今日も今日とて悪戯な天気

今日も今日とて悪戯な天気

テストしてるときに雨音を聞いて想像しながらできたお話♪

私の周りは雨ばかり(前編)

「はあ、今日も雨ですかぁ・・・・・・」

私の前にはいつも通りの光景が広がる。黒い雲に特大の雨粒。
今日も今日とて

――雨だ。


「お前は本当に雨女だな。厄介だ」
体育祭のとき、クラスメイトから言われた言葉。

 体育祭前日になって風邪をひき、本番は午後から参加した。
 その日は眩しいほどの青空で雲一つなく快晴だった。
だけど私が行った途端、影も形もなかった雨雲が顔を表して、あたり一面水浸しにした。
それまでは、今年の優勝は私の居たクラスだろうとクラスメイトもライバルも観客ださえも言っていた。それほどまでに他のクラスとの点差は大きかった。だが雨天のせいでそれは現実へとならなかった。
私のクラスは雨天のせいで地面がぬかるび、リレーで大転倒。それからドミノ倒しのように勢いがなくなって他のクラスの大逆転という結果に収まった。

運が悪かった。

そういえば済む話だろう。だけど私も周りのみんなも知っていた。
「私はとんでもない雨女」

保育園のお泊り会も、小学校の遠足も、中学の修学旅行も、全てが雨。行事ごとで雨じゃなかった日はない。
「私の通る道は雨が降る」なんて事まで言われていた。

でも実際にそうだった。私自身、数えるほどしかお日様を眺めたことがない。

「今日も雨ー・・・・・・。天気予報は晴れって言ってたのにな。ああ、天気予報なんてあてにならないんだった」
いつも常備している折り畳み傘を広げた。
毎日のように使っているせいか、もうすっかり私の相棒だ。
「今日も使わせていただきます」
そう一言言って学校の下駄箱から外に出た。
その瞬間、ものすごい勢いで雫が傘を叩いた。これも日常的なので私はさして気にしないが、初めて見る者には不気味に映るらしい。
「あめあめ、ふれふれ、もっとふれー」
やけになって私は呟いた。それに答えるよう、雨はさらに降る。
「あちゃー墓穴掘っちゃった・・・・・・?」
地面が水で浸透してきたのでさすがに困ってきた。
その時、男子生徒の驚くような声がした。
「うわっ、何この豪雨!?」
音を立てて降り注ぐ豪雨に驚いて立ちすくんでいる。
(そうだよなー、今日は晴れだってどの天気番組でもいってたもんね)
横目でそれを見ながら、興味を失ったのでその場を去ろうとした。その時、その男子生徒が呼びかけてきた。
「あっ、ちょっとそこの子! 待って、ちょ、待って・・・!」
私は嫌な気がして足を速めたがそれは叶わず、手を掴まれる。
「なっ!」
びっくりして振り向いた。気の緩んだすきに下駄箱へと引き戻される。
「ごめんね、強引に」
「そう思ってるなら離してください」
掴まれた手を、私は乱暴に振りほどく。
「君、紫 陽花(むらさき ようか)ちゃん?」
「は、はい。そうですけど、なんで知って・・・・・・あーあ」
 彼が私の名前を知っている理由がなんとなく分かった。
 私の容姿はいたって十人並みだ。「可愛い」と言われたのは七五三の時だけ。まあ「孫にも衣装」なんて余計な言葉がくっついてきたけど。
 黒くて長い髪に、紫の瞳。他人にとっては羨ましい物らしいが私はそれが嫌いだった。
 昔、絵本で読んだ雨女にそっくりなのだ。
雨女の噂に、雨女のような容姿、加えて「紫陽花」という「あじさい」とも読める名前。とことん雨どっぷりだ。
「僕が君を知ってる理由? そんなの決まってるじゃん」
(私が雨女のようだから、でしょ)
よく言われる返答を覚悟した。
しかし目の前の彼はニコニコ笑ってそれとは違う言葉を返してきた。
「陽花ちゃん、前からかわいいから目つけてたんだ。ラッキー」
るんるんと鼻歌でも聞こえてきそうなほど嬉しそうに話す。まるで無邪気な子供のようだ。
(そういえばこの人・・・・・・)
「俺は塙迦 太陽(はなか たいよう)」
名前通り、お日様みたいな笑顔で自己紹介をする。
彼のことはクラスで孤立している私でも知っていた。

塙迦 太陽、いつも人に囲まれていてクラスのムードメーカー。誰彼かまわず差別なく話しかけ、その明るく幼さの残る笑顔は女子を一発でしとめる。
スポーツは抜群で、高い背丈と文句なしのルックスは男女ともに票を集めた。
つまり、デキる人だ。私と正反対の。
私はクラスの端っこにいるような地味系女子。
いつも読書してて聞こえるのは私のことを勝手に想像して噂を流す女子の耳障りな声と、聴きなれた雨音。そして――
「いつも廊下ではしゃいでるよね?」
読書をしてると時々笑い声が聞こえてくる。とくに廊下側から。
「うん、そうなの!知ってたんだ!!」
パアッと身を乗り出して尻尾があってたらぶんぶん振っているであろう勢いで身を乗り出す。
「近い、近いから」
そこらへんの女子なら顔を赤くするであろうが、私は至って平然と彼をおしのけた。
「あ、ごめんごめん。つい、嬉しくて」
少し頬を染めて笑う彼を私は冷たい目で見つめた。
(きっと誰でも構わず言っているんだろうな。この表情がころころ変わる演技はすごいと思うけど、私にそんなこと言わなくてもいいと思う。メリットなんてないし)
 自分がひねくれているのは分かる。根が腐っているのも。だからきっと彼をこんな風にしか思えないのだろう。だけど「可愛い」なんて免疫のない言葉をいきなり言われたら疑ってしまうのが私だ。
「陽花ちゃんてバス通学?」
「いきなり下の名前?」
「うん、ダメ?」
「駄目」
一刀両断に切り裂いた。彼の首を傾けた上目視線もはねのける。
「じゃあ、陽りん!」
「なにその変なの!?」
「えー、じゃあなんだったらいいの?」
「紫」
「でね、陽りん、バス通学?」
「ちょっと私の話を――・・・・・・もういいよ」
脱力したように肩を落とした。
久しぶりに他人から下の名で呼ばれ、ちょっとだけ嬉しいなんて死んでも言えない。
「私は徒歩。家が近いから」
そういうことで、と私は無理やり会話をブちぎってその場を去ろうとした。だが太陽はそうさせてくれない。
「おお、陽りんは徒歩かあ!僕今日は運がついてるかも」
「どういうこと?」
「陽りん、傘入れて。俺、かさもってないからさ。相合傘しよう」
彼は子犬のような目で近づいてきた。


豪雨の中、人けのない商店街を歩く者が二人。
「陽りん。相合傘しよ――」
「しない! 傘は一人一本、基本!!」
私は近づいてくる太陽をバックで振り払って少し前を歩いた。
彼にはもう一つ、常備していた傘を貸してあげた。彼の頬に傘で殴られたような跡があるのは仕方がない。正当防衛だ。
(いきなりあんなこと言ってくるなんて、どうかしてる!)
先ほどのことを思い出して水たまりを思いっきり蹴った。それが太陽に少しかかって私はかすかに笑った。
「ねえ、陽りんって案外サド?」
「あなたはマゾ? 水しぶきがかかってもニコニコしてるなんて」
「もともとこういう顔なんですー」
太陽は少しほっぺをふくらましてすねた顔をした。それでも絵になってしまうのは生まれ持った顔のせいだ。まったく、私にとっては腹立たしい。
「あなたもこの辺の番地だったんだ」
「うん、そうだよ。陽りんともしかしたら小さいころにあってたかもね」
そんなことを話しながら商店街を抜け、住宅街に入った。緑が多く、古い家が健在の懐かしき昭和風景が広がっている。
「この町って本当に古いわよね。私の家もだけど瓦屋根が多いし」
「きらい?」
「きらいっていうか・・・・・・むしろ落ち着く」
「そっかー」
太陽が思いっきり笑った。私はそんなに変なことを言っただろうか?
不安になって眉をよせると太陽は穏やかな目つきで説明してくれた。
「僕さ、この後味残る風景が町が大好きなんだ。朝の打ち水のあととか澄んだ空気とか、縁側で談笑するおじいさんたちとか、都会じゃない風景が広がってるじゃん?」
そう、話すときの太陽の顔はとても優しかった。きっとこの彼が本当の彼なんだろう。
「それをわかってくれる人って少なくてさー。でも陽りんが好きって言ってくれたからすごくうれしくて・・・・・・陽りん?」
じーっと見つめる私の視線に太陽は困った顔をした。しかし私はそれに構わず太陽を見つめる。
「あなたってさ、本当は甘えっこでも子犬でも笑顔ふりまき屋でもないでしょ」
「・・・・・・笑顔ふりまき屋って・・・」
突然の言葉に太陽は心底困った顔をする。けれど私の口からは思った言葉がするすると出てしまう。
「本当はおだやかで誰よりも大人っぽくて、あまったるい笑顔なんかよりも今みたいな優しい笑みが似合う・・・・・・――!」
出てしまった言葉に私はあわてて口を押えた。しかし一方の太陽は今、言った発言は耳をすり抜けているように目を見開いてる。
ずばずばと失礼なことを言いすぎたかと今頃になって気づくと不安になった。
「ふっ、あははは」
いきなり笑い出した。
私はそれに眉間にしわを寄せ一歩身を引いた。
「すごい、すごいよ陽りん!! さすが僕の見立て通り」
満足げに太陽は笑う。私もなにがなんだかよくわからないが、さっき言った言葉は間違っていなかったようなので安堵の息を吐いた。
傘で隔てられている距離が少しだけ縮まった気がした。
その時、遠くから低い声が呼びかけてきた。

「おーい、たーいよう!」
髪型がすっきりとした少年だ。私と同じ制服を着ていることから彼の同級生などだろう。
「おう、坂本!」
太陽も手を上げて返事をする。きっと私には入れない世界だ。身を引いて木の陰に隠れよとすると、坂本と呼ばれた少年と目があった。
「あれ、雨女?」
私はその瞬間、坂本は敵とみなした。それに太陽は眉をひそめて注意しているようだったが私にとっては日常茶飯事なので軽く流す。
むしろ太陽のような人間の方が少ないのだ。
私を雨女と思ったり言わない人間の方が少ない・・・・・・。
「ていうかなんで雨女なんかとと下校?」
太陽に注意されても少年はしょうこりもなく雨女呼ばわりする。しかも「なんかと」とはなんだ? 私は坂本を睨みつけた。しかし坂本は私のにらみを華麗にスルーして太陽に話しかける
「ああ、お前の言ってたことほんとうだったんだな」
「え?」
「この前言ってただろう。お前晴れ男だから雨女と帰ってみたい、一緒に帰ったら天気はどうなるかなって」
「なっ!」
太陽は隠すよう反射的に坂本をかばって私を見たが私の目にはその光景がどんどん薄れていった。

(私と帰ったのは私が雨女だから? 私自身に興味を持ってくれたんじゃなくて、雨女だったから)
言葉がリピートする。
気づけば傘を地面に落としてその場をもうダッシュで逃げていた。頬をつたるのはもう、雨粒なのか涙なのか分からない。
「馬鹿だ、馬鹿だ私」
一瞬でも期待してしまった。太陽は私を見てくれてるのだと。雨女なんて関係ないのだと。
だが、現実はそんな淡い夢を破って体を引き裂く。
遠くから彼の呼ぶような声がしたが私は振り返らず一心不乱に走った。

(つづく)

雨の後には虹が出る(後編)

雨が体を激しく打って急激に体温を奪っていく。髪も服もびしょびしょだ。
「はあっはあっ・・・・・・はあ」
体が水けを含んだ制服で重くなり、私は走っていた足を止める。息がすっかり上がって目の前もよく見えない。
「はあ・・・・・・ううっ」
温かい雫が頬を伝う。きっとこれは涙だ。
私はその場にしゃがみ込んだ。傘を置いてきてしまった場所からかなり離れてしまったようだった。もう景色はすっかり変わって町はずれの坂の上。
「ううっ、なんでよ・・・なんでいつも雨は私から大事なものを奪ってくの・・・・・・?」
流れ出す涙と嗚咽交じりに小さく胸の奥にしまいこんだ気持ちを吐き出す。
小学生の遠足のとき、遠足に行った公園は雨で小学校でお弁当を食べた。その時、雨は私のせいといわれ友達の輪に入れてもらえず一人で食べた。
中学生のとき、修学旅行と体育祭では両方雨でクラスメイトは私のせいでいい思い出が創れなかったとぼやいた。私は自分から輪をはずれて一人で過ごした。
高校のとき、入学式はやっぱり雨。その雨のせいでこけて水たまりにダイブ。その結果水でしっとりとした髪のまま入学式を受け、よりいっそう雨女と呼ばれるようになった。
そして今、初めて雨女を意識せず近づいてきたと思った少年に裏切られた。
(いや、違う・・・・・・それは私が勝手に思ったことだ。彼は雨女なんて気にしてないんだと・・・)
自分の膝を抱え小さくなる。こうすることによって世界の音すべてがシャットアウトされ、私一人だけになれた気がした。
雨の降ることがない世界、そんな私だけの世界。
「雨なんて・・・・・・大嫌いだ」
「そんなこと言わないでよ」
急に暖かな言葉と体温が私を包み込んだ。
「っ!」
びくりと肩を揺らす。後ろには少し切れかかった息で私の背中を包む太陽の気配がある。
丸まった私を後ろから抱きしめているような形だ。耳元で低く透き通った声が甘くささやいた。
「陽りん、雨って素敵だよ。干からびた大地には栄養を届けるし心を流してくれる。ぼくは雨好きだけどな」
私の心の中で何かが跳ねたが私はそれを繕って太陽の腕から逃げると立ち上がって抗議をした。
「私は嫌いよ! 雨のおかげでいい思い出なんか一つもないっ・・・・・・雨が好きだなんて思ったことないわ!」
その言葉を口にした途端、なにかの歯車が止まったような気分になった。自分の言葉に違和感を覚える。
(なに・・・・・・これ?)
言葉にできない不快感に眉を寄せたとき、太陽がすごく悲しそうな顔をしているのに気付いた。
「どうし――」
「ごめんね陽りん、さっき坂本が言っていた言葉は本当なんだ。ごめん」
「へ・・・・・・」
頭を思いっきり鈍器で殴られたような衝撃が起きた。
心のどこかで先ほど坂本というやつが言ってた言葉は誤りなんかじゃないかと思っていた。願っていた。だけどこうして本人の口から言われるともう、どうすることもできない。
急にさきほど温められていた背中が寒く感じられた。
「陽りん、僕は君にひどいことをしてしまった。そう今も・・・・・・昔も」
そう言い残すと太陽は深く深く頭を下げてから私に濡れていないタオルをかけてその場を去っていく。
私は返す言葉もなくただ、立ちすくんだ。

その時だった。そのタオルのどこか懐かしくジャスミンのようなにおいで思い出したのだ。
――昔の記憶を。

「まま、今日も雨だねー?」
小さな長靴をぺたぺたと鳴らせながら親に手を引かれ歩く。少女の目はめずらしい紫色だ。
「そうねー雨は気分を憂鬱にさせるわ」
母親は抱えたスーパーのビニール袋を持ち直しながら空を見上げた。しかし少女はその言葉に首をかしげた。
「なんで? 雨はいいものだよ」
「え?」
「私、雨だーいすき。だってこの雨のおかげでお気に入りの水玉の傘が使えるし、カエルさんやかたつむりさんだって顔を出すんだよ?」
傘をくるくる回しながら少女は歌うように告げた。
「それにねー、雨の後は・・・・・・」
少女がある一点を指さそうとしたとき何かにぶつかった。それはどうやら自分と同じ年の男の子のようだ。
「わっ!」
男の子はびっくりしたように飛び跳ねて、雨の降らない道の片隅にあるお地蔵様の中に逃げ込んだ。小さな屋根があって狭いが雨宿りには使える場所だ。
「ごめんね」
少女は男の子に近づいて幼いながらも頭を下げた。男の子は大丈夫というように首をぶんぶんを横に振る。少女はその様子に頬をふっと緩めつつ違和感に気づいた。
「あれ、傘は?」
男の子は何も持っていなかった。
「ないの?」
なにも話さず下を向く男の子に少女は困った顔になる。母親はとっくに少し先にある家へ戻ってしまった。
「うーん・・・・・・あっ!そうだ!! 私の傘、使いなよ! ね」
ぐいっと男の子に向かって水玉の傘を差し出した。家は近くなので走ればぬれずに済むだろう。しかし、少年は受け取らずそっぽを向いたままだ。
「どうしたの?」
そうしゃがみこんで聞くと少年は小さな声で答えた。
「僕、雨男だから・・・・・・僕に近づくと雨がたくさん降るよ・・・・・・嫌でしょ・・・?」
どこか申し訳なさそうに男の子は告げる。しかし少女はそれを豪快に笑い飛ばした。
「何言ってるの。それってとっても幸運だよ! 私雨好きだもん。だってさー、雨が上がった後は虹が出るんだよ?」
少女が空のある一点を指した。ちょうどそのとき、雨が上がって太陽が顔を出す。そうするときれないな虹が姿を見せた。
「わあっ!」
男の子は感嘆の声をあげる。それに満足げな顔をした少女は傘を少年に無理やり手渡した。
「もしかしたら、またすぐに雨が降り出すかもだから持ってて」
「えっでも・・・・・・」
「そうそう、それと」
男の子の話を全く聞かず少女は一人で話を進める。にっこり笑って胸に手を当てた。
「雨が嫌なら、私が雨女になってあげるよ! 私雨好きだもん、いつだって虹が見れるし」


「あ・・・・・・」
頭を中を流れる映像に呆然とする。しかしはっと意識を切り替えて手を伸ばした。
「太陽!」
太陽の制服の袖を掴む。太陽は驚いたような顔で振り向いた。
「えっ! なに陽りん!? どうしたの!!」
いきなり自分の名前を呼ばれて戸惑っているようだ。その様子になんだか自然と笑いが込み上げてきた。
「本当に、バカ」
「うん・・・・・・ごめん」
「違う違う、私のこと」
「えっ?」
意味が分からないというように首をかしげる太陽を見つめて微笑んだ顔のまま瞼を伏せる。あの時の男の子と太陽はきっと同一人物だ。
「昔、逢ったよね?」
「っ!・・・・・・・・・・・・――うん」
一度驚き、決心したように太陽はうなづく。その様子に私は誤解があることに気づいた。
「もしかして私があなたの代わりに雨女になったことを申し訳なく思ってる?」
「そりゃあそうだよ! 俺があのとき陽りんに出会わなかったら今頃陽りんはもっと幸せだったんでしょ!? 俺が全て悪いんだ。ごめ――」
「あーもう! 謝るのナシ!!」
私は太陽の口に手を当て謝罪しようとするのを止めた。そしてそのまま坂の上を指さす。
「馬鹿だね私、忘れてた。雨の後には……」
雨が上がって雲が晴れて、青空が広がる。その景色を七色に彩るのは、

「雨の後には虹が出る。私、雨大好きだよ」


なぜか彼女は虹よりも綺麗に見えた。
昔、自分に傘を差し出して手を伸ばしてくれた女の子。出会ってから10年間、彼女と再会する日は一向に来ず、高校へと上がった。
彼女はどうやらそのあとすぐに引っ越してしまったようで会えなかった。貸してもらった傘はいつか再開できた時のため家の傘立てに行儀よく並んでいる。
もう、うすれる記憶の彼女の面影、きっと逢えないだろう、逢っても分からないだろうと半分あきらめてた。もし自分の雨体質を引き受けた彼女に逢えたらなんて思って坂本に「雨女と帰れたいいな」なんてぼやいていしまった。

そんなある日、いきなりの豪雨が降った。こりゃあダメだと思い雨宿りを決意したとき、彼女が目の隅に映ったのだ。
長い黒髪に水玉模様の傘、それはどこか10年前の女の子と重なって見えた。反射的に自分は彼女に話しかけていた。
それからあの女の子だと分かるのにそう時間はかからなかった。
けれど運悪く、坂本に出くわし、たまたまぼやいた言葉が彼女に伝わってしまった。逃げ出した彼女を見たとき、自分の馬鹿さ加減と彼女をまた傷つけたことに心に釘が刺さったような気分になった。

走って走って見つけた彼女はとても小さく見えて、抱きすくめてしまった。


そんな大罪をいくつも犯した自分を彼女は10年前と変わらず笑顔で許してくれたのだ。
彼女に会う前とは違う、心の中に生まれた新しい感情が知らない間に自分を温かくしてくれた。

もうすっかり俺は、どうやら、彼女に夢中なようだ。




今日も今日とて雨だ。しとしとと降る見慣れた景色に私はため息を落とす、のではなく微笑んだ。
「今日も虹が見えるかな・・・?」
小さな期待を胸に抱きつつ、雨の降る中へ足を踏み出す。ちょうどその時、手を掴まれた。
「なっ!?」
振り替えるとそこには昨日と同じ、女子をイチコロにしてしまいそうな笑顔の太陽。
「また、あなた・・・・・・?」
飽きれたように、けれど優しい声音だ。
それに太陽は笑って首をすぼめつつ、いたずらをするような甘い目で傘の中に無理やり入ってきた。
「なにするつもりっ――」
「相合傘しようよ。今日も傘忘れちゃってさ」
私は思いっきり太陽の足を踏んづけた。そして太陽を押しのけて逃げる。
「傘は一人一本、基本!」
「えー」
まるで駄々をこねる子供のようだ。しかしそれを華麗に無視し、私は彼に背を向けた。
「じゃーね」
「待って!」
太陽が慌てたように呼びかけた。それにめんどくさそうに振り返る。
「・・・・・・今度は何?」
「一緒に帰る」
「だって傘ないんじゃ・・・・・・――なっ!」
太陽はばっちり常備していた折り畳み傘を広げ走って寄ってくる。
「持ってるんじゃん! うそつき」
「えー? なんのことー?」
太陽はどこ吹く風だ。私はそれにあきれ返り、笑った。なんだか太陽といるとこっちまで調子がくるってしまう。
「ねえ、俺思いついたんだ! 陽りんの雨女体質と俺の晴れ男体質をさ、合わせたらプラスマイナス、ゼロじゃない? そしたらずっと雨なんてことはないだろうし、いろいろな天気を楽しめる!」
「まあ、そうだね」
私はそっけない返事を返した。しかし太陽はそれを好印象に受け取ったのか輝く目で笑ってこう告げた。

「だったら、これから一緒にいようよ」

私はその馬鹿な考えに赤くなってカバンで殴りかかり、同時に心の隅で「ちょっとだけいい考え」なんて思ってしまった。

(今日も今日とて悪戯な天気 おわり)

今日も今日とて悪戯な天気

今日も今日とて悪戯な天気

何もかもあきらめた雨女の少女とわけありな青年の心温まるストーリー

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-26

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 私の周りは雨ばかり(前編)
  2. 雨の後には虹が出る(後編)