花戦-気象衛星ひまわり-

宇宙があり、太陽があり、惑星があった。

花戦 -気象衛星ひまわり-

宇宙があり、太陽があり、惑星があった。

惑星には鳥が住み、昆虫が住み、人が住み、風が吹いていた。
温暖なその惑星には、一輪の花が咲いていた。
その花は七色に輝き、何十年も何百年も
たった一人で咲いていた。
その惑星に咲く花は、七色の花だけだった。

ある日、風が言った。
「あなたの香りはとてもかぐわしい、もっと仲間を増やしませんか?」

ある日、鳥が言った。
「あなたの姿はとてもうるわしい、もっと仲間を増やしませんか?」

ある日、昆虫が言った。
「あなたの蜜はとてもおいしい、もっと仲間を増やしませんか?」

風も鳥も昆虫も、皆口々にこういった
「あなたが増えればこの惑星はもっと素晴らしいものになれるでしょう」

長い間、一人ぼっちで過ごしていた七色の花は、
もっと広い世界を知りたかった。
たった一人でいることに、飽きていたのかもしれない。
たった一人でいることに、寂しさを感じていたのかもしれない。

「決めた、新しい世界を知ろう」
七色の花は静かに心の中でつぶやいた。

「鳥さん、鳥さん、私を増やしてくださいな」
と七色の花
「ええ喜んで」
美しい声で鳴く鳥はそう言うと
一色(ひといろ)の花の種をくちばしでつまみ、どこかへ飛んでいった

「昆虫さん、昆虫さん、私を増やしてくださいな」
と七色の花
「もちろんです、良いですよ」
綺麗な模様の羽を持つ昆虫はそう言うと
一色(ひといろ)の花の種を足でつかみ、どこかへ飛んでいった。

「風さん、風さん、私を増やしてくださいな」
と七色の花
「ええ是非是非、うけたまわります」
春を告げる心地よい風はそう言うと
一色(ひといろ)の花の種を風に乗せ、どこかへ飛ばした。

宇宙空間にたたずむその惑星は、太陽の周りを公転し自転した。
幾周もし、幾回転もした。
惑星の中では、草花の芽萌える春が訪れ、草木生茂る夏が過ぎ、秋が木々の彩を深め、静かな冬を迎え、季節は何回も何回も、巡り続けた。
気がつくと、七色の花から分かれた一色(ひといろ)の花は、
惑星中を埋め尽くしていた。

一色の花は、初めて見た海を、初めて見た山を、初めて見た森を、初めて見た川を
初めて見た新しい世界を、楽しそうに眺めていた。

一つの転機があった。
ある日誰かが言い始めたのだ
「一番花の数が多いのは、私が運んだ種だろう」

また誰かが言い始めた
「何を言うか、花の数が一番多いのは私だ」

やはり誰かが言い始めた
「ふん、私には及ばないが、君たちは頑張ったほうだよ」

種を運んだ鳥や、昆虫や、風はそれぞれが運び、育てた花の勢力を拡大しようと
争いを始めだした。
しかし、もはや、惑星は花でいっぱいだったので、勢力を増やそうにも
増やせなかった。

ある日誰かが考えた
「害虫さん、害虫さん、葉っぱを食べて私が育てた花以外を、枯らしてください」
「君が育てた花以外の葉っぱをかい?いいだろう」
そう、害虫は言うと葉っぱを食べ、花を枯らし、勢力を変えた。

またある日、誰かが思いついた。
「害鳥さん、害鳥さん、私が育てた花の実以外をついばんで、実の中にある種を
海に捨ててしまってください」
「君が育てた花以外の実をかい?うん、分かった」
そう、害鳥は言うと花の実を食べ、実を海に捨て、勢力を変えた。

やはりある日、誰かが閃いた。
「台風さん、台風さん、私が育てた花以外を大風(おおかぜ)で吹き飛ばしてください」
「君が育てた花以外をかい?それは面白そうだ」
そう、台風は言うと大風で花を吹き飛ばし、勢力を変えた。

もうこの流れは、誰にも止められなかった。
新しく厳しい自然が成り立ち始めたのだった。

春雷が花を枯らし、
夏の猛暑と少雨が花を枯らし、
秋の台風が花を枯らし、
冬の豪雪が花を枯らした。

新しい世界を知りたかった七色の花は、厳しい現実を知ることとなった。
それでも、七色の花はもっと新しい世界を見てみたかった。

夜が来た、シンと静まり返った闇の中で、真っ黒な空の中に煌々(こうこう)と、
星が輝いていた。
夜空を見上げる七色の花は、空のかなたに何があるんだろうと思いをはせた。

同じことを人も考えていた。
人もまた、新しい世界を知りたいと思い、行動し、新しい世界を知るたびに、厳しい現実に直面していた。
それでも、七色の花同様、空のかなたに思いを寄せていた。

ある日人は考えた、そして、ロケットを作り出した。
ロケットは人に宇宙という新しい世界を、徐々に徐々に知らし始めた。

未知の荒野、宇宙はまさにそんなところだった。

そのとき、七色の花は人にこう言った。
「人さん、人さん、一色の花の種を渡しますので、私を宇宙に連れて行ってくださいな」

しかし人はこう言った。
「一色の花の種を宇宙で育てるのは無理でしょう。その代わり一色の花の種にふさわしい名前を付けてあげます。」

そうすると、人は一色の花の種に名前をつけた。
「ひまわり」
という名前を。

そして、「ひまわり」は今日も宇宙空間を飛ぶ気象衛星として、明日の天気を観測しながら惑星の周りを回り続けるのだった。

花戦-気象衛星ひまわり-

花戦-気象衛星ひまわり-

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-03

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