イオン
第一幕 ゲーム
平凡な日常だった。
普通に学校へ行って勉強に励み、友達空の信頼を勝ち取り、親の期待に応えられる、そんな優等生を演じて生きていた。
いい大学に行っていいところに就職する、それが私の人生の最終目標だった。
『政府が決定致しました。』
あのニュースを見るまで。
私はただの人間だった。
・・・・・・・・・あのニュースから丸一日が過ぎた。
私、日我 李遠(ひが いおん)は小さな檻の中に収容されていた。
囚人のような服を着て自慢の栗色の髪も煤で汚れていた。
どうしてこんなことになったのか。
たった一日のことなのに話はとてつもなく長くなる。
・・・・・・・・・・・・・
大学受験をひかえたある日の朝。
私はいつも通り母の用意した朝ごはんを父と一緒に食べ、雑談をしながらテレビを見ていた。
父はとても厳格な人だったから「勉強はどうだ」、「勉強を怠るんじゃない」とゆう、そんな話に相槌をうつだけの朝。
もうそれを別に苦とも思ってなく、どうでもよさげに聞き流すだけ。
父の話に耳を傾けず、私はいつもはついていないテレビに目を向けていた。
そこでやっていたのは殺人事件のニュースや選挙・・・そういった至極つまらないものだった。
ニュースが終わり、次に移ったのがあの人。
相楽 康人(さがら やすひと)
陰鬱な雰囲気を持つ研究者。
何の研究をしているかはテレビでは未公開だが、全ての研究において上の人たちは目を見張り、驚嘆するものばかりだった。
一番世間を騒がせたのは宇宙エレベーターだろうか。
宇宙飛行士達は不必要だと切り捨てた相楽は、宇宙へとつなぐエレベーターの設計。
出来るかどうか、半信半疑だった政府たちも驚愕した。
2年という短い時間で作ったのだ。
酸素ボンベさえ持っていけばいつでも宇宙へいける、そんなファンタジーな代物を。
『私が求めているのはファンタジーだ』
馬鹿か。論理的ではないその言葉に私はとてもではないが共感できなかった。
けれど惹かれるのは確かであり、また相楽が作るものすべて興味深かった。
そんな羨望の眼差しを向けていた相楽が言ったのだ。
全国放送のテレビのニュースで。
『実験を行う。これからテレビで表示される子供たちは国の管轄下に置かれることになる』
実験のモルモットに選ばれたのは日本全土でおよそ1000人。
その1000人の中に運悪く、私の名前があったのだ。
*
それからは至極簡単だった。
黒服の人たちが私を連行。選ばれた子供の親には1億とゆう大金が払われ、私は難なく親に捨てられた。
それから簡素な食事だけが配られ、100人一部屋の檻に入れられ服まで着替えさせられ、と。
まるでゲームだ。そう思った。
私は配られたパンを齧りながら周りを見渡した。
誰もが不安と恐怖に包まれた空間。
次第にその不安と恐怖は伝染するかのようにあっという間に広がった。
今では騒ぎ立てるひとや泣きわめく人たちまで出てしまった。
「・・・・はぁ」
とくにあの家に愛着を持っているわけではなかった私はなぜかこの状況なのに落ち着いていた。
1億の大金で捨てた親の元へ今更戻りたいとも思わない。
そんな時、自分の隣に座っていた金髪の少女に気が付いた。
青色の瞳は涙で潤み、膝を抱えて泣きそうなのを必死に堪えている様子だった。
こんな真隣で大泣きされたらたまったもんじゃない、そう思った私は「・・・・ちょっと、大丈夫?」
そう声をかけていた。
振り向いた金髪碧眼の少女はコクンと頷くと子犬のように私にすり寄ってくる。
「ちょっと・・・なに・・・「怖くないの??」
今にも泣きそうな少女は目元を潤ませながら言った。怖くないの、と。
「・・・別に、怖くなんかないわ」
そうゆうと少女はキョトンとした顔でこちらを覗き込んだ。
「・・・・さっきから見てたの。冷静にパン齧ってるのこの中じゃ貴女くらいだもの」
「泣いても現状は変わらないからね」
自分でもここまで図太い神経してるとは思わなかったが。
「・・・私、櫻 弓香(さくら ゆみか)。貴女は?」
「日我李遠。イオンでいいよ」
泣きそうになっている弓香の頭をそっと撫でると弓香は目を細め私の肩に首を預けた。
妹がいたらこんな感じなんだろうか、不謹慎にもそう思ってしまう。
こんな状況で和やかに微笑んでるのも私くらいだろう。
いつまで停滞状態が続くのか・・・
檻に入れられて丸一日。
ーーー弓香の頭を撫で続けて一時間。
弓香は安心したのか眠ってしまい、私もそろそろ寝ようか、そう思った時だった。
1000人の子供を収容した中央に位置する扉が厳かな音を立てて開いた。
「なっ・・・」
コツンコツンと靴音を響かせながら入ってきたのはこの状況を作り出した当事者。
「相楽康人・・・・っ!」
相変わらず陰鬱な雰囲気を身にまとった相楽康人がそこに立っていた。
私に視線をやったと思えば次は何処を見つめているかわからない瞳で言った。
「今から君たちにゲームを行ってもらう」
ゲーム・・・・?
ここでRPGでもやれとゆうのか、この研究者は。
相楽の声で起きてしまった弓香が歯をカチカチと鳴らしながら震えている。
私はそんな出会って間もない少女の手を強く握りしめ1000人の子供を代表していった。
「バカげてる。私達に何をさせようってゆうの?」
今度はしっかりと視線が交差した。
背中に冷たいものが奔る。
相楽は愉快なものをみるようにニヤリと笑った。
「言っただろう?ゲームだ。君たちが大好きなゲーム。・・・・≪デスゲーム≫だよ」
やっぱりバカげている。
夢であればいい。私はここに来て初めてそう思った。
第二幕 武器創造(ウェポン・クリエイト)
*
あの相楽との会話から1時間。
私達が集められたのは1000人すべてが入ってもまだ余る広い部屋。
床は大理石。天井には大振りのシャンデリア。
感想としては何処かの高級ホテルのような装いだ。
そこに積み重なるように置かれている歪な形をした石を除けば。
「イオンちゃん・・・私達どうなるのっ・・・」
「大丈夫だよ・・・」
根拠のない相槌は何度目だろうか。
こんな簡単なことしか言えない自分のボキャブラリに嘆いた。
私が頭を抱えていると相楽が1000個弱あるだろう石を指さし再び理解不能な言葉を放った。
「まずは、このクリスタルを飲み込んでもらおうか。」
ザワッ・・・・
本当につくづく驚かされることをゆう奴だった。
「ここにある石すべて能力者になる権利あるものが与えられる代物だ。
この石を飲むことを拒否するものは、ここで消えてもらうよ、面倒だからね」
面倒なことを巻き起こしてるのはお前だと罵りたい衝動を堪える。
「・・・ホント、頭イってるわね・・・」
「イオンちゃんっ・・・怖いよぉ・・・」
最早泣き始めてしまってる弓香の頭をもう一度撫で、誰も石を飲もうとしないそんな中で私は挙手した。
「「私が飲むわ」」
え。
声がかぶってしまった。
この状況の中で、こんなアホな発言をするのは自分だけだと思っていたので驚いた。
声を上げたのは腰まで伸びた黒髪に赤い瞳。
豊満な胸は配布された囚人服ではとても覆いきれず谷間がくっきりと見えてしまっている。
着ているのは私と同じ囚人服なのにこんなに妖艶で艶やかな少女は初めて見た。
そんな二人の声に相楽は満足そうに頷く。
いかにも新しいおもちゃを手に入れた・・そんな感じの笑み。
私は弓香の頭をポンポンと撫で1000人の前に出た。
妖艶な少女も私の隣に立ち、相楽を怖がる素振りを一切見せず私を見てニコリと微笑んだ。
そして渡された小粒の石を相楽直々に渡され、私はひとおもいに飲み込んで大丈夫だよ、ということを弓香に教えてあげるつもりで石を口元に・・・・
「ああああああっ!!!」
「えっ・・・・!?」
先に口に含んだ黒髪の少女から青い炎が噴き出した。
「イオンちゃんっっ!!!!」
弓香の泣き叫ぶ声が聞こえた。
弓香の目もくれず私は炎に包まれた少女を呆然と見つめていた。
だって・・・炎にまかれているとゆうのに少女の体は傷一つ負っていなかったから。
「なによ・・・コレ・・・」
「さぁ、君も飲むといい。僕は面倒なことが嫌いでね。ここにいる1000人の子供にこの石は飲んでも大丈夫だと、証明してやってくれ」
「っ・・・・・」
弓香が泣き叫ぶ声が遠くに聞こえた。
けれど私は・・・相楽の思惑通り。・・・・・・・・・・石を飲んだ。
「っーーーーーーーーーーーーーー!?」
黒髪の少女と同じように自分の体から青い炎が噴き出し、頭から足のつま先まで灼熱の炎に炙られているような激痛。
けれど自分の体は焦げも灰になっていく気配もない。
そして脳裏に浮かぶ赤い文字。
クラス:S
能力:武器創造(ウェポン・クリエイト)
その文字を目にしたその瞬間、プツリと意識が途絶え、私は気絶した。
弓香の悲痛な声だけが耳に残った。
第三幕 クラス
*
気が付いたのは朝で、しかもベッドの上だった。
服は前行っていた高校の制服に変わっており、昨日まで檻だった部屋は簡素ではあるもののベッドとクローゼットが置かれていた。
ミシミシいう体に鞭打ち起き上がると、スヤスヤと寝息を立てている弓香も発見出来た。
「・・・」
寝起きの頭をフル回転させ、考えていると徐々に昨日のことが記憶として呼び覚まされていく。
私は灼熱の炎に炙られて・・・あの激痛に堪えかねて気絶したの・・・か。
そして記憶の端・・・もう一つあった昨日の出来事。
クラス:S
能力:武器創造(ウェポン・クリエイト)
脳内に浮かび上がった赤い文字。
あれは何を示しているのか、あの妖艶な少女も同じ文字を見たのかーーー
そしてここで寝息をたてている弓香も・・・
「弓香」
私は心地よさそうに眠っているところ悪いと思いながらも弓香の肩に手をかけ揺さぶってみる。
すると案外眠りが浅かったのかすぐ起きた。
「むにゃ・・・あれぇ・・・ここ・・・あれぇ・・・?イオンちゃん・・・?イオンちゃん!!」
私の顔を見て嬉しそうに抱きついてくる弓香。
よく見たら弓香も学校の制服だった。
「よかった、よかったよぉっ、イオンちゃんが目ぇ覚ましてっ」
「弓香、ちょ・・・くるし、ぐぇっ」
抱きついてるのか首絞められてるのかわからない状態が数分続き、ようやく抱擁から逃れたところで。
「あの後どうなったの?」
すると弓香は「大変だったんだからぁ!!」とぼやいた。
どうやらあの後、そばにいた研究者たちに石を無理やり飲まされ皆次々と昏倒していったらしい。
昏倒したのは弓香も同じで少し前に目覚めたそうだが、すぐ眠ってしまったということだった。
「本当に怖かったんだからね・・・」
頬を膨らます弓香に不謹慎にも微笑んでしまった私は弓香に怒られた。というのは置いといて。
「赤い文字は見えなかった?」
「文字?・・・あぁ、頭に浮かび上がってきたあの不気味な文字のこと?」
弓香は首を傾げてから「んー、クラス:B 能力:水流操作って見えたかな?」
「B?」
個々によってクラス分けがなされているのか。
私の頭に浮かび上がった赤文字とまったく違うことが弓香には見えたらしい。
「クラスって何のことだろうね?イオンちゃんはなんて見えたの?」
「私はーーーー」
イオン