強い人

午前二時、俺は深夜を徘徊していた。普段は使わないコンビニでライトと小型ナイフを買う。
ナイフはいい。ナイフを持つと安心する。ナイフを手に俺は目的地に走り出す。
世の中だれが一番強いのか。
それは、背後から人を殴れる人間だ。ナイフなら、より強い。ピストルなら最強だ。俺は背後から背中を刺すシーンを想像する。背中から血液が飛翔し全身返り血を浴びる。俺はその返り血を舐める。苦い鉄の味。
俺も昔から強い人間だったわけではない。虫も殺せないウブなチェリーボーイ。懐かしい純情。甘酸っぱいあの頃。
いつも上級生に恐喝され、いじめられ、リンチされ、暴力が唯一の人を支配する手段だと肌身で感じた。力ではやつらに勝てない。俺はこころの痛みを感じない訓練をした。孤独になって、だれも受け入れない殻を作るんだ。共感する力を徐々にすり減らす。孤独の海に身を埋める。俺は心の痛みを感じないようになる。俺は殺す訓練をする。
そんなのRPGのレベル上げ。

蚊を殺す。奴らは害虫、殺すのは当たり前。弱小だ。簡単だ。魚を殺す。魚は食える。食うために殺すのは当然だ。いただきます。ご馳走さま。
犬を殺す…犬…犬はどうだ。犬は人間の家畜として生きてきた。奴ら〔普通の人)は犬を殺せない。俺は、犬を殺すために名案を思いついた。犬を食うのだ。食うために殺すのは人として当然だ。俺のレベルが上がった。頭の中でドラクエのファンファーレ。
次は、とうとうやってきた。手強い敵だ。人間だ。ラスボスだ。レベルをあげなきゃ殺される。
食うために人間を殺す?俺にそんな芸当ができるのか。人間を食う奴も稀にはいるが、おれにはそんな趣味はない。同種食いは認めない。同種が同種を殺すんだ。確かな根拠が必要だ。怨恨、復讐、誰でも良かったか?
誰でもいいわけではてんでない。
人を殺すものは何なんだ。地震雷火事親父? 戦争に核爆弾。疫病か…疫病? マラリアだ。蚊でさえ人間を殺すんだ。最弱だ。そんな奴らをなぜ殺せない。法律が奴らを守ってる。破ってもいいが、それじゃ死が待ってる。死後の世界はわからない。怖いよ、怖いよ、とても怖い。

世の中で、一番強い人間は、背後からひとを殴れる人間だ。背中にナイフを刺す人間だ。ピストルなら最強だ。
僕は弱い人間だ。背後からひとを殴れない。背中にナイフを刺すなんてなおさらだ。ピストルなんて使ったことすらない。

僕は家路につく。自分の人生をたて直すんだ。まずは、犬を殺したと自首しよう。

強い人

強い人

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-07-01

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