赤崎唯奈の破綻劇場

高校二年生の赤崎唯奈には、秘密がある。
それは、普通の人間には、有り得ない秘密。
だが、ある時秘密は露呈し、劇場は、開演する。
予定されていたシナリオを紡いでいく。
逃れられない運命の先にあるものとは……

人には大抵秘密がある。

 午後6時を過ぎた頃。カラスが騒いでいる。
 人気のない路地裏。生ゴミが腐ったような異臭を放っている。
 じめじめと湿ったした空気の中、唯奈は3人の男に囲まれていた。
 顔も名前も知らない見ず知らずの男達。
 この男達は、ひどいことをしようとしていると唯奈は、直感で理解した。
「あんま、抵抗すんなよ」
 男達がにじりよってくる。手を伸ばし、唯奈が逃げれないように周りを塞ぐ。
「こないで! けいさっ……」
 警察と言おうとした瞬間、口を手で覆われた。
「しゃべんなよ」
 男がバタフライナイフを取り出し、唯奈の喉元に突き立てる。
「これだけは使いたくなかったけど」 
 ぼそっと唯奈は呟いた。  
「ああ!? 何言っ……ぐあああああああ!」
 男達は耳を抑え、地面をのたうち回る。       
キーンという音が唯奈を中心として、響く。
 倒れ込んだ男達の耳から血が流れ落ちる。
 男達はいったい何が起きたかわからず、ただ痛みに耐えることしか出来なかった。
「二度とあたしに近づかないで」   
 唯奈は、表の通りに走り去っていく。
 男達が血走った目で、唯奈の背を睨みつけた。
 
  
  
 赤崎唯奈には、秘密がある。

何か間違ってませんか?

 実験道具が所狭しと並べられた4階の科学室。
 涼しい風がしきりに入ってくる四時限目のこと。
 唯奈の席は、窓際後方だ。
 いつも変わらない科学の授業。
 先生が一方的に喋り、ときどき問いかけるだけの50分間。
 退屈だと唯奈は、心の底で思っていた。
 レベルの高い大学を目指して、難しい高校を選んだというのに、今はノートも取らずに窓の外を眺めている。
 グラウンドでは、生徒がサッカーをしていた。
 こく、こく、と睡魔におされ、頭が傾く。
 重たい瞼が閉じようとしていた瞬間、左方向、つまり窓を越えた外から何かが落ちてきた。
 あまりにも速くて、それが何かがわからない。
数秒後、何かは地面にたたきつけられ、どすんという重たいものが落ちた音とべちゃっという水風船が割れた音が同時に響いた。
「きゃああああああああああ!」
 下から女子生徒のはっきりとした大きな声が4階まで届いた。
 何事かと思い、窓から地面を覗く。
「……うっ」
 吐きそうになり、目をそらす。
 それは赤い液体を纏った人間。
 完璧に死んでいる。
 たくさんの生徒が授業も気にせず、窓に集まり、死体を見下ろす。先生もそれを見て、生徒を着席させる。
「コラ、授業中だぞ! 席に着け」
 生徒達は、一向に座ろうとしない。
 それもそのはずだ。珍しいものを見たいという本能が働いているからだ。今回は対象がたまたま転落した人間の死体というだけ。

赤崎唯奈の破綻劇場

赤崎唯奈の破綻劇場

全ては劇場の中に。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-05

Copyrighted
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  1. 人には大抵秘密がある。
  2. 何か間違ってませんか?