うつくしい道
ひろい野原のまんなかで、老婆がひとり、ぽつんとくらしていました。
老婆はもうなん十年も、ほかのだれともあわずに、ちいさな畑をたがやして、くらしてきたのでした。
畑でとれるやさいは、どれもみずみずしく、たいへんおいしかったのです。そしてやさいはまいにち、やさしい声で老婆にはなしかけましたので、老婆はひとりぼっちでも、さびしくありませんでした。
ある、夏の日のことでした。青青とした野原の、はるかむこうから、いっぽんの白い道がゆっくりとのびてきて、ついには老婆の畑を、すっかりふさいでしまいました。
老婆は道のまえにすわって、いちにち中、じっとしていました。
道はコンクリートでできていて、さわるとあたたかく、すべすべしていました。
老婆はよこになりました。そして道の上に、耳をぴたりとおしつけました。こうすれば、土のなかでねむっているやさいたちの声が、きこえてくるにちがいないとおもったのです。
やさいたちは、老婆がいくらはなしかけても、声をださなかったけれども、へんじをするかわりに、まっ白い道に、うつくしい色をつけていきました。
それは、夏のあかるい日ざしをあびた、やさいたちの色におもわれました。やわらかなうす紙が色をすうように、老婆のまわりのコンクリートは、そまっていきました。赤や緑のつるが、老婆をつつむようにして、のびていきました。
老婆はうっとりと、それをながめていました。そしていつのまにか、道にはりついたようになって、死んでしまいました。鳥たちがやってきて、老婆をどこかへ、はこんでいきました。
やがてそのうつくしい道は、うわさとなって世の中にひろまって、とおくの人々のあいだでも、知られるようになりました。
たくさんの人が、道の上をあるいて、野原のまんなかの、老婆の家を、おとずれるようになったのです。
うつくしい道