扇風機とドライヤー
『超短編シリーズ』第一回。
とある家のリビングの一室。一人の青年が肩にバスタオルを掛けて現れた。
「あー疲れた。でもやっぱり仕事を思いっきりやった後の風呂は最高だなぁ〜」
と言いながら、彼はバスタオルで頭をゴシゴシ拭いていた。
…と、その時。その言葉と行動を見聞きして、過剰に反応する二人の人物がいた。
「お、やっと来たか。俺様の出番だな」
彼の名は“ドライヤー”。自分を世界で一番役に立つやつだと思っている。しかし最近、先ほどの青年が銭湯によく行くせいで、あまり“仕事”をしていなかった。なので、今日は久しぶりに家の風呂に入っているので、少々ホッとしているのだ。
「オイオイ、やっぱり風呂を出た後は俺様の出番だろ!」
彼の名は“扇風機”。最近ドライヤーの前に現れた新入りだ。そしてライバルでもあった。先ほどの青年がよく彼を“利用”するので、ドライヤーはかなり苛立っている様子だった。
「オイ扇風機!最近世話をしているってだけでそんなに出しゃばるな!」
「うるさい!お前は、風呂の後しか仕事できないじゃないか!俺様はな、頑張れば一日中仕事だってできるんだぞ!」
「そんなお前だって、ほぼ夏にしか仕事できないじゃないか!」
「何をぉ〜」
…と、そこで扇風機は閃いた。
「そうだ、お前ちょいと勝負しないか?」
「勝負?何の勝負だ?」
「あの青年、風呂あがったばっかりだろ?さっき頭をゴシゴシやってただろ?そこで、俺たちの対決ってわけだ」
「なるほど、お前が言いたいのは、どちらが先にあいつのひどく濡れた髪の毛を乾かせるかってことだろ?」
「そうだ」
「なら、話は早い。この勝負、俺が頂くぜ。俺の方が絶対に早く乾かせる!」
「フフフ、それはどうかな?」
…と、小さな争いをしていると、青年は次の行動に出た。
「さて、髪でも乾かすかな?」
その言葉を聞いて、扇風機とドライヤーの二人は息を呑み込んだ。
「よし、来るぞ」
青年が最初に手にとったのはドライヤーだった。
「よっしゃあ、やっぱり俺様が勝つわ」
ドライヤーが勝ち誇りの“顔”を見せると、扇風機は悔しそうに“首を振っていた”。
しかし、ここで想定外のことが起きた。
「あ、やっぱり夏だから、ドライヤーはこうでないといけないな」
と言って、青年はドライヤーの背後にあるスイッチを押して、風を“cool”状態にした。
扇風機とドライヤーは、二人同時に言った。
「あ、忘れてた…」
扇風機とドライヤー
そうです。「北風と太陽」のパロディーです。