さん、何か作ってくれないかな
あぁ死んでるんだ
なんで死んでるんだ

ガチャン
思わず仰け反った手に当たったのは私が買った覚えのある包丁。

もしかして私が
違う
私が彼を
違う違う
私が流太さんを殺したの?

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!」
そこまでの記憶しかない。

気が付くと私は病院のベットに横たわっていた。視界には看護師さんとスーツ姿の男性が二人。警察手帳を取り出した。
「雉村瑠璃(きじむらるり)さん、体調は大丈夫ですか?早速で悪いんですが、貴女には幾つか聞きたいことがあるんです。」
他愛のない質問をされた・・・気がする。でも私はまだこれが夢じゃないかと、夢であって欲しいと願っていた。
「それでは、一昨日の夜の貴女と江嶋さんの行動を教えてください。」
夢から無理やり覚まされた。刑事さんの顔が一気に強張る。
私は有りのままを話した。夕食のシチューを彼が作ってくれて一緒に食べたこと。それからしばらくテレビを見ていたが、私はいつの間にか寝ていたこと。
「それ以降の記憶はないんですか?」
ただ頷くしかなかった。少しだけ哀れんだ顔をされた気がする。
「率直にいいます、我々は貴女を殺人事件の容疑者だと思っているのです。」
・・・ふぇ?
「私が・・・流太さんを殺した?」
昨日の朝の記憶がよみがえる。体が震えはじめた。
「証拠は凶器の包丁につけられた指紋、及び鍵のかけられたドアです。」
あの時は気がおかしかったからそう思っただけ。
「大家さんに確認したところ、貴女が引っ越したタイミングで鍵は変えていたそうです。つまり合鍵は貴女が作らない限り存在しない。」
違う私じゃない
違う私じゃない
「そして何より貴女のアリバイが存在しない。」
違う違う違うちが―
ガラガラガラ
「雉村さん!」
「・・・土井先生・・・。」
すぐに近寄ってきて、私の手をとってくれた。とても温かい手。
「大丈夫です、落ち着いてください。深呼吸して。」
吸って~、吐いて~。
優しい言葉と共に私は深呼吸した。
「失礼ですがあなたは?いま取り調べ中で―」
「彼女は私の患者です!」
刑事さんたちを一喝してくれた。しばらく土井先生の言葉に合わせて深呼吸を繰り返す。一人でする深呼吸より何より落ち着くことができた。

玄関の鍵は特殊なもので、鍵自体がないと合鍵が作れないこと。
私の以前の精神鑑定と、検査したわけではないにしても土井先生の証言。
以上から私が流太さんを殺したということで逮捕され、裁判にかけられた。しかし私たちカップルが決して不仲ではなかったことや仕事のストレスによる私の状態を土井先生がアピールしてくれたので、情状酌量がつき刑期も長くはならなかった。

「雉村さん、なぜ人は『多重人格』を作り出すと思いますか。」
裁判にかけられる前の留置所に土井先生が面会にきてくれた。そのころの私は誰を恨んだらいいのかわからなかった。
自分を恨むべきか、自分の中の他人を恨むべきか。
「多くの患者さんの例から、彼らは逃げるために作られる、と考えられています。」
「・・・逃げる?」
はい、とニコニコした顔で頷く。この笑顔で何度癒されたことか。
「人間誰しも壁にぶつかるものです。」
理想と現実のギャップという壁。
やりたい事や夢を阻む壁。
「全ての壁を乗り越えられる人間なんてほんの一握り。じゃあその壁にぶつかったらどうするか?」
アクリルガラスにそっと手をつく。
「壁を壊すのもまた一興。壁を避けるのもまた一興。でも私は思うんです、逃げるのものまた一つの手段だって。」
逃げることは悪いこと?
「いえ、私は逃げることは悪いこととは思いません。」
逃げてもまた戻ってくればいい。
逃げても違う道を見つければいい。
逃げても逃げ続ければいい。
「逃げてもまだ立ち向かいたいから、新しい自分を作るんです。だから決してもう一人のあなたを嫌いになってはいけない。彼女はあなたを守るために、雉村さんが逃げられるように生まれてきたのだから。」
その言葉ひとつひとつが私に、私にだけに向かっていることが理解できた。
だからこそ彼女を許し、罪を償い、そして目の前の彼に感謝しようと、心にそう決めた。
それ以来、急激な眠気もパニックになることもなくなった。私の中の彼女も出てこない。

私に身寄りはいない。幼い頃両親は喧嘩ばかりして、そして虐待ばかりをした。結局両親に捨てられた私は親戚の叔父さんと叔母さんのうちに引き取られた。その二人も今はもう亡くなっている。そんなトラウマが起因していると晴夫さんは丁寧に説明してくれた。
頼る相手のいない私を先生は面会にきてくれた。くだらない話、いつも通りの話。私がまだ人間として生きているということ、人間として生きていいということを教えてくれているような気がした。自然と晴夫さんへ愛情を感じはじめた。

「その後はどうですか?」
同じセリフから始まる私たちの会話。でもそれが心地いい。
「順調です。規則正しい生活だし、運動も食事も適度だし。ただ少し他の方との関係が煩わしいけど。」
そうですか、とニッコリと微笑むさん。心が穏やかになる。
「少しでも無理そうなら言ってください。何とか掛け合ってもらいますから。」
いつも晴夫さんは本当に何から何まで面倒を見てくれた。その好意はとても有難い、でも私は何もお返しができない。
「晴夫さ―晴夫先生は何故そんなに私によくしてくれるんですか?」
突然の質問に驚いたのか、一瞬真顔になる。何かまずいことを聞いてしまったか・・・。
「・・・確かに、何故でしょう?」
少し考えているようだが、やがていつもの笑顔になった。
「多分これが『当たり前のこと』だからでしょうね。雉村さんの事を心配する事は当たり前。だからいろいろしてあげたくなるんです。」
当たり前。私が私の手で壊した。でも目の前の男性は、再びそれをくれようとしている?
「ちょっ!雉村さん!大丈夫ですか!?」
ごめんなさい、流太さん。
ありがとう、晴夫さん。
ありがとう、ありがとう。
久しぶりに流した涙は、とめどなく流れた。

「晴夫先生、本当に良かったんですか?」
タキシードの白い背中に私は問いかける。
「ん?あなたはまたそんなこと言っているんですか?それより・・・」
振り向いた晴夫さんは、白衣とはまた違ったかっこよさがあった。
「『先生』はやめてくださいよ、瑠璃。もう他人じゃないんだから。」
そう頭を撫でられた。白いレースが少し揺れた。
「・・・恥ずかしいので、しばらくは『先生』で。」
まだ人前では名前で呼べていない。でもいつかは『晴夫さん』と呼びたい。そう思いながら私たちは大きなドアを開けた。
教会の鐘が響いていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ブツン
いかがでしたでしょうか。
・・・そうですね、確かに漫画やドラマでかっこよく扱われる所謂『多重人格』とは一風変わった印象を受けたと思います。

ではここで二点ほど。
まず一つ目。このディスクは二枚組なっていまして、今見ていただいたのはA面です。B面を見るも見ないもお客様の御判断にお任せします。
そしてもう一つ。B面を見るとおそらくお客様は先ほどの感想が一変してしまいます。よろしいですか?
・・・作用でございますか。それではご鑑賞ください。

あぁ、もう一ついい忘れていました。
今の私は『ストーリー・ブレーカー』の『古和護』です。
それでは、良き時間を。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
B
「『解離性同一性障害』、ですか・・・。」
あまりに聞き慣れない言葉なのだろう、瑠璃は復唱した。
「はい。『多重人格』という言葉の方が案外しっくりくるかもしれませんね。」
診察紙には『雉村瑠璃(きじむらるり)』と書いてある。僕が瑠璃の方に体を向ける。いつもと変わらない綺麗な顔立ちだ。
「まぁ可能性の一つです。特にあなたの場合ストレスをうちに秘めておく傾向があるので、もしかしたらと思っただけです。」
言葉を慎重に選んで行く。ここではまだ断言してはいけない。
「はい・・・。ただやっぱり私も不安です。ここ最近の状態を考えると・・・。」
瑠璃は身の回りの異変に怯えていた。
ふと気付くと部屋のものの位置が変わっている。友達に送った記憶のないメールも送っている。登録した筈のアドレスが消えいたり、覚えのないアドレスが携帯に入っている。そして記憶が遠のく程の眠気が襲ってくる。
普通ならあまり気を止めないかもしれないが、以前から精神的に難を抱えていたので精神科医である私に相談しにきたのだ。
「大丈夫ですよ。雉村さんには江嶋君がついているじゃないですか。それに私もいます。いつでも相談にきてください。」
焦りは禁物だ。瑠璃は一人ではない。
「ありがとうございます、土井先生。」
「いえいえ、お薬出しておきますね。朝夕の食後にお飲みください。」
彼女は机の時計をみた。つられて時計をみると11時だ。
「あっ!」
今日はとデートに行く予定だったはずだ。
「ん?デートですか?」
真っ赤になった可愛い顔を伏せる。果たして顔はちゃんと笑えているだろうか。

午前中の検診が終わり、僕は急いで携帯のアプリを開いた。駅前のロータリーから商店街にゆっくり移動している。瑠璃の携帯に入れたアプリからの位置情報だ。
瑠璃の元にたどり着いた時、ちょうどスーパーから江嶋流太(えじまりゅうた)が出てきた。二人で仲睦まじく袋を持っている。そんな『当たり前でないこと』から目を背けたくなるが、凝視していた。
瑠璃の隣りには彼はいてはならない。僕が―土井晴夫(どいはるお)がいるのが当たり前。当たり前のことだから当たり前にすることに罪はない。だからその日の夜に実行した。
彼を殺した。

「・・・え?」
診療の時にこっそり盗んでおいた鍵で造った合鍵でドアを開けると、ちょうど台所で片付けしていた江嶋と目があった。
何お前平然とこの家に入ってるんだよここは僕と瑠璃の愛の巣だぞ毎日毎日瑠璃が寝しずまってからかえってきてへやのもようがえしたりけいたいのなかせいりしてあげたりふたりむごんであいをタシカメアッテルンダヨナノニソコニドソクデハイリコミヤガッテオマエコロスコロスコロスコロス

気が付くと目の前には人だったものが転がっていた。刺した感触を覚えていないが、まぁこんなもの刺したことなんてすぐ忘れるからいい。それより瑠璃だ。
ソファーで寝息を立てている彼女の隣に座った。睡眠薬の効き目は万全だ。今まで目を覚ましたことはない。両手をとると血がついてしまった。でも真っ赤に染まる指がとても綺麗だった。
「僕というものがありながら他の男にうつつを抜かした罰だよ、少しだけ刑務所で反省してきなさい。」
寝顔が愛でてやりたいが、指紋とか工作しなくてはいけない。名残惜しいが、作業を開始した。

「雉村瑠璃さん、体調は大丈夫ですか?早速で悪いんですが、貴女には幾つか聞きたいことがあるんです。」
病室の前についた時男の声が聞こえた。そっと覗くと2人組のスーツの男達がポケットに何かしまった。目つきや雰囲気が鋭いので、恐らく警察だろう。しばらく聞いておこう。
瑠璃はただただ機械的に答えていたが、一昨日の話になると一気に顔色が変わった。その青ざめた表情もまた愛おしかった。
次第に瑠璃が追い詰められて行くことが顔と声でわかった。
安心した声と不安そうな声
リラックスした時の表情と張り詰めた時の表情
瑠璃の考えていることなどすべてわかる。それぐらい僕らは愛し合っているのだから。
ガラガラガラ
「雉村さん!」
「・・・土井先生・・・。」
すぐに近寄っていき、瑠璃の手をとった。あぁなんて綺麗な手なんだろう。
「大丈夫です、落ち着いてください。深呼吸して。」
吸って~、吐いて~。
僕の声と共に呼吸をする。
「失礼ですがあなたは?いま取り調べ中で―」
「彼女は私の患者です!」
刑事たちを一喝した。今せっかくの楽しい時間を邪魔されたくない。まるで餌をねだる雛のように、瑠璃は僕なしでは呼吸もままならない。なんて愛おしいんだろう。

もちろん瑠璃を殺人犯にすることは気が引けた。だからこそ多重人格を装わせるような判断材料も用意したし、以前の診断の結果も明確に証言した。あんな男とありもしない仲の良さもアピールしてやった。浮気グセが治ればいいという荒療治だよ。少しだけ反省してきなね。

「雉村さん、なぜ人は『多重人格』を作り出すと思いますか。」
裁判にかけられる前の留置所に面会にいったときに聞いた。そのころの瑠璃は反省の色を示し出していた頃だ。
だから少しだけ助けてやる。
「多くの患者さんの例から、彼らは逃げるために作られる、と考えられています。」
「・・・逃げる?」
はい、と頷いてやる。なんて可愛い目で僕をみているんだろう。
「人間誰しも壁にぶつかるものです。」
小説やニュースから得た詭弁。
ただただ綺麗事を並べるだけの詭弁。
「全ての壁を乗り越えられる人間なんてほんの一握り。じゃあその壁にぶつかったらどうするか?」
アクリルガラスにそっと手をつく。
「壁を壊すのもまた一興。壁を避けるのもまた一興。でも私は思うんです、逃げるのものまた一つの手段だって。」
でもこの状態に詭弁は染み渡る。
「いえ、私は逃げることは悪こととは思いません。」
宗教勧誘がそうであるように。
振られた直後に優しい言葉をかけるように。
喉が乾けば、泥水でも啜る。
「逃げてもまだ立ち向かいたいから、新しい自分を作るんです。だから決してもう一人のあなたを嫌いになってはいけない。彼女はあなたを守るために、雉村さんが逃げられるように生まれてきたのだから。」
その言葉ひとつひとつをなんとか帳尻合わせることができた。
これで瑠璃は罪と向かい合える。僕をほったらかした罪と心からまっすぐに。
それ以来、暗い顔になることもなくなった。笑顔の瑠璃が一番可愛い。

両親に捨てられて、育ての親である叔父・叔母がなくなっている瑠璃への配慮は色々した。身よりもいないので資金面はすべて出したし、刑務所への差し入れや面会もこまめに行った。結局どんなにひどいことをしても、やっぱり僕は瑠璃を愛しているのだ。
頼る相手のいない瑠璃は段々と反省していき僕を頼るようになった。瑠璃が生きられるのは僕のおかげで、僕のためだけに生きていけばいい。これは権利とか義務とかではない。瑠璃が僕の物ということは当然のことなのだ。だからいくらでも頼っていい。

「その後はどうですか?」
同じセリフから始まる僕たちの会話。これがなにより心地いい。
「順調です。規則正しい生活だし、運動も食事も適度だし。ただ少し他の方との関係が煩わしいけど。」
楽しそうに話す笑顔の瑠璃。心が穏やかになる。
「少しでも無理そうなら言ってください。何とか掛け合ってもらいますから。」
金ならいくらでもあるし、気に食わない奴はどうとでも処理ができる。僕はなんでもしてあげられる。
「晴夫さ―晴夫先生は何故そんなに私によくしてくれるんですか?」
そんなこというまでもないだろう。でもそんな当然なことだから演出は必要だ。
「・・・確かに、何故でしょう?」
ためてためてためて、最後の最後に満面の笑みで応える。
「多分これが『当たり前のこと』だからでしょうね。雉村さんの事を心配する事は当たり前。だからいろいろしてあげたくなるんです。」
当たり前。瑠璃が忘れていた、そして思い出させてあげた当たり前だ。
「ちょっ!雉村さん!大丈夫ですか!?」
大量の涙を流す。
嗚咽を漏らす。
それを見ている僕。
瑠璃のすべては僕の物だ。

「晴夫先生、本当に良かったんですか?」
タキシードを着た私の背中に問いかけられた。
「ん?あなたはまたそんなこと言っているんですか?それより・・・」
振り向いた私は、純白のドレスに身を包んだ瑠璃を見た。
「『先生』はやめてくださいよ、瑠璃。もう他人じゃないんだから。」
そう頭を撫でてやった。白いレースが少し揺れた。
「・・・恥ずかしいので、しばらくは『先生』で。」
まぁ先生も悪くない。僕はいつまでも何をしてでも瑠璃を守る。そう思いながら二人で大きなドアを開けた。
教会の鐘が響いていた。
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ブツン
いかがでしたでしょうか。
・・・え?いえいえ、これはあくまでフィクションですよ。実際の事件や人物は関係ありません。それにこれはここにあるディスクの一組に過ぎません。

いかがなさいますか?会員登録されてみますか?
そうですか、残念です。ですがまた機会があったら是非当店に起こしください。

はい、はい。う~ん、じゃあ一つだけお答えします。
『この主人公たちはその後どうなったか』ですよね?あくまで物語の中の話ですが。
お互いにお互いの心境を知らないまま生活しているはずですよ。何せ感情は一時のもの。それをディスクに残しておく術は有りませんからね。だから彼女は彼の思いを知らぬまま、そして彼は彼女の辛さを理解できぬまま生活しているはずです。

・・・さようでございますか。
それでは土井瑠璃子様、またのご来店を心よりお待ちしております。
ギィー
ガチャン

ブローカー/ブレーカー

書いたことのない「ゾッとする話」を目指してみました。
これとは別にミステリー(もどき?)の「contrast」も書いています。
興味がある方は是非ご覧になってください。

ブローカー/ブレーカー

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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