とある少年と少女の電磁通行《短編SS》
とある少年は少女に恋をした。
本来なら実る筈のない恋だったが、
少年の切実な想いは伝わり、
晴れて結ばれた。
そんな最強で最弱な少年と、
最強で最弱な少女の物語。
......ただ、熱かった。
それだけ感じられた。
それしか、感じられなかった。
多少の力を加えただけで折れそうな白く華奢なその腕が、赤く、醜い肉塊へと残酷に変わって行く。
どれだけ痛く、熱くなろうとも遠のく意識を失うことさえ赦されない。
熱い、熱い、と。
少女は熱さにもがき、苦しむ。
しかしそれさえ赦されない。
少女は心の中でもがき苦しむ。
苦しい、辛い、と。
しかしいたいけな少女にとっては、耐えられる筈もなく。
その心にトラウマとして刻み込まれていく。
ふと、少女は思う。
あぁ、自分はここで死ぬ.....と。
しかし現実は非道で残酷な事を少女はまだ、知らない。
Electoro__Master__《エレクトロマスター》
早朝、5時半。
微かに柑橘系の香りがするダブルベットの掛け布団を捲り上げ、眠そうな目を擦りながら起き上がったのは、かの名門「常盤台」の学生で学園都市でも7人しかいないLevel5の第三位、《超電磁砲》御坂美琴である。
しかし現在美琴は本来いる筈の学生寮には居ない。
とある少年と一緒に、第七学区の高級グランドホテルへ宿泊中なのである。
と、いうのもとある少年と美琴が世間一般でいう「駆け落ち」をしようと目論み、現在は抜け出してココに至る、というわけだ。
.....だがしかし、そう簡単に誰にもばれず駆け落ちなど出来る筈がない。
現に先ほどから、美琴が寝ていた掛け布団の匂いを堪能している少女、白井黒子には既にばれているのだ。
しかし、白井も人の子であり感情が無いわけではない。
曰く、あくまで監視役として間違いが起こらないように見届けるのが私の仕事ですの、とかなんとか。
ましてや親愛なるお姉様、もとい美琴の恋を邪魔する程落ちぶれてはいない、あくまで白井は「応援する立場」なのだ。
そしてそんな二人を尻目に缶コーヒーをがぶ飲みしている少年、一方通行は、というと
「・・・・・・・・・・、朝っぱらから何してンだてめェら」
嗅いでいるものが美琴の匂いがする布団から、美琴本人になった白井と、それを必死で蹴落とす美琴に呆れていた。
一方通行本人としては中々新鮮な光景だが、朝のテンションの前で乱闘が行われているのはとてつもなく苛々してしまうのだ。
美琴も慣れているとはいえ、朝っぱらからされると心から疲れるのだ。
そして、攻防戦の末、白井に美琴の能力が炸裂する。
....限界だ、と呟いた少年は直後。
首元にあるチョーカーに手を伸ばす.......、
「って?!ちょ、ストップ!!ストップですの!!私が悪かったですから!!」
....わたわたと慌てる白井を見て、仕方なく《交換条件》付で許した一方通行だった。
朝から最悪な気分だ、とぼそり呟いた。
..............今日も平和な一日が来る、誰もがそう思っていた。
白井の必死な頼み込み(?)により、許しを得た美琴達は現在コンビニに足を運んでいる。
一方通行の言う、交換条件とは....
曰く、「朝のコーヒーを飲んでる最中に騒がれるから鬱陶しくて折角のコーヒーの味が分からなくなった、よしお前らコーヒー買ってこいや」
.........らしい。
怒って当然なのだろうが、第三者か見ると何だか言い分がおかしいような気がする。
なんで私まで.......と、愚痴を溢す美琴を尻目に二人は近くのコンビニへと入っていった。
ドアを開けると、いらっしゃいませ。と中々元気の良い挨拶を聞いた。
朝のコンビニでは珍しいのではないだろうか。たぶんこの時間だと深夜から交代交代でレジ係をやっているであろう店員からは禍々しいほどに爽やかな雰囲気が漂っていた。
と、美琴は関心して白井と一緒にそのまま清涼飲料コーナーへと向かった。
正直、一方通行の好きな珈琲の銘柄など分からない美琴達であったが、なんとなくブラック以外は買わないでおいた。
しかし.....と美琴はふと考える。珈琲ばかり飲んでいて体を壊さないのだろうか?
既にカフェイン中毒者だが、更に酷くなってしまわないか?等と考え、若干時間を使い、冴えない頭で考えつくした結果......
.....とりあえず健康によさそうな野菜ジュースを買った。
「.........、やはりあの殿方には甘いんですのねお姉様........」
白井はボソリと呟いた。
...............会計を済ませ、コンビニをでた二人は、近くの公園で一休みしていた。
ただ駄弁るだけの時間。ただの公園での一休み。
だが白井黒子にはとても愛おしく思えた。
.........美琴と一方通行が正式に付き合い始めてからと言うもの、中々接する機会が減り、さらにその少ない接する機会でさえも何を話そうか、どんな風にしたらいいか、と考えていると機会をことごとく逃してしまっていた。
正直、白井は嫉妬している。
自分でも分かるくらいに、だ。
だがそれと同時に嫉妬に狂い、しかし平然を装うのには無理があるのにも、その様がどれだけ醜いのかも分かってしまっている。
だからこそ、決して本人にだけは悟られないようにしていたのだ。
.......しかし、白井も人の子であり感情が無いわけではない。
その感情の波を抑える防波堤が崩れ去り、溜まっていた感情が涙と共にボロボロと崩れてしまった。
こんな姿を、見せてしまった。
自分の醜い醜態を晒してしまった。
一番慕っていた相手に、一番嫉妬していた。
誰も、悪くはないはずなのに。
神様は、なんて不平等なのだろう。
次々と溢れる思考と言葉を美琴に向かって投げつける。
いけない、とわかってはいるのだが止まるはずも無く投げ続ける。
美琴はそんな白井を、ふと抱きしめる。
「.......、アンタっ......馬鹿じゃないの....?」
どうして、言ってくれなかったの、と目の前の馬鹿な後輩に語りかける。
美琴は、泣いていた。
訳も分からず、ただ白井を抱きしめながら。
「お、........姉様.....」
朝の公園。ただの帰り道。
二人の少女はただただ、泣き続けていた。
Melt__downer__《メルトダウナー》
午前6時。二人はようやく落ち着きを取り戻して、再び駄弁ってた。
今度は明るい気持ちで、心地よい小鳥の囀りを聞きながら。
すると、白井のケータイが鳴る。
どうやら《風紀委員》の仕事が朝からあるようだ。
その後、白井と別れた美琴は帰り道を歩いていた。
ふと、目線を落とすと、なにやらテープを延ばしたかのような道筋があった。
「......これって....」
美琴は、そのテープのような物に見覚えがあった。
アイテム。
そのうちの一人、確か「フレンダ」とかいう金髪の少女だったかの小道具の一種だった筈だ。
「...............、怪しい」
美琴は、その道筋を辿ることにした。
................それが事件の始まりだった。
「...................、遅っせェ」
チクタクと秒針が振られる時計の針の音が鳴り響く程、静かな部屋で一方通行はポツリと呟いた。
遅い。明らかに、だ。
確かに美琴達が出て行ってから既に30分は経過しているはずだ。
遅くても10分そこらで来るはずなのだが.....
「ったく........人が気分壊されてンのに更に壊すアホがいるかよ......」
などと愚痴りながら不貞寝を開始した一方通行だった。
...........まぁ、起きたら帰ってきてるだろう。
.....帰ってきたら、みっちり指導しなければ。
テープらしき物の道筋を辿っている美琴は、ふと考えた。
もし、またあのような戦いが起きるのなら。
あのようなことが起きているのであれば。
私はそれを全力でとめよう、と。
...........テープを辿っていくと、なにやら怪しい廃ビルへとつながっていた。
ヒュウ、と廃ビル内に風が入り込んでいる。
入口は全開でだった。いかにも「入ってください」アピール満載な、怪しい開き方で。
とりあえず運動靴の紐を結び、いつ戦闘が起きてもいい様に軽く準備運動を済ませておく。
買い物袋は置いておく事にしよう。
ふと、また怒られるかなと考えた。
「.........よしっ」
そして廃ビルへと、突入していった。
........廃ビル内は埃が溜まり、いろいろな機材などが置かれていた。
何かの研究所跡地だろうか?と美琴は推測する。
そのまま歩みを進めていく.....と、ふと美琴はある事に気がついた。
物音が、一切してない。
不自然すぎる。こんな廃ビルには誰もひとはいないはずだ。なら虫や鼠くらいいてもおかしくはないはずなのだ。
ましてや、入口に入る前は風がヒュウとなっていた筈だ。
(.....攻撃がくる......っ!!)
と、考えたと同時に壁がものすごい音と同時に瞬時に崩れ、緑色の光線が飛んできた。
絶大なる破壊力をもったその光線は、美琴に直撃する。と、同時に美琴を分岐点にして光線が真っ二つに分かれた。
明るい緑色と紫電が混じり、バチバチと激しい閃光音が鳴り響く。
.....電撃による相殺。
この一撃が自分に相殺できて、この威力を誇る能力者など一人しか見当がつかない。
「...........麦野、沈利.....ッ」
「.....あら?.....ちっ、死んでなかったのかよ....」
学園都市のトップ7《超能力者》の一人、第四位麦野沈利。
「........そのようすだと超電磁砲、アンタまんまとあの罠に引っかかったみたいね」
クスクスと、第四位は笑った。
罠。
第四位の様子からして、あの「テープ」はどうやら敵をおびき出す罠だったらしい。
「.......、?」
.....罠?おかしい、何故こんな誰にも引っかからなそうな地味な罠を仕掛けていたのか。
第一、何故罠など仕掛ける必要がある?
答えは、一つ。明白で単純だった。
「はぁ.....、気づくのが遅っせぇんだよ」
と、第四位は呆れたように溜息を吐く。
美琴は《テープ》の様なものを、知っている。
それがどんな物なのかも、だ。
....つまり、あのテープは《美琴をおびき出す罠》ということなのである
「つーわけだからさ、とっとと死んでくれるかしら?」
「い、......ッ....?!」
原子崩し。
学園都市第四位のその能力は、本来『粒子』又は『波形』のどちらかの性質を状況に応じて示す電子を、その二つの中間である『曖昧なまま』の状態に固定し、強制的に操る事ができる....というものである。
相性は良くも、悪くもない。
此方も、逆にあちらも電子操作能力者であるためで、つまりは『電撃』の軌道をそらしされたり、逆に『粒機波形高速砲』つまり『原子崩し』の軌道をそらせたりできる
だが、電子操作能力者としては美琴の方が上なのだ。
と、第四位の背後から原子崩しが放射される。
放たれた緑の光線は、不安定なブォンブォンと言う音を立てながら美琴に向けてではなく、そこらの壁に向けて当たり、突き抜けていった。
一撃一撃が馬鹿デカい破壊力な、その光線は廃ビルの壁をまるで紙屑の様に吹き飛ばし、壁がガラガラと音を立てて崩れていく。
壁が、光線によって、崩されていく。
まるで、道端に落ちていた空き缶を「邪魔だから、何気無く蹴り飛ばす」ように。
まるで、それが当たり前なように。
崩れた壁や、その破片がガラガラと音を立て、美琴に向かって襲いかかる。
美琴は雷撃を身体に纏い、ガードに徹する。
バチバチと美琴の身体中から紫電が溢れ出し、コンクリートの破片を弾き、貫いて行く。
美琴もガードばかりでは押し負けると考え、反撃を繰り出す。
電撃使い。
その頂点である美琴から放たれる10億Vの、異能の紫電は唸る様にズバチバチと音を立てながら、第四位の元へと襲いかかる。
が、そう簡単には倒れる筈もなく。
「......舐めてんのか、第三位。そんなちゃっちい電撃きかねぇんだよ」
直後、緑の光線が四方八方から美琴に襲いかかる。
「.................ッ?!」
確か、原子崩しは一撃一撃が大きい代わりに連発、広範囲には打てない筈だが...
と、考えながら美琴も応戦して四方八方に紫電を飛ばす。
よく見てみると第四位が原子崩しを撃つ直前、何か板の様なものをもち、ソレを通して原子崩しを撃っている。
シリコンバーン。
以前、ソレを使っていた第四位に美琴は苦戦していた。
なんでも、ソレを通して能力を使うと一直線だったチカラが四方八方に拡散されるシロモノらしい。
なら、と。
単純な話、それに勝る絶大なチカラで全てをうち消せばいいだけ。
スッ....と、チェック柄のプリーツスカートのポケットからゲームセンターによくある、一枚のコインを取り出す。
超電磁砲。
美琴の十六番であり、最強の攻撃。
........指先にコインを置き、腕を伸ばし「第四位」に照準を合わせる。
「.....手加減は、しないわよ。」
「はぁ?んなもん手加減無しでも止められるっつうの」
両者の間に火花が散る.....、物理的に。
数秒だっただろうか。数分だっただろうか。数時間だっただろうか。
緊迫した間の後、
ジャリと言う音が鳴った、刹那。
ソレを合図に美琴の手元からバチィと音が鳴る。
直後に指先から電撃の轟音と共にオレンジの光線が真っ直ぐ撃ち出される。
撃ち出されたコインからは途轍もない程の衝撃波が放出され、音速の三倍を持って第四位へと襲いかかる。
ゴゴゴゴゴ、と回りの壁ごと抉り取りながらオレンジの光線から紫電が溢れる
ガード出来たとしても、ダメージは負わせられたと思う美琴だったが、...
......ダメージを負っている、はずだった。
しかしそのダメージを負っているはずの人影が......ユラリ、と動くのが見えた。
そして、
「ったく....前から気になっていた超電磁砲の威力がこんな糞みたいなのだとは思わなかったわね...あーあ、期待して損したわ」
.....無傷の第四位が、そこに立っていた。
One__Side__Game
な....、と美琴は驚愕して一瞬言葉が出せなくなった。
何故、あの一撃を防がれたのか。
マトモに立っているアレは何だ?
美琴が単純な答えすら導き出せず、突っ立っている所に第四位が脚を振り上げるがそれにすら気付かない。
「なぁー....に突っ立ってんだよ、糞餓鬼!!」
ゴキリ、と嫌な音が美琴の体内に響き、脳へと直接痛みへの悲鳴信号が伝わる
衝撃でそのまま7,8m程吹っ飛び、硬いコンクリートの地面へと転がり、何回も叩きつけられた。
「はぁ.....っ、はぁ.....っ....くっ、」
何があったかすら理解が回っていない中、ただただ思考の泥沼へと嵌って行く美琴だった。
.........それからという物、一方的な戦いへと変貌を遂げていた。
「おらおら、どうしたのよさっきまでの威勢は。さっさと立ち上がって超電磁砲でも撃ってみやがれよ、あァ?!」
第四位が攻撃を繰り出し、
「く、っ...ぁぁあああっ!!!」
美琴が辛うじて防ぐ。
.......ワンサイドゲーム。
美琴の回らない頭に、その一単語が浮かぶ。
だが、こんなにも自分の能力が効かない訳がない。何故、全てに置いて回避されてしまうのか?
美琴は知る由もないが、第四位はただ無意味に罠を貼り、無計画で攻撃を仕掛けた訳では無い。
「はぁ、もうへばってんのかよ.....」
「くっ....げほっ、げほっ...」
口の中が鉄の味で充満して、身体の節々の関節がギシギシと悲鳴をあげている。
不利。
圧倒的不利だ。
身体中から、危険信号が発されている。
「逃げろ」と。
「.....、『もう限界ですから許して下さい』ってか、あ?」
だが、美琴は立ち上がる。
決して諦めない、倒すと決めたのだ。
「はぁ.....いい加減諦めろっての....おらおらァ!!」
再び第四位による打撃が始まる。
グギン、ボキン、と身体中から悲鳴が聞こえる。
朝だからまだお腹に何も入っていなかったのが幸いだった、今の状態で吐いたりしていたら隙を付かれてお終いだから。
そんな中、美琴はふと思った。
殺すなら、今直ぐにでも殺せる。なら何故殺さないのか?
もしや死なない程度に痛ぶるのが趣味なのか。
ただ痛めつけるだけで解放するつもりなのか。
.....そんな儚い幻想がある筈もなく。
「なぁ、超電磁砲。てめぇの後輩に風紀委員がいるみてぇだな、あ?」
意識が朦朧としていてよく分からないが、確実に笑っている。それもかなり悪どいニヤつき方だ。
「...おら、これ見て見な」
出されたスマートフォンの画面には、
......ボロボロに痛めつけられて、瀕死の状態の人間がいた。
相当酷い扱いを受けたのだろう、もう虫の息だ。
よく見てみろ、と言われた。........だが、見たくなかった。それが誰か、分かりたくなかった。
それでも強制的に頭を掴まれ、強引に画面の近くに近づけられた。
上はサマーセーターにワイシャツ、下はチェック柄のプリーツスカートを穿き、太腿には鉄矢が仕込まれたホルダー。
そこに写っていたのは、さっきまで元気で一緒に笑い、泣き合っていた
「..........く、...ろこ........?」
後輩の、白井黒子だった。
「いやぁー...コイツも健気なものよね。私が『アンタのお姉様、私が捕らえて今から殺そうと思うんだけど』なんてハッタリかましたらよ、マンマと引っ掛かって自分が代わりになる、だってよ!っはははははは!馬ッ鹿みてぇ!いやぁ本当笑えるわねっ、あははははははっ!!!」
コイツハ、ナニヲイッテイルンダ?
同時刻、惰眠を貪っていた学園都市最強の超能力者は、
「……………、眠ィ」
大体昼前後だろう、と予想を立てたのだが.....
(あァ.....?まだ帰って来てねェのか....クソ、何かあったのか....)
ふと、スマホの画面を見ると新着メールが一件来ていた。
白井黒子からのメールだったようだ。だが、何か不自然だ。
文がおかしい上に途中で切れている。
念の為、GPSでの場所の逆探知を試みる。
(確か.....この場所はあの研究所の近くだったなァ....事件確定だなァこりゃ)
ゆったりと立ち上がり、首を左右に曲げる。
ボキボキ、と関節の中の泡が豪快に鳴る。
「ったく、ウチの嫁に手ェ出しやがってよォ....覚悟しやがれ、クソったれ」
うわ、くっせぇ台詞だな.....
「.....うるせェ、自覚あるわボケェ」
場所は戻り、外では先よりも若干風が吹き荒れ、しかし中は完全密封状態なのでジリジリと熱気が籠っている。
更にパチパチと火花が散って、水分がどんどん奪われていく。
火花の正体....第四位が持って来ているのは、学園都市での重犯罪を犯した(主に、子供には使わないのだが)犯罪者を拷問する時に使う.....用は腕や脚を焼き切る器具である。
「さて....そろそろか?」
美琴を縛る荒縄がギチギチと鳴り、その白い肢体に絡みつく。
まるで蜘蛛の糸に絡まってしまった蝶の様に縛り上げられている。
「アンタ.....随分と卑怯な手を使うわね...ッ」
美琴は、『囚われている人質の白井を殺さない代わりに、自分に手を出せ』と自ら申し出たのだ。
(しっかしよくもまぁ、こんなにスムーズに事が進むとは...私でさえ思わなかったわ...ふふっ)
不敵に嗤う第四位を美琴は睨みつける。
....一応、第四位の隙を見て逃げ出してから白井を助けに行こうと考えていた美琴だった。
.....が、どうやら第四位はただ無闇に縛った訳ではなく、『捕縛術』でも使ったのだろう。ガチガチに拘束されてるため、抵抗すらままならなかった。
(誤算、だったわ...マジでヤバイかも...)
必死にもがくが、完璧な捕縛術には歯が立つ訳も無く。
美琴には、既に逃げる術が無くなっていた。
立ち込める熱気の中、意識も朦朧として来ている。
地獄が、始まろうとしていた。
Messiah_《救世主》
「...........ココかァ」
風が強く、太陽の日差しが嫌に強く降り注ぐ午後。
現代的なデザインの杖を突いて歩いている最強の超能力者はとあるクローン実験に使われていた廃研究所へと足を運んでいる。
白井から届いたメールは、ここから約80m程離れた公園から送信されて、GPSではそこで行動記録が途切れている。
そして公園から研究所向きに少し歩いてから白井の携帯電話は何者かに壊されたようだ。
さらに白井のような大能力者を捕らえられるのは、学園都市でも一部の人間に限られる。
一方通行の頭の中に浮かんでいる犯人像なら、それが可能だ。
つまりこの研究所に白井は必ずいる筈だ。
クローン実験に関わるイカれた研究所だ、しかも光の住人が何も知らずに関わってみれば誰であろうともう、二度ともとの世界へと這い上がれないだろう。
「……………ンなことさせるかってェの」
ギリギリと歯噛みをしながら、中へ入るとまるで冷房を効かせたようにキンキンに冷えていた。
やはり、人がいる。
確信を持ち更に中へ入って行った。
「さて、と....身体とのお別れは済んだかにゃーん?」
黙って捕らえられているだけで既に体力の限界だ。意識が飛びそうだ。
抵抗の意識すら持てなくなって来た。
最後に発した一言は、
「………………助けて、一方通行………」
どんなに惨めでも、醜くても、誰に嘲笑われようとも、それでもいい。
目の前の悪魔を、だれか....
「はい、腕さぁんさよーならぁー...あははははははっ!!」
「い"っ....がァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
体内に直接ブチブチ、ジュゥゥウと音が響く。
ボタボタと血が流れることすら許さないその拷問器具は、痛みで少女の心と身体を蝕んでいく。
「どうよ、自分の身体の一部が離れて行く様を生でみるのは.....最高よね?」
『自分の腕だった物』を焼かれ、血から、肉から鼻の奥を突く嫌な臭いがする。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
美琴はただ、泣き叫ぶしかなかった。
「ったく....ピーピーうるせぇよ、クソガキ」
パァン!と、甲高い音と共に美琴の頭が揺さぶられる。
.....第四位の手には、銃が握られていた。
一方通行が中に入ると、中からぱちぱちと音が聞こえてきた。
(こンなキンキンに冷えた部屋から燃えてる音....ッ、白井が危ねェ...)
カチリ、と首元にあるチョーカーのスイッチを『オン』にする。
音が聞こえる方向へ足裏のベクトルを反射、爆発的な速度を手にいれ進む。
音がする部屋の前にたどり着いた一方通行は、ドアのセキュリティを無視して思い切り蹴破る。
「白井!!」
部屋には、鉄の臭い...ではなく。恐らく血の臭いが充満し、部屋のあちこちが火の海と化している。
部屋の真ん中には、瀕死の白井がいた。既にボロボロで動けそうには見えないくらいだ。
ただ、意識はハッキリしているようで、一方通行が来たのにも気付いているようだ。
(.....ギリギリで間にあったか)
そのまま白井を抱きかかえ、病院へ連れて行くために外へ出て行こうとした。
が、白井が何か言っているように見えた。
「......っ、ぉ...ねさ、ま...が...ぶな...ぃ...」
「.....あァ?おい白井。オリジナルがどうかしたのか、居場所を知ってンのか...?」
白井は話す。
美琴がどのような仕打ちを受けているかを。
「....くはッ...ぎゃはッ...あはははははははははァッ!!!いいねェいいねェ、最ッ高だねェ!!何だよ、どう足掻いても美琴を闇に引きずり込もうってかァ?ぎゃははははァッ!!」
一方通行は嗤う、
この自分を敵に回した奴の愚かさを。
一方通行は嗤う、
大切な人を傷つけてしまった自分の愚かさを。
そして、
「ははッ.........ふざッけンじゃねェぞォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ!!!」
一方通行は激怒する、
.....大事な恋人を傷つけた奴の、捻じ曲がった邪悪な幻影を反射するために。
_絶対的な雷撃反射は邪悪な幻影さえぶち壊す_《last_story》
......ただ、熱かった。
それだけ感じられた。
それしか、感じられなかった。
多少の力を加えただけで折れそうな白く華奢なその腕が、赤く、醜い肉塊へと残酷に変わって行く。
どれだけ痛く、熱くなろうとも遠のく意識を失うことさえ赦されない。
熱い、熱い、と。
少女は熱さにもがき、苦しむ。
しかしそれさえ赦されない。
少女は心の中でもがき苦しむ。
苦しい、辛い、と。
しかしいたいけな少女にとっては、耐えられる筈もなく。
その心にトラウマとして刻み込まれていく。
ふと、少女は思う。
あぁ、自分はここで死ぬ.....と。
....カミサマはどうやら見捨ててくれないみたいだ。
「よォ、助けにきたぜ。
........我が嫁(フィアンセ)さんよォ?」
.....そこからの記憶は、あまり覚えていない。
どうやら一方通行が助けにきた後、第四位をフルボッコにしていたようだ。
....やりすぎではないのだろうか、敵ながら同情してしまった。
「とにかく.....良かったですのお姉様ぁぁぁあっ!黒子は、黒子はもうお姉様がいなかったrあばばばばは」
....電撃で沈めておいた。
「でもよ....お前はそれでいいのかよ?」
美琴の右腕...焼き切られた腕は義手で代用して、頭の方は一方通行と同じチョーカーを使用している。
「うん....まぁ、生活に支障はないしそれにあーくんと同じチョーカーだし、お揃いでしょ?」
一方通行は、いつから俺は“あーくん”になったンだ...とブツブツいっていた。
白井は頭をガンガンガンとぶつけていた。
何かと惨めだ。
「....貴方、うるさいですの」
怒られてしまった。
ともかく、と
「....まぁ、無事だったんだし...良かった良かった!」
「....あァ、そうだな。」
「....そうですわね!」
「じゃあ、これから無事に帰ってきた祝いにパフェでも奢ってやンよ」
「「いただきますっ」」
とある少年と少女の電磁通行《短編SS》
自己満足の電磁通行でした。
ただ、地の文がアレだな、と((笑
ここまで見てくれた優しい人たち、ありがとうございます!