IF2⑨

久々の更新です。

どうぞ、ゆっくりするほど長くないですが。

なんだろう、だんだんプロットから外れてきた。

ミステリー・・・・・・。

死因遷移

午前の講義を終え、午後はいる必要もなくなった。
もちろん、有無を言わさず帰路についた。
いつもとは違う裏路地を通り人気のないところを抜けていく。
この方が『目的地』まで近いし、面倒な人間に会わないですむ。
「と、思ったんだけどな。まったく」
いつも人通りの少ない道に、人だかりが出来て通れない。

瞬間、鼻孔をかすめる不愉快な臭い。
袖口で鼻を押さえ、嗅覚が慣れるのをまつ。

「はぁ……こいつら、よく平気だな……鈍すぎる」

路地の奥から大通りを見る……み……み…く、見えない……。
隅に積まれていたビールケースを拝借して重ねて上に立つと、見慣れた黄色と黒のテープが見えた。
そして、さらに奥の方に白衣を着た面倒な人間が目に入った。
全く、ついてない。そいつは私の視線に気付くと、口の隅をつり上げて悪人のような笑みを漏らすし、
近くの警官に何かを話した。程なくして、人混みを掻き分けて、私服の警官が私の目の前で止まる。
足元のビールケースを見てから再び見上げてきた。

「な……なに?」
「こちらへどうぞ」
「は?」

野次馬の視線が集まり、なにやらひそひそと話し始める輩もいた。
あいつの差し金なのは一目瞭然だ。

「呉野先生が『後ろでなにか土台をおいて上に乗った小柄な子』を連れてくるようにと。お時間よろしいですか?」

遠目で見て帰るつもりだったけど、ここで踵を返せば怪しまれる。
確信犯だな。相変わらず性格が悪い医者だ。
しょうがない。無関係というわけでもないし、少しだけつきあうことにした。
昨日の文句も言ってやりたいし。それにしても、私服の警官を顎で使うとは……。

警官の後ろについて、そのまま人混みをやり過ごす。
なにやら警官がぶつぶつと独り言を言っていた。なんだこいつ……右手と右足が一緒に出てる。
きっと腹いせだろう。朝から鬱憤がたまってたと思う。だから、無性にこのどうでもいい動きがやけに腹が立つ。
ので……
歩いている警官の後ろにきた足を内側に軽く蹴りこんでやった。
見事に転んだ。何の受け身もとらず、まったくの無防備な状態で、棒きれが倒れるかのように。

「な、ななになにを」
「あぁ、すまない。あまりにも歪な歩き方に耐えられなかったんだ」
「やはり来たか、毛乃。鼻がきくな」
「人を犬みたいに言うな。お前達が鈍感なだけだ。周りを囲んでる奴らは平気なの? 死体の写真とって何が楽しいんだか」
「日常で体験し得ないことに対して、たぐいまれな好奇心を発揮するのは人間の性だ。差し詰めイベントの用に思ってるだろうに。くく……いいねぇ、次は自分かもしれないというのに、日本人というのはのんきな生き物だ」
「何が可笑しい」
「いや、昔知人が『他人とのつながりが希薄なくせに、個人の無防備な様は笑いが止まらない。だから殺りやすい。この国は』と言ってたことを思い出してな」
「知り合いを選んだ方がいい」
「人間はね、他者の死を通してでしか死を知ることは出来ないんだよ。故に集る。死体に群がり、恐怖心と好奇心を両手に持ち、互いを打ち付けて、残った方に従う。
 死というのは何とも不明確なモノだ。形がない。詳細がない。何より体験談もない。そういう見えないモノは、何かしら形を与えないとどうしようもなく不安になる。
 それが概念の装飾を施した宗教だったり、写真に納めた死体だったり。自分で理解して認識できる像を投影することしか私たちには出来ないんだからな。
 それ以上のことを望むなら、それは……」
「他に言いたいことはない?」
「あからさま怪訝な顔をするなお前は。まぁ怒ってくれるな。私も見た目と言動の割に忙しい。黙って帰ったことは謝ろう」

鼻につく髪を燃やしたような独特な臭い。人が低温で焼けたときのにおいだ。
人の油や、人体そのもののタンパク質が燃えたときにする臭いらしい。
毒性があると言っていたけど、なるほど納得できる。
目の前に座る悪人面の女医がいつか語ってたかな。

「こいつも全く一緒だ。昨日と一昨日のヤツと」
「ほぉ、見ただけで分かるようになったか。興味深い」

欠落。同じモノが無くなってる。それは、『死』というモノなのか。こいつもまだ生きている。
シートからはみ出した五指を見る限り、人間としての尊厳がすべて切り離されたにもかかわらず、だ。
五感を失いながらも、医学的に死んで意識はなくともここには間違いなく命がある。

「見るか?」
「……どうせみせるんでしょ」
「どうせみるんだろ」

シートをめくると、独特の臭いはより強くなり、思わず眉間にしわが寄る。
歪な形で固められたそれは、もう『人』だった『形』しか残っていない。
まるで瞬間の恐怖が黒く塗り固められて出来たオブジェのようにも見える。
後ろから、嘔吐いたようなうめき声が聞こえた。当たり前の反応だ。
でも、今はそれよりもこいつをこんな状態にした原因。

「なんで焼死? 道路の真ん中で?」
「あぁ、どうやら車の前に飛び出してきたらしい」
「は? それで焼死?」
「うむ」

再びシートをかぶせて、近くの貫禄のある刑事に話をしてから、命月と共に黄色と黒のテープの外に出る。
封筒がどうとかいってたけど、たぶん碑百合のいってたものだろう。歩が持って帰ってるだろうし触れる必要もないか。
いつも無表情で適当にみえる命月は、今日は違った。明らかに混迷……なわけないか。生き生きとしてるし。
でも、今考えてることを死亡診断書にかくんだろう。まとまるのか?

「実に興味深い。そうは思わないか? 毛乃」
「もう終わり?」
「のこりは自室にこもって頭を抱えるだけさ。長居をしても邪魔になる。片付けるものも増えたことだしな。何にせよ今日は話通しでのどが渇いた。
コーヒーでも飲むか?」
「いらない。それより話がまだ終わってない」

路地の壁にもたれて、しばらく立ち上がれそうにない若い刑事を横目に、命月は近くの自販機でコーヒーとペットボトルの水を買うと
水だけその刑事の目の前においてやった。優しいところもある。

「おい、君。それで吐瀉物を洗い流しておけ」

前言撤回。 こいつ鬼だ。

「ふぅ、やはり缶はまずいな」
「ビーカーで入れコーヒーよりましだ」
「ふむ、アレはアレで味わい深くていいとおもったんだが、まぁそれはいいとしよう」
「そんなことはいいから続き」

缶コーヒーをもう一口のみ、離れた事故現場を横目にみながら、再びため息をつく。
「では、話を戻す。飛び出して来たことに気付いてハンドルをきったそうだ。そのとき被害者をかすめたらしい。
 目撃者の証言では、倒れた被害者の『手』と『足』を『轢いた』そうだ」
「それのどこに火がつく要因があるんだ……ん?」

なにかが引っかかる。『手』と『足』。確か昨日のアレも手と足が複雑に捻れて。

「気付いたか」

やっと気付いたか、と言わんばかりの呆れた様子。どうやらこいつは気付いてたようだ。
今回の『連続』の事件のこと。でも、そんなことが起こりえるのか。そこが分からない。

「もしかして……じゃあ、次が確定してるってこと?」
「うむ。午前中に資料を見ていて漠然としたものしかなかったが、これで確証に近いモノがつかめた」
「一人目が平らな道での『転落死』。二人目がビルの屋上から飛び降りて手足損傷の『失血性ショック死』。三人目が車に轢かれて『焼死』」
「そして四人目……火事現場か。なんだこの死因の遷移」
「ないしは、高熱の伴う場所だろう。なぜこういった現象が起こったのかまでは分からないが……毛乃。
今回の加害者は被害者でもある。発見次第、速やかにぶち殺せ。それが優しさというモノだ」
「優しさ……ね。医者が言うこと?」
「不満を口にしている割に、うれしそうに笑うじゃないか」

鼻先で笑うと、命月はそのまま現場を去っていった。
歩も戻ってるだろうし、『IF』に戻みるか……って
別に歩が戻ってるとか関係ないだろ。
とりあえず、今は命月の封筒だ。

「ほぉ、これはこれで興味深い」
「ま、まだ居たのか。な、なに?」
「くくく、別に。ではな」

IF2⑨

あ、どうも。
久しぶりに更新できました。

ずいぶん間が開いてしまった(汗

次からはいよいよ(やっと)犯人でる?

のかな? どうなの明日以降の自分!

IF2⑨

平坂新都心でおこる第三の事件。 車に轢かれた焼死体。 そこで気付く事。 それは、死因の遷移。

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-25

Copyrighted
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