俺が従妹の日常観測を手伝った結果

趣味の範囲で書いています。駄文ですが、良かったら読んでいってください

日常観測
それは、ただ日常を観測するということではない。
日常の中にある非日常を観測することである。
考えたことは無いだろうか。
非日常なことが突然日常となったら。
逆に、普段日常だと感じている中に、
実は見えない非日常が紛れていたら。
そんな非日常を見る力があるのならば。
非日常に立ち向かう力があるのならば。
あなたは、日常を壊してまで
一人、前に勧めるだろうか。
この物語は、
非日常を求める一人の少女と
非日常と戦う一人の青年の
恋と呼ぶにはあまりに唐突で
推理と呼ぶにはあまりに支離滅裂な
そんな非現実な物語。


シャツの張り付く感覚に目が覚めた。
ムシムシした暑さとべとべとした汗の感覚が俺の中から爽やかな目覚めというには程遠い目覚めをプレゼントしてくれたそんな七月の終わりの早朝。
軽く頭の上、枕の向こう側に手を伸ばして、まだ人を起こすという役目を果たしていない目覚まし時計を掴む。
もし仮にこいつに意思があるのならまだ時間じゃないんですけどぉ~とか、時間ぎりぎりにならないと動かないバイト女子高生の様に文句を垂れるのか、はたまた今日は早いですねとか、家に仕えるメイド女子高生のように心地よく迎えてくれるのかそれは俺には分からない。
まぁ、時間にならないと動かない時点できっと前者なんだろう。時間きっちりに動き、持ち主が起きておはようございますとボタンを押した瞬間に動きを止める様は本当に惚れ惚れするくらい面倒くさがり屋だけど仕事だけはちゃんとする的な美少女が目に浮かぶようだ。
そんな目覚まし時計がさしている時刻は午前六時二十分。
アイツが動き出す時間だ。
アイツ、というのはこの家に俺がお世話になって初めて出会ったこの物語の登場人物の一人、ルックス的には最高ランクなのだがきっと恋人にするにはそれなりの覚悟どころでは済まない超問題児。まぁ実際見てもらった方がリアリティもあるだろうから余計な説明は省いて一度見てもらうことにする。
俺はベッドから立ち上がり一度大きく伸びをする。べとべとのシャツにしみ込んだ汗が冷えて、全身に冷たいタオルを当てているような気持ち良さに包まれる。
俺は部屋の隅にあるクローゼットの三段目、夏と大きくシールが貼ってある引き出しを引く。
そして黒と白の横縞模様の薄っぺらいシャツを一枚出してベッドに放る。
俺と一晩を共にして、これでもかと俺の汗を吸ってべとべとになったシャツを脱ぎ、床に放る。
見てください、これが男の乗り換えというやつですよ。気持ちいいほうがいいですもん。当たり前ですがシャツの話ですよ。
クローゼットの中から一枚タオルを出して軽く体を拭いてこれも床にポイ。
ベッドの上で俺に着られるのを待ちわびている、いや、いるであろう、いると信じたいシャツを頭からかぶり袖を通して首を通す。首を通してから袖を通すという意見の友人が俺の着方にケチをよく出すのを思い出したが俺はこの着方を変えるつもりはないといつもの様に心の中で反論してしまった。
床に散らばったシャツとタオルを丸くして抱え、部屋のドアを開ける。
部屋から出ると右方向に続く廊下と左方向から下に降りる階段があるが行く方向は決まっている。左の階段だ。
階段は途中で直角に曲がっており、その先の階段を下りてそのまま進むと玄関に着く。
しかし、まだ家を出るには時間もあるし、何より朝ごはんも食べていない。俺のお世話になっているこの家の家主、八(や)折(おり) 祭(まつり)さんの作る目玉焼き乗せ食パンを食べないうちは一日の気力どころか家を出ようという気すら起こらない。ちなみに、祭さんは俺の母親の妹だ。つまり俺から見れば叔母さんにあたるわけだな。
というか叔母さんが主人公より先に名前登場はまずいだろう。ということでそろそろ俺の自己紹介をしておこう。俺の名前は、里(さと)浦(うら) 兎(う)佐(とさ)。愛知県のとある小さな市のとある小さな町に住んでいたのだが、とある漫画だかゲームだかに影響された両親の陰謀というか何とやらで「高校からは京都に行きなさい」の一言で飛ばされた先は京都ではなく奈良県のド田舎。親の学力を疑いながらも到着初日にかかってきた電話の「京都に着いたか~?」という父親からの質問に笑顔でうんと答えるしかできなかった高校二年生だ。ちょっとかわったことと言えば、俺の名前は上から読んでも下から読んでも“さとうらうとさ”になる事を中学一年生の時に気が付いた。もちろん、周りの人間はすでに気が付いていた。
階段を下りると目の前に見える玄関を無視するように右を向いてそこにあるリビングへの扉を開く。この家は何故か不思議な作りで間取りを考えると外見では絶対に存在しない部屋があるのだが祭さんに聞いたところ、この家の作成者が宇宙大工やらキネシスモジュールやらゴーストリコンチームだか変な方向に話が行くばかりだった。
リビングの扉を開け中に入る。早朝の冷たい空気が流れ、水道から水の滴が滴り落ちる音だけが響くリビング。扉から入った正面に大きな窓がありそのすぐ横に大きなテレビがある。そのテレビの前にアイツは居た。
艶やかで、長く、美しい、そんなどこかのシャンプー会社もうらやむ様な黒髪をなびかせて、細く、しなやかで、思わず触れたくなるような足を折り曲げ、その足の膝のあたりに手を回してお山座りのような体制でテレビに見入る。テレビに映っているのは、緑色のカメのような人型の着ぐるみと睨みあう真っ黒なスーツに身を包んだ変人。ではなく、ご当地ヒーロー。名前は知らないが、どうやら緑色のカメの生物のポイ捨てを治すために戦っているらしい。別に戦わなくてもいいんじゃなんてことを思わなくもないが、それをキラキラした目で見つめるソイツの存在を見たら、そんな言葉を言うのは失礼という物だ。誰だって好きなものを否定されるのは嫌だろう。だから、俺は差し当たりない質問を投げかけることにした。面倒なことになるのは嫌だからな。
「・・・このヒーローってさ、カッコいいよな」
どうだ!このあたりさわりのない質問!完璧だ!外見的なことを褒めることでそのキャラクターを詳しく知らなくても対応することが可能になる!さあ、どう返してくる!
「あなたにしてはまともな感性ね。しかし、私がこの番組を見る理由は別にカッコいいヒーローを見るためじゃない。」
美しい声でテレビの前にちょこんと座ったソイツは言う。まぁ、この返しはわかっていたがな。
「いつもの、日常観測か?」
「いつもの日常観測、なんて言い方がおかしいわ。私が観測しているのは、いつもじゃない日常観測よ。」
いや、別に俺の言語能力が優れているとは言わないが、今お前が言った言葉よりは数段どころか数倍どころか数ランク俺の方がまともだと思う。
「それで今日のいつもじゃない日常観測は、カメ星人との戦いか?」
「そんな日常も悪くはないのだけれど、何かインパクトが足りないわ。」
いや、緑色の巨人に襲われる日常なんて一般人からしたらストレスというダイレクトなインパクトしかないと思う。
俺はそう思いながらそいつに近づく。テレビに見入るソイツの足元には一冊のノートが落ちている。普通の大学ノートだが、表紙にはでかでかと黒いマッチーペンの極太並みの太さで「日常観測」と書かれている。問題児というのはこのことなのだ。こいつは、漫画やアニメ、特撮などの非日常的現象を綴った日常観測という行為を一二の時から続けている。その行為の何が問題か?まぁ、それは見てもらった方が早いのだが。一言で言うならこの街の、というより俺とコイツの通っている学校の七不思議の一つを言った方が早いだろう。こいつは学校では超絶有名人だ。なぜなら、ソイツ本人が七不思議の一つになっているのだから。
学校の怖い七不思議その1 八(はち)折(おり) 叶(かなえ)のノートは書いたことが本当になるノートである。
初めてこの七不思議を見た三か月前の俺は思わず吹き出してしまった。どこかのノートに名前を書かれたら死ぬ的な頭脳戦アニメや未来の日記が読める男女の話やらいろいろな物が混ざっていたことと八折 叶というのが俺の従姉妹。つまり、俺のお世話になっている家の娘だったからである。
まぁ、それは三か月前の話。今の俺は、ソイツ、改め八折 叶がノートを開くたびにびくびくしている。訳も無く。ただ悠々と当たり前の日常を過ごしていた。

 同日 午前7時
普段なら学校に向かっているはずの時間だが、今日は違う。慌ただしく部屋を行きかう叶と祭さんを見ながらひとり悠々と目玉焼きを乗せた食パンにかじりつく。口の中に広がるパンの風味と目玉焼きの風味。つまり、パンと目玉焼きの味しかしないわけだが。この質素な感じが最高においしいのだ。塩も振らずバターも塗らないこの素材本来のおいしさ。う~む、デリシャス。
「うー君は荷物整理終わったの?」
そんなことを言って俺の顔を覗き込んでくる若い女性。見た目は二十代前半、中身と肌年齢は四十代前半。俺がお世話になっている家の家主。俺の母親の妹ってその説明はもうしたな。そんなことを言って俺の顔を覗き込んでくるのは八折祭さんだ。娘と同じ黒髪のロングだが、こちらは普通の二十代前半女性並の美しさ、言い換え幼さだ。まぁ、足を組んで胸元を強調しながら四十代前半には見えませんわねぇ。というかうー君はやめてほしい。
「ええ、もう準備も整いましたし、あとは出るだけです。」
「さすが男性。支度が早い。」
「女性が長いだけです。」
「あ~、女性を貶すのはよくないぞうー君。」
「貶しませんから、うー君はやめてくれませんか?」
「じゃあ、荷物チェック!水着持った?」
話をそらされた・・・まぁいいか。
「持ちました」
「着替えは?」
「必要でしょうからね」
「ビーチサンダルは?」
「水着と一緒に入っています。」
「替えのパンツは?」
「一応。」
「財布は?」
「あなたは家を出るときに財布を持たないんですか?」
「コンドームは?」
「相手が居ねぇ!!!」
「やだぁ・・・うー君ったら照れちゃって」
「なんですかその顔は、俺は熟女に興味ありませんよ。」
「ピチピチの四十代です。」
「仮にピチピチだとしたら自分が生きていることを証明する死ぬ間際の魚的なピチピチですね。」
「もうっそんな照れ屋なウー君には私の等身大ポスターを部屋中にプレゼント!」
「ピチピチの四十代最高!」
全力の笑顔で俺は天に拳を掲げてそう言った。けどそんな拳を向けられた天よ、ごめんなさい。俺は熟れた甘い果実よりまだ酸っぱいくらいの方が好きです。だってこうしないと、俺の部屋が熟れた果実農園になってしまいますから。
満足そうな顔で荷造りに戻った祭さんを横目に、心の中でそうつぶやいた。
すると、天に拳を掲げて固まっている俺の肩を何かが後ろから叩いた。
振り向いてみると二着の水着を持った叶が居た。
「なに?どうした?」
「どの水着がいいかしら?」
そう言いながら叶は静かに二つの水着を差し出す。
右手に持っているのは赤い、派手なビキニだ。砂浜で寝ている俺を波打ち際からこちらを向いて万遍の笑みで俺の名前を呼ぶ美少女、そんな印象を受ける。よく言えば、元気そうな印象。悪く言えば、派手すぎるというところだろう。
対する左手に持っているのは、暗い青色のビキニだ。色的には学校指定の紺色よりも少し明るい感じだろうか。みんなが海で遊ぶ中、一人岩陰で本を読む美少女、そんな印象を受ける。よく言えば、落ち着いた感じ。悪く言えば、地味すぎるといった所だろう。
どちらも叶には似合いそうな気がするが、叶の印象からして左手に持っている暗い青の水着だろうか。
「どの、とはつまり二つだけではないってことか?三つ目があるという事か?」
「あなたの解釈に任せるわ。ついでに言うと私は大衆の前で裸になることはしたくないわ。」
「だろうな、それには安心した。」
「裸に〝される〝のは興味深いけど」
「左でお願いします。」
そうだった、こいつは日常観測なんて言うよくわからん趣味を持つ挙句にそのノートには常人には考え付かんであろうことが羅列されているのであった。一般の女の子として扱ったら負けだ!
「そう、じゃあ右にするわ。」
「・・・・」
やはりそうなるよな。人間って言うのは人に相談する前から自分の中で答えは決まっているのだ。なのになぜ、人間が人に相談するのかというと好きな人物との共通意識に安心する、もしくは嫌いな人物と共通意識を無くす、ということだと俺は思っている。つまりこの女、俺のことが嫌いであろう。
俺は手に持った食べかけの目玉焼きの乗った食パンを一口かじる。
口の中に広がる卵本来の味とパン本来の味のハーモニー。
それに身をゆだねる様に俺は目を瞑る。
余計な視覚情報を無くすことで、俺は、その味覚のみに意識を集中させることができる。
たとえ、今、この状況下で目の前から某人気お喋りぬいぐるみ、ミァービーの容赦のないドロップキックが飛んで来ているとしても。
「ふごっ!?」
俺は突然のおでこへの衝撃に妙な声を出して、某アイススケートの技を真似たはいいが腰が曲がらず背中から倒れる中学生のようなフォームで床に転げ落ちた。
「なにすんだよ!」
そう言って起き上り顔を上げると、野球のピッチャーのフォームで球を投げ終わった時のようなポーズをしている祭さんが目に入った。
「うー君、いまのうちから寝てちゃ、向こう着いてから倒れちゃうよ!」
「寝てたんじゃないです!俺は卵とパンのハーモニーをですね!」
「え・・・卵と、パンパンの、ハーモ」
「あ、下ネタはいいです。」
祭さんの言葉を遮るように言うと、俺は最後の一切れを口に放り込む。祭さんは渾身の下ネタを言えなかっただの女の子の下ネタを聞かないのはどうたらこうたらだの言っているが、これ以上相手にしていても仕方ないので適当に外に出て待つことにしよう。
俺がリビングを出て、玄関の前、板張りの床から石張りの床に変わるところの小さな段差に腰をおろし靴を履いているその時、軽快な音を立ててチャイムが鳴る。
「来たわね。」
いつの間にか靴を履く俺の後ろで仁王立ちした叶が玄関をまっすぐ見てそう言う。
巨大なリュックサックを背負っている所から、荷物の準備も終わったようだ。
靴を履き終えた俺は立ち上がり、黒を基調としたドアについている、少し濁った金色の縦長の棒のようなノブに手をかける。
そろそろ説明してもいいだろう。なぜ俺達が今こんな準備をしているのかということを。
俺達は、夏休みの初日を、何ともリア充的に、そして青春的に、さらにサマーバケーションを満喫する子供心を持った小学生的に。
海に行くのだった。
海と言っても奈良県の近場に海はな、かった。最近落ちた隕石のせいで奈良県の東側が海になったのだ。ちなみに、その原因は俺の後ろで仁王立ちしてる女の持つノートなわけだが、その話はまたにしよう。
「は~い。」
そっけない返事をしながら玄関を開く。まぁ、そこに待っている人物には大抵予想がついているのは、きっと、俺自身も心のどこかで今回の事を楽しみにしているからだろう。
「やあやあ、おはよう!兎佐君!」
「おはよう!里浦君!」
「おっす、兎佐!」
玄関の向こう側には3人の男女が居た。
一人は、ショートヘアーの元気な女子。俺を呼ぶ呼び方は兎佐君。
一人は、ロングヘアーのおとなしそうな女子。好きな食べ物はたしか桃。
一人は、逆立った髪の毛をした男子。将来の夢は魔法使い。
全員名前はあるのだが、今回重要なのはショートヘアーの元気っ子だ。
だから、ほかの二人は仮の名前で行こう。モブAとドジョウ男爵ということにしよう。
ちなみに、ロングヘアーがモブAである。
さて、今回のお話で需要な人物、ショートヘアーの元気な少女。
名前は、一(にのまえ) 美(み)月(づき)。
苗字の漢字を見るだけで既に大半の人が名前を憶えられる何とも物を覚えるのが苦手な人にとっては優しい名前である。ちなみに、学校では人気者キャラとなっており、呼び名も、「にのまえ」、「みづき」、「まえちゃん」、「いち」など多数ある。一度美月が表彰されたことがあるのだが、その時の校長が「にのまえ」を「はじめ」と呼んで笑いが起きたことがあったが、その時に俺が初めて美月の苗字の読み方を知ったのである。
全校朝礼の舞台の上で間違いを校長に説明する美月は名前を覚えるのがあまり得意ではない俺の頭でもインパクトが強く残った。まぁ、クラスメイトだったのが一番大きいかもしれないがな。
「早かったな、美月、モブA、ドジョウ男爵」
「おうよ!けど、俺が一番乗りだったがな。モブAは遅れすぎだ。」
「だから、それはごめんなさいってさっきから謝ってるじゃないですか。自転車が壊れてしまったんです。」
「自転車が?」
見れば、モブAはいつも乗っているピンクの自転車を引きずるように持っている。
しかし、壊れている様子はないんだがな・・・。
「壊れてないじゃないか。」
「そうなんです!ウミガメさんが直してくれたんです!」
「・・・・・・ウミガメさん?」
モブAの口から飛び出した言葉は、予想するにはあまりに非現実的過ぎなのだが、そんな非現実さは、どこか懐かしさを感じさせるような非現実さで、犯人は大体目星がついているわけなのだが。
俺は何も言わずに叶を見る。
玄関を片手で開けたまま立っている叶の顔は、これ以上ないと言えるほどに不気味に、見るものすべてに恐怖を与えるように、ただ、なによりも楽しそうに笑っていた。
やらかした。この女はまた、やらかした。

俺が従妹の日常観測を手伝った結果

俺が従妹の日常観測を手伝った結果

日常とは何か、考えたとこはありますか? 非日常とは何か、考えたとこはありますか? もし、非日常が誰かのしわざによるものだとしたら、あなたは誰を疑いますか? 神様ですか? 妖精ですか? 悪霊ですか? 従妹ですか?

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-05

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