梅雨の思い出

14,15才くらい?の銀さんと高杉と桂の話。

傘を忘れたのがいけなかった。
今日はずっと降ったり止んだりと不安定な天気だった。
運悪く、その止んだりの機会を逃し一人教室でぼんやりと頬杖をつきながら教科書をよんでいた。
がらんとした教室に一人。
雨音だけが響いている。
「おい、帰ってなかったのかよ」
がらっと引き戸が開いたとおもったた見慣れた白い天ぱの陰。
「あぁ」
とだけ言った。
駆け寄ってきて向かい側にすわった。
見ていた教科書を閉じた。
「傘、忘れたから止むまでまってる」
「ふ〜ん」
関心がない死んだ魚のような目は相変わらずだ。
ふっと銀時の視線が変わった。
それを察する高杉。
「これ、なんだ」
と指を指した。
机の端に立てかけていたもの。
「・・・三味線」
少し恥ずかしそうに言った。
「うっ、まじでか。まだしてたのかよ。しずかちゃんのヴァイオリンみたいな・・・」
「いつの話だ、それ」
「ボンボン大変ですね〜。習い事がたくさんあって、そろばん教室とかさ〜」
「それは俺だがそれは違うところの違う設定だ」
そうこうしているうちにもう一人教室に入ってきた。
「おまえら、まだいたのか」
「なんだ、ヅラか」
「ヅラじゃない、桂だ」
二人のところに駆け寄ってくる。
「先生にいろいろ質問があってなぁ。おそくなってしまった。ん?高杉それは・・・」
「三味線だとよ〜」
銀時が茶化した言い方をすると、高杉が銀時の頭を叩く。
「おまえ、まだやっていたのか。あのしずかちゃんのヴァイオリンみたいな」
「なんで表現が二人して一緒なんだ」
桂を睨みつける高杉。
そんなことを気にせず、げらげらと笑う二人。
高杉はそんなふたりを見てちっと舌打ちするがやはり気恥ずかしい。気持ちを入れ替えて
「ひとがなにしようがいいだろ、別に」
おもむろに自分のところに三味線を寄せる。
そうして大事そうにもって音を鳴らし始めた。

良い音なのか悪い音なのかふたりにはよくわからない。そんな彼をぼうとみている。
「なぁよ」
今度は高杉から声をかけた。
「あぁ?」
「おめぇらは三味線がなにでできてるか知ってるか」
急な問いかけに二人は黙って首をふった。
「津軽三味線は強い音が出るように犬が好まれるが、小唄などは優しい音がでるように
猫の皮を使われることがある。もっとも貴重なものだけどな。特に「みつう」の雌猫の皮が良いとされている」
音を鳴らしながら得意げにならしている。
「なーみつうってなんだ?」
銀時が質問した。
桂がなんとなく察した。
「猫とか犬の肉球大好きでなんとなく生体に詳しそうなヅラに聞けばいいし、あたまが良さそうな桂君ならわかるだろうや」
とにやにやと高杉がいった。
今度は桂のほうが気恥ずかしくなってきた。
「おい、ヅラ。とっとはなしやがれ」
「うー」
一呼吸おいてゆっくりはなし始める。
「みつうっていうのはな、うん。人間でいう・・・処女のことで・・・」
「それで?」
「つまり、その。猫の交尾は排卵をうなが・・・すために雄猫のあれがとげがあって・・・いや、もう察しろよ、銀時」
「えぇ〜わかんないよ桂く〜ん」
明らかに茶化してる。しかたがないから高杉から細く説明をたすことになる。
「つまりな銀時、雌猫のほうはたいへんなのだ、けっこう激しいのよ。三味線で使うのは猫の腹の皮だ。ヤったあとだと傷があるらしいからな、きれいなほうがいいってこと」
とへらへらと言った。
「ちょっとドキドキする話だろ」
と付け足した。
銀時はにやにやしながら

「ヅラは奥手でウブだなぁ、そんな話するよりもおまえの女の趣味のほうが恥ずかしいだろ」
「うるさい、黙れ、そもそも言葉ひとつ知らないやつに言われたくないわ!」
そんなふたりを高杉はけらけらと笑った。
「ふん」
こういうところは嫌いだ。だが憎めないなにかはあると思う、たぶん。
「高杉、あれから時間たつんだ、なんか弾けよ」
「え」
「いや、なんでもいいから」
「そうだ、しずかちゃんのヴァイオリンからどれだけなったか聞かせてもらおうか」
話の流れ的にもうこれはなんかやんなきゃいけない気がする。
そう心に決めると、適当に鳴らしていた音をやめて、曲らしい曲を引く気持ちに切り替えた。
まださらさらと雨の音が聞こえる。
そうしてゆっくりと引き始めた。

「あら、雨音にまぎれて良いおとが聞こえますね」
机にむかって本を読んでいた松陽がふっとそんなふうに思った。


きれいな音かわからない
うつくしいなんても

「恋し恋しと鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」

梅雨の思い出

誤字や脱字はあるかもしれない。

梅雨の思い出

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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