冷凍依存

冷める
(覚める)

醒めない
(褪めない)



ぬるい布団のなかで目を開けて時計に視線を遣る。
午前四時過ぎ。
真夏で日が昇るのが早い時期とはいえ昨夜からの大雨の影響で外は暗い。


ひっそり気だるさと戦いつつ上半身を起こしていると、隣で寝ている彼を起こしてしまったようだ。


「ごめん、起こしちゃったね」
「……お前、どこ行くの」
「喉渇いてお水飲みたいから起きようと思って」
「ヤダ」
「ヤダって…いや、冷蔵庫にお水を取りに行くだけだよ」


嘘ではないのでそう言ってなだめてみるが顔を顰められてしまう。
とはいえ水分補給をしなくては干からびそうだ。
雨が降っていて夜明けの室内だとしても、そこそこ暑いのだから。
黙っているのをいいことにサッとベッドを抜け出して冷蔵庫へ向かう。
寝起きで少しふらつきながらも冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出す。
そそくさと寝室に戻り、早速水をごくごくと飲むと臓器にまで染み渡るような感覚。
ふぅっ、と一息ついて機嫌の悪そうな隣の彼にも水を差し出す。
半ば奪うように受け取って無表情で流し込んでいく。
ただの水なので面白くとか美味しそうに飲む必要は無いのだが、あまりに淡々としすぎていて違和感を覚える。
…この数分の間に、一体私が何をしたというのか……。
何をしたといえば、まぁ、起こしてしまったこともあるけれど、性格的に舌打ちのひとつでもかましてさっさと寝てしまうだろうし…。
気分屋の彼なので慣れているとはいえ疑問がないわけではない。
ペットボトルのキャップを閉めながら向こうが話し出す。


「勝手に行くなよ」
「えー…ちゃんと戻ってきたじゃんか」


思わず反射的に言い返したら思い切り睨まれてしまった。
あぁ、怒らせてしまったかなぁと思っていたら左腕を思い切り強く掴まれた。


「…そういうことじゃない。ちゃんといつも俺の目の届くところに居ろ」


掴まれるのにふっと視線を逸らされる。
瞬間、罪悪感が湧く。
強く掴まれて痛い左手はそのままに
空いた右手で優しく頭を撫でてみたら、まっくろな海に映る私の腕が少しだけ揺れた気がした。


「お前は目を離すとすぐにどっか行く」
「ユウくんが呼んだらすぐに戻ってくるでしょ」
「当たり前だ。お前、自分が誰の女だと思ってる」
「………ごめんね」
「なんだよ今の間は」


そんな小学生みたいなこと言わないでよ、って言ったら確実に怒られるから黙る。
まぁそこが可愛くもあるし好きな相手のワガママは嫌いじゃない。
とか黙って考えてたら更に向こうの機嫌を損ねてしまった。


「オイ聞いてんのか」
「ちゃんと聞いてるよ。私がユウくんのものっていう話」
「聞いてるならちゃんと返事しろ、わかんないだろうが」
「うん、ごめんね」
「お前って本当むかつく」


更に力を込められて握られる左腕はズキズキする。
痛いから、笑いたくても苦笑しか返せない。


「アキ…」


愛憎の籠もった甘ったるい声。
懇願するような、迫るような、せつない声。
いとしくなって頬にふれたらそのまま押し倒された。
目を細めて見下ろされる。
ゆっくりと左腕の痛みが薄れていくと同時に顔が近付けられる。
私は静かに瞼を閉じた。


「…ねえ、ユウくん。まだ四時半だから…もっかい寝直そうよ」
「……あぁ、」

布団を被りなおして、背中に手を回されてぎゅっと抱き締められる。



愛憎模様に醜悪も美しいもあるのでしょうか
息が詰まるほどの充足感の前に
大衆の価値観が私に勝てるでしょうか

止んでしまう雨と知りながら降らせているだけ

だからせめて、もっと憎んでください

寂しくさせる暇もないほど愛するために



おやすみなさい

冷凍依存

乙女ゲーム脳ゆえに。

冷凍依存

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-06

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