ACE WITCHES 鋼鉄の翼
主人公設定及び航空小隊設定
ロウファ・ローズベルト・コウジ 28歳 階級 エストバキア空軍大佐
出生国 エストバキア連邦
身長 178cm 体重 72Kg
髪の色は黒色 瞳の色は緋色
コールサインはクロスボー1 TACネームはサジット クロスボー隊の隊長を務めている
特技はスクラップからなんでも(主に武器類)作り出すこと、料理が非常に上手く料理人泣かせとまで言われている
そのため料理を手伝うことはあっても一人で作ることは滅多にない
空戦の技術ではエーリカを凌ぎ、新米扱いしなおかつ501部隊を模擬戦で全機撃墜の記録保持者でもある
その上2番機のイーディスからは「模擬戦で後ろすら取らせてもらえなかったことが殆どだ」と言う程の技量を隠し持っていた
約90度近い角度で旋回し、10連続で高G及び超高G旋回を容易くやってのける。
また、空間の気圧変化を利用しつくした強襲を仕掛ける等人並み外れた能力の持ち主
女性が少し苦手だがゲルトさんが好みのタイプらしい
ジャック・シルバー・マーティン 28歳 階級 エストバキア空軍中佐
出生国 エストバキア連邦
身長 170cm 体重 68Kg
髪の色は濃い灰色 瞳の色は青(群青色)
コールサインはクロスボー2 TACネームはイーディス(盾を意味する) クロスボー隊の2番機兼副隊長を務める
性格はコウジと対照的だが技量はコウジに次ぐ腕前の持ち主であり片腕でもある
エストバキア空軍第3特殊戦術航空小隊「クロスボー隊」
コウジが隊長を務める航空隊
主な任務は迎撃任務、航空機開発等である
たった1つの問題は戦闘隊員2人、整備員8人の超最低人数であるということである
練度に関しては申し分のない程でシュトリゴン・ヴァンピールに次いでいた
friend or enemey?
昨年、祖国がエメリアに敗北し、降伏した。また多くの人の命が散っていった。人間とはやはり争うことを止めることはできないのだろうか。いや、その戦争を拡大させ、長引かせ金儲けに走る私利私欲な考え方で一体どれほどの尊い命が、罪のない人々が、それこそ小さな赤子の命までもが失われたのだろうか。そこまで考え、俺、ロウファ・ローズベルト・コウジは思考回路を止めた
昨年まで敵国として戦っていたエメリアのサンロマ市上空を(まぁ海側の上空なんだが)エメリア政府からの要請で哨戒任務にあたっていることを思いだしていた
「まったく、なんだって敵国だった俺たちに自分たちの町周辺の空域を哨戒任務なんてさせんだよ」
「そう言うなクロスボー2、エメリアだってかなりの人材を消費しちまったんだろ。ウチに比べりゃましだけどさ。ま、さっさと哨戒と報告済ませようぜ。そろそろ腹も減ったし飯でも食いに行こうぜ」
「お前の奢りでか?」
「な訳ねえだろ、この野郎 お前はどんな寄生虫みたいな思考回路持ってんのか知りたくなったよ。ワリカンだよ、ワリカン」
「チェッ、つまんね~の」
「うるせぇ文句があるなら来んな俺一人で行く」
「あ、こら抜け駆けしてんじゃねえよ。」
面倒な奴だな相変わらず
『こちらサン・ロマコントロール。クロスボー隊賑やかなのはいいがあんまり騒がんでくれ、こっちはこっちで書類仕事で大忙しなんだ。あんまり仕事を増やすのは勘弁だぜ(笑)』
おっといけないな任務に集中集中っと
ん?何だ?この反応は、少しの間の思考の末、俺の僚機であるクロスボー2ことイーディス、ジャック・シルバー・マーティン中佐への通信回路を開いた
「クロスボー1より2へレーダーに何か映ってないか?」
「2より1へこっちもレーダーで確認中・・・って何だこりゃ?こんなバカデカイのがいつの間に?」
どうやら俺だけでなく2番機も見えているようだ。そうなると・・やっぱりコントロールにも見えてるはずだが
『こちらサン・ロマコントロール。クロスボー1、2へ貴機の前方に何か見えるか?こちらのレーダーではアンノウンを捕捉した』
やっぱり見えているようだな。現状、付近の空域を飛んでいるのは俺達クロスボーのみだから俺達が行って『アンノウン』を確かめなくてはならない。
「クロスボー1よりサン・ロマコントロールへ当機はこれよりアンノウンへの接触を行う。アンノウンより攻撃を受けた場合こちらで撃破してもよろしいか?」
少し沈黙の後、返答がきた。やっぱり敵どうしだった奴が敵国の空を守るんだら本来なら俺達エストバキア側の人間じゃなく自国のエース達にやってもらうのがいいに決まってる。だがサン・ロマコントロールからの返答は予想とは違うものだった
『こちらサン・ロマコントロール、クロスボー、増援は要るか?今回に限って受け付けてやるよ。増援は出るか分からんがあまり期待しないでくれ、だがな』
「なんだ」
『必ず帰って来い』
「おしゃべりはそこまでにしようぜ」
そろそろ行かんとアンノウンが逃げるしな。このまま進んでノルデンナヴィクに向かわれでもしたら色々と面倒だし
ん?アンノウンがこっちに向かって来ているのか?そう思った瞬間、俺は2番機に回避を命じ、俺自身も悪寒を感じながら回避体制に入った。
しばらくするとさっきまで俺達が居た空間を禍々しいほどに赤い光が駆けぬけていった。
「おい、クロスボー2より1へ、何だあの攻撃は、アンノウンからなのか?」
2番機はあの光芒が信じられないといった感じだった。正直なところ俺だって信じられない。いや信じられる訳がなかった。あの光芒は間違いなくレーザー以外の何者でもなかった。何故ならレーザー兵器搭載の機体なんて環太平洋のときのラーズグリーズの中の1機が使っていたADF-01FALKENしか思い当たらなかったからだ。ただ、ラーズグリーズはどうなったかは知らないがFALKEN自体はオーシアの何処かに置いてあるんじゃないかと思う。
この間の約2秒間もアンノウンの攻撃は続いていたが、俺達は避けながらアンノウンへ接近していた。
「チッ 銃弾の雨ならぬレーザーの雨ってか!?威力の差が有りすぎだっての」
「まぁ、レーザーなら当たらなければ
どうとでもなるさ。それに誰が言ってたぞ当たらなければどうと言うことは無いって」
全くもってその通りだ。あれには当たりたくもないが、当たる気もない。死にたくないしな。
「クロスボー1よりサン・ロマコントロールへ、アンノウンより攻撃を受けている。繰り返す、アンノウンより攻撃を受けている」
一応サン・ロマコントロールへ通信を送っておいた。即行で返事がきた。
『こちらサン・ロマコントロール、本当か両機とも無傷だろうな?上層部からの伝達事項だ。アンノウンに接近し、データを送って欲しいとのことだ。データ送信が可能であっても不可能であっても撃墜命令に変更はない。あぁ、それと』
「なんだ」
『徹底的に叩き潰してして来いってさ。出来るか?』
「誰に言ってんだよ。誰に」
コントロールとの通信を終え、2番機と連絡を取る。
「1より2へ聞いていたな」
「2より1へ聞いてたよ。了解。叩き潰すとするか」
ようやくアンノウンを目視することのできる距離についていた。しかし俺達はアンノウンと示された物体もとい大型爆撃機B-2スピリットに似たような黒い物体に絶句した。
「何だありゃ」
「気味が悪いな」
データ収集をさくさく終わらせた後、送信を完了させた瞬間また俺はあの時の悪寒を感じ、回避機動をとった。
「っ!!」
「っ!!クロスボー1!!この野郎何しやがる!!」
クロスボー2が叫ぶ俺は無事を伝え、敵とみなしたアンノウンへの攻撃を開始した。
「クロスボー1より2へ交戦の許可はおりてんだ。いくぞ!!クロスボー1、エンゲージ!!」
「了解!!クロスボー2、エンゲージ、覚悟しやがれ!」
編隊を解き、お互いに交戦を開始。俺は回り込みながら”奴,,を観察する。
よく見たらB-2に似ていても上から見たらそれはキモイの一言しか言いたくなくなった。
何せ下側は禍々しい赤一色しかないからだ。
閑話休題。俺も攻撃ポジションへ着いたことだしそろそろ行くか。
スロットを最大に近い位置で止め、奴をロックし、攻撃を開始した
「クロスボー1、FOX3、FOX3」
中距離AAMを撃ったすぐ後に兵装切り替えスイッチを押し、
「FOX2、FOX2」
短射程AAMを撃つ。H・H(ヘッド・トゥ・ヘッド)からの攻撃のためすぐに回避起動へ。2番機がそれに続く
「イーディス!FOX3!FOX3!」
何故か俺がいつも先に中距離撃つのにイーディスの奴のが俺より先に当たっていることが多いのが少し不思議に思っていたが今回はそれが功を機した。イーディスが撃ったミサイルが当たり俺の中距離AAMが当たった時にある物がキラリと光っているのが見えた。しかも奴の胴内に。短射程AAMは奴がチャフらしき物をまきかわされたがレーダーは奴の中央に高熱源の反応があったことを俺に伝えていた。
「クロスボー1より2へ奴の内部に高熱源の反応があった。」
「本当か」
「ああ、俺が考えるに奴の弱点と見て間違いないだろう」
「なるほどな、要するにそこを狙えば奴は落ちると」
「そうだ」
もはやそれしかないと俺は確信した何故確信したかってそんなもんカンだ!カン
「了解、死んだら道連れだかんな」
「勘弁してくれよ。それより、お前が短射程AAMをノーロックで撃ってくれ弱点がどこにあるか探してそこにガンを叩き込む」
「アイ・サー。行くぜ」
2番機がノーロックで短射程AAM発射しかも2発も
「FOX2!FOX2!」
来た来た。2番機のミサイルは敵機の鼻っ面へ突っ込んだ。前が壊れて中が丸見えだ。例の赤い物体も。
「そこか!2行くぞ!」
「了解」
2番機と並走しながらA/Bを全開にした。
「インガンレンジ・ファイアー!!」
2人同時に叫んだ
見事に奴の破壊された部分から赤い物体を貫通しガラスが割れたような音をして砕け散った。
「よっしゃー終わった~」
イーディスの奴が歓声の声を上げるのを聞きながらサン・ロマコントロールへと俺は任務完了を伝えようとした。
「こちらクロスボー1、サン・ロマコントロールへアンノウンの排除に成功した。これより帰投・・・何だ?!」
今なんか衝撃が・・・。
『こちらサン・ロマコントロール、クロスボー1どうかしたのか?』
「いや、今機体に衝撃が走ったような気がしてな・・・。」
気のせいか・・?だが2番機からの通信がふと、気になって振り向いた。そして俺は今俺達が置かれている状況に気付き、俺の時間が止まった気がした。
「こちらクロスボー2、俺もそんな気がす・・・」
「おい。」
「どうした?」
「あいつ、あのデカブツ縮んでねえか?」
目を疑いたくなる光景だった。何せサン・ロマまで半分の距離と思っていたのに気付いたら奴に引き寄せられているんだから。
「ぬあぁぁぁぁっ!どういうことだ、どうなってんだ!?」
「知るか!俺が知りたいわ!」
「ヤバい吸い寄せられる!!うわぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁっ!」
俺はこの瞬間、意識を失った
『こちらサン・ロマコントロール!クロスボー1、2応答せよ!繰り返す!クロスボー1、2応答せよ!』
コントロールからの無線が2人に聞こえることはなかった・・・・・。
第1話「出会い」
1944年4月7日 ブリタニア ウィッチーズ基地内16:10
突然の警報が基地中に鳴り響いた。たまたま私、坂本美緒は格納庫の側を歩いていたので、すぐにストライカーユニットを起動させていた。
「お前達早くしろ。ネウロイは待ってくれ無いぞ。」
「「「「「「「「了解。」」」」」」」」
素早い動きで皆が離陸していく。いつも通りにやれば倒せる。私はいつもそう信じている。急がなくてはならない。夕刻を過ぎれば暗闇での戦闘になる。これだけは極力避けなくてはサーニャ1人に負担を掛ける訳にもいかない。だからこそ皆が急いでネウロイを迎え撃つ為に現場へ向かう。
『坂本少佐、聞こえる?ネウロイはそのまま真っ直ぐ行った海上に此方へ向かってくる大型のネウロイが2つよ。』
「分かった。全員聞いていたな。大型2機。それ以外は居ないらしい。私と宮藤で大型を攪乱する。他の者は隙を突いて仕留めるんだ。分かったな?」
「了解。しかし大型とはいえ、たったの2機だと?我々を舐めているのか、ネウロイの奴らは。」
確かに妙な感じだが、私は違和感を感じていた。
「いい的になるね~。」
そんな会話の後、暫く飛ぶとネウロイが見えてきた。
「全員、攻撃開始!ネウロイを撃墜しろ!」
私の掛け声と共に全員がネウロイに攻撃を始める。そんなに時間も掛からず、1機を撃墜。
「これでも喰らえっ!」
バルクホルンが怪力で強化したMG42の銃床をネウロイに叩き付けるが、装甲が硬いのか叩いた部分の半分はヒビが入り、もう半分は割れて内部のコアが割れ目から少し覗いた感じになっていた。
「リーネ、あそこを狙え!!」
「はいっ!」
リーネの対装甲ライフル“ボーイズMK.1”の弾丸にコアを撃ち抜かれネウロイは白いモノに姿を変え四散した。
「ミーナ全ての大型ネウロイを撃墜した。これより...?どうしたミーナ、何かあったのか?」
『少佐、大変よ。その空域に先程よりも大型のネウロイが1機現れたの。それと、ガリア方面から出現した中型のネウロイ約24機程がそちらに向かっています。尚、超大型はその空域に突然現れたの。気を付けて。』
突然の通信に当然皆疲れた感を出す。出さない者もいるが...
「分かった。皆聞いて...「アァァ■■■Aaa--A■-アァァア!!」何だこの音は!!」
意味不明な音が周辺に響き渡り、音が止んだと思った瞬間だった。眼前で凄まじい程に眩い閃光がほとばしったのだ。皆ネウロイの攻撃かと一瞬怯んだが、閃光が消えた後彼女らの目の前に現れたのは、余りにも巨大なネウロイだった。
「な、なんて大きさだ。」
「うえぇ~まだ来るの~」
「そう言うなってルッキーニ。さっさと終わらせて帰ろうぜ。」
「お前にしては珍しく意見が合うなリベリアン。早く終わらせて帰るぞ。」
「よし、ネウロイへ攻撃するぞ。」
彼女達は攻撃に移ろうとしたが、突如ネウロイは彼女らの後方にレーザーを打ち始めた。彼女達は不思議に思いレーザーの行く先を見ながら攻撃していた。この時、超大型ネウロイは501のウィッチ達など眼中に無くウィッチーズの攻撃など無視し、別世界に飛ばされてしまった同胞を殺した相手を見据えていた。
『WANING!WANING!PULL UP! PULL UP!』
機体からの警報が耳に五月蠅く響いたことにより俺は意識を取り戻した。
「んぁ?ってうぉぉっ。高度下がり過ぎだろうがこれぇ!」
危ねぇ危ねぇ。危うく魚のエサになるとこだった。
『ここどこだ?!』
「うぉっ生きてた!」
『生きてるよっ!』
死んだのかとと思っ...
『余計なこと考えてんじゃねーだろーな、サジット。』
「!?なんで分かった!」
『何年お前と空にいると思ってんだよ。てか考えてたのかよ。』
「しかし、何処なんだここは。」
行く当てが無いまま飛び続けるのは危険だ。だが、レーダーには反応が無い。おかしい、YFA-45 Alterのレーダー性能はAWACS並みとまではいかないが普通の戦闘機より高い性能のレーダーユニットを積んでいる筈だぞ。
彼等は10分程飛行を続けてようやくレーダーにポツポツと反応が捉えられるようになっていた。
-ようやくか。にしても何だ?レーダー上の光点の大小の反応の差が激しすぎる。大きいので20m以上か?小さいのは、全てが2m程度だった。2m程度って事は無人機か?-
そこまで考え俺は2番機に接近して確認しようと提案し、2番機もOKの合図を送ってくれた。タリホー、そう言っても良いくらいの距離になり俺は見えたものに驚いた。何せあのデカブツとそれを攻撃して動く小さなもの-恐らくあれは人だ。しかも生身だ。-が銃弾を叩き込んでいるんだから。デカブツの方は俺達に気付いたらしくレーザーを雨霰と降らせてきた。
『おっと。』
「よっと。」
互いに攻撃を避け、此方も攻撃態勢に入る。
「クロスボー1より2へさっさと落とすぞ。北西の方位より約24機程がこっちへ接近中だ。」
『2、了解。』
「全兵装の使用を許可する。セーフティロックを解除。」
俺達は全兵装のセーフティロックを解除し接近する。LASMの射程圏内にはデカブツを捉えてはいるが、電波妨害でも受けているのかロックオン出来ない。仕方ない、HADを睨み付けながらノーロックで発射レリーズを押し込みLASM発射。続けて2番機も発射。
「クロスボー1LASM発射。」
『クロスボー2LASM発射。』
デカブツの中心目指して真っ直ぐに加速していくLASM。10秒後、着弾を確認。続けてイーディスのLASMが着弾。中央部の高熱源の反応も消えた。内部の熱源を破壊したらしくデカブツは白く砕け散った。
「ENEMEY SHOT DOWN!」
『っしゃあ!』
デカブツを落とした俺達は即座に気持ちを切り替え、次を...探す必要は無いようだ。それは向こうから此方に来たからだ。機数は約...24機かやってやるさ。
「クロスボー1より2へADMMを使うぞ。」
『ADMMか?了解した、起動させる。』
早速俺は機体に搭載されているADMMを起動させるべく兵装切り替え用の選択ボタンし押し、ADMMを選択。機体上部とエンジンの間に搭載されたADMMを起動させた。3ヶ所でシャッターが開き内部から本来はイージス艦に積まれているようなVLSランチャーがせり出す。まるで、ようやく出れたと言わんばかりにHMDには既に“あのデカブツ”より小さめの目標が全て映し出されていた。そして俺は、発射コードと共に発射レリーズを押し込む。
「クロスボー1、ドライブ」
『クロスボー2、ドライブ』
VLSランチャーから12発×2、合計24発の火球が解き放たれ、目標へ向かって加速開始。敵は回避しようとするが、-もう遅い。-そう呟いた。
ADMMは全弾が命中し周辺に敵が居ない事を確認し、先程銃撃をしていた少女達(少女が戦っている事に驚いたが)へ接近し通信回路を開いた瞬間、
『そこの所属不明機に告ぐ、国籍と所属を明らかにしろ。さもなくば撃墜するぞ。』
と、いきなり言ってきた。
(坂本サイド)
何だ?大型は私達ウィッチの攻撃など意に介さない感じで我々ではなく、別の方向へ攻撃していた。何故だ?あちらには何も...?この音は...?私は音がする方向を見て、驚愕した。何故なら技術大国と言われたカールスラントですら開発が難航していると言うジェットエンジンを2基も積んだ機体(恐らく戦闘機だろう)が2機、此方へ向かっていたからだ。その2機は、私が辛うじて見える距離であるため他の者は気が付かないか見えないかだった。
「何か聞こえる...。これはジェットサウンド?」
「何だとハルトマ...!これは!?」
カールスラントの二人組みには聞こえたようだ。“それ”を見ていた私は“それ”から何か白い煙が1つずつ出たのが見えた。一体何だあれは?あの白い煙のようなモノはロケット弾の類だろうか?煙が見えたのか他の者から、
「何ですのあれは?」
「ありゃロケット弾か?」
「多分ロケットだと思うけどなぁ?」
などとそんな声が聞こえた。ロケットのようなモノは真っ直ぐにネウロイに向けて飛翔し、ネウロイに命中した。凄まじい爆音と共にネウロイはコアを破壊され悲鳴に似た音を上げ同時に起こった爆炎と言う名の業火に飲まれ、白く砕け散った。
「何!あんなものでネウロイが...」
「凄い威力だね。ウルスラが見たら喜びそう。」
「なあ、あれ何だ?」
シャーリーが指差したモノは紛れも無くジェット戦闘機だった。2機のジェット機は私達に近づいた時、何やら箱状の物体が飛び出した。そこから多数の火球が放たれ轟然と中型ネウロイへ向けて飛んで行き全てを撃墜した。皆が唖然となり何も言うことが無かった。私自身も狙われるのではと考えたが、勇気を振り絞って戦闘機に無線で警告を発した。
「そこの所属不明機に告ぐ、国籍と所属を明らかにしろ。さもなくば撃墜するぞ。」
第2話「二つの世界と背負うもの」
俺たちは2人してさっきの通信に驚くしかなかった。まだ20歳にも満たない女性が飛んでいるのを見て如何なものと考えていたが返信をしないといけない事に気が付いて少し慌てて通信を返す。
「こちらはエストバキア連邦空軍第3特殊戦術航空小隊クロスボー隊所属クロスボー1だ。」
『エストバキア?何を言ってるのだ?そんな国は存在しないぞ。』
『そんなバカな!ならあんたらが知っている国を全て言ってくれ。知ってる国が無きゃ1に丸投げするぞ。』
何で丸投げするんだよ俺に。ん~まあ良いか。
話して貰った国は、扶桑、リベリオン、カールスラント、ガリア、ブリタニア、オラーシャ、スオムス、ロマーニャなど全く持って分からない国名ばかりだった。
「悪いが聞いた事の無い国名ばかりだ。それと一応名乗っておこうか。俺はロウファ・ローズベルト・コウジ、階級は大佐だ。それでもう1人は…」
『ジャック・シルバー・マーティン、階級は中佐だ。』
『私は坂本美緒。扶桑皇国海軍遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊、階級は少佐だ。』
「了解坂本少佐。頼み事があるのだが宜しいか?」
『構わないが。』
「助かる。どこかに降りられそうな所は無いか?当ても無くこのまま飛び続けるのは危険と考えているが。」
『分かった。私達の基地が近くにある。そこでも構わないか?』
『少佐本気か!こいつらはネウロイかもしれないんだぞ!!』
ん?ネウロイ?もしかしてあの黒い奴の事か?
『大丈夫だ。魔眼でコアを探したが内部には一切見当たらなかった。それにもう日が沈む。これ以上ここに居るのは危険だ。』
『しかし...』
何か訳アリのようだな。
『ミーナ聞こえるか、私だ。これより帰投する。それと...戦闘機が2機基地に来るが大丈夫か?』
『分かりました。その戦闘機はネウロイではないのね?レーダーに映っていないから。』
『ああ、ネウロイでは無い。本当かミーナ、本当にレーダーに映っていないのか?』
『ええ。』
色々言ってるが、今は気にしない。暫く飛ぶと中世ヨーロッパ時代にあったような城が見えてきた。あちこちに高角砲やボフォース2連装機銃とかが見えるな。確実に侵入者扱いだこれは。さあて、鬼が出るか、蛇が出るかだな。どっちも遠慮したいが。
「少佐、その戦闘機の形状と色は分かりますか?」
『そうだな、機首が突き出した感じの流線型の機体に三角翼が付いていて機首のすぐ後ろに細長い補助翼が4つ付いている。色は隊長機らしいのは漆黒に、少し不気味だが返り血を浴びたようなペイントが施されている。それと2番機らしいのは黒にグレーのラインが入っている。2機とも同じ形状でジェットエンジンを2基ずつ積んでいるようだな。』
「レシプロでは無いのね?」
一応再確認しておく。
『ああ。影も形も無い』
「武装の類は?」
『主翼と思われる場所に2箇所外側に小さいロケット弾状の物と内側に外側のより大きい物を左右にぶら下げている。後の武装の類と固定武器に関しては全く見られない。』
「了解。では『待ってくれミーナ。』?」
『戦闘中に中型があっという間にレーダーから消えなかったか?』
「ええ、ほとんど一瞬だったわ。」
『そうか。実はな、中型を全滅させたのは今私達と飛んでいる戦闘機達がやったんだ。』
「!どうやってか分かりますか?」
『ああ、正直信じられんが戦闘機から上下合わせて3基の箱状の物体が出てきたと思ったら中型と同じ数の小さな誘導弾を撃ち出して中型をあっという間に破壊したんだ。』
「そう…分かりました。すぐに帰投して下さい。」
『了解した。』
それだけ話すと私、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは双眼鏡で外を見ていた。美緒やトゥルーデ達に引っ付くような形で少し高い位置に報告のあった戦闘機が2機。後ろの戦闘機は兎も角、前の戦闘機は異彩を放っている。形状等は似ているが非常に認識しにくかった。うっすらと闇に浮かぶ赤いペイントだけはよく見えた。あれだとネウロイに間違えられて撃たれてそうね。甲高く、それでいて腹に響くようなジェットノイズ。それを聴きながら私は警備隊の詰め所へ電話をした。
見えてきた城に彼女らは降りていくからにはここが彼女らの基地なのか。こちらも降下体勢を取ると準備に入るがここまで来て問題が発生した。とにかく滑走路が短いのだ。離陸する分には離陸時の加速度を通常より早めれば離陸できるが着陸に関してはVTOLを備えている機体なのでそれを使えば何とか着陸は出来るからさしたる問題では無いが。
「クロスボー1より2へ。そろそろ降りるぞ降下準備はいいか?」
『2、OKだ。』
俺達は彼女らが降りた滑走路へ接近したとき通信が入った。
『こちらウィッチーズ基地管制塔。上空の戦闘機、着陸を許可します。尚、着陸後はエンジンを切り両手を上げて降りてきなさい。』
早速蛇が来たか。こんな訳のわからない所で死んでたまるか。1度着陸を安定させる為に基地上空をフライパスし降下体勢をとる。感圧式タッチパネルの『VTOL MODE』を選択、エンジンノズルが下方45度に稼動しカナードの少し後ろと後輪基部の間近に装備されたVTOL補佐用スラスターが起動し着陸を安定させるために炎を吐き出す。それに伴い自動でギアダウンし降下開始。基地の滑走路にギアが接地し垂直着陸をした俺達はエンジンを切り、ヘルメットとマスクを取る。そして感圧式タッチパネルに触れ、機体に積まれている自爆システムを起爆決定画面までセットし自身の超小型携帯端末にデータを送り起爆用意を整える。キャノピーを開け機体から降り両手を上げる。すると、基地の中から1台のジープが憲兵達を乗せて走ってきた。
-ん?おいおい、ありゃ1940年代のジープじゃないか。-
憲兵達は俺達を取り囲み、ボディチェックをしながら口々に
「こいつら宇宙人か?」
「宇宙人なわけ無いだろこいつ等は人型のネウロイに違い無いさ。」
などと色々言われたが俺は気にしなかったがチラリと盗み見た相棒のイーディスは若干イラついた顔だった。
-アイツこういう好き勝手に色々言われるのが嫌いだったな。-
俺は護身用の愛銃であり今は亡き父の形見のDE50AEを憲兵に取り上げられそうになり、咄嗟に、
「これは持って行かないでくれ、親父の形見で肌身離さずに持っていたいんだ。」
そう言うと憲兵達は、仕方ないと言う表情で
「なら代わりの物は無いのか?」
と、聞いてきたので、
「分かった。代わりの物だがこいつを渡しておこう。」
代わりに軍から支給されてからDE50AEと並んで未だに使い続けているグロック18Cを渡した。俺とイーディスは憲兵と警備兵達に囲まれて基地内のどこかの部屋に連れて行かれ(恐らく営倉)、
「暫くしたら呼びに来ます。」
そう言って二等兵らしき青年は営倉を出て行った。
「どうなんのかねぇ、俺等は。」
ボヤキを言ったのはイーディスだった。
「さあな、だが言えるのは俺達が何故か別の世界へ来てしまった事、それとこの世界は兵器や服装を見る限り1940年代と見て間違いない事。そして俺達の世界との技術の差が70年もの差がある俺達とAlterがこの世界にとって危険と言う事だ。」
「……」
「恐らく俺達はこの世界で都合の良い強大な力を持った駒としか見られないだろうな。」
そう言うと、
「なあロウファ、俺達は政治に振り回されるのか?そんな事のために俺達はこの世界に跳ばされたのか?」
と、俺達が嫌う事を言ってきたので、
「そんな事で振り回されるのは御免だが、何か訳があってこの世界へ跳ばされたのならその役目を果たすべきだと俺は思うがな。」
そこまで話すと突然ノックが聞こえたので咄嗟に身構える。扉が開き、赤い髪の毛の女性と数名の憲兵が入って来て俺を指差し、来いと言うので俺一人だけ執務室らしき所へ入室を促された。
私は自分の執務室で例の戦闘機隊の隊長と思われる人物を尋問していた。
「あなたの出身国と所属、名前、階級を言って下さい。」
「エストバキア連邦国出身、エストバキア空軍第3特殊戦術航空小隊[クロスボー隊]所属クロスボー隊1番機、コールサインはクロスボー1、TACネームはサジット、本名はロウファ・ローズベルト・コウジ。階級は空軍大佐だ。」
「私はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。階級は中佐です。そして、501統合航空団、通称[ストライク・ウィッチーズ]の隊長とこのウィッチーズ基地の司令官を務めています。」
私の予想通り彼は隊長だったようだ。だけど彼は淡々としか喋っていないわね。
「誰でも知らない世界の知らない基地の部屋の中で尋問されたら話す気も失せるさ。」
もしかして私の心を読んだのかしら彼は?それはさておき、別の質問に切り替え問い掛ける。
「何故ここにいるか分かりますか?」
「俺達の世界に突然現れた黒い生物の様な奴を倒したと思ったら、吸い込まれて気が付いたらこの世界に着いたんだ。」
「黒い生物…ネウロイね。」
「ネウロイ?それがあの黒い奴の名前か。」
「ええ。」
彼はネウロイの事を知らない感じだったので私達の戦う相手、ネウロイに関することとそれに伴い世界が互いに協力し合っている事を簡単に話した。彼は私の話を聞いている間、目を瞑っていたが話を聞き終わると顔を少し羨ましそうに私を見た。不思議に思っていたが彼は話を続けようと言い今度は彼らが乗ってきた戦闘機について聞いてみた。
「あなた方の機体、やはりジェットエンジンを積んでいるのですか?」
「ああ。超長期間の対空警戒任務用に燃料制限をほとんど無いように開発したエンジンだ。」
「超長期間、ですか?」
「まあ、な…。」
そんなエンジンがあるとは…。いや、彼等の世界で開発されたものなのだろう。少し信じられなかったが更に別の質問を投げかける。
「レーダーにはあなた方の反応が全く無かったのは一体どういうことなんですか?それとあの機体は見た限りでは、武装が主翼に付いている物体以外固定武装も含めほとんど見られませんが報告では多数のネウロイに対し同じ数の誘導弾を使って撃墜したと聞いていますが。」
そう、彼等の機体はこの基地のレーダーどころかペベンシーのレーダー基地ですら反応しなかったと聞いたのだ。機体はあんなに大きいのに、だ。
「ステルスの意味を知っているか?」
「ステルス、ですか?」
聞き覚えの無い言葉に私は首を傾げた。
「この世界のこの時代にはまだ存在しない技術だが、俺達の世界ではレーダーに映らないで敵に忍び寄り損害を与えることが目的で開発された技術だ。その時に武装が外に出ていてはレーダーに引っかかって奇襲の意味が無い。だから機体の内部に仕舞い込んでいるのさ、機体の形状を変えるだけでなく武器を仕舞うのもステルス性を高めるために必要なのさ。」
私はこの時、彼等と私達の世界と時代には科学技術や考え方に大きな差があるのだと教えられたような気分になった。
「で、そんな強力な力を持った俺達は行く当てが無い。だがどうするかはまだ決めていないが暫くの間でいい。この基地に俺達を仮配備してくれないか?技術提供は出来る範囲で俺達が行うし、ジェットエンジンとジェット機の整備の仕方をこの基地の整備兵に教えてやりたいからな。」
いきなり居場所を提供してくれ代わりに技術提供をするからと言えるくらい彼らには余裕があるらしい。
「あとこの基地においてくれるならあんたらの期待以上に動くつもりだ。」
そう言ってきたので私は、
「少し考えさせて下さい。上層部にもこの事を「この世界の上層部には相談したり、あまり話をしないほうが良いぞ。」?何故ですか?相談すべき事は相談するべきだと思いますが…。」
何がいけないのだろう?
「この時代の政治家や軍の上層部は自分達より優れた存在は自分が上へ上へとのし上がっていく時に邪魔になるから叩かれる格好の的にしかならない。ここに居る俺達の力がその対象になるんだよ。」
「……。」
私が黙ってしまったのには訳があったからだ。連合軍といっても上っ面なだけの事で内部では牽制しあったり足を引っ張ったりとまともでは無いからだった。そこへドアがノックされ、
「ミーナ少しいいか?」
とドアをノックした者がいたが美緒だと分かった。
「どうぞ。」
ドアを開けて坂本美緒少佐が執務室に入ってくる。
「失礼する。大佐で呼ばせてもらいますがそれでもよろしいでしょうか?」
「ああ、どちらかと言うとあまり堅苦しい挨拶とかは苦手でな、気楽にどう呼んでくれても構わない。それにウチの部隊じゃ敬語は数えるくらいしか使わなかったし基本的に友達口調で結構だ少佐に中佐。」
美緒は既に空で大佐とある程度会話をしているんだったわね。私は美緒に大佐達をどうすべきか相談したところ、
「大佐達には私達と一緒にネウロイからブリタニアを、いや世界の空を守るために飛んでもらうのが良いと私は思うがミーナはどうなんだ?」
と彼等をあっさりと受け入れる姿勢でいる。
「そんなにあっさり信用していいのかしら?」
「大丈夫だ。彼等にも彼等の戦闘機にもネウロイのコアは見当たらなかった。それに戦闘機で無くとも飛行機には基地や整備が必要になってくるんだ。彼等の力は非常に強力だからもし、私達の手に負えないネウロイが現れたとしたら代わりに戦ってくれる心強い味方になる。ちょうど良いじゃないか。」
そう言う美緒に私は少し安心していた。これで私も少しは彼等を信用できる気がしていた。そこへ、
「話してる最中に悪いんだが、俺ともう一人の機体の整備と自爆システムの解除が済んでいないから格納庫へ行って良いか?」
え、今大佐は何て言ったの?自爆?自爆って言ったわよねこの人。
「じ、自爆?本当に自爆するんですか?もしそうなった場合はどうなるんですか?」
「う~ん。多分だがこの基地が半分以上吹き飛んで無くなるな。」
私と美緒は固まっていた。いや固まるしかなかった。
「自爆させるだけ勿体無いから解除に行きたいんだが格納庫まで行って良いか?」
「は、はあ。美緒、大佐達を格納庫まで案内してあげてくれる?」
「あ、ああ分かった。」
何か頭が痛いわ…
-ウィッチーズ基地格納庫内-
ウィッチーズ基地の格納庫に納められた2機の異形の飛行物体の周りに数名のウィッチ達が集まっていた。
「これは戦闘機なのか?それにしては変な形だな。いやに角張っているが。」
「おっきいね~」
「これにジェットエンジンが積まれてるんだよな。」
「そうらしいな。我がカールスラントでも実戦配備には少し遠い状態だと聞いている。」
「ウルスラにこれ見せたら喜ぶかな。」
彼女たちの目の前にある飛行物体はこの世界には存在しない形状をしている上にカラーリングが際立って目立っていた。何せ光すら反射せず、闇に溶け込むような黒いカラーリングは昼間では確実に見つかるし夜間に飛ぶような色合いだからだ。
「この色は夜間に飛ぶ用か?」
「ネウロイみたいだね。」
「ワザと目立って自分の位置を知らせて攻撃を引き付けるためのカラーリングかもな。」
「それはあるかもね~こんなに目立つ色だし。」
彼女たちはそんな事を言っていたが70年も先の技術やパイロットの意向でそんな形状や色合いになっているとは分かるわけが無かった。
-ウィッチーズ基地付近17:50-
1台の車がウィッチーズ基地に向けてアスファルトで舗装された道路を走っていた。その車の後部座席で、アドルフィーネ・ガランド少将はあることを考えていた。ネウロイの殲滅に関して足並みすらまともに揃わずに互いを牽制し合っていてどうやって祖国が取り戻せるのか。それについて論議を交わすのは私を含めごく僅かの人間だけである。オラーシャのクレイオ准将はまだ私の話が分かる人物である程度意見を言い合うほどではあるが、一応信用してはいる。そんな足並み揃わぬ連合軍上層部にイラついていたが、その考えは突如上空で鳴り響き始めた轟音によって掻き消された。
-この音はまさかジェットか!だがあれは我がカールスラントが去年ようやく飛行段階まで漕ぎ着けた機体であり、この上を飛んでいる筈が無い。それにジェットにしてはMe262より甲高く、そして鋭く響くジェットサウンド。Me262はもっと鈍い感じだった筈だ。-
「ガ、ガランド少将あれを!」
運転手が指差したところにソレは居た。
-間違いなくあれはジェット機だ。しかし何故501の基地の方角に?-
「悪いが急いでくれ。」
「はい。」
私は車の天板を外しスナイパーライフルを構え、スコープ越しにじっくりと観察し始めた。
-ウィッチーズ基地周辺空域17:10-
自爆システム解除後、お互いの各機動面に異常が無いか確認したかったのでヴィルケ中佐に飛行許可を求めたところ、許可は出来ないと言ってきたので無理矢理ゴリ押しで頼み込んだら渋々ながらも許可をくれたのでありがたく飛んでいるというわけだ。
「さあ始めるとしようか。」
『2、了解。』
性能テストはいつか分からないのであまり機体に余分な負荷は掛けられない。VTOLを使って離陸し基地から50km程距離を取って訓練開始。イーディスの後ろへ付き、イーディスの動きに合わせてスプリットSから右急旋回。追従機動の確認のためお互いに連絡を取りながら確認していく。
『クロスボー2より1へ機動確認はどうだ?』
「クロスボー1より2へ機動は良好だ。問題は無い。」
『2、了解。次の機動訓練に移行しよう。』
各機動訓練の途中、道を走る車を確認したのでその上をフライパスし次の各種訓練を終え基地へ向けて進路を取る。雑談などを話しながら帰ったので予定より少し遅い帰還となった。
格納庫に機体を納め出ようとした時、何故かヴィルケ中佐が格納庫の扉の前に居た。
「どうしたんですかヴィルケ中佐。俺等の出迎えって訳では無いでしょう?」
「え?ええ、まあ少し格納庫の方に用があって。」
中佐の後ろに誰か居る。勘じゃなくとも気配で解かった。まるで獲物を見つけたような気配がヴィルケ中佐の後ろから出ていた。
「ヴィルケ中佐の後ろに居るのは分かっているんだ。出て来たらどうだ?」
声のトーンを1つ下げて後ろの気配に話しかけた。すると気配の主は姿を見せた。凛とした雰囲気の女性だった。ヴィルケ中佐、随分緊張しているが大丈夫か?相当高い階級の人物と俺は判断した。
「君達がジェット機のパイロットみたいだね。先程私が乗っている車の上を通り過ぎた時は驚いたよ。何せ私の祖国のカールスラントですら開発してからやっと一部の戦線で実戦飛行段階までしか到達していないんだからね。だけど私達のジェット機には色々と問題があってね。それに比べて君達のジェット機は素晴らしい性能だね。特にスピード、機動性が桁違いだね。」
YFA-45 Alterの事を絶賛する相手の口調で、何かを感じた俺は自身の背後に愛機を庇う形で立っていた。
「そうか、だったら俺達しがないパイロットに何の用件だ。さっさと言って欲しいんだが。」
要は何を企んでいるんだ。と俺は言いたかった。こんな口調で話しかけられた時は大方の予想が付く。
「話が早くて助かるよ。早速その機体を調べさせてくれないか?」
やはりな。この時代はジェット機の開発があったのを軍の歴史の授業で習ったのを覚えている。俺の世界でも1940年代にベルカがジェットを作ったとか言ってたな。だが、ある事が分かっているから、
「悪いがそれは断る。その前にまず名乗りな、そうでなくちゃ教えてやる事も教えられん。俺はロウファ・ローズベルト・コウジ空軍大佐だ。あんたは?」
「そうか、私はアドルフィーネ・ガランド少将だ。伝わり方が少し悪かったな。その機体を貸せ、我々に協力しろ。」
おっと、少将だったか。ってこの人かなりの殺気のようなものが出てきたな。コモナ防空戦の時に比べれば人1人の殺気なんて怯みはしないしどうって事は無い。
「何度でも言わせて頂くがな、断る。」
仕方ないが、少将殿より濃密な殺気を撒き散らすとするか。もはや格納庫内は殺気が充満していた。長いような短いような殺気のぶつかり合いはガランド少将が諦めたことにより決着がついた。デカい戦争を3度も生き抜いてきたからな。
「はぁ。そこまで言うなら私の負けだね。場所を変えて話しをしようか。」
イーディスに後の片付けを任せてヴィルケ中佐の執務室に3人で移動した。
「何故断ったのか教えてくれないか、君も軍人だろう?あの技術があればネウロイを殲滅し祖国を取り戻すことができる日が近づくんだ。」
なるほどね…。祖国解放、か。大陸戦争とエ・エ戦争がそうだったな。
「確かに俺は軍人だ。正規兵だがその前には傭兵として2つ、正規兵として1つ合計3つの戦争を生き延びてきた。」
「その話と私の話には関係が…。」
「確かに関係ないように見えるが意外なことに関係あるんだよなこれが。俺が経験した3つの戦争の内、1つ目の戦争はたった1つの星が俺達の国の空を砕いた。それと同時に発生した大量の難民の押し付け合いに耐えられなくなった大国が中立の国に攻め込んで戦争に発展し終戦までに軍民合わせて死者が20万人を超える戦争だった。2つ目は空が砕かれる前にあった戦争で負けた国が逆恨みを起こして裏から2つの大国を操って戦争を起こしたがその逆恨みはお伽話の英雄が止めてくれた。3つ目は1つ目の星からこぼれた欠片がある国に沢山落ちた。これが俺の国だった。その国は混乱の坩堝に叩き落とされて同朋同士が殺し合う内戦が起こった。長い長い内戦の末に統治されたのにそれまでずっと援助してくれていた隣の国に攻め込んだんだ。そして最後は押し返されて最後の切り札だったシャンデリアも破壊されて俺の祖国エストバキアは負けた。こんな俺だが3回も戦争を生き延び、戦争の表と裏、最初から最後まで見てきたて、戦争で沢山大切なモノを失ったからこそあんたの話を断ったんだ。」
「君の世界の戦争にネウロイはいたのか?」
「ネウロイとやらはいなかったが人間の敵は人間と言う言葉通りに人間同士での戦争、醜い、本当に醜い戦争だった。毎日毎日見知った人が普通に消えていく日常。昨日元気に笑っていた奴が次の日の任務で物言わぬ亡骸になって帰ってくる。共に飛んでいた味方は戦闘が終わった後に後ろを向いて無事か確認して見れば後ろにいない。ああ、撃墜されたのか。もう会うことが出来ないのか。そんな思いを何度も味わい続けたよ。」
そう言った時、少将と中佐の顔がはっきりと分かるくらいの曇り顔になった。
「俄かには信じ難いが本当に人同士の戦争なのか?」
「そうだ。人間同士の戦争さ。」
「何故人同士の戦争が起きているんですか?」
「宗教の間での考え方・世界の情勢・個人の私利私欲・存在意義・利権を巡っての争い、その他色々な理由が戦争を引き起こす引き金だ。」
彼に自分の元居た世界の戦争とは人間同士の戦争で多くの人間の命が失われる酷く愚かしく醜い争いの事だと言われた時に私はふと彼の撃墜数(スコア)が聞きたくなったので、
「あえて聞くがスコアは?」
そこまで少なくは無いだろう。3つも戦争を生き抜いているのだから。そう思っていた私の思いは期待は見事に外れていた。
「航空機689機、地上戦闘車両899台、艦船60隻撃沈している。」
私は正直驚いていた。航空機とはいえ彼の機体は戦闘機だ。爆撃機や雷撃機とは違う能力を持つ機体だが、彼らの機体はその全てを担うことができるようだ。
「それだけ戦果を挙げてエースだのなんだの言われても結局のところ俺は殺人者となんら変わりない。」
「どういうことだ?」
「俺は2人に教えたとおりの戦果を残したが、その分だけ人を殺し、乗っていた人間をミンチにして黒焦げの死体に早変わりさせてきた。まあそんなところまで登り詰めてしまうまでに凄く大事なモノを失ってしまったけどな…。そんな俺が言えた義理ではないが、戦争が引き起こす悲劇はもう二度と見たくないし、繰り返したくないんだ。」
彼が言ったことは私の心の中で酷く印象に残った言葉だった。私達の世界もネウロイがいなければ互いに殺し合う戦争が起こっていただろう。私は窓の外に空で互いに傷つけあうウィッチ達の幻を見たような気がした。
「私はそうならないように努力しているつもりだ。それに本当に君の言う人同士の戦争があったことを証明するのは君達とあの機体だけだろう?」
「確かにそうだがこの世界の上層部の奴らに言えば喉から手が出るほどあの機体の情報(データ)が欲しくなってくる。そしてソレをどんな汚い手を使っても自分の所に取り込もうとする。自分の国を解放するためにデータを欲するか、世界のイニシアチブを握るための駒としてデータを欲するのか2つに分かれる。誰しもが好き好んで彼女たちを戦場に送り込んでいるわけではないんだろう?少将、あなたは少なくとも前者だということが確認できた。そこでだ、少しだがジェットエンジンの技術を少将に渡そうと思うんだがどうする?」
まさか彼の口からそんな言葉がでるとは思わなかった。無論私はこの話に飛び付いた。
「本当か!」
「ああ、男に二言は無いから約束させて貰うが、カールスラントだけで独占するのは駄目だし技術は俺が指定する国にだけ技術を提供をしてくれるか?」
「流石に独占はしないさ。しかし何故提供する国を指定するんだい?」
「技術的に発展していて尚且つ有効活用でき開発に難航してもそれを補うだけの予算を持っている国、この世界で例えればリベリオンとかオラーシャとかな。」
流石にエンジン技術を発展途上国のような国に持って行って新たに維持・開発をするだけの予算が足りるのか?果たして答えはNOだ。大国のオーシアすらF-15Eを維持・開発するのに苦労していると聞いたことがある。途上国に無理をさせるよりも経済力・軍備・開発・維持の4つが揃った国にやってもらい途上国は予算で許す範囲で先進国から購入してもらうのが望ましいが条件としてある規約に同意しないとネウロイ以外との戦闘は出来ないようにしてしまえばなんとかできるはずだ。あくまでも表面上しか効果は無いが裏取引きみたいな感じで国と国の間を輸出入されたら元も子もない。
「そうか私はそれでも良いが、あの機体は何と言う機種と名前なんだい?それと武装に関してもいろいろと聞きたいんだ。そうでなくては本当の意味で君達を信用できないからね。」
「分かった。あの機体は試作型特殊戦略戦闘攻撃機 YFA-45 Alter エストバキア連邦、この世界で言うならスオムスあたりが開発したステルス艦上戦闘攻撃機だ。スピード、機動力、搭載量に原型機より大幅な改良を施した機体だ。武装は固定武装として30mmGAU-8航空機関砲4基、射出型の武装として短射程空対空ミサイル、その他特殊兵装等で戦況が危うくなった場合に押し戻すために作られた正真正銘の戦略戦闘攻撃機だ。」
「戦略戦闘機か…そんな戦闘機が開発されていたのだな君の世界では。」
ガランド少将とミーナ中佐の顔はまだ少し暗い感じだ。だが言わねばならない。
「補足として言うが、Alterの機動力は少々クセがあって扱いにくいうえに下手な機動をすればベテランのパイロットですら簡単に殺すことが出来てしまう程のピーキーな機動性だ。」
「そんなに高い機動力なんですか?と言う事は必然的に扱う人も選ばれるのでは?」
ミーナ中佐の言うことは尤もだ。確かに原型機のCFA-44よりも少し機動性を高くしただけだが相変わらず「ベテラン殺しのピーキー機動」と言われ、乗れるパイロットも非常に限られているが逆を言えば、「乗りこなせるのであれば機体本来の性能を発揮し格闘戦において高いアドバンテージを得ることが出来る」と言えるのだ。
「まあそのピーキーさも合わさって着陸時以外の安定性が非常に悪いんだ。流石に何かを両立されようとすると相応の代価を払う必要性が出てくる。スピードと機動力と搭載量を追い求めた結果、耐久性と安定性が著しく低下する原因にもなってしまってある意味でイロモノの欠陥機になっているがもう仕方ないことさ。」
俺はそう言って苦笑した。
私は彼の言った事を頭に叩き込んでいたがどれだけ時間が経ったのか、ふと壁にかかっていた時計を見ると19:50になっていた。
「ああ、いかんな。つい話し込んでしまったようだ。そろそろ戻らなくてはいけないな、今度またジェットの事を時間が空き次第君に聞きに来るつもりでいるからね。では私はこれで。」
私はそう言うとミーナの執務室を出ようとし立ち止まって彼へ振り返り、
「できれば君を我がカールスラント軍に欲しいものだ。生憎、連合軍やカールスラント軍には君のような戦争の愚かさと醜い面を良く知る人物が不足していてね。君が入隊したければ何時でも連絡をくれ。色よい返事を期待している。では失礼する。」
あのガランド少将が嬉しそうに話すなんて…、彼は一体何者なのだろう。そう思って私は彼に問い掛けた。
「大佐…でよろしかったでしょうか?よろしければあなたの過去の話を聞かせてもらえないでしょうか?」
しばしの沈黙。やっぱり聞いてはいけなかったのだろうか。
「俺の世界では人同士の戦争があるといっただろう。3つの戦争であまりにもたくさんの人が、それこそ軍民問わずに死んでいくのを見てきた。その中に俺が何としてでも守りたかったモノも含まれていた。」
「何としてでも守りたかったモノ、ですか?」
「ああ。要するに家族だ。いくらエースになれた俺だって家族はいたさ。」
彼は笑ってはいたが目は笑っていなかった。それだけ辛かったのだろうと思う。彼は服の胸元から小さなペンダントを取り出していた。が、その時私は見えてしまった。彼の首に所々赤い色が付き歪んだ形の指輪がぶら下げられているのが。
「あ、あの大佐、その指輪は?」
「ああこれか?これは俺とある約束をした女性が持っていたものだ。もうこの世にはいないんだが時が流れるのは早いものでな。あいつが逝ってからもう8年も経ってしまった。」
大佐はそう言ってペンダントを開けて中を見ていた。
「1999年4月、俺は今でも覚えている。あの日起こったことを。満天の夜空から流れ星がたくさん降ってきたのを覚えている。それが祖国にも降り注ぎあちこちの町が一夜にして地図上から消え去った。俺が町に生まれ育った故郷の人々も巻き添えにして、俺の親も仲間も奪い去った。だけど正直アレで死んでしまったほうがまだマシだったと思う。その後にあった内戦を見なくて良かったからな。」
「内戦ですか?」
「ああ、俺は内戦が起こる少し前にユージアと言う大陸にマーティンと一緒に移動して初めてそこで戦争を経験したのさ16歳でな。」
16歳で戦場に立つのは私としては少し遅いように感じるが彼らの世界では二十歳以上の男性からが戦争に引き込まれていくのだそうだ。
「2つの戦争を2人で潜り抜けて祖国に帰っても内戦はまだやっていた。早速残った家族の妹とアイツに連絡は取れたんだが空港を出てからは音沙汰なしだった。嫌な予感を感じて仮住まいの家に帰れば家中穴だらけで家の中に2人の死体があった。守ってやれなかったんだ。妹と婚約者を。その事を引き摺りながら俺は3つ目の戦争に参加した。マーティンの奴と共に飛んでいた。3つ目の戦争も終わって思い出した事が6年間で家族、たくさんの友人や戦友を失ったことだった。敵の超長距離対空砲で、鉄の雨の弾道ミサイルで、敵のエースにバタバタ墜とされていく味方達を俺達は只々見ているしか出来ずに逃げることしか出来なかった事が今でも忘れられないまま脳裏に焼き付いているんだ。」
「随分辛い思いをされたんですね。」
彼は話している間は無表情でずっと虚空を見詰めながら話していた。
「まあな。俺とマーティンの所属していた第3航空大隊は内戦とエ・エ戦争で殆ど壊滅したからな。それを立て直すために分けられた部隊なんだよ。クロスボーはその第3航空大隊が元になっているんだ。」
「すいません余計なことを言わせてしまって。」
彼にだって思い出したくない事だってあるはずなのに言わせてしまった事を詫びるが大佐は静かに首を横に振り、
「構わないさ、聞かなくてもヴィルケ中佐の心中は察した。何も言わなくてもいい。俺自身、他人の傷を穿り返すのは嫌な方だから。」
確かに私はカレーからの撤退時にクルトを失っている。
「こんな辛気臭い話はここまでにして、中佐は俺達クロスボーに501と一緒に飛んで欲しいと言いたいんだろ?」
「その通りです。あなた方には501統合航空団の一員として戦ってくれませんか?」
私は手を差し出した。しかし彼は私の手を握ろうとしなかった。
「どうかされたんですか?」
「いや、別に問題無い。了解したヴィルケ中佐、501の一員としてネウロイの殲滅及び撃退に助力させてもらう。」
そう言って彼は私と握手してくれた。これで彼らは新たなメンバーとして501に加わった。
第3話「501とクロスボー」
ヴィルケ中佐との話を終えた俺は憲兵達に連れられ営倉に戻りマーティンに全てを話すと
「そうか分かった。要するに場所は提供するが代わりにこの基地の一員としてあの黒いのを倒せとそういうことだな?」
と言ってきたがそれ以外は何も聞いて来なかった。それが俺にとっては楽だった。お互いに言いたいことは長い間空にいて大概の意思疎通で分かるようになったからであり、よく理解しあっているからだ。翌日俺はある事に気付いた、
「今日は501の隊員たちと顔合わせだそうだ。」
「ほおー。んで、機体のテストはいつだっけ?」
そう、こいつはスケジュールの把握が苦手だという事を。
「はぁ、朝っぱらから飛ぶってこと忘れてないか?まあ飛ぶといっても同じ機体性能だから俺だけなんだがな。んで昼からは顔合わせらしい。」
そこまで言った時、ドアがノックされ、ヴィルケ中佐が入って来た。
「お2人とも準備は宜しいですか?そろそろ格納庫に行ってテストの準備をお願いします。ガランド少将が待ちきれない感じなので。」
おおっとそれは急がないとな。
「大丈夫だ。今出る。」
そう言って俺達は部屋を出て俺はハンガーにある自分の愛機の元へとマーティンはヴィルケ中佐と共に滑走路脇まで移動していった。
管制塔に上がった私は格納庫から大佐の機体が出てくるのを見ていた。管制塔から見える彼の機体は大柄でありながらもスマートな流線型のシルエットを描き出し遠目ながらも美しく見える。カラーリングさえ除けば、だが。
「こちら管制塔、ロウファ大佐聞こえるかしら?」
『ああ聞こえるよ。透き通るように綺麗な音色がね。で、上がったらどうするんだ?観測機くらいは出てるよな?』
「上空にはエイラさんとサーニャさんが待機しているので離陸後は彼女たちと合流して下さい。」
『了解。こちらクロスボー1。管制塔、誘導路への進入許可を願う。』
「分かりました。誘導路に入り滑走路まで移動してください。」
『クロスボー1了解。』
そう言って一旦通信を切り大佐が上がるのを待つ。この後彼の機体の性能に驚かされるとも知らずに。
-その頃の地上-
「テストっていってもこの前の機体を飛ばすだけなんだよね?リーネちゃん。」
「うん。なんだかそうみたい。」
「どんなのか楽しみだね~」
「あまり期待しすぎなのではないんですの?宮藤さんにリネットさん。」
「そうでしょうか?あれ?エイラさんにサーニャちゃんは?それにシャーリーさんもいませんよね。」
「エイラさんとサーニャちゃんは空でテストの観測をするんだって。」
「シャーリーならあの機体が音速の壁を超えられるのか自分で確かめたいって言って上がっちゃったよ?」
「リベリアン…ミーナに報告だな。」
「見せてもらおうか。大佐の機体が見せてもらったデータの通りなのかどうかね。」
「私はそんなに期待するだけ無駄だと思うのですが…」
「そんな事言っちゃって~トゥルーデだって興味があるとか言ってたじゃん。」
「そんな事を言った覚えは無い!大体お前は緊張感が無さすぎるんだ!」
「2人ともそこまでにしろ。ほら来たぞ。」
坂本少佐がそう言って皆が既に扉の開いた格納庫を見るとそこから甲高いエンジン音と共に今回テストを行う機体が出てきた。
「なんであんな色なんだろうね?」
「ネウロイに間違えられてやられないと良いのだがな。」
確かにバルクホルンの言うとおりネウロイに間違えられても可笑しくは無いなとガランドは考えていた。何せ黒いカラーは光すら反射しない色でその上から赤いペイントで返り血を浴びたように彩られているのだから。さあ大佐、君の腕で見せてくれその機体の性能を。その眼はコクピットの中にいるロウファをしっかりと見据えていた。
格納庫では既に扉が開けられ、俺の機体が待機していた。整備兵たちに軽く挨拶をし素早く機体に乗り込む。コクピットの各種点検、コンソールチェック、エンジン異常なし。全動翼異常なし。油圧系統異常なし。燃料はエンジンがアレだから問題なし。兵装チェックOK。全て異常なし。オールグリーン。
「今からエンジン始動に入るから全整備兵は直ちに当機から離れてくれ。」
そこまで言ってからエンジン始動開始。エンジンに火が入り甲高いエキゾスートがハンガーに響き渡る。俺はこちらに敬礼をしている整備兵たちにラフな敬礼をしてスロットルレバーを動かし速度を6kmに固定しハンガーから出る。滑走路脇を見ると空で会った少女達とガランド少将が居るのが見えた。ハンガーから完全に出たのを確認しスロットルレバーをもう少し前に動かして速度を8kmに上げ誘導路の手前で機体を止め、管制塔を見る。ちょうど良いタイミングでヴィルケ中佐から通信が来た。
『こちら管制塔、ロウファ大佐聞こえるかしら?』
「ああ聞こえるよ。透き通るように綺麗な音色がね。で、上がったらどうするんだ?観測機くらいは出てるよな?」
『上空にはエイラさんとサーニャさんが待機しているので離陸後は彼女たちと合流して下さい。』
「了解。こちらクロスボー1。管制塔、誘導路への進入許可を願う。」
『分かりました。誘導路に入り滑走路まで移動してください。』
「クロスボー1了解。」
スロットルレバーを10kmまで上げて固定し誘導路を進む。滑走路に入り機体を止め、再度管制塔に通信を入れる。
「こちらクロスボー1離陸位置に到着。離陸の許可を。」
『こちら管制塔。大佐、離陸を許可します。』
「俺にはクロスボー1と言うコールサインがあるんだ。上がったりする時はコールサインで呼んでくれ。」
『分かりました。では離陸を開始して下さい。』
「了解。クロスボー1離陸開始。」
スロットルレバーを最大まで押し込む。ごうっと言う音と共にアフターバーナーが点火し離陸を開始。スピードと加速と燃料消費高効率に特化したエンジンが唸りを上げアフターバーナーの炎を吹き出しながらスピードメーターがコマ送りで上昇していく。滑走路が短いのでいつもより早めにコクピットの右側に据え付けられたコントロールスティックをHMDに表示される上昇角15度まで手前に引いた。
『ええ!?もう離陸!?』
「離陸完了、これより上空のウィッチ達と合流する。」
『あ、りょ、了解。』
慌てているヴィルケ中佐との通信を切りレーダーを見ると反応が3つ。ん?ヴィルケ中佐からは2人だと聞いたが何で1人多いんだ。
「こちらはクロスボー隊隊長コールサインはクロスボー1、TACネームはサジット。名前はロウファ・ローズベルト・コウジだ。階級は大佐だ。宜しく頼む。」
『エイラ・イルマタル・ユーティライネンダ。階級は少尉。エイラでいいゾ』
『サーニャ・Ⅴ・リトビャク中尉です。宜しくお願いします。』
『シャーロット・E・イェーガー大尉だ。なあその機体ホントに音速を超えれるのか?』
「ちょっと待てイェーガー大尉。君は当初の観測要員としては聞いていないぞ。まさか飛び入り参加か?」
一発目から音速を超えられるか聞いてきたところを考えるとイェーガー大尉は相当なスピード狂だろうな。まあ来てしまった以上追い返すのは無粋だ。この際だ混ぜてしまえば問題無いだろ。
『何で大尉がいるんだヨ』
『この私が目の前に音速の壁を軽々と超える戦闘機がある以上見逃す手は無いだろ。』
『あの、そろそろテストをしたいのですが良いでしょうか?それと…魔導針が微弱にしか反応しないのですが何故でしょうか?』
良いタイミングでリトビャク中尉が入って来てくれた。
「こちらはいつでもOKだ。そうか反応が無いか…それはまた後で教えるとしてまず何から測るんだ?」
『まずは最大上昇可能高度です。』
『せめてもの3万フィートは超えろヨ。』
「クロスボー1了解。上昇開始。」
コントロールスティックを手前に引きピッチ角を90度近くへセットし上昇開始。高度計がコマ送りで急上昇していく事を教えてくれる。
『現在の高度3万5000フィート…。』
『私らよりも高いんダナ。』
「限界高度の、4万9500フィートに、到達!」
上昇開始から1分で最大高度の4万9500フィートに到達する。
-地上-
「離陸も上昇もあっという間だな。」
「あれだけの速度がMe262で得られないだろうか。」
「1分であれだけ登るのか未来の戦闘機は。」
「出来ない事も無いと思うがそれはアイツ次第だな。」
「あんまり時間掛かってないね~」
最高高度4万9500フィートからの景色は格別でつい見惚れてしまった。
『どうしたんだ大佐?もう降りてきていいんだぞ?』
「ああ分かってる。景色なんて滅多に見なかったからなこの位置からの絶景は。」
『そうなのかあとでどんなだったかきかせろよ。』
「はいはい分かったよ。ん、東に見える黒い雲は何だ?随分と嫌な雰囲気をしているが。」
『それはネウロイの巣ダ。危ないから近づくなヨ。』
「ネウロイってあの黒い奴か。そうかいずれはあそこまでの偵察任務が回って来そうだな。さて次段階へ移行するとしよう。」
『次は最高速度です。』
『出し惜しみすんなヨ。』
「出し惜しみなんてしないさ。これよりアクセラレーションテストを開始する。」
高度を6000mまで下げて機体を安定させスロットルレバーを少しずつ前に押し込んでいく。徐々に加速する速度。既にマッハ1を超えマッハ2.5に達していた。
『現在速度マッハ2.5を超えました。速度、更に上昇しています。』
『やっぱり私の考えは間違いじゃなかった!』
-地上-
「え!もう見えなくなっちゃった!」
「なんてスピードですの。」
「15kmをたった30秒で飛行か。(魔眼)」
「ふむ良い性能だな。」
「速いね~」
「速すぎて見えなかった…」
「うじゅ!シャーリー絶対喜んでそう!」
「あのような航空機が我々の世界でも作れるようになるのだろうか。」
正直なところそろそろ俺の意識が悲鳴を上げていた。いくら俺自身のG耐性が強いとはいえ、よく持って50Gまでしか耐えられない。この数値は高速戦闘時に耐えられるGだ。通常の高機動戦でのG耐性は100Gまでだ。それに今の速度はマッハ3.2。この機体の安全最高速度であり限界速度だ。それ以上は流石に空中分解を起こしかねないという判断の元この速度になっている。尤も更に速度と耐久性の向上を計った機体があったのだが自分たちが元いた世界に置いて来てしまった。
「ここらでもう良いだろう。充分なデータの記録ができただろうしな。」
そう言って俺は機首を基地に向けこの機体自慢の垂直着陸で基地に降り格納庫に機体を納めヴィルケ中佐の執務室でガランド少将と少し話したあと少将は帰って行ったがそこで昼食となり顔合わせのため、ヴィルケ中佐に案内してもらいながら食堂に向かっていた。今は昼食の準備中らしいが501のメンバーはもう全員が集まっているとのこと。
大佐達はフライトジャケットという服をこれまたフライトスーツの上から着こんでいる。
「何故ジャケットを来ているんですか?暑くはないんですか?」
「ん?ああこれは夏用の薄手のフライトジャケットなんだ。勿論冬服もあるけどあっちのほうがモコモコして結構暖かいんだ。」
「便利な服ですね。」
などと言っている内に食堂に着いた。すると、
「顔合わせって言っても全員が女だろ?まだ女の園には行きたくないな。」
そんなことを言い出したので大佐が、
「ハーレムでも作る気かお前は。止めとけ止めとけ。大体お前、自分の女房の尻に敷かれてただろうが。そうなるのが見え見えだ。」
うっと言って言葉に詰まるマーティンを横目に食堂のドアノブに手をかける私に、
「あれは放って置いて構わないんだが顔合わせで言うことは自己紹介だけで良いのか?」
とロウファ大佐が聞いてきたので、
「マーティン中佐はそうだけどロウファ大佐には自己紹介のあと質問の受け答えをして下さいね。」
と、頼みながら食堂のドアを開けた。
結構大きな音を立てて開いたドアに食堂内に居た者の視線が一斉にこちらを向いた。こちらを見ながら近くの者とヒソヒソ話す者、不思議そうに珍しいモノを見るような視線でこちらを見ていた。昼食の準備中とは聞いていたがそんな風には見えなかった。
「ミーナ彼らの処遇についてはどうなっているんだ?」
坂本少佐がヴィルケ中佐に話しかける。
「ええ彼らは本日付けをもって501統合航空団の一員として私達の仲間に加わる事になった戦闘機パイロットです。では大佐、自己紹介をお願いします。」
「了解。」
本当にしなくてはならないとは…。仕方ない、面倒だがやるだけやるさ。
「エストバキア空軍第3特殊戦術航空小隊クロスボー隊隊長ロウファ・ローズベルト・コウジだ。階級は大佐。コールサインはクロスボー1、TACネームはサジットだ。出身国はこの世界で言うオラーシャ西部で尚且つスオムスとの国境線に近い辺りの地域の出身だ。まあ訳あって君たちと一緒に飛ばせてもらうことになった。宜しく頼む。」
「えすとばきあってどこの国なの?」
さっそく質問が来たか。
「エストバキアは俺とこれから紹介する俺の僚機の故郷だ。この世界ではオラーシャ西部に位置しているな。つい最近まで隣国と戦争をやっていて負けたのさ。」
「TACネームとはなんだ?」
「まあパイロット個人で決められるパイロット自身の渾名みたいなものさ。」
「コールサインとは?」
「部隊の内外でのパイロットの正式な呼ばれ方だ。ま、今からもう一人を紹介するから質問はその後と言う事で。」
そこで俺はマーティンに紹介の場を譲った。
「ロウファと同じ所属でクロスボー隊2番機のジャック・シルバー・マーティンだ。階級は中佐。コールサインはクロスボー2、TACネームはイーディスだ。ロウファ大佐共々宜しくな。」
「他に質問があれば受け付けよう。」
先程、祖国について聞いてきた黒髪の少女の横に居る赤い服の少女が手を上げて聞いて来た。確かイェーガー大尉だったな。
「なあ、あんた等の機体は音速を超えられるんだろ?あたしを乗せてくれないか?あの機体見たところまだ乗れるスペースがあるみたいだしさ。」
乗せてやりたい気持ちはこちらとて分かっているがどうしても乗せられない理由がある。
「確かに今日のテストで見てもらったデータどおりの性能であの機体は複座型だ。イェーガー大尉には悪いがまだ君を乗せる事は出来ないんだ。」
「でもまだってことは乗れるんだろ。乗れるんだったら乗せてくれてもいいじゃないか。」
「あの機体の機動力特化と言うスペック上非常に強いGが発生するしレシプロとジェットではGが全く違う以上君にはGへの耐性を付けてもらわなくてはならない。ストライカーとやらで出せる限界まで速度を上げてその状態でのGに耐性を付けた上でまた俺の所に来てくれ。そこで俺が良しと判断したなら搭乗の許可を出そう。」
こういう手合いの奴はああ言っておけば大概やってみせるし機体整備の邪魔をされないで済む。
「ほんとか!その課題をクリアしたら乗せてくれるんだな!」
「ああ約束しよう。」
彼女が喜んでいるのを見ているとマーティンが、
「勝手に乗せても良いのか?仮にもあれは軍事機密だろ。」
小声で言ってきた。俺は、
「軍事機密であっても無くても秘密なんて直ぐにバレちまうもんだろうが。」
と、言ってやると、
「そんなもんかねぇ。」
と言う感じに答えてきた。
「あの機体は未来から来たと聞きましたが。」
「そうだな、確かネウロイとか言う黒いヤツとの戦いに勝って帰ろうとしたらヤツに吸い込まれて気が付いたらこの世界にいた。」
「技術の差に至っては私達の世界とは70年の差があったの。」
ヴィルケ中佐が補足してくれたようだ。まあ、正確には72年差だがな。
「ん?もう昼か。」
少し時間が気になり腕時計を見るともうすぐ正午を示そうとしていた。
「もうすぐお昼になりますから。では質問は一旦ここまでにして食事の時間にしましょうか。食事当番の宮藤さんにリネットさん準備してくださいね。」
その合図で食事当番の2人以外が一斉に手隙になるが俺達はその手隙の者たちに質問され答えられる範囲で答えた。勿論撃墜数は答えてはいない。余計な混乱を招きたくないし知りたければヴィルケ中佐に聞いて欲しかった。
俺達に渡された昼食は栄養重視で味は度外視と言ったあのクソ不味いレーションではなく彼女たちが作った人の想いが籠ったおいしいカレーだった。
「おお!うまいな。何杯でもいけそうだ。」
そんな事を言うマーティンに、
「いくらうまいからって1人で完食しようとするなよ。」
と言って釘を刺しておく。
「分かってるよ。というかお前は俺の保護者か!」
露骨に反撃してくる辺り本気で完食しようとしていたのか。そういえば随分長い間料理を作っていないな。どうやらこの基地の食事は当番制らしく皆が順番に交代で料理をするとの事。ならば必然的に俺達にもその役目は周ってくるが面倒な事に誰と一緒に作るかはランダムに決まるらしい。ちなみに俺が居る前の座席にヴィルケ中佐、その右に坂本少佐だ。俺の左側にはマーティンが居て俺の右側には昔のベルカ空軍服写真集にあったような前が長い飛行ブラウスを着た少女が居る。見た感じ堅物だ。俺も人の事は言えないが。
「大佐。」
「何だ?」
「私はゲルトルート・バルクホルン大尉だ。この基地と空に居る間はくれぐれも我々の邪魔だけはするなよ。」
ほらやっぱり堅物だ。こういう奴はからかうと面白いがあとで厄介事になるのでからかいはしない。大体邪魔する理由もつもり無いんだが。根は素直なんだろうけどな。
「邪魔はしないさ。君達の後ろに付いて後方支援でもやってるさ。ま、せいぜい死なない程度に攻勢に転じてみたりするよ。」
「そんな時は来ないと思うがな。」
こいつ…。階級が軍曹か二等兵辺りだったら容赦なく殴っていたかもしれない。少しイラッときたがそれは置いておくとしよう。
「もし逆に俺達が君達を邪魔だと思ったらこちらの判断で排除させてもらうよ。人を狙い撃つのには少々自信があってね。」
「……」
流石に反論しなくなった代わりに凄い勢いで睨まれた。
「後の質問はマーティンに任せるからな。」
「ち、ちょっと待て!お前、俺を置いてく気か!?」
「単に機体整備に行くだけだよ。有事に備えるのはいつもの事だろ。そのうち模擬戦もあるだろうからついでにお前の機体も診ておくから。」
そう言って席を立つ。
「くっ!やっぱり置いてかれるのか俺は。」
と、相棒に全てを押し付けて俺は格納庫へ向かった。
なんだあの態度は。あれでは私たちが大佐達に劣っているとでも言うような態度ではないか。
「マーティン中佐だったか?大佐はいつもあんな感じなのか?」
「ん~ あいつはお前さんが言った類の言葉には反応しないか睨んで黙らせてることが多いぞ。」
そういう中佐は私が話している事にさりとて気にもせずに食事を続けている。
「軍人ならば言うべきことはしっかりと言うべきだ。まああのような態度では実力もたかが知れているのだろう。」
「あいつを甘く見ない事だな。その言葉もあいつの前で言わない方が身のためだとあえて忠告しとくぜ。」
「どういう事だ。」
まるで逆に私が大した事が無いように言われているではないか。
「俺はあいつといろんな戦場を駆け抜けてきたからこそロウファの奴がどれだけ強いか良く分かるんだ。実際、模擬戦では1回だけ引き分けになっただけであとは全部俺が負けてる。」
中佐の顔が青褪めているところを見ると相当なトラウマらしいな…
「1回だけ引き分け?中佐の方が強そうに見えるのだが…」
「そりゃ光栄だがあいつの強さは尋常じゃないからな。」
そんなに強いのならば何故その強さを隠すのだろうか?私ならば隠さずに誇りに思うが…
「あいつは俺の機体が損傷してて上がれない時に近くの基地から敵機に侵攻を受けたという救援要請に応じてただ一人救援に向かったんだ。」
「たった一人でか?無謀にも程があるぞ。」
「ああ確かにそのときは俺も無謀な事はやめろと言ったんだがあの野郎、『それがどうした?今助けに行くのが常識だ。』とか言って周りの制止を振り切って飛んで行ってちゃんと無事に帰ってきたんだ。」
そう言った中佐は苦笑していたがなんだかそれを誇りに思っているようだった。彼を、大佐を心の底から信頼しているという顔だった。
第3・5話 「機体解説」
本作品での主人公達のオリジナル戦闘機2機です。
試作型戦略戦闘攻撃機YFA-45 Alter
・全長22m
・全高8.5m
・全翼18m
・最高巡航速度:M3.2
・通常巡航速度:M1.25
使用推進エンジン:フラップアンドホイットニーF200X
武装:固定武装:GAU-8アヴェンジャー30mmガトリング砲×2
誘導兵器:短射程ミサイル:AAM-9L×2
長距離空対空ミサイル:AAM-120X×8
長距離対艦ミサイル:LASM×2
高機能全方位多目的ミサイルシステム:ADMM×7
戦闘機搭載型電磁ランチャー:EML×2
中距離空対地ミサイル:XAGM×4
UAV×24機
艦上運用:可能
ロウファ達クロスボー隊の主力機として、CFA-44 Nosfertsuをベースとし開発された複座型戦闘攻撃機。CFA-44の優秀性を引き継いでいるがハイG旋回が長く続き失速しやすい癖は残っている。速度性と機動性を維持し搭載量の増加を図ったためウェポンベイ、半埋め込み式翼下パイロンの増加に伴い機体重量も増加したが引き継がれた機動力と新規製造された特殊エンジンが生み出す高い推進力により癖を気にせず戦闘を行なう事が出来るようになっている。しかしその高い推力と機動力によって発生する強烈なGに耐えられるパイロットの選出が非常に難しい。
武装面に関しては非常に優秀であり3種類の兵装のADMM、EML、ECMPは引き継がれているがECMPは機体後部に突き出ている後方警戒レーダーに内蔵されジャミングとESMを担っている。元々対空兵装が優れているため、各種対地対艦ミサイルをはじめ機関砲の追加・増設を行ない対地攻撃能力を向上させている。ADMM、EMLを使用する場合は専用ウェポンベイに搭載するが増設を行なったため、上4、下3の合計7つのスロットが設けられている。以前は排他的装備だったADMMとEMLの同時搭載が可能になっている。EMLをコクピット付近の上部ベイ2つを使用しADMMを残りの上部ベイ4つ下部ベイ3つに搭載できるようになっている。UAVとしてマーレボルジェを最大24機運用可能となっている。
本機はある機体のテストのための予算と時間の都合上2機しか製造されなかったが優秀な推力と機動力、対地攻撃能力を備えた事実上の試作型戦闘攻撃機に仕上がっている。
主な搭乗者(複座時追加搭乗者):ロウファ・ローズベルト・コウジ、ジャック・シルバー・マーティン(坂本美緒、ゲルトルート・バルクホルン、シャーロット・E・イェーガー、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、サーニャ・V・リトビャク、エイラ・イルマタル・ユーティライネン)
特殊戦術制圧戦闘機CFA-46 ZERO
・全長:24.5m
・全高:9.5m
・全翼:22m
・最高巡航速度M4.2
・通常巡航速度M1.85
使用推進エンジン:フラップアンドホイットニーF200X2
武装:固定武装:GAU-8アヴェンジャー30mmガトリング砲×4
誘導兵器:短射程ミサイル:AAM-9L×2
長距離空対空ミサイル:AAM-120X×8
広域殲滅散弾ミサイル:MPBM×2
高機能全方位多目的ミサイルシステム:ADMM×7
戦闘機搭載型電磁ランチャー:EML×2
中距離空対地ミサイル:XAGM×4
ウィッチ専用弾薬補給ユニット×3(上面部のみ)
UAV×42
艦上運用:可
クロスボー隊最後の切り札と言える単座型戦闘機。CFA-44をベースにYFA-45を引っ付け可変翼を取り付けた機体。機動試験においてYFA-45よりも高い機動力を持つことが実証され、実戦投入へ向けての調整がシャンデリア近くのクロスボー隊が駐留するソーン島辺境基地で行なわれていたがシャンデリア陥落の報とともに基地の制圧に来たエメリア軍に接収されたがロウファが戦後のエストバキア残党軍掃討とエメリアの平和のために使用する旨をエメリア政府に告げUAV管制システムを搭載し完成目前まで迫っていたがクロスボー隊がアンノウンとの交戦においてMIA(戦闘中行方不明)認定を受け放置されていたが何者かの手によってウィッチーズの世界に持ち込まれた。
武装については殆んどYFA-45と同様なため一部割愛するが純粋な制空戦闘機故に対地兵装がXAGMしか積めなくなっている。その他にウィッチが戦場での弾薬欠乏による戦線離脱を可能な限り抑制するためウィッチ専用の空中弾薬補給ユニットを搭載できるようになっている。
YFA-45同様、UAV管制が可能だが新型UAV管制システム:ERI(イーア)を搭載している。ERIはAIとして周囲の状況を瞬時に判断しUAVに適切な指示を与え、侵攻や迎撃、援護といった行動をとらせパイロットの死角を極力減らしている。
主な搭乗者:ロウファ・ローズベルト・コウジ
本当は最初の設定集に入れる予定でしたが大幅にズレてしまいました。CFA-46は物語の中盤以降の話からちらほら出す予定です。いろいろと難しかったり分かりにくい所もあると思いますがこの後更新予定の本編の方もお楽しみ頂けたら嬉しく思います。
第4話「性能差と覚悟の差 前編」
「……」
テストを終えた後イェーガー大尉がしつこく「乗せてくれ」と言ってくるのに俺は少しイラついていた。1回や2回ならまだしも顔を合わせる度に言われるのはこちらのストレスが溜まっていく一方だ。彼女が音速を超えたいのは分かるが音速を超えたらその後はどうする?彼女の目標は音速を超えたらそこで終わりなのか?そう問いたい。そしてフランチェスカ少尉とハルトマン中尉の2人は揃いも揃ってやんちゃな子達だ。育ち盛りの子供だから生活態度等に関してはまあ仕方ないとしてもハルトマン中尉の言動は俺の怒りと言う火に油を注いでいた。テストフライト以降もネウロイとの戦闘はあったものの俺達は基地でスクランブル配置のまま彼女達が戦っているのを見ていたり無線でこっそり傍受していたがある事に気が付いた。そう、彼女達は、
-戦闘に臨む志が低過ぎている-
と言う事だ。戦場での鉄則は生き残る事、だ。確かにハルトマン中尉の腕は良い。ウルトラエースと呼ばれるのにも納得がいく。納得はいくのだがあくまでそれは彼女の戦果と飛び方によるものだ。彼女が地上でどんな姿かを知らずただ結果だけ見てそんな呼び方をするのはどうかと思う。彼女たちもれっきとした人間なのだ。年端もいかない少女に世界の運命を勝手に託し、そんな彼女がどんな想いで戦い、傷ついていき死んでいくのかも分かろうとしないこの世界に腹が立っていた。そのような考えは下っ端にでウィッチ達に1番近い戦場に居る兵士達が常日頃から戦えぬ思いに悩んでいるだろうな。そんな事を考えながらAlterのコクピット内のコンソールと兵装スイッチの点検をしていると、
「大佐。」
と、コクピットの外から呼び声がかかったので顔を出して見るとタラップの所にバルクホルン大尉が居た。ちなみに大尉は非番だが一応警戒配置らしい。大尉を含めた4名が基地に残りあとは全員が出撃だった。無論俺達クロスボーはいつも通りのスクランブル配置だ。
「どうしたんだ?俺に何か用事か?」
「ああ。少し聞きたい事があってな。」
俺に聞きたい事?一体なんだと言うのか。
「珍しいな大尉から来るとは。」
「そうか?私はそんな覚えは無いんだが…」
「で、俺に聞きたい事ってのは?」
本題から話しが逸れていたので戻していく。ん?通信機が何かを傍受したのか?青ランプが光ってやがる。こりゃ通信内容次第じゃあ大尉との話しは中断だな。
「その、聞きたい事なんだが…」
「済まん大尉少し無線を使わせてくれ。Alterがなにか傍受したみたいでな…」
「そうなのか?」
「状況によっては俺達が出るかもしれん。」
さっそく傍受した無線を聞いてみる。大尉もタラップを上がってコクピット間近まで来た。顔が近いって…
『何なのだあのネウロイは。速過ぎて近づけん!』
『こちらミーナ。管制塔、急いで増援を送って下さい!』
『管制塔より中佐、増援はウィッチ隊かクロスボーのどちらを送ったらいいんですか。』
『両方とも送って下さい!このままでは…危険です。』
『了解』
状況はかなりヤバいと見た。ということは俺達が増援の一端を担うのか…
「マーティン、準備は出来てるか?出撃するぞ!」
『すまん!あと少しで上がれそうだから先に行ってくれ!』
あのバカ!前以って準備しろってあれほど言っていたのに!仕方ない俺だけでも行くしかないか。
「事前準備くらい済ませてから機体のコクピットに乗れ!先に行くぞ!」
『悪い、兵装チェックとコンソールのチェックに時間かけちまった。』
素早く出撃体制に入り滑走路を見ると既に3名のウィッチが上がって、あれ?1人少ないぞ?ふと後ろを振り返ると大尉が後部席に乗り込もうとしていた。
「おい、何してんだ。大尉たちにはストライカーとやらがあるだろうが。それ取りに行ってさっさと上がれ!」
「今更何を言ってるんだ。今ストライカーを取りに行ってたら間に合わないしミーナ達が危険なんだ。この際、私を乗せて上がればいいだろう!」
「はぁ…仕方ないな、後席用のヘルメット被ってマスク着けてベルト締めてしっかり座っていてくれよ?結構とばすからな。」
「分かった。」
キャノピーを閉め、エンジンに点火し機体から整備兵たちが離れていくのを横目に見ながら機体をコントロールし滑走路に入る。
「管制塔へ、こちらクロスボー1。これより離陸する。」
『管制塔了解。クロスボー1へ位置は分かるか?』
位置は…レーダーで見る限り直ぐに到着できる位置にいるようだな。
「位置は確認した。5分持ち堪えろと伝えてくれ。直ぐに行く。クロスボー1離陸する!」
『了解した伝えておく。必ず5分で行けよ!貴機の幸運を祈る!』
スロットルレバーを最奥の位置へ移動させ離陸開始。
「ぐっ…」
大尉の苦悶の声が聞こえるがこの離陸に慣れるまでは我慢してもらう以外に無い。高度を安定させた後中佐たちが居る地点に機首を向ける。
「大尉。君にはこの機体の目になってもらう。レーダーから決して目を離すなよ。」
「あ、ああ分かった。」
「よし、行くぞ!」
俺達は指定されたポイントに音速ギリギリの速度で向かった。
『管制塔より救援に向かうウィッチへ出せる限りの速度で行ってくれ。』
「はいは~い。今向かってるよ~」
『ン?そういや大尉はドコダ?いつもならもう上がってるハズダロ?』
「そう言えばそうだねトゥルーデが居ないね。どこ行ったのかな…」
『管制塔よりハルトマン中尉、バルクホルン大尉はロウファ大佐の戦闘機に乗って出撃するそうだ。』
『『「え!?」』』
『うじゅ!シャーリーに言ったら羨ましがりそう!』
「トゥルーデ…なんかズルい…」
『ナンダヨ大尉は大佐と行くのかヨ』
もしかしてトゥルーデって…
『今丁度皆の上空を通過するはずだ。』
「了か…」
突然鳴り響いたジェットノイズに全員が耳を塞ぎ音のする方向を見ると大佐が駆るYFA-45が後方から頭上を猛スピードで追い越して行った。
『速いナ…』
「だね」
『うじゅ!』
おっと、ロウファ達に気を取られてたけどこっちもこっちで急がないと!
『くっなんて速さだ!魔眼ですら見えんとは!』
「皆、増援が到着するまであと少しよ!それまで何とか持ち堪えて!」
私達はガリア方面から侵攻してきたネウロイを撃退した直後、突然見慣れない高速ネウロイの襲撃を受け銃撃で応戦していたがあまりの速さに当たるどころか、掠りもしなかった。
『くっそ~!全然当たんないじゃないか!』
『ひゃあ!』
『ミーナ!あとどれくらいで増援は来るんだ!』
それはこっちが聞きたいくらいよ!と美緒に心の中で返していた。
「あと10分でこっちに着くはずよ!」
『ミーナ中佐、今エイラ達がこっちに来ています。』
「分かったわ。なるべく急いでと伝えて頂戴!」
『はい!』
フラウ達がこっちに向かっている事が分かっただけでも朗報ね。
『わたくしのトネールすら当たりませんわ…』
『速過ぎて全然狙えないよ~』
『芳佳ちゃん後ろとかに気を付けて!』
『うん!ありがとうリーネちゃん!』
私の固有魔法「空間把握」を使うと私達を取り囲んで飛んでいるネウロイの数は多い。ざっと4倍くらいのネウロイが居る。
『そんな事を話している場合か!宮藤、リーネ!敵がこっちに来るぞ!』
私達は全滅するかもしれないと一瞬考えてしまったが、突然私達を後ろから追い越すかのように飛んできた多数の槍のような煙と火の球がこちらに向っていたネウロイに命中した。突然の事に唖然となる私達。そこに通信が入って来た。
『中佐、無事か?間に合ったようだな。』
「た、大佐!?」
どうして大佐がここに…。
『ミーナ無事なのか!?』
「トゥルーデ!?」
大佐の戦闘機の性能は分かっていたがここまで速いとは思いもしなかった。それにしてもどうしてトゥルーデはこんなに早く着いたのだろうか?周囲を探っても見当たらない。もしかして…やっぱり大佐の戦闘機に乗り込んでいたのね。と言う事は少なくともスクランブル発進が掛かるまで大佐と一緒に居たことになるのね。
「!大佐レーダーに感ありだ!約28機のネウロイがミーナ達を囲んでいる!」
なら長射程ミサイルを撃ってADMMで始末するか。残った奴らはアヴェンジャーの餌食にしてやるかな。
「分かった。よし、XLAAの使用後にADMMを使用するか。」
「?なんだそれは?」
「長射程のミサイルさ。ここに来たときに見ただろう?」
「あの白い煙がミサイルだったのか。私はてっきりロケット弾かと思っていたんだが…」
「ミサイルなんてロケットに誘導性能を与えただけのモノだし、まだこの時代には在ったとしても実戦配備には程遠いからな。さて大尉、この機体の性能をよく見ると良い。」
そう言って俺はXLAAを積んだウェポンベイを起動させる。XLAA準備完了…
「XLAAレディ…、クロスボー1Fox3!Fox3!」
機体から切り離されたAAM-120Xが8発放たれ、夕暮れ時の空に白煙を撒き散らしながら目標目掛けて突き進み、あっという間に見えなくなる。続いてADMMの発射準備。XLAA専用下部ウェポンベイから上下合わせて3つのウェポンベイを起動。顔を出したADMM発射ユニットが内蔵された小型ミサイルを待機させ射程に入るまでの間、発射を今か今かと待っている。
「ADMM射程圏内に到達、ロック完了!クロスボー1ドライブ!」
発射コードとともに発射される12発のミサイル。ロックした目標へと個別に向かい、第1波として放ったXLAAが命中すると同時に第2波のADMMが命中した。
「これが未来の戦闘機の戦い方なのか…」
「まあ目視圏外からの攻撃で敵を追い落とすための武器がミサイルだからな。」
まだ敵が残っている事を確認しつつミーナ中佐への通信回路を大尉に持たせたマニュアルを使わせて開かせる。
「中佐、無事か?間に合ったようだな。」
『た、大佐!?』
「ミーナ無事なのか!?」
『トゥルーデ!?』
ミーナ中佐の驚いた声が聞こえた。だがそれに構っている暇など俺には与えられなかった。残った敵機がAlter目掛けて一斉に機首を向けてきたのだ。
「大尉、攻撃態勢に移る。注意してくれ。」
「分かった。だがあれもネウロイなのか?今迄のネウロイとは形が全く違うが…」
大尉の疑問は俺には理解できた。あの形は紛れもなく俺達が居た世界の戦闘機だ。あの機首、左右に少し空いたエンジンノズルに切り立った形の垂直尾翼。小柄な図体に似合う程の大きさの主翼。あれはユークトバニアが開発した第3世代戦闘機:Mig-29Aファルクラムだ。何故この世界に居るのか分からんが取り敢えず残らず墜とす事が先決だ。
「クロスボー1より全ウィッチに告ぐ。あれは俺がやる。手出しは無用だ。」
『そんな!大佐1人では危険です!』
「大丈夫だよ中佐。俺はそう簡単には死ねないから。」
俺は死ねない。必ず生き延びるため、死んでいった仲間たち、俺が戦場で殺めた人達への出来る限りの罪滅ぼしのため、平和を願い続けた人々の想いのために俺が落ちることは出来ない。
「クロスボー1エンゲージ!」
さてネウロイがどれだけこのAlterについてこられるかな。リミッターを外せばもっと速く行動できるがピーキー機動に慣れていない大尉を乗せている今は外すことは出来ない。
互いに正面から突き進みながら兵装をガンモードに切り替えたがネウロイ達はブレイク。俺の真正面に居ながらケツを晒した敵機の後ろにへばり付く。何とかして引き離したいのだろう、ネウロイは右に左にとジンギングを繰り返すが機体の性能差も大きいのか依然として俺を引き離せないままだ。真正面にピタリと捉えたネウロイ目掛けてガンのトリガーを軽く押し込む。30ミリの弾丸が垂直尾翼と水平尾翼を粉々に砕き主翼に積んでいたミサイルに直撃でもしたのか左主翼の付け根から爆発し、海へと落ちて行った。
「まずは1つ。あと7つ。」
インメルマンターンをきめてもう一度向かい合う。
正に華麗と言っても差し支えない機動でネウロイを翻弄し撃墜していく大佐の機体は美しくも鋭い機影だった。
『凄い…』
『なんて機動ですの…』
『目で追い切れん程の速さとは。』
的確に素早くネウロイを落とす大佐の腕は確かなようだ。こうして間近で見ているとこちらが巻き込まれそうだった。
私は大佐がとる機動に振り回されてもなお意識を保っている事に、いや私の意識が保てるような速度と機動で飛んでいる事に気付いた。後席から見える前席の大佐の後ろ姿を見ていると彼はこの状況でも首を動かして周囲を見回している。私にとってギリギリの機動も彼から見ればまだ緩いほうなのだろう。それは同時に大佐のG耐性がかなり高いという事になる。そして私に対する気遣いがあるのだろう。
「……!」
後方にネウロイが張り付いたのを確認した私は大佐に告げようとしたがそれより早く大佐が機体を動かした。
俺の後ろを取れたと思ってるようだがそれは全くの勘違いだという事を教えてやるか。即座に右フットペダルを踏み込みながら上昇。ネウロイも追従してくるが如何せんこちらの方が速度が速いため、徐々に離れていく。ある程度距離が開いたのを確認しながら他のネウロイの動向も確認していく。なんとしても中佐たちの居る所に向かわせるわけにはいかない。
「クロスボー1、Fox2」
短射程ミサイルを目の前のネウロイと斜め前から接近してきたネウロイに目掛けて放つ。無論近接信管と偏差射撃を利用しているので2機とも撃墜された。これまでに俺が落としたネウロイは26体。もし増援が来たら厄介だがEMLで超遠距離から狙い撃つしかない。
「中佐、ネウロイの増援は来てないよな?」
『基地から報告がありました!新たに4機のネウロイがガリア方面から高速で接近中、との事です。』
やはりネウロイも増援を出したか…。急いで落とすべきだな。残りの2機の片割れに急接近し機銃弾をばら撒き右のエンジンに被弾させ、
「そいつなら中佐たちでもやれるはずだ。俺達は増援を叩く。」
中佐たちにそう伝えた時に
『遅れてすまんサジット!ようやく着いたぜ。』
遅れていたマーティンが到着した。
「取り敢えず中佐たちの周りを警戒しながら援護しろ。それともう1機のファルクラムを落として露払いをしてやれ。それくらい出来るだろ?」
『OKだ。増援はあのスピードだ。恐らくファルクラムの真似事したネウロイより高性能なヤツだろうな。気を付けろよ。』
「了解だ。」
すぐさま増援の来ている方位に機首を向け兵装をEMLに切り替える。それと同時にレールガンユニットがせり出し、砲身を展開する。
「大尉、大丈夫か?」
「まだ大丈夫だ…」
「大丈夫なら問題ないな。今からまだ誰も見たことのない武器を大尉に見せよう。」
「?なんだそれは?」
「EML、戦闘機搭載型電磁ランチャー。所謂レールガンってやつだ。」
「れ、レールガン?」
まあ実際に撃って見せた方が良いかもしれないな。
「目標…補足。」
HMDの表示されたネウロイの形は…なんでよりによってF-4EPhantomⅡなんだ。HMDにはレールガンの照準が表示され、正面の1機が中央に収まり左右の2機が照準のギリギリの位置にいる。
「クロスボー1、スラッシュ!」
EMLの発射レリーズを押し込む。それとほぼ同時にEMLから音速の4倍程度で閃光が迸り弾丸が発射される。弾丸はそのまま突き進み正面に居たネウロイを貫通し更に強烈な衝撃波でサークル周辺に居たネウロイ達の翼を一瞬で白い破片に変え、抉り取った。
『遅いぞイーディス。』
「おいおいこれでもお前に追い付くために結構とばして来たんだぜ?」
全く、うちの隊長は人使いが荒いねぇ…。ま、それはさておき任務開始だな。
「クロスボー2、エンゲージ!」
あいつが放置した2機のうちピンピンしているヤツを狙う。マジであの形状はMig-29Aファルクラムだ。どっからこんなの来たんだよ…。おっとあれはネウロイだったな。そうこう考えているうちにMig-29モドキのネウロイが突っ込んで来たが、俺は敵機の機首の一部が光るより素早く左のラダーペダルを強めに踏みながらスティックを軽く左に倒し機体を傾けて難なく敵の銃撃を躱す。そのまま半ば強引にスプリットSへ。当然相手にケツを晒す羽目になるが予定通りに相手は食い付いてくる。無論俺に掛かるGは半端ではないが俺よりも何倍も強烈なGを掛けて飛び続けている人間を1人だけ知っている。正直な話、味方なら心強いが相手にすると厄介だ。
「俺もそう易々とやられるわけにはいかないんでねっと!」
エアブレーキON、スティックを思い切り手前に引いて機首上げ。急減速したように見せて機首を跳ね上げるのだから相手からしてみれば堪ったものではない。
―クロスボーは弓矢を撃ち出すボウガンなんだよ。狙った獲物は確実に仕留める!それが俺達クロスボー隊だ!―
そんな想いを込めて名付けた部隊だからこそやるべき事はただ1つ、確実に敵の息の根を止める事。HMDに表示される異形とも言えるが大陸戦争時によく相手をしたMig-29を模ったネウロイに向けて後ろからミサイルを放つ。
「クロスボー2、Fox2!」
敵が回避行動を取るがそれよりも速くミサイルが追い付き尾翼とエンジンを食い千切る。そのまま急接近し機関砲を浴びせる。エンジンからコックピットにかけて穴を穿たれたネウロイは小刻みに震えた後爆発した。ロウファはというと、EMLで全機を叩き潰したようだ。取り敢えず任務完了だ。
レーダーをロングレンジに切り替え周囲を警戒しつつも中佐達が集まって居る場所に向かう。
『取り敢えず全滅させたからいいがジェット型のネウロイが来るとはな。』
「敵だって馬鹿じゃないさ。相手の技術を吸い取る事くらいこの時代では常識だろ?」
第2次世界大戦中は互いに互いの国通しの技術を交換したり盗んだりしていた事は過去の文献を読んだ事があったから今でも覚えている。
「中佐、全員無事なのか?一応バルクホルン大尉は俺の後ろに乗っているんだが。」
そう中佐に問い掛けると、
『大佐達のおかげで全員無事です。でも何故トゥルーデは大佐の機体に乗っているのかしら?』
「ああそれはだな…」
「大佐の整備を見学していてスクランブルが掛かった時に格納庫まで遠かったしストライカーを取りに行く余裕が無かったからだ。」
まあ確かに一理ある理由だが走ればまだ間に合うはずの距離なんだがなぁ…。実は俺達クロスボー隊とウィッチーズが使う格納庫はかなり離れているのだ。ちなみに俺達はウィッチーズ基地最東端の遠くの格納庫を割り当てられているがそれは極力ウィッチとの接触を避けさせるためにミーナ中佐が考えたらしい。そのため出撃はいつも遅れてしまう。いざという時のためのVTOLシステムだが頻繁に使えばエンジンの消耗が激しくなるし飛べなくなってしまうため我慢して滑走路の端まで移動してから離陸しているのが現状だ。
『大佐、助かった。基地に帰ったらお礼を言わせてくれ。』
「お礼は、まあ後で受け取るとして、今日以降からはジェット型が多数来るかもしれないから気を引き締めないとな。」
確かノースポイントのある軍人が言っていたな。-勝って兜の緒を締めよ-と。要は相手に勝っても油断するなって事だ。
『そうだな。勝って兜の 緒を締めよとは正にこの事だな!』
む、坂本少佐も同じことを考えていたのか?
『まあ全員無事で良かったな。』
『そうですね。あなたたちが来てくれなかったら私たちはどうなっていた事か分かりません。』
「しかしあんなネウロイが出てくるとは…」
後席に乗る大尉がそう言った時だった。
『おいバルクホルン!なんでお前が大佐の機体に乗ってるんだ!一番乗りは私のハズだぞ!大佐もなんで約束破るんだよ~。私が一番乗りって約束したじゃないか~』
いきなりイェーガー大尉が大きな声で通信してきたので少々驚きはしたがバルクホルン大尉はそうもいかず、通信機に怒鳴り返していた。
「うるさいぞリベリアン!急な出撃だったんだから仕方ないだろう。」
『少し遅れたってお前のストライカーならまだ速い方じゃないか。』
通信機越しに怒鳴られたりするのには慣れているので俺は良かったのだが、あの言葉が無ければ俺だって怒ることは無かったはずだ。
『なら今度絶対に乗せてくれよ大佐~』
そう、この一言さえ無ければ。
「イェーガー大尉、君はこの機体をオモチャか何かと勘違いしていないか?」
流石の俺もあの言葉には静かに怒りを示すしかなかった。
『勘違いなんかしてないって。』
「じゃあこの機体は何のためにステルス性を備えている?何のためにこれほどの過剰なまでの武器を積んでいると思っているんだ。」
『そ、それは…』
「君が答えられるわけが無かったな。これは人同士の戦争での合法的な人殺しのための兵器だ。」
俺の言葉にミーナ中佐と坂本少佐、イーディスを除いた周囲の者が凍りつく。
「俺はバルクホルン大尉を楽しませようといったような考えで彼女を乗せてはいない。飛び立つ前からここに来るまで彼女が頻りに君達の事を心配していた。イェーガー大尉、君にはその気持ちが分かるはずだ。そこの所を良く考えておいてほしい。クロスボー隊、RTB」
少しだけギクシャクした感じのまま帰投したが俺は誰にも何も言わせぬ雰囲気を放っていたのだろう、機体をハンガーに入れて整備を開始したときに後ろから坂本少佐が話しかけて来るまで誰も話しかけてこなかった。
「大佐、やはり貴方達の機体を見る限り美しい流線型の機体だがそれは速度を得るためと高い機動性を得るためなのだな。」
「そうだな、それだけの美しさと凶暴性を持ち合わせているからね、こいつは。それだけ危険な兵器なのさ。」
少佐は静かに佇むAlterを見上げながら、
「この世界ではまだバルクホルンしかこの機体には乗っていないのだな。いつか私も乗ってみたいな。」
そう言ってきた。そこで俺は、
「少佐が飛べなくなったり急な用事で移動しなくちゃならなくなった時になら乗せられると思うよ。極力魔法力とやらを温存したいならね。」
「飛べなくなるか…。大佐はウィッチが飛べなくなる理由は知っているか?」
その話はヴィルケ中佐からここに来た時に聞かされたので覚えている。
「確か20歳を越えるか純潔を失う事。それに加えて魔法力が衰える理由は分からずに解明されていない、だったか?」
「正解だ大佐。20歳からはウィッチやウィザード問わずに魔法力が衰退していくんだ。そして、私は来年で21歳になる。」
ハンガーの入り口で喋る少佐の姿は滑走路の上に輝く月に照らされ艶やかな雰囲気を醸し出していて俺はつい見惚れてしまった。ヤマトナデシコとはこんな感じなのか、と。
「…」
「大佐、どうかしたのか?私の顔に何か付いているのか?」
黙り込んでしまった俺に少佐が問い掛けてくるが流石に月明かりに照らされる坂本少佐に見惚れていた、などとは言えない。すかさず誤魔化しにかかる。
「いや、月が綺麗だなって思ってね。」
これで少しは誤魔化せると良いんだが…
「ふむ、確かに綺麗な月だな。こういう時には月見酒が合う。」
普通に誤魔化せたようだ。
「そうかもしれないな少佐。まあ俺はワインの味とかウォッカの味は分からんがノースポイント酒ならマーティンと一緒によく飲んでいたよ。」
「では大佐、これから一緒に飲むか?」
「まあそうしたいのはやまやまなんだが機体の整備が残っているから今度でもいいか?」
そう言うと少佐は、
「そうかそうか!なら整備が終わるまで待つとしよう。」
と、あまりにも衝撃的な発言をして来た。何が何でも酒を飲みたいようだな。
「飲むなら場所はテラスにしてくれ。俺が出向くよ。」
そう伝え、整備に取り掛かるついでに
「少佐に複座時の後席の役割や使う器具を教えたいからコクピットのタラップ前で点検が終わるまで待っててくれ。」
と言い、更についでにイェーガー大尉を格納庫へ呼んでくれと他の整備兵に言伝を頼むと機体の脚周りの点検とエルロン、フラップ、ラダーといった高機動戦や回避行動には欠かせない翼の点検を始めた。エンジン本体とノズルや推力偏向パドルは明日の早朝でも十分間に合うから点検を省く。大方の点検が終わったころには大尉も来ていた。
タラップの前に居るのは良いが機体全体をよく見ると所々小さな傷跡が視界に入って来た。空気抵抗での摩擦の所為だろうか、漆黒と鮮紅の塗装が少しだが剥げかかっている。
この機体、一見平坦な機体にも見えるが内部に多数の武器が収められているのだな。
そう独り言を言っているとシャーリーがこっちに来た。寝間着という名の下着姿で来たが。
第5話「性能差と覚悟の差 後編」
-今日の書類仕事はこれで終わりね…-
ようやく書類仕事から解放されたが今日の戦闘で私達はかなり疲れていた。
「お風呂でも入って…あら?」
お風呂に行こうとした私の目に入ったのはこの基地の一番最遠の位置にあるロウファ大佐達の格納庫の灯りだった。
-こんな時間まで機体の整備かしら?-
でもよく見ると格納庫の入り口で大佐達か整備員かどちらか2人組が話しているようだ。ちょっとだけ双眼鏡で見てみると、大佐が居た。そしてその隣には、ありえない事に美緒が居た。ここからだと仲良く談笑しているようにも見えなくもないがそんな雰囲気には感じられなかった。そこまで観察した時だった。突然執務室に鳴り響いた電話の音が私を現実に引き戻したのだった。
「はい、501統合航空団隊長のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケです。」
『私だ。トレヴァー・マロニーだミーナ中佐。』
マロニー大将からの電話…それに何か彼の機嫌が良いようにも感じられる…大佐達の事がバレたのかしら…
「こんな遅くにどうされたのですかマロニー大将?」
『なに、明日にでも君達の基地へ行こうと思っていてね。』
この言葉でドキリとなった。大将がジェット機の事を知ってしまったのかもしれないと。彼のことだ、どんな手を使っても大佐達の技術を奪うつもりだ。
「突然来るのはどうしたのですか?ウィッチ達の事なら…」
『私はウィッチ達の視察に行くのではないよ。君達の基地に飛来したと言われる戦闘機の事だ。』
やっぱりそうだったのね。
「それで大将はそのためにお越しになると?」
『そうだが何か問題でもあるのか?』
「いいえ特には…」
嘘だった。大将には彼らの事がバレているがそれでも今は精一杯の嘘を付かなくてはならなかった。大佐達はもう戦争はしたくないとは言っていたけど平和を護り続けるために戦い続けるという矛盾した立場にあり、自分達の世界から私達の世界に来てもその矛盾を私達のために貫き続けている。普通はここまでしてくれるだろうか。本来なら自分が帰るためにあらゆる手段を尽くして帰ろうとするだろう。もしかして彼らも帰ることを口にせずとも心のどこかで考えているのでしょうね。
『なら問題は無いな。では明日行かせてもらうぞ。』
「あ、明日ですか!?」
いくらなんでも早すぎる。
『そうだ。明日だ。では。』
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
そう言ったが電話は既に切られてしまった以上、受話器に何を話しても相手には届かない。だがこの事は早く大佐に言わなくてはならない。彼らは絶対にマロニー大将とは馬が合わないと私は思う。マロニー大将は私達ウィッチをいつも冷遇してくる所があるから間違いなく完全に馬が合わないはずだ。私ですら嫌いな人なのだから彼らはもっと嫌うだろう。彼らとあの機体の存在は確実にこの世界にとってイレギュラーであり、喉から手が出る程データを欲される存在なのだから。
「……」
少し考え事をしながらマロニー大将の資料をあるだけかき集めて直ぐに格納庫に居る大佐の所に向かう。一刻も早く彼らに伝えなくては。
大佐が格納庫で待っているから直ぐに来いなんて言われても今日の任務の帰りに怒らせちゃったのにどんな顔して会えっていうんだよ。あと1時間もしたらサーニャが夜間哨戒に行く時間だしあたしが部屋を出ようとしたらルッキーニの奴まで付いて来ようとしたから、
「シャーリーどこ行くの?」
「ただ大佐に格納庫に来いって呼ばれただけだからあたしにゃ分からないね。」
「ふーん」
大佐と格納庫って言葉で思い当たることは… やっぱりあのYFA-45って機体しか思いつかないんだけどってまさか!
「んー、でももしかしたらあの飛行機に乗せてもらえるかもしれないね!」
「多分の話しだよ、多分、な。でもお前はあたしが居なくても寝れるだろ?早く寝るんだぞ、ルッキーニ。」
「分かったよシャーリー。おやすみ~。」
ルッキーニと考えが一致したようだ。でもルッキーニは乗せてもらえないと思う。肉体的にも精神的にも幼いと言えるルッキーニには凄く厳しいだろう。それにもう寝る時間だしな。そのまま寝ちまったルッキーニを部屋に残しあたしは格納庫に向かう。そして初めてジェット機に乗せてもらっていたバルクホルンに聞いた話の内容を思い出していた。
『救援に向かっている間は私がレーダーを使って周囲を監視していたんだが本当に5分で皆の所に到着したよ。』
『なあ、音速は超えてたのか?』
『いや、音速に近い速度で飛び続けていたから音速は超えずに飛んでいたな。』
『もしかして戦闘中でもか?バルクホルン。』
『はい。大佐は私が音速での高機動戦にまだ耐えられない事を見抜いていたようで、それに合わせて意識だけは保っていられるような速度域で飛んでいたんです。』
『だとしたら音速を超えた戦闘では素晴らしい腕前なのだろうな。』
『はい。確信は持てませんが卓越した技術を持っていると思います。』
あのカタブツがそれだけ言うくらい大佐達の腕は相当な腕だったからな。多分模擬戦とかで501総がかりっても勝てそうにない。そうこう考えている内に格納庫に着いた。あの機体のコクピットに登るための階段が引っ付いているのが遠目にも分かる。んでその階段の前辺りに少佐が居た。少佐もあの機体に乗るのだろうか… 近づいていくと少佐があたしに気付いたようだ。
「お前も来たのかシャーリー。いやお前は呼ばれたんだったな。」
「なんで呼ばれたのか分からないままなんですけどね…」
嘘だった。大佐に乗せてもらえるかもしれないという期待と乗せてもらえないという不安が織り交ざっていたから出てきた嘘だった。
「俺が呼んだ以上寝間着では無く普段着でこの格納庫に来ると俺は思うんだがな。イェーガー大尉。」
突然かけられた言葉の主は大佐だった。相変わらずあのカタブツ軍人のバルクホルンに似た感じの表情だなぁ大佐は。
「しょうがないじゃないか。寝る直前に呼び出されたんだし直ぐに来いなんて言うから着替える時間が無かったんだよ。」
怒られるかもしれないけど覚悟の上だ。でも大佐は、
「まあ呼び出した上に直ぐに来いと言ったのは俺だからな。そこは勘弁してやるが今回だけな。次からはきちんと着替えてから来るように。」
意外にも怒られなかった。でも『今回』?と言う事はまた次もあるって事だよな。
「な、なあ大佐。」
「なんだ?呼び出した理由か?」
「う、うん。なんで夜に呼び出したのかなぁって思ってさ。」
「確かにな。夜間に呼び出すとは不思議だぞ大佐。」
そこが引っかかっているんだよな。音速を超えるなら昼間に飛べばいいじゃないかってあたしは思ってる。
「呼び出した事に不思議がられても反論はしないが理由としては夜間飛行を実施するにあたってこの世界での経験者が必要なんだ。」
「夜間飛行ならナイトウィッチのサーニャが哨戒に当たってくれているがそれではダメなのか?」
「彼女一人に夜間哨戒を任せるのは荷が重過ぎる事は坂本少佐も分かってはいるのだろう?」
そうだサーニャが夜間哨戒に行ってくれているからあたし達はぐっすり眠れるんだ。サーニャに掛かる負担は大きい。夜間は夜目が利きにくいから魔導針を持つサーニャに頼るしかない上にフリーガーハマーを扱う彼女には護衛が要るというのに肝心の護衛がほとんど出せない。要はこの基地のナイトウィッチはサーニャただ1人であとはサーニャと長い間一緒に居たエイラくらいであとは夜間哨戒に試で出撃した宮藤だけだ。例え世界中のナイトウィッチ達と話し合えるからと言ってもサーニャは夜の空に1人で居る。たまにエイラの奴がくっ付いて行ったりしてるけど今夜あたりは一緒に飛びそうだ。そこに大佐達が加わるとなると少しはサーニャの寂しさを紛らわせるのかもしれない。そんな気がした。
「まあそれは私とて分かってはいるんだがこの基地に居るナイトウィッチはサーニャだけなんだ。稀にエイラが一緒に飛んでいるようだがな。」
少佐もあたしと同じ考えなんだ。いや、この基地に居る誰もが考えている事なんだろうな。
「だが彼女たちのストライカーはレシプロだ。そしてこの世界ではまだ誰もジェット戦闘機で夜間哨戒に出た奴は居ないだろう?」
「まさか大佐、シャーリーを乗せて飛ぶつもりなのか?」
「そうだよ坂本少佐。実戦になるかもしれんがコイツの機動に慣れるのに越したことはない。それに約束は今度こそ守らないとな。」
やっぱり覚えていてくれたんだ。あたしとの約束を。
「じゃ、じゃあ今から…」
「イェーガー大尉、今日からAlterへの搭乗を許可する。」
ようやく夢に近づくことになるんだ。音速を超える夢が叶うんだ!
「やった!やったぁぁぁ!」
ついあたしは叫んでしまった。大佐は微笑していたが、坂本少佐はこめかみがピクピク動いていた。ヤバい怒られる。
「シャーリー、お前少しは自重しろ。」
「す、すいません少佐…つい浮かれちゃって…」
「まあ大尉の年頃は多感な時期だ。少々くらいは浮かれても仕方ないさ。」
大佐はそう言ってくれてたけど少佐の顔はまだ怒ってるんだよなぁ…
「ん?そこで何をしているんだヴィルケ中佐。」
何やらミーナ中佐が来たようだ。
気付かれずに格納庫の入り口まで来て内部の様子を少し窺ってみると美緒が居るのは分かるのだけれどシャーリーさんまで居るとは思ってなかった。それに大佐に気付かれてしまった。マーティン中佐はその向こうで他の整備員たちと話し合いながら整備をしているのが見える。
「ごめんなさいロウファ大佐。お話しがありますが少し良いですか?」
「ああ俺は別に構わないが…一体何があったんです中佐?まさかAlterの事が上にバレたのか?」
彼はこちらに来てそう言った。
「実はそうなんです。まさか1番警戒していた人にバレるなんて思ってもみませんでした…」
「そんなにバレたら不味い奴が居たのか?」
「はい…その警戒していた人というのはこの人物なんです…」
そう言って私はマロニー大将に関する資料を彼に手渡す。パラパラと捲りマロニー大将の資料を見る彼に非常に重要な資料なので無くさないようにと念を押しておく。
「で、この大将に俺達の事がバレたのか。資料をざっと見たが奇妙な所が多いな。何やらある時期から今も継続して妙に研究に没頭している感じだが。」
「そうです…マロニー大将は何かの計画を推し進めているようです。」
何かの計画…本当に分からない計画、そして大佐達の技術を必要とする理由、まさか新しい航空機でも造る気かしら…だとすると大佐達は非常に危うい状況に立たされている事になる…
「どうしたんだ中佐?随分と難しい顔をしているが…どうやら俺と同じことを考えていたようだな。この大将、何かヤバい事企んでいるかもしれない。それこそ世界が大混乱に陥れるくらいヤバいのをな…」
「そこまで危険な研究なら他の研究員が止めるはずですよ?」
「普通はな。普通は止めるさ。だがこの研究員名簿の詳細を見る限りその大将を止めることはしないと俺は思うがね。それはそうと大将殿が来るのは何時頃だい?」
「その…何と言うのでしょうか…明日来ると伝えてきました…」
問題は来るのが早過ぎると言う事なのだ。
「明日か…ちょうどエンジンブロックの整備の予定があるな…」
そう言う彼の手元には予定表があったがもうこの世界での生活に完全に溶け込んでこの基地の整備兵たちとは直ぐに打ち解けていたみたいね。
「マロニー大将には機体の技術だけは絶対に渡さないでください。なにがあるか分かりませんから。」
「分かってるさ中佐。最悪、機体にシートでも被せとけば外見だけ見られるだけになるから大丈夫だろう。それに格納庫には絶対に立ち入らせなければ良いだけの事さ。それと中佐、大将は朝来ると言ってきたのか?」
「いえ…明日来るとだけ言われて電話を切られましたから何時頃来るか、という詳しい事は分からないんです。」
そこまで言ってふと気付いた事があった。
「そういえば大佐。何故シャーリーさんがここに居るんですか?」
明らかにこの時間に彼女が出歩くことは殆どないはずなのに。
「ああ彼女はこれから俺と夜間飛行に出る予定なんだ。まあ俺の独断なんだがね。」
「大佐、勝手な判断で出撃はしないでください。それに彼女たちと接触は禁止すると伝えたはずですよ?」
「禁止するってことは君達の命に関わってくるって事は分かるよな?接触禁止と言う事は整備兵が整備する時に意見が聞きたくても聞けない。となれば整備が出来ない事になる。そうなれば必然的に君達のストライカーが飛ぶ時に不備が多いまま飛んでいけばどうなるか想像したことくらいはあるだろう中佐。」
「それは…」
想像した事が無いと言えば嘘になる。寧ろ想像しない方がおかしいと彼は言っているのだ。整備したくても接触を禁じられている以上話しかけられないし話せない。意見交換をしたくてもそれすら出来ない。満足な整備も受けられないストライカーが空中で故障を引き起こす事になりウィッチの命を危険に晒す事にも繋がっていると彼は言っているのだ。
「別に君らに干渉する気など俺はない。ただ言いたいのは自分で自分の首を絞めるような事だけはしないでくれと言っているんだ。事故で飛べなくなるのは嫌だろう?せめて世間話くらいは認めてやるべきだと俺は思うよ。」
完全に言い負かされちゃったわね…。
「それは分かっています。でも…」
「ヴィルケ中佐は何かが心の中でまだ尾を引いているんだな。だから接触を禁じている、大方そんな所だろう?」
そんな彼の言葉が私が心の奥底に閉まったはずの過去を引きずりだそうとしていた。
「貴方に私の何が分かるっていうの…?」
震える声で言葉を絞り出す私に彼は一言だけ投げかけてきた。
「俺は中佐の過去に何があったかなんて全く知らない。でも何があったかはヴィルケ中佐の目を見れば直ぐに分かった。中佐、あなたは俺と似た境遇なんだって。」
彼からこの世界に来た時に聞かされた事を思い出した。
『仮住まいの家に帰れば家中穴だらけで家の中に2人の死体があった。守ってやれなかったんだ。妹と婚約者を。』
そんな彼の首元にはあのペンダントと歪んだ赤い指輪がぶら下がっていた。
「こんなもん何時までもぶら下げてたら中佐の事を詰る資格は俺には無いがな。」
「いえ、すみません。私も大佐に辛い事を思い出させてしまっていますから御相子です。」
「ははは、そうか。それと空に居る時以外は名前で呼んでもらって構いませんよミーナ中佐。」
「そうですか。では改めて宜しくお願いしますね。ロウファ大佐。」
「まあ早速で悪いんだが夜間哨戒にはイェーガー大尉を同乗させて上がりたいんだが許可を頂けないだろうかヴィルケ中佐。」
順応が早いというか何というか…
「本当に早速ですね…良いでしょう出撃は認めますが交戦になった場合は極力戦闘は避けて下さいね。」
「了解。なるべく戦闘は控えるようにするがしつこく食い付かれた場合には交戦させてもらうよ。」
「なるべく早めに帰還してください。マロニー大将の事もありますから…」
「ああ…俺から見てもなかなかに粘着質な男に見えるからな…」
彼はそれだけ言うと自分の機体に向かっていった。
中佐からのありがたい忠告を受け取ったあと機体の出撃準備に入る。
「大尉、こいつに着替えてからでないと乗せられないからな。」
俺がイェーガー大尉に渡したモノは、対GスーツというGを軽減してくれる優れものジェット機に乗るための必須アイテムだ。
「こ、これを着るのか?なんかきつそうだな…」
そう言いながら彼女を機体の陰に造られた簡易型の更衣室に入らせ着替えさせる。が、そこでふと俺はある事を思い出した。
「バルクホルン大尉に対Gスーツを着用させた覚えが無いぞ…」
かなり焦るが帰還後に皆から質問攻めにされても答えていた所を見るとそこそこG耐性があるから大丈夫な気もしたが少し心配になっていたがそうこう考えている内にイェーガー大尉が更衣室から出てきた。しかも赤い顔で。
「な、なあ大佐。もう少しサイズが大きいのは無いのかよ。こ、これは流石に恥ずかしいんだけど…」
それもそのはず。サイズは俺とほぼ同等のだからだ。それ故に大尉の胸元と腰回りが強調されてしまっていた。
「悪いな大尉。それは俺の予備として積んできたスーツで替えはもう一つあるが全部俺のサイズに合わせたものだから諦めてくれ。」
「うぅ~わかったよ~」
「さ、そろそろ行くぞ。覚悟が出来たらさっさと乗ってくれこっちは準備があと少しだけだからな。」
それだけ言うとタラップを登りコクピットに乗り込み機体の各種チェックを手早く始めた頃に大尉がようやく上がってきた。後席に座ったのを確認しヘルメットを渡し、
「これがヘルメットだ。これを被る前に先にマスクを付けろ。ヘルメットのバイザーは下ろしても下ろさなくても構わん。」
『う、うん。それにしても何か変な感じだな。』
マスクを着けた大尉のくぐもった声が少し震えている事について聞く必要も無いとは思うが一応聞いておく。
「どうした大尉?震えているようだが。」
『今からジェット機で飛ぶんだなって事と音速も超えられるのかって思うとさ、震えが止まらないんだよね。こういうのって武者震いって言うんだよね。』
「そうかそんなに早く上がりたいならさっさとシートベルトを着けるんだな大尉。そうでないと上がれないし機動をやった時に吹っ飛ばされかねないからな。」
『うっ…』
忘れていたようで素早くシートベルトを着ける大尉を尻目にエンジンの始動を開始する。格納庫に響き渡る双発エンジン特有のエキゾスートとケシロンのにおいが開け放たれたままのコクピットに漂う。すっかり顔なじみになってしまった整備兵がコクピットまで上がってきてタラップを取り外す旨を俺に告げる。
「キャノピークローズ。車止め解除後整備兵は速やかに退避せよ。」
キャノピーが閉じたあと直ぐにフラップを起動させ一時的にブレーキを掛ける。
『すっげ~』
「これより誘導路へ移動する。本機周辺の整備兵の退避を確認。誘導路へ移動開始。ほらイェーガー大尉、左に整備兵の皆が居るから敬礼くらいはしとけ。」
すっかり舞い上がっている大尉にそう告げ自身は短く敬礼をする。慌てて敬礼する大尉に整備の皆は笑って見送ってくれていた。
「クロスボー1より管制塔へ、誘導路への進入と滑走路への移動の許可を求む。」
『こちら管制塔ミーナですクロスボー1、進入と移動を許可します。ですが先にサーニャさんとエイラさんが夜間哨戒に向かいますからそれに随行して離陸してください。』
「了解。こちらは何時でも行ける。」
『分かりました。』
リトヴャク中尉とユーティライネン少尉が離陸していく姿を見ながら誘導路を移動していく。
『夜間哨戒部隊の離陸を確認しました。クロスボー1、続いて離陸を許可します。』
「了解、離陸を開始する。イェーガー大尉、舌を噛むなよ。クロスボー1離陸!」
轟音と共に飛び上がる漆黒と鮮血に似たカラーに彩られたジェット戦闘機。ジェット機による世界初の夜間飛行が行われた事は極秘中の極秘だった。
-あーあ折角の日がジェットサウンドで台無しダ。久しぶりにサーニャと二人っきりで飛べるハズだったのにナ-
そう考えながらチラリと横目で自分の右斜め前方には月明かりに照らされながら轟音を発し航行灯を光らせ続ける漆黒の機体が居た。
『なんだユーティライネン少尉。俺に何か用か?』
「いや、別に。」
正直早く彼は帰投して欲しかった。
-早く二人きりになりたいんだ。どっか行ってくれヨ-
そんな彼女の願いも空しく、あと数時間は空を共に駆ける必要があるのだ。ミーナ中佐から突然言い渡され大佐と共に夜間哨戒にでる羽目になってしまったのだ。でもあの機体の中に私達ウィッチですら防ぎようの無い武器が格納されていると思うと良い気分にはなれない。それに追い付くことが不可能に思える程の高機動性。私達では出来そうに無い領域を軽々と超えるその姿は圧倒的。それに今日の帰りの戦闘でサーニャの魔力が減っているにも関わらず哨戒に出ている原因は、彼らが倒した今日のネウロイに起因していた。ジェットネウロイがまた出て来たら厄介だ。それに彼らの世界での出来事も気がかりだ。だから聞くならばここしかないと思った。幸いかどうか彼の相棒は基地でスクランブル待機中を継続してもらっている。
「なあ大佐。大佐が言ってた人同士の戦争って私達の世界でも起こる可能性はあるのか?」
『ああ。十分にあり得るだろうな。ネウロイ達との戦争が終われば今度はまた互いに牽制しあってから醜い人同士の戦争が始まるわけだ。本当に悲しみの連鎖しか生まないだけの戦争がな。』
夜空に浮かぶ2人の人影と1つの機影は眼下の雲海にただただ影を映し出していただけだった。
『戦争は良いことなど何も齎さない。互いの心に傷をつけ悲しみと苦しみと憎しみを生み出し加速を続けようとする。それが戦争なんだ。』
「じゃあどうしたら止められるんダヨ。」
『それは自分の脳を使って考えるんだな。最低でもそれくらいは考えるだけの知能を人間は持ち合わせているからな。少尉もリトヴャク中尉と戦うのは嫌じゃないのか?』
「…嫌ダヨ。サーニャと戦えるわけないじゃんか!」
大佐が言っている事はもはや私達の世界では考えもしない事だった。
『少尉。俺が言った事は俺の世界では当たり前のように起きていた事だ。当たり前のように人が死んでいく。目を瞑ってたったの10秒なんてあっという間だがその間に3人は確実に紛争地域で死んでいっただろうが本物の戦場は1秒で何人もの人間が死に追いやられ、傷ついていく。それは空であれ陸であれ海であれ皆同じ事なんだよ。俺は君達にそんな世界で生きて欲しくない。願うなら1人1人の人間の少女として生きて欲しいと思う。』
「大佐達はずっとそんな世界に居たノカ…?」
『ああ星が降って来なければ俺も人生を狂わされずに人殺しの道を歩むことも無かっただろう。』
彼が歩いてきた道はどれだけの人が血を流して来たのかはぞっとするから聞かないけれど気になる言葉が聞こえた。星?そんなもので彼の人生が狂ったのか?
「星?」
『なんかそんな事を言ってたよな大佐?いったい何があったんだ?』
「星、ですか?」
サーニャと大尉が割り込んできた。2人とも同じ事を思っていたようだが大尉は何かそれらしい事は勘付いていたようだ。
『星ってのは…小惑星ユリシーズ。こいつの欠片が俺の祖国に落ちてな。それが俺が住んでいた地域にも落ちたからとんでもない被害が発生した。一部の市民と軍人を除いてあとは全滅してな。その地域で俺を除いた市民の数少ない生き残りは2人だけでその2人は俺の妹と婚約者だけだった。』
「…」
余計な事を聞いちゃったナ。これじゃあ大佐に何も言えないや。
『悪いがあとはヴィルケ中佐に聞いてくれ彼女にだけ詳しく話してあるからな。これ以上はもう話す事は出来ない。何時何が起きても不思議では無いのが戦場だからな。』
「あ、おい大佐!」
通信は一方的に切られてしまったが依然として前方を警戒しながら飛び続けるロウファ機。その後ろ姿からは、
-もう何も聞かないでくれ-
そんな想いが滲み出ている感じがしたからこそ何も聞けなかった。が、サーニャが突然苦しみだしたのと大佐の機体からの通信に異変が生じたのは同時だった。
『ん?これ--んだ?ま--ジャミ--!?』
「くっ…なに、これ…?苦しい…」
「サーニャ!!」
サーニャの魔導針が弱々しく出たり消えたりしている。余程魔力を消耗しない限りこうはならない。それに大佐との通信も途絶してしまっている。しかし大佐はまだ諦めていないらしく、機体の翼をバンクさせて私達に合図と同時に近づいて来いと言っていた。
第6話「補給と陰謀」
-501に来たというジェット機はまだ基地に留まっているだろう。-
漁業を営む者たちから基地のある方角から不可思議な飛行物体が飛んで来たとの情報が届いたのだった。それ以降何度か目撃されており、ネウロイに酷似しているとも聞いた。夜間にも、後ろを煌めかせながら飛ぶ姿が目撃されている。それがネウロイでは無く人が造ったジェット機と分かった決定的な証拠はその三角翼飛行物体の姿を収めた写真が届いた事だ。
写真に収めた写真家は偶々ブリタニアへ旅行に来ており、最近、ブリタニアのドーバー海峡の近くの岸辺上空で不思議な音と共にネウロイのような三角翼飛行物体が現れると現地近くの地域で耳にし、その場所を住民に聞き出し、現れる確率が高いとされる海岸に来たのだった。着いて暫らくは何の音も聞こえず嘘なのかと帰り支度を始めた時に例の音は聞こえてきた。自分の周りで妙な音が聞こえ始め、周囲を見回しても音の正体はおらず北北東の方角からその音は聞こえ、不思議に思いカメラを手に取り音のする方向へレンズを空に向けてファインダーを覗いたところ彼は仰天した。この時代には存在しない流線型の三角翼飛行物体が2つも並んで飛んでいるところを見てしまったのだ。彼はすかさずシャッターを切ったが、それは高速でありながら統率のとれた動きで飛び、ある程度周回した後、北北東に飛び去って行った。
写真は私の手元に届き、即刻機体の分析に取り掛かったが、ピントが先頭の機体を除きボケボケだったから分析は難しいと考え、今度は501の視察に行く事で例の機体を探すつもりだ。
-この写真の分析がもっと出来れば良かったが、明瞭ではない上に撮った時の条件が悪過ぎる。これは機体の斜め後方しか分からないではないか。-
「マロニー大将、お車の用意が出来ました。」
「そうか、では行くとするか501へ。」
あの女狐が余計な手立てを打つ前にこちらから出鼻を挫いてやる事が大事だな。
「ヴィルケ中佐、こっちの準備は大丈夫だが格納庫の警備は完璧にしといてくれよ?飛べなくなるのは勘弁して欲しい。」
「分かってるわ、ロウファ大佐。警備と整備の皆さんには例え大将直々の命令であっても決して蟻1匹入れないように、と伝えておきましたから。」
流石ヴィルケ中佐だ。こういう事への対応はすさまじく速い。そういう意味では空より地上勤務の方が似合うと俺は思う。
「そいつは心強いな。マーティンには自室待機を命じてあるから心配は要らんが当面の問題としては俺の対応次第で補給だけでなく俺達クロスボーの命に関わってくるってわけだな。」
「そうですね…いつもいつもマロニー大将には予算を減らされて厳しい状態になりつつありますからね…。」
「良くて機体の無事は確保できるとして最悪銃殺刑か…。それだけは避けたいものだな…。」
考え過ぎだと良いんだが、この時代でも捕虜から情報を聞き出すために尋問や拷問に掛けられたりする。
「今日の何時に来るかも分からないんじゃ他に打つ手がないな…。少し食堂に行って何か食べるとするよ。流石に朝食抜きでは厳しいよ。」
「食堂ですか?ああそういえばロウファ大佐達は朝食を食べてなかったんでしたね。」
「いや、マーティンの奴は持ち物のレーションを食べてたよ。でも俺はレーションよりもちゃんとしたご飯が食べたくてね。高官と会う時は何時もこんな感じなのさ。」
ヴィルケ中佐は少し驚いていたが、顔を緩ませて微笑みながらとんでもない事を俺に言った。
「ロウファ大佐、お腹が空いているのでしたら宜しければ私が何か作りましょうか?」
無論俺はこの話に食い付かざるを得ないわけで。
「そうかヴィルケ中佐も料理が出来るのか。一応俺も料理は出来るんだが今日は任せても良いかな?」
そう伝えると、
「フフッ分かりました大佐。さあ食堂に行きましょうか。」
と言い、俺の右腕に自身の左腕を絡めてズンズン引っ張って行こうとする。
「ち、中佐?!」
ヴィルケ中佐に引っ張られたまま食堂に着き、中佐の背中が厨房に入って見えなくなった時に首元からペンダントを取り出しそっと蓋を開く。そこにはヴィルケ中佐そっくりの女性とバルクホルン大尉そっくりの中学生くらいの少女と共にユリシーズが降る前、軍に整備兵として入隊する直前に撮った写真であった。軍には入隊直前にユリシーズが降ったため延期され、その間にマーティンと共にノースポイント軍の俺の叔父を頼ってユージア大陸に亡命したが、そこもユリシーズによって甚大な被害を受けたエルジアが暴走していたため彼女たちを連れては行けなかった。
「あの時俺が、俺がお前達と一緒に居れば死なずに済んだんじゃ無いかって今でも思ってる。あの日の事が夢に出て来るんだよ。もう親父達とお前達が逝ってから6年も経ってあれだけ墓の前で悲しい思いをする人を、戦争がどれだけ悲惨なのか伝えると誓ったって言うのにまだそれを達成できてないよ。もしこのまま誓いを果たせないままそっちに逝ったらお前等にどやされるんだろうな…。ミーナ、ディルート…。」
ここで俺は気付いた。ヴィルケ中佐は簡単な料理を作ってくれていた故にさほど時間が掛からなかった事に、そして左側から人の気配がした。この食堂に居るのは俺とヴィルケ中佐だけだ。慌ててペンダントを仕舞い込み、左側を見るとヴィルケ中佐が軽食を持って立っていた。
「あ、あの大佐、今私の名前を呼びませんでしたか?それと聞き覚えの無い名前も聞こえましたが。」
「いや、気にしないでくれ。それよりもわざわざ軽食を作ってくれてありがとうヴィルケ中佐。早速いただくよ。」
「え?あ、は、はいどうぞ。」
そう言ってヴィルケ中佐は軽食を受け取った俺の横の席に腰を下ろす。さっきの話を聞かれていたか…。全く気が付かなかった。中佐の視線をモロに横顔に受けながらも軽食を食べ終えようとする。折角作ってもらったのに肝心の味が全く分からない。どれだけ慌てているのだろうか俺は、
「中佐、今日は大将が来る事以外に予定は無かったか?」
食堂を出た後に今日の予定がすっかりと抜け落ちてしまっていた。
「もう忘れたんですか?今日は補給物資が到着するんですよ?それに合わせて扶桑から遣欧艦隊が派遣されて来るんですよ。その艦隊の護衛として501が指名されているんです。」
そう言うヴィルケ中佐の顔はとても綺麗でありながらどこか母性を含んだ感じの表情になっていて俺は、昨日格納庫の入り口で月明かりに照らされる坂本少佐とはまた違う美しさだった。
「という事は俺達もスクランブル待機か。」
「何言ってるんですか大佐。あなたには坂本少佐を遣欧艦隊の赤城まで送り届けてもらいます。宜しいですか?」
「了解。しかし、あの機体で行けばまたネウロイだのなんだの言われることは必至だな。」
クスクスと笑うヴィルケ中佐に対して、俺をからかう要素が出来そうだな、と考えていた。しかしまた坂本少佐を送り届けなくてはならないとは。
「もう大将が来てもおかしくは無いでしょう。執務室に向かいましょう。」
「ああ、そうだな。今日も随分と忙しくなりそうだ。」
501に着き、執務室に例のジェット機のパイロットが待っていると聞いたが、それよりもジェット機を探したかったのでSP達に探させたが、思いの外見つからない。全ての格納庫を見て回らせたがどの格納庫も警備兵と整備兵が入るなと猛反発をしたらしく、入ることは出来なかったと伝えてきた。仕方なくパイロットが居るという執務室に向かう。
-期待外れで無いと良いのだがな-
虫の居所が悪い。今の俺の気分を表すならその一言で十分だった。目の前のソファに踏ん反り返る男は俺がクロスボーに掛ける思いなど無視してただAlterのデータが欲しくて仕方ないという想いが目を見れば分かるくらいダダ漏れだった。そんなにデータが欲しいのか。だがこいつに渡すわけにはいかない。何の研究をしているのかは知らんが人類を脅かす様なモノを研究しているなら俺はこいつ等とは永遠に対立を維持し続けるだろう。
「お前たちが別の世界から侵入してきたジェット機のパイロット達だな?」
いきなり侵入者扱いと来たか…。
「さてロウファ大佐、君には2つの選択肢がある。」
「何でしょうか…。」
「我々の為に共に戦うか機体を奪われ銃殺刑になる日々を牢獄で過ごしてもらっても一向に私は構わんぞ?さあ選びたまえ。」
「大将!」
「君は黙っていなさい中佐!」
流石に階級だけでなく、経験も大将の方が上と見ていいだろう。だがそれはこの世界での常識だ。俺達クロスボーが居た世界ではそんな常識は通用しない。俺達の世界じゃあんたが思ってる事以上の事が起きてたりするんだぜ?
「流石に機体を奪われるのだけは勘弁して欲しいね。」
「フンッ!自分の立場はしっかり分かっているようだな。では君には連合軍の一員としてネウロイの殲滅に加わってもらう。それと君達が乗ってきた戦闘機をこちらに引き渡してもらおう。」
「それは断る。」
「何故だ?連合軍の一員になったのならば君らの持つ技術を我々に渡した所で何の問題もないだろう?」
「そんなに言って欲しいのか?断ると言っている。この戦争が終わってネウロイが居なくなったら世界がやりそうな事といえば簡単に答えが出る。今度は人同士の戦争が起きてしまう。何故か知りたいか?それはな、アンタみたいな奴が世界のイニシアチブを握りたがるからだよ。特に、最新技術を手に入れた国ってのはその能力を試したくなるのさ。」
「大佐、貴様そんなに死を急ぐのならばどんな死に方が良いのか選ばせてやっても良いぞ。」
「生憎あの機体は俺ともう1人で無いと動かせないようになっていてね。仮に俺達が殺されてもそう易々と情報を渡さないのさ。もし無理に機体から情報を取り出そうとすると機内に仕込んだ爆弾が起爆する仕組みでね。あんまりにも危険だからここの整備兵にも触らせてないよ。」
「……。」
ヴィルケ中佐の顔色は真っ青だ。それくらい苦手なのだろうな。
「悪いがこの後俺はやらなきゃならない事が沢山ある。あんたも連合軍の総大将だろう。幕僚会議が待っているんじゃないのか?俺達もあんた等に協力くらいはするが俺は信用に値するだけの人物にしか情報は開示しない。」
さっさとこの大将には帰って欲しかった。下手をすれば俺が逆に大将を撃ちそうで仕方なくなっていた。
「…そうだなこちらも気分が悪くなってきたところだ。私はそろそろ帰るとしよう。それとロウファ大佐、君と君の部隊に伝える事は1つだ。ネウロイの撃退と殲滅の為に連合軍に協力せよ。」
「了解しましたマロニー大将殿。こちらからも1つお伝えしておきます。」
「何かね?」
「整備兵はこの基地の者だけで十分ですので増員はしないで頂きたい。」
「……分かっている。」
こういう手合いの輩は増員の整備兵にスパイなどの工作員が紛れている事が多い。だから素早く手を打たなくてはならない。それからすぐに大将は帰って行ったが、それと同時に坂本少佐が執務室に入って来た。
「大将が帰って行ったが何か言われたのか大佐?」
「ああ、ネウロイの撃退と殲滅に協力するのは良いんだが、これからの作戦でしつこく付け狙われそうだよ…。」
「マロニー大将はしつこいから要注意した方が良いぞ。」
少佐が執務室に来た理由が分かっていない…。何故来たんだ。何かの報告か?
「おっと忘れるところだった、ミーナ、今日の補給なんだがどうも少し遠回りをしてから来るそうでな。こちらに来る遣欧艦隊と共に来ると報告があった。」
「分かりました。ロウファ大佐、任務が重なってますね。坂本少佐を赤城まで送り届けて同時に輸送船の護衛任務もありますし、丁度良いのでは?」
まあ遅かれ早かれAlterは大規模作戦で連合軍の目に晒される事は想定済みだから良いとしても任務が重なるなんて何かがおかしい。その話を聞いた俺は何かの違和感を感じていた。
「輸送船とその遣欧艦隊はここに向かってるのか?」
艦隊の進路と輸送船の進路次第ではマーティンにも出てもらわなくてはならない。
「ええ。艦隊は輸送船を護衛しながらこの基地の近くを通ってロンドンに向かう予定よ。」
これで決まった。有事に備えて基地で待機させる予定だったマーティンも艦隊の護衛に付いて来てもらう必要がある。尤もマーティンにやってもらいたい事は輸送船の護衛なのだが。
「了解、2番機もつれて上がるとするよ。イーディスには輸送船の護衛を任せる方向で行く。」
「分かりました。輸送船には私達が必要な食料や薬品、整備用の部品・備品などがあります。必ず守りぬいてください。」
「分かった。坂本少佐、あなたには俺の機体に乗ってもらう。では格納庫でまた会おう。」
「ああ、分かった。」
それからエンジンブロックの整備を終え、その30分後、前以って高Gに対する訓練を行ってもらっていた坂本少佐に対Gスーツを着てもらいYFA-45に搭乗させ、離陸し現在は赤城の居る遣欧艦隊目指して飛んでいた。
「中々良い座席だな。これは座り心地が良い。」
「そりゃどうも。そういえば少佐は随分と宮藤軍曹に厳しいようだが、やはり魔力が限界に近いからか?」
ウィッチ達の訓練を見ていてふと気付いたのだ。坂本少佐が宮藤軍曹に物凄く厳しい姿勢を取っている事に。
「大佐はお気付きでしたか…確かに私の魔力も限界に近い。でも宮藤の奴だけは何としても一人前のウィッチにしたいんです。あの子の父親には私がお世話になりましたし恩を返さなくてはならないと思ってるんです。だから、だからせめて私の魔力が尽きる前にあの子を強くしてあげたいと思っているから厳しく当たるしかないんです。」
「…少佐、差し出がましいかもしれないが彼女は日に日に強くなっていると俺は思いますよ。上手く出来た時に褒めたりする事が人の成長を促すんじゃないか?」
坂本少佐とて厳し過ぎるとは思っていたのだ。思ってはいても立派なウィッチにして彼女の父親に恩返しがしたい、という気持ちが強く表れてあのように厳しくなってしまうのだろう。それ故育てていても自身が持てない、となる。
「大佐が宮藤を一度ご指導して頂ければ分かると思いますが、あの子は訓練ではダメでも実戦になると強くなる子です。お願いできないでしょうか?」
「ふむ、それはOKとしてもこの会話が他の連中にダダ漏れだったらどうする?」
「ま、まさか大佐、通信回線を切っていないのですか?!」
「冗談だよ通信回線は切ってある。ただし相棒との通信回線は繋がったままだがな。」
「ま、まだマーティン中佐なら良かった…」
『何だよ、俺じゃ不満かい?』
互いに笑いあいながら遣欧艦隊に接近している俺と離れた位置で輸送船の護衛の為に周辺空域で旋回待機させている相棒だった。そんな俺達の所に通信が入る。
『ウィッチーズ基地ミーナよりクロスボー1、クロスボー2へ。もうすぐ遣欧艦隊に到着予定です。赤城まで接近して着艦してください。』
と、ヴィルケ中佐から赤城へアプローチし着艦せよと言われ、レーダーを確認すると、そこには空母を中心とした巨大な輪形陣であり、戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦達が居た。向こうにも俺達が見れる距離に居るだろう。そんな事を考えていると遣欧艦隊から通信が来た。
『こちら遣欧艦隊所属の旗艦空母赤城!そこの所属不明機!所属を知らせよ!さもなくば迎撃する!』
-空母赤城 艦橋内-
艦橋は突如聞こえ始めた音で騒然としていた。
「何だこの音は?」
「見張り員、何か見えるか!」
「待って下さ…艦長!ウィッチーズ基地方面から何かが来ます!」
「何?!ネウロイか?!」
1人の見張り員が何かを見つけたらしく、艦内に緊張が走る。
「総員対空戦闘用意!繰り返す総員対空戦闘用意!」
艦の両舷に配置された12.7cm連装高角砲と25mm3連装機銃が空の一点を睨み付け始める。他の艦艇も対空砲が動いているのが分かる。
「杉田艦長、どういう事でしょうか。」
「どうしたんだ副長。」
「いえ、その対空電探に何の反応も無いのですが、上空に航空機が飛んでいるんです。」
本当にそんな事があり得るのか?電探に反応のせずに近づくことが出来る航空機は見たことも聞いたことも無いぞ。もしネウロイならば我々は悉く海に沈められるだろう。だがそんな考えを払拭したのは通信機から聞こえた坂本少佐の声だった。
『遣欧艦隊旗艦赤城艦長の杉田大佐聞こえるか?私だ、遣欧艦隊所属の坂本美緒だ。今上空に来ている。赤城へ着艦させてくれ。』
「艦長、さっきの声は…」
「坂本少佐?聞こえるか?私だ、杉田だ。少佐、あなたのストライカーを乗せてきたぞ。」
『了解だ。』
「上空に来ていると言っていたがどこだ?ストライカーで来たのだろう?」
てっきり坂本少佐がストライカーで来ているものだと思っていた我々は思いもよらぬ少佐の言葉に驚いた。
『今艦隊の上空に居る航空機に乗せてもらって飛んできた。いやあ速いのなんのモノの10分で着いたぞ。』
そう言って笑う少佐が乗っていると思われる航空機は既に赤城の後方に接近していた。
坂本少佐が応答をしてくれている間に着艦の準備を進める事が出来た。今晩は少佐のお酌でもしないとな…。
「こちら501〔ストライクウィッチーズ〕で特務任務に就いている航空小隊クロスボー隊だ。赤城艦長杉田大佐、赤城への着艦の許可を求める。」
『了解、着艦を許可する。坂本少佐を乗せてるんだ綺麗に降りてくれよ。』
「任せろ。」
スロットルダウンさせ、ギアダウン、赤城の綺麗な木製甲板が迫る。着艦時には着艦フックが用いられるが、この時代の空母の着艦ワイヤーの強度を考え、使用せずに着艦する。後ろのランディングギアが接触してから僅か1秒後にノーズランディングギアが甲板に接地する。その動作とほぼ同時に機体各所の減速用機器が稼働し、機体は一気に減速していく。カナードを最大俯角に稼働、エアブレーキON、これだけで十分減速できるが、この時代の空母では甲板が短いため、エルロンやフラップも利用して減速を図る。暫らく甲板を進んだ所で機体は停止。言い換えればAlterは赤城の飛行甲板中央で停止することが出来た。
「着艦完了。」
『素晴らしい腕前だな。2人とも機体を降りて艦橋の所まで来てくれ。戦闘機のパイロット、坂本少佐を送ってくれて感謝する。』
「気にしなくても大丈夫だ。こっちもそれが任務だっただけの事だ。」
キャノピーを開け、坂本少佐がヘルメットとマスクを外して機体に近づけられた階段から降りる。俺は機体をそのままにしておくわけにもいかず、甲板に居た兵士に声を掛けると自分は整備兵だと答えたので、
「あの機体を甲板の後ろまで移動させておいてくれないか?」
と、言うと、
「任せてくれ!あのまま後ろに引っ張って行けばいいんだな?」
そう返してくれたので、頼んでおいた。
対Gスーツのままでいる事に問題は無かったが、赤城の乗組員からは不思議な目で見られていた。艦橋まで案内された俺と少佐は先程の通信の相手でもある、航空母艦赤城艦長の杉田大佐と話していた。少佐には予め艦内に支給品の制服が置かれていたらしく着替えに行き格納庫で自身に届けられたストライカーを見てくるのだそうだ。
「ところで、軽い自己紹介だけでも良いか?私は杉田淳三郎。この空母赤城の艦長を務めている。」
「俺はエストバキア連邦空軍第3特殊航空小隊『クロスボー隊』所属、ロウファ・ローズベルト・コウジ。階級は大佐、コールサインはクロスボー1、TACネームはサジット、クロスボー隊の隊長を務めている。こちらこそ宜しく頼む杉田大佐。」
簡単に自己紹介を済ませておく。
「1つ聞きたいのだが良いかね?」
「ええどうぞ。あまり俺が喋れない事は俺も喋りませんがね。」
そこまで言った時、通信兵らしき乗組員が慌てて艦橋に飛び込んできた。
「た、大変です艦長!電探に多数のネウロイが探知されました!」
「何っ!方位を知らせよ!」
ネウロイが輸送船を嗅ぎ付けてきたとは考えにくいが…。この場で俺がやる事は1つだけ。
「くそっ!こっちは何隻か手負いの艦だっているというのに!」
「杉田艦長、俺が出よう。」
杉田大佐は驚いたような顔をし、止めようとしてきた。
「バカな事はいうんじゃない!例えジェット機でも武器が無いんじゃネウロイに勝てるわけ無いだろう!止めるんだ!」
「武器が無いんじゃなくて武器を閉まってるだけの事ですよ。」
そこまで言った時、坂本少佐が戻ってきて、
「ん?出撃するのかロウファ大佐?」
「ああ、そのつもりだが急いだ方が良いだろう。杉田艦長、心配するな必ず生き残るさ。」
それだけ言うとすぐさま甲板へ移動し、自分の愛機の元へ急いだ。甲板に居る兵に頼んで梯子を借りて機体に乗り込み、エンジンをスタートさせた時、
『甲板で作業中の乗組員に告ぐ、戦闘機が出るぞ!甲板から直ちに退避せよ!ロウファ君、決して命を落とすような事だけはしないでくれよ。健闘を祈る。』
そうありがたい言葉を、それも艦外マイクで掛けてくれた。
「感謝するよ杉田艦長。凄く短い時間だったが話せて良かった。クロスボー1発艦する。」
スロットルを最大まで押し込み飛行甲板を強引に加速していく。多数の甲板員が帽子を振って無事を祈るために集まった艦橋を通り過ぎ、甲板を飛び出した辺りで、機首を上げ、ギアクローズ。急上昇に転じ、レーダーに映るネウロイの方角に機首を向けてアフターバーナーを焚き最大速度で移動する。
「クロスボー1より遣欧艦隊全艦艇へ、最大戦速で回避運動を取り続けろ。ネウロイは俺が抑える。」
何故俺がこんな事を言ったのか、それはネウロイの攻撃が輪形陣の外側に居る駆逐艦の至近に着弾し始めている事が原因だった。
『こちら駆逐艦浜風!対空砲を撃ってるがネウロイが速過ぎて全然当たらない!』
浜風に攻撃しようとしているネウロイ、あれはF-1。対艦攻撃主体の攻撃機だ。
「待ってろ浜風、今追い払ってやる。クロスボー1EMLスタンバイ!」
機体上部よりレールガンユニットの砲身ががせり出し、ネウロイを睨み付ける。
「サジット、スラッシュ!」
右側の砲身から凶悪な電圧と磁力とに引っ張られた弾丸が発射される。無防備に背を晒し、駆逐艦浜風を狙っていたF-1型ネウロイを粉々に吹き飛ばす。ADMMを使っても良かったかもしれなかったが、もし外れた場合他の艦に当たる可能性も捨てきれないため余計な被害を出さなくても済むEMLを使用するしかなかった。
『な、何だ今の…赤城から出てきた戦闘機が光った瞬間にネウロイが消し飛んだ…』
『一瞬でネウロイを倒す武器…。まるでみたいだ…。』
『バカ、あれに乗ってるのは人間だぞ!ってうぉあ!何だ?!爆撃か?こんなところにまで爆弾が落ちてきたぞ!』
F-1だけでなく、爆撃機まで真似たのか。その爆撃機の姿はかつての第2次世界大戦の際に使われていたB-29スーパーフォートレス(超空の要塞)だ。
-また俺達の世界の真似事か!-
心の中で俺はそう毒づいた。それもそうだろう。真似をされるのは非常に腹が立つのだ。だから俺は、
「ADMMスタンバイ…ロックオン!ドライブ!」
これからは真似っこをして来たネウロイ共は有無を言わさずに片っ端から撃ち落としてやろうと決めた。その想いを表したかのようにネウロイに襲い掛かるADMMの嵐。それを追い掛けて急上昇し高高度まで一気に駆け抜け、B-29モドキのネウロイの後ろを取る。
慌てて回避機動を取るがこの機体の前では無駄な足掻きに等しい。慈悲も容赦もいらない、そう感じた俺は垂直尾翼目掛けてガンを叩き込む。そのまま水平尾翼も粉々にしながら機体本体に1番近いエンジンを1つ破壊し翼に穴を穿ってやる。主翼の根元に近いエンジンをつぶされ穴を穿たれたネウロイは空中分解を起こしながら墜落していく。その頃にはADMMが他のネウロイに命中し、青い空に白と黒の煙を創り出していた。
爆撃機がやられ始めた事にようやく気付いた護衛のネウロイが接近して来たが、もう遅いとしか言い様が無かった。護衛対象となっていたであろう爆撃機型ネウロイはADMMによって既に全滅していた。この護衛は護衛対象が全滅したのを悟ったのか逃げ始めた。それに俺には輸送船の護衛任務がある。これ以上の戦闘も無意味と感じ、レーダーに目を配る。
「クロスボー1より遣欧艦隊へ、敵は逃走を開始した。これ以上追う必要はないだろう。これより最優先の輸送船護衛任務を遂行させてもらう。杉田大佐、貴艦隊の航海の無事を祈る。」
遣欧艦隊旗艦赤城から坂本少佐が発進したのを確認した後、艦隊に向けて翼を何度か振ってバンクし輸送船の所に向かう。
-ネウロイは何故俺達が居た世界の物真似をするんだ。そんなにこの世界の人類を滅ぼしたいのか?それならウィッチに対抗するために力を上回らせるくらいなら物量で押し勝てるだろうに。わざわざ空を飛んで来て撃墜されるなんて洒落にならんな。-
そこまで考えて、その考えを拭い捨てる。
-今は戦闘中だ、余計な事を考えればそれが弱点になって撃墜される元になる。-
『ロウファ大佐、援護に感謝する。貴機の幸運を祈る!』
『こちら駆逐艦浜風、危ない所を助けてもらい感謝の言葉しか出ない。本当にありがとう。おかげで命拾いした。』
「了解。また何処かで会おう。Good Luck!」
遣欧艦隊とはここでお別れだ。彼等には彼等の任務がある。同じように俺達にも任務が待っている。
『クロスボー2より1へ、艦隊は無事に行ったか?』
「クロスボー1より2へ、ああ、浜風が至近弾を喰らった事を除いたらほぼ無傷で行ったよ。」
『そりゃ良かった。』
輸送船とその周りを飛ぶウィッチーズの面々は輸送船がネウロイにやられないようにするための護衛役として出撃し、イーディスがそれをカバーする、という形で護衛をしていた。
「そっちはネウロイと交戦したか?」
『いやまだだ。全部がサジットの所に集まっていたのと艦隊を叩きたかったようだ。』
艦隊を叩きたいという事はそれなりに奴らも考える能力があるようだな。近いうちに起きる大規模な作戦があるらしいが、それを感じ取っているのかもしれない。
「クロスボー1よりウィッチーズ、聞こえるか?ヴィルケ中佐。ネウロイは一応撃退したが何とも言えない。言葉では言い表せないが何か違和感を感じるんだ。そちらに異常は無いか?」
先程からずっと気になっていた事であり、妙な違和感をずっと感じていた。
『いえ、特に何もありませんが…。どうしたんですか?』
「何も無いと良いんだがな。基地がやられたらそれこそ洒落にならん。」
『そうだな。レーダーを潰してから基地を攻めるのは常套手段だしな。』
『まさかわたくし達の基地がネウロイ如きにやられるとお思いですの?ありえない事ですわ。』
この声は確かペリーヌ・クロステルマン中尉だったな。高貴というか高慢ちきというか、まあ貴族の雰囲気たっぷりの少女だ。
「どうしてそんな事が言えるんだクロステルマン中尉。」
『ネウロイ如きにまともな知能があるとは思えませんもの。ウィッチーズ基地の対空砲は最新鋭の物ばかりですし、わたくし達ウィッチが居れば護りは鉄壁ですわ。ネウロイに陥落されるなどありえるわけ無いでしょう。』
「さて、それが本当だと良いのだがな。奴らもバカの1つ覚えみたく突撃を繰り返してるわけじゃない。ざっと資料を見た限りじゃ同士討ちを狙うタイプもいれば民間人も狙うタイプもいる事が確認されている。これじゃあどこがネウロイに知能が無いと言い切れるのか俺は不思議でたまらない。その理由が知りたいね。」
言葉に詰まる様子のクロステルマン中尉を機内から見下ろしながら基地に通信を入れる。
「こちらクロスボー1、任務完了だ。これより………?ヴィルケ中佐?」
『どうした?』
「いや、基地と通信できない…。無線自体も故障はしてないしここから基地は近いハズなんだが通信の反応が無い…。応答せよウィッチーズ基地!ヴィルケ中佐!」
『おい、マジで繋がらねえのか?!』
「繋がらないから通信が出来ないんだろうが。ちょっと周波数を変えてみるか…。」
突然ウィッチーズ基地との通信が出来なくなった事で、ウィッチ達が慌てるがイーディスが静かにしろと一喝していた。その間に、周波数を変えて通信を試みる。
「ヴィルケ中佐、聞こえるか?ウィッチーズ基地応答せよ。何かあったのか?」
すると、
『あ、ロウファ大佐!良かった無事だったんですね…。突然通信が途切れたからビックリしましたよ。周波数を変えてみて正解でした。』
通信に応じたのはヴィルケ中佐では無く管制塔に居る通信兵だった。
「こちらも周波数を変えたところでな。そちらに何か異常は無いか?何かレーダーに映っていると良いんだが…。」
『いえ、ウィッチーズが映っている以上に特に問題はありませが…ん?何だ…分かった直ぐに伝える。』
向こうでも何かを捉えたのだろう。こちらも基地に向かう途上と思われるネウロイを見つけたところだ。
『大佐、ペベンシーのレーダー施設がネウロイに襲われた可能性が出てきました…。』
ペベンシーレーダー施設。それはブリタニアを守るウィッチーズ基地のレーダーよりも巨大なレーダー施設で、カールスラントとリベリオンが共同開発した高性能レーダーとして今までブリタニアに迫り来るネウロイを監視し続けている『目』の役割をしているのだ。それが攻撃を受けた…これは目が見えない状態で手さぐりでネウロイの迎撃をしなくてはならなくなる。
「了解した。ヴィルケ中佐に伝えてくれ。『レーダーだけでなく双眼鏡でもなんでもいいからとにかく周辺の監視を怠らないようにしてくれ』とな。状況が状況だ。これより臨時で俺達がウィッチーズの指揮を執る。宜しいか?」
『了解です。必ず伝えます。』
レーダーを潰されるのは非常に痛いが、基地を失う事も避けたい。よって、臨時にウィッチーズ隊にクロスボー隊の指揮下に入ってもらい、戦う事になる。
「ウィッチーズへ、これよりクロスボー隊の指揮下で戦う事になる。こちらの指示が出た場合は従ってもらうがそれ以外は各自の判断で行動せよ。当隊はこれからペベンシーレーダー施設に向かい、ネウロイと交戦する。それと坂本少佐は無茶をしないようにな。」
『2、了解。』
『シャーリー了解!』
『分かっている。無茶はしないようにするさ。』
『分かりました。リーネちゃん頑張ろうね!』
『うん!頑張ろう芳佳ちゃん!』
『りょうか~い。行こうトゥルーデ!』
『ああ!奴らを叩き潰してやる!』
ここでウィッチ達は俺達の指揮下に入る事に何の不満も言わずに入ってくれた。だが、不満を言っている者が居た。
『わたくしはお断りしますわ。』
『おいペリーヌ!ロウファ達の方が階級とか歳とか上だろうが!ちゃんと従えって!』
やはりというか予想が的中したというかクロステルマン中尉は従わないと言ってきた。
『どこの馬の骨とも知らない輩の指揮下に入るなんて嫌ですわ。ま、坂本少佐の指揮ならば構いませんけど。』
流石にここまで言われると腹立たしいが、彼女1人に時間を取られるわけにはいかない。
「従いたくないならこちらは一切関わりはしない。何が起きても俺達は責任は取らないという事は頭の中に入れておいてくれ。その上での単独で行動してくれ。」
『なっ…!』
当り前であろう。統率を乱したり、あまりにも協調性の無さ過ぎるヤツと共に飛ぶ事は自分の命も危険に晒す事になるのだ。そんなヤツの為に死ぬのは御免だ。
『まだまだお子様の嬢ちゃん達には厳しいかもしれないし理解が出来ないだろうが俺達の世界じゃ1秒でも判断が遅れたらそれが死に繋がるんだよ。』
「喋り過ぎだイーディス。ペベンシーの方面の状況確認に行くぞ。協調性の無い者1人の為に時間を浪費するだけ無駄だ。戦場での俺達の掟を忘れずに守れ。-迅速かつ的確に目標を沈黙させ殲滅する-だ。」
『分かってるよ。やれやれホントに人使いが荒い事で。』
「ウィッチーズは基地に接近するネウロイの排除を頼む。ウィッチの鉄壁の守りとやらに期待する。全機作戦行動開始!行くぞ!」
2手に分かれ俺達はペベンシーへ、ウィッチ達は基地に接近しているネウロイの撃破の行動に移る。
-全くペリーヌももう少ししっかりとした意見を言えばロウファ大佐に論破されずにすんだだろうに-
「何笑ってんのさトゥルーデ。」
「な、何だフラウ。私は変な事も何も考えてはいないぞ。」
「まあ良いけどさ。あんまりのんびりしてると横から取られちゃうかもね。向こうの判断しだいだけどね~」
-フラウめ…要らん事ばかり言いおって…-
確かに大佐の言う事は尤もだと私も思う。いや、思うようになった、と言うのが正しいか。執務室でミーナに聞かされた事はショック以外の何物でもなかった。私達の想像が追い付かなくなるほどの凄惨な大佐達の生き抜いた過去の戦争の事を何としても直接聞きたい。そのために生き残る、それだけだ。急降下をしながらMG42を構え、引き金を引く。
「うおおおおおおおお!」
愛銃の銃口から吐き出される弾丸がネウロイの装甲を粉々にしていく。そのうちにコアに当たったらしくネウロイは砕け散っていく。
「トゥルーデやるね~私も負けてらんないや。」
フラウはネウロイを後ろから強襲して攪乱役に徹している宮藤や坂本少佐の援護と突撃を行い、素早く牽制攻撃も行う。中々に難しい芸当だが、フラウは簡単にやってのけるのだから羨ましい限りだ。
「まだまだ私も負けられないな…」
そう呟きながら再び戦闘へと意識を戻していこうとした時だった。
『こちらクロスボー1.残念な報告がある。ペベンシーは完全に使えない状態になってしまっている。』
「ペベンシーがやられたのか…くそっ!流石に頭が回る連中もネウロイの中に居るようだな。」
坂本少佐が毒づく。そこに思いもよらぬ言葉が聞こえた。無論大佐を怒らせるという意味で。
「まさかとは思いますが貴方方がやった事では無くて?ペベンシーをワザと攻撃したんじゃありませんの?」
何を言っているんだペリーヌ、彼等を信用できないのか!そう言いたいが言えない。
「ペリーヌ、余計な事は言うな!まだ報告の途中だ、話は最後まで聞け!」
『クロステルマン中尉、君はもう基地に帰投してくれ。君は戦闘の邪魔になるとこちらでの判断だ。』
ついに大佐からの戦域離脱命令が出たという事は相当腹が立っている、という事になる。
「坂本少佐のご命令ならば従いますわ。それ以外の指示には従いません。」
『そうか聞こえなかったか。もう1度はっきりと心に響くように言ってやろう。クロステルマン中尉、テメエのような凝り固まった性格のクソガキは戦場には要らねぇ。邪魔だからさっさと基地に帰れ。これ以上戦場を荒らすな。』
大佐の声が重苦しく響く。要は戦場である程度の命令に従わず、悉く拒否するくらいなら消えろと言っているのだ。
「それは言い過ぎじゃないでしょうか大佐。」
『まあ、言い過ぎかもしれないけど戦場じゃクロステルマン中尉のような兵士は必要じゃなくなってくるんですよ少佐。』
ロウファ大佐は話さなくなった代わりにマーティン中佐が代弁してくれている。
『中尉には悪いが当該空域からは離脱して基地に帰投してもらう事になる。良いな?』
今の通信を聞く限り、単独で帰れといっているようなものだ。この状況下での単独での帰投は自殺行為に等しい。護衛くらいは付けるべきだ。
「坂本少佐、誰かがペリーヌの帰投を援護した方が良いのではないでしょうか?」
「まだわたくしは戦えますわ!」
未だに抗議を続けるペリーヌに更なる追い打ちが掛かる。
「これは私からの命令だペリーヌ。基地に帰投しろ。」
「わ、分かりましたわ…」
渋々といった感じで帰路に着くペリーヌ。だが、誰も援護に付こうとしない。このままでは帰投中にやられる可能性も出てくる。
『こちらクロスボー1全機任務完了だ。そのまま帰投せよ。ペベンシーの事はこちらで報告はしておく。』
「了解。」
ロウファ大佐の声は怒っている感じは全く無かった。寧ろ、ペリーヌを労るような声音だった。
『レーダー施設がやられたのは痛いしすぐに復旧も出来ないのが難点だな。暫らくは機体も整備しなけりゃならんし当分の出撃は控えるしかないな。』
ペリーヌの援護には宮藤とリーネが付いて帰投したようだった。流石に軍人の鑑と自負していた私でもまた見習わなくてはならない。この戦闘でロウファ大佐とマーティン中佐の方がよっぽど軍人としての鑑そのものだという事がよく分かった。私はまだまだだな。
-ペベンシーが全滅。復旧作業にはすごく時間が掛かる。その間はネウロイを防げない。-
「かなり厳しい状態になっちゃったわね…。」
「すまんヴィルケ中佐。俺達がもっと早く着いていれば全滅せずに何基かのレーダーは生き残れたハズだったんだが…。本当に申し訳ない。」
「途中でネウロイの妨害にあった、と言えば嘘になる。だが妨害されたのは偽りようの無い事実だ。すまない。」
2人から深く頭を下げて謝罪されるがもう起こってしまった事はどうしようもない。
「仕方ありませんよ、報告が来た時にはもう手遅れに近かったと聞いてますから…。貴方達の責任じゃありませんよ。これから復旧するまではこの基地の古いレーダー設備を使うしかありませんね…。」
実はこのウィッチーズ基地のレーダー設備は意外と古く、真空管の中にある電極間でスパークが飛ぶとその方角に物体がある、としか分からないものと、そこそこ信頼は出来るが時折不調を起こしてしまう旧型の水上レーダーの2種類しかないのだ。いかに対空砲火が最新鋭の物であっても、肝心の見張りの目が古くては性能を発揮できない。それにネウロイは長距離からでもビームを撃てる事から、対空砲をピンポイントで狙われたらひとたまりもないだろう。
「あとは俺達の機体に積んでいるレーダーを使えればいいんだが生憎今日から大掛かりな整備があって機体のエンジンブロックの再検査をしなけりゃならないからレーダー機能も使えなくなるしな…。そういえばヴィルケ中佐、輸送船は無事に帰ったんですよね?」
「ええ、今回は食料と整備用の工具とストライカーユニットの備品やその他雑貨品ですね。」
そこまで言った時に2人の方を見ると2人とも居眠りをしていた。マーティン中佐は船漕ぎしていたがロウファ大佐は変わらぬ姿勢でただ目を瞑っていた。それを見て相当の苦労と疲労が溜まっているから眠くなってしまったと思った。事実上彼等はほとんど寝ていないまま戦闘に駆り出されている。睡眠を取る時はコクピットでも寝る時はあると聞いた。寝顔をじっと見ているとロウファ大佐が目を薄らと開けていた。
「おいおいヴィルケ中佐、人の寝顔を盗み見なんてするもんじゃないぜ。別に俺達なんか見たって意味ないぞ?」
「あはは…つい見てしまって。」
そこまで言ってふと思い出した。大佐達に伝える事を1つだけ忘れていた事があった。
「あ、1つ言い忘れてました。」
「何をだ?」
輸送船から降ろされた積荷に不思議なものが混ざっていたのだ。
「今日の積荷に不思議なものがあったんです。取り敢えず、格納庫まで来てもらって宜しいですか?」
「ああ、どうせ整備もあるから行かなきゃならん。おい起きろマーティン。何時までも寝てるんじゃない。」
格納庫に着いた俺達の目の前に置いてあったのはかなり大きい2つのコンテナだった。
「これは貴方達の国のマークじゃないの?」
そう言ってヴィルケ中佐が指差して示した所にはAlterにも描かれている金色に輝き飛んでいる鳩のマークだった。
「こいつは確かに俺達の祖国エストバキアのマークだ。しかし本当にコイツが輸送船で運ばれてきたとすると中身は何なのやら。」
「大きさ的には弱大型の戦闘機が入りそうな大きさと奥行きだな。」
弾薬なら大歓迎だが、それ以外に求めるなら機体のパーツとか整備用の道具だな。
「取り敢えず俺達が開けるから皆は下がっていてくれ。いくぞマーティン。せぇのぉぉぉ!」
「分かってるって。うりゃぁぁぁ!」
2人がかりでようやく開いたコンテナの扉の中を覗いて見て何が運ばれてきたかは分かったが、それは俺達にとってはちっとも喜ばしく無いモノだった。
「おいおい、何でこんなモノが来たんだよ…」
「ありえねぇぞ…」
「どうかしたんで…な、何ですかこれは…?」
周りに居た者たちが何事かと集まって来る。俺はその人だかりを退けるため、
「全員どいてろ。運び出すのにそこに留まられると非常に邪魔になる。」
そう言って中に入っている物体を見上げ、1人呟く。
「何故ですか…。何故約束を破った俺達の所に来たのですかパステルナーク少佐…。俺は貴方との約束を守れなかったというのに…!」
そこには、夕焼けに染まるグレースメリアの上空で四散したハズのパステルナーク少佐が愛機として使い、シュトリゴン隊のカラーに染まったCFA-44 Nosfertsuが無言で鎮座していた。
「なあロウファ、これも戦闘機なのか?」
声を掛けてきたイェーガー大尉に、そうだ、と短く答え、コクピットに向かう。コクピットの中身は俺が少佐好みに改良し、整備し直した当時のままだった。シートに座り、エンジンを始動させる。そのエンジン音にその場に居た者全てがこちらを向き退避する。
「全部あの時のままか…。どうしてあの時のままなんだ…。」
機体を操りコンテナの外へ出す。そのまま折り畳まれていた翼端部を展開し、YFA-45の傍に駐機させ機体から降りる。
「あの時のままだなコレ。」
「ああ、パステルナーク少佐が四散する直前まで操っていた状態のままだ。それともう1つのコンテナには絶対工具があると俺はみるぞ。」
「工具、ね。まあ弾薬なら良いがな。」
そう小声で呟きながらもう1つのコンテナも開ける。
「おっ!やっぱり工具だ。それに予備の部品まであるし、アヴェンジャーの弾丸もAAM-9Lも特殊兵装の予備もあるな。ん?あれは…」
予想通りの答えが出た俺達は嬉しかったが、その奥にあるモノを見て目を疑った。
「なんでお前らまで来たんだ…マーレポルジェ…」
この世界に飛ばされた事は良いとしてもUAVまで来るのはカミサマとやらの悪戯か?
第7話「パ・ド・カレー上空戦」
-格納庫に届いた積荷は間違いなくこの先起こるだろう大規模作戦に利用されるとは思っていたがまさかこんなに早い段階で使う場面が来るとはな。-
3日前、格納庫に運び込まれた最新技術の塊と言えるUAV:マーレポルジェ26機の内7機だけ(残りの19機は調整が間に合わなかった)を引き連れながらロウファは2番機も従えてドーバー海峡を越えた先にあるガリアのパ・ド・カレー地方の偵察に向かっていた。
『しかしマロニー大将も厄介な事を頼んできたもんだ。』
「取り敢えず任務は任務だ。言われた通りの指示には極力従うしかないだろう。」
『だからってマーレポルジェとユーティライネン少尉とリトヴャク中尉まで乗せてこなくても良いじゃないか。』
今回の偵察は敵を1か所に集めておいて、囮というかネウロイを陽動するために廃棄が決定している鉄屑をばら撒く作戦らしい。電話でマロニー大将から、
『今回、ガリアの解放作戦に向けて鉄屑入りのパッケージを投下し、ネウロイをおびき寄せるための陽動作戦を実行するに当たってパッケージ投下を行う爆撃機の護衛をして欲しい。お前達以外にも、各航空隊が爆撃機護衛に参加するが現地での指揮はロウファ大佐、貴様に任せる。良いな?』
『その事は各航空隊にもお伝えくださいね。名前も顔も知らん輩が護衛に居るなんて洒落になりませんからね。』
『まあそれは伝えるとしても貴様らはたった2機で構成されているのだったな。少ない気がせんでも無いが…』
余計なお世話だこの野郎。まさかそんな事を言えるわけないので黙っているが。
『それは大将がお気になさる事では無いでしょう。』
『フン、まあいい…貴様らに改めて通達する。陽動作戦に従事する爆撃機を護衛せよ。』
『クロスボー隊了解。』
とまあ中々に面倒な事があったのだ。
「何ダヨ、マーティン中佐。私達が乗っちゃダメだって言うノカ?」
『いや、そんな事は言ってないって。それと空ではクロスボー2かイーディスで呼んでくれ。』
『ダメよエイラ。大佐達に迷惑かけちゃ。』
「まあサーニャがそう言うなら良いけどサ~」
「こら、お前等は何雑談に興じてるんだ。任務に集中しろ。」
放っておくと延々と加速し続けるであろう雑談は早々に切り上げてもらわねばならない。だが護衛対象の爆撃機隊とその他航空隊からは、
『おいおい、雑談はもうおしまいかい?中々楽しそうな内容だったが。』
『大方マロニー大将の事言ってたんだろ。あの大将の事は俺達も嫌ってるからなぁ。』
と、これまた言いたい放題だった。全く、イーディスの雑談には俺も勝てないな。
「そりゃ悪いことしたな皆。クロスボー1よりスター1へ、そろそろ予定ポイントに到達するぞ。パッケージ投下の準備をせよ。」
『スター1了解。よ~しパッケージ投下だ野郎ども!全機投下開始!』
爆撃機達がバラバラと鉄屑入りのパッケージを投下していく。その遥か下方では、蜘蛛のような蟻みたいな形をしたネウロイがパッケージを見上げていた。尤も、着地したパッケージに気持ち悪いくらいの勢いで群がっていたが。
「あれが地上型のネウロイか…昆虫みたいだな。」
「何言ってんダヨ。あれ以外にもちゃんとした戦車の形をしたヤツだっているんだゾ。」
ほう、戦車の形をしているか…この時代だとM4シャーマン中戦車かタイガー重戦車タイプみたいな恰好をしているのだろうか。
『只今俺達はネウロイの餌付け中ってな。』
1人が笑いを取った時、ふとレーダーを見ると、多数のネウロイが接近してきている事を示していた。
-さて、お遊びはこれまでだな。-
「連合軍全機へ、多数のネウロイがこちらに向けて接近中。俺達が相手をしている内に反転して離脱せよ。」
『スター1了解。クロスボー、死ぬんじゃないぞ!出来ればまた共に飛びたいしな!』
そう言って離脱していく爆撃機達。残った機体はP-51Dノースリベリオンムスタングを集めた部隊アルダー隊が残っているだけであった。彼等は空に憧れて空軍に入隊したのにネウロイの所為で自由に飛べなくなった、だからウィッチに頼らないとまともに戦う事しか出来ないのが非常に男として情けない。年端もいかない子供に、しかも女性だけに世界の未来を背負わせる事はしたくない。何のために男が居るのか分からないetc… 等とずっと俺達に愚痴を零していた連中だった。
「アルダー隊、離脱せよ。君達と世界中の戦う事が出来ない男達の肩代わりくらいは出来ると思う。君達がここで死ぬ事は現地指揮官を任された俺が許さない。反転、爆撃機の護衛に付け。」
『…っアルダー了解…頼んだぞ、必ず生き残れよ。Good Luck!』
アルダー隊は先に離脱したランカスター重爆撃機で構成されたスター隊を守るために反転していった。
「任された。行くぞイーディス。奴らを捻り潰す。」
『2、了解!リトヴャク中尉、意識をもって行かれないようにな!』
『は、はい!』
スロットルに静かに手を置き、静かにHMDを見据える。
「ユーティライネン少尉、この機体のピーキーさは分かっているな?」
「おう、分かってるゾ~」
それなら話は早い。素早くマーレポルジェへの管制を行う。
「よし、目標は設定した。行け!マーレポルジェ!」
『了解。警戒態勢ヨリ攻撃態勢ニ移行。』
機械音声が流れたあと、7機のマーレポルジェが物凄い勢いで突撃していく。
「はっやいナ~」
それに続いてこちらも加速し、突然のマーレポルジェの出現に驚き、連携が乱れてたネウロイに急接近しアヴェンジャーを叩き込み粉々にする。
『やるねぇサジット!俺も負けてらんねぇな!クロスボー2Fox2!』
イーディスの放ったミサイルがネウロイを貫通し、爆発する。
「クロスボー1Fox2」
こちらも負けじとミサイル発射。目の前に居たネウロイにモロに直撃し本体の半分ほどをミサイルが食い千切る。そのまま爆風に撒かれて見えなくなる。撃墜は確定である。
『ジジジジ……ビーッ!』
突然鳴り響き始めたミサイルアラートにビックリしている少尉に首をしっかり引っ込めていろ高G旋回に入ると伝える。
ショートバレルロールでミサイルらしきものを躱すが、その代償として後ろを取られた。
「おいおい!後ろ取られてどうすんダヨ!」
「慌てるな少尉。まだ俺達が死ぬと決まったわけじゃない。それよりもしっかりと首を引っ込められるだけ引っ込めてるだろうな?高Gを掛ける時は直ぐに教える!」
後ろを取ったにしても突撃せずに俺をトレースするような動きしかしていない。実際はトレースしているのはネウロイでは無く、ロウファ自身がネウロイが自身に付いてきやすいような緩めの機動を掛けているためであった。機体をジンギングさせ、様々な角度で旋回をしながらチャンスを窺う。
-まだだ、まだここじゃない。そのまま焦って付いて来い。痛い目を見せてやろう。!来た!仕掛けるならここしかない!-
「少尉!引っ込めろ!」
それを合図として少尉が首を出来る限り引っ込めながら体をシートに押し付ける。その間に俺はスロットルレバーを1番手前に引き、スロットルMIN、コントロールスティックで機首を94度まで無理矢理跳ね上げる。相手から見れば、後ろを取ったはずなのにいきなり目の前からあっという間に攻守が逆転されたと感じる空戦機動、
「これがプガチョフコブラだ覚えときな」
そのまま俺を追い越したと同時に機体を強制的に水平に戻し、追撃開始。アフターバーナーを使いながらガンを発射。見る間にボロ雑巾のように穴だらけになり、ネウロイは爆発、四散した。
「凄い…あんな事が出来るなんて…」
「何言ってんだリトヴャク中尉。あの技はこっちの世界で言えばオラーシャ空軍の兵士が編み出した素晴らしい空戦機動なんだぞ。あれはプガチョフコブラだ。良く覚えておきな。」
エイラを乗せたままロウファ大佐がやった事は戦闘機を94度まで跳ね上げ、その気流の変化を利用しネウロイを強襲したのだ。美しい流線型の機体が生み出す空戦機動は華麗であり、素晴らしいものとなり印象に残るものだった。
「同じ機種だからあの機動も出来なくは無いが体に掛かるGは凄まじいんだ。アイツは元々からG耐性がバケモノに等しいから高G旋回とそれを更に上回る超高G旋回を10連続くらい軽くやってのける奴だからなぁ。それに後席の事なんて考えずに行動するから『後席殺し』とまで呼ばれてたよ。正直サジットの後席は可哀想だぜ?なにせ常人じゃ耐えられない機動で敵機を振り回すんだからな。」
そう言う中佐自身の腕も凄かった。長距離のミサイルを機体を逆さまにして発射までの時間を短縮して回避しようとするネウロイの隙を付いて機銃弾をばら撒いたところへ先程の無人戦闘機マーレポルジェが突撃し攪乱する。そこに中佐がミサイルを撃つと、ネウロイはバタバタと落とされていった。
「よし、粗方殲滅したな。帰還するぞ。」
『2了解。』
「こちらクロスボー1、偵察任務とパッケージ投下による陽動作戦は完了。これよりウィッチーズ基地に進路を取る。RTB」
「なあロウファ大佐。朝、ミーナ中佐に呼ばれて大佐達に伝えて欲しい事があるって言われててさ、本当はすぐに伝えたかったんだけど大佐達忙しそうだったから言えなかったんだヨ。」
何なんだろうかその伝える事とは、しかし俺達が忙しそうに見えたんだ?あれはただのフライトプランの軽い打ち合わせだったんだが。
「何だ忙しいように見えたのか。あれはただ軽い打ち合わせにすぎん。で、伝える事は?」
「何ダ、打ち合わせカ…。ああ、伝える事ってのは今日の夕飯の事ダ。」
夕飯、夕飯、?何故夕飯の話しが来るんだ?
「何でも、異世界の料理が食べたくなっただけの事らしいゾ。」
「……」
これはまたエライ事になった。あの事件以来料理はサポートをするのみにしようと決めているのに…
「当番制か?」
「うん。今日は私とだゾ。光栄に思えヨ~」
この世界に来て初の食事当番でユーティライネン少尉と共同かよ。光栄にすら思えないぜヴィルケ中佐。俺がそんな事を思っていた頃基地ではヴィルケ中佐が小さなクシャミをしていた。
-風邪かしら?体調管理はしっかりしていたハズなのに…-
などと考えていた。
「いきなりか…、作れない事は無いが出来ればサポートに回りたい…。」
そうこう言っている内にマーレポルジェ達が帰ってきた。調子は良好なようだ。
「お疲れさんと言いたいんだが基地に着陸して格納されるまでやって欲しい事がある。」
『何ヲ実行スレバ宜シイカ?』
「このまま警戒態勢を一切緩めるな。寧ろ限界まで集中して周囲の警戒を怠るな。頼むぜ。」
『了解。命令ノ実行ヲ開始スル。』
7機が一斉に分散して周囲を警戒してくれている。後でしっかり整備して労を労ってやるからな。あと、今回の任務に出れなかったマーレポルジェ達も整備してやらんとな。
「大佐、何で機械にお願いしてるんダ?たかが機械ダロ?」
少尉の言う事も尤もだろう。だが俺は例え機械であっても頑張ってくれた事に感謝する事で、次の出撃もお互いに頑張るという意識の高め合いが出来るような気がするからこそ労う、ただそれだけだ。
「俺達のためにボロボロになっていく機械達を見るとどうしても無性に労いの言葉を掛けたくなるんだよ。俺達の命を護る代わりに機械達が傷ついていく、ズタズタになったりもする。でもそれは俺達人間の勝手な都合だけで生み出されたモノ。勝手に造りだした以上、無視は出来ん。」
「ふ~ん。」
「少尉、君らもだぞ?君達を戦場まで運ぶのは誰だと思ってるんだ。ストライカーユニットだろ?そのストライカーユニットにも感謝しときな。『何時も頑張ってくれてありがとう。』くらいは言っておけ。やるのとやらないのじゃ後味が違うし、戦闘にも身が入るというものだ。」
「めんどく…『大佐はそんな考えを持っていたのですか…私、帰ったらそうしてみようかな…』ま、まあサーニャがやるなら私もしないと」
俺だけじゃなくてイーディスもなんだがなあ。完全に存在が忘却の彼方だ…。相棒、悲惨だな。尤も、同情はしないが。
『クロスボー2より1へ、マーレポルジェは格納庫に収まりきらない気がするのは俺だけか?』
「心配するな2。俺もその対策は考えてある。帰ったら教える。」
『2了解。』
そうこう言っていると夕焼けに染まる景色の中に佇むウィッチーズ基地が見えてきた。
-大佐が帰って来たな。-
このジェットサウンドを聞く度に無事に帰って来てくれた事が分かる。
-格納庫まで様子を見に行こうか。だがそれだとリベリアンやフラウに勘違いされてしまうし…。仕方ない、この際テラスで我慢しよう。テラスなら風に当たりに来たと言い訳もできる。よし、行こう。-
しかしテラスには先客が居た。何故、リベリアンがここに居るんだ。
「おいリベリアン。何故ここに居る。」
「あたしが何処に居ようとあたしの勝手だよこのカタブツ。」
「んなっ!貴様という奴は…」
そこまで言った時、丁度ロウファ大佐達が素晴らしいコース取りで滑走路に着陸して来た。私もリベリアンもそれに暫し見惚れる。
「やっぱり、カッコいいなぁ~ もう一度乗せてもらおうかな~」
その後、上空からロウファ大佐が操る無人戦闘機、確かマーレポルジェだったか?が着陸し、整備兵によって格納庫の前に並べられていく。
「なあやっぱりカッコいいよな!な!」
とリベリアンが迫ってくる。
「私にお前が言うカッコいいが何を指しているのか全く分からん。」
「何ってロウファとマーティンの事じゃん。あの2人中々考えもつかない事言うだろ?そこがカッコいいんだって!」
何を色惚けているのやら、こいつの頭の中は音速と空しか無いのか…。本格的に頭の中を覗いて見たくなる。
「それにさ、カッコいいじゃないか。別の世界から来たってのにあたし達の事ばっかり気にしててさ、何が何でも護ろうとしてくれる。ペリーヌが言う鉄壁の護りなんて結局はあたしらウィッチの魔力が切れたらそこで終わりだ。鉄壁どころか壁なんて無くなっちまう。ロウファが論破した通り、魔力無しじゃ何にも出来やしない。」
「確かにリベリアンの言う通り、我々は魔力が切れたらそこでただの少女に戻ってしまう。まさかリベリアン、貴様惚けているわけではないだろうな?」
少し赤めの顔をしながら大佐達の姿を見ている感じはどう見たって惚けているとしか見えない。しかし、リベリアンは、いやシャーリーは私を真剣な眼差しで見ながらこう言った。
「ああ、そうだよ。あたしは惚れたんだよ!ロウファに惚れちまったんだよ!それのどこが悪いってんだ!夜間哨戒の時にその事に気付いたんだよ…。」
一瞬だけ、大佐とリベリアンが一緒に居るところを想像してみる。……ダメだ。何故かそれを想像するのが怖くなってしまった。もしかして私も…?いや、そんな事は無いはずだ。ただ気になる程度だ!うん、そうなんだ!
「やはり色惚けていたか… まあいい私には関係ない事だ。」
そう言って格納庫に向かおうとした時、シャーリーに呼び止められた。
「ま、待てよ!何処行くんだ!」
「私が何処に行こうと私の勝手だろう。」
先程シャーリーが言っていた言葉をそのままそっくり返してやる。そのまま突っ立って居るシャーリーを無視して格納庫に若干の急ぎ足で向かう。
格納庫にあと少しの所の角から出てきた人物に私はモロにぶつかってしまった。ただし双方こけたりはせずやんわりと接触したと言っても良いだろう。その反動で反射的に声を荒げてしまう。
「っバカモノ!ちゃんと前を見て歩かん…か…」
だが、相手はまさかとは思いもしなかった人だった。
「おっとそれは悪かったなバルクホルン大尉。今度からは気を付けたいが今回は君もこちらに来ていたのだから御相子だぜ?」
「ん~?お、バルクホルン大尉じゃないか。どうした?俺らはマーレポルジェの整備が終わったがこれからロウファとユーティライネン少尉は夕飯の飯当番なんだそうだ。」
後ろからひょっこりと出てきた中佐。その2人の間からサーニャが顔を出し、更に大佐の頭の上で両手を交差させたエイラが出てきた。どうやったらそんな事が出来るんだ…
「大尉何かあったノカ?今から食堂に行って夕飯の準備するけど大尉もヤルカ~?私の代わりにやってくれヨ~」
さり気無く嬉しい事を言ってくれたエイラがマーティン中佐に説教される。
「何を言ってんだ少尉。自分に与えられた仕事をやり遂げられないのではまともな大人になれんぞ。最悪ここに居るロウファみたいに…ぐぇっ!」
1回瞬きする間にロウファ大佐がマーティン中佐の首を締め上げていた。しかも思いっ切り。
「ちょ、ギブギブ!悪かった悪かった!」
暫らく首を締め上げていた大佐だったが、ようやく離した。
「あ~死ぬかと思った~」
「そのままくたばるかと思ったんだが…ちと首の絞め方が甘かったか?」
「いや待て待て!それ以上首絞めたら俺死ぬよね?!」
この2人は何をしているのだろうか…
「取り敢えずユーティライネン少尉、夕飯の支度だ。早くしろ。」
中佐を放置したまま食堂に向かう大佐とエイラ。
「あの2人見てても中々絵になるな。ん?どうしたんだ大尉?2人が気になるのかい?」
「ち、違う!何を言ってるんだ中佐は!そんな事は無い!」
この中佐といいエイラといいどうしてこうも私をからかうのが好きなのだろうか。全く、人をからかうのもいい加減にして欲しいものだ。だが、ロウファ大佐の事がどうしても頭から離れてくれない。何故だ……
-ウィッチーズ基地厨房-
「ほう、結構広いな。」
「食堂も広いからナ。その分広く場所を取れたってミーナ中佐が言ってたゾ。」
ふむ、なかなか良い設備だ。掃除も行き届いていて申し分ない。それはともかく何を作るかが問題だ。これといって得意料理は無い、と思うが一応良く作っていたのはピザかノストラさん直伝のヴァンピールカレーくらいしか無かったがやろうと思えばフランス料理、ベルカン料理くらいならできる。だがいきなりそんなものは作れないし材料も足りない。なら手早く出来るヴァンピールカレーの方がまだいい。
「さて、カレーを作りたいと思うわけだが。」
「カレー?カレーもロウファの世界にあるノカ?」
あああるとも。但し、むちゃくちゃ辛いがな。それは食べてからのお楽しみだが。
「カレーと1言で言っても俺のは軍隊で食った事のあるカレーだ。直伝で教わってな。かなり上手いぞ~そのカレーは。」
ヴァンピールカレーを準備しながら当時を振り返れば非常に懐かしかった。シュトリゴン隊隊長のヴォイチェクさん、副隊長のコヴァチさん、お互いに同期でもあったトーシャ、ヴァンピールカレーを指導してくれたノストラさん、初めて俺が開発したCFA-44に乗って飛んでくれたパステルナーク少佐、今となってはその中の2人にしか会う事が出来なくなった。
「へぇ~ じゃあその教えてくれた人ってまだ生きてるんだろうナ~」
だが、その1言でカレーを準備する手が止まってしまう。俺の時間が凍りついてしまった。
「お~い。何で止まってんダ~?何か不味い事聞いちゃったカ?」
「いや、気にしなくていい。俺が会える人なんてもう2人くらいしかいないから気にするな。それに昔の事なんてこのカレーを食べればいくらでも思い出せる。」
そうこうしている内にカレーの具材が揃った。牛筋だが2時間弱煮込めばかなり柔らかくなるだろうから問題は無い。
「ん?なあこれ何ダ?」
そこに置いてあった調味料とは、タバスコ、コショウ、トウガラシなどの香辛料だった。無論これは全て俺の愛機の余ったスペースに積んでいた物でカレーに投入される事が決定済みである。食べれば口の中が少々酷い事になるがやみ付きになるのは保証しよう。
「まさかこれも入れるノカ?」
「ああ、当たり前だ。これ無くしてヴァンピールカレーの完成はありえない。」
「ありえないのは大佐の方ダ!こんなのサーニャに食わせる気か!」
「むっ、こんなのとは何だ。こんなのとは。1口食えば分かる。やみつきになる事は保証してやる。」
取り敢えず作った以上食べて評価してもらうしかない。それが1番簡単だ。問題はこの基地に俺以外を除いてヴァンピールカレーに耐えられるのがマーティンしかいない可能性があるという事だけだが。
-今夜の晩御飯はカレーのようね… 何故か嗅ぎ慣れた匂いとは違うわね、何かこうツンと鼻を突くような辛い匂いだわ… 今日の食事当番はエイラさんとロウファ大佐だったわね。エイラさんじゃこんな事は出来ないし、残るはロウファ大佐だけど何か作ったのかしら?食べれば分かるとは思うけど… さて、書類も片付いたし、食堂に行こうかしら…-
そう思っていたミーナ中佐だったが、食堂でとんでもないほど辛い匂いがトラウマになる者が数名出る事になるがこの時はまだ誰もそんな思いを全員がするとは思っていなかった。尤も、ロウファとマーティンは別だったが。
「うぐっ…な、何だこの辛さは……喉が焼ける……ミーナ、み、水をくれ……」
何だ!何だこの異常なまでの辛さは!すかさずミーナに水を求めた私だったが、
「待てヴィルケ中佐。今ここで水を飲めばこのカレーの真の美味さに気付かないまま終わってしまう!」
と、それをロウファが何故か必死の形相で止めている。その隣でマーティンが笑い転げているが何故に止めるのだ。だがこのままでは私がもたない。
「ば、バルクホルン、水…」
近くに居たバルクホルンに水を求めて失敗したと思った。何故なら私の右側の列の者は皆呻いていたからだ。ただエイラとサーニャの2人は何とも無い顔をしていた。
「何故あの2人は無事でいるのだ…」
「あの2人はちょっと別のを出した。ユーティライネン少尉が『サーニャにこんなもん食わせられるか~』ってうるさくてな。仕方ないから普通に作ったカレーを食べてもらっている。まあ少尉のカレーにはヴァンピールカレーを半分混ぜておいたから心配するな。」
そう言うロウファの後ろで、マーティンがカレーにがっついていた。
「おいロウファ、このカレー何かタバスコ少なくないか?ヴァンピールカレーならもっとタバスコ入れてたと思うけど。」
「何?それはもっと早く言え。調整が間に合わなかったじゃないか。」
これよりもっと辛くされたら恐らくこの基地は壊滅するほどの激辛打撃を受けるだろう。しかしこの時私はある事に気付いた。
「ん?辛くない…」
はっとロウファ達を振り向くとしてやったり顔のマーティンとようやく分かったかと言いたげな顔のロウファが居た。
「ようやくヴァンピールカレーの特徴が分かったか。こいつは食べると暫らく辛いがその後は自然と辛味が消えるような口どけにしてあるんだ。牛筋の肉を使っているが結構柔らかいだろう。5時頃から材料と一緒に煮込み始めるだけでいい。どうせ全部溶けちまうがその分ルゥに材料の出汁やらおいしい成分が染み出るってわけだ。その出汁が辛味を打ち消すのに役立っているのさ。これはかつて俺達クロスボー隊と親交もあったが部隊編成で統合されて無くなったヴァンピール隊の料理長から直伝された戦場の兵士好みのカレーだ。」
第8話「上陸作戦」
先のパ・ド・カレーへのパッケージ投下の理由は、陽動と共マロニー大将が俺達の実力の一部を見たかったという事が隠れていたらしい。尤も、素早く片付けてしまったから実力はほとんど分からないに等しいが。
「今度はどんな作戦がウィッチーズに出るのやら。」
そう呟く理由は、俺達クロスボーがやたらめったら出撃する事は出来ないためである。ウィッチーズに作戦参加の要請や任務が来なければ普段の哨戒任務と夜間哨戒をするだけである。
ちなみに俺は夜間哨戒に単機で出撃したりする。普段やる整備は頻繁にやると機体の部品の留め具が緩んでしまったり壊れたりしかねないのでスケジュールに沿った形でしか整備できない。それ故、ウィッチ達がすることが無いとこちらは部品の温存が出来る事になる。しかしマーティンは非常に暇そうである。俺はというとその日は日課の釣りをして遊んでいた。ボーっとしながら岸壁に座り、釣竿が波と重りに揺られて上下に動くのを見ていたそんな時、不意に後ろから声を掛けられた。
「あら、こんな所で何をなさっていますの?」
クロステルマン中尉から声を掛けてくるのは珍しかった。
「見てわかるだろう。釣りだよ釣り。仕事が減るのは嬉しいんだがその分暇が出来てな。日課の釣りをしているわけだ。」
「そうですか…向こうでもそれが日課だったんですの?」
「うむ、全く以てその通りだ。向こうじゃ1年中海はほとんど雪とデカい流氷に覆われているから外での釣りなんてほとんど出来ないに等しかった。しかしここじゃ色んな色の魚が釣れるぞ。見た事が無い魚ばかりだ。それはそうと中尉は俺に何の用があるんだ。」
俺達が居た世界で俺が生まれ育ったところはもう地図上どこを探したって存在しない町になってしまった。それくらい小さな漁村だった。しかし、何故中尉は俺のところに来たのだろうか。大方の予想は付くが、敢えて黙っておこう。
「それは…わたくし、あの後基地に帰ってから坂本少佐に怒られましたの。『ロウファ大佐達が言っていたように協調性も無くただのプライドの塊のような奴が戦場に出て生き残れると思っているのかペリーヌ!互いに信頼しあえなければ連携など生まれる事は無い!』と。ですから謝りに来たのですわ。勝手な行動をしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「素直に謝る事は良い事なんだがそれはマーティンに言って欲しい。俺に謝ったとしても俺とて君に暴言を使っている以上こちらも謝らねばならない。こちらこそ申し訳なかった。」
俺も彼女にクソガキだの何だのと言ってしまっている以上謝る必要がある。しかし、そこまで言った時、1人の兵士が走ってきた。
「ここに居たんですかクロステルマン中尉にロウファ大佐!至急ブリーフィングルームにお越しください!ついにガリア解放の橋頭保を築くためにノルマンディーへの上陸が決まったんです。その作戦に参加する時に重要な事があるらしいので。特に大佐達は忙しくなりそうな予感がビリビリします。では!」
どうやらクロスボー隊はこき使われる事が決定済みらしい。苦笑いのままの俺と顔が輝いているクロステルマン中尉は走ってブリーフィングルームに向かって行った。
ブリーフィングルームには既にマーティンも含め、全員が集合しており、ハルトマン中尉が茶化してくるのを、静かに、と言ってブリーフィングで話される言葉1つ1つに気を配りながら俺とマーティンは聞いていく。
「先程、ガリア解放に先駆けてガリア本土のノルマンディーへの上陸作戦が発令されました。これにより我々501にも参加命令が出ました。勿論ロウファ大佐のクロスボー隊にも参加の要請が来ています。」
俺は少し気になる事があった。
「ヴィルケ中佐、その上陸作戦への参加要請という事は参加するしないはこちらの自由、という事か?」
「その通りです。どうも連合軍の上層部はロウファ大佐達を非常に警戒しているようです。私としては参加して欲しいのですが…」
成る程… 参加して欲しいが上層部の方から俺達が睨まれている、というわけか。
「分かった。参加はするが上陸時に先んじての敵に対しての爆撃及び牽制を行ったあと地上からの攻撃要請若しくは支援要請がある時だけ攻撃を行う。それ以外は空の監視と情報支援に徹する、という形で良いか?」
要するに要請という言葉を上手く使えば良いだけの事だ。必要に応じて支援をする。あとは上から空と地面に睨みを利かせるわけだ。ジェット戦闘機が戦場に飛来すれば連合軍は混乱するかもしれないが、少しでも景気付けに貢献してやりたいものだ。
「なるほど、ロウファ達が上に居ればネウロイ達もうかつに抵抗できないわけだな。」
「だがそれでもネウロイも必死の抵抗をしてくる事に変わりは無い。確かに俺達が叩けばおとなしくなるだろうが空に戻ればまた抵抗するのは目に見えてる。」
「マーティン、そのために彼女達が居るんじゃないか。俺達の攻撃が止めば間違いなく抵抗してくるだろう。そこでだ、俺達が突っ込むと同時にウィッチも突入し航空攻撃のインターバルの間、ネウロイを攻撃してもらうのも1つの手段だ。今回の指揮はどうなるか知らんが俺が言った作戦でやることを薦めておくぜ。」
暫らく考えるヴィルケ中佐。だがその顔は既に決意した顔だった。
「分かりましたロウファ大佐。その作戦なら必ず成功すると信じています。」
ありがたい事だ。俺が初めて作戦に進言した事になるが航空機での対地攻撃は非常に有効なのだ。これはおそらくどんな時代になっても変わらないだろう。
「では作戦開始の前に通達しておく事がもう1つあります。これは特にクロスボー隊の事です。もう格納庫では始まっている頃でしょうから皆さん一緒に来てください。」
何故格納庫なんだ…
格納庫では俺達の機体の機首付近と翼端部と斜め尾翼に整備兵達が居た。しかもペンキ塗れだ。
「何やってんですか整備兵長…ペンキ塗れで…」
「いや~実はヴィルケ中佐の指示で大佐達の機体の主翼と尾翼、それにコクピットの近くに501の隊章を書き込んでいたんですよ。丁度終わったばっかりです。どうです見ていかれては?」
整備兵長が勧めて来るのでマーティンと共に見に行く。そこには青い輪の中に5つの箒の持ち手の部分が箒の1番下の所に重なりそれらが五芒星を描き出す〔ストライクウィッチーズ〕の部隊章が示されていた。
「こいつは…」
「すげぇ…」
「気に入ってもらえましたか?ロウファ大佐、マーティン中佐。これは今まで貴方達に協力してもらったお礼と501ストライクウィッチーズ隊の正式な護衛部隊として上層部から認められたからです。」
そう言ったヴィルケ中佐の顔は母性が醸し出されとても10代とは思えない程大人びた笑みを浮かべていた。
「ありがとうヴィルケ中佐。よし“イーディス”これから最終チェックを済ませる。時間を掛けすぎて遅れるなよ?」
「誰に言ってんだ誰に。」
不敵に笑う俺とイーディス。そして互いに右拳を重ね合わせる。それが合図となり、俺とイーディスは掛け出し、格納庫の全員の顔が引き締まる。
「先に俺達が離陸して攻撃と牽制を行うから全員予定通りに頼む。俺達が離陸に続いてウィッチーズは出撃準備急げ。クロスボー隊行くぞ!」
その間に、コクピットチェックを終え、同時にエンジンの始動を開始する。お互いに目が合い、親指を上立てでグッと示し俺が先にキャノピーをクローズさせ、バイザーを下ろす。
「クロスボー1より管制塔へ、離陸のため誘導路への進入の許可を。」
≪こちら管制塔、誘導路への進入を許可します。≫
「進入許可を確認。2、行くぞ。」
『2、了解。』
誘導路へ向かう俺達の姿をウィッチーズのメンバーはどう感じているのだろう。決してカッコいいなどと思って欲しくない。もしかすると彼女たちを撃たなくてはならないかもしれない日が何時か来るかもしれない。だがどんな状況に置かれても俺はやるべき事を、最善を尽くすだけだ。
「クロスボー1より管制塔、離陸準備完了。離陸許可を。」
≪こちら管制塔。クロスボー隊、離陸を許可する。離陸せよ。≫
管制塔からの許可が降り、左後方に2番機がピタリと並んで居る事を確認すると、スロットルに手を置く。
「クロスボー隊、離陸する!」
『2、離陸!』
アフターバーナーに点火し、一気に加速する。250ノットになった時には既に滑走路がギリギリ無くなる所。そこでコントロールスティックを引き上げて上昇。数秒で一定高度に達し、ギアクローズ。基地上空を2周ほど周回した後、最後は目標地点に機首を向け、基地上空を一直線にフライパスし再度アフターバーナーに点火。視界からウィッチーズ基地が見えなくなるまで速度を加速さていく。部隊内無線をスタンバイさせイーディスと連絡を何時でも取れるようにしておき、そのまま連合軍の作戦司令本部に連絡を取る。
「こちらクロスボー1。連合軍作戦司令本部、聞こえるか?これより先制攻撃及び強襲攻撃を仕掛け、ある程度の打撃を与える。こちらが超音速で突っ込む分、こちらが有利だと考えるが司令本部の意向を知りたい。」
《ロウファ大佐、聞こえるかガランドだ。中々に面白い作戦だな。私はそれに賭けるが、501とは事前に打ち合わせているのか?》
俺の予想はマカロニ野郎かと思っていたが、ガランド少将が作戦の指揮を執っているのだろうか?
「打ち合わせは済ませてあるが、この作戦の指揮は誰が執るのか教えて欲しい。」
《私が指揮を執る事に問題があるのか大佐。》
ちっ予想通りの人物か…… マカロニめ……
「いや別に問題は無いが現地での指揮官はどうするつもりですか?。まさか土地勘も無いような指揮官じゃないでしょうね?」
土地勘が無いと下手すれば全滅につながりかねない。ただ、この返答の仕方は寧ろこちらがわがままを言っているのと同じ意味に取られてしまう。それで戦場に立つ現場の兵士たちの命の幾つかが助かる確率が上がるのなら俺は我がままだろうがしても一向に構わない。
《フン!そんなに現地の指揮が執りたいのか。ならば好きにしろ。但し、こちらの指示にはしっかり従ってもらうぞ。》
「了解。こちらが危険と判断した指揮には従うつもりはありませんのでご了承を。では。」
そう言って勝手に無線を切る。全く不毛な会話はつまらないものだ。おそらく向こうも思っているだろうが。
レーダーに目を巡らせると、周りを護衛の巡洋艦や駆逐艦に守られて上陸地点に向けて真っ直ぐに進む上陸部隊が揚陸艇に乗って海上を進んでいる光点がある。機体を少しロールさせてキャノピーの外を見ると各艦船の何名かがこちらに手を振っているのが見えたためこちらもバンクで返事を返す。特に揚陸艇のほぼ全てからは手を振られたが。
「イーディス、見えて来たぞ。ノルマンディーだ。」
『ああ、見えて来たな。あれがノルマンディー… 生憎の天気で雨とは、地上軍が前進するのに少々苦労しそうだな。』
そんな時、マカロニもといマロニー大将からの作戦開始の通信が聞こえた。
《この日に備えて訓練に励んだであろう兵士諸君の勝利を我々は信じている。総員進攻開始!》
馬鹿馬鹿しい…… 当たり前の事を言うならそんな穴倉に籠っていないで最前線のこの砂浜に来て言って欲しいものだ。既にHMDにはTGTマーカーが4つほど表示されている。見えて来たのは、2体のドデカいトーチカ型のネウロイだった。固定されている目標のため比較的爆撃しやすそうだ。視界が少し悪いが問題があるほどのレベルではない。だが、やる気満々になっている彼等をここでやらせるわけにはいかない。
「行くぞ。クロスボー1、エンゲージ。戦闘開始後は各自の判断で行動せよ。」
『了解。クロスボー2、エンゲージ。AGMスタンバイ。』
今回マーレポルジェは戦闘の邪魔になると判断したため基地で待機させている。超音速を維持しながら攻撃態勢に入り、イーディスは俺達から見て左側のトーチカ型ネウロイにAGMを放つ。俺もHMDを見据えつつ兵装をAGMに切り替え、ロックオン… 発射レリーズを押し込む。
「クロスボー1、AGM発射。」
ズゴォォォン!
AGMが着弾したが、これといったダメージが無いように見える。やはりアヴェンジャーを使うしかないが対空砲火が激しくなり始めたので一時的に離れる。トーチカ型の中から機銃を構えていると思われる歩兵型も確認できる。これは早々に排除すべきだ。一気に相手から見て左側から高速で接近し、トリガーを引き絞る。
ヴォォォォォッ!
2秒程度の掃射だったが十分な効果が得られるだろう。そのままもう1つのトーチカ型にも掃射をお見舞いする。
「これで効果が期待できると良いがな。」
『まあ先制攻撃と牽制は出来たと思えば良いさ。』
「そうだな。クロスボー1より上陸部隊へ。先制攻撃は成功。だが、あまりダメージは無いと思ってくれ。奴らなかなか硬い。これより艦砲射撃ができる艦船は射程圏内に入り次第、砲撃を開始せよ。艦砲射撃でどれだけのダメージになるのかも分からんがトーチカ型の後ろに打ち込んでやれ。」
『こちら駆逐艦フレッチャー。了解した。当艦はあと少しで艦砲射撃圏内に到達する。』
続々と連合軍艦船が岸辺に集まり始めている。だが、何故かネウロイ側の航空戦力が1つも見当たらないというのは不思議だ。
『こちら重巡洋艦インディペンデンス。これより艦砲射撃を実行する。撃ち方始めー!』
上空からもインディペンデンスと思われる艦船からの発砲炎を確認した。その数十秒後、着弾した事を知らせる爆炎が上がった。かなり派手に爆炎が上がったため、インディペンデンスからも確認できるだろう。しかしまあ上手い事当ててくれたもんだ。
「良いぞインディペンデンス。ベストショットでトーチカ型の後ろに命中したぞ。もう一度頼む。」
『了解。再度艦砲射撃を実行する。よし、撃ち方始めー!』
インディペンデンスより再度、発砲炎を確認。対地専用熱源感知レーダーに切り替えると、意外な事が判明した。
「イーディス、対地専用熱源探知レーダーに切り替えてみろ。凄いものが見れるぞ。」
『ほう、どれどれ… こりゃヤバいぞ… 簡易型とはいえ要塞だぜこれは…』
そう、レーダーには沢山の熱源が確認されているのだ。しかもトーチカとトーチカの間に、倍以上の熱源反応があるのだ。イーディスの言う通りまさに簡易型の要塞である。対空対地両用のマルチレーダーには501がこの砂浜に間もなく到着する事が確認できる。それと同時に揚陸船が上陸する兵士たちを満載にして砂浜に到着し、兵士たちが我先にと突撃して行く。無論ネウロイとて上陸されるのを黙って見ているわけではないトーチカが火を噴き始め、援護のように機銃群が砂浜を舐めて行く。それだけで何名もの兵が倒れ、傷つく。それを避けて砂浜の窪みに身を隠す兵士達。
『畜生!銃撃が激しい!戦闘機、援護機銃群に爆撃を頼む!これじゃあ進めない!』
「了解。現在、近づいている501も連携させて爆撃をする。準備は良いか?ヴィルケ中佐。」
『何時でも行けます。トゥルーデ、フラウ。お願い。』
バルクホルン大尉とハルトマン中尉らしき光点がトーチカに近づく。それに合わせて俺達も真っ直ぐ突撃態勢を取る。兵装を再びAGMに切り替え、ロック射程内に収める。大尉たちの射程圏内に入るまであと、10秒との報告に合わせ、レリーズを押し込む。
「クロスボー1、AGM発射。」
切り離された対地ミサイル4発全てが一気に加速し、2つのトーチカ型に2発ずつ突っ込み爆発を起こす。トーチカ型は業火に身を焼かれ、悲鳴に似ても似つかない音を出す。
そこへ、大尉達が追い打ちとしてMG42の弾丸を叩き込んでいく。そのまま俺も突撃し、トーチカの間で援護射撃を行っている歩兵型ネウロイ達にアヴェンジャーを浴びせ、後方に抜ける。
この攻撃で、援護射撃が止んだため上陸部隊は戦車を揚陸し始め、歩兵たちは再び進軍を開始する。更に艦砲射撃も加わる。これでもかとネウロイに対して砲撃を開始する戦車部隊と艦船達。無駄と分かっていてもライフルを構えて撃ち続ける兵士達。上空から見ていても早く終わらせねばならないと思う程に壮絶な地上。俺達が手出しする事はあまりしたくない。未知の力に極力頼らずに、ここを、この先の戦いを乗り越えて欲しいと思う。残されたトーチカは、1基。もう1つは艦砲射撃で沈黙させられたのだ。残りの1基を真正面に捉え、AGMで狙いを付け、これで作戦は終わる。そう信じて加速する。
作戦司令本部に舞い込む報告はどれもこれも進軍が捗っているという報告であり、大佐達が501と共闘して奮戦している事が分かる。彼らが突撃すると同時にウィッチ達も突撃する事で2段構えの攻撃は、ぶっつけ本番で出来る程甘くは無い高度な連携戦術である。501はそんな経験など1度も無いが出来たのは非常に高い技術と経験を持ち合わせる彼等が連携に合わせていたからこそ出来たのだろう。
-流石だなロウファ大佐。君の信念と腕を信じて現地指揮官に推した甲斐があったものだ。-
この作戦には彼等の力が必要だと考えた私は、マロニー大将に直接会い、彼等を上陸作戦に参加させるように進言したのだ。そうでなくては我がカールスラントに辿り着く事が出来ないままだ。彼等に頼らず、ウィッチに頼れば時間が掛かってしまう。政治的な利用はしないが、彼等の、未来の力が必要なのだ。
「ロウファ大佐聞こえるかい?現在の状況を報告してくれないか?報告書だけでは、イマイチ信用しきれないんだ。」
『クロスボー1了解。現在、戦車が揚陸され、上陸した兵士達がトーチカの近くまで迫っている。これより、トーチカへの爆撃態勢に入るため一時無線をそのままにし爆撃を加える。』
「分かった。期待してるよ。」
無線からの返答は無くなった変わりにジェットエンジンが発する轟音が無線を通じて聞こえてくる。
『クロスボー1、AGM発射。』
ズゴォォォン…
再び無線から聞こえてきたのは、ミサイルとやらの発射の合図みたいな声と、命中したと思われる爆音であった。私も是非間近で見てみたいものだ。
『クロスボー1より連合軍作戦司令本部へ、目標のトーチカ型ネウロイ及び敵性勢力を排除。上陸作戦は成功した。これより、10分間の上空警戒の後、ウィッチーズ基地へ帰投する。』
やってくれた。やはり彼等はやってくれた。こんなに嬉しい事は無い。ようやく祖国を解放する足掛かりが確保できたのだから。きっと作戦に従事してくれた兵士達やミーナ達は喜んでいるだろう。
-たかが上陸に成功しただけでパーティーが開催される事になるとは。-
騒々しいのは勘弁して欲しいという事で、パーティーへの出席を拒否した俺だが、ガランド少将から、
『まあまあ、君もパーティーに来なさい。そうだ、君を招待するついでにマーティン中佐もつれて来ると良い。君と戦場に立った兵士達への労いも兼ねているんだ。』
『それは有難いのですが、生憎自分の機体の調整が終わっていませんし、そちらに行けば命の危険を感じそうでしてね。折角誘って頂いたのに申し訳ありません。遠慮させていただきます。』
『そうか… それは仕方ないな。また今度そちらに行かせてもらうよ。ではまた。』
『はっ!それでは、失礼いたしました。』
とまあ、色々とパーティーに行きたくない理由は他にもたくさんあるのだが、命の危機を感じ取ったのだ。このパーティーには労いもあるのだろうがその裏に、俺達に接触してくる事が予想される。その上、こちらが反発すれば本気で付け狙われるだろう。いや、もう既に狙われていると言っても過言では無い。
特にマカロニ大将はしつこいというヴィルケ中佐の言葉通りに常に警戒せねば補給に紛れて何を送って来るか分からない。それに、ガランド少将には悪いが、彼女もまた警戒せねばならない対象人物なのだ。
故に出席は見送った。ちなみにマーティンはというと既に仮眠を取っている。そして俺は、厨房である事に勤しんでいた。
「さて、これで良し、と。あとはこの出汁が上手く染み込んでくれるのを待つだけで良いな。あ、魚に塩振らないと。それにもう1匹を早く捌かないと質が落ちるな…」
などと言いながら、自分で釣った魚を煮魚と塩焼き、刺身を作っていたのだ。自分が釣った魚は最後まで自分で処理せねばならん。煮魚の漬け込みをしながら、塩焼きを作り、刺身を食べるのは何とも不思議な事だ。
今回のパーティーの事もあり、ウィッチ達は自由気ままに各々の生活リズムで行動している。ヴィルケ中佐と、バルクホルン大尉は、パーティーへ参加している。本来俺とマーティンも参加の予定だったが、俺が断った事とヤツは既に仮眠を取っているのでそっとしておこうという事になり、結局2人とも不参加となった。
機体整備も済ませ、特にする事が無かった俺は、今日釣って厨房の冷蔵庫に突っ込んだままの魚を使用しての簡単な料理をしているのだった。
「あれ?厨房で何してるんですかロウファさん。」
「ん?おや?君こそどうしたんだ宮藤軍曹。君達お子様はそろそろお休みの時間だぞ?」
「子供扱いしないでくださいよぅ…」
ぷーっと頬を膨らませる宮藤軍曹。そういえばまだ彼女を指導した事が無かったな。坂本少佐から頼まれている事だったのだが忘れそうだった。
「そういえば軍曹。俺は君の指導を坂本少佐から直接お願いされているんだ。俺の予定と都合が合い次第訓練に付き合ってやる。」
「えぇ~!ロウファさん直々に指導して頂けるのは嬉しいんですけど… その…」
突然、彼女が俯き、俺の顔色を窺いながらしどろもどろになっている。ああそうかそうか。彼女は俺が坂本少佐と同じくらい厳しいのだろうかと考えているのだろう。
「軍曹、今君は俺が坂本少佐と同じくらい厳しいと考えていたな。」
「な、何で分かるんですか?!た、確かにそう思ってましたけど…」
やはりか… だが、俺も厳しいという事は知っておいてもらわなくてはならない。戦争をしたくないと願ったこの手は今まさに、戦火に身を晒す事になる者を育てて行こうとしている。なんと皮肉な事だろう。
「まあ厳しくないと言えば厳しいぞ。それは実際に訓練の君を見てからの判断だがな。」
「そ、そうですか…」
「そうだ、軍曹。これを食べていくと良い。」
そう言って俺が宮藤軍曹に差し出したモノは何と言う名の魚かは知らないが取り敢えず釣ってしまったから。という理由で捌いて刺身にした魚だ。ちなみに、姿造りにしてある。
「こ、これ何ですか?」
そう問いかけてくる軍曹に、
「知らん。取り敢えず釣れたから色々と調べてみたら一応食べられると本には書いてあったから刺身にしたまでだ。」
「知らんって… しかも姿造りにまで…」
「ハハハ、問題は無かろう。どうなるかは知らんがな。」
もはや軍曹からは呆れられた感じの目で見られている。仕方ないだろう。釣ったものは必ず責任を持って食べる。これが大事だ。うん。
「ま、まあ食べてみます…… ん~何と言うか、こう鯛のような白身の魚特有の淡白な感じですねぇ。おいしいかと言われたらそこそこおいしい部類には入るんじゃないでしょうか?」
「そうだな、そこそこおいしいという時点でムニエルとかには向きそうには無いな。折角新メニューを考え付いたから誰かに教えたかったんだが… まあ良いか。とにかく俺は明日空いている事が明白だ。君から来なければ、坂本少佐の訓練が待っているぞ。どちらを選ぶかは軍曹に任せる。無論、僚機を連れてきても構わない。」
「うぅ~」
宮藤軍曹が呻っているところへ、もう1人のお客が来た。
「こんな所で何してるの芳佳ちゃん?もうそろそろお風呂の時間だよ?」
ふむ、彼女らには風呂があるが聞いた話では大浴場との事。何やら坂本少佐が造らせたのだとか。まあ俺は興味が無いし、風呂なんぞ格納庫に簡易型の男性専用シャワールームをこっそり増設したからわざわざ街に出掛けてまで入浴する必要も無い。ましてやウィッチと共用で大浴場に入れられるなんて御免だ。整備兵からも睨まれそうで怖い。
「えっ?もうそんな時間なの?!」
「ロウファ大佐と何を話してたの?」
「えっとね、訓練の話… リーネちゃんも手伝ってくれないかな?」
どうやらリネット軍曹を巻き込むようだな。まあ人数が多い分には良いだろう。その分俺に掛かる負担も大きいという事は分かっているが。
「え?私が勝手に入っちゃっても良いのか聞かないとダメだよ。それに、ロウファ大佐には私じゃ勝てないよ…」
「そんな~」
そんな彼女の何気ない一言が俺にある事を思い付かせた。
「そうだ、一度試したい事があったんだが結局今まで色んな事があったから出来なかった事をやってみたいな。」
「やりたい事。ですか?」
「そうやりたい事とは予てから予定されていた俺達とストライクウィッチーズとの模擬空中戦だ。ルールはシンプル。俺がジェット機で飛ぶ変わりに機銃は使う。流石にミサイルは反則だから使わない。それと君等は俺に1発でも被弾させる事が出来れば勝ちだ。俺は君等を全滅させれば良い。そういう事だ。」
2人とも呆然としていた。何せたった1人で総勢11人の最強ウィッチーズ集団に挑むと言うバカが目の前にいるのだからそれは驚いて当然だろう。
「なーんか面白そうだねロウファ。」
その声の主はエーリカ・ハルトマン中尉。この基地とカールスラントがバルクホルン大尉と共に世界に誇るエースだが、地上での生活ぶりや彼女の言動が俺の怒りに油を注いだ事もあったな。
「まあヴィルケ中佐も参加させたいのだが本人がどう言うかだな。しかし中々悪くない提案だろう?お互いに技術を高め合う事もたまには必要だからな。」
「それもそうだね~ あ、言っとくけど負ける気は無いよ~」
言うと思った。大抵の者はこれを言うと真っ先に模擬撃墜されるのだが、俺とて彼女達の機動、戦法、癖、その他色々な事を見てきたから俺も一見無謀とも言えるような事を言い出したのである。ちなみに俺は今まで喋っている間に水洗いしたジャガイモを細切りにし、煮え立った油の中に投入し続けている。現在はフライドポテトを揚げている最中なのだ。そして、先程のハルトマン中尉との会話の間には揚げたてポテトに塩を掛けているところである。
「あ!フライドポテトだ~ 食べて良いよね?」
「おう試作品だからちょっと味が薄いかもしれんがな。厨房で食べるなら食堂に塩も一緒に持って行って食べてくれよ。」
「はいは~い。あ、追加しても良いよね?」
この期に及んで追加をねだるかハルトマン中尉は。まあ追加が来たら作れるだけ作るか… この後フライドポテトの匂いに釣られた音速ウサギが食堂に来てハルトマン中尉の2倍近い量のフライドポテトを頼みに来たが。
「…………ふぅ。夜とはいえ冷え込むものだな。」
現在時刻23:56。フライドポテトをたらふく食べた音速ウサギとウルトラエースの片割れは満足そうに自分の部屋に帰って行ったが、その後片付けが大変だった。何せほぼ皆が眠りについたために現在戦闘要員として起きているのは俺だけだからだ。ナイトウィッチのリトヴャク中尉はまたユーティラ…違った…エイラ少尉と共に夜間哨戒に出ている。
「………………」
テラスの外側から聞こえる静かな波の音。潮の香りが漂い、基地の全てを包み込んでいく。そして俺さえもその中に包まれる。左耳に着けたインカムのスイッチを入れ、エイラ少尉に無線を繋ぐ。
「そちらは何の異常も無いかい?エイラ少尉。帰ってきたら君の好きなサルミアッキが冷蔵庫の中にあるぞ。」
『ホントか!美味しいからナ~サルミアッキは。あ、それと私達にいつもの“アレ”用意しといてくれヨロウファ。』
『ダメよエイラ。ロウファ大佐に無理を言っちゃ。』
こんな俺にまで労ってくれる仲間が出来たのは心強い。ちなみに“アレ”とはただのホットミルクココアで、夜間哨戒で冷えた身体に染み渡り、身体の底から温める事が出来るように。と、俺が淹れていた物である。
「大丈夫だよリトヴャク中尉。きちんと用意はしているが今回は少し量を多めに淹れてあるから部屋に持ち込んで飲むには十分だぞ。最後まで気を緩めるんじゃ無いぞ。ロウファアウト。」
彼女らに警戒を緩めるなと言い、通信を切る。そのまま、夜の海を視界の利く限りで見渡す。夜空に浮かぶ月明かりの下で動くものが無いか確認する。と、
「……ん?」
-今月の前を何かが横切ったような気がしたが… 見間違いか?-
そんな事を考え、気のせいで会って欲しいと思いながら借り物の双眼鏡で月の周囲を確認すると、
「せめて見間違いであって欲しかったな……」
見つけてしまったというべきか。無防備なこの基地に向けてやって来るネウロイ達が双眼鏡に捉えられたのだ。すかさず、管制塔に通信を繋ぐ。
「管制塔、俺だ。離陸の許可を頼む。それとレーダーをよく見ろ!お前等死ぬ気か!」
『も、申し訳ありません大佐!離陸を許可します!畜生!なんでレーダーに反応が無かったんだ!』
そう、問題は何故、レーダーが反応しなかったのか。そこが問題になってくる。このままでは離陸までの間に、基地がやられてしまう。テラスから格納庫までは滑走路を挟んだような位置にあり、基地内を移動すると、5分ほどかかるが、テラスから飛び降りれば2分くらいで行けそうだ。
「仕方ない、あれをやるか…」
テラスの欄干に立ち、近くに基地の壁がある事を確認し、欄干から飛ぶ。両の袖に仕込んでおいた先端に三又の鉤爪がついた炭素繊維配合のハイブリッドワイヤーの右側が飛び出し、壁の1番上の縁の部分に引っ掛け、そのまま振り子のように身体が振られる。振り幅が最大になったところで反対のワイヤーを縁に掛ける、その行動を5回繰り返し、格納庫の入り口にワイヤーを掛けて入り口に強引に転がり落ちる。幸い誰も居なかったため、俺の行動は見られていないから良いが、格納庫の扉が非常に固くて開かない。施錠されている事を俺は思い出した。そして何のために親父の形見のDE50AEがあるのかも。
「使いたくは無かったと言えば嘘になるよな… 親父、悪いが緊急なんだ。アンタの形見を使わせてもらうよ。」
ズドン!ズドン!ズドン!
DEを3連射し、扉の鍵穴を穴だらけにする。このままだと整備兵長に怒られそうだが、事情を説明すれば分かってくれるだろう。
ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!
扉をロックしていると思われる鍵の部分を残った弾丸で集中攻撃し完全に破壊する。これにより扉は簡単に開くことが出来た。格納庫の愛機に近づき舌打ちをする。今、YFA-45は、オーバーホール中で、エンジンを分解しているのだった。そして、ある1点に目が行く。そこには、既にオーバーホールを終えたが、この基地での運用方法がまだ決まっていないCFA-44が駐機していた。まるで、俺が来る事を待ち望んでいるように、俺が乗る事が当然と言いたげに開けっ放しのキャノピー。まだだ、まだ戦える。Nosfertsuは、不死者の名は伊達では無いのだ。と、そう語りかけてきているようだった。そんな姿に自然と笑みが零れる。
「パステルナーク少佐。もう俺がやる事は分かっています。少佐の力お借りさせて頂きます。」
そう言ってCFA-44のコクピットに乗り込む。動作は流石にYFA-45のベースのため、基本的には変わる事はない。エンジンをスタートさせ、轟音が基地中に響き渡る。これで、基地内の何名かは飛び起きた事だろう。それに既に基地内に緊急警報が鳴り響き始めていた。キャノピーを閉め、滑走路まで移動する間に搭載武器のチェックをする。搭載武器は3つ。当然だがベース機のため、特殊兵装は1つだけである。
「マウザー航空機関砲、短射程AAM、ADMMか。あの時のままだ…」
グレースメリアの時と同じ装備。あの空でたった1人エメリア軍に特攻した少佐は何を思い、何を望み、そして散って逝ったのか。あの時の俺は無線で戦闘の様子を聞いているだけだったが、エメリアのAWACSが、
『敵機の撃墜を確認!これで終わりだ!戦争は終わりだ!』
そう言った時、俺は反射的に立ち上がり、無線機を見つめ、敬愛する自分の上司は帰って来ないと悟った。そして心の中で涙を流した。だが、今は違う。あの時のように、無線で戦況を聞いて立ち尽していた戦争末期の頃の俺では無い。俺は少佐が言ってくれたように最後まで生き残り、言いつけを守った。今度は俺がそれを次世代に繋げていく役目を担う。それがあの人への最高の恩返しになると信じて、また空に上がる。
「こちらクロスボー1、離陸する!」
俺がシュトリゴンとヴァンピールから学んだ事を生かす絶好の機会だ。夜襲をかけた事を後悔させてやらねばならない。俺を乗せたどす黒い血の色に染まった機番009のCFA-44は夜空に舞い上がる。その魔法使いのエンブレムを煌めかせながら。
連中には俺が上がってきたことが見えている筈なのに攻撃はされなかった。何も考えていないのか、はたまた基地を襲う事しか頭に無くて、俺に気付いていないのか。おそらく後者なのであろうか?それなら760マイルまで俺が近づいているのに何の反応もしない事に納得がいく。だがその行為は俺を舐めているとしか思えない。その代償はお前達の死で償ってもらうぞ。
「ロックオン…クロスボー1、ドライブ」
アフターバーナーで突っ込みながらADMMを乱射する。射出されたミサイルが一斉に夜襲部隊に襲い掛かる。またしても咄嗟の出来事に反応できなかったネウロイ達は慌て、俺の姿を捉えた奴はビームを撃ちまくって来るが今、最高に落ち着いている俺にはスローモーションにしか見えない。寧ろ遅いと感じる。
「隙だらけだな。それじゃあ何時まで経っても俺には太刀打ち出来んぞ。」
シザース、コブラ、スカイハイ等と高G旋回を多用し、旋回中にガンレクティルに収まったものから順に強烈な一撃を浴びせていく。更にショートバレルでレーザーを回避しながら鼻っ面目掛けてガンを撃ちこみまた1つ撃墜する。燃料計を見ながらの戦闘だが、まだまだ燃料はある。残った夜襲部隊はほとんど壊滅したと言っても良いくらい徹底して叩き潰したため、撤収をし始めていた。
「こちらクロスボー1、管制塔聞こえるか?ネウロイは撤退していく。ウィッチーズは追撃の必要性は無い。こちらで潰す。」
『管制塔了解。』
再度、ADMM機動。こいつ等を逃がすわけにはいかない。
「ドライブ、ドライブ」
残ったたった1機のネウロイに12発のミサイルが猛然と突撃する。残りは小型だったため、小回りが利くから躱せると思ったのだろうがそうはいかない事だって世の中意外と沢山あるものなのだ。
「生憎とこの機体はESM装備でな。お前を逃がすわけにはいかない。後顧の憂いはここで絶たせてもらう!」
その言葉を言い終わるかどうかのうちに、全弾命中。撃墜を確認した後、レーダーを確認する。今度からはステルスネウロイが出てきそうだ。ペベンシーがやられて以来、ペベンシーレーダー施設復旧作業中なのだが、なかなか直せないのが現状だとヴィルケ中佐が語っていた。基地の近くで戦闘をしていたため、位置を見失う事は無かったが燃料が半分を切っている。高G旋回をやり過ぎた事で俺自身の身体もあちこちが痛む。その結果が戦果に反映されていたらどれほど嬉しい事であろうか。残念ながらそうもいかないのが現実である。基地の格納庫にCFA-44を納め、整備兵長に扉をぶち壊した事を謝り、ヴィルケ中佐の執務室に戦闘報告書を提出しておく。
-さて、そろそろ寝るか…… 44のエンジンも換装しないとダメだな……-
そう心の中で呟き、ロウファは寝床もとい営倉に通じる暗い廊下の奥に姿を消した。
第9話「模擬戦、ガランド再来」
夢を見た。そう夢、俺がマーティンと共にクロスボーを起ち上げる前に経験した汗だくにはなってはいないものの、他人からすれば物凄く強烈で悲しい夢としか表現できないだろう。しかし、あの夢を見るという事はそろそろ俺の家族の命日が近いという事だ。毎年毎年この時期になるとさっきの夢を見てしまう。慣れてはいても罪悪感は凄まじく、想像を絶する程怖い夢だ。
『ストーンヘンジからの砲撃を確認!弾数10発!全機、南へ撤退せよ。高度を2000フィート以下に保て!』
『2000フィート?!戦闘機で地面に潜れって言うのか?!』
『谷だ!死にたくなかったら谷に逃げ込んで高度を下げろ!』
『あんな狭い所を飛ぶなんて自殺行為だ!』
『弾着まであと10秒!急げ!』
『オメガ5よりオメガ3へ!逃げろ!』
『9・8・7・6・5・4・3・2・弾着!今!』
『ヴァイパー4がやられた!』
『オメガ5墜落!』
-………。……俺の所為でやられてしまった。俺が未熟じゃなかったらオメガ5がやられる事は無かった筈だった…!俺がの行動で殺してしまったようなものだ。-
『弾道ミサイル接近!』
『弾道ミサイルって…一体何処から発射したんだ。』
『か、艦が…沈んでいく…』
『バザードの甲板に直撃した!轟沈する!』
『ヴァルチャーが艦橋に直撃弾を喰らった!全乗組員は退艦急げ!』
『畜生!脱出できない!誰か助けてくれ!』
『損害甚大!総員退艦!!』
『クソッ!俺達の艦隊が…』
-ただ見ている事しか出来ず、あれ程悔しい思いをしたのは今迄の人生の中で2度目だった。-
『よく来たな。元第3航空大隊ヘリーケ、いやもうヘリーケは無くなったんだったな。今は確か“クロスボー”だったな。』
『おい!俺の事、トーシャ・ミジャクを覚えてるだろ?久しぶりに会えたんだ、少しは旧交を温めようぜ。』
『おいおいトーシャ。お前にゃルドミラちゃんが居るじゃないか。ロウファに構ってないで少しは手紙のやり取りくらいはしろ。』
『それは軍とは関係ないでしょ!』
『まあ何はともあれ、よく無事で帰って来たな。早速で悪いんだが、新型機開発の事は聞いているな?今度はお前さんにその開発に加わるように俺の方からお前に話を勧めておけとのドブロニクの旦那からの伝言だ。確か機体の名前はCFA-44 Nosfertsuだったかな。そいつのテストパイロットは俺とお前だ。これは決定事項らしい。』
『良いか?このカレーは俺が独自に研究して作ったスパイシーカレーだ。その名もヴァンピールカレー!んでだ、お前さんにしかこの作り方は教えない。今日でヴァンピール隊はシュトリゴンに統合されて無くなっちまうからな。お前は料理が上手いからこその俺からの置き土産だよ。頑張って作ってたまには俺達の事を思い出してくれ。ソーン島でも元気でやっていけよ。あの機体は必ず隊長がしっかり使ってくれる。心配しなくても良いさ。じゃあな!』
俺は飛ばされる前の戦いの事を思い出す。愛機のSu-27で大陸戦争を、乗り換えたSu-37で環太平洋戦争を、新たに配備された愛機となったSu-33・CFA-44と共にエ・エ戦争を駆け抜けた事を。そして多くの仲間、護るべきモノを失った事を未だに後悔し続けているという点では、ミーナ中佐と同じような感じだ。
「今何時だ…」
腕時計を見ると、もう既に7時を示そうとしていた。もうそろそろ朝食の時間だろうか。もそもそとベッドから這い出し、着替え終わってふと気が付いた。
今日は模擬戦の予定日なのだ。ヴィルケ中佐に何の相談も無いため、彼女はおそらく出ないだろう。
「ヴィルケ中佐に何の相談もしてなかったな…」
それ依然に俺が考えていた事は昨日厨房に居た3名のみで、それ以外の者は全く知らない。取り敢えずマーティンを起こして食堂に向かうとするか……
「ロウファ大佐、随分前にも独断で勝手な事はしないでと言いませんでしたか?」
「俺は前から考えていて言おうとしたんだが、その都度出撃が重なってしまったからな、男らしくない言い訳をして申し訳ない。」
ロウファさんがミーナ中佐に怒られている…なんだか不思議な光景…
「模擬戦かぁ…でも参加するのは良いんだけどサ。何で相手がロウファ1人ナンダ?マーティンは出ないノカ?」
それは確かにこの場でロウファさんとマーティンさんを除いた全員が不思議に思っている事。何故ロウファさんしか模擬戦に出ないのかしら。
「あーそれはだな…仕方ないんだよ。俺はこの模擬戦にはちょっと色々と考えた結果を踏まえて不参加にしたんだ。」
「流石に超音速で俺が飛び回るとヤバいしYFA-45のエンジン整備も模擬戦に間に合わなくてな…今日はCFA-44で飛ぶ予定だ。」
CFA-44……見た事も聞いた事も無いわ…ロウファさん達が普段使っている戦闘機の一つかしら…
「ふむ、大佐と模擬戦か、悪くないな……」
「私達の実力を見せないといけないね~」
「おいハルトマン。あまりふざけて飛ぶんじゃないぞ。」
「分かってるって~ そういうトゥルーデもロウファばっかり見てたらやられちゃうよ~」
「バ、バカ!そんな事ないと何度も言ってるだろう!」
何んだかバルクホルン大尉が顔を真っ赤にしている…どうしたのかな…
「お前らは何を言ってるんだ…」
ロウファさんがさり気無くツッコミを入れていた…何だか見ていて面白いわ…ふとエイラを見るとニヤニヤしていた。
取り敢えずミーナ中佐から許可を貰ったロウファ大佐が格納庫からCFA-44とか言う戦闘機が出てくるのを上空で待っているだけなんだけど…なかなか来ないなぁ…
「こら宮藤!気を抜くな!折角の模擬戦なのに失礼だぞ!」
「す、すみません坂本さん!」
「まあまあ良いじゃないの美緒。あまり気を抜かなければ良いだけの事なんだし。それにしても遅いわね…」
ボーッとしていたら坂本さんに怒られちゃった…それにしても遅いよぅ…
そうこう言っているうちに、特徴的なジェットサウンドが聞こえてきた事で、皆の視線が一斉に滑走路の方に向けられる。どす黒い赤と漆黒に彩られた強烈なカラーリングの戦闘機、CFA-44が滑走路で離陸態勢に入っていた。
「やはり夜に見るより昼間に見るとかなり目立つな。」
「でもやっぱり不気味ねぇ…」
『まあそう言うな。このインパクトカラーが俺の好みなんだ。夜間では目立たなくなるし、昼間には囮の役目もこなせるし、警戒色にもなる。』
私達と通信しながら素早く離陸して私達と同高度まで飛んで来るのは流石だ。しかし、近づいてきた機体におかしい所がある事に私は気付いた。そう、大佐の駆る機体は501の部隊章が入っていなかった。
「ロウファ大佐その機体には、我々の部隊章は…」
『これには付けない。これは俺達クロスボーにとって大事な思い出の品なんだ。それじゃあこれより模擬戦を開始する。全機俺の突拍子の無い行動に注意する事を推奨しておくぜ。』
そう言って右に旋回し、一度距離を取るために離れていくロウファ機。しかし何故突拍子の無い行動に注意?何の意味だ?
全員(と言ってもロウファがある程度離れたら始まるのだが)が配置に着いた事を確認したミーナが支持を出す。
「全機、作戦開始!波状攻撃を仕掛けましょう!相手が1機だからって油断しないように!」
私は一応突撃したいところだが、ミーナの指示を的確に全員に伝える必要があるので、中距離での待機となる。波状攻撃態勢中の私達を余所に、ロウファは、波状攻撃の初撃のハルトマン・バルクホルンのWウルトラエースの真正面へ突撃し始めるのだった。
いきなり真正面から来たね…でも負けないと宣言している以上逃げるわけにはいかないよね。トゥルーデと並んで私達の射程内に入る距離まで詰める。ロウファの機体は速いから多分もう射程内に私達が入っているんじゃないかな。でもまだ撃ってこないって事は射程外かな?でもそろそろこっちは撃てる距離になる。
「トゥルーデ、そろそろだよ。」
「ああ、分かっている。行くぞ!」
-2人で短く発砲してみるけどおそらく当たらないね。元々牽制で放ったんだから当たらなくて当然。でも何だろうこの嫌な感じ。模擬戦が始まってからずっとロウファから漂って来る。-
案の定、ロウファは機体を僅かに上昇して銃弾を回避しこちらの上を約700マイルで飛び越していく。追撃に転じても、反転しなくちゃいけない分、その間に距離を離されるのが見えてる。だから無理な追撃はせずに追跡に切り替え、なるべく速く旋回を終え、急いで遠ざかるロウファの機体を追い掛ける。嫌な感じを身に覚えながら。
-ふむ、なかなか速い旋回だな。だがこの機動に着いて来れると良いんだがな-
カールスラント2人組を上手くやり過ごしながらその後ろのイェーガー大尉とフランチェスカ少尉に狙いを定めていた。手始めに30mmマウザーを軽く2・3発くらい撃ちこんでみる。ギリギリで機銃を躱される。躱した所に出来た空間を僅かながらに加速して飛び抜け、更に後方に居たユーティライネン少尉とリトヴャク中尉に強襲を仕掛ける。模擬戦を行うにあたって、幾つかの条件という名のハンデを付けられ、アフターバーナーの禁止。増速も720マイルまでと決まっている。低速時の安定性がかなり悪いこの機体にとっては非常に厳しい条件であり、俺が有利になれる高機動戦に持ち込む事が出来なくも無いが、難しいと言っても過言では無いだろう。当然全てのミサイルも使用禁止なので代わりに、濃密な殺気と機銃弾を周囲に振り撒いて飛び続けるしかない。
それを承知の上でこの模擬戦を行った理由は、彼女達ウィッチがどこまで俺が振り撒く殺気に耐えられるかを見極めたいからだ。別に兵士として鍛え上げるわけではない。寧ろ逃げ出して白旗を挙げて欲しいという気持ちの方が強かった。
彼女達が戦場で無意味に死ぬ事など無い。『お国の為に』などと馬鹿げた事で死ぬなど本当に無駄死にだ。そんな事をしても国益にも、有意義にもならず、家で帰りを待つ家族が悲しむだけにしかならない。だが、この場に居る何名かは、白旗など挙げずに模擬撃墜されるだろう。
-さあどうするヴィルケ中佐?貴女なら俺の問いにどう返してくれるのだろうな。-
-くっそ~超音速戦闘機の性能は伊達じゃないって事か!軽々と攻撃を避けていきやがる!-
後ろから追い掛けてきたハルトマンとバルクホルンに合流して即席だけど作戦を立ててみる。
「なあ、3人とも。あたしからちょっとした作戦があるんだけど良いか?」
「その作戦が大佐相手に通用するかと失敗すれば私達が危険な状況に追い込まれるんだぞ?それを承知の上での作戦だろうな?」
あたしが考えた作戦は、3人でロウファに気取られないように誘導し、全員が一定高度を保ちながら囲んで攻撃するという鳥籠作戦だ。リスクが高いのは承知だ。下手すりゃ全滅させられる可能性だってある。でもこうしないとアイツを捉えられない気がする。
「数少ない問題はロウファが上手く罠に掛かってくれるかどうかさ。ある程度の実力があるのはあたしだって分かってるし、みさいるとかいう武器が使えないから今はあたし達が有利だよ。」
「ねえシャーリー、さっきの攻撃ってすごく精確だったよ?」
「ロウファの実力はあんまり見た事ないけどかなり強いとしか分からないよ。それに何を考えてるのか分からないからね。その点を考慮したらその作戦のデメリットはもっと多くなっちゃうかもしれないね。」
と、言い返される。更に、
「で、でも1回その作戦でやろうよ!駄目ならまた次を考えれば良いしさ。」
「その作戦で何人かやられる事を考えて立てたのか?」
とまで言われてしまった。でもそうしないと、囮役が居ないと、まともに後ろすら取らせてもらえそうにない。ただ、何の作戦も考えずにやられるのと、作戦を考えて実行に移してやられたのとでは悔しさが全く違う。
「囮が要るのは分かってるからこの作戦を考えたんじゃないか。それに…囮はあたしがやる。」
取り敢えず波状攻撃作戦がガタガタに失敗してから立て直しを図るためにシャーリーの作戦が皆に伝えられた時から何となく予想はしてたんだけど…
「振り切るのは無理か!ハルトマン!そっちからは無理か!」
今の状況を簡単に言うと、『あっさりと見抜かれて』、誘導しての囲い込み攻撃作戦は失敗した。更に予測していた代償はかなりの大きさだった。宮藤、坂本少佐、ミーナ、リーネ、サーニャ、ルッキーニ、ペリーヌの7人が私達の作戦と機動を先の先まで読み、手の内を見透かしてきたかのような機動でロウファに素早く仕留められ、戦線離脱を宣告されてしまっていた。
「このままじゃ不味いよ!そっちの弾薬まだ大丈夫なのトゥルーデ!」
「両方ともあと4・5回分の攻撃しか出来ん。それにそろそろ魔力の心配もしなくてはな…」
「……分かった。」
残り4人となった今、手の内を読み尽くされ、疲労困憊の状況の中で辛うじて戦う事が出来るのは自分を除いて、たった1人。その1人のエイラが今まさに、ロウファに食い付かれ、未来予知で逃げ回っていた。いや、逃げ回るしか方法が無かった。
「エイラ、まだ動ける?」
「なかなか難しい質問してくれるじゃないカ。弾薬もあと1回分だけしか無イ。全部じゃないけど敢えてギリギリで躱されてばっかりダ!クソ~ちょっとは当たれよ~」
「シャーリーは?」
「悔しいけどエイラと同じで弾切れ寸前だよ。もうマガジンに7発あるかどうかだね…」
エイラとシャーリーはほぼ完全に弾切れ寸前。トゥルーデも余分な弾は撃てない。私は撃つ事には撃ったけど極力追い掛ける事に集中してたからほとんど撃たなかったからまだ幾分か余裕はある。だけど4人いても撃てるのは2人だけ。対してロウファは機銃の制限は上限2,000発だと言っていたからタップリと残っている筈。私は確かに格闘戦は出来るけどトゥルーデと違って後ろに向いての格闘戦はやりにくいし、私の性に合わないからやらない。と、その時、
『この程度か?もっと出来る筈だろう?さあ掛かって来い。俺は隠れたりはしないぞ。』
と、挑発するような声音で模擬戦の開始以来初めて無線でそう言ってきた。
「隠れないけど逃げる事はするんだね……」
『そりゃ逃げなきゃ模擬戦にならんじゃないか。来ないのなら俺から仕掛けさせてもらうぞ。』
その声と同時にロウファがエイラ目掛けて突撃開始。速度は720マイルギリギリで逃げ惑うエイラに食い付いて行く。
『未来予知かなんだか知らんがな、あやふやのだからこその未来なんだよ!答えは1つとは限られてはいない。それは色々な答えがあるからさ!』
挟撃で何としても止めたいけどそれが限りなく不可能に近い事だってこの場に居る全員が分かっている。それでも少しでも妨害くらいは出来る筈だ。
「トゥルーデ!シザース行くよ!」
「分かった!」
これはロウファを挟撃するために即席で考えた符号。そうそう気付かれる事は無い筈。これで気付かれたらもう打つ手が無い。
「あたしはこのままロウファを追う!挟撃を少しでも成功させないとダメだしね!」
シャーリーがここまで言うのは今迄全ての作戦をロウファに悉く見破られてきたから。ちょっとでも汚名を雪ぐには持って来いの場面。エイラも上手く誘導してくれたおかげですごく狙いやすい位置に居る。チャンスはそう何度も無い。おそらく、このチャンスを逃したら私達に勝ち目は無くなると思う。やるしかない!そう覚悟を決めて増速する。
全く顔が丸見えというのも如何なものだろう。インカムでも携行させてヘッドギアくらいつけたらいいものを。っと今は目の前の事に集中しないとな。模擬戦といえど気を抜けばやられるのがオチになる。挟撃か。良いだろうその手に付いての対応策は戦場で体に叩き込まれてきた。こういう時、経験の差がモノを言うが彼女達ウィッチは戦闘のプロであっても殺し合いのプロじゃない。俺はその両方を兼ね備えなくては生き残ることなど到底出来なかった事であろう。
スカ―フェイスも、ガルムも、メビウスも、ラーズグリーズも、ガルーダも、俺からすれば、尊敬や敬意、畏怖の感情を向けても、憧れる事は無い。俺にとっての真のエースはパステルナーク少佐1人で良い。あの人が生きる道を示し、俺を必要としてくれたからこそ、その信頼に答えようと努力を続けてきた。10年間ではあるが、培ってきた経験と努力が今の俺を作り上げている事は間違いない。それが彼女達を超えていると信じている。
再び意識を目の前のユーティライネン少尉に向け、それと同時にレーダーで残りのターゲットの位置を確認していく。こちらの燃料はまだ十分。それに、残りのウィッチ達の弾薬はほとんど無い筈だ。ユーティライネン少尉とイェーガー大尉はせいぜいあと1回分しか攻撃できないだろう。バルクホルン大尉はあと5・6回といったところだろうか?まあ2丁もMG42を持っているからこそ乱射しながらの牽制とかにも使えただろうに。難関かもしれないのはハルトマン中尉。彼女はほとんど撃っていない事を覚えている。BTRの総弾数は20発前後でMG42のWドラムマガジンの総弾数120発程度だったかな?よく俺も覚えているものだ。前に執務室でチラリとBTRとMG42の資料に目を通しただけなのに。
挟撃に必要な感覚がどんどん縮まるが、それは意識の片隅に置いておき、牽制射撃で距離を測る。最初から彼女達が俺を罠に陥れて集中攻撃をする事は頭の中で理解できていた。だが彼女達の精神的経験、連携の練度不足に付け入る隙があった。そこから宮藤軍曹に撃墜判定を与え、近い者、近づく者、と順に刈り取っていった。
-よし、距離は十分。クルビットとコブラを使わなくても最低でも2人は仕留められるかな。-
そして、彼女等が最も接近し、銃を構えた瞬間を狙い、フレアを沢山ばら撒き左ロールしながら上に飛び上がり、銃を下に向け、空いた腕で顔を覆っているユーティライネン少尉の斜め上、丁度少し見上げるくらいの角度からペイント機銃を撃ち込み、黄色い花が咲く。そのまま高G旋回に入り、まだ視界が戻っていないであろうイェーガー大尉に機首を向け、機銃掃射を加えて撃墜判定のペイントの花が出来る。少し無慈悲に思われても仕方ない。戦場に慈悲など無いのだから。そして俺にとっての好機が訪れた。更に左に旋回した時、ハルトマン中尉との接触を回避したばかりで動きがノロくなっているバルクホルン大尉が俺に気付かずにガンレクティルの真正面、すなわちど真ん中に飛び出してきたのだ。再度機銃のトリガーを軽く引く。その瞬間、7発の弾丸が発射され、バルクホルン大尉の背中とストライカーを黄色く染めた。
ロウファの機体から何かが飛び出したと思った瞬間、目の前が真っ白になった。それでも、挟撃していたトゥルーデの位置はしっかりと覚えている。確かこのまま進めば、ぶつかってしまう。トゥルーデに限ってそんなミスはしないと思うけど、絶対にトゥルーデは上に避ける筈。だから私は少しだけ降下して耳で周囲の状況を確認する。ジェットサウンドが頭上から聴こえるから、ロウファは真上に居るのかな?薄目を開けると、エイラとシャーリーが黄色いペイント塗れになり、トゥルーデがペイント機銃で撃たれた瞬間だった。
-嘘!あの一瞬で3人も?!-
もうなす術が無かった。その後も動揺してしまった所為で自慢の機動はガタガタになり、胸元に1発当てられて私の撃墜が確定され、ロウファに軍配が上がってしまった。
『ウィッチは神の子だの何だのと持て囃されても結局は人の子。という事か。』
基地への帰還中にそうロウファが喋りかけてきた。ちょっと残念な気もするけど、一体何なのかな?
「何が言いたいのさロウファ…」
『君等は神の子じゃない。そんな言い方は君等が人として生まれてきた事を否定しているようにしか俺には受け止められない。』
ロウファはロウファで思う事があったらしい。確かに私達は神の子、人類の最後の希望なんて言われてるけど、私自身それを誇りに思った事なんて微塵も無い。そういう意味では現実を見つめていたのかもしれない。
『お前等に1つだけ忠告しておこう。理想に浸り、理想に溺れるな。そして、理想だけで空を飛ぶと死ぬぞ。現実も見据えながら行動しろ。特にバルクホルン大尉、お前さんの事だ。身に覚えはあるんじゃないのか。』
「確かに私は理想があるがそれのどこが悪いんだ!」
トゥルーデの理想は大体の見当が付く。妹のクリスだ。気持ちの整理が付き切っていない所に宮藤が来た時もそうだった。宮藤とクリスが似ていると思ったからか、それ以来トゥルーデは必要以上に最前線に立ちたがっていた。
『別に理想が悪いわけじゃないし、否定してもいない。誰だって理想は持っているもんだ。勿論俺も持っている。』
「ロウファの理想か…」
『残念だが君等よりも俺の理想は小さく、私的なものだ。だけどそれが非常に重要な事だって思っている。たとえ何年掛かっても構わないそれでも俺は俺の理想と信念を追い、貫き続ける。そうじゃなきゃ今頃軍隊には居ないさ。』
基地に帰還し、Alterの機銃を整備していた俺とマーティンが執務室に呼ばれたまでは良かったが、その執務室にガランド少将が居た事が問題だった。
「俺達を呼んだのってガランド少将だったんですか?」
「そうだよ。いやぁこの前のパーティーの時に君達に無理に出席を強いた事のお詫びにここに来たんだよ。」
わざわざ、1兵卒たる俺達の所に詫びを入れに来たのは、本当にドブロニク大将以来だ。何と言えば良いのか見当が付かない。
「取り敢えずまあ座りなさい。話はそれからにしようじゃないか。」
「ありがとうございます少将。しかし何故1兵卒のような自分達にお詫びに来られた理由をお聞かせ願えませんか?」
本来なら連絡兵などを使って詫びを入れに来るのだが、この人は、自ら足を運んでまで来てくれる。それは現場主義という信念を貫いている事からかもしれない。俺自身が現場主義でもあるように、戦地の兵の事を心配し、1人でも多く生き残れるようにしたいという信念。それを守り続けているのだろう。
「そうだね、君達が異次元、俗に言うパラレルワールド、だったか?その世界の人達だったと言う事を忘れてしまってね。言い訳にしかならないが私はあの時酔い始めていてね。その酔っぱらったまま君達を電話で呼んでしまったようだ。申し訳ない、君達が世界中から命と技術を狙われているといえるような立場を失念してしまっていた。今回は本当にすまなかった。」
深々と頭を下げてお詫びをする少将に俺達2人は少し慌てた。
「ま、まあ大丈夫ですよ。おかげで今日は模擬戦も出来ましたから。本当に良い機会に恵まれました。それにこの基地の実力の程を知るための良い勉強にもなりましたよ。」
「俺は下で計測とか整備とかしてましたから模擬戦には参加しませんでしたがね。」
ガランド少将も俺達から見て、一応警戒すべき人物としてのリスト候補に挙がっているため、あまり深い話は出来ないが、必要な所上手く省いて模擬戦の事を説明していく。
「そうか、ハルトマンすら勝てなかったか……まあ仕方ない事だね。機体の性能差もある事を考えればロウファ大佐に軍配が上がるのも無理は無いな。それにしても501を模擬とはいえ全滅させたのは素晴らしいな。全部あの機体の性能のおかげかい?」
「あ~そのですね、俺の機体にはちょっと武装と速度の両方に制限を加えて模擬戦に臨んだものでして…要はハンディキャップ戦だったんですよ。」
模擬戦の時のCFA-44は自慢の速さも火力もほとんど使えない状況に追い込まれても、あれだけの鋭さで飛び続けた。あれはCFA-44の持つ低速時の性能を限界まで引き出した模擬戦だった。
「ハンデ付でも全滅させるのは容易ではないだろうに。」
「はは、まああくまで模擬戦ですからね。何事にも全力を尽くすのが軍人の本業のようなものだと俺は思ってますから。そうだ、この後のご予定はどうなっていらっしゃるのですか?」
「予定といわれてもこれといって特には無いけどどうする気だい?」
「まあ俺に付いて来ていただければ良いだけですよ。」
「ふむ、面白そうだから付いて行こうかな。時間はたっぷりあるからのんびりできる。」
「それは良かった。ではこちらです。」
そう言って俺達は執務室をガランド少将とヴィルケ中佐と共に出て、格納庫に向かった。
-格納庫-
格納庫の手前で坂本少佐と合流し、中に入るとそこでは、大佐達の機体が一部を分解され、整備されていた。どうやら今は機首の周辺を分解整備しているらしく、鼻先が無くなって下に降ろされている。他にも私が向かっている先に、物凄く大きな物体が鎮座していた。これは機関砲なのか?というくらい大きい。
「今我々の目の前にあるのはGAU-8アヴェンジャーガトリング砲です。」
「これが君達の世界の機銃かい?それにしては随分と大きいな…」
これが彼等の世界の機銃なのだろう。相当な重量があると見て間違いない。
「そうですね。確かに俺達の世界にもアヴェンジャーは存在します。ですが、あちらの世界では20mmバルカン砲が主流です。これはそれよりも10口径大きい30mmガトリング砲。絶大な威力を誇る故に対地攻撃や地上軍の支援行動で用いる事も多いです。」
「20mmでは威力不足なのか?」
確かに坂本少佐の言う事も尤もだ。20mmでも十分なダメージを与えられるだろうに。しかし、ロウファ大佐から出た答えは私の想像を超えた凶悪無慈悲な機銃だという事が明らかになった。
「20mmの欠点は、弾が小さくて戦車の装甲がなかなか破れない事、殺傷能力が中途半端という事だ。そこで開発されたのが、コイツだ。」
そう言って30mmアヴェンジャー機銃とやらに触れる。
「このアヴェンジャーでなら軽々と戦車の装甲を破壊する事が出来る。だからタンクキラーと恐れられている。ちなみに今から調整も兼ねて試射をしますけど見ますか?」
ミーナも、坂本も、その周辺に居た整備兵達も皆言葉が出なかった。そのくらい強烈な一言だった。この機銃で戦車の装甲を易々と貫通出来るのならば、この銃弾が当たった人間はひとたまりも無いだろう。口径の大きさからして1発で人間の体が消し飛ぶかもしれない。
射撃場に着いたところで数人掛かり(力自慢のバルクホルンとそれに準ずる整備兵達)で発射試験台に乗せ、ロウファ大佐とマーティン中佐で配線を繋いでいく。配線の接続をしている間に、バルクホルンが彼等以外の者に耳栓を配っていた。
「少将。私はあれの説明がいまいちよく分からなかったのですが…」
「私だって分からないさバルクホルン。取り敢えず試射のところを見ようじゃないか。」
嘘を付くしか無かった。あまり私が動揺すれば今後の指揮にも少なからず影響が出る。
配線の接続を終えたらしい大佐の手の中には、拳銃型の物体が在った。尤も似せているだけでトリガーを引いても銃口の部分からは多数のケーブルが伸びているのだが。
「ではこれより試射を始める。全員耳栓を付け忘れないように。」
全員が耳栓を付けた事を確認し、私が伝えると、彼は頷き真正面の的を見た。距離はおよそ500m程。そしてトリガーが少し引かれただけで銃身が高速で回転し始め、僅か2・3秒で銃身から轟音と共に銃弾が発射されていくのが見えた。その音は耳栓を付けていても間近に雷が落ちたとも感じさせる程大きかった。
試射開始から4秒程で弾薬が切れたらしく、的は土煙に覆われて暫らくは何も見えなかった。そっと耳栓を外し、大佐に近づき、
「もう終わりか?」
と、聞くと、
「あくまで試射ですからね。あんまり撃つと銃身が過熱し過ぎて壊れてしまいますよ。それよりも的を見て下さい。」
そう言って彼が指差す方向に在った的は地面から僅か数センチの所から上が無くなっていた。なんて威力だ。これが本当に30mmなのか。寧ろ高角砲弾を当てられたんじゃないかと錯覚するくらい粉々の的を見た者全てが言葉を失っていた。連射速度、集弾率、威力、どれを取っても素晴らしい性能だった。
「これがアヴェンジャーの弾ですよ。直径は3cm。それであの威力ですから人間に当たれば即死どころか確実に肉片すら残らず血煙になるだけです。それでも使いたいというのであれば悲惨な戦争が加速し続けていく事になるのを覚悟してください。俺は前以って忠告はさせていただきましたからね。」
もし今大佐がもつ弾丸が私に当たれば私はこの場から血煙になって消える…そんな事を想像した時、私は気付いた。彼等が口で信用するとは言っては居るが、それは私の様子を窺い続け私が信用に値する人間か、疚しい事を隠して無いかどうか判断するための材料であると。
それに気付いた時、私は悲しい気持ちに包まれた。同情では無く、知らない世界に飛ばされ、唯一お互いしか信用できない状況で肉体的、精神的に必死に戦い続けている。それは安らぐことが出来る所を見つけるか自分達が元居た世界に帰る事が出来るまで終わる事は無いと思っている。こんなに悲しい事は私は知らないが、もし私が彼等と同じような立場になったらどうなる?
答えは簡単に出た。彼等は強い。私以上に強く、折れる事のないハートを持っている。だからこそ人間同士で争う事を経験した事の無い者に少しでもその恐ろしさと醜さを伝えている。その争いを経験した者としての役目を果たそうとしている。だが、それを理解しようと努力する者と理解しようとせずに私利私欲に走ろうとする者。折角私は少なくとも前者であると彼等から判断されたのだからその思いを無下にする事は出来ない。
「私は君達に同情するわけではないが、君達を利用しようと考えていた事は認める。だがそれは祖国カールスラントを解放するためだけであってそれ以外の政治的な事に利用しようとは微塵も思っていない。それだけなんだ。分かってくれ……」
暫らく私を見つめた彼等はアイコンタクトで何かを話した後、何も言わずに試射を終えたアヴェンジャーを格納庫に運び始めた。そして去り際に、
「やはり信頼できる人は多い方が良いのかもしれないな…」
「!!」
そう呟いて格納庫に移動していった。そして、帰る時の見送りに大佐達は居なかった。が、代理で並んでいた者から、手紙を預かったので車の中で開ける事にしていた。
「何が書いてあるのやら……」
先程の気難しい雰囲気は私が帰る直前まであったため、皆が話し辛い状態だった。しかし、彼等の代理とは珍しい。どんな時でも自分で直接言いに来るがあれだけの雰囲気では来れそうにないのは私とて理解できていた。そんな事を頭の片隅に追いやり、手紙の封を切ると数枚の紙が綺麗に折って入っていた。それを何気なく広げた私は驚いた。
「こ、これは………」
そこには何処から持って来たのかは知らないが、Me262の改良と複座型の開発に関する様々な提案等が描かれた設計図で3枚ほどが入っていた。その他にも新型ジェットエンジンの詳細な見取り図(参考エンジンF-4Eと書かれているため所を見ると、彼等の世界の技術が流用されているという事は直ぐに分かった。)だった。そして、大佐直筆の手紙には、
-ガランド少将、先程は失礼しました。この前から言われていたジェットエンジンの件ですが今回は文面にて走り書きでお伝えさせて頂く事になります。まずは1枚目、これはMe262のエンジンの改良点についてです。このエンジンには図面上で出来る範囲の改良を加えた物となります。なるべくコストを浮かせるために一度分解して、軽量化出来る所は細部まで軽量化を施して下さい。出来る限りで構いません。そして、機体本体の部分は出来る部分まで1つずつのブロック化を図り、造り直します。装甲等の厚さは極力薄くしておくように。これは追加で装甲などを付けることを前提としています。
続いて2枚目、これは搭載兵装の種類について。機銃はこちらの技術を利用して造った専用の物を輸送しますので、搭載してください。おそらく気に入っていただけると思います。あとは懸架式27連装ロケットランチャーポッドです。これは超音速での戦闘時の空気摩擦にも耐えうる物ですのでご安心ください。また、YFA-45にも搭載されているので同じ弾薬を使います。弾種はこの世界の方と俺達の世界の方と兼用で使えるように設計しておきました。
3枚目は脚周りについて。この時代のMe262は脚部の耐久性がいまいち、という事も考えてこちらで再設計させて貰いました。ですが、あとでそちらの自由に組み替えも可能なようになっているのでご心配なさらず。
最後の4枚目ですが、ご希望通りかどうかは定かではありますが我々の世界にある第三世代機F-4Eのジェットエンジンを参考にして設計した物をお渡しします。またそれに合わせたエアブレーキ等の技術も送らせて頂きますので、上手くご活用ください。以上です。マーティン共々ご健闘を祈っております。-
と、書かれていた。
「ふふ、彼等が私に新しい原動力を与えてくれた事に感謝しなくてはならないな。2人とも、ありがとう。」
あとがき
どうでしょうか?初めてあとがきを入れてみた事もそうですが、エンジン技術と機体再設計案はともかくロケットランチャーポッドまでガランド少将に教えてみたのですが。何かと駄文もあるかと思いますが、これからも皆様が読み続けてくれる事が自分にとって幸いです。では、10話でお会いしましょう(・ω・)ゝ
第10話「ガリア目前に潜む罠」
3日後、Alterのオーバーホールがようやく終わり、交換した部品と掛かった経費の事を考えていると、食堂で地上軍がガリアの首都の目前まで迫ったが、思いの他ネウロイが強力なようで苦戦しているとの報告を受け、俺達クロスボーは航空支援として詳細な戦況データを貰って先日の上陸作戦での激戦区となったノルマンディー上空を高度1万フィートで飛んでいた。
『こいつは酷いな。あちこちで分散されて各個撃破されかねないぞ。』
「そうだな。イーディス、RLP(ロケットランチャーポッド)の準備は出来てるか?今回対地戦はお前に任せる方針だが。」
『何時でも行けるぜ。お前こそ制空権を素早く取っちまえよ。頭の上のハエがうるさくちゃ話にならねえ。』
「それは分かっているが露払いした後の再編成に掛かる時間が問題だな。M4シャーマン中戦車じゃ防御的に劣っているから重装甲のタイガー戦車を前面に出すか悩むな。」
『この際だ、各自で判断してもらうしか策は無いな。お、見えて来たぞ。』
「こりゃまた随分と派手にやってるな。」
上空から見ると下はあちこちで火の手が上がっていた。連合軍戦車部隊が苦戦している証。彼等が全滅したらガリア解放は遠のいてしまう。
「さ、行くぞ。クロスボー1エンゲージ。」
『2了解。エンゲージ!』
二手に分かれ、アヴェンジャーを選択。高高度からの強襲が如何に恐ろしいかを教えてやる。こちらの出現に気付いたネウロイも俺目掛けて突っ込んで来てくれる。これで良い。地上支援で暴れまわるイーディスをカバーするのが俺の役目。俺に気を取られている間にイーディスが地上型ネウロイを殲滅してくれれば戦車部隊の合流と再編成に必要な時間は稼げる。
「インガンレンジファイア!」
2基のアヴェンジャーが火を噴き出す。正面の1機を撃墜。続いて短距離AAM発射。これも命中し、ネウロイを粉々にする。
≪作戦司令本部より連合軍戦車部隊へ。何をしている、空が援護してくれているんだ。再編成を急げ!≫
慌てて再編を始める部隊と比較的落ち着いて再編をする部隊に分かれている。戦場に慣れた部隊と慣れないひよっこの部隊とで差が出てきている。
「地上軍へ、練度が高い部隊はひよっこ戦車達をカバーしてやってくれ。その間の時間稼ぎはこちらが担当する。」
《了解。こっちのへなちょこ機関銃じゃ対空砲火にもなりゃしねえからな。オラ何ボサっとしてんだ!さっさと編成を終わらせねえか!時間を掛けんじゃねえ!》
再編に大忙しの地上軍と地上近接支援のイーディスとは別に空の俺も大忙しになり始める。ネウロイの航空戦力がゾロゾロとこちらに集まって来たのだ。素早くXLAAに切り替え、長距離からのロックした時だった。“ソレ”を見たのはロックが完了したと電子音が告げてきた時だったからだ。
「何だ。アンノウン?」
『どうした?何かあったのか?ん?ありゃネウロイか?何で同士討ちしてるんだ?』
俺がロックしていたネウロイをまるで横取りするかのように突然現れた謎の飛翔体は、俺の意思を読んだかのようにロックした分だけ、撃墜していった。
「あれはネウロイじゃない…あれは、人間が造ったものだ。」
『はぁ?!だとしてもこの時代にビーム兵器なんて無かった筈だぞ?!』
「それは俺達の世界の尺度だ!こっちの世界にはネウロイがビームを撃てるだろ…」
なんだか嫌な予感がする。ついこの間ペベンシーが復旧したとはいえど油断や邁進は危険で愚かであるかに気付くのは、大抵取り返しの付かない事になってからである。そんなのは御免被りたいものだ。アレは紛れもない人造ネウロイ。流石にビームを撃たれたら俺達の戦闘機では話にならないが、唯一対抗できるのがEMLだけという事を考えると、いざという時に素早く沈黙させることが出来るだろう。その事も考え、何時でも撃てるように準備をしておく。こんなに警戒したのは何時ぶりだ…
暗い部屋が明るく照らされていた。その部屋には、光源のテレビ画面のような物と、何かのコントロール器具が置かれていた。そして画面には空中戦と放火が飛び交っている戦場が映し出されていた。画面を映し出している物体は今実際にその戦場に居る。地上で暴れまわる1機と、優雅に、奇抜に踊って空を舞い続け、それでいて鋭い機動を行う1機とは別に、独自でネウロイを撃墜する予定で投入されたのだ。その兵器はまだ試作段階ではあるものの、ある2機を除いて世界最速を誇るだろう。それ程自信があった。
-さて、奴らはどう出る。奴らのデータは得られなかったが、高速度性を得るためにお前達の機体の形は写真とはいえ参考になった。例を言うぞ。-
男は画面を見ながらほくそ笑んだ。何せ連合軍上層部にも極秘にし続けて自分が推し進めてきた計画がもうすぐ完成する。これでウィッチの力が無くてもネウロイは倒せる事を証明できる。“ソレ”の副産物ともいえる力で世界は活気を取り戻し、我がブリタニア再び覇権を取り戻す事が可能になるのだ。こんなに嬉しい事は無い。その暁には我がブリタニアに盾ついたあの2人組を苦しめてやる。そう思いながら男は部屋を出ていく。後にこの試作兵器がとんでもない事を引き起こす事になると予想しないまま……
謎の黒い飛翔体は、俺のターゲットとしていたネウロイを叩き落とした後、素早く戦闘空域を離脱して行こうとする。501がネウロイの相手をしている今がチャンスだ。あの飛翔体は何かやらかしそうな気がする。とてつもなく、デカく、震え上がらせるような事を。そこで、
「クロスボー1よりヴィルケ中佐。戦闘指揮は任せます。」
『ちょ、ちょっと待ってください!何をするつもりですか!』
「俺はさっきの奴を追撃してみる。俺が帰って来るまで頼みます。では。」
と、指揮をヴィルケ中佐に押し付けて例の飛翔体の追跡を始める。アフターバーナーに点火し、奴が離脱しようとする鼻先を掠めるように追い越し、急上昇をする。そのまま後ろを少しだけ見ると、一応追っては来ているが、やはり性能差が響いてしまうようだ。高G旋回で先回りするように機動を掛けながら俺はある事を確信した。
-やはりこいつは無人機か。有人じゃあんな機動は難しい。-
しかしあの色合いはネウロイそっくりだ。何時かはネウロイ化するように思えて仕方ない。すれ違い際に、アヴェンジャーを数発当てて、黒煙が噴き出したのを確認し、離脱しかけていた航路を良そうで戦場へと向けて最大戦速で“ソレ”と離れる。“ソレ”が追ってこなかった事に安堵しつつ、意識を戦場へと向け直す。
-地上部隊の火力支援ならA-10かAC-130の方が適任なんだけどこの世界に無いから贅沢言えないぜ…もし敵で出て来たら速攻で潰さないと地上部隊が手痛い仕打ちを受ける事になってしまう…-
「クロスボー2より全地上軍へ、これより火力支援を行うから特に歩兵達は気を付けてくれ。」
《了解。ようやく支援が来たぜ。早いとこ掃除してくれ。これじゃガリアに進めない。》
「分かってるさ。その支援は俺達に任せろ。RLP発射!」
主翼に設けられた4つのパイロンの内、一番内側に搭載されたRLPから16発のロケット弾が扇状に発射され、爆風と破片が範囲内のネウロイをズタズタにする。更にそこに目掛けて30mmの鉛弾の雨が降り注ぎ、更なる被害を作りだしていく。
《ヒューッやるねぇ!これで進めるぞ。オラ行くぞ野郎ども!!》
《イェッサー!!》
「例には及ばないさ。じゃんじゃん進んでいけよ。」
手負いのネウロイに突撃しながら砲撃をしていく戦車達。レーダーにそっと目を落とすと、他にも数か所程ネウロイが固まっている場所が見られたためそこにも火力支援として飛んで行く。
この機体に文句があるとすれば、機動性と兵器搭載量、速度を重視したために安定性がかなり悪く、低速時が特に不安定になり操縦が通常より慎重に行わなければならなくなるので今の俺の状態が非常に危険な事をやっている。それを難なくこなす奴が居るってのも如何なものか。
そんな時、その“難なく”乗りこなす奴が高高度からの急降下で1ヶ所だけネウロイが固まっている場所を全滅させていった。
-行きがけの駄賃って事か?それにしてはかなりえげつないと思うぞ…-
何せ1番機はADMMが命中すると同時にRLPを放ったのだからネウロイからすれば、文句の1つでも言いたくなるような徹底した爆撃だった。
-手加減を知らないというより固執する事と常に全力勝負したがる癖が問題だからなぁ…シュトリゴンやヴァンピールとの模擬戦の時もその癖が出て真っ先に狙われて逃げ回ってたのを思い出したよ全く…-
おかげで2人してボコボコにされた挙句、滑走路10往復&1週間の格納庫とトイレの掃除をやらされた。本来なら1ヵ月なのだが、ロウファがトーシャとクエスタニアの2人に撃墜判定を与えてくれたから1週間で済んだ。
昔を思い出しながらも低空で暴れまわり続けてこちらから見て当面の脅威性も無くなったと判断した時、ロウファの反応が一瞬だが弱まった気がしたのでレーダーを再確認すると、先程現れたアンノウンを追い掛けている事が分かった。追撃を受けるアンノウンにちょっとだけ同情するが人の手で造られた物という事ならば問題無いだろう。
「クロスボー2より地上軍全車両へ、当面の脅威は排除したが何があるか分からねぇから十分な警戒をしてくれ。」
《了解した。》
連合軍地上部隊が進軍する方面の遥か遠方の丁度ガリア首都上空には巨大なネウロイがある1機を中心に4機ほど飛んでいた。中心の大型ネウロイからは数機のジェット機型ネウロイが飛び立ったのを確認した後自身の背面部が開き、内部が露わになるがそこにはこの時代では製造どころか存在していない物“巡航ミサイル”が格納されていた。その数はおよそ7発。そして発射の準備が整い、放たれるミサイルのような物。それは自身から出て行った分身ともいえるネウロイよりも速く飛び連合軍の頭上で炸裂した。
多くの兵士達が、ウィッチ達が奮戦している。だが俺達はレーダーに捉えたモノに見覚えがあった。
「この反応はニンバス?!何処かにアイガイオンが居るのか?!」
『んな馬鹿な!?アレはとっくに鳥のエンブレムが落としたじゃないか!』
「クソッ!もしかしたら近くに観測用の無人機が居るかもしれん!そいつを探すのが先だ!」
『そうだなって言いたい所だがレーダーに8つの反応!こいつはジェットだ。』
ニンバス・無人機・ジェット機、これが何を意味するのか。ある意味最悪の状況に俺達は置かれてしまったのかもしれなかった。作戦を放棄してでも地上軍を生存させなくてはならない。
「作戦行動中の全友軍に告ぐ!急ぎ直ちにノルマンディー拠点の近くまで退却だ!今の攻撃に当たったら自分がこの世から消し飛ぶと思え!同時にこちらに接近している敵戦闘機達は俺達がしっかりと迎撃する!」
『急にどうしたんですか大佐?突然退却しろなんて…それに敵?!……分かりました。撤退を開始します。』
ヴィルケ中佐の言う事も尤もだが、そんな事を言っている余裕が俺達には無かった。しかし、ヴィルケ中佐にも反応を感知したのか、501の皆に撤退命令を下していく。たとえ反発され、理由を聞かれようとも全員に有無を言わさずに撤退させていく。その間に、接近するネウロイをレーダーで機種を調べる。
『…やっぱりか。』
「…ああ。予想通りの機種だった。来るぞ、シュトリゴンかヴァンピールのどちらかだ。」
機種は、Su-33だ。間違いなく両部隊のどちらかしか俺は知らない。おそらくヴァンピールもシュトリゴンも両隊を模したネウロイが来来るのだろう。俺はニンバスが周囲に着弾する中、俺達が加速して接近すると向こうも同様に加速して接近して来た。そのまま7機のネウロイとすれ違う時に尾翼にある部隊章を確認してみる。
「……!ヴァンピール!」
『ヴァンピールが相手か!!だが負けるわけにはいかねぇ!!』
一つだけ気になる事があった。1機足りない。あの人の分だけ間隔を開けて奴らは飛んでいる。おそらくこの戦争で最後に待ち構えるのはあの人だけだろう。その編隊の後ろ側に見覚えのある機体が居た。CFA-44だ。あれはクエスタニアの奴だろうか?あいつだけは許せない。何故自分があの機体を与えられたのかも理解できず、平然と民間人に発砲出来たのかも俺には到底理解できない。だからこそサン・ロマであの人によって始末されたのだろう。
「ロックオン…Fox3!」
当たらなくても牽制にさえなれば良い。その気持ちだけで突撃し、久しぶりにYFA-45のリミッターを解除する。これにより、今まで以上の機動力を得られるが代償としてパイロットに掛かるGは通常の凡そ3倍近くなるが、それくらいで無いと追撃どころかトレースしか出来ないと思う(クエスタニアが駆っていたと思われるCFA-44は別として)。
「イーディス、あのCFA-44には手を出すな!俺が落とす!」
『了解だ!』
シザースから逃れて、1機の後ろを取るがすぐさま回避行動を取られるため、追撃しなくてはならないが横からの妨害が入るのでなかなか攻撃位置につけない。それどころかヴァンピールに囲まれた状態ではダブルサッチウィーブで挟撃される憂き目に合うのが見えている以上、今は回避に専念してチャンスを待つしかない。
ふとレーダーを見るとまだ、1人だけ離脱しておらず、それどころか近づいてくる光点があった。小さな光点、瞬時に周波数を変えると、
『待て宮藤!お前が行っても如何にかなる相手じゃない事くらい分かっているだろう!』
『分かってます坂本さん!それでも力になりたいんです。』
『そのお前の気持ちは私達も同じだ。』
『だったら何故助けに行かないんですか!』
どうやら宮藤軍曹が命令違反でこちらに飛んで来たようだ。彼女が俺達が飛ぶ領域に足を踏み入れた瞬間どうなるかが予想出来る坂本少佐だからこそ、いや皆が分かっている。ジェットの相手が俺達以外に出来ないという事を。
『私達が行っても大佐達の足手まといになるだけだ…』
だが彼女は、宮藤軍曹は我慢が出来なかったのだろう。俺達が後ろを取られながらでも必死で撤退の時間を稼いでいる事に。その気持ちに申し訳ないと感じつつも周波数を併せて宮藤軍曹に通信を入れる。
「聞こえるか宮藤軍曹!死にたくなかったらこっちには来るな!邪魔だ!」
『で、でも。』
『でもだ、云々言ってる暇があるならさっさと離脱しろ!』
『嫌です!』
かなり強情なやつだ。しかし彼女に気を取られてばかりではいけない。
『ビーッ!』
早速ミサイルを撃たれたが高G旋回で躱そうとすれば偏差誘導で飛んで来るミサイルに撃ち抜かれるのがオチ。ならば、
「ちっ!間に合えよ!フレア展開!」
フレアを展開しながらアフターバーナーに点火して安全な範囲へと退避する後方でフレアにミサイルが騙された証拠として炎が噴き上がる。
-ふうヤバかった…-
その代わりに腹が立つ。何故俺の心の傷を抉るんだ。そんなに楽しいか?俺の傷を穿り返してそんなに?そこで俺の感情のヒューズが切れた気がした。プツリ、では無く、ブツリ、とだ。
「そんなに、そんなに俺の傷を弄って楽しいのか…良いぜ、やってやるよ…お前等全員叩き伏せてやるから覚悟しやがれ虫けら共が!」
『お、おい、落ち着けサジット!』
今イーディスが止めるような声が聞こえたがそんなのは忘却の彼方だ。取り敢えず目の前の獲物を刈り取ろう。それで良い。
「目障りだ!消えろ!」
俺の射線上に迂闊に出てきた敵機にガンを浴びせハチの巣にする。
-もう何も聞こえない…まるで俺が操ってるんじゃない気がする。だが奴等は生かして返すわけにはいかない。ヴァンピールとシュトリゴンを侮辱してくれた礼だ。1機たりとも残さず俺が落とす!-
『待てサジット!待てってロウファ!』
「黙ってろイーディス!ヴァンピールが侮辱されたのに黙ってられるか!」
後方に居る敵機に向けて高G旋回で振り向こうとするだけで物凄く強烈なGで肺だけでなく、身体の中の臓器全てが破裂しそうになる。それでもYFA-45は止まらない。鷲座の名を冠した戦闘機は、その名に違わぬ旋回力でSu-33の姿のネウロイに襲い掛かった。真正面に戻ってきた俺を捉えたネウロイは好機とみたのか、ミサイルを2発ほど間隔を空けて発射してきたが小さく膨らまるように緩やかにロールを行うと2発とも簡単に避けられた。お返しに30mmをお見舞いしてミサイル発射。そのまま他の機体にも襲い掛かり、3機目の敵機を撃墜したところでふと我に返る。
既にニンバスの攻撃は止み、現在残っている敵機は僅か2機。うち1機はCFA-44だが、距離がありすぎる。しかし、そのCFA-44を示す光点に接近している小さな光点があった。最後のSu-33はイーディスが追い回しているがイーディスに軍配が上がるだろう。問題は最後に残る機体に小さな光点だ。嫌な予感がするのは俺だけでは無かった。
『ロウファ大佐の機体に似たネウロイのすぐ近くに宮藤が居るんだ!何とかネウロイの注意を引いてくれ!』
「軍曹とは無線で話せないのか!」
『どうやら宮藤の奴は無線を切っているようで繋がらん!頼む大佐!宮藤を、宮藤を無事に帰れるように時間を稼いでくれ……』
あの時、艦隊に向かう時に言われた言葉そのままが伝えられた。だから俺は最後の確認として、
「分かった。出来る限り注意を引き付けるがそれより早く向こうが気付いたら宮藤の身が保証出来なくなるぞ?それでもか?」
と、まさに坂本少佐の覚悟を聞きたかった。いや、覚悟はしているだろう。それでも聞いておきたかった。
今後必ずやって来るであろうシュトリゴン隊の機動と戦い方を真似たネウロイ、それにヴァンピールと共に来なかったあの人は恐らくグレースメリアの再現同様になるかもしれない。
-覚悟は、しないとな。俺にあの人を撃つ事が出来るかは定かじゃないけど、それでも撃たなきゃならない。その道を選んだのは他でもない俺自身なのだから。-
こちらから見て、軍曹がどれだけ敵に接近しているのかが良く分かった。良く言えば間に合うが悪く言えば間に合わない。ほとんど両者の距離が無くなっていると思う程近付いているのが確認でき、非常に危険な状況だった。軍曹がネウロイに銃を向けなければ狙われずに、気付かれずに済んだ筈だった。
『止めろ宮藤!』
坂本少佐が無線で呼び掛けても応答しないまま彼女の銃は火を噴いた。当然、銃弾が当たる事は無く狙いが軍曹に向けられるだけの無意味な行動。自己犠牲なのかはたまた怖いもの知らずなのかは分からないが、CFA-44モドキのネウロイは、軍曹目掛けてミサイルを放った。
「馬鹿野郎!」
軍曹をここで死なせるわけにはいかない。まだまだ教えなくちゃならない事もある。
そんな事を考えつつアフターバーナーを全開で1人と1機の間に無理矢理割り込む。ミサイルは当然ながら高熱源体の俺の機体を追い掛け始める。ミサイルアラートがやかましいが何としても彼女からネウロイを引き剥がさなくてはならない。
後ろをチラリと窺うと、ちゃんとミサイルと一緒にネウロイも付いて来ていた。今の俺にはミサイルを避ける事が出来ない。偏差射撃をされたからまず間違いなく当たるだろう。フレアもまだ使えない。
「今すぐ下がれ軍曹!コイツは俺が引き付けておく!」
-ちっアラートがやかましいことで!-
そう思ってから2秒か3秒経った頃、爆音と共に俺の機体は大きく揺さぶられた。コクピットの内部ではいくつかの破片が跳ね回り、ヘルメットとキャノピーを何度も叩いた。ベルトで固定されている筈の体も前に投げ出されるかの如く前後に振られた。すぐに気を取り直して素早くコンソールを確認すると、後方アクティブレーダーにミサイルが直撃し、後方アクティブレーダーが全損。炸裂した時の破片と余波で斜め尾翼が2枚とも損傷している事、左エルロンと右フラップにも軽いダメージを負い、少しだけ油圧系統にもダメージを受けていた。他にもエンジンノズルの周辺にダメージが伝わり、ノズル稼働率が40%にまで低下している事を告げられた。
脱出しようかとも考えたが、脱出する必要は無かった。ネウロイは俺にダメージを与えたのを確認するとガリア方面に撤退していった。機体のダメージは中破といったところだろう。取り敢えず撤退してくれた事に感謝しておこう。
『おいサジット大丈夫か?後ろから結構煙出て完全に後ろのアクティブレーダーがオシャカになってるぞ。』
「脱出の必要が要らないだけまだマシさ。そろそろ戦闘空域を離脱しよう。陸軍も撤退が完了している事だしな。説教は今ここでやっておくぞ宮藤軍曹。今日基地に帰ったらタップリと坂本少佐に怒られる事だ。」
『すみません…どうしても力になりたくて…』
「君の心遣いには感謝している。だけどあまりにも力量差があり過ぎる今日みたいな時は不用意に近付くな。俺達が何とかする。」
『はい…』
「全機、帰投するぞRTB」
基地に着いて格納庫に納める前に、格納庫前で消火作業を行ってから俺は想像以上の現実を突き付けられた。
-少しやられたくらいでこの機体は落ちはしないように設計はしているが…こいつは少々ヤバいな…-
今回初めてミサイルを真後ろから当てられた事で分かった事が3つあった。
・直撃である程度の被害は覚悟していたが後方アクティブレーダーを全損した事が1つ。
・推力偏向ノズルが被弾した際に破片や爆風等で損傷し稼働率が低下した事。
・余波でエルロンやフラップも損傷した事。
これは決定的に耐久性が足りていない事だけでは済まず、機体の構造的にダメージが伝わりやすいのではないかと俺は判断した。
「今回の作戦で宮藤軍曹が命令違反したと聞きましたよロウファさん。」
整備兵長が話しかけて来たのは良いが、もう話が漏れている事からしてこの基地に箝口令なんてモノ自体が滅多に出ないと再認識した。
「ええ、軍曹には近づくな、撤退しろと命令していたんですがどうやら彼女自身は誰かの力になりたかったから命令違反をしたらしいです。それ相応の被害を俺が受けましたけどね。後方アクティブレーダーが全損ですよ…」
「確かに酷いやられ方ですな……しかしこれがみさいるとやらの威力なんですか?こんなの喰らったらウィッチでもひとたまりも無いでしょうに…」
兵長が驚くのも無理は無い。この基地に来て俺が初めて被弾したのとその被害を与えたミサイルの威力に驚いた事は否めない。俺自身も何度かミサイルを当てられた事はあるが、そのどれもが近接信管入りのミサイルばかりだったが今回は真後ろに回り込んでの直撃だったため被害は大きかった。
「とはいえ、これでまた整備兵は忙しくなるわけですな。」
兵長の顔がキラキラしているが、忙しい事が嬉しいようだな。
「すまんな兵長。また迷惑をかけてしまって。」
「構いませんよ。こちらとしては整備の手順を覚えるのにも苦労してますからね。丁度良い機会なんですよ。」
「そうか。じゃあ任せるとするよ。俺は執務室に呼ばれてるからね。」
「分かりました。何とか明日に飛べるようにしたいのはやまやまなんですけど予備部品とか流石に無いでしょう?」
実はこの世界に持ち込まれていたりする。あのコンテナの中に2機分のアクティブレーダーが予備で積まれていた。
「あー何と言うかその予備はあのコンテナの中に札付きで置いてあるから使ってくれ。」
「あ、コンテナの中にあったんですか…」
「あまり大きい声で言う事はしたくないからね…それと他の物は絶対に触らないでください。下手に触ると爆発しかねない物もあるので…」
そう言って俺は愛機の事を兵長に任せて執務室に移動した。執務室では宮藤軍曹がお説教されている事だろう。命令違反とはいえ比較的穏便に済ませたいものだ。
「失礼しますよヴィルケ中佐。」
執務室に入ると、既に宮藤軍曹が坂本少佐にお説教を受け終えていたようで、随分としょぼくれていた。
「随分としょぼくれているな宮藤軍曹。」
「来たのかロウファ大佐。ほら宮藤、大佐に謝れ。」
「す、すみませんでしたロウファ大佐…」
と、軍曹を急かして謝らせた。
「まあ君の気持ちは分からないでも無いが今の君の心構えのまま前線に出るのは控えて欲しいとしか言えない。戦う気があるのは分かる。だがそれ以上に君は必要以上に優し過ぎる。戦場ではその優しさが仇になったり通用しない時も多くある事を忘れずにいてくれ。」
「ど、努力します…」
ロウファは自分の機体が宮藤の所為で損傷したにも関わらず、その事を一切言わずに宮藤を退出させた。
「ロウファ、機体はどうする気だ?」
「幸い予備の部品があるからそれを使うさ。しかし、今回の作戦はものの見事に失敗したな。戦力差が全く違い過ぎたのが1番大きいと思う。」
「そうですね。あの爆発は何なのかご存じなようでしたねロウファ大佐。」
すかさずミーナが質問を突き付ける。すると、
「あれは前に居た世界で俺も見た事がある物の一つだ。あの爆発は広域炸裂兵器ニンバス。それとあの航空機はSu-33とCFA-44だ。」
にんばす?全く以て聞き覚えの無い兵器の名前。
「ニンバス、ですか…そんなものが何処から来たのでしょうか…サーニャさんの魔導針にも反応がありませんでした。」
そのにんばすとやらはミーナが言った通りサーニャが持つ魔導針の探知をすり抜けて飛んで来たのだった。
「恐らくガリアから来たと考えて間違いないだろう。それにニンバスは巡航ミサイルだ。生半可な魔導針じゃ探知は出来ない。だがニンバスが来たとなるとニンバス以上に厄介な存在が居る事がこれで分かった事になる。」
厄介な存在?何なのだろうかそれは……
「厄介な存在、ですか?まさかそのニンバスを撃ち出した本体が居ると考えているんですか?」
「ああ、それに考えているんじゃない。簡単に予想が出来る事だ。あれの発射にはそれなりの設備がある地上施設が順当と思えるが、戦闘機が来て直ぐに分かった。ニンバスは地上から撃たれたんじゃなくて空中から発射された。あれを、ニンバスを運用しているのは、俺達の世界の兵器の一つだ。」
そんな事を話している頃、ノルマンディー守備隊が被害を受けているとは思いもしなかった。そしてその先兵の影が501に接近していると事も……
あとがき
遂に現れたアイガイオンと何か得体のしれない影が501に迫ります。さてこの後どうなるのか……次の11話でお会いしましょう。
第11話「奇襲」
俺はベッドの上で仰向けに寝転がってある事を考えていた。何故ヴァンピールや他の戦闘機達も同様、アイガイオンまで出現したのかを。
-俺達が居た世界の物真似は分かる。そうすれば人類なんて一蹴出来る。だが何故アイガイオンまで真似る。そこまでして人類を絶滅させたいのか。-
そこまで考えて昼寝でもして気分転換しようと思ってふと外を見た瞬間、窓の外を見ていた視界の端に何かを捉えた。それは黒い物体から発射されたミサイルだと気付いた時、身体が急いでマーティンを叩き起こしていた。それと同時にレーダー設備にミサイルが命中した。レーダーの金網状の装置が吹き飛ばされ、基地中に爆音と衝撃が走る。ついにこの基地がネウロイの襲撃を受けたのだった。
幸か不幸か、待機して残っていたウィッチは宮藤軍曹、エイラ少尉、イェーガー大尉の3名。しかも上にF-16C型のネウロイが来ている以上、不用意に部屋に籠っているわけにもいかなくなった。対地ミサイルでお陀仏するのは勘弁して欲しいからな。ネウロイは基地を攻撃するだけでは飽き足らないのか、空挺部隊まで降下させてきた。
「おいおい、空挺部隊かよ。対空班は何やってんだ!」
「恐らく最初の対地ミサイルの1撃でほとんどの対空砲が潰されたと考えて良いな。」
ネウロイは営倉に気付いていないのか、部屋の前をスルーしてくれている。その間に、俺達は小声で確認を取りながら武装していく。かつてオーシアで海兵隊の訓練を受けた時に武装を譲って貰ってて良かったと思う。防弾チョッキをフライトスーツの上から着こみ、分解して置いた整備済みのM240を素早く組み立てる。背中にはM16A1とグレネードランチャーを背負い形見のDE50AEと予備に隠しておいたベレッタをホルスターに入れて持てるだけのフラググレネードとフラッシュバンと予備弾を持って準備完了。マーティンに至ってはスーパーショットガンを装備している。
「あ、俺のグロックがどっかに吹っ飛んじまってる…ロウファ貸してくれ。」
「グロック18で良いなら貸せるぜ。」
「悪いな。借りるぜ。」
「構わねぇよ。」
お互いに最終チェックをして営倉から出られるように周囲の様子を窺う。しかし、とてもじゃないが出られない。先程の対地ミサイルで崩落でもしたのか入り口前に天井が落ちてきていて出られない状況だった。
「どうだ?出られそうか?」
「無理だな。天井が崩落して出口を塞いでやがる。あとは窓か…最悪壁を4か所くらい爆破してみるか?丁度壁を吹っ飛ばすだけの爆薬はあるしな。」
「そうだな壁を壊すか。急がないと格納庫を嗅ぎ付けられるぞ。」
確かに格納庫だけは破壊されたらこちらの負けだ。
「よし、右側の壁を爆破してみるか。」
急いで爆薬の設置に取り掛かるが慌てて手元が狂っては意味が無くなってしまう。リング爆弾の取り付けが終わり、次のミサイルの着弾に合わせて爆破準備をする。マーティンには外の監視と、ミサイルの着弾予測を立ててもらう。
「まだか?リングは出来たが。」
「そんな事言われたってミサイルが来ねえからなぁ…」
「もういっその事吹き飛ばすか?」
「そうだなってミサイル来たじゃねえか畜生め!」
全く以てタイミングが良いのか悪いのか分からんなネウロイってのは。
「着弾予測!!」
「あと5秒弱!」
5秒か…スイッチを握る手が少しだけ震えて来たが、きっかり5秒後にミサイルの爆発音と壁が爆破された音が見事に重なってくれた。壁が消えた後には廊下が見えたので警戒しながら顔を少し出すと、こちらに背を向けている歩兵型ネウロイが3体居た。
「ありゃ歩兵型のネウロイか。ご苦労な事で。」
「だな。マーティン、1・2・3で飛び出て撃つぞ。」
「分かった。」
「撃った後は格納庫を目指す。」
「皆との合流は?」
「後回しだ。先に俺達の移動手段を確保した方が理に叶っている。」
「成る程。格納庫はこの廊下を左だったな。」
心の中でカウントをしていく。1・2・3!
「行くぞ!」
「了解!」
突然ライフルを撃ちながら廊下に飛び出してきた俺達に反応できずに瞬く間に歩兵3体は倒れる。「急いで格納庫に向かうか…」
「急がば回れって言われた気がするがなぁ…」
そんな諺をこの場で言われても何と答えるべきか分からない。
「良し、前後左右共にクリア。進めるぜ。」
「分かった。重火器に持ち替えてから行動するぞ。」
2人ともそれぞれの重火器に持ち替えて周囲を警戒しつつ廊下を進むと、角から何か見えている。おそらく歩兵型ネウロイが居るのだろう。案の定、近づいた途端、銃撃されたが間一髪で飛び出ていた2つの柱に隠れる事が出来た。何体居るのかは定かでは無いが、取り敢えずフラググレネードを投げて沈黙させるしかなさそうだ。一応グレネードランチャーも携行してはいるが、この状況で使うと俺達も被害を受けかねない。
「フラグを投げろ!」
その一言でマーティンが柱に引っ付くように体を寄せてフラグを手に取る。俺はそれを見るとすぐさまフラッシュバンのピンを外してマーティン側の柱の前の壁に向けて投げつける。それと同時にマーティンがフラグを投げつけた。閃光と轟音に視界と聴覚を奪われたネウロイ達をすぐに襲ったのはフラグの無数の破片。瞬きする暇も与えられずに白い破片に変わっていく。
「ふう…何とか沈黙させられたな。」
「取り敢えず合流を優先したいが格納庫に集まっている可能性も捨てきれない。道中で基地要員を拾って行けたら拾うぞ。」
いくつか角を曲がり、その度に戦死した基地守備兵の冥福を祈りつつ彼等の残した武器を回収して移動していく。しかしSTG44しか持っていない所を見ると、基地守備兵の一番の目的はネウロイ以外の侵入者(例えば俺達の事)を始末するだけなのだろう。こんな事を言うのは失礼だろうが、彼等は対空砲とウィッチにしか頼らなくてはならないのかもしれない。
「段々と厄介な状況になって来ているな。」
「そうだな。連中がなんとしても俺達の機体を壊したいって感じかひしひし伝わって来るぜ。」
格納庫に向かうにつれて、段々とネウロイの数が増え、銃撃も強力な物に変わり始めていた。既に格納庫が陥落しているのかと思ったが、ウロウロしている姿も見られたため、まだ見つかっていないか誰かが護っているのだと予測出来た。
「おいロウファ、あそこだけ妙に集合してないか?」
マーティンが言う方向を壁からそっと見ると、そこは格納庫の入り口の目の前。確かにネウロイが集合し始めている。
「集合している、というより何か大掛かりな準備をしている…まさか…奴等、格納庫の扉を爆破するつもりだ!」
「おいおい、それは不味いじゃねえか!何か出来ねえのかロウファ!」
「慌てるなマーティン。俺がグレネードランチャーで吹き飛ばす。」
そう言いながらグレネードランチャーのリボルバー式薬室(チャンバー)に炸裂弾を5発装填する。幸い、近くに花壇があったので、そこを利用して姿勢を低くしてランチャーの射程に収まるまで接近する。
-これで、俺達の世界の小火器クラスでどれだけの効果があるかは分からないがやるだけやってやるさ。-
心の中でトリガーを引くタイミングを計る。1つでも動作を間違えたら俺は確実に即座にお陀仏だろう。ネウロイの手が鉄扉に触れるか触れないかの瞬間トリガーを引いた。撃ち出された弾は寸分の狂いも無くネウロイ達の直前で炸裂し、引き裂いた。
格納庫で愛機のストライカーを整備していたあたしは突然の爆発音と衝撃で揺さぶられ、何が起きたのか一瞬理解出来なかった。すぐに確認のために扉の近くから外を見ると、基地のトップのレーダーが根元から破壊されて、燃え盛っているところだった。それはこの基地が堅牢さを誇り、安全地帯と謳われてきた501安全地帯論がネウロイに初めての侵攻を受けた事で根底から覆された瞬間であった。その光景に唖然としているといきなり襟首を引っ掴まれて格納庫の扉から引き離された。
「いてーな!何すんだよ!」
誰かと思いながら怒鳴ると、そこにはロウファと仲が良く、ロウファの担当整備士のホーク整備兵長が居た。
「こんな時に痛いもクソもあったもんじゃない!あのまま扉の近くに居たら死んじまう所だったんだぞイェーガー大尉!」
流石にこの人には頭が上がらない。歳の差ってのもあるけどロウファが何時も敬語を使っているくらいの人物だ。
「う~分かったよ~」
「これじゃあウィッチを出すのは自殺行為だな…上がる前に落とされかねん…」
「シールド張りながら上がれば良いじゃんか。」
「バカ!それじゃ地面に叩きつけられたらどーすんだ!俺は責任取れねーぞ!」
う~んそこまで言われたら引き下がるしか無いなぁ…
「兵長!ヤバいですよ!歩兵型ネウロイがこっちに来ました!」
「何っ!畜生!俺達の今居る格納庫を守り通せ!」
整備兵長の掛け声で皆が扉を押さえる為のバリケードを設置されていく。銃を撃てる人と撃てない人に分かれて行く中、あたしは撃てる側だけどウィッチは地面じゃ人と同じだって事を思い出した。ならやる事は一つ。あたしの手はストライカーの横に立てかけてあったBARをすぐにつかんでいた。
「良し、これで入って来られねぇだろ…って大尉は何してんだ!」
「何ってあたしも戦えるからさ、力にはなれるだろ?」
ホーク整備兵長は驚いていたけど、あたしだって軍隊の中に居るんだから戦わなきゃならない。
「はあ、ミーナ中佐に怒られるのは俺だけじゃないんだぞ全く…」
そう言った瞬間、バリケードが物凄い爆発と共に吹き飛んだ。
「「!!」」
全員が銃の先を煙に向けると、煙の向こうから、
「ドライブ!」
と、聞いた事の無い言葉が聞こえてきたからあたしは不思議に思ったけど、一人の警備兵が、
「スラッシュ!」
そう返した時、煙の中から2人の人が駆けつけてきた。物凄く違和感タップリで、見た事の無いものを付けている所からしてロウファ達以外に思いつかない… 武器も見た事が無いけど何だか親近感がある物ばかりだった。
「ふう。無事だったか?グレネードランチャーで吹っ飛ばしたのはネウロイがそこの扉を爆破しようとしててな。」
「ぐ、ぐれねーどらんちゃー?」
「まあ俺達の世界の武器さ。詳しくは何時か紹介するさ。それよりも待機のウィッチが君一人じゃなかった筈だが他のウィッチは?」
今更気付いた。出撃の時に代わりに待機ウィッチが最低人数の3人居る筈なのにここに居るのはあたし一人だけ。
「ふむ、という事はあとの宮藤軍曹とエイラ中尉はまだ中に居るのか。」
「マズイな。今基地の中にゃネウロイがウジャウジャ居ると思うぞ。どうする?行くか?」
「行かないで死なせても迎えに行った道中で死なれてもこっちが困るからな。取り敢えず救援に向かう以外の手立てはないだろう。」
2人だけで行くつもりらしい。そんなの自殺行為だ。いくらロウファ達が空で強くても地上じゃどれだけ強いか分からない。
「ま、待ってくれよ!2人だけで行く気なのか?!あたしも行くって!」
「好きにしろ。その代わり自分で自分の命は守ってくれよイェーガー大尉。俺達は俺達の命を守るので精一杯だぞ。行くぞマーティン。」
「了解。にしても俺、ショットガン持ってるんだが使い道無い気がするぜ…」
「まだ間合いに入ってない時に撃つバカが何処に居る…取り敢えず格納庫の護りは任せるぞ。そこに廃材とスクラップから作った自家製のロケットランチャーと手榴弾があるから必要に応じて使ってくれ。それに道中で拾ってきたSTG44と弾薬を置いておくぞ。」
そう言うと、ロウファは自作武器が大量に詰め込まれた箱の後ろから何やらドデカい砲台みたいな物とそれから出ている帯みたいな物が入り込んでいる鞄を持ち出してきた。何かいっぱい銃身が付いてるな…
「おい、ソレも持ってくのか?それは要らない気がするぞ…」
「ああ、無いよりマシだろ。」
「そ、それ何だ?何でそんなにデカいんだよ。」
「これも後で教えるから今は救援に行くぞ。」
ロウファ達が持っている武器の事も気になりながらも、あたしは付いて行った。
M134を右腕に抱え、左手のみでマーティンから拝借したスーパーショットガンを構えて廊下を進むと、ネウロイがこれまたウジャウジャとこちらに来た。向こうの射程圏内に入る前にこちらから排除させてもらおうか。
「さてさて、邪魔者は排除しようかね。」
スーパーショットガンを背中に掛け、左手で銃身部と機関部の間に設けられた手すりを握って腰の高さに構える。親指の部分に付けられたボタンを押し込み、人差し指の部分のトリガーを引き絞ると、爽快な機械音と共に銃身が高速回転を始めてから3秒後に大量の銃弾が迫り来るネウロイに向けて放たれた。
バララララララララララララララララララ!
M134の弾幕に絡まったネウロイが次から次へと倒れていく中、難を逃れたネウロイはマーティンによりライフルの単発撃ちで仕留めてられていく。
彼女達を闇雲に探し回っても見つかるわけが無いのでイェーガー大尉にアテが無いか聞いてみると、どうやら普段は待機する部屋に居るらしい。それは地図で確認すると、あと2階分も上の階層にある事が分かった。幸い、すぐ横に階段があるため上に行くには簡単だった。
「面倒だが行くしかないな。」
「ああ。あいつ等が下手に動き回ってなきゃ良いんだが…」
マーティンの言う事も尤もだ。おそらく彼女達は武器が無い。ならば俺達が救援に行って武器を使わせるまでだ。
「なら話は早いじゃんか。さっさと行こうぜ。」
大尉が急き立てるが、廊下の遥か向こうに何かが居たのを俺は見逃さなかった。
「そうしたいが、彼女らを救援に行くのはマーティンと大尉が行ってくれ。」
「え?」
「…………」
大尉は驚き、マーティンは理解したようだ。
「無線は持ってるな?早く行け。俺はここを守る。」
(すまん。お前に任せてばっかりで。)
(気にするな。何時もの事だ。妻子持ちのお前を死なせるわけにはいかん。)
「分かった。ここはロウファに任せて俺達が救援に行こう。」
「ロウファをここに置いてけって言うのかよ!」
悪いが俺はそう易々と死ぬほど弱っちく無いぞ大尉。そんな事を考えつつ廊下の向こうに向けてM4A1を数発撃ち込む。
「大丈夫だこいつはそんな簡単に死にはしないからな。」
「う…分かったよ…絶対死ぬなよロウファ!」
階段を上がっていく2人を見送ってから前に向き直るとすぐに周りに散らばっているソファや壁の一部を集めて即席バリケードを設置してネウロイからの銃撃に備える。M240・M16A1・M134共々何時でも撃てる状態。
「さあ掛かって来いよ。返り討ちにしてやるぜ。」
そう言って俺はグレネードランチャーを撃ち込んだ。
ズズン…
今のはグレネードランチャーが爆発した振動だな…ロウファの奴、また派手に暴れるつもりか。
「この角を曲がった所に待機室があるんだ。」
「地図だと確かにそうなってるが、無くなってる事なんて俺達の世界じゃザラにあるぞ。」
そう言いながら角を曲がると、警備兵が数人ほど血だらけで倒れていた。すぐに首に手を当ててみるが、無駄足に終わった。ロウファがここに居たなら一目見ただけで生死の判断が一瞬で付いただろう。
「お、おいしっかりしろ!」
「止めるんだ大尉。残念だがここに居る彼等は忠実に職務を全うして殉じたんだ。そっとしておいてやれ。」
そのまま彼等が持っていたSTG44とステン短機関銃やその弾倉を回収していく。使える物は徹底して再利用するのは俺達の十八番とでも言うべきか。
「畜生!あたし等の基地をこんなにしやがって!」
大尉が怒るのも無理はないが今は彼等が守り通してくれたであろう宮藤軍曹とエイラ少尉の安否確認が最優先になっている。
「今怒っても仕方ないだろ。早く2人を見つけてロウファと合流するぞ。」
ステンに持ち替えて先を急ぐと、2つほど先の部屋から何か物音が聞こえた。それと「うわっ!足踏むな宮藤!」という声も。
「そこに居るのがエイラ少尉と宮藤軍曹なら合言葉に答えろ!俺達の愛機のコードネームは!」
「あ、合言葉?!コードネーム?!え、え~と…」
「あと10秒だけ待つ!10秒以内に返答が無かったらグレネードを投入して爆破する!早く答えろ!」
「あ、あと10秒って言われても…」
「えぇ~い!確かAlterダ!」
「良し!」
素早く部屋に入り、2人の状態を確認する。所々服が擦り切れているが、無事なようだ。それと同時にイェーガー大尉も入って来た。
「2人とも無事だな。取り敢えず格納庫に行こうぜ。そこに皆居るからさ。」
「あ、皆そっちに居たんですか。私達2人きりだったからちょっと心細かったんです。」
やはり早めに2人を救出に来て良かった。少女とはいえ、戦争に身を投じている時点で否応なく俺達と同じ兵士なのだ。それでも彼女達に何の責任も無い。責任があるのは彼女達ウィッチを戦場に送り出し続けている連合軍の上層部とそれを良しとしている一部の大人達だ。
「ん?2人だけで来たのカ?」
「いや、ロウファも居るんだけどさ。今2つ下の階で階段を守ってくれてるんだよ。だから早く行かないと心配なんだよ。」
-ロウファの奴、何だかんだで皆に心配されてるじゃないか。-
なるべく急いで戻らないとロウファもヤバいかもしれないな…ここまで来るのに20分くらい掛かっちまってる…
「おい、2人とも丸腰じゃヤバいと思ってな。さっきそこの廊下でやられてた警備兵達のライフルとか持って来たぞ。これで武装しとけ。何も無いよりマシだからな。」
2人が装備をしている間は、外を見張り続けるが、特に何も起きなかった。いや、寧ろ何も無いというのが恐ろしかった。
「まだか?早くしないとそろそろ不味い。ネウロイだって待ってはくれないだろうしな。っと本当に来たぜ。隠れろ…」
3人とも静かに身を潜めて居たが、何かに気付いたらしいネウロイは、こちらに向けて銃を乱射し始めた。
「ちっバレたか!」
すぐにSTG44で応戦するも、弾倉には少ししか無かったのか、トリガーを引いてから僅か4秒程度で弾切れになった。急いでM16A1に持ち替えて撃とうとトリガーを引いて俺は恐ろしい現実を叩きつけられた。トリガーを引いても弾が出ない。弾が詰まったのか、弾切れになったかのどちらかになって撃てなくなった事が分かってしまった。ネウロイはすぐそこまで近付いてきている。このままでは俺達が全滅するのも時間の問題になってしまう。
-やべぇ、俺としたことがしくじっちまったな…-
そんな事を思った瞬間、何処かで聞いた事のある音が久しぶりに聞こえ、まだ望みはある。と思った。
バララララララララララララララララララ!
廊下の角から物凄い曳光弾が飛んで来た事でロウファが救援に来たのだと分かった。
「おい、マーティン。お前は何やってんだ。2人や3人くらい素早く救助して帰って来いってオーシアで習わなかったか?」
案の定、M134を右腕で抱えたロウファが瓦礫の上に立っていた。
「お前がここに居るって事は階段の安全は確保できたって事だな。」
「ああ。急げよ。それにここに来る途中で何人か警備兵が死んでいたな。残念だが彼等はそのままにしておいて構わないからさっさと逃げるぞ。今はあまりにも時間が無い。」
「了解。で、首尾は?」
「上々だ。問題は特に無いだろう。それにわざわざ階段で下に降りなくても大丈夫だろう。そろそろ“アレ”が起爆する時間だしな。」
時間って事はロウファの奴“アレ”を仕掛けやがったな…
「“アレ”って何だよ?」
「まあ今に分かるさ。」
暫らくして待機室があった場所から意図的に離された感じに移動した所で時計を見るために時間を聞いてみる。
「あとどのくらいで起爆だ?」
すると、
「あと、10秒くらいで起爆する。」
等と俺すら予想しなかった事を言った。そして予告通りの10秒後に、待機室と真下(その下の2階部分)が吹き飛んだ。文字通り吹き飛ばしたのだ。すぐに移動して、ロープを引っ掛けて降下準備を進める。
「マーティン、お前はイェーガー大尉を運べ。俺は残りの2人を運ぶ。急げよ。」
そう言って自分はさっさと武器類をロープ伝いに降ろしている。M134も同じように降ろされていく運命を辿っていたが。俺はその間に大尉を背中合わせで括り付けて先にロープを降下していった。
「降下完了!」
ロウファにそう告げると、ロウファもすぐに降下してきた。
「降下完了っと。すぐに3人を格納庫に移動させろ。俺は武器を回収してから戻る。」
「分かった。急げよ。」
2階の窓辺から1階の格納庫に移動してからは本当に忙しかった。俺達が使った武器と道中で回収した武器・弾薬の搬入。確認されている残った対空砲の数やらネウロイの数。想像を絶する程の確認作業に追われる俺と違って、機体の整備を始めたロウファには何処か急いでいるような節があった。
さて、どうやってADMMを上にのみ撃ち出すかのプログラムをどう組み上げるかだな。急いで作らねばならないのは分かっているが如何せん時間が足りない。こうしている間にもネウロイはこの基地を攻めている。俺から見れば自分の指は至って普通にキーを打ち込んでいるように見えるが、傍に居た整備兵からは違って見えるらしい。
「そんなに驚くほどの事か?俺はこれが普通に思ってるんだがな。」
そうこう言っているうちにプログラムが完成に近付いた時、整備兵長が俺の所に慌てて走って来たのでどうしたのか聞くと、
「ヤバいですよ。物凄くデカいネウロイがこっちに来てますよ!」
「ウィッチは出せないのか?」
「無理ですよ。ストライカーの魔力増幅機が故障してる上にここから滑走路に移動するまでにやられちまう。」
上がる前にやられるというのなら上がる時に倒せば良いだけの事。このプログラムを試してみる価値はありそうだな。
「兵長、今から俺が出よう。格納庫の扉を開けてくれ。」
「無茶だ!今出たら狙い撃ちにされて死ぬのがオチだ!」
「だがそうでもしない限りこの基地は無くなってしまう。ヴィルケ中佐達が帰ってくる場所が無くなっても良いのか?」
「っ!分かりましたよ!その代わり何があっても帰ってきてもらいますからね!」
「ははは、了解だ兵長。良し俺の機体の後ろの扉を開けてくれ!」
俺の機体の後ろにある扉が開き始めると同時に、エンジンを始動させる。後方アクティブレーダーが壊れたままなのは痛いが、今は別の鋼材で覆っているためその痕跡は見えない。
何故後ろに扉があるのかというと、後ろは中庭になっていて自由時間に開放しておくことで少しでも殺伐とした空間の格納庫にリラックスさせられるだけの余裕を持たせたかった事と非常時に格納庫から直接離陸するためにヴィルケ中佐の許可を受けて実現した。
エンジンの回転数がまだ安定していないまま離陸すると、エンジンに掛かる負担が大きくなってしまうのでもう少し待たなければならないが取り敢えずキャノピーを閉める。エンジン音を聴きながらその間に兵装をチェックしながら先程組み上げた即席プログラムを起動させ、ADMMとの同期を開始させる。
「兵装チェック完了。各システムオールグリーン。出撃準備完了。」
エンジン音が安定し始めた時、全てのチェックが完了。兵長たちの近くに置かれた無線と周波数を合わせ、離陸する旨を告げ、ADMMを稼働させてロックが完了すると同時にスロットルを一気に奥まで押し込み、アフターバーナーに点火する。
「クロスボー1、離陸する。」
格納庫の中の景色が一気に変わり、黒煙を上げ続ける基地が左目に入って来るがそれ以上にその上を飛んでいるF-16型ネウロイと接近中の大型ネウロイが自然と意識されていく。
『ビービービ―!』
ミサイルアラートがけたたましく鳴るが、それに構わずスティックを少し引きながらミサイル発射のレリーズを押し込む。
「この基地をここまで甚振ってくれた礼だ。受け取れ!」
機体上面部のADMM発射ユニット4基から小型ミサイルが撃ち出され、指定された目標が回避も間々成らぬ内に次々に破壊されていく。
丁度基地の突端の柵を飛び越えた所でスティックを更に手前に引き、急上昇に転じてミサイルを躱す。旋回を終えた逆さまのままの俺の視界に移ったのは、基地のほぼ全体から黒煙が噴き出続けている基地だった。
「ここまでこの基地がダメージを受けたんだ。お前等にはそれ相応の代償を払ってもらわないと割に合わないからな。覚悟しろよネウロイ!」
前方から俺をミサイルで狙っていたネウロイにガンを叩き込んで黙らせるとそのままレーダーに示された次の目標を狙う。
大型ネウロイはまだ基地との距離が遠いので何とも言えないが、先に制空権を確保するのが最優先と判断し、即席プログラムを一時シャットダウンして本来の機能を取り戻させる。
「ロックオン…ドライブ!」
ADMMが圧倒的な力でネウロイを叩き落としていく中、レーダーの反応が少しだけ鈍い事を確認する。後方アクティブレーダーが使えない分、自分の目が頼りになって来る。
バイザーを下げているからといって太陽をバイザー越しに見るのは視力の低下にもつながるのでなるべく見ないようにしながら後方を振り返り、安全を確認する。
「逃がすか!Fox3!」
最後の1機のネウロイを落とすと、今度は輸送機型ネウロイに目標を定め、XLAAで叩き落とす。更に基地の中にはまだネウロイが多数存在する事が生体用熱源探知レーダーで判明したのでVTOL機能を利用して窓際の歩兵型の姿が確認できる位置まで接近し、歩兵型ネウロイに向けて窓を右側に平行移動する形で飛びながら機銃掃射を仕掛けると熱源が機銃を撃ちこんだ地点から次々に消えていく。その代わり窓枠やら壁が壊れていく様を見て、これはヴィルケ中佐達が帰って来た時になんて言い訳をしようか迷った。その時、レーダーでマーティンの機体が動いているのが分かった。
『こちらイーディス。これより離陸して、そちらに合流する。』
「サジット了解。敵が居ないとはいえ、警戒しつつ離陸せよ。」
イーディスと合流し、未だ単独で存在し続けるネウロイに接近すると、
『何だありゃ?』
「あれは…何だ?」
何やら大柄で太長い感じのミサイルの形をしたネウロイがゆっくりと基地目掛けて飛翔していたのだ。
-何だあれは…いやあれは何処かで見たような気がする…っ!まさかあれは!-
「そんなまさか…いやありえ無いだろ…」
『どうしたサジット。何かあったのか?あれは巡航ミサイル型のネウロイじゃないのか?』
あれがただの巡航ミサイル型ネウロイだと?そんなわけあるか。アレはあの機体に搭載されている筈の兵器だ。
「あれは、CFA-46 Zeroに搭載されている筈の散弾ミサイルだ…」
『何だと?!もしあれが起爆したら…』
「起爆なんてさせるか!今ここで落とすしかない!俺が落とすからお前は大至急基地との距離を算出してくれ!基地への連絡も忘れずにな!」
アフターバーナーに再度点火してミサイルに接近する。途方もない恐怖が俺の心臓を鷲掴みにするような気持ちになる。死にたくない、それでもこれ以上基地の被害を増やす事は出来ない。
その思いと共に、ミサイルをこちらのサイドワインダーの射程ギリギリに納める。
「距離は!」
『あと8キロ!3キロに到達するまでに落とせ!それなら基地への被害は衝撃波だけで済む筈だ!』
その言葉を聞いて、レリーズを2回押し込んだ。2か所の翼端の半格納パイロンからサイドワインダーに火が点り、射出される。ミサイルを撃つと同時に急いで高G旋回で急反転し爆発範囲から急いで離脱する。2発のミサイルはノロノロと飛翔し続ける散弾ミサイル型に直撃し、その影響で起爆を誘発させた。
「ぐっ!」
『うおっ!』
凄まじい閃光と爆風が俺達を襲う。機体とコクピットが激しく揺さぶられ、平衡感覚がおかしくなりそうになる感じにさえなる。息が一瞬出来なくなり、苦しいと肺が訴えてくる。閃光が収まった後、互いの無事と機体の各チェックをしてみるとあちこち破損している状態だった。これは、整備兵長の世話になりそうだ…基地に散弾ミサイルの分の被害が及ばなかっただけまだマシか。
「まさかこんなにやられてるとはね…」
「ああ。ロウファ達が居たから助かったようなものだな。しかしレーダーまで壊されるのは流石にかなわんなぁ…」
どうやら私達はネウロイの罠に嵌められたらしく、私達主力のほとんどが出撃した直後に基地が襲われた。辛うじて大佐達が全滅させたは良いものの、待機室とその下の部屋、営倉の一部の崩落、格納庫右斜め上の廊下の崩壊、対空砲の大部分、レーダー設備が破壊されるなどと色々やられていた。
一番痛かったと言えるのは、基地警備兵と対空砲兵の多くが戦死してしまった事、滑走路の深刻なダメージと大佐達の機体が壊れてはいないものの、あちこち損傷しているという事。そして新型のネウロイが出現したと大佐の口から告げられた事。
「また新しいネウロイが出たのか。」
「ええ。今度はかなり危険なネウロイらしいわ。それについてはロウファ大佐からちゃんと聞かないとダメなんだけどね…」
「聞いてきたんじゃなかったのか?」
「聞いてきたけどロウファさんもかなり体力を消耗して厳しいから明日教えてくれるそうよ。それに、あちこちケガをしてるようで体の所々に包帯が巻かれていたのよ。そんな状態でケガ人に鞭打つような事は出来ないわ。」
ケガをしてでも戦闘機に乗り込んで基地上空に飛来していたネウロイ達を全滅させたのだから、報告が明日になる事くらいは許してあげないとね。1ヵ月後に控えたガリア解放戦に向けて私達も準備が始まる時だ。大佐達にも頑張ってもらわなくてはならない………
第11.5話「ガリア解放戦前夜」
今日はガリア解放作戦発令の前日。明日に備えて緊急に呼ばれた俺達は執務室で作戦での役割について聞かされていた。
「という事で、このガリア解放作戦では大佐達の航空支援が不可欠です。それと、この作戦には貴方達の事を知らない部隊も多数来るわ。その時は私達が何とかします。」
「了解。にしてもかなり広い戦域だな。カバーできるか分からんが取り敢えずやれるだけの事はしよう。それとマーレポルジェも戦線投入する事になるからその時は俺達に接近しないようにしてくれると喜ばしいな。」
マーレポルジェは俺からの指示が特に無い場合は基本的に敵として認識した物を攻撃するようにプログラミングされているため、近寄った友軍が攻撃されたなどと洒落にならない事態が起きた事も過去に報告されていた。
「分かりました。取り敢えず、準備だけは怠らないでください。特に動作不良なんて事になったら悲惨なので、念には念を。でお願いします。」
中佐から有難いお言葉と共に、念入りに整備をして欲しいと言われたのでさっさと格納庫に戻る。
ちなみに、格納庫から見える滑走路は、1か月前のネウロイの攻撃で受けたダメージは完全に見られなくなっている。丁度、良い機会だったので元々あったウィッチ用の滑走路の横に2本目の滑走路の増設と、コンクリート化を図って再設計してもらった事で、俺達がスムーズに離陸出来る専用滑走路が設置された。
「随分デカくなったな。」
「ああ。そのおかげで俺達は楽できるようになったわけだな。」
「その分の負担が先頭でこき使われるという形でこちらに掛かってくるわけだがな。」
出撃が早く出来るようになった分、駆り出される事も増えたわけだ。圧倒的に彼女達ウィッチが出撃していく場合が殆どなんだがな。
手元にある資料の一つ、「新型ネウロイの特徴及び形状の目撃証言について」と、記された書類に目を通すと、やはりSu-33型とCFA-44型のネウロイがセットで出没しているらしいが、その中に、母艦ともなるアイガイオン型のネウロイの目撃証言は一切無かった。
「CFA-44型は必ずSu-33型と一緒に出現していると書かれているが、おそらくそのSu-33型がシュトリゴン隊だって事が確定したわけだ。」
「そうなるとかなり厄介な事になるな…」
「そうなるのは俺も織り込み済みだ。その時に応じた戦闘スタイルで戦う必要がありそうだが取り敢えずはこの作戦を終わらせる事が最優先だな。」
「まあそうだな。この前の攻撃の時の傷も完全に直したから大丈夫だろ。」
流石にアクティブレーダーの予備を取り付けるのには時間が掛かった。排気ノズルがかなり邪魔をして取り付けにくかった。
-すっかり夕方になったな…まさかガンポッドの制作から調整に加えて搭載するのに5時間も費やすとは思ってなかった。-
自分の愛機に積まれた25mmバルカン砲2基が俺の細やかな努力を表している。一応囮と機銃掃射役は俺が担う代わりにロケットランチャーで爆撃するのはマーティンに任せている。俺よりマーティンの方が対地爆撃命中比率は高いからな…
「ここに居たのか大佐。」
誰かと思って振り返れば、すぐ後ろにバルクホルン大尉が立っていた。
「何か俺に用か?」
「いや、その、前から気になっていたんだが何故機体が黒い色なのか不思議だったんだ。」
「何だそんな事か。アレはただの夜間迷彩だ。それにステルス塗装も兼ねているからあんなに黒いだけの事だ。紅いラインは疾風を意味している。」
それ以外にこの塗装の使い道があるとすれば警戒色くらいか?その程度しか無いと思うんだが。
元々闇に紛れて攻撃(ついでに言うなれば、機内灯も航行灯も消して飛行する作戦にも参加していた部隊の一部に居たので、正式には夜間飛行隊と名付けられてもおかしくは無いのだが、大隊長のある命令で夜間飛行隊とはならなかった。)主体の作戦が多かった。勿論昼間の作戦もこなしていた。
「そうなのか…しかしあまりにも目立ち過ぎな気がしないか?」
「それは仕方ない事だ。寧ろ戦闘機に目立つな、という方に無理があるんじゃないか?」
戦闘機は構造上、どうしても前と横に長くなってしまう。その代わり、上にはあまり長くならない。
「それはそうだが、ガリアを解放する時の航空支援が黒い戦闘機だと何だか不吉に思えてしまうんだ。」
「仕方ないから我慢してもらう以外に他は無いな。今すぐに色を塗り替える事は出来ない。それにあの人からの言伝が信じられんとしか思えなくてな。」
あの人、そう言えば分かる人と分からない人も居るだろうから言ってしまうが、ガランド少将からの言伝が何やらとんでもない事になりそうだと思えて仕方ない。
「ガランド少将からの言伝の事か?」
「お、知ってるのか?意外だな。俺とマーティンしか知らんと思っていたんだが。」
「当たり前だ。大佐の事はずっと見ているからな。」
フフン、と胸を張るバルクホルン大尉。ん?ずっと俺を見ていた?
「ずっと見ていた?」
「っ!いや何でも無い!何でも無いんだ!さっきの言葉は忘れてくれ!そ、そうだ。大佐は整備で忙しいんだろう!?私はそろそろ部屋で寝るからな!ま、また明日戦場で!」
何やら急に慌てて帰ってしまった大尉を唖然と見ていると、その横から声が掛かった。
「いい加減トゥルーデも素直になりゃ良いのにねぇ。放っておいたら何処かに行っちゃいそうな人なのにさ。ねえロウファ?」
そこで何故俺に同意を求めるんだエーリカ中尉は……
「まあ確かにやる事は多いといえば多いんだが殆ど終わらせてしまったからやる事なんてもう無いんだけどな。」
やる事が無いからここで言伝と共に来た手紙でも読もうかと思っていたんだが、その時にバルクホルン大尉が声を掛けてきたというわけだ。事実、明日の作戦に呼ばれるまで暇人になるのが確定しているのだが。
「あ、もう整備終わってたんだね。」
「ああ。早めに終わらせて残りの時間を再チェックに回したかった。それに念入りに整備しないと戦闘機なんて1ヵ月でただの鉄屑になる。」
「ねえねえ、何て書いてあるの~?」
エーリカ中尉が手紙を覗き込んで来ようとするのを片手で制し、素早く目を通して黙読する。手紙にはこう綴られていた。
-拝啓、クロスボー隊隊長ロウファ大佐。
今は忙しいと思うが元気かね?元気ならそれで良いんだが、随分前に扶桑の航空母艦赤城に着艦した時の事を聞いてこちらでも新型空母の建造に取り掛かっている。艦載機型を扱う君達に試験を担当してもらって欲しい。あ、既に手配済みだから心配は要らないが、今のカールスラントはジェット戦闘機の陸上運用はともかく、艦載機の運用に関しては難航しているのが現状だ。
そこでリベリオンとの共同開発で試作型のジェット戦闘機搭載型空母の計画を進めて現在試作1号艦が約78%強出来上がっている。甲板にコンクリートを敷き詰めた形になっている。ちなみに艦名は『ルシファー』だ。
後日のガリア解放戦に参加させるので、試験的に運用して欲しい。一度501の基地に寄るようにしておく。ガリア上空で君達が見られる事を楽しみにしているよ。健闘を祈る。-
以上が手紙に書かれていた文面だ。試作空母か、マーティンにもあとで話しておくか…また打ち合わせのやり直しになるがそれはそれで楽しいかもしれん。
「へぇ~新型空母かぁ~私も見てみたいなぁ~」
「結局見たのか。見られた以上仕方ないがこれは口外したら営倉行きどころじゃすまないかもしれないから口外はしないように。」
「はぁ~い」
口約束でどこまで信用できるか心配になって来た……
「んじゃそろそろ私も寝るよ~じゃあまた明日ね~」
「良い睡眠を。」
また明日、か。戦場で何時死ぬかなんて分からない俺達の世界じゃ殆ど聞かなかった言葉だ。この戦争、俺達が介入した事で悪い方に向かっているというならば、その向きを無理矢理にでも良い方に変えてやる。年端もいかない10代の少女達を戦場に立たせ、死の淵に追いやる事など俺には到底出来ない。本来ならその場所に俺達の様な兵士が立たねばならない。
多くの命を失って得た勝利や平和など何の価値がある?と問われたならば多少長くても、俺はこう答えたい。
『人間に争いをしないで平和を掴もうなんて言っても難しいだろう。人間は争いをせずには居られない種族だから。互いを認め合わずにいたらそれが原因で争いが起きる。でも互いの考え方が違ったって良いじゃないか。パズルのピースみたいにそれぞれが違う形があるからこその人間なんだ。そのピースが全て埋まった時、本当の平和とやらが分かる日がくるのかもしれない。その時に失った命の事を思えば自然と争いも起きなくなるかもしれない。悲しい連鎖ばかりを繰り返していては人の成長なんて不可能だろうから。』
戦争という名の合法的な殺人場を渡り歩いてきた俺が言うのもどうかと思うが、
-戦いに溺れた者の成れの果ては、戦争が生きがいになってしまう生き地獄だ。戦いを求めて止まない人間に俺はなりたくない。彼女達にもそんな思いはさせられないしして欲しくは無い。是が非でも悲しい連鎖は止めなくてはならない。-
俺は格納庫の中から扉の外を見ながらそう強く思った。明日を思い描く事は全ての生命に許された事。それを止める権利など自分以外、他の誰も持ち合わせていないのだから。
「貴方が “コレ”のパイロットなのかしら?」
突然呼ばれたので内心ビックリしつつ声のした方を見た時、一瞬だけ時間が止まった気がした。そこに居たのは、故郷でユリシーズの災厄に遭って命を落とした俺の幼馴染と瓜二つの人物が居た。忘れたと誤魔化していても、1日たりとも忘れた事など無かった。
「あの…私の顔に何か付いてるんですか?」
「いや、死んだ俺の幼馴染に貴女がそっくりだなって思ってただけだよ。」
「亡くなられたんですか…ネウロイの所為ではありませんよね?」
「どうしてそれを知っているんだ?」
「美緒から聞きましたからね。」
美緒って坂本少佐か……あの人口止めしても無駄な気がして来た。彼女の前であまりプライベートな事を話すと話が他に広まってしまいそうで怖いな…
「それで俺に何か用でも?」
本当は彼女の要件なんて分かっている。でも敢えて知らん顔をする。
「美緒から聞いたから実際に“ソレ”が気になった事と、貴方の事が知りたくなったのよ。」
「まあ先に名乗るとするか。俺は元エストバキア連邦空軍所属、現ストライクウィッチーズ隊隷下クロスボー隊隊長のロウファ・ローズベルト。階級は空軍大佐だ。貴女は?」
「扶桑皇国海軍遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊の竹井醇子大尉です。現在は第504統合航空団『アルダーウィッチーズ』の指揮官を務めています。」
501の基地に何故504指揮官の彼女が居るんだ?
「504の指揮官である竹井大尉が何故ここに?」
「ミーナ中佐や美緒とちょっとした事前の打ち合わせです。」
わざわざ夜になるまで打ち合わせとはご苦労な事だ。で、坂本少佐に俺達の事を聞いて気になったから覗きに来たわけか。
「ご苦労様です。打ち合わせも楽じゃないでしょうに。」
「ええ、戦力を視野に入れての作戦には随分悩みましたからね。あ、2・3伺っても良いですか?貴方をどう呼んだら良いのかという事と、ソレが本当に戦闘機なのか確かめたいという事ですがよろしいですか?」
「ご自由に。どう呼ばれたって構わないし、こいつはれっきとした艦上戦闘攻撃機ですよ。あ、敬語とかそんな堅苦しい喋り方はしなくて良い。」
「艦上戦闘攻撃機…」
その名の通り制空任務も対地任務も両方出来る戦闘攻撃機。
「じゃあ大佐で良いかしら?結構呼びやすいと思うのだけどどうですか?」
「いや、どうって言われてもなあ…それに大佐と言われると他に同じ階級の人が居たらややこしくなりそうな気がするぞ。」
竹井大尉は困った顔をしてはいるものの、ゆっくり歩いて俺とAlterの傍まで来た。そして機体のノーズの部分を手で触って何かを確かめているようだった。
「綺麗……こんな流線型の機体、見た事無いです。」
「この時代にはまだこんな形のジェット戦闘機は存在し無いからな。それにこれはこの世界で言うところのオラーシャが開発したような感じだと思ってくれればいい。」
大尉は機体の周りを1周した後、俺の所に来ると、
「ロウファさん1人しか居ないけど何故似たような機体まであるの?あと4人くらい居そうなんだけど。」
このクロスボーは2人しか居ないんだがなぁ
「いえ、ちゃんと居ますよ。あと1人ね。クロスボーは2人だけの部隊だからそんなに戦闘機も要らない。奥に置いてある戦闘機、あれは単座だけど俺達は手前の2機に掛かりっ放しだからあの機体に乗る時はどちらかの機体が損傷した時にって取り決めてる。それ以外はこの基地の整備兵の腕を磨き上げる事に役立っているくらいだな。」
「そんな事もしてるんですね。あ、そうそう。」
「ん?」
「明日の航空支援、頼りにしてます。501の皆しかこの機体の事は知らないでしょうけど私も信頼してくれても大丈夫ですよ。こう見えても口は堅いんです。」
そんな事言ってる人程口が軽いと思うのは俺だけか…?
「あんまりやる気は起きないが……いつか乗ってみるかい?俺達の世界の戦闘機に。」
冗談半分で言っただけだったのだが、
「良いんですか?ちょっと興味があったんですよ。」
本気にしてしまったようだ。だが約束をしてしまった以上は守らなくてはならない。
「そ、そうか(俺はちょっとした冗談で言ったつもりだったんだがな…)。それなら俺から条件を出させてもらう。その条件をクリア出来たらコレに乗せよう。」
「条件、ですか?」
「何、凄く簡単な事だ。自分が耐えられるだけのGに耐えて耐性を可能な限りつけてくれ。まあそれでも全然足りないと思うがな。」
俺達もどれだけ耐性を高めるための訓練は怠ってはいないが、それでも訓練中に高G旋回を行うとブラックアウトしかけたりする。一応そのための訓練でもあるが、気を抜けば危険だが、多少のブラックアウト予防にはなる。
「ど、努力します。」
「その意気だ。」
「あ、もうそろそろ輸送船の出港が来てますからまた会いましょうロウファ大佐。」
そう言って彼女は格納庫から急いで走り去っていった。
-また、生き残る理由が1つ増えたな。-
ACE WITCHES 鋼鉄の翼