あの丘で

空兄を知ったのは、桜ヶ丘で出会ったのが始まりだった。

桜ヶ丘は丘のてっぺんに一本だけ 桜の木がある丘だ。

私は愛犬のポチを散歩しに毎日ここに来る。

いつものように、丘を登ると、桜の木の下に寝ている空兄がいた。

そのときは初めて見る人だったから、チラ見して素通りしようとするとポチが勢いよく引っ張って

空兄のとこに、走っていった。

なぜあのときポチが走ったのかは、わからないけど、

ポチは私と空兄を出会わせてくれた名犬だ。



~一年前~

ポチは突然、桜の木に突進していった。

「あ!!!」

「ぐふっ!!」

と、思ったら男の人が寝転んでいた。

「ちょ、ポチ!?」

ポチは男の人の顔をものすごい勢いで舐めている。

「ご、ごご、ごめんなさい!!!」

ポチを引っ張り、

なんとかポチを男の人から離した。

「あの…大丈夫ですか?」

男の人は起き上がらず、黙っていたが

しばらくすると ゆっくり起き上がった。

・・・な、なんというか

男の人は、すごく格好よかった。

雰囲気がふわふわしてて、目も髪も茶色で

背も高そうだ。

「あ、あの…」

もう一度、大丈夫ですか?、と言う前に

その人は、大丈夫だよ、と答えた。

「すみません!いつもは大人しいんですけど…」

チラリとポチを見ると、少し興奮が収まったようで

舌を出して大きく呼吸をしている。

「あー。うん。大丈夫。僕、なぜか犬にかなり

好かれる体質だから。」

君の犬は正常だよ と続けて言った。

おまけに、異常なのは僕だから と苦笑いした。

「...病気なんですか?」

「そういうわけじゃないけど、小さいころから犬によく好かれるんだぁ」

「そうなんですか…」

「体質、なんだよねぇ」

「体質…」

大の犬好きの私から見たら羨ましい体質だ。

男の人を見ると、桜の花びらが頭に

ちらほら 付いていた。

「あ、桜が…」

「ん?」

「頭に付いているので。今とりますね」

男の人の頭は栗色で、ふわふわしていた。

「ありがとう」

「いえ。…はい、取れましたよ」

「ありがとう。ところで君はここらに住んでるの?」

「あ、はい。丘のすぐ下に住んでますよ」

「へぇ。僕はいろいろ旅をしていてね。

昨日ここに着いたんだ」

男の人は寝転んだ。

「君もどう?」

ポンポンと隣を叩いた。

じゃあ、と私も横になった。

ポチが私と男の人の間に入ってきた。

「ははっ。この子なんていうの?」

「ポチですよ」

「ポチくんかぁ。しっぽがふわふわ」

男の人がポチのしっぽをずっと触っている。

少しの沈黙が流れ、ふと男の人が言った。

「この町、すごく気に入った。しばらくここにいよう」

「今までどのくらいで引っ越ししてたんですか?」

「普通は二、三週間で軽く見学程度なんだけど、
なんとなく居心地いいから 長くいよう」

「住むところは?」

「丘の下を少し行ったところだねぇ」

「そうなんですか」

眠そうな声がしたから ちらっと見てみたら目をつぶっていた。

今にも寝そうだ

「君はいつもここにくるの?」

「ポチの散歩でほとんど毎日来ますよ」

「へぇー。じゃぁ、明日も会えるかな?」

「はぁ、まぁ。会えますよ」

「そっか。ふふっ」

急に笑ったので 驚いた

「じゃぁ、ま・・・た、あし、た」

というと、男の人はスースーッと寝息を立てて

眠りについてしまった。

「風邪、引きますよ?」

声をかけても全然反応がない。

これは・・・どうするべきか。

このままいても いつ起きるかわからないし。

私はしばらく考えたあと、

「・・・ポチ、帰ろうか」

・・・だって、見たいテレビがあったんだもん。

日が暖かいし、少しの間寝ても大丈夫だろう

私はそのあと、不思議な気持ちになりながら

家路についた



そして・・・

あの丘で

あの丘で

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-07

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