Poor boy
出会い
まさか、こんなことになるとは、思っていなかったんだ。
「10、20、30…」
自動販売機の前に佇む、制服姿の少年が小声で呟いた。
「うわっ、全然足りない…」
少年は黒い財布を覗き込みながらがっくりと肩を落とした。
7月5日。ジージーと大きな声でセミが鳴き、容赦ない太陽の日差しが突き刺すように少年の体力を奪う。
やや茶色味がかった髪が、さらさらと風にたなびく。
「あきらめるしかないか…」
未練たっぷりに自動販売機を一瞥し、少年は踵をかえした。
その顔は整ってはいるが、まだ幼さを残したそれで
黒目がちな瞳は長いまつげに縁どられ、少女と錯覚しそうになる。
香美(かがみ) 馨(かおる)。齢16歳にして、多額の借金を背負っております。
なぜそんなめにあっているかというと…。
馨の両親は母も父も相当なお人好しで、親友の借金の保証人に判を押したのである。
案の定、親友は蒸発。かわいそうな両親(と馨)は、親友の残した多額の砂金返済を迫られるようになり。
両親は身を粉にして働いたが、借金返済額は全く減らず…
そのうち両親も蒸発してしまった。
馨は小学生の妹と一緒に、おんぼろアパートでバイトに勤しみながら暮らすハメになってしまった。
「あー…暑い…」
馨は手でパタパタと顔を仰ぎながらぼやいた。
汗を流しながら、馨は財布をポケットに突っ込み、トボトボとその場を離れた。
薄汚れたスニーカー、無造作に切られた髪。
しわくちゃのワイシャツに、少し角の擦り切れたカバン。
「なんか、俺、カッコ悪いよな…」
馨は空を仰いでため息をついた。
雲ひとつない空が恨めしかった。
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「ただいまー」
たてつけが悪く、ギイギイと耳障りな音を立てるドアを開く。
「おかえり、お兄ちゃん!!!!」
ドアが開いた途端にパタパタと駆け寄ってきたのは、小学生の妹の理沙。
長い髪を赤いヘアゴムで二つにくくり、兄の馨から見ても結構かわいいと思う。
「おにいちゃん、今日もあるばいと?」
舌足らずな喋り方で尋ねてくる。
「うん。今日も遅いから、先に寝てな」
馨は理沙の頭をくしゃくしゃと撫でて微笑んだ。
「おにーちゃん、あんまり無理しないでね」
理沙が心配そうに馨の顔を覗き込む。
「へいきだよ、ほら理沙、俺バイトだから、いい子にしてんだぞ」
馨はカバンを部屋のすみに放り投げ、携帯をポケットに押し込んで再び外に出た。
Poor boy