シャボン玉

プロローグ

「人生はやり直しがきかない!だからいい!」

その通りだと思う。

現にあたしは、人生後悔しまくりだ。
特に恋愛に感しては何度も後悔をしてきた。

小学校、中学、高校…
後悔の連続だった。
今思えば、あぁしたら良かったのにっ!て思うことがわんさかあるのである。

だけど、もし…

やり直しがきいたとしたら?
今のあたしはいたのだろうか?

多分答えはNO
そんな気がする。

日記帳。

「あ~…」

ガタガタッ…ドサッ

「わぁ~…やっちゃった」

ガラーンとした部屋に沢山の段ボール。

「よいしょっと…こんなもんかなぁ…お父さーん!これで最後!」

父と母があたしの荷物を玄関に運んでいく。

「はいよーじゃあ車に積み込むかぁ」
「美咲!これも持ってく?」
「あ!欲しい!」
「じゃあ入れとくよ」

高島美咲
27歳。

独身最後の日。

そう、あたしは明日結婚する。

「真紀は19時には帰るって。早く荷物運んじゃいましょ。美咲の好きなお店予約しておいたから」
「ありがとー!お母さん。わざわざ予約してくれたの?」
「そりゃーあんたがお嫁に行く前日だもん。なかなか家族そろってご飯食べることもなくなっちゃうじゃない?まあ前夜祭みたいなもんよ。」
「そっか…そうだよね」

結婚が決まったのは1年前。
相手は同じサークルの先輩で、とっても誠実で優しい人。
プロポーズをされた時、迷いは全くなかった。

嬉しくて、嬉しくて…涙が止まらなかった。


あたしは、昔から恋愛に関しては本当に不器用。
おまけに男運は0みたいで、まともな付き合いも、したことなかった。

「あれ…?美咲~本棚にノートが数冊残ってるけど、これはいいの?」
「えっ?」

お母さんに手渡さ、ノートをまじまじと見る。
クマのイラストが描かれてる可愛らしいノート。

「これ…」

思い出してぱらぱらとページをめくる。

懐かしい文字。
懐かしい内容…

「やっぱり…」

昔、毎日のように綴ってた。
楽しかったことも、嬉しかったことも
悔しい思いしたことも、全部書いてある。

ー日記帳ー

あたしの当時の想い。
あたしの過去の全て…

もちろん
「あの時」のことも

全部記されていた。

中学時代。

9月12日(晴)

どうして好きになっちゃったのかな。

あたし、人を好きになっちゃ駄目なのかなぁ…


***

どんっ…

「きゃ…」
「いってー…うわっ!」
「最悪…キモ。」
「…」

中学時代…
あたしはイジメられていた。

きっかけは友達とのケンカ。
その日からあたしは、仲いい友達から無視されるようになった。
それを知ったクラスのリーダー的存在感の女子。
元々あたしのことが気に入らなかったんだろう。
あたしの悪口を言い出した。
それが伝染し、あたしのひとりぼっち生活が始まった。

「それでさー…そこで西原くんが…」
「マジでマジで!?」

グループを作り、盛り上がる女子達。
さみしくないっ…て言ったら嘘になる。
だけど、友達同士で顔色を伺ったり、合わせるのも疲れるし、1人でいることは、さほど苦痛ではなかった。
とにかく目立たないように…
机とにらめっこしながら、静かに過ごしていた。

「えー告白しないのー?」
「無理無理ー!」

それでも、クラスメイトの会話には無意識に耳を傾けていた。
特に恋愛の話はどうしても耳に入れてしまう。
当時のあたしは「恋愛」に興味深々だった。
周りの女子達もそれは同じなようで…
誰が誰を好きとか…
誰と誰が付き合ってるとか…
告白するだのしないだの…
そんな話で盛り上がってる子が多かった。

そんなあたしにも、当時好きな人がいた。


「あのゲームどこまでいった?」
「全然進まねーよ…あのボス強すぎだろ!」

友達と楽しそうにゲームの話をする彼。

高橋。

あたしのイジメがまだそんなにひどくなかった頃、席が隣同士でよくしゃべることが多かった。
初めはあたしのことをからかってきたりして、ムカつくとか思ってたんだけど、彼の笑顔と、ほんとは優しいのに、照れて隠してるところに惹かれた。

***

「ヨーグルトもらいっ!」
「ちょ…ちょっと!」

「お前数学65点なのー?」
「はぁ?あんただって、50点じゃない!」

憎まれ口を叩かれては言い返して…
あたし達はそんな間柄だった。

「おいっ!お前教科書忘れたんかよ?」

その日あたしは教科書を忘れて机の中をごそごそしていた。

『うわ~…教科書ない…うそーちゃんと入れたと思ったのにぃ…』
再び机をごそごそしてみたが、忘れたものがあるはずもない。
自分の阿保さ加減に溜息をつく。

『あたしのバカ…』
「おい…」
『今日はついてない…』
「おい!」

ふいに机を叩かれビクッとする。

「何?」
こんな時に話しかけてこないでよ…
今日こそ文句言って…

「お前、教科書忘れたんかよ?」
「え?」
「さっきからごそごそしながら焦ってんじゃん。
教科書忘れたんだろ?」
「そう…だけど…」

気付いてたんだ…

「ほら」

そう言って彼は自分の席をあたしの席にくっつけた。
「どうぞ。」
ふと隣を見ると、顔を真っ赤にした高橋が教科書を机の間に置いてくれていた。

「あ…ありがとう。」
「別に…」
そう言うと彼はそっぽを向いた。


憎まれ口を叩くムカつく奴だけど、本当は優しくて、恥ずかしがり屋。
そんな彼に次第に惹かれていった。
ただ、あたし自身、恋愛っていう感情がイマイチ分かっていなかった。
これが恋だと気付くのに、かなり時間がかかってしまった。


どんどん彼を好きになっていく自分にようやく気がついたのは秋頃。


イジメがエスカレートし始めたころだった。

気になるアイツ。

4月18日(曇り)

隣の席の高橋君と初めてしゃべった。

男の子となかなかしゃべる機会がなかったから、すごく嬉しかった。


4月21日(晴れ)

高橋が最近からかってくる。

今日も給食のデザート取ってきた。
腹立つー!


5月9日(晴れ)

高橋があたしが教科書忘れたことに気づいて見せてくれた!

ほんとは優しいのかなぁ?


6月18日(雨)

席替えしてから高橋としゃべらなくなった。

何でか少し寂しい。


9月10日(曇り)

高橋が好き。

しゃべりたいけど、しゃべれない。
あたしとしゃべったらイジメられる。

悔しい…
なんであたし、イジメられてるんだろう。
あたしだってみんなみたいに
恋愛したいのに…



あたしの恋愛は
好きな人をこっそり見ているだけ。
ただ、それだけだった。

初めて。

7月13日(晴れ)

初めて好きって言われた。

嬉しかったけど、信じていいのか分からなかった。



***


高橋としゃべらなくなって二年。
あたしは中学三年生になっていた。

相変わらずあたしはひとりぼっち。

イジメというよりも、目があった時とかすれ違った時にからかわれたり、嫌味を言われるくらいで、ひどいことはされなかった。
だからと言って今更クラスメイトとわいわいする気もなかった。
仲良くしてて巻き添えくらわせるのも申し訳ないし…
何よりも、傷つきたくなかった。

もう仲良くなった人に無視されたり悪口言われて傷つくのは嫌だ。ね

信じて裏切られるのが怖い。

いつの間にか、他人を自分に寄せ付けないようにしていた。

高橋とは3年間同じクラス。
だけどあれ以来一度もしゃべったことはなくて…
ただただ時間だけが過ぎて行った。

ただこっそりと見てるだけ…

それだけで充分。


「あ…」
体育から教室に戻ると、あたしの席に男子が座っていた。
あたしの席なんて嫌がって誰も座らないのに…
きっと、違う子の席と勘違いしてる…
だけど、どいてとは言えないし、そもそも話しかけられないあたしは、その場で百面相するしかなかった。

しばらくオロオロしていると、振り替えったその男子と目が合った。
「あ!ごめん。席借りてるわ」
「え…あ…うん」

後ろの席の河村。
クラスでもリーダー格の男子グループにいる1人。

普通に話しかけてくれた…
しかもあたしの席に座ってる…

嬉しいと思いつつも、とにかく驚きを隠せないくらい動揺した。

「俺の席、座りなよ。」
「え?」
「席使わせてもらってるからさ、チャイムがなるまで俺の席に座ってていいから」
「ありがとう…」

一言お礼を言い、座らせてもらうことにした。
彼がそう言ったことにも驚いているが、周りの男子達も何も言わないし私を気にする様子もなかった。
それが1番の驚きで…
何となく、何かあるんじゃないかと疑いたくなった。

それからチャイムがなってからも
「ありがとう」
それだけで、周りも何も言わず各自の席に戻っていった。

ものすごく不思議で…
でも、ものすごく嬉しい。

もう、うつむかなくていいのかな?
普通の学校生活送れるのかな?
嫌なこと言われなくてすむのかな?

期待して裏切られたらその分のショックは大きい。
だから期待なんてしたくない。
だけど…
ほんの少しでいいから、ちょっぴり希望を持ちたかった。

トントン…

突然背中を叩かれた。

「さっきはごめんね。迷惑だったかな?」
「え?…いや、そんなことは…」
「良かった」

シャボン玉

シャボン玉

あたしの想い。 誰かの想い。 過去の想いはふわふわふわふわ… シャボン玉のように飛んで行く。 *少し内容を修正しました!

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-01

Copyrighted
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  1. プロローグ
  2. 日記帳。
  3. 中学時代。
  4. 気になるアイツ。
  5. 初めて。