花戦-戦場の兵士たち-
「サー、イエッサー」 見習い兵士達が目一杯声を張り上げる。
花戦 -戦場の兵士たち-
「サー、イエッサー」
見習い兵士達が目一杯声を張り上げる。
「クソの中のクソ共、幼稚園のお遊戯じゃねえんだ、水を運べ、養分を運べ、光をもっと集めろ」
上官が怒号を撒き散らす。
花戦の兵隊に志願した俺は、毎日毎日上官の怒号に耐えては、
黙々と下積みを重ねていた…
いつか、戦場で武勲を立て、栄誉を得るために
「可愛い可愛い、クソッたれなクソ共、下から三枚目の葉が枯れそうだ。
この三枚目の葉を担当したのはお前だ。」
そう言うと上官は俺の右隣にいるほほえみふとっちょを指差した。
「本来なら、ほほえみふとっちょ、貴様なんてその汚ねえケツを蹴飛ばして、
ここから追い出すところだが、これは連帯責任だ。」
そう上官は皆に告げた。
「ほほえみふとっちょ、お前は立って指くわえて連帯責任がどういうものか見ていろ。
では、残りのクソ共、腕立て開始、腕がぶち壊れるほど腕を張れ。」
「どうした、気合が足りんぞ、ジジイとババアのファックのほうがまだ気合が入っている。
返事はどうした?もうお仕舞いか?」
上官が一人ひとりの顔を覗き込みながら罵声を浴びせる。
「サー、イエッサー、腕がぶち壊れるほど、腕立てをするでありますサー。」
「クソ共、ぶち壊れるほどじゃない、ぶち壊れるまでだ。」
「サー、イエッサー」
毎日がこんな感じだ。いつか狂っちまう奴が要るんじゃないか、と考えちまうくらいの毎日々を俺たちは送っていた。
それはそれは、辛い毎日だった。
なに、志願理由を聞きたい?そうだな…分かった話そう。
俺たちが兵に志願した花は、育つとかなりデカイ花になるらしい。
それに、黄色い大輪を咲かせるそうだ。
志願理由は俺の場合単純だ、デカイ方が、よりデカイ武勲をあげられると、さもしく考えたからだ、が、その為の訓練は甘いもんじゃなかった。
上官がクソみたいな命令を下しても、俺たちに「ノー」という言葉は無かった。
そう、ひたすら「サー、イエッサー」と答える毎日だった。
どの位の時間が経ったのだろうか、いつの間にか、俺たちの腕は丸太棒のように太くなり、心が折れるなんて事は考えつかなくなるくらい頑強な精神を持つようになった。
そう、あのほほえみふとっちょでさえだ。
朝、上官がいつも通り現れる。俺たちに気合がみなぎる、早く命令を下せと。
しかし、今日の上官の様子はいつもと違った。
「息子たちよ、よく耐え抜いた。明日から貴様らは実戦を経験することになる。
では、それぞれの配備先を伝える。」
そう言うと、まるで、定規のように寸分たがわず整列している俺たちを一人ずつ前に出し
それぞれの配備先を伝えていった。
「健闘を祈る」その言葉と共に。
俺たちはちりぢりに別れていった、デカイ花のいろいろな場所にだ。
俺の配備先はおしべだった、そこには、別の上官がいた。
「よく来たな、まあこれでも飲め」
そう言うと、濃い蜜を俺に渡した。
蜜は俺の体中に染み渡った。
上官は言った。
「今日は楽しめ、明日果てるかもしれないからな」
そういいながら、蜜を飲み干した。
そんな毎日が過ぎた。
そして、ある日突然言い渡された。
「出撃命令だ」
上官は言った。
「作戦内容を説明する。
本日19:00(ひときゅうまるまる)にめしべに向けて、特攻を試みる。
以上、生きて帰れると思うな。この花粉大隊に配備されたお前らの運命だ。」
そう言い放ち、きびすを返し立ち去った。
刻々と作戦時間に近づいていく
すでに、発射準備を終えた俺は、作戦時間になるのをただじっと待っていた。
「なあおい」
隣の花粉が俺に話しかけてきた。
「お前、恋ってした事あるか?」
「いや、無いな。でも良いものらしいぜ」
「ああ、きっと良いものだよな」
「畜生、果てる前に一度してみたかったなぁ」
「そうだな」
「時間だ」
上官の声が冷たく響く。
発射台からは、遠くに夕日を浴びるめしべが見える。
不意に感情が高ぶる。
俺は、腹の底から声を上げた。
「茜色に輝く、クソッたれな夕日よ、真夏の昼間の余韻を残すクソッたれなそよ風よ、
何よりも、夕日を浴びてオレンジ色に輝くクソッたれなめしべよ、行くぜお前の元へ
特攻だ。」
そよ風にふわりと乗る。俺自身もだいだい色に輝いて、目の前のめしべを目指しながら。
そして、季節は秋になりデカイ花はたくさんの大きな種を残した。
それを見上げる小さな女の子と共に。
花戦-戦場の兵士たち-