僕たちの青い空 -sky days-
prologue
私は幼い頃から、引っ込み思案な子供だった。
多分今までの私に、「ポジティブ」「元気」というような感情はなかったと思う。
たった一度――「あの日のこと」を除いて。
○ ○ ○
「かわいいお人形さん……」
5月1日。私の誕生日に出かけた骨董屋「しあわせのあおいとり」。
棚にならんでいる1つの人形を見つめて、私はぽつりとつぶやいた。
その人形は、とても美しかった。
雲のように白い肌、整った外国人のような顔。どこかの国のお姫様のような、ふわふわとしたドレス。長いまつげが生えたアーモンド型の瞳。その瞳の色はまるで、青い空のようだった。
骨董屋の空いた扉から風が吹いてきて、その人形の黄色い髪がふわりと揺れた。
「なぁに、このお人形が欲しいの? イオちゃん」
「う、うん……! イオ、このお人形さん、気に入ったの!」
「そうねぇ……」
腰をかがめて私の背丈に合わせた母が言う。
その人形と私の中に、なにか「縁」のようなものを感じて、この機会を逃すと、もう2度とこの人形とは会えないような気がした。
「ええ、いいわ。せっかくのイオちゃんの誕生日だもの。誕生日プレゼントに、この人形を買ってあげましょう」
「やったー!」
――あのお人形さんの名前は、なににしよう?
数分後。あの人形を両手で抱え、私と母は骨董屋を出た。
見上げた空はこれ以上ないような晴天で、抱えている人形の目の色とそっくりだった。
――決めた。あなたの名前は、今日から「ソラ」だよ!
僕たちの青い空 -sky days-