夏蜜柑
ある養護施設で出会った、少年少女。
そんな二人の忘れ去られた本当の関係。
はじまりは、あの日の抽選会。
「 木南の体験場所は___あの児童養護施設な。 」
「 え? 」
木南千晶
中3
私の通う中学は毎年中三生が社会体験事業と称し、
近隣の工場や幼稚園、小学校などに5日程体験で働くことが恒例行事であった。
今日はどこに配置されるかの抽選会だった。
...だけど、よりによって〝あの〟施設だなんて・・・。
「 千晶!どこだった?? 」
友人の紗和が何やら嬉しそうに尋ねてきた。
「 施設だって・・・・。 」
それとは逆に気怠そうに返事する私。
「 紗和は?嬉しそうだけど...あたり? 」
「 うんッ!幼稚園だったよ!すごい嬉しい~私子供大好きだから...でも千晶は施設かぁ 」
施設なんて聞いて、良い考えが思い浮かばない
みんな大抵そんなもんだ。
だって、あそこは訳アリの子が集まる場所。
私と境遇が違うこと関わるなんて、無理に等しい。
嫌だなぁ...とため息が漏れた。
「 まぁ、明日から頑張ろう?メールするね~。 」
終始嬉しそうだった紗和。
いいなぁいいなぁーーー。
そういえば昨日の帰り、果物屋さんのそば通った時
__夏蜜柑の香りがしました。
「 もうそんな季節かぁー。 」
私の大好きな、夏蜜柑です。
境遇。
だけど、根っから境遇が違うわけではない。
私は数年前、母親と弟を失いました。
交通事故で。
『 待ってるね 』
あの時母に変わって弟が言った。
そして、消息を絶った。
その後の記憶は、あまり覚えていない。
初日
初日。
らしくないエプロンを身にまとい、名前ペンで名前が書かれた名札を左胸につける。
何かとこの事業体験、
不思議な疑問点があったがあまり気にしないことにした。
ひんやりと冷たい引き戸に手をかけた。
「 こんにちはー・・・西中から来ました木南と申し「 うわぁぁぁぁん!!!!!! 」
突如聞こえた耳を裂くような泣き声。
一瞬、えっ?と顔を顰める。
「 せんせぇ!悠君がぁ...僕のソフトとったぁ...ぐすっ 」
「 慧が俺の取ったんだろ...返してもらおうと思っただけだよ。 」
・・・なんなんだろう。
一体私はどうすれば・・・。
棒立ちの私の前で繰り広げられている喧噪。
そして悠君とやらの方の男の子は、
私の存在に気付くと少しにらみを利かせてその場を離れてった。
その後ろを小さい男の子が泣きじゃくりながらトコトコとついていく。
再び訪れる静寂。
「 やば...帰りたくなってきた・・・。 」
違和感。
唖然と立ち尽くしていると、園長がやってきた。
「 あー、こんにちは!ごめんね騒がしくて...今から集会開くから、おいで! 」
「 あ、はいっ、はいっ! 」
ドアを開けたときから違和感を感じていた。
ここは、
私がいていい所なのだろうか?
不思議な焦燥感に駆られながら
一日は始まろうとしてた。
夏蜜柑