最近よく頭に浮かぶイメージがある。それは背中に翼が生えるイメージ。なぜそんな物が頭に浮かぶのかは分からない。ふわっと浮かんで消えていく。たまに翼が折れていて背中から血が出ていて片翼になっている時もある。


「美里もう起きないと遅刻するよ」
「うーん起きてるよー」
 最近やけに朝がだるい。起きれないのでよく遅刻する。そろそろ対策を考えなければならないだろう。
「早く着替えて、ご飯食べる時間ある?」
 母はいつまでたっても意味のない質問をする。出る時間は決まっているのだ。
「ないいらない」
「もうなんでそんな遅く起きるの?毎日毎日もうちょっと早く起きないと髪の毛とかぼさぼさだよ?」
起きれるんだったら起きている。よく寝付けないでも原因がわからない。
「うーん最近寝つきが悪いし眠りが浅い気がする。」
 制服に着替えながら答える。毎日同じ服を着なければならないのは苦痛である。
「え?ほんとに?女性ホルモンの影響かもしれないからお母さんサプリ買ってくるよいいのあるから」
「え?サプリ?うーん」
「一回飲んでみて睡眠薬とかじゃないから、ね?」どうせ三日坊主に終わるのでサプリ系は意味無いと思うのだが断ったらしつこいのでここは承諾しておく。母という生き物はどうしてこうもしつこいのだろう。いらないと言っても私を宥めすかして自分の要求をのませようとする最近は学習して死ぬほどいやじゃない限り断らないようにしている。
「あーうんじゃあ買っといて」
 それよりも早く歯を磨いて出なくては間に合わない。学校までは自転車で20分ある。基本的に安全運転が好きだ、むやみにスピードは出したくない。
「いってくるねー」
「いってらっしゃい気をつけてねー」
 もうすぐ期末テストがある。終われば夏休みはすぐそこだ。中学のころから乗っている銀色のフレームの通学用の自転車に乗ってでかける。田んぼと田んぼの間を通り抜けて栄橋を渡ってだいたい赤になっている信号で少し止まる。そして、誰もいない時には歌を歌いながら学校に向かう。歌詞をあんまり覚えていないのでうろ覚えで耳に馴染んでいる曲を歌う。音楽は好きだ。昔はクラシックを聴く意味がわからずjpopばかり聞いていたがクラシックの素晴らしさがわかってきた。特にバイオリンの音色が好きである。詳しくないので流れてきても曲名などはあてられない。が、最近は好んでCDなどを借りてきている。芸術はいいものだ。楽器は弾けないし絵も描けないが聞くのと見るのは大好きだ。流行りの曲は最近きいていないので友達の話題についていけない。話題を合わすためにわざわざ流行の曲を聞くのが億劫になってしまった。
 私の通う私立東方女子高等学校は坂の上にある毎日急な坂を登るのが辛い。なぜ学校というものは高台にあるのだろうか。そして、私立らしく制服はブレザーでリボンが赤のチェックで下のスカートは赤色と白が入った紺色のチェックでプリーツスカートになっている。可愛い制服と評判である。この制服が着たいがためにここに入る子もいる。校舎が比較的新しいのも人気のポイントである。レベルは高くもないし低くもない。進学クラスのおかげで少しレベルが高く思われるが実際は普通かむしろよくない。
ちなみに私の成績は普通だ。可もなく不可もなく、数学だけ地に落ちているがそれ以外はまあまあ及第点をいただいている。
 ガチャガチャと自転車の鍵をかけた。キーホルダーがどこかに吹き飛んでしまったので今は鍵に何も付いていない。鞄の中から探しにくいので早々に新しいもの購入して鍵につけたい。のろのろと校舎にむかう遅刻ぎりぎりだけど。学校は大嫌いだ。こんな制度がある事にさえ気分が悪い。勉強したいやつは個人で勉強すればいいのだ。皆雁首そろえて同じことをして馬鹿じゃないかと思う。勉強だけならまだ耐えれるが体育祭とか文化祭とか修学旅行とかイベントがめんどうくさい。かといって高校に行かずに働きたくはない。私はずっと家にいたいのだ。まともな人生を送ってもらいたいと考えている親には悪いが私は家にずっといるタイプの人間だと思う。働くか学ぶか二択を迫られる今の世間が若者の人生の選択を狭めていると感じている。教室に入りたくない。
「あー美里おはよう!」
「おはようー麻耶」
「今日もねむそうだね。先生まだ来てないよ間に合ったねー前髪寝ぐせついてるよ?櫛持ってる?」そういって鏡を見せてくれた。確かに少し長めの前髪がはねてしまっている。肩ぐらいまで伸びた髪の毛と伸び始めた前髪が鬱陶しいのでそろそろ美容室に行きたい。
「うわーほんとだありがとう麻耶はいつもきれいですごいね、寝ぐせとかつかんの?」
 友人の麻耶はいつもきれいにしている。目を引く美人ではないが目がくりくりしていて天然の茶色がかかった髪の毛をショートボブにしている。俗に言う小動物タイプだ。個人的にこういうやつを嫁にすると幸せになりそうだと思う。
「つくけど早起きしてるんだよアイロンとか使うの」
「そうかー普通はそうだよね」
容姿を直す時間があれば寝ている。これからここに何時間もいなきゃならないもう帰りたい。今日は数学があるし耐えられない。公式覚えられないしXとかYとか意味がわからない。国語は成績がいいから多少好きだが心から好きな教科なんてない。
もうすぐテストだから授業でテスト範囲の指定が行われている。一応メモに取っておくがどうせすぐ忘れて麻耶にきくはめになるだろう。それでも勉強は嫌いじゃないのだ。勉強すれば結果が出るのがいい数学以外。

 昼休みの教室いつものように麻耶のところに行き声をかけた。
「ご飯食べよー今日はお弁当?」
「あ、お弁当忘れちゃった!ごめん購買行ってくる!」
ばたばたと麻耶が教室から出ていった。そんなに急がなくても購買はいなくならないのに。毎日同じ時間にご飯を食べるのは健康にはいいかもしれないがお腹がすいたときにたべたい。みんな疲れているのか意外と静かな昼休みが始まる。けだるげな午後たまに笑い声が上がる。
「あれ麻耶購買?」
クラスメイトの皐月が話しかけてきた。皐月は黒髪を胸のあたりで綺麗に切りそろえている。目が細いことと背が167㎝あって高いのがコンプレックスらしい。私はうらやましいが私の155㎝を羨ましがってくる。いつもこの皐月と麻耶とご飯を食べている。
「うん先に食べてようか朝家に残ってたチョコしか食べてないからめちゃくちゃお腹すいたー死にそう」
「え?朝はちゃんと食べなきゃだめだよー元気がでないよ?」
「うん朝だるかったわー」
「そういや最近購買でとろけるプリン黒蜜ときな粉バージョンが新発売したらしいよ合うかな?」
「え?黒蜜ときな粉?私プレーンでいいや」
「あ、美里苦手だったけ和菓子とか」
「うんあんことか特に苦手ー」
「なんかプリン食べたくなってきた後で購買行かない?」
そんなことを話していたら教室の戸が開いて麻耶が帰ってきた。
「なにかってきたの?」
「メロンパンとチョココルネ買ってきた。」
「甘すぎー」皐月は嫌そうに顔をしかめた。
「お昼によく食べれるねー総菜パン買ってきなよ」
「私全然食べれる甘いものしか食べたくない」
「なんかそれこわい」皐月は言葉を選ばない。思った事をすぐ言ってしまう。良くいえば素直な性格だ。
「そうだ新しいプリン売ってた?」
「え?なにそれ見てないよ?」
「黒蜜きな粉味だっておいしそうでしょ?」
「食べたい!さっき買ってこればよかった」
「うちらこれから買いに行くんだついでに買ってこようか?」
「いいの?ありがとーお金後で払うね」
「あれでも美里黒蜜嫌いじゃん?」
「私はプレーン買う。」
「あ、そろそろいこっか美里?」話していたら昼休みが半分終わっていた。
「うんそれじゃいってくるね」
 皐月と二人で席を立つ。麻耶にひらひらと手をふって教室を出た。

 楽しい昼休みは終わった。黒蜜きな粉味は一口もらったが微妙だった。お腹がいっぱいになって午後の授業を眠りそうになりながら受けて今日の学校は終わった。
「ねえ美里今週カラオケいかない?」帰りのホームルームが終わった後、麻耶が話しかけてきた。
「ごめん用事あるんだ家族と出かけるの」
間の悪いことに今週は祖父母の家に行く事になっている。
「あそうなんだじゃあ来週は?」
「いいよーいこ!」
「久し振りだから楽しみーじゃ、また明日ね」
「うんバイバイ!」

 学校から帰る。帰り道はゆっくりとふらふらしながら自転車をこぐ。暑い。夕暮れのオレンジの太陽がまだ主張してくる。噴き出した汗が頬を伝う。煩わしい。
なので、コンビニに寄ることにした。
「いらっしゃいませ!!こんにちわ!」
声の大きい店員に一瞬ビクッとしながら店内に入った。最近できた新しいコンビニで青と白がイメージカラーの唐揚げがおいしい店だ。やたらと元気な店員がいる。新商品を物色しているとおいしそうなチョコレートを見つけた。私はシンプルなものが好きだ、キャラメルがはいったりしているものは好きじゃない。今日はカカオ香るミルクチョコレート210円を買おうと思う。いつもよりちょっとリッチだ。105円の板チョコよりはおいしいのだろう。でもあまり舌が敏感じゃない気がするのでチョコの味の優劣がつけられるかわからない。それから、アイスとガムを買った。がりがりするソーダとライムミント味の粒ガム。この店に週4ぐらいで来店するが毎回同じような物を買ってしまう。
「いらっしゃいませ!ありがとうございます!」
「全部で435円になります。」
 私は無言で財布から千円を出した。
「565円お返しになります。」
一瞬じっとお金ではないどこかを見ていた。ふらっと受け取った後、ふとなにもかもどうでもよくなって募金箱にお釣りを突っ込んだ。店員がびっくりした目で私を見てくる。じっと見つめ返したらはっとしたように目をそらしてお菓子が入っている袋を差し出してきた。それを優雅に受け取って悠々とコンビニから出た。びっくりするのも無理ない私だって突然の行動に驚いている。むしろ恐怖すら覚えている。手が少し震えている。自転車をとばして家に帰った。駐輪場に止める頃には震えが収まり息切れだけが残った。エレベーターで6階まで登っているまでに息を整えた。
「ただいま」
「おかえりーご飯まだできないごめん」
「いいよお腹空いてないから」そういいながら半分溶けたアイスを冷凍庫に入れた。
「そう?」母が何かを炒めながら答える。
ついでにべたついたチョコレートも冷蔵庫にしまった。
「今日はどうだったの?楽しかった?」
「なんで答えなくちゃいけないの?」と喧嘩腰でいう。
こういう話題は嫌いだ。素直にありもままをいうと過剰な心配をして最終的にこちらが聞きたくもない幸せ論を語ってくるのだ。それを防ぐためにさも不機嫌そうに答える。これで大抵はそれ以上突っ込んでは来ない。それから特にすることもなかったのでぼーっとテレビを見ていたら緊張が解けて少し眠気が襲ってきた。

 夜は夢をみた。制服を着ていた。まるで日常の続きのように。麻耶と皐月が家にいた。私と違い女子高生らしいおしゃれな格好をしている。私の部屋でお菓子を食べながらテストのことを話していた気がする。ふとしたときに麻耶と皐月は消えていた。いつのまにか森に入っていて、迷っていた。まるで童話のような世界で濃い緑が生い茂り夜になるにつれてどんどん暗く怖くなっていった。なぜか奥に進む。出口はわかっていない。そこでまた画面が変わる。私は殺人鬼を説得していた。公園のような場所で地べたに殺人鬼と座り自首することを勧めている。顔は帽子と黒い布で覆われていて見えない。
「あなたにもお母さんがいるでしょこれ以上悲しませないためにも早く自首した方がいいよ」
私は殺人鬼が刃物をもっているにも関わらず余裕な表情で説得をしていた。殺人鬼は聞いていないような聞いているような態度で私が隣にいることをなんとも思っていないようだった。私はまるでドラマの取り調べの刑事のように身の上話をしながらだらだらと説得し続けていた。
「…いつかね罪を償って出てこれるからこれ以上逃げても辛いだけだよ?」
そしたら突然殺人鬼が刃物をチラつかせながら襲ってきた。全身に冷や汗が伝う。死に物狂いで逃げた。逃げおおせた後、私だけは対象外だとなぜ思っていたのか、そのことにすごく動揺した。
はっとそこで目が覚めた。
大きく息を吸って深呼吸をする。夢でよかった。
夢だと思いながら見る夢があるらしいが羨ましいいちいち動揺して神経がすり減った状態で起きるのはきつい。この前は父親が死んだ夢を見て泣きながら起きた。悲しみが消えず起きた後も少し泣いた。

 「おはよう」目覚ましがなるよりも前に起きたのに母はもう起きてお弁当を作っていた。
「おはよう今日は早く起きれたのね?でも買ってきたから一応サプリ飲んどきなさい」
「…うんわかった。今日ね怖い夢を見たから早く起きたんだ」
「え?どんな夢?」
「殺人鬼に襲われためっちゃ怖かった」
「それは怖いね」
 ご飯を作っている母に纏わりつくと母は頭を撫でてくれた。それだけでもう大丈夫だと思った。また制服を着替えて出かけなければならない。こんな泣きたい日はどこにも出かけたくない。それでものろのろと支度をした。
「パン焼けたよジャムにする?バター塗る?」チンっと音がした後食パンのいいにおいがしてきた。
「えっといちごのジャムにする」
「ブルーベリーしかないよ」
「えーじゃあバターでいいや」
「はい」母がバターを渡してくる。塗ってくれればいいのに。冷蔵庫からチョコとレモンティーをだして食卓につく。バターを塗りながら朝食でさえ面倒くさいと思った。朝ごはんを食べ終わって少しテレビを見た後、時間割をみて忘れ物が無いかチェックした。これをやる時間があるのとないとでは全く違う。そろそろ出かける時間だ。

 玄関からでて6階の外を眺めていた。もっと高い所で見たくなり屋上に行くことにした。屋上は住民限定の憩いの場になっており芝生やら花壇などがある。ベンチは私のお気に入りだ。早朝ということもあり住人は誰もいない。
柵をじっとみていてなにか思い立って越えてみた。何も遮らない景色。
 飛んでみた。

気づいた時には遅かった。私の頭には翼のイメージしかなかった。翼が生えるここでは無い世界に行ける。

大学の課題でだしたものです。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-26

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