これは俺の知ってるもみじじゃない! 第4話<かすかな亀裂>


「はぁ……」
 一人自分の部屋でうなだれる。それはそうだ。初めて妹に話を断られてしまったのだから。妹はいつでも俺との約束はいつもしてくれたしそのことは絶対破らなかった。でも今回初めて断られてなぜ?と思う自分がいる。普通なら断られても仕方がないと思えるのに相手が妹だとどうしてもそうは思えないのだ。
「おれ、嫌われるようなことしたのかな……」
 こんな考えが頭の中をぐるぐると台風のようにかき回してゆく。明日になってしまったら妹はどこか遠くに行ってしまう。そんな気がした。なぜなら妹は妹以前にアスリートなのだから。
 次の日の朝。やはり妹の姿はなかった。玄関をちょこっとのぞくとそこには妹のローファーと愛用しているアシックスのランニングシューズがなかった。すでに朝練習に行ったのだろう。
「そーいえば新に紅葉来れないってこと伝えないとな。」
 そう思い紅葉を追うように家を出るのだった。


いつものように校門をくぐりぬけ、ちょこっと野球部を見て、いつものように男子陸上部の市川先輩の走りを見て走り終わって紅葉を見ようとしたら目の前にいた。
「うぐっ!?☆△×???っ!」
 紅葉の顔が近すぎて俺は死にそうになった。……可愛すぎて。
「おにぃ!やっぱり野球部の応援行くね!陸上部みんなで野球部の応援に行くことになったからおにぃとはいけないけどいけるってことを新君に伝えといてねっ。」
「わかった、わかった。早く戻らないと市川先輩帰っちゃうぞ?」
「もー、なんで市川先輩のことがここで出てくるの?おにぃ。まーいいや。そういうことだからおにぃよろしくね。」
 そういって走って練習に戻って行った。やっぱり紅葉は足が速かった。それと同時に嫌な予感も漂った。本気で、紅葉が、ここからいなくなるような気がしたから。
 俺はすぐに新のところへ行って紅葉が試合を見に来てくれるということ、陸上部が全員で応援に来てくれるということ、あとついでに俺も見に行くということ。この三つを新たに伝えた。そしたら新が珍しく自主練をし始めたので俺はすぐにこの場から立ち去ることにした。野球部の先輩と後輩にがありがとうございましたと言ってきたのにはびっくりしたが。……どんだけ練習サボってやがるこいつ。


紅葉side
この日の夜。紅葉に一通のメールが届いた。送り主は新君だった。内容は『明日先発で投げることになってる。もし一点も取られずに投げきることができたら話を聞いてもらえますか?』と書いてあった。心が破裂しそうだった。おにぃに頭撫でられたり、陸上のことや勉強のことでほめられたりしてもどきっ!とすることはあるけど、それとは違う感じだった。自分にはよくわからないけどすごく苦しい。今すぐおにぃのところにいきたかった。すごく苦しくて、バクバクと悲鳴を上げるかのように鼓動が早くなっている。紅葉はすぐに寝ることにした。

「紅葉起きろ、朝だぞ?今日は陸上部の皆で野球部の応援行くんだろ?もうみんな待ってるから早く準備しろよ。」
 おにぃの声がしたので飛び起きる。パジャマはしわくちゃでおへそは丸出し、パンツも見えかけている状況だった。顔が赤くなるのが自分でもわかったがそんなことも気にしないで行く準備をする。パンを食べ、お気に入りのローファーに履き替えて今日はおにぃの顔を見れずに玄関を出る。そこには陸上部のみんなが待っていた。
『遅いよ紅葉!はやくいこ?』
 そしてみんなについていくことになった。そしてなんとなくおにぃがお兄になる気がした。

これは俺の知ってるもみじじゃない! 第4話<かすかな亀裂>

これは俺の知ってるもみじじゃない! 第4話<かすかな亀裂>

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-06-21

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