神々の場所へ
2013/06/21
夢を見た。
柔らかな麻の糸から伝わる温もりを感じた。その糸で、この地域独特のレースを編む。両手はまるで熟練した老婆のように、細やかな薔薇を象ってゆく。その様は夢の中でも美しい。
計り知れない時間を費やして編みこまれたレースで、小さな手のひらに収まる赤児が包まれていた。小さな赤児を両手に包み、愛おしく抱きしめると、光の粒となって消えてしまった。鮮やかな光の雫を集めて、両手の中で大切に守って歩く。
辿り着いた穏やかな泉に、光の雫を与えた。弱々しく輝く雫が、泉の中で新しい命となった。
夢を見た。
大樹の下で、降りしきる雨を眺めている。大地に降り注ぐ水滴の音が次第に弱まるのを待っていた。
雨水を含んで重そうに傾いた野の花から、水滴が滑り落ちる。
無情にも過ぎる時の流れの中で、雨が上がるのを待つ時間は、必要な期間だ。大地に潤いを与え、植物の生命の源となる雫。その雫がどんなにこの身を傷つけようとも、世界を構成する為に必要な物が、この身体を支えているのだから。
静かに流れる雨雲は穏やかに割れて、日差しが大地に注ぐ。鳥たちが通る雲間の青空の中央に、指先で虹の橋を掛けた。その橋は再び訪れる雨の日まで、命を繫ぐ道になる。
夢を見た。
まどろみの中で聞こえた人々の声は、ざわめきとなって消えてゆく。その言葉の意味を理解できる程には、この耳まで届かない。四肢は根を張ったように動かず、朦朧とした意識だけが部屋の中に漂っている。
夢うつつを繰り返して感覚を失った身体が、世界の一部となって消えてゆく。考えることを忘れて、夢の中で時を過ごす。
土地に根付いた命の糸を紡ぐ。それだけの、幸せな夢。
神々の場所へ
続きません。
いつか物語になればと思います。