七夕の誓い

もう一度会えると信じて

 去年の7月7日。
 とても晴れて、雲1つなかった。
「もう、今日が終わってしまう」
 僕は悲しげに告げた。
「いやよ。わたしはまだ、あなたと一緒にいたい!」
 織姫は、彦星の胸に抱きつく。離ればなれにならないように強く抱きしめてくる。
「だめなんだ。このままずっと一緒にいると、お義父さんは許してくれないだろう」
 まだ、織姫の温かさを感じていたい。一緒にいたい。
 けど、それは、出来ない。
 約束を破ると、きっと二度と会えなくなる。それだけは、絶対にしたくない。
 僕は震える手で、織姫の肩を握り、引き放つ。
 涙を流す織姫を僕はただ、慰めることしか出来ない。
 好きな子の願いも叶えられないなんて、僕はなんて無力なんだ。 
「また、来年……会おう」
「いや! お願い、放れたくないの! このまま逃げましょう」
「だめだよ、そんなの。お義父さんから、逃げられるわけがない」
 今日があと5分で終わる。
「来年もこの場所で会おう」
 俯く織姫は、うんともすんとも言わない。
「来年も君を愛してる」
「わたしも愛してる!」
 僕たちはお互いの唇を重ねた。
 これ以上いると、危険だ。
 僕は、織姫から放れ、走り去った。


ーーーーまた、来年会おう。

 

そして、来年へ

 永い。
 永すぎた。
 こうも一年が永く感じるとは。
 一日千秋とは、よく言ったものだ。
「良かった。今年も晴れてる」
 彦星は1日休暇をもらい、織姫に会うために天の川へ歩いていた。
 早く会いたい。
 そう思う度に歩がより速く進む。
「織姫、今会いに行くからな」



 一方、織姫というと。
「お願い、パパ。私たちはもうちゃんと働ける。一緒に住みたいの!」
「ならぬ。それだけは、断固として許さぬ」
 懇願する織姫は、父に簡単にあしらわれる。
「じゃあ、もうパパのこと嫌いになるかも」
「え~!? そんな……」
 うなだれるパパ。
「ほら、お父さん。もう許してあげたら? 織姫だってもう立派な大人なんですよ」
 何処からともなく、織姫のママが現れた。
「しかしだな、人様に迷惑をかけるような子をだな」
「まだ、そんな昔のことを言ってるんですか? どんだけ根に持ってんですか? それでも男ですか? 神ともあろうかたがそんなに女々しくてどうするんですか? あの仏様だって3回は許してくれるんですよ」
「な!? ママはなんでいつも織姫の味方ばかりするんだよ」
「娘と夫のどっちが大事と聞かれれば、娘と答えるのが常考ですよ」
「ひどいよ! ぼくの味方はいないのか!?」
 パパは、おされるばかりで防戦一方。
 口論でママにパパが勝ったことないな。
「そんなに娘が大事なんですか? いくら心の広い私でもドン引きですよ」
 さらに追い討ちをかけるママ。
「わかったよ。いいよもう、好きにすれば良いじゃん!」
 パパは、どこかへ言っしまった。
「ママのバ~カ、バ~カ!」
 なんて弱いんだ、わたしのパパは。
「ねえ、織姫」
「何?」
「パパはね、あなたが人様に迷惑かけそうだから、あんなこと言ったのよ」
「わかってる。パパがわたしのことを思って言ってるのは、わかってる。けど、わたしは彦星を愛してるの!」
 ママは、納得したように言う。
「だったら、行くところがあるんじゃない?」
「うん! 彦星に会いに行ってくる」
「そう、それでいいの。好きな人と一緒にいることが女の幸せなのだから」
「あのね、ママ」
「な~に?」
「ありがとう」
 織姫は照れた顔でお礼を言って、天の川に向かった。

思い出の地へ

 彦星は、ようやく天の川についた。
 もう、夕方になってしまった。
「織姫は、まだ来てないみたいだな」
 なんだか、雲行きが怪しくなってきた。雨が降らなければいいが……。
「彦星様!」
 遠くの方で懐かしい声が聞こえる。まちがいない、織姫だ。
「織姫!」
 2人は会うなり、1年間会えなかった切なさをかき消すように、強く抱きしめ合った。
「会いたかったよ。織姫」
「わたしも」
「近くに祭りがやってたから、行かない?」
「うん。わたし、綿飴が食べたい!」
「そうだね。行こうか」
 二人は手を繋ぎ、祭へ向かう。
 5、6分歩いたところに祭りがやっていた。
 意外と近かったな。
 たくさんの人で賑わっている。
「あの、彦星様、あれしません?」
 織姫の指差す先には、
「金魚すくいか…… やったことないんだよな。でも、楽しそうだ」
 金魚すくいの屋台に向かう。
「おじちゃん、やらして」
「1回300円だよ」
「はい、600円」 
「2回だね」
 おじちゃんは、僕と織姫に1枚ずつ網を渡す。
「よし、やるか!」
 どうせなら、大きいのがほしいな。
 大きめの金魚に狙いを定め、すくい上げる。
 金魚は網の上に乗るが、網が破れ、落ちていく。
「な、くそ~」
「あらら、彦星様は得意ではないのですね」
 織姫は、もう2匹捕まえている。
「うまいな~。初めてなのにすごいな」
 3匹目に挑戦したが、網が敗れた。
 そのあとも僕らは祭りを満喫した。
 輪投げに射的、それに綿飴やたこ焼きなどたくさん楽しんだ。
 ひゅ~~~…… どん!
「花火だ!」
 織姫が叫んだ。
「すごく綺麗だ」
「彦星様、こちらを向いて頂けますか?」
 僕は織姫に言われるがままに、織姫の方を向いた。
 抱きついてきた織姫のむくもりと、おなかに妙な違和感を感じた。
 織姫は僕から放れ、手に握りしめた物を僕のお腹から抜く。
 おなかに手を当てると、曇り行く視界の中で赤い液体の付いた手が見えた。
 そのまま僕は倒れ、織姫が上から僕を睨みつけていた。
 まるでクズを見るような目で。

 

星はいつまでも

 織姫は地面にへたれこみ、自らの犯した行為に嘆き、涙を流していた。
 自分でも何でこんなことをしたのかわからない。
 気付いたら、目の前で彦星が倒れていたのだ。
 そして、自分の手には赤い包丁が握られている。
「いやあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 自分が殺したんだ、彦星を。 
 そう認識するしかなかった。
 何故わたしは、愛人を殺したんだ?
 何故わたしは、ここにいるんだ?
 何故わたしは、彦星を殺したのに生きているんだ?


    彦星のいない人生なんて、無意味だ。
 
 
 彦星の血がついた包丁を喉に突き立てる。
 


    このまま死んでしまおう。


 だが、包丁は動かない。


     死ぬのが怖い。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


    死にたくない。


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

終わりと愛

 神の寝室で、神とその妻が重たい雰囲気の中、話していた。
「パパは、ひどいことをしますね。あんなんじゃ、織姫が可哀想ですよ」
 パパはベッドに座り、下を向いたまま答えた。
「こうしなければ、いけなかったんだ」
「神の力を使ったのですよ。こんな私情に」
「そんなこと知っている」
「私にとって、織姫はとても大切な宝なんです」
「ならば俺はその宝のためと思ってやったことだ」
「あなたはどこまで残酷な神なんですか。何も殺さなくても」

 

七夕の誓い

七夕の誓い

織姫と彦星のオリジナルストーリーです

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. もう一度会えると信じて
  2. そして、来年へ
  3. 思い出の地へ
  4. 星はいつまでも
  5. 終わりと愛