藁芳野の”し”
藁芳野詩集です。
人生は暗く、辛いことのほうが多いかもしれませんが、
それでも何とかこの人生を生き抜こう、楽しく生きていこうという
前向きな気持ちを表現したいと思い綴りました。
八月、更新しました。
※更新不定期
リアル
「リアル」
間断なくつづく現実との戦い
誰かに勝敗を問われては、心に憎しみだけを残して、
「敗北」と答える日々
のどの渇きを潤すのは、
ときに愛
ときに希望
そして、ときに憎しみ
表裏、陰陽、白黒……
多様な二面性を保ちつづけるのだから、心だって疲れる
涙がこぼれないように、上を向いて歩いていたら首が痛くなった
心に広がる曇り空
俺の空には日差しもなければ、雨もない
たまに淡い光の玉が、曇り空にユラユラとちらつく
手をかざし掴もうとするが、高い空まで届くはずもない
掴もうとする手の輪郭に隠れて、光が見えなくなる
これで掴んだということにしよう
人生なんてそんなものだ
勝敗の行方
「勝敗の行方」
負けつづける人間に
日は差すのか?
現実は勝負の連続
勝ちたくもなく、負けたくもない人間には
現実そのものが足枷だった
しかし、自分は気づかぬうちに勝者となっていた
生きている事
存在している事
それも勝利ではないだろうか
自分よりも不幸な人間が沢山いることに気づけたのなら
それは勝利とは言えないだろうか?
ならばやはり
人間と勝負は切っても切れない存在なのである
心の持ち方次第でも
勝敗は決まるのだ
しかし
勝者がいて敗者がいるという関係は
厳然と存在する
敗北
自分が負けたということをいかにバネにし
幸福への足掛かりとできるか?
難しいことかもしれないが
それも答えの一つであるような気がする
勝敗の行方
それを決めるのは
自分自身
「自分に負けるな!」
僕は今
そうやって
自分に言い聞かせている
青空の下で
「青空の下で」
大海原に浮かびながら
大空を仰ぎ見る
なんて大きな世界だろう
家路につくと浮かび上がる様々な思い
明日への不安
今日を漠然と過ごし
昨日への後悔
うつろいやすい人の心
忘れよう
あの日受けた心の傷は
あの日のことでしかないから
わかってる
みんな心に傷をおって
みんな誰かを傷つけてる
そんな大空の下の世界
大草原で横になって
雲の群れを見つめる
雲に乗って世界旅行だ
夕方になると寂しさがふつふつと浮かぶ
未来への希望
今をひたむきに生きて
過去を割り切りながら
寂しい夜を乗り越えよう
さぁ進もう
あの日犯した失敗を
明日へのバネにしていくから
そうなんだ
みんな何かを失って
いつも何かを得ようとしてる
そんな雲の上から見た世界
地球に背中を預けながら
星空を眺めてみる
はるか彼方に広がる世界
僕は生きる
例えちっぽけな存在であっても
広大なこの世界で
後ろを見ずに
ここで息を整えながら
前を向いて
完璧な被害者
「完璧な被害者」
傷つきながら
傷つけている
僕は気づかないうちに
他の人を傷付けているのかもしれない
僕は一方的な被害者のつもりだった
完璧な被害者になりたかった
加害者にはなりたくなかった
人の心は見えない
自分がいくら
加害者になりたくないと意識を持っていても
もしかしたら相手には
間違って伝わっているかもしれない
僕が完璧な被害者だと名乗っても
ある人には
幸せそうな人
順風満帆な人
不幸を知らない人に見えていることだろう
もしかしたら加害者だと
思われている事も有り得る
だから
完璧な被害者である日々は終わりを告げた
その終幕は
肩の荷がおりた気がした
皆と同じだったと思えたから
僕はこれからも
傷つきながら
傷つけていく存在
それは決して
孤独な世界ではないのだ
つまりそこは人間の世界
汚れているけれど
汚れが宝石のように思える世界
独りではない
皆同じ
皆同じだけど
一人一人は偉大
だから
自分だけが被害者だと
言わなくていい
夕暮れの町並み
「夕暮れの町並み」
お疲れ様
今日が終わる
お疲れ様
今日もよく働いた
夕暮れ時の町並みを
ガードレールから眺める
ちらほら窓の明かりも見えて来て
皆が住まいに帰っていく
茜色に染まる空に
道端や家の影は
だんだん濃くなって
ほら夜が尋ねてきた
お疲れ様
くたくたになってしまった
お疲れ様
そしてありがとう
いつもお世話になります
あなたがいるから
この町は動いている
夕暮れ時の風が
安らかな時間を運んで来る
いや、俺は今から仕事だ
そんなあなたにも
お疲れ様
いつもありがとう
あなたがいるから
町が動く
町が息づく
町が色づく
たまには
ありがとうをいいあったっていいじゃない
讃えあったっていいじゃない
夕暮れ時の影は
寂しさを隠している
それは
いつも人の足元に潜んでいる気がする
いつも
町の片隅に佇んでいる気がする
だから
たまには
お酒を酌み交わすように
ありがとう
いつもお世話になります
その言葉を毛布で寒さをしのぐように
あなたの肩にかけてあげたい
お疲れ様
明日は何が起こるかな
お疲れ様
さあまた明日が始まるぞ
あなたがいるから
町が動く
町が息づく
町が色づく
とある世界で見た夢
「とある世界で見た夢」
ガラス張りの空
青が割れて落ちて来そうな気がする
ぬかるんだ大地
足元は鈍く
底無しに沈まないよう歩く
吐き気をもよおす空気
呼吸器はいつも持ち歩いてる
そんな世界でも
夢を見たかった
相容れない人と人
共存していくには
無関心という服をお互いに着ていくしかなかった
他人行儀な共生
強いられている共生
義務的な共生
その帳から逃げ出そうともがいて
人は傷つけ合う
自由なんてないのだろう
独りになっても
何かしら制約を与えている
こんな世界に生まれ落ちた理由を
誰かに聞いても
それぞれ答えが違うから
考えるのはやめよう
街中ですれ違う人の目は鋭い
針そのものだ
瞬間
目に突き刺さり
心臓を突き破って出ていく
感じるのは
「不信」という痛み
そんな目を持つ人も
幸せを求めて生きているらしい
掴みかけの夢を
後ろを振り向いたまま手放した
いつも道の端っこで
笑顔を輝かせて歩く人を羨んだ
そんな笑顔を持つ人も
昔、大切な物を無くしたことがあるという
夜の海に投げ出されたような
明かりの届かない闇の隅で独りうなだれる
あの人の刺すような瞳
あの人の輝かしい笑顔
その表情の奥に
自分と同じものがあるのを感じた
幸せを求めて生きている
大切な物を無くしたことがある
それだけで自分と同じものを見つけた気がする
過去から今
今から未来
人から人へ繋ぐ
生命の鎖がある
風は吹き荒れ
幸せをさらい
波は激しくうねり
悲しみが漂着する
そんな世界で
その鎖を繋いでこられたのも
母体の水晶球の中で過ごす以前に
僕とあの人との同じものが
かすかな結び目となって
存在しつづけていたからなのだろう
夜の海に投げ出されたような
明かりの届かない闇の隅で
胎児のように丸まって眠る
明日から生まれ変わったように生きたいから
ガラス張りの空
青が割れて落ちて来そうな気がする
ぬかるんだ大地
足元は鈍く
底無しに沈まないよう歩く
吐き気をもよおす空気
呼吸器はいつも持ち歩いてる
そんな世界で
少しばかり夢を見ていた
自問自答
「自問自答」
この峰を越えた先に
何が待つのか?
勝利か?
敗北か?
希望か?
絶望か?
例え敗北や絶望が答えだったとしても
俺の夢は止まらない
俺の夢は突き抜ける
俺の夢は俺の思考と共に体から飛び出し
暗黒の時代を飛翔する
朝日が幾度となく昇るように
俺は幾度となく立ち上がる
自由を謳歌するその日が
俺を待ち侘びている
俺が待っているんじゃない
自由、お前が俺を待っているんだ
勝利か?
敗北か?
希望か?
絶望か?
陽射も入らない細い獣道を
歩いていけば行くほど
道は整えられ
光は差し込み
やがて
見渡す限り全て
地平線の彼方にまで
道と光が広がる
過去に味わった
開放感が
バカバカしくなるくらいの
大空に抱きしめられるほどの
自由!
自由!
自由!
自由を俺の物とする!
勝利か?
敗北か?
希望か?
絶望か?
愚かな自問自答もこれで終わりだ!
この峰を越えれば
勝利だ!
希望だ!
そしてそれをも蹴散らす程の
価値観を剣として掲げ
俺は進んでいく!
負けたとしても
勝利を掴むための
因を踏んでいるのだと
自らに言い聞かせ
俺は進んでいく!
敗者復活戦
「敗者復活戦」
私は言う
「全部周りが悪い」
私は言う
「一生楽したい」
私にとって社会という環境が
最大、最終、最強の敵だった
社会には敵わない
そして叶わない
社会の渦潮に身を投げ
右へ左へ、上へ下へと
体をひきちぎられそうになる
しかし私は
社会の渦潮に飲み込まれながら
正装する
渦潮は心をもさらおうとする
すると心が鍛えられる
社会という砂漠を一人歩いている
足が痛くとも
立派な靴を履いていなくとも
道なき道を一歩ずつ踏み締めていく
簡単に人生はやめられる
簡単に人を傷つけられる
簡単なだけで
後に残るのは虚しさだけだ
恩を仇で返すのが
今、最大限のやり方でも
必ず恩を恩で返す日に
たどり着いてみせる
途上、馬鹿にされるだろう
これまで以上に悔しい思いをするだろう
支え合ってできているという文字、「人」
私は支えているというより
肘を相手に突き出して
寄り掛かっている
だから人ではないのかもしれない
少なくとも過去から今は
馬鹿にされて
悔しい思いをして
当然なのだ
だが、その”当然”を野ざらしにしていては
渦潮に呑まれたり
砂漠を踏み締めるどころか
ただただ沈むだけ
鏡を見て
私が映る
情けない自分を睨むと
鏡にヒビが入った
歪んでいる私の顔に
大声で言い聞かせる
生きろ!
自分に生きろ!
立ち向かえ!
自分に立ち向かえ!
最大、最終、最強の敵は自分だ!
勝て!
自分に勝て!
負けるな!
自分に負けるな!
ヒビ割れた隙間から
コンクリートのにおいが漏れだした
”においを感じられた”
少なくとも
私は生きている
生きているということは
負けている自分に
勝てるチャンスがある
勝つ!
自分に絶対勝つ!
勝つ!
自分に絶対勝ってみせる!
心の翼
「心の翼」
君の胸中に何が見えるのだろう?
働けど働けど
体は休まることを知らない
明日がやって来て
今日が昨日になる
それは無機的で感情を押し殺したような日々
煩わしいことは
いつも山ほどある
だが君はそれを淡々とこなしていく
何かに歓喜し
心が洗浄されたような気分
しかしそれは
一瞬で過ぎ去っていく
まるで、闇に瞬く閃光のように
今が辛いか?
明日が不安か?
昨日に後悔という
杭が刺さったまま
月日は濁流のように流れていく
君の胸中に何が見えるのだろう?
死という恐怖と戦う日々
病に倒れ
体を蝕む強敵
自分は何故生まれてきた?
健康でも病でも
同じ問いだった
病床に伏し
精神の底無し沼に沈む
方やひたすらに苦しむ人がいる中で
自分は他人と比べ
一喜一憂していた
人生は虚しいか?
人生は悲しいか?
人生は苦しいか?
今ここで
その生命を絶とうというのか?
君の胸中に何かが見えた
君の中でそれは
煌々と光り
燦然と輝き
堂々と存在する
それこそ生きるという力!
どんなに負けても
どんなに馬鹿にされても
どんなに死を渇望する
暗い生命があろうとも
君は生きるという力を
間違いなく懐に忍ばせているのだ
君は恐れをなしたりしない
君は負けたとしても
何度も立ち上がる
君は他者との調和を成し遂げ
君は友情や恋や仕事などに
納得の行く結果を出せると
確信している
君は社会で
生きつづける
呼吸をしている
心臓をリズミカルに躍動させている
明日が来ようとも
今日がつまらなくても
昨日が厄介でも
そして、目を逸らしたくなることがあったとしても
自分は自分だ!
君は君だ!
自分は生き抜くのだ!
君は生き抜くのだ!
自分を卑下するな!
必ず勝利できるのだ!
相手の生命の舞を
自分の生命とシンクロさせ
曙光の指し示す彼方へと
突き進むのだ!
自分は自分だ!
君は君だ!
自分は生き抜くのだ!
君は生き抜くのだ!
自らを卑下せずに
なんとしてでも
勝ち進むのだ!
人の心は常に流転している
再び敗北の日々が訪れても
君は生きることを止めないのだ!
惨敗の時こそ
生み出せるものがある
自分を認めるのだ!
自分を信じるのだ!
君には翼がある
つい忘れがちな翼だけど
雨雲の隙間から漏れる光を
その翼で飛び
つかみ取れ!
強くたくましく
「強くたくましく」
どうやって生きていこう?
自分の部屋から
一歩外に出れば
耐え難い
苦痛の世界が待ち受けている
人の悪口を言い合い
人の幸福を妬み
人の不幸を嘲笑う
外はそんな世界でもあるからだ
そんな世界で
どうやって生きていこう?
と疑問を持つことは
自分だけではないはすだ
もちろん親切にしてくれる人もいるだろう
個人的にも
人とは優しく接していきたいと
心の奥底で思っている
だが、自分が優しさを抱いたところで
現実の荒波は
理不尽にその心をさらっていく
天気が変わるように
風向きが変わるように
自身の心も
自然に変わっていく
気づけば
人に優しくする時など
単に自分が調子のいい時だけの
気まぐれなお披露目でしかないのではないか?
それでも私は
人に対して
こんな優しさを
お渡しする時がある
人に合わせる優しさ
人に笑顔を向ける優しさ
人に厳しくする優しさ
人にお節介をやく優しさ
人とある程度距離をおく優しさ
もっと沢山あるかもしれない
だが、人も十人十色で
様々な考え方を持っている
どれもこれから先
その人に似合った優しさをお渡ししていきたい
だが、たまに
人と付き合う事が
煩わしい時がある
辛い時がある
逃げ出したい時がある
人がどんなに
自分を見下そうと
あざけようと
馬鹿にしようと
それでも人に優しくできる強さを持てるか?
そんなに苦心してまで
人に優しくしなくても
生きていく事はできるだろう
だが、相手が自分に対して
低劣な態度を取ったからといって
それに呼応して
あなたや私まで
低劣な心となる事が
果たして
いいことなのだろうか?
それでも私は人に優しくすることができるのか?
と、自らを問い質す
どんなに優れた
宗教や哲学を頼りにしても
どんなに優秀な
人の下で働こうとも
どんなに安定した
環境で生活しようとも
結局は自分がどうあるかなのだ
強くなって
人生を生き抜いていく
それは一人で生きていくということではない
どんな不幸の嵐の中にいようとも
人と繋がっていく強さがあるか?
人に優しくしていく強さがあるか?
人を信じ、自分を信じていく強さがあるか?
ということである
強い心であり続けたい
そう願うことが
もし弱さからくるものだったとしても
きっと人は
さらなる幸福を
さらなる栄光を
さらなる和楽を
さらなる躍進を
求めてやまないだろう
だからこそ
ただ「強く」
ひたすらに「強く」と
追い求め
戦い
願い続ける
その強さの追求は
時として
人と自分を比べ
有頂天と奈落の底を
行ったり来たりする
他人と自分を比較しても
なんにもならない
その時の他人の姿は
一方的な側面を見ているにすぎないからだ
妄想から作り上げられた
”自分よりも恵まれてそうな人”
として見えているにすぎないからだ
「どうやって生きていこう?」
その答えこそ
強くあり続けること
それしかないのではないか?
「必ず強くなってみせる!」
この思いは
生涯、努力と思索を伴いながら
いつでも
どこでも
保っていきたい思いだ
そして
困難に立ち向かうことが
強さを育んでいく事と同じであるはずだ
「必ず強くなってみせる!」
これから先
不幸は必ずやってくる
諦めそうになる時は必ずやってくる
それでも「生きる!」という覚悟を決め
最後まで生き抜く
それも強さであるはずだ!
「必ず強くなってみせる!」
例え強くなれたという瞬間が来ようとも
この思いは
永遠なる輝きを放ちながら
心に存在し続ける!
この命燃え尽きようとも!
雨雲
「雨雲」
その日は真冬のような寒さが立ち込め
灰色の雲が空を覆いつくしていた
旅の途中だった私は
小さな町に立ち寄った
泥のついた
埃まみれの服を着て
陽の射さない
陰りのある道を
歩いていった
多くの人々が
この町で
当たり前のように行き交う
すれ違う人々の顔が
私とは正反対の
恵まれた環境で過ごし
確かなる成功を獲得し
これから先も幸福の漣に乗って行くような
勝ち気な表情に思えた
底辺で生きてきた私は
ふいにその感情が芽生え
人々を羨んだ
人の群れの中から
私の耳に
何かが飛び込んできた
「キモチガワルイ」
「ジダイオクレダ」
「クサクテキライダ」
まるで小さな羽虫が
餌を求めながら
耳の辺りを浮遊し
突如、耳の穴へと
迷い込むような
その虫が
私の鼓膜の側で
蠢動するかのような
嫌な町の空気だった
「キモチガワルイ」
「ジダイオクレダ」
「クサクテキライダ」
やがて羽虫は
鼓膜を破り
頭の中でうごめき
産卵する
一粒二粒の滴が
私の頭を小突いてきた
しとしとと
滴は多量になり
やがて勢いが増すと
土砂降りになり
私の体を打ち付けた
人々は傘をさしたり
店先で雨宿りを始めたりしていた
そして道の真ん中で
雨に打たれながら歩く私を
冷たく見つめている
冷たく……
服も濡れて
私の皮膚も冷たくなる
皮膚から心根にまで
雨と視線が
冷たく染み込んでいく
かつて信じていた人を
信じられなくなり
私は旅を始めた
人は信じ合う
人は愛し合う
だが
人はせめぎ合う
人は傷つけ合う
その善と悪の気持ちが
私の血液の中に
私の細胞の中に
存在する瞬間があるというのなら
黙って
心の赴くままに
従えというのか?
私は絶望の淵に立ち
眼下の闇に
飛び込もうか
ギリギリのところで
踏み止まっていた
しかし、私は答えを見つける
優しいという言葉
励ましという言葉
希望という言葉
それは
優しい人がいたから生まれた言葉
励ます人がいたから生まれた言葉
希望を持った人がいたから生まれた言葉
そう勝手に思い込む
だから
もう一度信じてみようと
踏み止まる
だから
もう一度生きてみようと
淵から引き返す
気付くと
雨は止んでいた
私が着ていた服は
水分を含んで
いくらか重くなっていた
ズボンの裾からは
水滴が滴り落ち
靴の中へ入っていく
濡れた靴下を不快に思いながら
私は町を後にした
雲間からの陽光が
私の体を
少し温めてくれる
一時の快感に
心を奪われても
きっとあの時受けた
冷たい視線は
私の心の水面に
また浮上してくるに違いない
それでも私は
生きていくのだ
人を信じようと
努めるのだ
人は不確かな存在だ
そんな生き物が
この広く狭い世界で
欲によって
何かを知ろうとする
何かを得ようとする
何かを失っていく
欲によって
人が人を
攻撃する
傷を舐め合う
そんな世界に生まれた以上
時に強く
時に弱く
時に優しく
時に厳しく
気ままに
有りのままに
生きていくことが
一つの答えのような気がする
他者からの蹂躙が
不幸や災難が
不確かな自分を
確かな自分へと
変えてくれるのだ
自由に!
気ままに!
ただ有りのままに!
悔しくて泣いた時の
涙の味を覚えているか?
もし覚えていたとしても
私は私なのだ!
自分らしく生きていこうじゃないか!
丘の向こうに
雨雲が見える
さあ、また冷たい雨が降って来るぞ!
私は少し
楽しそうな顔をして
雨雲の方へ
歩いていくのだった
明日も、来週も
「明日も、来週も」
一週間が終わりを迎える頃
体が解き放たれた
どんな束縛も
この開放感があれば
価値的なことなんだと
思うことができる
歴史の数多の革命も
仕事から休日に変わるという変化には
勝てないんじゃないかって思ったりしてみる
それほど嬉しいんだよ
次の週を考えるのは
今は止めにしよう
嬉しい気持ちが
ジョッキに今にも溢れそう
渇いた心も
溢れそうな嬉しさを
一気飲みすれば
さらに嬉しくなる
酒場で感じる
お疲れ様の空気が
痛め付けられた心を
一時だけ
優しく包む
お前も疲れたか!
俺も疲れたよ!
夜もふけ
飲み屋の人いきれとも
さよならする時
別れの挨拶をし合いながら
私は静かに意気込む
さあ、明日も!
さあ、来週も!
一日が
一週間が
新しく始まる
自分の心も
さらに一新して
さあ、明日も!
さあ、来週も!
辛くて苦しい仕事
理不尽な事を言うあの人
毎日色んな傷を負うんだ
人生は
仕事は
戦いだから
何度も日本に上陸する
放射能の怪獣みたいに
再びそれはやってくる
辛くて苦しくて
理不尽で
またあの痛みを
感じなければならない
そんなの解りきってる事じゃないか
だから何度も
一新するんだ!
さあ、明日も!
さあ、来週も!
私は
あなたは
全てを迎え撃つんだ!
今に見ろ!
「今に見ろ!」
いつも疲れている
深夜の帰宅
扉の閉まる音が
暗い部屋に寂しくこだまする
誰ひとりとして
自分を迎え入れてくれる
人はいない
寝るだけの部屋で
冷たい室内の明かりに
照らされながら
一人遅い夕食を食べている
肩は重く
心の傷口には
膿ができ
涙なんて出る方が
まだ元気だといえる
テレビの人達が
勝手に盛り上がって
勝手に笑っている
あんた方が楽しくやってれば
こちらも楽しくなるなんて
勝手な話じゃないか
眠くはないんだ
眠らないと
朝に間に合わない
だから眠るんだ
仕事は楽しいさ
やらなきゃならないことを
せっせと集中してやるのは
疲れるけど
それなりに充実感はある
友人達も
どんどん結婚して
自分には劣等感しか
取り柄がないんじゃないかと思ってみる
何が幸せなんだ?
不景気に仕事があるってことか?
結婚して子供つくって
育てて円満な家庭を築くことか?
人並みの幸せが
本当に自分の得たい幸せなのかと
何度も問う
自分の身に
降り懸かるのではないかと
不安にさせるニュース
二次元の人達が30分
戦ったり
語ったり
色気見せたりする番組
夜中のテレビのチャンネルを
日めくりのように
変えていく
手の平に収まる
小さい電話に
「何が幸せなんだ?」
と相手を選ばず
問い掛けてみたくなる
いつも疲れている
早朝に起床
ベッドの温もりが
名残惜しく
その心地好さが
部屋に漂っていて
思わずきびすを返したくなる
今日も太陽が昇る
ビルの隙間から
こんな自分にも光を分けてくれる
イヤホンをして
快活な音楽を聴きながら
満員電車に
もみくちゃにされて
一日が始まる
太陽の眩しさは
そう、自分の心の中にも
燦然と存在している!
今に見ろ!
今に見ろ!
自分にしかない使命がある
自分にしか掴めない幸福がある
毎日が同じように過ぎていっても
少しずつ
薄皮を剥ぐように
自分は変わっている
今に見ろ!
今に見ろ!
体中に脈動するマグマは
大自然のごときうねりだ!
いつも疲れている
それだけ
いつも苦労している
明日がわからないからこそ
希望が持てる
苦労した分
幸せになれると
信じつづけたい
今に見ろ!
今に見ろ!
今を生きろ!
今を生きろ!
今を戦え!
今を戦え!
今に勝つ!
今に勝つ!
何が幸せなんだ?
「今に勝つ」と決めた
この戦う心を持つこと
これ以上の幸せはないのだ!
欲のままに
「欲のままに」
何もしないで
ただ我欲のために
日々を費やす自分を
少し見つめてみる
足元ばかり見つめていた僕は
あの日以来
空の果てを見つめ
沈みかけの太陽に
希望を見出だそうとしていた
あの日の事を忘れないために
人のために何ができるのかと
自分を見つめてみる
まだ僕は生きている
あの日から
少し年月が経って
さして変化のない日常を謳歌している
多くの人が死んだというのに
僕は自分のことばかり
その地へ赴くこともせず
小さなことに
一人困惑し
一人悩み
一人自分を慰めていた
当たり前の生活って何だろう
人並みの暮らしって何だろう
幸せって何なのだろう
周囲と比べて
自分を崖から突き落とすことばかりしている
時々
天へ舞い上がることもあるけれど
いつまでも
天空を泳ぐことはできない
いつまでも
地中に埋まっていることなどない
我欲のために
他人と自分を比べながら
当たり前の生活
人並みの暮らし
そして
幸せとは何なのかと
思いあぐねる
我欲のために
財布の温みをもっと欲しがり
町行く人の唇の重さに挟まれ
一人自室で
ハイスコアを競っている
我欲のために
あの日の出来事が伝えてくれた
「真意」が
オーロラのような
ある一つの現象としてでしか
捉えられなくなっている
結局
その仕組みがわかっても
掌で掴むことはできないのか
アクセサリーにすることすらできないのか
そうして再び僕は
空の果てから
自分の足元だけを
見つめるようになってしまった
我欲のために
僕は満足しているだけ
あの日の事を
心に纏わせていたいけど
いつの日かまた
心は裸になって
目の前の欲を満たしていく
僕にできることって何なのだろう?
何もしないで
ただ我欲のために
日々を費やす自分を
少し見つめてみた
祈り
「祈り」
強くなりたい
どんなに心が
荒んでいようとも
人に優しくできる
強さを持ちたい
強くなりたい
どんなに人から
バカにされても
堂々と街を歩ける
強さを持ちたい
強くなりたい
あなたも僕も
弱さを隠して生きている
きっと本心では
”弱さ”というものを
解っている
強いこととは何か
という
その”真実”を
見極めている
強くなりたい
現実の中で
自分は
こう生きると決め
決めたとおりに生きて行ける
そんな強さを持ちたい
人生の途上
道行く人に蔑まされる
人生の途上
自分を信じてやれなくなる
人生の途上
心揺らいで
自分を心の深部に
追いやってしまう
そんな過去があっても
ほら
自分は今
満面の笑み
その繰り返しが
自分を強くする
強くなろう
きっと自分には
まだ
絶対的な力が
眠っている
「強くなろう」
そう深く強く祈ろう
信じるとは
”慢心”ではなく
心奥から”確信”を
目覚めさせること
強くなろう
人生を何年生きようとも
僕は
あなたは
まだまだ強くなれる
もっともっと強くなれる
現実の
土砂降りの中でも
くじけそうな
艱難辛苦の中でも
人を傷つけてしまう
自らに恐怖心を抱く中でも
歩きにくい
豪雪の中でも
苦しみの中だからこそ
強くなっていけるんだ
大切な人を
守るために
胸を張って
生きていくために
僕は
あなたは
もっともっと強くなれる
必ず強くなれる
絶対に強くなれるんだ
生きてやるさ!
「生きてやるさ!」
まだ認めてやれない
まだ理解できない
したくない
大人になって
何年と時を紡いでも
まだ理解できない
したくない
街のあちらこちらで
テレビの中で
あの人の心で
現実というものが
どんなに理不尽で
どんなに恐ろしくて
どんなに手強いか
そんな事実が蔓延している
未来に希望を
見出だせない人がいる
自らの手で
人生の
幕を下ろす人がいる
影に侵され
闇にさ迷い
夜明けのこない
暗黒の世界を恋しがっている
現実の中で不幸がうごめく
いつ自分に
その不幸が及ぶか
今
幸せを実感していても
この先
その幸せの色を
保っていられるか
解らない
それでも
まだ認めてやれない
まだ理解できない
したくない
現実の中で
心が汚れようとも
その心が
洗われるのも
現実だ
だから
理解できない
したくない
鉛色の空が
上から僕を
押し潰そうと
迫って来る
それは
逃げ道もないような
諦めるしかないような
現実だった
少しの間
風になろう
風とともに
今こそ
叫ぼうじゃないか
「それでも生きてやるさ!」
夢も
楽しいことも
嬉しいことも
気持ちいいことも
全て現実という
泥に塗れている
憎しみも
苦しみも
悲しみも
そして死も
全て現実という泥に
塗れている
泥の味は
きっと人によって
違うのだろう
それでも生きてやるさ!
現実に敗退しても
泥だらけの顔で
「生きてやるさ!」
まだ認めてやれない
理解できない
したくない
現実がどんなに
汚れていようとも
そこに清流があると
信じているからだ
風は止んだ
だが
この心は
ずっと自由に吹き抜ける
絶望の淵
「絶望の淵」
陽射しで
きらきらしていた町が
闇夜に包まれる
僕の心もそうだ
いつまでも
晴々とした
時間も
空間も
心も
ありはしない
心が
闇の深淵に落ちると
ふと町の人々が
何か言っているのが
聞こえてくる
その声は
肯定的な
時もあれば
否定的な
時もある
風が吹いただけで
消えてしまう
呟きのような
声色によって
僕の心は
操られたかのよう
たった一言で
こんな嫌な目にあうなんて
深淵の底にあるのは
「死」
相手もろとも
強制的に
僕の都合で
死へと追いやりたい
そんな衝動に
駆られるときがある
町ではたまに
荒んだ風が吹く
自己都合で
無関係な人を
思いつくままに
殺した人が
やがて
僕の影と重なろうとしている
たった一言で
こんなにも
心が右往左往してしまう
自分に対して
肯定的な人も
否定的な人も
悩みを背負っている
不幸に涙流している
だからこそ
相手をここから
消し去ることは
してはいけないのだと
思いとどまる
でも中には
月光も
星屑さえもない
闇夜のマントを
纏った人もいる
その人は
誰でもいいから
人を道連れにして
淵の奥深くへと
飛び込もうとしている
町行く人にも
家族が
大切な人がいる
希望を持って
明日から今から
頑張ろうと誓った人がいる
不幸に苛みながらも
生きようとする
人々がいる
だが
町行く人の中には
希望も見出だせず
闇夜のマントを
纏った人もいる
そんな人にとってみれば
そんなことは
どうでもいい
関係がない
知ったことじゃない
だから
凶器を掴み
闇の淵に
飛び込もうと
覚悟を決めている
どうでもいい
関係がない
知ったことじゃない
だから
あいつを
そいつを
消し去ってやれ
それが
許されるわけがない
だが
一体誰が
闇夜のマントを
纏った人に
気付いてあげられるのだろう
いつまでも
晴々とした
時間も
空間も
心も
ありはしない
生きる人もいる
死ぬ人もいる
殺す人もいる
救う人もいる
僕はどれなのだろう
生きるということは
なんとも不平等に
思えてならない
僕は今
眠りにつこうとしている
朝日を待ち焦がれながら
闇に溶け込み
部屋も
目の前も
真っ暗になる
一時の安らかな眠りは
まるで……
生きる
「生きる」
大地の揺れが
多くの命を
奪っていった
犠牲となった人の中に
明日へ希望を
見出だせた人も
いたはずだ
それでも
大地に呑まれた
海にさらわれた
街頭の消えた
夜道を歩き
自分のことだけしか
考えられない人が
食べ残した
食べカスを
暗い部屋の中で
食べていたあの日
電車が止まって
遠路を徒歩で
帰宅する
都会の人々
そんな
都会があるなんて
まさかあるとは
思わなかった
ああ
大地よ
大海よ
大空よ
幾人もの
命をかっさらい
幾人もの
不幸を知らせ
僕は私は
困り果てた
大地の
大きなうねりが
再び命を奪うのではと
何日も眠れない人も
いたのだろう
部屋の窓から
大きな夕日が
ぼんやり沈む
日々
起きては寝
寝ては起き
瞬く間に
臍を噛んでは
わずかな幸に
心は移ろいでいく
明日が記された
机の上のシフト表
おいしい食事
テレビの楽しさ
音楽の心地好い旋律
それらを奪う
明日が
遠からずやってくるのかもしれない
過去を振り返れば
多くの人が
殺し合う時代があった
そんな時代の波濤が
怒涛のような感情を
幾度も呼び起こし
国も人も疲弊した
二度と起こしてはならない――
時を経て
今でも
そう願う人々がいる
だが規模は違えど
今も人は
凶器や言葉で
殺し合う
怒り狂った
海や大地に
翻弄される人々
対岸に立ち
憤怒の矢を向け合う人々
そんな場面
一つ一つは
決して
秤にはかけられない
しかし
偉大なる先人達は
そんな激動の時代を
乗り越えてきた
人の肩に
触れただけで
気が立つ人もいる
助け合わなければならない時代に
私は
幸せそうな人を
羨んだ
友の心を
怪しいと思った
気の小ささは
誰にもあるにせよ
いつになれば
治せるのか?
自分のことなのに
不明瞭な明日よりも
わからなかった
そんな人でさえ
どんな時代も
乗り越えてきたのだろう
あの日以上の
不幸が
明日
今日
または一分
一秒の差で
襲撃してこようとも
人は生きる
家族や大切な人を失い
心や体に傷を負おうとも
人は生きる
都会の片隅で
ひとり細々と生き
泣き虫な自分が
泣く暇もなく
大地に呑まれようとも
誰に知られることもなく
大海にさらわれようとも
人は生きる
荒波の中を
嵐の夜を
人は何度も生きる
運命に左右されても
人は生き抜く
命を紡ぎ
希望を抱き
人は生きつづける
ひとつひとつ
「ひとつひとつ」
朝が来て
夜が来る
冬が来て
春が来る
日々心模様も
その繰り返しだ
今まで
朝の眠気を
冬の寒さを
何度も繰り返しながら
僕は一日一日を
過ごしてきた
だからこそ思いたい
取り組まなければならない
どんな小さな課題も
一つ一つ
乗り越えていけるのだと
朝の睡魔が
僕を誘惑する
布団と体が
一体となって
このまま
嫌なことも
寝過ごしていたいと思う
年中冬の時がある
冬は手を洗うことさえ
一苦労
水の冷たさで
指先がかじかむように
あの人から
放たれる言葉に
心がかじかんでしまう
毎年
毎月
毎週
毎日
どの時間でも
どの季節でも
僕は人生の旅をつづけている
眠い朝でも
寒い冬でも
僕らは毎日
学校に
職場に
通っている
それは
とても小さなことだけど
ひとつひとつ
勝てているということじゃないかな
だから
どんな悩みだって
ひとつひとつ乗り越えていけるんだ
これからも
ずっと未来も
ひとつひとつ乗り越えていく
少しずつ乗り越えていく
そんな
前向きな気分を
時々抱いたって
悪いことには
ならないさ
ずっと
抱いていたいって
思っても
それは
前を向いてる
証なんだ
あの頃の君へ
「あの頃の君へ」
六畳フローリングに備えた
淡い青色のカーテンが
春の風にそよいだ時
あの頃の君が
少しだけ顔を覗かせていた
君が夢を描いてから
何年が経っただろう
あの頃に比べて
僕は大分年取ってしまった
無事上京して
一人暮らしをして
何年か経つけど
僕の心にあるのは
いつも一日一日のこと
明日、明後日、明々後日
いつも日々に追われ
生活するのもやっとだ
あの頃の君は
大人になってからの道のりが
そんな苦心なく
過ごせるだろうと
思っていた
生きるとは
こんなにも
悩むことが多く
煩わしく
時に喜び
時に笑い
そして寂しいのかと
僕は君のいた賑やかな時間に
時々戻りたくなる
都会の荒んだ空気を吸って
夢の息吹を吐き出すと
心のフィルターが
都会の埃まみれになる
掃除も覚束なくて
ひどく疲れ果ててしまうことがある
君の描いた夢を
僕はもう抱いてはいない
あの頃とは別の夢を
抱いてはいるけど
今の自分を
胸を張って
君に見せられるか
例え見せたとして
君はどんな顔をするか
わからない
もしかしたら
残念な顔をするだろう
生きることの意味が
漠然としていた
あの頃
勉強を頑張らず
恋人を作ることを恥じらい
そこそこ遊んで
胸に秘めた夢だけは
純粋な輝きを放っていた
今の僕は
あの頃の夢を失おうとも
ただ”僕”なのだ
あんなに眩しく輝いていた夢が
いとも簡単に消え去り
しかし
それでも
今一度
今一度と
夢を抱かずには
いられなかった
あの頃の君へ
伝えたいことがある
あの頃の夢は
ガラクタになったけど
あの頃よりも強い
純粋な輝きを
今一度
胸に秘め
夢を追う日々だ
君の抱いた夢が
儚く消え去ろうとも
自分自身を失わず
気丈に
辛うじて健やかに
日々を過ごしている
他人に
言い負かされても
ふがいない自分に
嫌気がさしても
生きることに
意味を見出だせずとも
前へ前へ
楽しく
強く
生きていくことが
夢を追い
生きていくための
活力になるんだ
涙の跡も
恥ずかしい思い出も
人には言えない過去も
決して無駄じゃない
生きていくための活力になる
夢を育むための
肥やしになる
そう思うことは
きっと強さなんだ
泣き虫なのは今も変わらないけど
過去が増えた分
夢を失った分
あの頃より
強くなったのだと思う
今の僕は
あの頃の夢を失おうとも
ただ”僕”でしかない
今を自分らしく
生きていくしかないからだ
だから
あの頃の君よ
ありのままで生き
思う存分
失敗するといい
六畳フローリングに備えた
淡い青色のカーテンが
春の風にそよいだ時
あの頃の僕が
少しだけ顔を覗かせていた
不可解
「不可解」
人間とは愚かな生き物だ
人間とは尊い生き物だ
本当はどちらなのだろう
世の中にはその二つの主張が存在する
人の世は生きにくい
冷たくされ
いじめられ
抜けものにされ
そんな目にあった人が
他人を信じるなんて
難しい話なのだろう
人の世は楽しい
見守られ
時に厳しく叱られ
慈愛のもとで育まれ
そんな人の世も
この世界の一角だ
だが
人を信じられなかった人が
信じられるようになり
人を信じていた人が
信じられなくなるという
人の世もある
だからこそ
人は
愚かであり
尊くもある
その両方を受け入れ
私は生きていく
誰かが言う
「人は不可解である」という
ひとつの真実
それは人が
愚かであり
尊いからである
その両方を受け入れ
生きていくということは
雲に隠れた太陽を
仰いでいるかのようだ
薄い雲の中に
煌々と光る太陽
明るくもあり
暗くもある
見えにくくもあり
見えているものでもある
「人は不可解な生き物だ」
それは知らない部分があって
当然ということ
理解できない部分があって
当然ということ
だから
愛する存在でも
体の距離が近くても
掴めないものがあるのは
当然ということ
「君は君らしく
ありのままで生きればいい」
そんなわかったようで
わからない常套句
自分らしく
あなたらしく
そのらしさとは
それぞれの持つ
いい部分
それは
その人にしかない
優しさ
不可解な人々に
自分らしく接したって
不可解な反応しか
返ってこないこともある
人に優しくしたのに
辛辣な言葉を
吐きかけられた
それでも自分らしく
人に優しく
できたことを
認めてあげよう
自分らしく
ありのままに生きる
それはどんなに
”自分らしさ”を突っぱねられても
自分を認め
優しさを抱き
生きていくということなのだ
不可解な生き物が住む
そんな世界であるからこそ
生きるということは
苦難であり
優しいということは
強いということなのだ
解りきったことを
綴ってみたけれど
いつしかまた
人は愚かだと
断言してやまない日が
来るに違いない
それでも
私は生きていく
「人は不可解な生き物である」
それこそが「希望」なのだと
自分に言い聞かせて
歯車
「歯車」
日々流される
海の上を漂流するかのように
人の群れの狭間を
日々流される
自分には何があるのだろう
地位も
名誉もない
名声も得たことがない
街の片隅で
一つの歯車として
からくり仕掛けの
世界に身を置く
誤解
偏見
雑言の飛び交う中で
何とか笑みをこぼす
自分の図太さに
自分が笑ってしまう
「何とかやれてる」
でもいっぱいいっぱいだ
「辛うじて生きてる」
かつて死を望んだこともある
自分が歯車として
歯車足り得るかという
他人からの中傷に似た批評を
自分の頭の中で繰り返して
明日は大丈夫か?
希望を抱ける余裕はあるか?
と自分に問う
他人が自分の心に残す
とっかかりは
いつしか忘れてしまうものだけど
どうしても
どうやっても
喉に引っかかった小骨のように
疎ましく残ってしまう
それでも明日は来てしまう
明日も我が身は歯車と化し
からくりの一部になる
そこから抜け出せば
歯車ではなくなるだろうが
どのみち
自由ではない
歯茎を出して
会社の建物に
強風吹き荒れる日も
かじりつかねばならない
そんな時
自分に何ができるのか
自分のできることをやるしかない
自分のできること
昨日までやっていたこともそうだ
継続して続けていく
そしてほんの少し
歯車の身で自由を感じてみる
それは自発的に
仕事をしてみること
自由はどこにでもある
幸せはどこにでも転がっている
でもそんな美しき風景に
なかなか気づかせてもらえない
人生の旅路に
車も
電車も
飛行機も
きっとないのだろう
地道に歩いていくしかないのだ
ならば
じっくりと
一歩ずつ歩を進めるかのように
自分の今できることを
やってみよう
藁芳野の”し”