ライトが彩る星空
私は、車の部品になろうとしている。私は、机の上にうつぶせのまま縛り付けられている。トントン、カンカンという槌の音と、たまに聞こえるビリビリという電気の音が工場をイメージさせる。
私は、車の部品になるのだ。それだけは妙にはっきりと分かるのだが、何になろうとしているのかがわからない。それを知りたい。私の左足が曲がるたびに、頭の上に光が点いたり消えたりするのがわかる。どうやら、私は車のライトになろうとしているのかな、と思う。
それ以外の体の部分がどうなっているのかは、やはりわからない。右手、左手、右足とも、感覚はあるのだが、どういうわけか動かすことが出来ない。顔も右向きのままで固定されてしまっている。窮屈に思うが、どうにも身動きが取れないのでどうしようもない。私は左足をバタバタさせることで、頭のライトを点滅させてみた。
「優子ちゃん。優子ちゃんか。」
後ろから不意に声を掛けられた。聞きなれた声だが、今聞けるはずのない声だった。3年ほど前に他界した、勝おじいちゃん。
「おじいちゃん?」
そう声を掛けると、おじいちゃんは私の見える方に回り込んできてくれた。おじいちゃんは、車のシャシーの土台を形作っている。その上には、おばあちゃん、おばさん。他にも何人か見知らぬ人がパズルのようにうまくはめ込まれ、車の外観を形作っている。おじいちゃん、おばあちゃん、おばさんの3人とも、私を見て少なからずショックを受けているようだった。その様子に、これがただ事でないことを私も悟る。
「お前、ここに来る前の事覚えてないのか?」
おじいちゃんは私にそう聞いてくる。私は思い出そうとするが、頭の中に靄がかかったように思い出せない。ただ、中学校に通うためのバスに、友達の遥ちゃんと一緒に乗っていた事だけは思い出せた。そうしている私に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ゆうちゃーん。」
遥ちゃんの声だ。声が聞こえるだけで、状況が分からない私に、おじいちゃん達が教えてくれた。遥ちゃんもライトになって、車となって飛び回っているらしい。飛び回っている、というのが気にかかったが、私は遥ちゃんと一緒の車になりたいな、と思い、おじいちゃんにそれを伝えた。おじいちゃんは、残念だけどそれは出来ないんだよ、と言う。
どうして、とおじいちゃんに食い下がる私は、突然おじいちゃん達の車に組みこまれた。右手、左手、右足が痛む。そういえば、バスが落ちた時もものすごく痛かったっけ。少しここに来る前の事を思い出せた、と思いながら、作業が終わるのを待った。
私が組み込まれた車は、もう自由に動くことが出来るらしかった。試しに飛んでみるか、とのおじいちゃんの声に、うん、と答える。何だか涙が出てくる。
車で飛び回るのは楽しかった。遥ちゃんとおしゃべりしながら、二つの車が仲良く並んで走ったりもした。一通り飛び回り、着地し、改めてライトとなった私はハイビームで空を見上げる。空は無数の車のヘッドライトとテールライトで、満天の星空のようだった。
ライトが彩る星空