朝日
二人は海辺の浜で立ち尽くす。
朝陽が遠い水平線から立ち上ぼり、白々とした空がやがて蒼く光る。
昨日の夜、君がいったことばが僕の耳にこだまする。
「本当に今夜が最後なのね」
そんなこと、まるで考えられなかった。
今までずっと一緒だったんだ。
たった一夜で僕らが引き裂かれてしまうなんて。
これはきっと夢だ。
朝日が目に染みる。風か耳元でささやく。君が遠い空を眺めている。
彼女が僕の手を握る。
「きっとまた会えるわ」
彼女の指が僕の指と絡まるとまるでそれをほどくように強い風が吹いた。
これで全て終わりなんて、嘘だ。
僕は信じない。それでも、それでも陽は上っている。
全ては嘘なんだ。朝が来ると夜の寂しさが、こわさが嘘のように。
真っ暗闇のなかで愛だけが光ってみえた。きみの微笑みが暗闇を明るく照らしてくれる。
暗闇がぱっと消えてしまい、二人は溶け合って光りも闇もない世界にいる。
やがて陽が沈む。闇から逃れるように二人は抱き合って、ただひっそりと朝日が昇るのを待つ。
「とうとう明日になっちゃったね」
彼女が僕にいった言葉。
「陽が上ったら、私行くわ」
「そっか…」
まさか、そんな。
世がふける。どこからか冷たい風が吹いた。
陽はのぼり、また沈む。
僕たちの最後の日にもその法則に変わりはない。
無慈悲にも夜が明ける。
悲しみの滴が露となる。
空が白ける。
もう朝だ。
裸のままの僕らはやがて服を着て、君はどこか遠いところへ行ってしまう。
「本当かな」
「何が」彼女はちょっと微笑む。
「君が遠いところへ行ってしまうなんて」
彼女はうつむいた。
「本当よ」
二人は海辺の浜で立ち尽くす。
海猫がしきりに鳴いている。
海の向こうでは暁が上がり、水平線を黄金に染めている。
風が凍えるほど冷たい。
誰か、時間を止めてくれ。
朝日よ、止まってくれ。
君と別れるんて、僕には…
しかし、朝日は昇る。
彼女は行かなければならない。
この陽の輝きが、朝を包むころ、僕らは離れ離れになる。
止まれ…お願いだ…
「ねえ」
彼女が僕のてをそっと握った。
「もう一度、キスをして」
二人は最期の口づけを交わした。
黄金の朝日が二人を包んだ。
嗚呼、嗚呼、二人の身体が日の光と共に消え失せ、形を知らぬ魂となってしまえばいいのに。
あの黄金の太陽に約束する。
僕はいつまでもここで君を待つよ。
さあ、もう朝日が上った。
日の光が眩しい。
海なる風に乗って君は旅立つ。
僕は待とう。
それまで闇のなかで君を思い出すんだ。
朝日が昇る度に、僕はきっと喜びの涙を流すだろう。
朝日