優しすぎる男

Aは両親から人に優しく思いやりのある子に育てられた。
母親はいった。この世で一番大切なことは人に優しくすることよ。
この世で一番優しい人はこの世で一番強い人のことなのよ。だからあなたもそんな人になりなさい。と。
Aは素直に聞き入れ、この世で一番優しい人になろうと思った。その結果他人にやさしくすることで、たくさんの人に愛され尊敬されるようになった。しかし、Aは幸せではなかった。Aはため息をつきこういった。こんなのは僕じゃない
僕はこんな人間じゃないんだ。
そのことを親友に話すと、そんなことを考えるということそれ自体が君が優しい男である何よりの証拠さと励まされた。Aは思い直し、愛する家族のために一生懸命働いた。30年後彼は妻と子どもに看取られ静かに逝った。

死んだ後に神様に審判をかけられた。
Aはいままでの人生を思い返しこういった。私は他人に優しくすることが人生で何より大切なことだと母から教わりました。その結果家族にも友人にも恵まれました。
はたから見れば良い人生に映るでしょう。しかし、私は全然幸せではないのです。何よりも他人について考えていたので、自分自身に対して疎かにしてしまっていたのです。
神様はいう。そうだ。お前は他人を第一に考えるあまり、この世で一番大切にすべきである自分自身に対して全く敬意を表さなかったのだ。一番優しくすべき自分という存在に。

神様はAを地獄に落とした。

優しすぎる男

優しすぎる男

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-01

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