6月26日

舌が回らないのをなんとか誤魔化して、また明日と言った。
どうにもこの人の前では緊張する。


挨拶した相手は薄く笑って、バイバイと言った。


いざ会話をしようとしても、パニックになるだけで彼女に気を遣わせてしまう。
優しさに距離を感じて切なくなるだけ。


この想いはニセモノだと思う。

自分が同性愛者だとは考え難い。

確かに魅力的な女の子はつい目で追ってしまうが、憧れているだけなのだ。

彼女を見て動揺する自分も、彼女になりたかったあの頃の名残だろう。


そう考えながら彼女の後ろ姿をみつめる。
人並みに堂々としているものの少し腰が引けているような、何か遠慮するような姿勢のそれは駆け寄ってきた派手な女に微笑む。

私には駆け寄ってくるような女友達も、駆け寄りたい親友もいない。

視界が狭くなっていた。
できるだけ自然に眉間のしわを伸ばすと、突然に頭をはたかれた。


振り返ると、格好つけているとしか感じない伊達眼鏡をかけた男が格好つけた様子でこちらを睨んでいた。
割とかわいい顔をしているのに本人はそれを活かそうとせず、大人びた服装ばかりする。


それはどこのもの、と尋ねる。目線は携帯電話を持つ骨ばった指だ。

彼はゆっくりと私の視線をたどり、指輪を見つけ、恥ずかしそうに横文字の長ったらしい名前をいう。
相変わらず全く興味の持てないファッションだと心の中で感想を述べる。

無表情のまま彼から離れる。そうしても少年はついてくる。うざったい。
歩きながら彼女の姿を探すと、ちょうどいつもの友人たちと笑いながら三棟へ消えていった。



林さん、と少年が声を上げる。

「今から、遊びに行きませんか」


あの女の人が好きなわけじゃないんでしょう


そう言われているらしかった。


憧れすぎるのも、自信を失ってしまうのではないか。

今ここで頷けば、きっとこの感情も落ち着く。


彼に笑顔を向けることに少し抵抗があったが、微笑んで、美しい自分を想像しながら行く旨を伝えた。


彼の瞳が私を捉えるのに時間がかかったような気がした。

彼はいつも笑いかけてくるのに、笑っていない。おそらく、笑えていない。


私の顔を覗いて、今日は帰りましょうか、と不自然な瞳を向けられた。

6月26日

6月26日

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-26

CC BY-NC-ND
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