右翼警察
はじめに
みんな、この日本に満足しているように見える。なぜなら、平和な国であるからである。確かに平和であれば、命に関わる状況にはならない上、生活に困らなくてすむ。あったとしても、それは仕事によることであり、赤の他人であれば、わかっていても実感がわかないはず。更なる快適さを目指して、経済の発展を今も追求している。だがこれで良いのだろうか?正直僕は、この日本のシステムが狂っていると思えてままならないのだ。というのも、YouTubeで民主党の抗議デモの時にプラカードを持っていた人々をたくさんの警察が取り囲んで隠そうとする動画が投票されていた、パチンコは依存や借金の危険性があるにも関わらずACジャパン「公共広告機関」はそれを警告するCMを放送しないなど、権力を悪用した大手メディアや公安機能のやり取りが、もう目に見えるくらい腐敗したのだから。正直今すぐにでも、この日本を力ずくで叩き直したい所だが、それには大量の人材がいる。例えいたとしても、さらにはその分しかも強力な武器が必要になると僕は見込んだが、とてもそんなことが実現できるはずがない。武器に関する法律は、日本が一番厳しいからだ、日本人自体好戦的でないことも一理ある。言っている立場でありながら正直、僕自身も当てはまるだろう。そんな、現実への不満を表現したのがこの物語である。言い方は悪いが、自然災害が自分勝手に怠け切った人類への原動力として描かれている。そのため、共感までとはいかないかもしれないが、読んで少しは日本の未来はどうなるのかどうするべきかと考えて欲しい。
プロローグ
西暦「20XX年」、日本は未曾有の大惨劇に陥った。南海トラフ沖地震に首都直下型地震、さらには富士山の噴火が同時に発生したのだ。この被害状況は、日本史上最悪の事態となった。死者行方不明者は100万人、被害総額398兆円の大きな傷跡を残した。その被害状況を詳しく紐解いていくとしよう。まず最初には、関東から九州までの広い地域に、マグニチュード9以上の大きな揺れが起きた。知っての通り日本は地震大国であるため、地震への備えは万全であった。訓練も幾度となくやってきた。ではなぜ対応ができなかったのだろうか。かつて以前にも日本を地獄に変貌させた震災はあった。だがそれは、既に10年以上も前のことであり、ほとんどの現役世代の方々には忘れられていたのだった。これを警告をする学者や変人もいたのだが民衆はほぼ耳を貸さなかった。そんな日常の中でそれは突然やってきた。自分の仕事に没頭している時間帯の午前11時、震度7の振動が一気に襲った。その日に来るなど誰が予想しただろうか。家は崩れ落ち、倒壊したビルなどもあった。この事態を予想できたとすれば、それは今まで世間が馬鹿にしていた人々だろう。さらにこれだけの広い範囲で振動が襲ってくるなどなおさら想定外なはずである。急な横揺れに人々は、何もできずただ悲鳴を上げながら次々と倒れ込んでいくしかできなかった。揺れは10分も続いた。やっと終わったと安心した者もいたが、それが油断していることにも繋がった。今度は津波が都市部を次々と襲ってきたのだ。高さは20mもあり、海沿いの会社や工場を容赦無く飲み込んでいった。さらには船を数10tもありそうな貨物船をも押し上げ、これに下敷きにされた犠牲者も少なくはなかった。一方内陸側は、地割れにより奈落の底に突き落とされる土砂崩れに巻き込まれるなど、決して無事とは言えない状況に陥っていた。さらに追い風を吹くような最悪な事態がおきた。それこそ富士山の噴火である。地震に連動して火山活動が活性化する危険性はあると知っていたのに、当然のごとく人々はそんなことなど気にしないでいた。それゆえ、実際に起こったとなれば恐怖に凍りつくのも無理もない話である。噴火により流れ出した溶岩は、周辺にある住宅地を凄まじい勢いで飲み込んでいった。その距離は海に繋がるまで伸びていき、これにより太平洋側の東西の道は途切れてしまった。だが富士山の噴火の驚異はこれだけでは無かった。大量の火山灰が首都圏全体に広がったのだ。火山灰は一見、黒い粉雪のように見えるのだが実際は、細かいガラスの塊であるのだ。口で吸い込めば喘息が止まらなくなり、目に入れば角膜を傷つけて痒くなる。さらには電波の通り道を妨害し、停電を起こしてしまうのだ。さらにその時の季節は夏、大都会ではとんでもない猛暑が人々の体力を奪ってしまう。涼しくしなければばててしまうのに、電気が停まってしまったがゆえクーラーどころか、扇風機すら使えない状況に陥ってしまった。そんな状況で、火山灰が日の光を遮ってしまっていたため蒸し暑く、さらには下水が逆流し不衛生な状態になり、瓦礫が落ちてきたりする事故も多発した、さらには警察が機能しないことを良いことに、犯罪が多発していった。そんな状態が2週間も続いた。それから、30年の年月が経った。
第1話 新しい社会
30年後、被災前のレベルにまで日本の社会は復活したが、東北から南方はほとんどが不毛の土地と成り果ててしまった。そこで、かつての都市機能は北海道と東北六県に移され、そして首都機能は東京から宮城に受け継がれた。一部ではまちおこしを踏まえての計画でもあったらしいが、西からの避難民を数多く受け入れてきたがゆえ、そのご当地に伝わる風習や文化も大きく広まっていった。そのため、良くも悪くもより一層賑やかな国へと変化した。それぞれの分野で特殊化していた大手企業は、ここに来て合併していった、関東七県祭など地方による合同祭が季節によって行事として行われるようになるなど、当初の計画以上に、東北と北海道を発展させる結果を出せた。そんな日本を福島から見ていくことにするとしよう。
かつては原発事故により、追い詰められた状況にあった場所であったが、長い年月によりそれを克服することに成功していた。その福島にひっそりと猪苗代の交番があった。マイクやキーボード、タッチパネルによる報告書類の記入に遠距離操作の監視など、最先端な技術による治安維持が当たり前となっていた。
「今日も大きなニュースも無く、いつも道理に終わりましたね。」「まぁ…、当たり前だと思うだが…。」20代前後の若者といかにも中年と言える2人の警察が何気なく話をしていた。若い方は、『来藤条人(らいとうじょうと)』24歳。宮城県出身。階級は巡査。元々は、警察は権力と武力を振り回す腐敗政治の象徴だと思って毛嫌いしていたが、危険と隣り合わせでありながらスラム街となった地域に行き、遭難者を一人でも多く救出するというニュースを見てその考えを直した。特に活躍したのが東北の警察であるため、宮城生まれの彼にとってはなおさら誇りに思えた。疫病にだけで無く、犯罪による恐怖もその場所に渦巻いていた。そのため、医療による救出だけでなく、公安的監視も必要であった。このような誰かを救うスーパーヒーローになりたいと思い警察になった。趣味はアニメや漫画である。臨機応変な対応が苦手でのんびり屋だが情報分析が得意で、似顔絵捜査もプロ級の腕を持っている。もう一人は、『陰山大樹(かげやまだいき)』37歳。福島県出身。階級は巡査部長。大学の公務員科を卒業後、自分の役割をどのように活かすかを考えた結果、この道を歩んできた。外車グッズのコレクションが趣味である。空手3段の腕前の持ち主で、厳しくも部下たちを我が子のようにいつも見守っている。
どうやらこの日も特に大きな事件も無く、無事に終わったようだった。もう20時50分、しっかりと後片付け戸締りをして帰宅の準備をしていた時、突然大樹の携帯に着信が来た。「はい、猪苗代交番の陰山大樹巡査部長です。」「あっ、福島警察署の署長からの伝言ですか。あぁ、はい!新人の勤務先になって欲しいと。…分かりました。では、こちらの準備ができ次第、連絡を送りますので、その時おねがいします。」「新しいメンバーがやって来るんですか。」条人は急に問いかけた。「ああ。そうらしい。」それに大樹は普通に答えた。「嬉しいです。自分に後輩ができると考えると笑顔が溢れます!」さっきまで疲れで静かにしていた条人だったが、急に元気そうに体をくねらせていた。「嬉しいのは良いけど、せっかく来てくれるんだしっかりと歓迎するんだぞ、そのあともその後輩の面倒もしっかりと見るんだぞ。」調子に乗る条人に、軽く注意がけた。だが実は、本当に嬉しかったのは、大樹の方であった。なぜなら、部下が喜んでいる姿を見ることは、彼にとっても幸せなことである。何よりも、猪苗代は警察の人員が少々足りない区域であるため、一人でも多く地元を守ってくれる人が欲しいと願っていたからである。
条人は未来の原付バイク、大樹は自分で運転するスポーツカーの自家用車でそれぞれ帰っていった。大樹には、妻と小学4年生一人の息子がいる。いつも厳しく向き合っているがごく普通の幸せな家族がいる。一方、条人はというと、単身赴任で福島に来た。家事には何の問題も無かったのだが、どのような割合で生活費を払えば良いか、年金はいつまでに払えば良いかわからなくなるなど経済面ではかなり頭を抱えていた所があった。そのため、1万円前後のアパートで暮らすことにした。非寝るのもやっとのことと言えるほど狭い上、キッチンどころかシャワールームすら無く、トイレと洗面台は共用となっている。だが、条人は我慢強く良くも悪くも謙虚な性格であるため、平気でこの窮屈な生活も慣れていった。電気も使うのだが、殆どは携帯の充電位にしか使わず、部屋を照らす照明などは全くもって使わなかった。着替える時は月明かりや廊下の光を頼りにやる。本人は、健康に影響があまり出ないという理由で晩飯も食わずに布団の代わりに準備した寝袋にすぐ入り込み熟睡する。そのため初めは、彼の部屋だけ不気味なくらい暗く静かなことが多く、アパート中で噂になっていた。しかし他の入居者とのスキンシップも常に考えているため、毎日の挨拶も欠かさずやっている。そのため今では、警察であることがより目立つため人気者となった。朝になれば、普通に出勤する。朝食は取らないことも少なくは無い。昼食しか確実に取らないが、ボリュームのあるものを選ぶ。一見、バランスが悪そうに見えるが、常に動き続けている上、食後はリフレッシュする習慣を身につけているため、今まで特に外見に大きな変化が起きたり、病にかかったりするような出来事には巻き込まれなかった。
次の日、交番には全メンバーが揃っていた。「皆さん、おはようございます。」「おはようございます!」一同ははっきりと挨拶した。「大崎莉子(おおざきりこ)」26歳。福島県出身。階級は巡査。決して美人とはいえないが、心優しく生真面目な人物である。家庭農園が趣味で時々おっそわけで、育てた野菜を持ってきてくれる。仕事においては、親とはぐれた迷子を助ける作業がある意味、専門分野になっている。困っている人々を助けるために、この仕事にのめり込んだ。「井上蒋(いのうえしょう)」29歳。東京都出身。階級は巡査。顎ヒゲとメガネがトレードマークになっている。大樹以上の威厳を出しているが、ユーモア溢れる楽しいこと好きな男である。パトロールが主な任務だが、実はヘリコプターの操作もお手の物といえる程に技術が手に付いているのだ。警察になった動機は、記憶がわずかならながらに残るってた幼い頃、まだ災害の傷跡が癒されていなかった。精神的に追い詰められて泣いてばかりいた時に、励ましてくれたのが警察の人々であった。その時にどこからともなく、心が落ち着いた覚えがあったのだ。このことをふまえ警察の道に走った。東京に生まれたため、あの時の災害を乗り越えた人物として、当交番の周辺地域以外の場所からも名前は広く知らされている。だが本人は、特にこれといった気分はないらしく、その話を持ち込めば「あっそう・・・」と振り払うように、聞き入れる反応をするだけである。「風間優美(かざまゆうみ)」34歳。京都府出身。階級は巡査長。もう一人の婦人警官で、筋肉質のがっちり体型が特徴である。趣味は見た目にふさわしくレスリングの試合鑑賞である。本人もレスリングが特技である。仕事中はヒステリックな一面を大きく見せているが、普段は近所にいそうなおばちゃんである。「早速なんだが、あさってくるその新人のために準備をしたいのだがどうだろうか?急な話で悪いのだが・・・。」
「その新人からは、当交番に対しては特にこれといった要望はだして無かったらしい。我々はできる限りのサポートができるようにしなくては。それじゃ会議の始まりだ。」
その新人のための机や書類の準備が始まり、他にもそれぞれどの役割のお手本になるかも話あって決められた。「優しくても気配りができなければおまわりさんとは言えないから、それを意識させるために、受付は私が教えます。」莉子は落し物や道案内、「見張りなら任せろ!俺が叩き込めるぜ!」パトロールは蒋、「犯人のやっつけ方は私が教えるね。あはははは!」と犯人の対策は優美、そして社会常識の指導は、なんと本人もまだ常識が無い条人に任せられたのだった。「エッ!!僕がそんな役割を大丈夫ですか?」「確かにお前にも常識はない、だからこそ教える立場になってもらえれば、緊張感を持てるから己のためにもなるんだ。だからこの役割は任せたぞ」条人は不安そうに頭を抱え込みながらも、素直に自分の役割を請け負った。歓迎会の計画にすぐに進めた。やる場所は予定取り早く決まった。次にどのような手順で進めるかである。まず本人の自己紹介から始まり、当交番のメンバー紹介に入る。料理が出てくるまでの間、カラオケでのど自慢コンテストをする。料理が出てきてもカラオケは続行する予定である。デザートを食べ終えた跡にプレゼントの受け渡しをすると言う流れで行われる予定なのだ。「何か地味な気がするけど、本人が気にしないと言っているなら、これでも悪くなさそうだね。」優美はつぶやいた。「ようし!決まった!これで行こう。」
それから二日の間で、次々とその新人を育成する為のプログラムの練り直しであった。遅くまで掛けて、ああ言えばこう言う連続であった。特に課題となったのが、条人にその新人の社会勉強の上司になることには、やはり反対する者も出てきていた。彼は、2年前に新米としてやって来た時、任された仕事は必ずしかも正確に実行するタイプなのだが、厳しい指導を受けてきたのにも関わらず、結局大人の事情や『あれはあれこれはこれ』という適切な判断力が、細かくできなかったのだ。そんな過去が彼にはある上、大急ぎ組み立てられたため正直全員、不安な気持ちがチラチラと伺わせていた。
第2話 最初の任務
当日、条人が留守を任されていた時、未来を思わせる見た目のトラッカーバイクが当交番にやって来た。ヘルメットを脱ぐと、16、7歳位だろうか、身長は165cm前後の童顔の男が立っていた。となりの隙間に停車して恐る恐る中に入ってきた。「おはようございます。どうなされましたか?」条人が問いかけると、「お、おはようございます。ここが・・・、猪苗代交番で、ですよね?」男はビクビクしながら問い返した。「そ、そうですが、こちらに何か用でしょうか?」すると男はライダージャケットのジッパーを開いた。するとそこから見えてきたのは、警察の制服であった。そして、胸ポケットから警察手帳が出てきた。「はじめまして。私は今日からこの猪苗代交番で勤務することになる、今野直太(こんのなおた)です。これからよろしくお願いします。」そう彼こそ、この猪苗代交番で働くことになる新人、「今野直太」である。「ま、まさか君のような少年が新人警察だとは・・・。いやぁ、驚きだ。」「あのぅ、私は22歳です。」「ええー!!」そう。彼はこれでも立派な大人である。正義感が強い青年だが、まだ卒業してままならないためか、一瞬見ただけで分かるほど学生気分がまだ抜けていなかった。「いつの時間帯に来るか分からないから、突然来るかもしれないとは聞いていたが、まさか今来るとは思わなかったよ。あっと、自己紹介が遅れたね。僕は来藤条人。よろしくね今野君」「こちらこそ宜しく。来藤巡査。」どうやらこの2人は気が合うらしく、最初は不安そうな空気に包まれていたが、あっという間に消えていった。「もう少し君について教えてくれないかな?」条人は問いかけた。「分かりました。私は北海道の十勝で生まれ育ちました。恥ずかしいんですが趣味は絵本を読むことなんです。小説や漫画は好きではないんです。」「へぇー、珍しいねぇ。文字を読むのが苦手な人はよくいると聞いていたけど、漫画も読まない若者がいるとは思わなかった。でもどうしてなの?」「私は、色が付いてない絵は、鮮やかでないため面白みが感じないし、小さい絵は目を細かく動かさなきゃ、話が分析しづらいため苦手なんです。」「ふぅん、大きく鮮やかな絵じゃないと、好きだと思わないんだね。」「そうなんです。それで学生時代は現場捜査科で、僅かな証拠からの事件解決へ結びつける勉強をしました。」それを聞いた条人は嬉しそうにこう言った。「じゃあ、今度その腕前を現場で見せてくれよ。」「はい、喜んで。」直太も嬉しそうに返事した。だがその直後、「でもぉ・・・、今の警察は昔の警察とは全く違うんですね・・・。」直太はつぶやいた。「確かに、あの事件の跡、日本規模ですごい改革が起きたからな・・・。」
そう。この時代の警察は、右翼警察と呼ばれている。30年前とは比べ物にならないほど変わったのだ。かつての警察では、売国主義の武力集団として批判されるようになった。さらに、災害時に警棒や銃を武器に、権力を乱用が多発した。結果、警察署の落書きや超過激派によるデモ活動が多発するようになるなど、完全に国民からの信頼を失った。結果、武力による政治腐敗は消えていったが、その分犯罪もより一層多発した。そこで考え出されたのが右翼警察である。公務員の権力に酔いしれなかった一部の警察と、常に国のためにアピール活動を続けていた右翼の思想家が手を取り合って、国民を保護したことから、この組織は誕生した。白と紫の制服やパトカーに菊花紋章など見た目も違っているが、何よりも違っているのが、制度である。治安を守るのはもちろんのこと、さらには反天連や反捕鯨など売国に関する活動を禁止させている。また、パチンコやラブホテルなど風俗事業も禁止にしているのだ。そして、朝礼時には必ず国歌斉唱、元旦とお盆には靖国神社参拝を義務付けられているなど、以前の警察に比べてはるかに愛国心が強くなったのだ。当初は、右翼といえば街宣車などの影響で、カルト教団や暴力団とも見られたこともあったため批判の声も続出した。だがそれでもめげずに不屈の精神で改革を続けていた結果、とうとう世間に認められるようになった。というも、一般市民による愛国主義のデモ活動に積極的に保護し日の丸の旗やプラカードを好きなだけ掲げてよくなり、中国人や朝鮮人の身勝手さを徹底的に広めるなどして、日本人としての誇りを全国民に叩き込ませたのだ。また、自衛隊よりも権力が強い代わりに武力は弱いことを条件にしたことも、信頼に繋がったらしい。
プルルルルル!!!突然電話が鳴った。「はい!猪苗代交番です。あっ、大樹部長どうしましたか?」「えっ?何ですって?分かりました。すぐ現場へ急行します。後、新しく入ってきた新人も来たことなので、連れて行って良いですか?」「了解しました。」急に条人の動きが素早くなった。「ど、どうしたのですか?」驚いて直太は聞いてきた。「右翼のデモ活動に左翼のデモ隊が殴りかかってきたらしい。僕は、右翼の人たちを守るのが今回の仕事なんだ。直太君も同行してくれ。これが君の初勤務だ。」直太は嬉しそうに「了解しました。」と敬礼した。2人は現場へ急行した。
郡山駅前そこが今回の現場である。そこに、二つの集団が罵声の大騒ぎになっていた。今回の事件はその集団の保護と監視である。国旗を振り回しているのが右翼で、得体の知れない物を掲げているのが左翼である。なんとその左翼の誰かが、右翼の人たちに先に手を出してきたのだ。それがきっかけで、今にも大混乱になりそうになっているのだ。「日本を汚すなー!!帰れー、シナどもー!!!」右翼側はこう怒鳴った。一方「帝国主義がー!!第二次世界大戦の過ちをまた起こす気か!!!」と言い返した。既に大勢の警察が左翼のデモ隊を包囲していた。一方右翼側は、左翼に比べればほぼ自由と言っても良いほど取り囲まれてはいなかった。といのも、やはり日本人は平和にすがってきたがゆえ武器を扱う勇気すらないが、逆に言えば武力に走らない傾向があるからである。そのため、警備はそこまで追求する必要性はないのだ。一方、左翼側は、在日外国人、アジア系が多く気が荒い性格が多い。事実、略奪や強姦などの犯罪を犯しているのは、外国人のパターンが多いのだ。例え日本人の名前でも、国籍は海外のである、在日アジア人も少なくはない。30年前に比べれば、その部分は、大きく改善されているみたいだが、完全にとは行かなかったらしい。
条人たちも現場に到着した。早速2人は、右翼側に行きデモ隊や無関係な一般人の警備に回った。他のメンバーは、莉子以外は左翼側の見張りの方を請け負っていた。なぜ、自分自身はまだ警察としては未熟であることを自覚しているがゆえ、右翼の保護に回ったのは納得していたが、莉子と条人が右翼側を担当したかを直太は条人に問いかけた。「実は僕はあまり、格闘は苦手なんだ。莉子さんは優しい人だけどそれゆえ、弱みになる所があるんだ。だからそれほど乱暴じゃない右翼側の警護に当たるよう指示されたんだ。」 そう、莉子と条人は取っ組み合いや喧嘩を避けてきたがゆえ、格闘能力が低いのだ。それゆえ、いつ暴れだしてもおかしくない、左翼側の人々を相手にするのは危険極まりない行為である。そのため、少し情けないきがするが部下を危険な目に合わせたくないために、大樹は彼らに右翼側の見張りを任せたわけである。その判断は正しかった、予測通りに右翼側のデモ隊は罵声を上げているだけで、手は出してこない。一方、左翼側はいつ暴走してもおかしくない状況になっていた。さらに、少しでも下手な真似をすれば、それが彼らの爆発につながりかけないため、対人面でも気を配らなくてはならないのだ。格闘ができて相手の気持ちを落ち着かせるなど、空気が読めない奴にとっては至難の技である。
条人は自前の誘導棒とホイッスルで、直太は腕を振るって誘導を人々に指示した。やはり右翼の人々は同じ思想の持ち主が多いためか、落ち着いた笑顔でお辞儀や軽くお礼を言ってくれる人もいた。そんな中、直太はなぜこんな抗議活動をしたがる人がいるのか気になってきた。そこで、上司たちの視線を盗んで参加者の一人の男に聞いてみた。「すいません。質問しても良いでしょうか?」男はキョトンとした表情を伺えながらも、「いいですけど・・・」と答えてくれた。「どうしてこの活動に参加したのですか?」すると「そんなの決まってるじゃないか!チョンやチャンコロが勝手だからだよ!」懸命に訴えているような発言をしてきた。「見てみろあのイカレっぷりを、せっかく歓迎してやったのに、それに調子こいて自分たちの都合をこの日本にまで持ってきたんだぞ。おかげで純血の日本人は邪魔者扱いされているんだ。戦争になるぞと脅した結果、日本はただ言う通りに動くだけの無能な国になって欲しいと願っているだよ!どうせ。」その男はこう言い切った。「そうだったんですか。教えてくれてありがとうございました。」その場を離れようとしたが、「君はまだ若いんだね。これからも国全体までとはいかなくても、地元だけでも大切にするんだぞ。」とつぶやいた。再びけい警備と誘導の作業に戻った時、左翼側の一人の男がブロックの欠片を拾い上げた。と次の瞬間、それを投げてきたではないか。それに誰よりも気づいた直太は、その破片の行き先にはなんと3、4歳位の幼い男の子がいる所に飛んできていることに気づいた。「危ない!!」直太は素早く身をこなし、子供を守ることに専念して一気に飛び出した。なんとかその子は無事だったが直太は額に破片を直撃し、さらに宙をひと回りして地面に叩きつけられた。「直太君!!!」条人はすぐ駆けつけた。直太は失神していた。「気を失っているが、心配だ救急車を読んでくれ!!」周囲は一気に静けさに包まれた。破片を投げた男は速逮捕された。
それから一日経った。「う~ん、こっここは~?」直太はゆっくりと目覚めた。「よかったぁ。もう目覚めないかと思ったよ。」そこに条人が居座っていた。「君は立派な警察だよ。子供を捨て身の覚悟で守るなんて。」微笑みながら条人はつぶやいた。すると今度は、蒋がやってきた。直太は凍りついた。だが「体には気をつけろよ。けど、合格だ。」蒋はこうつぶやいて、さっさと去っていった。「どうしたんだろう蒋巡査・・・。」すると条人はこうつぶやいた。「お手柄だよ直太君、蒋さんにはなかなか褒められるのは中々ないんだよ。」
第3話 障害者政権
それから直太が退院するまでは、時間はかからなかった。一日遅れたものの特に問題はなかった。場所は、郡山駅近くにあるバイキングダイニングで7時15分からの予定である。カラオケの付いた場所を考えていたのだが、そこは直太の入院により無しになった。メンバーは全員で6人であったため、特に問題は無かった。「まさか、こんな賑やかな場所に変える事になるなんて。」「でも大樹さん、本人は嬉しそうにしていましたと、条人は話していましたよ。」大樹と優美が先に予約して待っていた。すると、蒋が一番先にやってきた。「ただ今到着しました。」「やはり、君が一番乗りだったか。」それから2,3分した後、莉子がやってきた。「あらら、条人さんと今野君はまだみたいでしたね。」「うん、そうみたいなんだ。あともう少しで来ると思うのだが・・・。」すると、入口からフラフラとした足取りでこちらにやってくる2人の姿が見えた。「申し訳ありません、遅れました。」「来藤条人、及び今野直太、ただ今到着しましたぁ~。」「どうしたんだい?何かあったみたいだけど?」優美が問いかけた。「突然、直太君がめまいをしてしまって・・・。」「えっ!」一同は声を合わせて驚いた。「あっ、でも私ができる限りフォローして途中から押して移動したので、事故にはならなかったので大丈夫でした。」と条人は説明した。それを聞いて、皆ホッと落ち着いた。「よかったぁ、さすがは兄貴分だね。条人君。」莉子はつぶやいた。少し時間が遅れたものの歓迎会はとても盛り上がり、2時間以上も続いた。だが、条人、直太、そして蒋は酒を飲まなかった。条人と直太はバイクで帰ることも考えているため飲めば飲酒運転になる。一方、蒋は少し違った。お酒を飲むと酔っ払って自分の本性をさらけ出し、酒癖が悪くなるのではないかと心配しているために控えるようにしている。デザートを食べ終えて、プレゼント渡しに入った。早速開けることにした。大樹からは車のラジコンであった。蒋は被災地の写真集、優美はレスリングのブルーレイ、莉子からは手作りの野菜、そして条人からは変形するロボットの玩具をプレゼントされた。直太は、苦笑いしながらも嬉しそうにお礼をした。逆に直太からは、絵本のようなメモ帳を仕事仲間に渡していった。帰宅時、「直太君、君はどこに住んでいるの?」「教会です。ジャスティス教会です。」ジャスティス教会とは郡山駅から、徒歩20分位の場所にある教会である。「僕は中学卒業後、親に反抗して一人で郡山に来たんです。住むところに困った時、近くを横切ったのがその教会なんです。中学時代キリスト教の学校に通っていました。そのことをふと思い出して、少し寄って行ったのです。そこで、木上(きかみ)牧師に会いました。今までのことを話したら、『君は、クリスチャンでもあるみたいだね。よかったら、空いてるプレハブがあるから、そこを貸してあげても良いがどうかな』と聞いてきました。掃除から準備まで自分自身だけでできることを条件に貸してくれました。家事はできる上、節約する生活方法は自分なりに考えてきてたので、住む場所が見つかれば困ることはありませんでした。そこで今まで生活して来ました。」条人は問いかけた。「家賃は大丈夫だったの?」すると、「特にそこまで追求されなかったです。『住みたいならお金ではなく自分の力をかけてみないか。』と言われたんです。どうやらキリストを信じ生きようとする心を大切している人だったのかもしれないです。」直太は答えた。「珍しいけど、優しい人に助けられたんだな。」
次の日、宮城の方に出張となった。そこに国会議事堂があった。その前で、国会議員や完了大臣の講演発表会が行われるのだ。その政治家たちをマスコミから警備するのが今回の任務である。とはいうものの、そこまで大きな心配は無いと条人は直太に話してくれた。この時代の政治制度は、以前とはかなり変化していた。実は偉い方は皆、身体障害者なのだ。
なぜこのようになったかというと、健常者の政治家では財力と権力により快適な日常生活を送っていることが多いため、一般的国民の気持ちが分からないことが多かった。それが法にも影響し、不適切な政策を次々と取り上げてさらには、自分勝手な思想を大人気無く言い合う、シロアリと呼ばりされるで、もはや政治腐敗は目に見えていた。特に災害後は、被災地のほとんどが大都会だったにも関わらず、政府からの支援はなかなか進まなかった。例え出てきたとしても、復興するには足りない支援であった。これがきっかけで、とうとう国民の怒りは爆発し、完全に30年前まで続いた官僚政権は撤廃した。新たな政治改革を一般市民と皇后一族での論議で練り返し合った末、誕生したのが「身体障害者政権」である。なぜ彼らはそれを推薦したかというと、常識がありながら普通の人よりも生活面で不便な目に合うことが人一倍多いため、健常者には分からない落とし穴に気づけるという部分に目を付けたのだ。さらに生まれつき身体に障害を持つ人を対象にしたため、障害の不便さだけでなく学校でのいじめに合った人も多かった。幼い頃から、辛い経験を数え切れないほど体験していたことが伺えた。だが、その分彼らは日常生活の厳しさを自覚しているがゆえ心は打たれ強く他者の痛みも人一倍理解できる広い器を持っているのだ。精神障害や知的障害の人々も候補に挙げたのだが、彼らは政治的面では臨機応変な対応や受身の考え方ができない上、犯罪に走る後傾が多いと考えられたため没となった。初めは「外見による差別」や「身体障害者に国の責任者が任せられない」と批判の声も出てきた。だが、実行すると考え方はもちろんのこと、見た目さらには話し方までもが違っていたため、支障が起きた時には以前の政治家達どころか一般的健常者よりも、常に助け合う協調性を大切にしていた。さらに、偉い方なら、大きな豪邸や高級マンションに住んでいるという印象が強いのだが、彼らのお宅は普通の一軒家やマンションに住んでいることが多い、これはバリアフリーの内装に重視したため、大量の費用が掛かってしまうからである。さらには来客に別の障害を持つ議員が来ることも想定しなければならない。そうすればより一層、グローバルな機能を持つ家にしなければならないのだが、その分改装に大量の金額が上乗せされるのだ。その結果、あまり目立たない住宅となることが多かった。出迎えたり見送る際にも、自分から出てきて手助けする人も多い。これがより民衆からの支持を上げることに繋がった。東北と北海道が大都市に変わったことは以前に説明しただろう。だがそれには大きな壁があった。地域面積が広いがゆえ公共機関では限界があったのだ。そこで自家用車が見直されたのだが、車離れの問題が足かせとなっていた。そこで自動車を所有することに払わされる、車の税金を収める義務を取り消すことになったのだ。これにより自動車企業は大きな収入をもたらし、車の愛好家の注文が次々と殺到するほどであった。この改正をしたのも身体障害者政権である。他にも、風俗業界は禁止されたものの世界的に人気であった競馬や競艇、競輪は禁止にされず、新しくカジノを始める許可を出した。カジノなら、富裕層を対象にしているためパチンコのように就労層が堕落する心配性が無い上、海外からの観光にも繋がるという期待もあったためこの政策も取り入れられた。成果は想定を大きく超え、さらには増税の批判をくらうことなく収集することにも貢献した。
とあるビジネスホテルに到着した。直太はやはり条人と同じ部屋であった。早速中を拝見した。すると、少々狭い気がするものの綺麗な部屋が目の前で広がっていた。「うわー!素敵な部屋だ!」条人ははしゃいだ。直太はそんな彼の姿を見て、少し呆れていたもののフッと楽しそうに微笑んだ。一行は居酒屋で夕飯を摂ることにした。相変わらず蒋だけは、酒を控えていた。大樹は顔を赤くし有頂天になっていた。優美はすっかり近所の口うるさいおばさんに、莉子はギャル口調になっていた。だがこれは以前の歓迎会の時にもう間に当たりになっていたため、直太は慣れていた。そんな中、一番気になっていたのが条人は酒を飲んだらどうなるかであった。今回彼は赤ワインを飲んでいた。しばらくすると、どこか色っぽい雰囲気を醸し出してきた。次に直太の左手をそっと握った。直太はビクッと驚いた。こちらを向いて条人は口を開いた「直太君~。君のようないい男がきて、本当に嬉しのよぉ~。ずっと一緒だからね~。」生真面目で少年のような条人がこんな、オカマ臭くなるなんて直太は驚きを隠せなかった。「だーははははっは!直太!お前完全に条人に愛されてるぞ!良かったな!」と大樹は言い聞かした。一方直太は酒に強い方であったためか、チュウハイを5杯飲んだのだが平気でいられた。部屋に戻ると、2人は風呂に入り寝巻きに着替えた。そしてふかふかのベッドに倒れ込んだ。直太がまぶたを閉じようとしたとき、条人が小声でつぶやいた。「今日はごめんね変な思いさせて。でも僕は若い男性が好きなんだ。別にゲイというわけじゃないんだけどさ。でもかっこいいと思っちゃうと抱きつきたくなっちゃうんだ。」「そうだったんですか。大丈夫です。私は気にしてませんから。」直太はそう返事した。
警備当日、講演会は議事堂の正面で行われた。公演を聞きに来た民衆を正面から見張るのが、今回の彼らの任務であった。特に大きな問題なく進むかのように見えたが、ガタン!!突然、椅子が倒れる音が聞こえた。聞こえた場所に向かうと、そこに70代前後になる老婆が倒れていた。「何が起きたんですか!」直太は周辺に問いかける。「突然倒れたんです。」後ろにいた男が答えた。直太は懸命に声をかけたが、老婆はうんともすんともしなかった。「誰か医者はいますか?この方が急病みたいなんです!」
第4話 地元の研修旅行
直太からは、笑顔が消えていた。あの老婆を助けることができなかったからである。あの時直太は、何人か救援を呼び、道を開けてもらえるように誘導したのだが、中々思い通りにいかなかったのだ。というのも、仰向けに寝かせ安静にできる場所を作るのに時間がかかり、公演会場は門の前まで人で溢れかえっていたため、救急車が入ってくるスペースが無かったのだ。そのため、救急隊員は担架で入ってきたのだがやはり人が混雑していため着くのに時間がかかってしまった。病院についた頃には、もう長い眠りについていた。講演会に来ていた医師の話によると、その人は膀胱炎になっていたのだという。長い間座った姿勢でいたことが腫瘍部分に負担を招き、尿として排出されるはずの不純物が体全体にひれ渡ってしまったのだ。女性の名前は、『雨宮美祢』78歳。自分がそんな病を抱いていたのは知っていたのだが、死ぬ前に日本を作り直してくれた偉人の言葉だけでも聞きたかったということを彼女の親族から聞いてきた。そのことが、直太の心に重く伸し掛って来ていた。「仕方ないよ直太。あの位のお婆さんは生きている方が奇跡に近いんだから。」莉子が気を配ってくれた。「ありがとうございます莉子巡査。ですけど、集会の時には戻りますから、しばらく一人にさせてください。」直太は力なくつぶやいた。莉子は素直にその場を後にした。「人を助けられなかった悔しさに慣れていないんだな。」大樹は言った。「無理もない、まだ警察としてまだキャリアが短いからな。」蒋が答える。「会議の時には戻るって言ってましたけど、明るい顔は伺えないでしょうね。」莉子はこう答えた。そんな彼らに、一人の警察の男が近寄ってきた。「あのぅさ~。これを、彼にプレゼントしてやったら?」「どなたですか?」優美は聞いてきた。「ごめん、ごめん!挨拶と自己紹介が遅れてたな。私は宮城警察署の署長を務めている三沢信行(みさわのぶゆき)だ。彼は君たちの交番の交番員だと聞いている。だから、北東北の六日間スイートツアーのチケットを渡したいと思ったんだ。」「そ、そんなぁ、良いんですか?彼らには贅沢すぎますよ。」大樹は慌てる。「いやいや、彼の行動は国民を守る使命を任された我々にとって、素晴らしい決断だったよ。」こう言われて「分かりました。渡しておきます。」と大樹は返事した。
会議終了後、直太に「これをやるから、元気を取り戻しなよ直太。来藤君が悲しむぞ。」大樹はチケットを直太に渡した。「こ、これは?」「宮城警察署の署長さんが、君の働きを評価してくれたんだ。そのご褒美らしい。」「良いんですか?」「あぁ。2名まで良いらしいから、来藤君を誘いなよ、彼のためにもなるから。」大樹はそう言った。
2、3日が過ぎた。直太と条人は特別の休暇をもらい旅行に出た。郡山駅でガイドと待ち合わせしてリニアモーターカーに乗り込み出発した。「どうやら岩手県の久慈市に行くらしい。」条人は言い聞かせた。「久慈市ってどういう所ですか?」直太は問いかける。「海女漁で有名なんだ。」「海女ってあの、潜る女の漁師さんのことですか?」「まっ、まぁそうだね。以前は他にも、お座敷列車やご当地アイドルも計画して、街おこしをしていたんだ。でも僕は、ローカルヒーローの方に興味があったんだ。直太君はどうだったの?」「僕はそういうのあまり興味無かったですね。今も無いです。」「そうか。まぁ、趣味は人それぞれだからね。」「条人さん、今度は私から良いでしょうか?」「いいよ。」「条人さんはどんな絵本が好きなのですか?」「そうだな、アイスピィっていう写真の絵本がすきだよ。」それを聞いたとたん「えっ、本当ですか!?僕もその絵本が大好きなんです。」嬉しそうに声を上げた。「へぇ~、子供のような趣味を持っているのは僕だけだと思ってたけど、結構大人でも好きな人はいるんだね。」それからというものの二人の会話は盛り上がり、直太は以前までの暗い顔はしていなかった。そう話しているうちに岩手駅に到着した。それから三陸鉄線に乗り換えた。この時の三陸鉄線は、タイヤで走るようになっており遠隔操作で運転されていた。これは東京で運転していた「ゆりかもめ」から受け継がれている。直太は外の風景を眺め、条人はうたた寝をしていた。そういているうちに久慈駅に到着した。以前は古臭い田舎町と言う印象が強かったが、今ではトロピカル且つヨーロピアンな雰囲気を醸し出した、モダンな港町都となっている。「すごい!おとぎの世界に入り込んだ見たい!」直太は驚いて叫んだ。二人の目の前には砂のお城を思わせるホテルがあったのだ、チェックインし部屋を見ると、それがまた愉快な部屋であった。まるで海の底を思わせるような壁紙に包まれて、小舟のベッドに貝型の洗面台という童話のような部屋であった。魚柄のカーテンを開けるとそこには、三陸海岸の風景が広がっていた。2人はしばらく総風景を眺めていた。最初にイルカ型のマシンに乗れるアクティビティを楽しんだ。元々この乗り物はアメリカで開発されたのだが、被災時に海沿いや川沿いで支給品の配達や漂流者の捜索に活躍したことにより、日本に広まっていったのだ。振り回されるように跳んだり回転をするため、乗るには酔わない体質でなければならないのだが、2人は特に問題は無かったようであった。次の日には、遊覧潜水艦に乗った。そこで海藻の森や、青魚たちの大群を眺めながら体感した。次に秋田の仁賀保市に向かった。秋田駅に到着しそこで羽越本線に乗り換えるのだが、そこには正面が新幹線のようで大型バスに大型エンジンが付いたようなとんでもないマシンがそこにあったのだ。この乗り物は「ドラッグバス」と呼ばれている。その名の通り、バスにドラッグレース用のエンジンが組み込まれている。そのため一気に急加速をして次の駅まで超高速で運行する。危険なようにも見えるが、常に安全性に気を配っており脱線しないように外壁に囲まれたレール上をローラーで側面を抑えるようにしながら走行する。また、確実に駅に停れるようにするため、減速時にアラームが鳴るようになっている。また、路面にワイヤーフックを仕掛けることにより、停車を手助けする機能が働くのだ。但し、連結すると、後方の車両が支えになり、大事故を起こす危険性があるため、一車ずつ走っている。今ではファンクラブができる程人気になっている。多少、不安な気持ちが残るものの乗ってみることにした。すると、始めは急激な圧迫感を感じたものの、次第に外の風景を眺める余裕ができるほど慣れていった。元々はアメリカから伝わってきた乗り物で、かつてはジェットエンジンで走るスクールバスが原点だったらしい。しかし、急激なGにより搭乗者に大きな負担をかけてしまうため、速度は低下するものの安全性を優先し、ドラッグレーサーの機能をバスに組み込むことにより、高速且つ安全な乗り物となった。和んでいるうちに、仁賀保駅に到着した。仁賀保は、高層ビルは無いものの活気ある横丁や大通りが数え切れないほど敷かれていた。次に泊まるホテルまではバスで向かった。今度のホテルは普通な和風の旅館だった。「何かつまんないな。」直太は愚痴った。「あまり感心しないな。そういう言葉は。」条人は優しく注意した。入ってみるとエントランスは意外と広く、巨大な生簀が飾ってあった。中庭も非常に広く天井は開閉自由自在になっており、金属のパーツやプラスチックで作られた動物のオブジェが飾られていた。さらに廊下は、ヒーリングアートとトリックアートが混ざりあったような壁画が描かれていた。泊まる部屋はいたって普通だったが、ユーモアある光景ばかりに目が慣れてしまっていたためか、目と心が落ち着けた。ある外車メーカーが運営しているテーマパークに遊びに行った。かつては中東にあったテーマパークであったが、被災時その会社の日本支部も大損害を受けていた上、日本人の底力を目の当たりにした結果、激励及び表彰の証としてそのテーマパークをそれも本社の資金で建設された。大体は中東にあるのと同じだが、マスコットキャラがいる、お化け屋敷が作られたなど日本版のオリジナリティが付け加えられていた。遊び疲れた後、2人はホテルに戻りヨーロッパ風の大浴場に入った。その時、直太は目を丸くした。何と条人の左胸から腹部まで繋がった傷跡を目の当たりにした。理由を聞くと「ああこれ?昔、ひき逃げをした猛スピードの小型車を停めるためにぶつかった時に、肋骨を折っちゃたんだ。あの時は、生死をさまよっていたんだけど、幸運にも命は助かったんだ。」直太は、条人に隠された強靭な生命力の凄まじさと命を賭ける程の覚悟を実感した。
最後についた場所は青森の弘前市に着いた。羽越本線で繋がっていたため、そのままドラッグバスで行くことができた。最後にチェックインした所は、なんとリンゴの形をしたなんとも可愛らしいペンションであった。直太は喜んで進んでいったが、条人はこんな所に寝泊りするのには多少抵抗があった。遊びに出かけると、食べ放題のりんご狩りを2人は楽しんだ。だがそれが裏目に出てしまった。調子に乗って満腹になってしまった上に、見るのも嫌になるほどリンゴに飽きてしまった。そのため、リンゴが浮いている浴場に入った際は、2人は目を回しのぼせてしまった。
そして新幹線で福島に帰って来た。次の日、早速交番の仲間が出迎えてくれた。「楽しかったかい?条人君、直太君。」大樹は嬉しそうに聞いてきた。「はい!」と元気よく直太は返事したが、条人は「はいぃ・・・。」と遊び疲れが残っているらしく低い声で返事した。3時の休みの時、二人のお土産をお茶でメンバーは頂いた。
第5話 ロボットビジネス
この日は、直太一人でパトロールをしていた。そんな時突然、通信機に連絡が入った。素早くマイクに取り上げた。「何かあったんですか?」優美が出てきた。「大変よ今野巡査!変形機構付き作業用ロボットが奪われて逃走してるらしいの。猪苗代方面で逃走中と聞いてるわ。今野巡査なら近いはずだからお願い!」「了解しました!」直太は、バイクにサイレンを取り付け、鋭くUターン。そのまま現場に急行した。
この時代、非常に皮肉なことだがあの災害の後、日本の経済や企業はルネサンスとも言うべき運動がいたる所で起きた。特に乗り物やそれに関連する技術は著しく発展していった。自動車はAIによる自動操縦機能を持つもの、タッチパネル型の高性能コンピューターを積んだタイプが開発された。ちなみに右翼警察のパトカーは、犯人との追走を想定しているため、タッチパネル式の車を採用された。建設用の大型重機は、車体をできる限り金属からプラスチックに変更され放熱口も付けられ軽量化、電気で動き排気ガスを放出しないエコロジーな機種が誕生した。エンジンへの負担が大幅に軽減に繋がり、60km 前後で路上を走れるようになった上に騒音が低くなり公共性が上昇、さらには透明なプラスチックを採用されたことにより、故障部分が解体せずに見つけ出せるようるになり、洗礼されたフォルムであったため、海外からも注目された。最近の船体の素材もプラスチックを採用されるようになった。レアアースやメタンハイドレードなどの海底に埋まっている資源を掘り出すために、採掘と輸送の機能を併せ持つ大型潜水艦も開発された。当然艦体はプラスチック製であった。その採掘場の周辺の被災地は、それの活躍によって早く復興できた場所もあった。この乗り物が活躍したのはこの分野だけでなかった。深海の調査方法が広まった事により海洋学にも貢献し、さらにそれが漁業の世界にもさらなる公益がもたらされた。ちょうどこの時代日本は中国や朝鮮との緊張状態が極限になってしまったため、「自衛隊」は「日本軍」へと塗り替えられた。宣言をすれば他国に介入する権利を持ち、核兵器を実装しているのだが、他国の軍隊は軍事開発されたものを民間用に作られるのに対して、日本軍は逆に民間開発されたものを、軍用に改良される方式が一般的だった。他にも、元々日本人が平和的民族であるためか、敵国でもその国の行政を優先し難民を救助する任務を遂行することが多く、自衛隊の時とあまり変化が無かった。他国への介入が増えたがその分救助活動の任務も増えてきたため、一部を除いて世界中から最も、優しく和平的な軍として注目されている。そのためか、日本軍にこれらの乗り物は企業側から、次から次へと採用され軍用に開発された種類も登場していった。また海外にも人気があり、海外の州によっては、その国の資金で支部の会社や工場までもが出来るほどの評価をもらえた。災害直後は一時期円高になったもののなだらかに円安へ下落した。そのため、輸入による石油やシェールガスなど資源の売買には限界があった。そこで、エコロジーなエネルギーである。アルコールやサラダ油の廃油なども次から次へと実用されていった。中でも注目されたのが藻やミドリムシなどの藻類である。光合成によって原油を生産し、燃やしたとしても発生する二酸化炭素は、光合成によって吸収された分と同じであるため、環境に優しく減ることがない一石二鳥の資源として注目された。かつては、原子力も環境を汚染しないエコロジーな資源として注目されたものの、原発事故により国民の活力が低迷し、再び化石燃料による火力も見直されたが、環境汚染の危険性がある上に石油燃料の負担が増加するとして次々と非難の声が出て、不況と低迷で崩壊寸前までに追い詰められた島国が、計りきれないリスクを覚悟の上で資源国として復活したのだ。だがそんな中、最も注目された機械があった。
それがロボットである。その歴史はかなり昔から続いている。2011年にも、東北を未曾有の大地震が襲った。その時福島の原子力発電所を津波が襲った。その影響で、原子炉は爆発する事故が起きた。その発電所を調査するため日本のロボットが投与された。アメリカ製のロボットも動いたのだが、非常に複雑な足場を通るのには向いていなかった。そこで、細かくこだわる日本人が作った日本のロボットがこの時活躍したのだ。また、瓦礫を退かす時にも人が乗るレスキューロボットが活躍した。日本でロボットは、事業だけにのみならず趣味の世界でも、大きな成果を見せた。二足歩行機能を持つ搭乗するタイプ、トランペット吹くもの、さらには車に変形する機能を持つものまでもが生み出された。それがあの悲劇を得て、さらに成長していった。大都会であったため、より個性豊かなロボットが数え切れないほど投与され、さらに数え切れないほどの活躍をした。この時に有名人や大物の人物も数多く救出されたため、よりロボットへの関心が深まった。これにより、人命救助用のロボットの研究がさらに進んだ。結果、30年の年月を隔てて救助だけの分野に限らず建築や警備、さらには農業の分野でも活かされるようになった。追求した開発の末に生み出されたのが、完全変形機能を持つ作業ロボットである。変形するにはその分複雑な機能を持ち、さらにそれを上手く操作できる腕も必要になるが、移動と作業が一台で同時に作業ができ、燃料もそのロボットの分だけで済むというメリットもあった。そのため、そのロボットは少しずつであるが、確実に量産されていった。開発当時は大型重機並の大きさで速度は精々60kmだったが、今では普通自動車大で時速100kmで走れるタイプが、さらに小型化したのやさらに速度が上がった種類も開発中である。こちらも日本軍に採用され開発対象になった。その人気ぶりは、日本だけに留まらず、世界中のロボット好きの心を鷲掴みにし、人々の夢の象徴とされている。今では、1年以上も待たなければ手に入らないほど注文が世界中から殺到している。中には、趣味のためだけに購入を考える人もいる。上司である条人もそれのファンである。もしそれを悪用されればたちまち恐怖の象徴となり、条人も悲しむであろうことは、直太も解っていた。そのため、この事件を止めたいという熱意は、人一倍強かった。
走っているうちに、徐々にパトカーのサイレン音が聞こえてきた。聞こえる方向にさらに速度をあげると、たくさんのパトカーが走っていた。さらに近づいてみたら、そこに奪われたロボットが走っていた。一見自動車に近い形状になっているが、バンパーに頭部らしきものが突き出しており、フロントには五本指のマニュピレーターが見当たった。速度は大体100km前後だろうか、警察のパトカーなら200km近くまで加速できるため追いつくのには問題は無かった。だがしかし、この乗り物にはスピードに代わる恐るべき武器があった。それは重量である。普通の車とそれほど変わらない大きさをしているのだが、いくつもの大型駆動機関が備わっているため、建設用重機に匹敵する位の重量を持っていた。そのため不用意に近づいて衝突されれば、重量が軽いパトカーなど押しつぶされるか吹っ飛ばされる。その危険性がついているため、近づくことができなかった。バイクが近寄ればなおさら危ない。直太は悩んだ、しかし500m先にある上り坂の工事現場を見つけた時、あることを思いついた。それは上り坂で先回りをして、そこからバイクで飛び移るのだというのだ。乗っているバイクはトラッカータイプであるため公道から悪路まで至る路面に対して、ある程度なら問題なく走れるため速度で遅れる心配は無かったが、失敗すれば命はない危険な賭けでもあった。飛びすぎてはそのまま地面に叩きつけられ即死してしまうのは言うまでもない。また、飛び乗れたとしても常に走っているため、振動がこちらにも響いてくる。これでバランスを崩して、路面に転げ落ちる可能性もあり得るからである。だが彼の頭の中にはこの方法しか頭に浮かばなかった。そしてその現場に突入して一気に加速した。砂利道であったため振動は凄まじかったが直太は気にもかけなかった。
下の公道がカーブに差し掛かった場所で直太は飛び出した。結果飛び乗ることに成功した。振動が来ることに直太は想定していたためすぐさまバイクから降り、うつ伏せになった。ゆっくりではあるもののスピードの摩擦に耐えながら、直太は操縦席を目指した。リアガラスに着いたがまだ前に進んだ。リアガラスはコーティングされている可能性があり、そう簡単に侵入できる可能性は無かった。そこで、ドアのガラスを割りそこから突入する方法である。しかしリア側にいた時よりも摩擦の抵抗が強かった。それでも直太は止まることなく這い蹲り、とうとうドアにたどり着いた。次に直太は被っていたヘルメットを脱ぎ渾身の一撃の如く、ガラスに叩きつけた。さらに自分の体が入るぐらいの広さになるまで、叩きつけるのをやめなかった。これには乗っていた逃亡者も驚いて何もできなかった。突入して犯人との小競り合いの末手錠を掛けることに成功したが、止める方法が分からなかった。そのため自動車の感覚を頼りにペダルを少しずつ踏み込んだ。その判断は正解だったらしく減速していきとうとう停車した。
なぜこのような事件を起こしたのか直太は犯人に問いかけた。すると「俺はインターネットを管理する仕事をしていたが、次第にそれを専門分野にした業界が次々と衰退して、自分が働いてた会社までが倒産しちまった!挙げ句の果てには、尊敬していた社長が自殺しちまったんだ!その原因となったロボットが憎くて耐えられなかったんだ!」と訴えた。高い知能を持ち、機械の管理には自信がある元エンジニアであった。被災からの復興は必ずしも、良いことばかり起こるとは限らないことを直太は実感し、その犯人の気持ち少なからず同情した。
バシンッ!!直太は条人に頬を思いっきり打たれた「駄目じゃないか!そんな危ないことして!」その場は全員騒然となった。この時の条人の目は、フクロウのように大きく開き鋭く変わっていた。「事情は分かった。でも無理に使命に背負い込まないで欲しい、君は僕の運命共同体だから。」握りこぶしを震わせながら条人はつぶやいた。「すみませんでした。条人巡査。もうあんな無茶はしません。何か考えた時は必ず巡査に相談します。」すると条人は「よし、男の約束だぞ?」と泣きながらも微笑みながら手を差し伸べた。
第6話 西日本へ・前編
いつも通りに出勤すると、また出張の任務が下された。だが今度は被災地である東京から大阪までの長い旅になるらしかった。西側に行ったことない直太にとっては未開の土地である。そのため何が待ち受けているか不安であったが、同時に何が持っているのか楽しみという期待も持っていた。今回の任務は二人に加えて蒋も同行することになった。いわき市の港で超高速船に乗り東京に向かった。直太と条人は嬉しそうにしていたが、蒋だけは無表情だった。乗ったのは鮮やかなまだら模様が特徴のタイプだった。30年前の災害時、火山灰により前は見えなくなった上に、通信機が効かなくなってしまった。さらに追い討ちを掛けるように揺れと津波により、滑走路が使い物になれなくなった。結果、旅客機を初めとする飛行機の大半は利用不可能となってしまった。その時活躍したのが船である。被災を免れた東北に行くため、車や鉄道を利用した人は少なく無かった。だがその判断が裏目に出て、大渋滞が日常茶飯事に発生した。皆当時はパニックに陥っていた上に、平坦な道は数少なかったからであった。だが船なら障害物があっても受け流す形で障害物を避けることができた上に、大型輸送船や豪華客船など数万人が乗れる巨大な船種もあったため、これを機に再び見直されるようになり、船の交通機関が著しく発展していった。
直太は途中で数日前に起きた事件のことを条人に話した。「そうか・・・。確かにアナログの情報伝達方法が見直されれば、パソコンなどのモバイル機器の開発は衰退して、インターネットの情報網も一部劣化するからな。それが嫌だったんだろうな。」条人は伸び悩んだような顔つきでうなずいた。「人は俺を含めて元々邪悪な存在だ、自己中心的になって悪行に走るものだっている。」急に蒋がつぶやいた。何が言いたいのかよく分からなかったが、どこか深い意味を直太は感じていた。12時間掛かって船は東京港のフェリーターミナルに到着した。レアアースの採掘場所である南鳥島の地域にある為か、思ったよりも町は立派になっていた。今回の任務は後日に、総理大臣を初めとする政治家達がこの東京に視察しにやってくるので、その警備を任されたのである。徐々に県民の生活は取り戻してはいるものの、やはり今でも仮設住宅で生活している人々はいる。なぜ彼らのような苦しい思いをしている人々がいるのかを直接、それも細かく調べるためにわざわざ宮城からやって来たのだというのだ。自分自身も常に生活に支障があるような人生を送っているのに、国民のために不便な思いをしても手を差し伸べようと考えているのだ。だが不便であるが故、治安がまだ安定していない場所に向かい暗殺者などに狙われたら健常者よりも確実に命は無い。そのために万能なガードが必要であった。どうやら1万人以上の警察がこの東京に来る予定であり、さらには特殊機動隊までもが駆けつけているらしい。
今回はカプセルホテルで泊まり込みである。目的地に向かっている途中、シャッターが締まっている路地で溜まっている人々を見かけた。ホテルに到着しチェックインした後、直太はさっき人が溜まっていた場所がどうも気になり、再び行くことにした。この日は条人ではなく蒋が同行した。ほとんどが50代から60代位の中年の人々だった。直太は早速声をかけてみた。すると何と朝鮮語を話してきた。そうここにいる人々は在日の中国人や朝鮮人であった。直太は何をどうすれば良いか分からなかった。そこで蒋が口を開いた。「Excuse me. Who is can speak English?(すみません。誰か英語を話せる人はいますか?)」なんと英語をペラペラと話し始めた。そんな中、一人の女性が答えた。話によると災害時に逃げ遅れた方々だった。しかも富裕層の段階の人々であった。どうやら以前、日本で裕福な生活を送っていたが被災した際に、祖国に逃げようとしたものの地震を実際に体験したことがなかったために、対策の知識を全くもって持っておらずパニックになり何も出来ずじまいに追い詰められたのだという、今までのどかだった日本が戦場のような混乱がうずくまいて無意識の内に悪行に走ってしまったのだという。それからそんな生活をしていくうちに堕落していき、盗みもできないほどに年老いて今のような惨めな生き方しかできなくなってしまったという。なんとも同情の余地が無いように見えるが、実は彼らの寿命はもう長くないのだ。そのため、せめて最後はふるさとで生涯に幕を閉じたいと願っているのだ。さすがに可愛そうだと思えてきたのだが、それでも今の直太達では何もできなかった。
次の日になって警備の任務に携わった。今までに無い緊張感を直太は感じていた。正面には総理が乗っているリムジン。その周辺をパトカー4台、自分と条人を含める白バイが20台、そして最後尾に機動隊のワゴンが2台着いてきていた。そうやって周囲を警戒しながら走っているうちに、少しずつ田舎の道になっていった。奥に進むと目的地である仮設住宅の密集地に着いた。住宅一件々の壁に個性豊かな絵が描かれていた。リムジンのスライドドアが開いた。まずボディーガードらしき人物が折りたためる機械車椅子を出してきた。それからリフトに乗って50代位の女性が現れた。その女性こそ現代の総理大臣である。名前は「龍名綾女(りゅうなあやめ)」。幼い頃に交通事故に合い失明をしてしまった。これにより、通常の学校ではいじめに合ってしまったのだが、本人は次第に慣れてきていた。だが、支援学校に通うことを親に押し付けられてしまい、嫌々通うことを余儀なくされた。さらにそんな身の回りが分からない状態が災いして、野外授業に出た時に階段を踏み外してしまい、足を切り離す最悪な大怪我を負ってしまう。そんな窮地にまで追い詰められてしまった。だがその分彼女は強い心を持つことができ、自分のような不幸な人物を増やさないために、国政に挑む形で政権の改革に参入した。何度も挫折したものの10年以上の年月を掛けて、ついに総理の地位に着いたのだ。早速彼女は見回りを始め、直太たちもSPとして後からついて行った。見回っていくうちに、条人はあることに気づいた。「高齢者が多い。」すると「よく気づいたな。そのとうり。」蒋がつぶやいた。「俺はここで生まれ育った。だからあの被害状況のことをうっすらとだが覚えていたんだ。そのあともよく東京に関するニュースには目を通していたんだ。だから東京のことは俺が一番知っているから、部長は一緒に派遣されたんだな。まっ、的を射ているから任せろ!」この日の蒋は少し調子に乗っているように、二人には見えた。「では何で、高齢化が進んでいるんですか?」今度は直太が問いかけた。「体の自由が効かなくなっていたり、もう自分に将来を持たない、何よりも地元で生きていきたいと言う地元愛が、こんなことを起こしたんだろうな。」そう蒋は答えた。「地元愛かぁ・・・。」直太はふっと考え込んだ。するとホームレスとなった元富裕層の在日外国人のことを思い出した。決して良い印象がある存在ではないことは、自覚していたが最後に地元に帰りたいという願いを嘆いてつぶやいていたことを思い出した。そこで視察終了後に直太は自分のその体験を話そうと、自分から総理に近づいた。「いいけど、無理なんじゃないかな・・・。」条人はそのことを聞いたらこう返事した。彼の言う通り、当然そんなことが許されるはずは無く、秘書に差し止められた。仕方なく代わりにその秘書に伝言として話をしようとした時、なんと総理本人が直太の元に近づいてきた。「どうしたんだいぼうや?話したいことがあるならしっかりと話しなさい。」総理から初めて声をかけられた。「難しいと思うのですが、避難民となった在日の中国人や朝鮮人を見かけたのです。彼らはまともな生活ができないため、健康な生活が送ることが出来ず重い病を抱えているのです。どうせ死ぬなら故郷で生涯を終わらせたいと言う願いを訴えていました。そんな彼らの願いを叶えて上げられないのでしょうか?」すると「う~ん、何とかできる限りのことはやってみるわ。その場所に案内してもらえるかしら?」「分かりました。付いてきて下さい!」直太は嬉しそうに微笑んでその難民のスラム街へ案内した。やはり溜まっていたが一人減っているように思えた、聞いてみるとその中の一人がとうとう飢えと病に力尽きたというのだ。直太や他の人々はその話を聞くと心に深い傷跡を負ってしまった。だがしかし、それがバネとなったためか直太たちが福島に戻ってから、数日後にその人たちが、日本軍の水陸両用の輸送機により中朝両国に送り届けるというニュースがよぎったのだ。この情報を聞かせてくれたのは条人ではなく蒋であった。しかも今までとはまるでクールガイの時とは別人の如く椅子にすねをぶつけてはしゃぎながら喜んでいた。直太は驚きが隠せなかったが、そのニュースを聞いてすぐにその訳は理解できた。「やはり、蒋巡査長は人助けが大好きだったんだ。」と直太は思った。さらに何日か経ったある日、国際メールで幾つかを交番のコンピューターが受信していた。休憩を取っている間に、交番のメンバーで開けて見てみることにした。この時代のメールサービスは個人単位でも、素早く送り先の国の言語に翻訳できるようになっている。文章を読んでみると、「今まで日本は乱暴な国だと教えられていましたが、本当はとっても人を尊重する温かい国なんだと教えられました。」「今までデモなど反日活動に参加していたけど、おじいちゃんを助けてくれたから、もうこんなことはしない。」など、日本を見直す発言が次から次へと開いてきた。直太たちは目をそらすことなく、その伝言を目に焼き付けていった。
第7話 西日本へ・後編
数ヵ月後、直太は23歳となっていた。そんなある日、大阪刑務所の方からSOSの信号を福島の警察署の情報部が掴んだらしい。そのため、選りすぐりの人材を大阪に派遣することを署で決められた。その際に右翼警察の真骨頂を見せて関西の現状を研修させるために、最低限の支援に若手の警察も介入させることも提案された。その中に直太も入っていた。だが今回からは直太一人で行くことになる。もう条人の指示がなくても十分適切に対応できる位に成長していた。そのことは、条人が一番解っていた。だがそれでも初めてなだけに、彼だけにのみならず他のメンバーも心配していた。そんな中、一人の刑事が交番にやって来た。「始めました、猪苗代交番の皆様!私は郡山派出所の陣崎金矢(じんざきかなや)巡査長です。こちらにも大阪刑務所に派遣される警察官がいると聞いて、是非会ってみたいと思い所の許可を得て来所しました。」金矢は特徴的な中分けをしている。年齢は35歳。階級はさっき話した通り巡査長である。趣味は機械いじりで、彼がいるおかげで故障した機械を無料で修理してくれることも多い。「こんにちは、私が今度大阪派遣に同行する今野直太です。宜しくお願いします、陣崎巡査長。」「こちらこそ宜しく今野君。そして、いつもご苦労さま、彼の面倒を毎日暖かく見ているだね条人君。」「あっ、はい。私のことも知っているのですね。」「ああ、以前のデモ活動の警備の時で体を張って、子供を守った新米警察官がいたことが署だけでなく、こちらの派出所にもその話は通達したからな。そして以前東京に行った時には、朝鮮と中国の人々を救ったことも所で聞いたぞ。」金矢は言った。そんな武勇伝の話であったが、次第に3人の会話は徐々にロボットをテーマにして趣味の話になっていってしまった。そばを寄った莉子は、汗をかいてあきれ果てていた。「では私はこれで所に戻ります。当日は私が彼の面倒を見ますから、安心して下さい。それではこれで失礼します。」金矢は後ろに大型エンジンが突き出たスポーツカーに乗り込み、行ってしまった。彼らの様子を見ていた莉子もそうだったがもっと心配していた人がいた。それは優美である。なぜなら、彼は立派な警察官であることは本人も解っていたが、今の大阪の状況のことを直太たちに話していなかったからである。完全に孤立しているわけでは無かったため、ある程度の情報は伝達されていたのだが、ここのような小さな交番にすぐ伝わるはずがないのは、普通に考えて分かるはずなのにそれを、同行メンバーを確認するだけで肝心な計画を話さないのに彼女は疑問を覚えたのである。
一週間が経ち、その日が来た。集合場所は猪苗代湖であり、そこに乗り込む警察用の輸送航空機が浮かんでいた。今回はできる限り速く応援に駆けつけるために、航空機に搭乗することになった。メンバーは30人。20人がベテランであとの10人が支援のメンバーでありその中に直太も入っていた。この時代の航空機は水陸どちらでも離陸できるようになっていた。さらに、エンジンが付いた翼を縦に傾けることで垂直上昇できるようになっていた。これもあの災害がきっかけで生み出された乗り物である。被災した日本を米軍のVTOLの輸送機が活躍したのだが、噴煙や火柱に対応する性能を持っていなかったため、墜落する事故もあった。そのためにアメリカに頼らず、日本の環境は日本人だからこそ知っているとして、日本独自の垂直離陸機の開発が展開した。そこで誕生したのが、今も現役である、この乗り物である。まず安全性を重視したため、米軍の輸送機から折りたためるなどの余計な機能は切り取られた。次に車輪をそり状にすることで水上でも、飛べるようになった。そして、左右に合計2つあった大型のプロペラエンジンを4つの小型ジェットエンジンに切り替え、さらに翼ごと垂直に折れるようにして流線型に曲がるようにした。結果、水陸場所を問わずに狭い場所でも垂直下降で到着できるようになり、さらには広大な面積の滑走路だけでなく、狭いヘリポートの必要性も無くなり、工事や騒音などの周辺環境への悪影響も心配されなくなった。当然安全性は世界最高基準であり事故は今まで1回しか無く、世界中から注目されている。これにより港も空の玄関口となった。そして今では、雲よりも高く飛べる航空機型も開発された。
乗り込んで中に入ると意外ときれいに整備されており開放感があった。直太は窓側の席であった。窓から外を眺めていると、「よっ、また会えたな!」と声が耳に入ってきた。振り向くとそこに金矢が立っており彼の席は直太の隣であった。荷物をトランクに詰め込み、準備が完了すると機内に「本スカイエクスプレスは、これより離陸します。シートベルトを装着してください。」というアナウンスが響いた。直太はリフトに乗っているようなフッと上がった感覚を感じた。そして300m位の高さで停止し徐々に加速していった。強い圧迫感と浮き上がりに直太は驚いた。そこからは普通に飛行機に乗っているような感覚であった。
そこからミニチュアのように小さい猪苗代周辺の風景が伺えた。大学時代の沖縄の研修旅行以来で、飛行機に乗ったことが無かったため少々戸惑いがあったが、乗っているうちに慣れていった。そのうちに外の風景を眺められる程の余裕が出てきた。そうしていると、雲から突き出た山々が姿を現した。その中に富士山の姿も見当たったが、過去の大規模の噴火によりかつての面影が全く分からない程酷く変形しており、日本一の最候補の姿がもう無かった。海外からの登山ファンも多くユネスコにも世界遺産として認定された程であった。それが突如噴火し、周辺に被害を広めたニュースは全世界を釘付けにして、火山が人々に恐怖を植え付けて、美しい風景を二度と拝めないことには大勢の人々を絶望の淵に叩きつけられた。 今では、3776mの高さを誇った最候補が今では、3250mまで低くなってしまった。今も山崩れが頻繁に起きており山頂が低くなっている。さらに、過酷な環境に耐えられる藻類や植物の仲間が少しずつ頂上まで近づいているのだ。そのことを心配している人も少なくない。6時間のフライトを終えて、ようやく大阪に到着した。着陸地点は大阪港であった。かつては天下の台所と呼ばれ東京と肩を並べる大都市であったが、被災した時、東日本大震災時以上の津波の濁流と福島の時とは比べ物にならない程の福井の原発事故、さらに在日中国人や朝鮮人が多くヤクザも数え切れないほど多く潜んでいたため、彼らの暴動により町は大混乱に陥ってしまった。これを恐れて北に逃げた関西人が増加していった。東日本大震災よりも前に阪神淡路大震災が起きたことは知っていたが、実際に経験した人々も日常によってそのことを話す機会が減っていった。それが連鎖して分かっていても、実感がない世代が増えてきたのだ。それが災いして、常識が通用しない別世界となった日本に大勢の人々が常困惑していった。
それが数十年の時が経ち、さらに大きな大災害となって帰ってきたのだった。今となっては、原発の放射能が心配される地域に認定されている上に、東京都は違い資源の採掘地域でも無いため、まるでアフリカのどこかの国のような東京以上に混沌としたスラム都市となっていた。大阪の刑務所へは、屋根に太陽光が付いた荒地用の輸送車で移動となった。周囲は何とか一軒家やアパートなどがあちらこちら建てられていたが、それでも仮設住宅や無数のテントが密集した難民キャンプの方が目立っていて、そこで支援品の運搬を欠かさずリレーしていた重機ロボットの姿も見えた。足を踏み入れると、目的地は意外ときれいな刑務所であった。特に問題はなさそうに見えたが、いざ中に入ってみるとギャーギャーワーワーと叫び声や怒り声が飛び交っていた。今にも襲われそうな戦慄の空気に直太は飲み込まれた、だが「自分を失うな、大丈夫、俺がフォローしてやる!」金矢が隣でつぶやいてくれた。所長からこの刑務所とこれからの任務の説明を聞かされた。昨日にも暴動があったのであり、その参加者のほとんどが日本人ではなかったらしい。だがそれほど大きく拡大しなかったため、所のメンバーだけで押さえ込むことができた。だがそれでも限界が来ていたらしい。なぜ囚人がこの時に限って暴動を起こすかのいうと、海外の囚人は日本の囚人以上に気が荒いことがある。特に中朝の外国人は共に反日感情が強い後傾が強く、人一倍危険な行為をすることが多いのだ。右翼警察ができてから、隠れて悪徳を働いていた連中もさらに表に出てきた。皮肉にもそれを利用していた商人や客人も次々と見つかった。特に関西にそうゆう奴らが多かった。祖国に帰れることを条件に、刑務所に留置されることも考えられたがそれでは、祖国で英雄扱いされることも懸念されたため、祖国に送還されても救いようがなさそうな人物だけを追放する制度が付け加えられた。救いようがありそうな場合は日本人の囚人と一緒に、介護施設で高齢者の面倒を見るという形で活動するようになっている。祖国に帰れる人とそうでない人が勝手に判断されることに腹を立てている囚人がいるため、罵声がエンドレスに上がっていることが刑務所には多いのだ。だがそれは、己の恥を同士と国に広めることに値するため、帰国した喜びも束の間、己の恥を一生背負わなければならないある意味過酷な刑罰が待っているのだ。そうとも知らずに帰りたいと叫ぶ囚人もいた。
早速任務に移った。やはり、囚人たちの声は所内に響いていたが特に大きな変化は無かった。だが、こちらに背を向けて妙な行動をしていて、その周辺に人が集まっていた所を直太は見かけた。そこでこのことを所長に話すことにした。「はっはっは、な~に気にすることじゃないさ。でも覚えておくから。」所長はそこまで気にしてなかったが、直太はどうも気になっていた。別の場所に移動としたその時突然緊急アラームが所内を駆け巡った。彼の不安が的中したのだ。今回の暴動の主犯格は、彼が気になっていたあのしゅうじんである。すぐに駆けつけたが、もうお祭り騒ぎの押し合いになっていた。自分も参加しようとしたが、一人のひ弱な察が入った所で、何も状況は変化しないことを直太はすぐ読み取った。直太は何も出来ずじまいでただ呆然と立っていた。その時、近くで大きな機械の音が近づくのを感じた。外に出ると、復興作業に手伝っていたあの時の重機ロボットが所の近くまでやって来ていたのだ。そこで思いついたのが、金矢は機会に強く特にロボットに一番興味を持っているため、彼に操縦してもらい囚人達を黙らせようという根端であった。だが肝心の金矢がどこにいるか分からなかった。「陣崎巡査長!どこにいますか!」こんな混乱状態では読んでも分かるはずがない。そこで直太は、近くにあった黒板を担ぎ出し、「陣崎金矢巡査長来てください!」というメッセージを書き、高々に黒板を担ぎ上げた。すると、一人の警察がこちらに来ているではないか、彼が金矢であった。直太の元にすぐ駆けつけた「どうしたんだ!こんなクソ忙しい時に!」金矢はイライラしながら声を上げた。「私にいい考えがあるんです。」直太はすぐ自分の考えを説明した。「うん、なるほど確かに効果的かもしれない。だが、操縦できるかな俺が。」だが今の状況では他に手段はないことは、見ての通りであった。2人はすぐにそのロボットの作業現場へ向かい、ロボットの一台を借りることにした。最初は扱うことに戸惑っていた金矢であったが、説明書や己の知識を頼りに歩く位はできるようになった。それから所に戻り小競り合いの場所に、吹き抜けの壁を破壊しそこからまたいで所内に参入てきた。これには囚人たちも圧倒され大人しくすることしかできず、暴動を鎮圧することができた。
第8話 アメリカへ
直太は福島警察署の会議の場にいた。今回の暴動の鎮圧は彼と金矢の活躍であるように思えた。しかし、「大阪刑務所の壁の破壊、及び重機ロボットの損傷は公務員として、重大な失態である。特に金矢お前の行動は警察の名誉に泥を塗る行いだ!」警視監が怒鳴り上げた。「でっですが、金矢巡査長だけの失態ではないはずです。このことを考えた私にも責任が・・!」直太は口ずさんだが。「若造は黙っていろ、これはお前にはまだ早い話なんだ!」と言い返された。プルルルル、突然電話が入ってきた。「えあっ、そうですか。分かりました。」突然警視監が大人しくなった。「陣崎巡査長、お前のおかげで大阪刑務所は、ロボットによる警備を決定づけられた。どうやら君の行いを高く評価してくれたそうだ。また、君が使ったロボットは、犯罪者たちを止めた英雄として、名が上がったらしい。おかげでその業者もそれを誇りに思っているそうだ。だから、納得はいかんが今回のことは大目に見よう。」なんと、金矢は罰を受けずに済んだ。直太はホッと息を吐いた。「良かったです、金矢巡査長!もうクビになるかと思っていました。」「ああ、でも本当に良かった。これでまた、地元や人々を守る役割を果たせる。」金矢は微笑んでいた。それからして日曜日のある時、直太は彼の家に遊びに来るようにとの誘いの伝言を受けた。直太は条人も連れて行くことにした。彼が住んでいる場所は、いたって普通なマンションで12階に住んでいた。二人乗りでそこに4時頃に到着した。中では金矢が手作りのピザや、大量のチマキを準備して待っていてくれた。直太と条人は大喜びして食事を楽しんでいたが、しばらくすると条人は何かを気にするようにそわそわしていた。「どこかにリモコンある?」「ここにあるけど?何かみたいテレビでもあるのか?」金矢が問いかける。「あっ、ありがとうございます。そろそろアンティークアンタが始まる時間帯なんです。」と条人は答えた。
「アンティークアンタ」とは条人が毎日に見ているTVアニメで、正確には「特捜防衛アンティークアンタ」と呼ぶ。スペースオペラ系のSFアニメで、この時代で放送しているアニメではマイナーな方に分類される。内容は、西暦22世紀、帝国星団の高度な科学力により水星や金星、月などの惑星を次々と惑星自体を動かし、それを地球の起動に近い位置に爆破と磁気で移動させるテラフォーミング計画が次々と進行していった。さらにその爆破と磁気の技術を上手く利用して新しく地球型惑星を創りだす、宇宙開拓工事が進んでいた。結果、無数の環境が整った惑星を作り出すことに成功した。当然地球にもその事態は把握していた。そして地球にも帝国星団の使者が来訪してきた。帝国星団の価格力や太陽系の星々を地球人に譲ってもらえるということを条件に、帝国星団の傘下に入ることを迫られる。その話での地球は人が増加しすぎたことによる飽和状態に陥り、環境が急速に悪化していったため、地球だけでは限界にまで達していた。そのため帝国星団に亡命する者もいたのだが、いたって民間人レベルの話であった。もし帝国星団の条件を聞き入れれば、地球の代表の地位を汚すことになるとしてお偉い方の中には、徹底的に拒否する姿勢を持つものもいた。さらに母星を愛するがゆえ、地球を離れることに反対する宗教団体も登場した。これを機に地球支部の防衛隊が誕生した。それが「アンティークアンタ」である。普通は宇宙の侵略者が悪役として描かれていることが多いが、このアニメは侵略者が正義の味方として描かれていて、逆に地球の組織の方が完全に悪役として描かれている。さらに、世界中の問題も観点されて、それを後回しにする政治腐敗の要素も深く描かれている。その問題や誇りを悪用した、宇宙の犯罪者たちと偉い方とのやり取りも描かれており、より大きな勢力の支配下になることも、地球のための答えだと伝えているのもこの作品の特徴である。だが、条人はそれよりも、登場するメカの方に関心があった。というのも、その名の通り出てくる世界観が高度な文明を築いていながら、どこかアンティークな玩具を思わせるデザインの建物やメカが登場するのだ。機関車やプロペラ機の形をした装甲車や。スタイリッシュな形状をしたブリキのロボットなどが登場する。またこの世界での私服は、男女ともに水着みたいな露出度が高い服ものを着るのも話題となった。過激な表現と言われないようにするために、男性キャラが多く映されて、女性の登場シーンでも上半身しか写っていないシーンが多い。
あの時の災害から数年後に、第3次ベビーブームが起きた。それから数年が経ち成長した子供たちを対象にしたアニメの見直しが追求された。以前は大人を対象とした深夜番組が数え切れないほど放送され、残酷なシーンや性的表現がいくつも描かれているのもあった。当然そんなのを子供に見せたいとは思わないし、見る子供もトラウマになる可能性だってある。第一深夜番組なんか幼い子供が見るはずが無い。それが放送時間帯をゴールデンタイムへ変更する後傾に繋がった。ゲーム業界の分野でもその影響は強かく反映した。対象年齢が10歳以上のゲームはその時非常に売れ残った、またモバイルゲームもインターネットの規制や詐欺と思われる有料サービスへの偏見などにより、携帯端末でのゲームの開発には非常に苦しい状態に追い込まれたからである。出版社の分野でもこの影響を受けて、成年向け漫画も災害前に比べたら随分と少なくなっていた。なんだって、アニメよりも過激な表現が描かれていることが多いためである。何よりも被災後は、娯楽が無くたって生きては行けるということを実感する現象が起き、最も電気や資金が必要とされている業界により一層供給するようになり、一方無くても問題ないと決めつけられた、サブカルチャーの関連企業は一気に衰退していった。倒産を逃れるためあえて海外に進出して脱出した企業もあったが保険が効かなかったり海外の趣味に追いついて行けなかったりすることがあったため、それが裏目に出て失敗する企業もあった。そこでポリシーを捨てて合併する企業もあった。こちらは、人件費が高いというリスクがあったのだが、本社公式の版権壁を超えたコラボレーション企画の作品が作れるというメリットがあった。
食事を終えた後、今度は大皿に乗ったプリンが出てきた。皆それぞれ、分け皿に食べる分だけすくいだした。スプーンをつこうとしたとき、また条人が身を乗り出した。今度は何をしようというのか、「金矢さん、このテレビはモバイル用動画配信もできますよね?」「ううん、できるけど何か?」金矢は訳が分からなないまま返事を返した。「うん!今度は『エスエフロント』を見るんだ!」「二回続けて、アニメを見るなんて。」直太は呆れて頭の中で思った。だが見てみると金矢も直太も虜になってしまっていた。
「エスエフロント」とはこの時代に連載されている少年漫画であり、今ではアニメにもなっている。別の歴史をたどった大正時代を舞台に、現実と絵本の世界を行き来しながら、円盤怪人と言う敵と戦う内容になっている。世界観がブッ飛んだ設定で、昭和天皇が関東大震災により亡くなったという設定であるため、現実では昭和の時代でも、この漫画では大正となっている。伝説の大陸「アトランティス」「ムー」そして「レムリア」が現存する世界で、第二次世界大戦が三国同盟と連合軍の戦いではなく、資本主義と共産主義とのぶつかり合いとなっており、原爆が日本だけにのみならず世界中に落とされるという大惨劇となっているなどかなりハードな内容になっている。物語は戦後から始まる。ある一人の青年が街を歩いていると不思議な影を見かけた。本人は気のせいだと思いそのまま通り過ぎようとした時、その影が見えた場所で大事故が発生した。疑問に思っていたが、それでも気にせずに歩いていった。その途中で不思議な本屋を通りかかり、立ち読みで一冊の見慣れない絵本を見つけた。興味を持って読んでいると、その本が光りだし、その中に飲み込まれてしまった。目が覚めたらそこは今まで見たことがない不思議な世界が広がっていた。その場所こそ「エスエフロント」である。そこに美しく巨大な城が建っていた。読んでいるような声が聞こえたため場内に入ってみると、そこに美しくも巨大な妖精の女王が玉座に腰をかけていた。彼女が言うにはそれは円盤怪人と呼ばれる怪物で、強い超能力を持っているのだという。円盤怪人はこの絵本だけに留まらず、現実世界にも進出しているのだという。そのため、現実世界の人間であるその青年に奴らと同じように、円盤怪人に変身できる能力を明け渡得た。それから彼は現実と絵本の世界を行き来しながら、同じ仲間を増やし挙げ句の果てには移動遊園地のキャラバンを立ち上げて、資金を蓄えながら円盤怪人を追う話となっている。
絵本が好きな直太にはすごく憧れがある漫画であった。金矢もじっくりと見入ってしまっていた。
見終えたらちょうど、デザートも食べ終えていた。直太と条人はまた二人乗りで変える事になった。「今日はありがとうございました。」「いや、こちらこそ条人君の世界が楽しめたから、気をつけて帰れよ!」2人は嬉しそうに帰って言った。一週間が経過したある日、直太にある知らせが入った。それは1ヶ月間、アメリカで社内留学してみないかの伝達である。彼は条人にすぐ相談した。「いいんじゃない。きっとこれからさらに、自分の能力が海外ではかどるんじゃないか?」と普通に答えた。だが、優美は「ちょっと心配だわ、爆弾テロが最近起きているって聞いたわ。大丈夫かしら?」と少々心配していた。と言うのも、アメリカには宗教問題が多発するようになり、特にイスラム教徒の人々の暴動が速報ニュースになるほど、頻繁に起こるようになったのだ。そんな場所に行くため、気になるのも無理も無かった。だが、他の交番の署員は考えすぎだと笑っていた。そして直太も、アメリカに行こうとする考えを曲げようとはしなかった。
第9話 イスラムテロ
旅客用の垂直離陸機に乗り20時間のフライトをして、アメリカのアリゾナ州にあるフェニックス・スカイハーバー国際空港に到着した。そこで美人なラテン系の女性が待ち合わせしていた。彼女は彼のホストファミリーを担当するネフィリティ・ユリウス、25歳である。「Hi,I am Naota Konno. I don`t speak English skillfully(こんにちは、私は今野直太です。英語は上手く話せません)」と答えた。すると「細かいことは気にすんや、家を案内してやら。」何と関西弁で答えてくれた。「ネフィリティさん、どうして関西弁で話せるんですか?」「そやな、アタイ幼い頃3歳から5歳頃まで大阪に住んでいたんや。アメリカの実家に帰っても、連休の時に日本の大阪に行くことが多かったやからな。後、アタイのことはネフィって呼んでええから。これからユタに戻るで!」会話しながらパーキングに付いた。なんともいかついたオフロードカーが彼女の愛車らしい。左の助手席に座り彼女の住宅に向かった。走っているうちに暗くなっていき、周辺は次第にライトアップされていった。途中で直太は口を開いた「ネフィさんは婦人警官何ですか?もしそうだとすれば階級はどれ位なんですか?」と聞いてみた。「ええそうや。階級は巡査長や。」車はもう2時間上も走っていた。最初は賑やかな下町だったが次第に岩山や大森林が所々にある大平原に出た。その絶景に直太は目を輝かせていた。それから走ること45分位経つか、とうとう彼女が住んでいる小さな村に到着した。そこは色彩豊かなロッジが点々と建っていて、キャンプ場にも見えなくもない観光だけで来ても飽き残らさそうな楽しい風景だった。村人たちは戻ってきたネフィに親しく挨拶をしてくれた。常にネフィはこの村を愛しており、住民は心から彼女のことを感謝しているんだなと実感した。そうしているうちに彼女の家に着いた。落ち着いた赤いロッジであった。中は熱電球に照らされた温かい印象が強かった。二階の空いている部屋に直太は泊まることになった。その部屋に荷物を置いたら、再びエントランスに戻りテレビを付けてネフィとまた話を始めた「綺麗な場所ですねこの村、この家は木材を使っているんですね。とても素敵です。」すると「あら、ちゃうちゃう。この家は木に見えるやけど、実際はプラスチックで出来てるんや。」「えぇ!そうだったんですか?」直太は目を丸くした。そう、実はこのロッジはプラスチックでできていた。高度なプラスチックの加工技術によって、木材に非常に似た形状でありながら初めから塗料を混ぜることにより様々な色の丸太に似た建築材が作れたのだ。さらに軽量なため持ち運びしやすく、中が空洞になっているためネギを差し込む時も、力を入れずに進めるたなどの長所もあった。そんなプラスチック製の木材によって、この村のほとんどの住宅は建てられたのだった。さらに、木を無駄に伐採しなくても済むため環境的にも、優しい技術として評価されている。
そんな中、直太はあることを思い出した。それは優美が言っていた宗教問題のテロリズムのことである。早速それをネフィに話した。「ああ確かに、よう大騒ぎしとるわ。でもそれらは、ニューヨークやワシントンなど、大都会側の話や。こんな小さい村にはやってはこんから、安心せや。」とネフィは言ってくれた。すると、どこからか一気に扉が開いた音がした。それからバタバタとこちらにやってくる足音が近づいてきた。その方向に振り向くと、二人の可愛らしい子供がこっちにやって来た。ネフィに次々と話しかけてきた。「ああ、紹介が遅れたなあ。こっちの男の子が兄のジェフティで、こっちの女の子が妹のヌートや。どちらもアタイの実の子なんや。さ、二人共挨拶は?」「こんちはです。アイアムジェフ、10イヤー歳。」どうやら、ジェフは日本語が苦手であるらしい。一方「こんにちは、ヌートです。8歳です。」とヌートは簡単にだが日本語が話せていた。これには直太は度肝を抜いた。というのもヌートは日本語に強い興味を持ち、母と一緒に勉強することが多かったのだ。結果今のように短い文なら、難なく話せるのだ。この時ハッとあることに気がついた。「10歳?ということは10年前といえば15歳に息子を産んだということになる。」直太はそう頭のなかで思いついた。そのことを実際に話してみると「ええそうや。昔ハイスクール時代に、ボーイフレンドとやってちまったことがあったんや。その時は気がつかなかったんやけど、数ヶ月した時にようやく気づいたんや。中絶は出来んし周囲にも白い目で見られるようになりて、親にも相談してそのボーイフレンドに責任を取らせようとしたんやけど、彼はハイキング中にハンティングの流れ弾に当たれちまって、死んじまったんや。その時は怒りよりも悲しみが湧き上がり、お腹の子を考えるともうどうしようも無かったんや。その時、ふと腹を蹴られるのを感じて、私を避けていた人々も励ましてくれたんや。それでジェフが生まれるきっかけとなったんや。」とネフィは説明した。「へぇ、でもその辛い経験をバネにして今の生活を営むことができたんですね。」「まっ、そういうことや。パワフルやろ!?」自慢そうに話した。そう話しているうちに時計の針が12時を指していた。「あっ、もうこんな時間だ先に寝ます。おやすみなさい。」直太は11時以降を自分で消灯に決めている。そのため、すぐに歯を磨きベッドにくるまった。
それから彼はオレム警察署に入所した。始めはどのようなスキンシップを取れば良いかお互いに困惑していたが、彼のアイディアと精神は地元の人々に非常に強い関心を持たれ、次第に交流を深めていった。そんなある日、ワイオミング州で不審な集団が森に逃げ込んだという情報が署に入ってきた。その調査を任務を指示された警官は次々とその捜索にでた。直太もその中に入っていた。出動しようとした、ちょうどその頃TVでは、核弾頭を輸送中の列車が何者かの妨害に合い、肝心の核弾頭が盗まれるというとんでもない事件が、サウスダコタ州で起きたというニュースが流れた。だがそのニュースよりも今は目の前の任務が優先であることばかり考えていた直太には、このニュースがこれから深く関わることを全くを持って予想していなかった。ワイオミングへは垂直離陸機で急行した。そこからその犯人が逃げ込んだ森に踏み入れた。どこから犯人が出てくるか分からない緊張の空間、直太は歯をカチカチ鳴らしていたが「直太君、アタイの後を離れんようにせえや。」ネフィが駆けつけて声をかけてくれた。「了解、ありがとうございます。」直太はホッと心を落ち着かせた。さらに足を踏み入れたその時、一人の警官が走って警部補の元に駆けつけてきたではないか、それもかなり焦っている様子であった。聞いてみるとここから200m先の荒地で怪しい堀削工事作業がやっていたというのだ。しかも近くに火山地帯があるというのに、そんな危険な場所で地底を掘る作業何かすれば、小規模の噴火に襲われる危険性があるのに、なぜそんなことをするのだろうか。とにかく行って見ることにした。その警官が言っていた通り、作業は終わっていたがそれに使われたと思う、大型重機のドリルがそこにあった。そこへ警部補が前に乗り出し「ここで何をしているのですか?話してもらいますよ。」と聞いたとき、ガタン!と大きな機械が落ちる音がその穴の中から聞こえた。と、次の瞬間、ドガーン!!と強烈な爆音と、計り知れない振動が直太たちを襲った。それからその場にいた男の一人が口を開いた。英語であるため直太には全然分からなかったがその時、出動前に見たニュースのことを思い出した。サウスダコタはワイオミングのすぐ西にある州である。もしかしたらさっきの爆発は盗まれた核弾頭ではないのか、もしそうだとすれば放射能がこの周辺一帯に広がる危険性がある。そのため、犯人を取り逃がすのは惜しいが放射能の危険性を考えると他の警官たちの命が大事だ。そう考えた直太はネフィに頼んで、撤収するように他の警官たちに訳を聞かせて逃げるように誘導した。その直後、今度はその人達がいた場所に噴火が起き、そこから次から次へと噴火がいたる所で起きるようになった。もはや警察で手に負える状況じゃ無かった。やっとの思いで離陸機の到着地点までたどり着けた。火山岩や溶岩がすぐそこまで来ていたため、内部はパニック状態であった。溶岩がもう後方車輪のすぐ近くまで来ていき、もう皆が駄目と諦めた瞬間、ふわっと機体が浮き上がっていきそのままグングンと上昇した。ある程度安全と思われる区域まで離れることができた時、直太はまたあの場所を見つめていた。そこには何と、これまで見たことがない光景が広がっていた。それは、天を突き抜けるほどの溶岩の柱、そしてさらに上を積乱雲のようにも見える火山灰が空に広がっていたのだ。彼はこのことをネフィに話した。「あぁ、確か今いた場所はイエローストーン国立公園と言うんや。あの国立公園自体が馬鹿デカい火山なんや。」と説明した。イエローストーン国立公園とはその名の通り、アメリカ最大の火山地帯である。約70万年単位で破局噴火を起こすと言われている。破局噴火とは世界規模での被害をもたらす噴火のことで、もし起これば人類は絶滅する可能性も考えられている。イエローストーンで起これば火山灰が北半球の上空全体に広がり、寒冷期を迎えると考えられるのだ。それが現実に起きてしまった。ではなぜあの人たちはそれをしでかしたのだろうか。警部補から聞いた話によると、なんと彼らはアルカイダやタリバンのような過激派イスラム原理主義のテロリストであったのだ。彼らは「アッラーの導きの下でこの地を目覚めさせ、自分勝手に腐敗した全世界に罰を下す使命を実行する。」という勝手ながらも底知れない目的のために、このような暴挙をおこしたのだ。ちょうど今が火山帯が限界状態に陥っていたため、いつ噴火してもおかしくない状況であったのだ。そこに核兵器の大規模爆発が起これば、地下深くにあるマグマ溜りに余計な刺激を促すことになることは、言うまでも無く噴火に繋がることを決定づけていた。
第10話 悪あがき
脱出から数分後、直太達はオレム警察署に帰還した。周辺を見ると町中はパニックとなっていた。警官たちは皆、誘導や監視で手が離せなかった。直太とネフィも協力しようとしたが、警部補によって止められた。二人には家族がいる村まで戻ってもらい、そこで避難の指示をするように命令された。どうやらこの警部補は、彼女の家庭事情を知っているらしかった。
急いで戻ると、そこに痛々しい光景を目の当たりにした。落石を直撃したり屋根がひっくり返ったりしたロッジが、いたる所にあったのだ。必死の思いで彼女の家を探し当てたが、二階は木の柱に貫かれていた。もう居ても立ってもいられず、2人は家に飛び込んだ。「ジェフ!!ヌート!!どこにいるんだ!!助けに来たぞ!!直太とママが帰ってきたぞ!!」すると泣きながらヌートが出てきた。かすり傷はしているようだが、大怪我にはいたらなかったようだった。二階からジェフを負ぶってネフィが出てきた。ジェフも無事だった。「ヌートは大丈夫でした。ネフィさん!」「ジェフも気絶しとるけど命に別状はないで!速くこの村の人々を助け出そうや!」再び外に出て、大声を上げて村人を読んだが誰も現れなかった。そんな中後ろから、一人の老人が現れた。彼はこの村の村長である。ネフィが村の人々に付いて聞いてみた。彼の話によるとどうやら村長以外の人物は皆先に避難したらしく、ネフィの子供を今まで守ってくれたのだ。一緒に逃げるように説得したが彼はそれを拒んだ。どうやらこの村を最後を共にする気らしい。悲しいことだがそれが彼の最後の願いであったため、受け入れて彼を取り残すことにした。
オフロードカーであることが幸いして、ある程度の悪路なら問題なく疾走できた。この先どうするか、ネフィは考えて無かったが直太はカリフォルニアに行ったあと、船に乗り換えて日本に脱出するように提案した。「はい、私が住んでいる日本はよく火山や地震といった地面に関わる自然災害に対して、いざという時は冷静に判断できる国です。特に勤務地である福島の人々は最も和平的で皆優しい人々です。そこなら何の心配も無いでしょう。」彼女は少し不安そうな顔をしていたが、他に打つ手は考えられなかった。2人は六時間交代で運転を繰り返した。それから3日をかけてカリフォルニアの港に着いた。やはり脱出口となる場所なだけあって、オレム警察署の時とは比べものにならないほど大混乱が起きていた。ネフィはそのまま車で抜けようとしたが、直太は止めた。「やめた方がいいです。ネフィさん。車を略奪されますよ。降りて歩いて進みましょう。あと四人全員ベルトか何かでしっかりと結んで離れないようにしましょう。人ごみの流れに飲み込まれたら、完全に迷子になってしまいます。そして、荷物はできる限り、保存できる食料を多く詰めた方がよいでしょう。着替えは無くても死ぬことはありませんから。」彼の判断は正しかった。軍人が銃を持って監視していたが、やはり口喧嘩挙げ句の果てには殺し合いまでもやっていた人々もいた。スリの危険性もあったがそこは二人共警察であったためか、手を伸ばそうとする奴がいれば直太は柳生心眼流、ネフィはキックボクシングで返り討ちを食らわせていたためその危険性は無かった。だが人ごみによる圧力は半端では無かったため中々前に進めなかった。そんな中をやっとの思いで付けたとしても、必ず日本行きだとは限られないため、徐々に直太に不安と焦りがこみ上げてきた。だがその時、遠くからまた新しくやってくる船が見えたそれも速い速度である。さらに近づいてくるとそれは以前、東京に派遣された時に行った時に乗ったことがある超高速船であった。直太の機嫌は再び良くなった。「ネフィさん!あの船なら大丈夫です!前に乗ったことがあります!速く乗りましょう。」死に物狂いで先に船よりも先に船着場に着いた。誘導している軍や港の人々に訳を話し一番先に先に乗船する許可をもらえた。次に更衣室に船員に案内してもらい、そこで制服に着替えることにした。
この船は、急ぎで駆けつけたため燃料的にはギリギリではあるものの往復は可能であるらしかった。定員数は約450人が限度であった。帰国したい日本人を優先的に受け入れる予定であり、余裕があればその他の避難民も乗せるつもりでいる。そのことを船長から聞き自分も警察であるからには、人々を守りたい思いと日本の警察の誇りにかけて自分も全力をかけて、協力したいと直太はその計画に志願し、ネフィも同様にその計画に賛同した。船員の中には直太と以前に知り合った者いたため、円滑に物事は進みすぐに信用されてもらえた。まず先に直太が着替えを終えた、後からネフィも着替え終えた。ジェフとヌートは、操縦室に預けてもらうことにした。早速2人は作業に取り掛かり、ネフィは赤と青の誘導棒、直太は大きなパワーメガホンで避難民に指示を出した。「日本に戻りたい日本人の方々はこちらの船にお乗り下さい!!!日本行きの進路になっています!!!」直太はマイクに出せる限りの声を張り上げた。メガホンはかなり遠くまで彼の声を届けてくれたがその重量は桁外れに重く、それを担いだ状態で2,3時間が経過していた。だがそれでも嘔吐をしながらも彼は、大声を上げて人々を誘導することをやめなかった。「こちらは日本に帰国したい日本人の難民を優先に乗せていって下さい!!!」そう声をかけている中、一人の船員がこちらにやって来た。「ありがとうございます、おまわりさん。もうこの船は乗員数が限界になりました。おまわりさんも速く中に入って下さい。」その船員は他の誘導している人々にもそのことを、素早く伝えていった。直太は安心してフラフラしながら船内に入っていった。乗船したとたん我慢していた疲労が一気にこみ上げて、直太はその場に倒れた。それからしばらくして直太は目を開けた。そこは操縦室だった。「えかったぁ。みなすんっっごい心配したんやで。もう過労死しちまったかと思ったんやから!」そこにネフィが頬に涙を流しながら微笑んでいた。「そうかもう出航したんだ。今はどの場所にいるんですか?」「北緯35°、西経174°の場所です。もう少しで日付変更線の所に着く所です。」そう答えたのはさっき乗員の限界を教えれくれた、若い男性の船員だった。「僕は流城潮犀(りゅうじょうしおさい)といいます。いやぁ、さっきの訴えるような案内は見事でした。ちゃんと避難してきた皆さんも聞いてくれてました。」流城潮犀、21歳。大学卒業後に船の事務員の仕事を始めた。今はまだ接客を始めたばかりで、乗船券のスタンプ受付や船内の案内などが今の彼の主な役割である。「今まで私は、どれ位横になっていたんだ?あと他の避難民達はどうなったんだ?まだ乗れなかった日本人がごまんと居たはずだ。」直太は問いかけた。「もう10時間近くぐったりしていました。あと、超大型の豪華客船や大量のプレハブを載せた超大型輸送船が後から、次々とあの港にやって来ました。ある程度は難民達を乗せることはできたみたいです。安心して大丈夫です。」直太はホッとした。それから数時間、何も起こらなかったため、もう船に乗っている人々は日本に帰るだけかと思ったその時、突然無線が使えなくなってしまった。それどころか、レーダーすら使えなくなってしまったのだ。どうしたことか、すると「大変です!!火山灰が人工衛星の電波を妨害しています!!これでは無線もレーダーも使えません!!」そう火山灰は、濃度が高いほど電波を妨害する性質を持っているのだ。こればかりはどうすることもできなかった。案内できるものが無ければただ漂流し彷徨い続けるしか無くなってしまう。とその時、ジェフがカバンから何かを取り出した。それは地図帳とコンパスであった。市販で売られている玩具程度のタイプであったが、この時ばかりは非常にありがたかった。「Thank you! Jeff! well done!(ありがとうジェフ!デカしたぞ!)」直太は笑顔でジェフを褒め称えた。優れた航海士の計算力のおかげで、再び元の海路に戻ることができた。進路が分からなくなったことは、難民の人々には広まらなかったため、混乱が起こらずに済んだ。それからさらに時間が経ったある日、とうとう心配していた時がやって来た。そう、燃料が底を尽きかけていたのだ。さらに、船内の食料ももう多くなかった。「このルートで当たってたはずだったのに、私としたことが。」航海士の男性船員が力無く倒れ込んだ。他のメンバーも憂鬱な状態になりかかっていた。だが「最後まで諦めるな!この船に乗っている人々は我々に命を託したんだ!!その使命を思い出せ!!私に頼りきってもいいから、絶対にたどり着くまで諦めるな!!」船長が大声を上げて船員たちを激励した。「我々もできる限りの協力はします。なので、船長の言うとおり最後まで全力を尽くしましょう。」「分かりました。ではあなた方は難民の皆様を見守ってて下さい。暴動などが起きないように見張る必要があるでしょう。」直太達はすぐにその役割に移った。難民が乗っている客室に行ってみると、中には衰弱したりノイローゼにかかった人もいた。そこで、医療的知識がある人物やマッサージができる人を招集した。3,4はいた。その人たちに応急手当や簡単な肩たたきなどのやり方を教えてもらい、さらにそれを広めてできる人たちを費やした。そうやっていくうちに次第に窓から見える外の光景が、暗くなってきた。ちょうどその頃、光を見つけたという知らせが船内中にアナウンスされた。直太が駆けつけると、確かに強い輝きが水平線上にあった。さらに近づいてみると、それは灯台に変わった。つまり、港がある陸地が近いということだったのだ。船は最後の力を振り絞り、灯台が輝く方向に向かった。そしてとうとう港に到着することができた。どうやらそこは岩手の久慈の港だった。当初の計画では宮城の石巻の港に着く予定だったが、進路をどこか間違えたらしい。だが、大きな混乱もなく避難民の受け入れを許可してくれた。誘導をした後、直太たちも下船した。時間は10時位であった。もうネフィ達もクタクタであった。そこで直太は、以前、条人と旅行に行った時に泊まった砂のお城型のホテルで、休むことにした。難民がたくさん来ていたため部屋を取れるか不安だったが、問題なく提供してもらえた。「ありがとな。アタイたちのためにわざわざこんな場所を準備しといてくれて。」「いえいえ、あなたには大事なお子さんが二人もいるじゃないですか。当然の事をしまたでですよ。」直太は二つしかなかったベッドを、ネフィたちに提供し本人は床で寝ることにした。
次の日、空は火山灰によって日差しを遮られて、ライトが目立つほど周囲は暗くなっていた。岩手駅に付き、リニアモーターカーに乗りとうとう福島の郡山駅に到着した。
エピローグ
近くに郡山派出所があることを直太は予想できた。町を歩くこと20分とうとう見つけることができた。そこで金矢に再開することができた。「おおお!今野君じゃないか!無事だったのか良かった。どうしたんだい、後ろにグラマーな美女がいるけど。」「はい。彼女は留学時のホストハウスを受け入れてくれたネフィリティさんです。」「ほな、はじめまして!」それから今までの出来事を説明し、猪苗代交番に連れてもらいたい事を伝えた。「なるほどな。もう少し待ってくれ。そろそろうちのパトカーが戻ってくるはずだ。」そう答えると、ちょうどパトカーが戻ってきてくれた。金矢は乗っていた同僚に乗せて行ってもらえるように頼んだ。どうやらOKをもらえたらしい。それから数分の時間をかけて、猪苗代交番に到着した。「今野直太ただ今戻りました。」すると「直太あああ!!!良かった!!心配したんだぞ!!もう会えないと思ったぞ!!!」と条人が抱きついてきた。他のメンバーも喜びの表情で出迎えてくれた。「当たり前じゃないですか。なんだって!条人先輩の後輩ですから。」「でこちらの外国人の女性は?」優美が聞いてきた。「こちらの方は、ネフィリティ巡査長です。アメリカの婦人警官です。そしてそのお子様がたの、ジェフティとヌートです。」「よろしく。あそうそう、これから長い間外に出ない良いうにのことよ。いい住み込みがあれば良いけど・・・。」と優美がつぶやいた。すると、「なら、私の家をお譲りますよ。プレハブですが3人で住むののには、問題ないですよ。」と直太が答えた。ネフィは遠慮したが他の交番のメンバーにも言われたため、お言葉に甘えてその家に住むことにした。一方直太は、条人の元で住み込むことにした。
それから数ヶ月後、過去の地質学者がシュミレーションした通りに、気温が寒くなっていった。それからさらに日が経つと今度は火山灰が混ざった雨が降ってきた。そして次第に雪が降ることが多くなっていった。この影響は北半球中に広がっていった。6年から10年間は北半球は氷河に閉ざされると言われている。その影響で農作物は育たなくなり急激な寒冷化により体を壊す人々が増加した。特に、ロシアが最も国土が広いゆえに政府が対応できないほど混乱が拡大した。死に物狂いで生き残るために南半球に大移住する現象が拡大していったが、それが災いして避難地域であるアフリカ大陸や東南アジアなどの国々の民族や宗教、風習の違いによる紛争や差別が次々と起き、以前よりも起きるようになった。さらに、その土地に蔓延する疫病が抵抗力の無い北半球の民衆の体をむしばむアウトブレイクがいたる所で起こるようになった。だが日本は他のどん国よりもこのことを想定した上に、被災時でも冷静でいられる判断力を兼ね揃えていたため対策を既に打ち出しており、しばらくすれば外に出る時は必ず灰を寄せ付けないマスクとスーツを身につけて普通に勤務するようになってはさらに私生活にも支障が無いほどに安定していった。
その頃直太は巡査長に出世した。条人とネフィも巡査部長に階級が上がった。直太は自分一人で立派なマンションに住めるようになり、条人とネフィはその後結婚し立派な一軒家を建てる所まで生活が充実していた。他のメンバーは、大樹は警部補に蒋は巡査部長、莉子は巡査長、優美は巡査部長に皆それぞれ階級が上がっていた。
それから1年後、とうとう日差しが入るような天候になった。さらに1ヵ月後には、人工衛星からの電波信号をキャッチ出来るまでに改善され、航空機が空を飛べるようにもなった。生放送のニュースが見れるようになったがこれは日本だけでの現状であり、他の国々では未だに混乱が続いている地域もあった。特にアフリカは急激なヨーロッパの人々の難民の受け入れの影響が最も色濃く出ていた。直太達もニュースを通してこのことを知った。そんな中、直太はあのイスラムテロの人達が言っていたことを思い出した。「アッラーの導きの下でこの地を目覚めさせ、自分勝手に腐敗した全世界に罰を下す。」とい言葉である。確かにこんな混乱が起これば人は大勢死ぬ、だけどそれをきっかけに地球人として大事なことは利益や地位などではないことに気づき、国際的情勢の中でも効率や事情よりも早い団結力が追求される。さらに平和を悪用した政治家や企業は数え切れないほどいるし、嫌でも従うしかない人々もその分いる。だからこそその汚点を押し出すためにあえて大事件を起こし、売上を下落させたり大規模な亡命を起こさせたのではないかと直太は思った。とその時、緊急ニュースが飛び込んできた。それは新しい五大国の推薦である。アメリカにロシア、イギリスにフランスは皆氷河に飲み込まれて、国として機能ができなくなっていた。そして中国は完全に氷河に飲み込まれたわけでは無かったが、寒冷化によって大混乱が生じ独裁の共産制度が維持できなくなり、亡命者が後を絶たなくなり暴動やデモ活動が頻繁に起きるようになり、もう国力はまとまらず国内は分離状態となっていたため、もう今までの国々では維持できなくなってしまった。そのため新しく推薦されることになった。まず初めにブラジル、次にインドにオーストラリア、チュニジアそして日本となった。だがこれはまだスタートの時点である。これからの人類には課題が数え切れないほど待ち構えているだろう。だが逆に言えば、人々の実力を発揮できるチャンスとも言える。直太はそのように思えていた。
右翼警察
おわりに
作品を書いていくうちにリラックスしてきたので、敬語で話すことにします。私はYouTubeで動画のコメントで思い切った文句を投票したことがあります。「tokotoko458」と言うニックネームで入っています。新聞で読む記事やテレビでみるニュースも芸能やスポーツよりも政治や世界に関する方を見ることが多いのです。すると悪い事件や大量の死者が出るニュースが多いと思ったのです。それを見て考えたのが、以前大騒ぎになった「マヤが予言したと言われ、2012年人類滅亡説」でありました。もし実際に起これば、これは必然なのかもしれないと思いました。結局は、「ノストラダムスの1999年に破滅の魔王アンゴルモアがやってくる」というようなデタラメで終わりました。ですが今の時代はそれ位の大惨劇が起こらなきゃ、今の人々は違いを分かち合えず、死んだように生き続けると思えたのです。自由と言いながら金によって決められた地位、そんなことを考えると人は平等では無いということを凄く実感します。私はアニメやゲームなどのサブカルチャーでそのことを考えました。さらには、大事なのは正しいことでは無く実行するかだと私はそう思います。人は必ず自分の価値観を自分自身で尊重する癖があります。私も無意識の内にそうしてしまう後傾があります。空気が読めなかったり、言われた以上のことはどういうことかを解析できなかったりすることがありました。そのため今までまともな仕事に就くことができませんでした。しかし、最も誰にも負けないものがありました。それは想像力です。私は高校時代から大学時代まで美術科で進路を決めていました。そうしているうちに漫画の世界にも興味をもちました。ですがどうしてもその門は狭いことは自覚していたため、通ることは諦めていました。ハローワークに行って仕事も探しましたが、どうしても合う仕事が見つかりませんでした。そこで、アイディアを見てもらう投稿サイトがあったため、これに試しで出してみました。すると面白そうと言われたので、全文を書く事にしました。私は、この作品がドラマ化されなくても漫画化やアニメ化、さらにはゲーム化されても良いと思っています。より多くの人に自分の作品を知ってもらうことが私の一番の喜びです。