公衆トイレよ。顔を真っ赤にして立ち尽くしている、あの娘の元へ飛んで行け!(11)

十一 時間外の小ネタ

 大便と小便を一緒にできない人がいる。大便をすることに一生懸命になり、小便をすることを忘れ、パンツを上げ、ズボンを履き、便器の中の浮遊物を一瞥すると、水を流す。いつも、ズボンを履く前に水を流すべきか、いやいや、少なくとも、さっきまでは自分の体内にいた同志に、何の挨拶もなくさよならするのはいかがなものかと、凝視するまではないけれど、敬意を込めて一礼をする。もちろん、その際に、国歌は歌わないし、国旗も掲揚しない。もちろん、「蛍の光」も歌わない。
 ただし、いつものことだが、水を流した後、残尿感に襲われる。さっき、大便と一緒にしたじゃないか。見つめていたはずのパンツが答える。そうだったかなあ。その人は不安になり、ズボンに尋ねる。しっこしたかなあ。ズボンが答える。俺は便器の中を覗いていないよ。音がしたような、しないような、わからない。身をよじりながら答えてくれた。
 その人は、ますます不安になる。そんなに疑うならば、もう一度小便をすればいいじゃないか。あきれ顔のパンツ。ズボンに、悪いなあ、と謝り、チャックを下す。隙間から一物を取り出し、再度、白い便器に向かう。便器の方は、どうせなら一度にやってくれ、水も電気代ももったいないじゃないかと怒っているように見える。
 でも、生理現象だから、仕方がないよな、と理解もしてくれる。その人は、用を済ますと、同じ個室内で、二度目の水を流す。安堵感といたたまれなさを感じ、トイレを後にする。おーい、うんことおしっこよ。次は、仲良く一緒に出てくれ。その人は祈るような気持ちで、トイレを後にした。

公衆トイレよ。顔を真っ赤にして立ち尽くしている、あの娘の元へ飛んで行け!(11)

公衆トイレよ。顔を真っ赤にして立ち尽くしている、あの娘の元へ飛んで行け!(11)

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  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-03

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