VISIBLE (完結)
「幽霊」
この世に未練が残り、成仏できない死者の魂。
幽霊は未練に縛られ、この世を憎み苦しんでいる。
そう思われがちですが…。
「彼らは、意外と幽霊ライフを楽しんでいます(笑」
時に、人間を脅かしてみたりする事もありますが…呪い殺す事などできるわけがありません。
しかし、訳あってこの世に留まっている事は確かです。
これは…そんな彼らの声を聞く事ができる…1人の高校生の物語。
これは、小説では無く…一つの物語として見て貰ったら幸いです。
プロローグ
6月25日
私の通い慣れた校舎に、真っ赤な炎が踊りだす。
校舎の周りに大勢の街人が集まり、生徒や先生の無事を祈っていた。
すでに救出された生徒も、咳こみながら救急車に乗り込む。
そんな、生と死のやり取りのど真ん中に…私はいた。
「くそっ!下の階段はもう駄目だ!」
「どうしよう!?」
私、そして私の彼は2人…燃え盛る校舎の3階に取り残されていた。
周りはすでに炎に包まれていた。
逃げ場などとっくに無くなっていた。
「屋上から降りてくればこのありさまだよ!なんとかなん無いのか!」
「あ!あの避難訓練で使ってたスローター!あれ使えないかな!?」
炎に囲まれているため、暑さで頭がぼーっとする。
そう長く考える時間は無いようだった。
「……それだ!それしか無い!」
「確か…2年の廊下にあったはずだよ!早く行こ!!」
そうして、走り出した瞬間だった。
大きな音を立てて、燃え盛る柱がこちらに倒れてきたのだ。
「きゃあああ!!」
「麗愛!!」
あ、そっか…。
私は死ぬんだ…。
失意のうちに意識が飛んでく。
真っ白だ…ああ…ここが天国か…。
病院の白壁の天井だったと、気付くのは少し時間が掛かった。
ゆっくり横を向くと、一緒に取り残された人が私をじっと見ていた。
「す…ばる…?」
そう呼ぶと、その人は少し驚いた後に…また優しい笑顔を私に向けた。
「すば…る…私…確か…。」
その人は口を開いた。
「良かった…麗愛…助かったんだよ?」
「そっか…私…生きてるんだ…。」
「守春…。」
そう言って、私はその人に触れようとしたが…避けられてしまった。
「守春…?」
うつむいたままだった。
その時、私のお母さんが病室に飛んで入ってきた。
「麗愛!!良かった!目が覚めたのね!」
「お母さん…ごめんね…心配かけて…。」
「守春も…無事で良かった…。」
お母さんは言葉を失った。
「守春君は…火柱の下敷きになって…。」
「え…だって、ここに…。」
現状が理解できなかった。
「麗愛…ごめん。」
「守春…?冗談だよね…?お母さん!守春はここにいるじゃない!ねぇ!お母さん!」
お母さんは、悲しんだ顔で言った。
「いないわ…。」
私はその人に向き直った。
「守春!?」
私に優しく語り掛ける。
「幸せになれよ…。」
光に包まれ…満足そうな表情で消えて行った。
6月27日
この日から…
私は見えない「者」が見えるようになった。
EP1「幽霊が見える!」
「行ってきます!」
そう言って、私は元気良く家を飛び出す。
あの事件があって3年。
私「夕凪 麗愛」は高校3年生になりました。
高校に入ってから髪を短くして…外見も心も新たに高校生活を送っている普通の高校生。
ただ一つを除いては…。
あ…あの人…。
見知らぬ老人が道路の真ん中に仁王立ちしているのを目撃する。
すると、車が真っ直ぐ老人の方に走ってくる。
ぶつかる!っと思ったその時!
車は老人をすり抜け走り去って行った。
「あっひゃっひゃ!!やはり、このゾクゾク感はたまらんのう!?」
妙に楽しそうであった。
死後もアグレッシブなおじいさんだなぁ…。
私は苦笑いをして、その場を後にした。
私は、普通の人には見えない幽霊を見る事ができる。
街を歩けば、あちらこちらにいる。
人の家に勝手に入って、テレビを見ていたり。
痛くない事を良い事に、わざと高い所からひも無しバンジーしてみたり。
とにかく、幽霊にしか出来ない事を楽しんでいるようだ。
幽霊が見えるようになってから3年…私はこの光景に慣れてしまっていた。
街を歩けば、常に私の視界では人がビルから飛び降りている。
もっとも、お風呂に入っている時に壁から人の顔が出てくるのは、永遠に慣れる事は無いと思う。
彼らは、現実世界の物は触れる事ができないらしく、声も聞こえない。そして、幽霊同志なら話せるらしい。
まだまだ、謎だらけだけど。
そんな非日常な光景が日常になった私は学校へと向かう。
もちろん、学校にも幽霊はいる。
「れあ!おはよー!」
「うん、おはよー。」
そして、私には生きている友達はいる。
幽霊が見える事は誰にも話していない。
幽霊にも。
普通の高校生なのだ、私は。
この学校の初代校長とかが見える事以外は…普通の高校生なのだ。
ちなみに言っとく、幽霊と生きてる人の区別は見た感じでは見分けはつかない。
ただ、幽霊は大抵おかしな事をしてるので…判断はつく。
たとえば…今授業中なんだけど…黒板の前に先生以外のおじいさんが立っている。
うん…間違いなく幽霊だ。
ってか、黒板の前に立つなよ…見えないじゃないか、早くどけてよ…。
あれ…由美ちゃんに近寄ってきた。
ちょっと!何匂い嗅いでんの!匂いなんて分からないくせに!
この光景見るの何回目だと思ってんの!!変態幽霊め!
あ、成仏した。
と…まぁ、これが原因で私の成績はガタ落ち。
私はこの能力は嫌いだ。
幽霊が見えるようになれば分かると思う。
まぁ、見える事は無いとは思うけど…。
EP2「幽霊ストーカー」
「今日も、全く授業頭に入らなかった…もう受験生なのに〜。」
そう言って、放課後のガヤつく教室の机に頭を横にする。
「由美ちゃんに後で教えて貰おう…。」
そんなこんなで、教科書などに目を通していると1人の女子生徒が私に近づいてく。
「あ、麗愛さん…。」
「ん、何?どうしたの?」
女子生徒は一つの手紙を私に渡してきた。
「こ、これ…堀沢君に渡して欲しいの!」
「えぇ!?私が!?」
「お願い!他に頼れる人がいないの!」
自分の手紙を他の人に渡させて告白するのもどうかと思ったが、まぁ…引き受ける事にした。
「分かった!私に任せてよ!」
「ありがとう!やっぱ頼りになるー!」
「で、堀沢君ってどこにいるの?」
「確か…屋上に上がる所見たよ。」
「分かった!じゃあ、行ってくるね!」
そうして、私は屋上に向かった。
途中、窓から飛び降りた人がいたけど気にしない。
屋上に着くと、1人…空を見てる堀沢君らしき人を発見した。
手紙を差し出しながらその人に話し掛けた。
「あのさ、絵里香ちゃんがあんたに渡してって頼まれたんだけど。」
その人はゆっくりと振り返った。
「え、俺?」
「そうだよ。」
その瞬間、その人の目が驚きに変わった。
「え!?君…それどうやってるんだい!?」
私はキョトンとした。
「え…どうやってるって…何を?」
手紙を指さした。
「手紙だよ!どうやって持ち上げてるんだい?俺と話せるって事は君も幽霊だろ?」
「………………。」
「え、何?」
「………………。」
「まさか、君…。」
「人違いでしたー!!!」
私は猛スピードで屋上を出て行った。
「あ、ちょっと待ってくれ!」
階段を駆け降り、鞄を持って校舎を出た。
途中、超笑顔で階段を転げ落ちてる人がいたけどやっぱり気にしない。
「だから、ちょっと待ってくれよ!」
その声が聞こえたのは真上からだ。
「えっ?」
さっきの幽霊が屋上から飛び降りて、私に一直線で落ちてきた。
「ぎゃああああああ!」
私は思わず尻餅をついたが、幽霊は私の体をすり抜けて着地した。
周りから見れば、私はもちろん狂ってる。
「いやあああ!!」
私はまた走り出す。
「ちょっと!まだ逃げるのかよ!」
もう、自分でも何で逃げてるのかも分からない。
それに、私は部活には所属していない。
校門辺りで限界だった。
「はぁ…はぁ…はぁ…あんた速過ぎ…。」
「そりゃ幽霊だからね。疲れないからどこまでも全力疾走だよ。」
私は、近くの公園で水を飲んだ。
ベンチに座り一息付いて聞いた。
「で、私に何か用?」
「用も何も、本当に俺と話せるの!?」
「今話してるじゃん。」
「いやー、霊媒師とかを何件も訪ねたんだけど…どこもインチキでさ…。」
「まさか、本当にいるなんて思わなかった!」
あれ?これって、頼み事されるパターン?
私はベンチから立った。
「そ、そうなんだー!じゃあ、私は急いでるのでこれで…。」
「あ!ちょっと待ってくれよ!君に頼みたい事があるんだよ!」
ほら見ろー!!
「ごめんなさい!本当に急いでるから!」
そう言って、私は家に向かって走り出した。
冗談じゃない!
幽霊の頼み事なんてきっとまともじゃない!
私は家に帰り、水を飲んだ。
「あら、おかえり…どうしたの?そんな息切らして。」
「いや…何でも無いよ…。」
私は自分の部屋のドアノブを握った時、あるお約束が脳裏を過ぎった。
いるんじゃね?あいつが…。
だって、そうじゃなきゃ物語的に面白くないでしょ?
私はドアを勢い良く開けた。
「いるんでしょ!?」
「よっ!遅かったね。」
マジでいんのかよ…。
EP3「幽霊の頼み事」
「いくら幽霊でも、年頃の女の子の部屋に勝手に入るなぁぁ!」
その辺にあるドライヤーやハサミなどを投げつけた。
もちろん当たらない。
「いや、ちょっ!まぁ、とりあえず落ち着いて!」
「しかも、部屋ちょっと散らかってたし…最悪!」
私が落ち着くまで、結構な時間が掛かった。
「あのさ…悪かったよ…ごめんってさっきから言ってんじゃん。」
「…………………。」
目を逸らしたまま何も言わない。
「やっぱり…まだ怒ってる?」
「当たり前!早く出て行ってよ。」
幽霊は頭を下げて言った。
「頼むよ!君にしか頼めない事なんだ!」
「嫌だ!」
「頼むよ!一生のお願い!」
「一生はもう終わってるじゃん!」
はぁ、とりあえず…話し聞いてあげないと帰ってはくれなそうだね。
ため息をつきながら言った。
「…話しは聞いてあげるから、ちゃんと帰ってよ?」
「本当!?良かった!ありがとう!」
幽霊の表情がとても明るくなった。
「…君の身体……ちょっと貸して欲しいんだ……。」
「はい、さよなら。」
私は部屋を出ようとする。
「ええ!?ちょっと待ってくれよ!即答かよ!」
「ごめんなさい、許容範囲を超えました。」
「ってか、バカじゃない!?いきなり、私の身体を貸すなんてできるわけ無いでしょ!!」
「頼むよ!1日だけで良いから!」
「それに長い!」
とりあえず、私は座った。
「で?何?私の身体で一体何をするつもり?」
「話しをしたい人間がいるんだよ…。」
「話したい人?」
「え、ちょっと待って…それって私の身体でその人の所に押しかけるつもり!?」
「うん。」
「信じて貰える訳無いでしょ!?私の今後の人生に関わるだけだよ!!」
「あ、そうだね。」
「あなた、頭良さそうな顔してるけど…本当はバカでしょ?」
やばい、頭が痛くなってきた…寄りによってなんでこんな常識外れの幽霊の頼みなんか…ってか幽霊の存在自体、常識的じゃないけども!
「とりあえず!生きてる人に俺の言葉が伝えられるような何か良い案を考えろよ!」
「何でそんな上から目線!?」
すると、下の階からお母さんの声が。
「麗愛?さっきから声が大きいけど誰かいるの?」
「あ、いや、誰もいないよ!大丈夫だよ!」
そして、私は小声で話した。
「とりあえず、話しはまた明日聞くから…今日はもう帰ってよ…!」
「分かったよ…。」
幽霊は壁の向こう側に消えて行った。
翌日
私は、学校に行く準備をしていた。
「いってきます!」
ビルから幽霊が飛び降りているのが見える。
やはり、いつも通りの朝だ。
「よっ!おはよ!」
なんだよ…いるのかよ…。
「やっぱりいたんだね…。」
「もちろん!ずっと君の家の庭にいたよ!」
暇な幽霊である。
「あ!そういえば、自己紹介してなかったね!」
「俺は青井 蒼空!君の名前も教えて欲しいな!」
「夕凪 麗愛だよ。言っておくけど…まだ手伝うとか決まった訳じゃないからね?」
「えー、なんでだよー!ちょっと身体貸して貰うだけだからさ!」
「だから、それが駄目なんだってば!」
2人は学校に向かって歩いて行く。
「あのさ、やっぱ学校までついて行く気?」
「もちろん!俺も毎回学校で昼過ごしてるからな!」
蒼空は笑顔で言った。
「いやぁ、嬉しいよ!こうやって、また生きてるやつと話せるなんてさ!」
「そう?とりあえず、授業は邪魔しないでよ?ただでさえ幽霊が見えて集中できないんだから…。」
「分かってるって!」
そして、授業中。
「なぁ…どうしても言いたいんだけど…。」
「………………。」
「あの先生…絶対カツラだよな…?」
「凄いズレが気になるんだけど…。」
「なぁ…。」
「うるさい……!気になってるのは、あんただけじゃないの!静かにして!」
「分かったよ…。」
そして授業が終わり放課後になるなり、私は机に横になった。
「あー!!今日も何も分からなかった!あんたのせいだからね!」
「あの先生がカツラなのがいけないんだよ…。」
一言言い訳すると、蒼空は一つの机を指さした。
「なぁ、今日来てなかったけど…あの机って誰の席?」
「えっと、佐々木 未来さんだっけ…?1年生の時は来てたけど、2年生くらいになった時から学校来なくなっちゃったの。まぁ、引きこもりってやつかな?」
「来ていた時も、何となく暗くて…話してる所なんか一度も見た事なかったなぁ。」
「そっか…。」
蒼空の目は、少し悲しそうだった。
「どうかしたの?」
「いや!なんでもない!それより、麗愛ちゃんの身体に乗り移れる方法を知っている人が駅にいるんだ。ちょっと寄って行こうよ!」
「だから、私の身体は貸さないって!!」
EP4「幽霊の憑依講座」
とか言いつつも駅に向かう私。
だって、言う事聞かないと何するか分からないし…。
幽霊だもん。
蒼空は駅のホームに入って行った。
「ちょっ!ホームに行くの!?待って!入場券買うから!」
私は、100円玉を入れて入場券を買った。
思わぬ出費だ。
「で、どこにいるの?」
「ほら、あの隅にいるじいさんだよ。」
目を凝らすと、人混みの中に1人座ってる老人がいる。
「よっ!じいさん!久しぶり!」
すると、老人は睨みつけるように私を見た。
「ひっ!」
呪われそうだ。
何秒か私を見た後、老人は言い放った。
「何だその娘…ワシが見えるのか?」
私が焦って口がまわらなくなったのを察した蒼空が答えてくれた。
「そう!麗愛ちゃんって言うんだけど、俺達が見える生人らしいね。」
「ほう…。」
すると老人は、麗愛の方に近寄ってきた…。
「あ、あの…。」
「確かに、やつと同じ感じがする。」
その言葉を聞いた麗愛は、思わず口走った。
「え、やつ?」
「ワシは、一度お前のようなやつに会っておる。」
「え!?そうなんですか!?」
「もう50年前の話じゃ。」
私みたいな人が他にもいたんだ…。
ちょっと安心した気がした。
「で、その時に…乗り移る事ができたんだよ。このじいさんはな、だから聞きにきた。」
「なるほどね…って、だから乗り移られるなんて嫌だからね!」
「む?お前乗り移りの方法を聞きにきたのか?」
「そうなんだよ!頼む!じいさん!教えてくれ!」
「…構わんが…宿主には、ちょっとした副作用が起きるぞ?」
副作用だってぇぇ!?
聞かないわけにはいかない。
「え!?副作用!?何ですか!?」
「もの凄く体がだるくなるな。」
「よーし!分かった!じゃあ、早くやり方教えてくれ!」
「待ったぁ!!私の身体の心配は無し!?」
「え、良かったじゃん。人間だれでも経験するような事で。」
「いやいや、だけども!」
「簡単じゃ。憑く側と憑かれる側が「そるろす」って言った後に、憑く側がゆっくりと憑かれる側の身体に入れば良い。」
当然の事だが、蒼空が聞いた。
「そるろすって?」
「知らん。」
「え!?ヘンテコ過ぎるでしょ!?」
「とりあえず、試しにやってみたらどうじゃ?」
「そうだな!よーし!麗愛ちゃん行くよ~!?」
「まてーい!!」
話を急激に進めすぎである。
「憑く側と憑かれる側の心境は違うの!!憑く側ワクワクしてるのか分からないけど、憑かれる側は不安しか無いの!」
ごもっともである。
「え〜、じゃあ止めるの?」
「…はぁ…やるよ…仕方ないなぁ…。」
2人は並んだ。
「そるろす。」
「………………。」
「え、もう行って良いの?」
「早くしてよ!!来るなら早く来て!!」
「もう一回じゃな。」
「じゃあ麗愛ちゃん、行くよ?」
「ん〜もう…。」
「そるろす。」
そして蒼空は、麗愛の身体に入ろうとする。
「あ、ちなみにゆっくり入らんと宿主が死ぬからな。気をつけるんじゃぞ。」
「ちょっと待ったぁぁ!!」
蒼空の動きが止まる。
「おじいさん!それは凄い大事な事!体のだるさとかよりも全然大事な事だから!先に言って!」
「はい!3度目の正直!行くよ!」
「本当に…次起きたら、あんた達と一緒になってるなんてごめんだからね…。」
「そるろす。」
今度こそ、ゆっくりと蒼空は麗愛の身体に入って行く。
「どうじゃ?成功か?」
「すげーよ!じいさん!成功だ!」
「おぉ、良かったな。」
「やべ!身体があったかい!心臓の音が聞こえる!」
「やっべー!懐かし過ぎるー!」
周りの人達は不思議な目でこちらを見てる。
「ん?なんだ?あれ…うわっ!!」
すると、麗愛の身体の中から蒼空の幽体が出て来た。
「はぁ…はぁ…あまり騒がないでよ!ってか、本当に憑かれるとは思わなかっ……!?」
「なんか、急に座り込み出したぞ。」
「副作用が出たみたいじゃな。」
「ちなみに、憑ける時間は長くても30秒じゃ。」
「え、そんなんじゃ何もできないじゃないか!」
「はい、じゃあ憑依は無しね!」
「30秒かよ…。」
蒼空は大変残念そうだ。
「そういえばさ、おじいさん。いつもここにいるの?」
「そうじゃ。ワシはこの駅で電車にひかれて死んだんじゃ。」
「その時の痛みときたら、この世の物ではなかったわい。ガッハハハハ!!」
笑い事じゃねぇよ。
「それじゃあ、私は帰ります…。」
「気をつけて帰れよう。」
「じゃあな!じいさん!」
そして、麗愛は自分の部屋に帰ってきた。
「ふぅ…疲れた…幽霊の考えてる事はやっぱり分からないや。」
「まぁ、そんな事言うなよ。」
「って…何でまた私の部屋に勝手に……!」
麗愛はハサミを手にとった。
「わぁわぁ!ごめんっては!頼むよ!寝るまでには出て行くから。」
「はぁ……そうしてよ…。」
麗愛は今日は大分疲れているようだった。
「あ、いっぱいDVDあるじゃん!流してくれよ!」
「くつろごうとするな。」
蒼空は棚を見ていると、一つの写真を見つけた。
笑顔で、私と男の子が写ってる写真。
「ん?誰?彼氏?」
「…あ…。」
私は写真を手に取り、机の引き出しに押し込んだ。
「え、隠すこったぁ無いだろー?」
「良いの!それより、DVD見るんでしょ!?」
「うん、まぁ。」
しかし、私はある事を思いつく。
「そういえば、蒼空だっけ?あなたの目的ちゃんと聞いてないんだけど。」
蒼空はの動きが止まった
「そうだなぁ…麗愛ちゃん良い人そうだし…話して良いかな?」
「うん…。」
蒼空は静かに語り出した。
「佐々木 未来…知ってるだろ?」
「うん、引きこもりになっちゃった人だよね。」
「それ、俺が原因なんだ。」
EP5「幽霊にはできない事」
俺が中学3年生の時の話しだ。
未来と俺は、幼稚園の頃からの幼馴染で…いつしか一緒にいるのが当たり前になっている存在だった。
友達も、最初の頃は冷やかされたが…もう皆慣れて、何も言わなくなっていた。
未来は、本当はポニテが似合う奴で…スポーツや体を動かすのが大好きな明るい奴だったんだ。
バレー部のキャプテンなんかもしていた。
対照的に俺はインドア系で、体を動かすのは嫌いではなかったが…どっちかと言うと家でゲームとか映画を見るのが好きだったんだ。
でも、友達は少ない訳じゃなくて…3年生になったらクラスの学級委員長に推薦されるからい、まぁまぁ人気のある俺だった。
そんな光と影みたいな俺達は混ざり合う事無く、中学最後の夏を迎えた。
「私の最後の大会なんだから、絶対見にきてね!!」
その未来の鈴を鳴らすような声に、休みの日に仕方なく早起きして市民体育館に向かった。
体育館に入ると、まぁまぁ大勢の人が来てる。
インドアな俺は、この空気は嫌いなんだ。
今まで幼馴染をやってきた訳だが、未来のバレーの試合を見るのは初めてだった。
俺が来た時には、各チームがウォーミングアップをしている時だった。
未来は俺を見つけると手を振ってきた。
俺も手を振り返す。
まるで親子だなって思った。
そして試合が始まった。
後になって知ったが、相手は強豪校だったらしい。
1回戦から当たるなんて、運が無い奴だな。
なんて、思いながら見ていたが大健闘。
あんなに必死に頑張ってる未来を見たのは初めてだった。
しかし、試合は惜しくも負けてしまった。
監督との最後のミーティング。
皆泣いてた。
だけど、人一倍負けず嫌いな未来は、何故か泣いていなかった。
ミーティングが終わり、俺の所に来た未来。
「えへ、負けちゃった。」
なんて、舌を出して笑う未来を見てられなかった。
その声が震えてたから。
「すげー頑張ってた。未来のことちょっと見直した…来て良かったよ。」
そんな本音がとっさに出てきてしまった。
すると、未来の顔が徐々に崩れ…俺に泣きついてきた。
「ごめんね…!あたし、蒼空に良い所見せたかったのに…こんな…!」
そっか、ずっと泣くのを我慢してたんだなって思った。
負けず嫌いだから、泣くのを我慢してたんだ。
俺の側で、俺の為に、俺にだけに見せた泣き顔は…俺の心の何かを変えた気がした。
その日、俺は未来に告白された。
ずっと好きだった…けど…ずっと言えなかったらしい。
俺は未来の精一杯に見せてくれた素直な心を、受け取ることにした。
「え?普通に良い話じゃん。」
私は、話の途中で口を挟んでしまった。
「まだ終わってないって、最後まで聞いてくれ!」
「はーい。」
そして、蒼空はまた語り出す。
俺と未来は付き合いだして、未来は部活を引退した。
未来は俺の家に毎日来て、俺は未来に勉強を教えた。
未来は、俺と同じ高校に行きたいらしい。
未来は運動ができる反面…勉強ができなかった。
だけど、未来は頑張ると決めたからには頑張る奴。
みるみる成績は上がっていった。
やっぱり、たまに喧嘩をするが…それが何となく幸せだった。
夏も終わりに近づき、風が冷たくなってきたある日。
俺と未来は放課後の帰り道を歩いていた。
「それでね!お母さんったら酷いんだよ!?私が洗い物してあげたのに……。」
鈴を鳴らしたような澄んだ声で話しながら歩く未来。
いつも通りのはずだった。
青信号を歩く未来は話しに夢中になって信号無視の車に気づかなかったらしい。
俺の体は、自然に動いていた。
次の瞬間、俺は猛烈な痛みと共に意識を落とした。
「それで、あなたは死んだの?」
「だから、人の話しを最後まで聞いてくれ。」
「はーい。ごめんなさーい。」
俺は全身打撲で重傷だったが、助かった。
目が覚めると最初に見えたのは、未来の顔だった。
未来も助かって、本当に良かった。
未来は、一晩中俺に泣きながら謝っていた。
本当に良かった。
毎日欠かさず未来はお見舞いに来てくれた。
今度はちゃんと笑顔で。
そして、2ヶ月ほど経って怪我はほぼ完治していた。
しかし、何故か俺は退院が許されなかった。
そんなある日、俺はいつも通り未来を病院の外まで見送った後に、偶然…自分の親と担当医が病室に入るのを見た。
気になった俺は、病室の戸に耳を当て会話を聞いた。
俺の事を話していた。
聞こえてきたのは俺の名前と
「白血病」
「慢性」
「4ヶ月」
そして、「余命」
え、俺って死ぬのか?
その後、俺の病室に平気で入ってきた親が許せなかった。
俺は、本当に…後4ヶ月で死ぬらしい。
「慢性白血病」
普通白血病と違って、症状が出るのが遅いらしい。
未来には話せなかった。
毎日、笑顔で会いにくる未来を見るのが辛かった。
俺の事を忘れてもらわなくちゃいけない。
クリスマス・イヴの夜。
期末テストの結果が良かった未来は上機嫌だった。
「なぁ…未来?」
「ん、なーに?」
未来は、鼻歌を歌いながらクリスマスツリーを飾りながら俺の言葉に耳を傾ける。
「俺達さ、別れねぇ?」
未来の鼻歌が止まる。
「…あはは、一昨日喧嘩したくらいで大げさだなぁ…。」
「いや、マジでさ。」
俺は、本当に最低な事を言ったと思う。
「本当はさ、俺…未来の事恨んでるんだわ。」
「お前を助けたせいでこんなんなっちまって…こんなんじゃ高校にも行けねぇよ。」
「なのにお前は、テストで良い点取って、何調子こいてんだよ。」
違う…俺はそんな事思ってない。
「私はそんなつもりじゃ…!」
「良いから別れろよ。こっちの気も知らないで毎日ヘラヘラ笑いながら病院来やがって。」
違うんだ。
「蒼空…!お願い…!聞いて…!」
「うるせぇ!!早く出ていけ!!」
違う!!
「…………っ!」
未来は俺の前に二度と姿を見せにはこなくなり…。
俺は、俺を忘れさせたかったのに…。
俺は、未来を忘れる事が出来なかった。
余命1ヶ月前。
最後の外出許可が出された。
俺は、当てもなく車椅子で街を移動する。
最後に行き着いたのは公園だった。
よく、子供の頃に未来とよく遊んだ公園だ。
「そういえば、この公園の木の下に…子供の時…未来と一緒にタイムカプセル埋めたっけなぁ。」
頑張って掘り起こしてみた。
やっぱりビー玉しか入って無かったよ。
虚しさと懐かしさで涙が出そうになった。
そして…。
3月9日、卒業式の日…俺は息を引き取った。
蒼空は語る。
「未来は、あの時俺に言われた言葉と…俺が死んだ事で深い傷を負って生きてる。」
「辛いんだ俺…そのことを思い出すだけで痛くなる訳無いのに…胸が痛くなる。」
「俺は分かってた。未来は人一倍負けず嫌いなくせに…ずっと傷つきやすかった…分かってたはずなのに…。」
「俺は悲しくて仕方ないのに…。」
「もう涙は出ないんだ…。」
そっか、未来さんは私と同じなんだ。
大切な人を失って辛いんだ…。
「やろう…?」
「え?」
「やる。未来さんの心とあんたの心…救いたい!」
私は、他人事なのに…どうも他人事には思えなかった。
「麗愛ちゃん…。」
EP6「幽霊を信じて」
次の日の学校で、私は授業や幽霊のおかしな行動はそっちのけで…未来さんに近づける方法を考えていた。
私は、未来さんとは赤の他人だ。
近づけたとしても、まともに話す事ができないかもしれない。
放課後、麗愛と蒼空は考えこんでいた。
「ごめんなー、俺のために考えこんでくれて…。」
「いいよ、気にしないで!」
「昨日と態度がまるで違うね。」
「はい、そんなこと言わない!」
「ただ、未来さんの…大切な人を失う気持ちは、凄く分かる。」
「え?」
「はい、良いの!それより、あんたも考えなさいよ!」
すると、蒼空は未来の机の中を見た。
プリントでいっぱいだった。
きっと、渡された物を誰かが親切に机の中に入れているのだろう。
蒼空はある事を思いつく。
「あの、机の中のプリントを届けるって口実で…未来に接触出来ないかな?」
「それだ!」
「佐々木にプリントを届けたい?」
麗愛は職員室に来ていた。
「そう!いや、はい!」
「なんで急に…いや、別に助かるけど…あまり深くは入り込まないようにな。相手は引きこもりなんだ。」
「分かりました!」
大量のプリントを持って学校を出ると、ある事に気付く。
「あ、未来さんの家どこだ!?聞いてなかった!」
「あ、俺は知ってるから大丈夫だ。」
「あ、そうなんだ。近い?」
「あの公園のすぐ近くだよ。」
「なんだ、凄い近いじゃん。」
歩いて行くと赤い屋根の家が見えた。
「あれ?」
「いや、あれは俺の家だ。その向かいだよ。」
「あ、あの家かぁ。」
麗愛は、気を引き締めた。
「よし、いくぞ!」
ピンポーン
すると、中からお母さんっぽい人が出てきた。
「あら、どなたですか?」
「えっと、未来さんと同じクラスの夕凪です!その、プリント…溜まってたんで、届けに来ました!」
「あら、そうなの?わざわざ悪いわねぇ。」
「あの、未来さんは学校に来そうにありませんか?」
お母さんは少しうつむきながら言った。
「どうだろうねぇ…なんで学校に行かないのかも…何も話してくれないのよ。」
「もしかして、未来…いじめとかあったのかしら?」
「いや、そんな事は無いと思いますよ!」
「未来さんは、学校ではほとんど話して無かったんですが…いじめられてるなんて、そんな事はありませんでしたよ!」
お母さんは少し笑顔で言った。
「そう…わざわざありがとね。」
「なんだか、未来のクラスメイトが家に来るのは久しぶりね…良かったら、お茶どうぞ?」
「え、良いんですか!?お邪魔します!」
「全然遠慮してないじゃん。」
「うるさい。」
リビングはとても綺麗にしてあった。
「ここの家に来るのも…久しぶりだな…。」
「幽霊になってから来た事無いの?」
「無い。」
「へぇ、私の家には入れるのに…恋人の家にはいれないのね。」
「はは、悪かったな。」
「色々思い出しちゃうんだよ。」
「そっか…」
お母さんは、お茶を出してくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「さっきから話してたけど…誰かいるの?」
「あ、いえ!なんでもないです!」
「そう?」
お母さんも椅子に座った。
「未来はね、昔は凄い明るい子だったのよ?」
「え、あ、そ、そうなんですか。」
「お前、知ってるもんな。」
「だから、うるさい。」
「え?」
「いやいや、なんでもないです!」
「あの子ったら、向かいの子の蒼空ちゃんの事ばかり話してたわ。」
「でも、蒼空ちゃんはね。未来を庇って事故に遭っちゃったのよ。」
「そこから、全く元気無くなっちゃって…ね。」
「私のせいで、蒼空が高校いけないかもしれないって。」
蒼空はうつむきながら言った。
「未来…病院じゃいつも通り元気だったのに…。」
お母さんはまた語り出した。
「クリスマスの日…だったかしら、あの日から蒼空ちゃんのお見舞いにも行かなくなって…泣いてばかりいたわ…自分が蒼空を不幸にしたって…。」
「…っ。」
「そして、中学の卒業式の日。蒼空ちゃんは慢性の白血病で無くなったのよ…未来は関係無かったんだけど…やっぱり…何かあったみたいで…。」
「その日から、何も話さなくなったわ。」
「そう…なんですか…。」
気づいたら、蒼空は隣にいなかった。
「ごめんね~、いきなりこんな暗い話して!」
「いや、良いんですよ!それより…あの…。」
「未来ちゃんと、話させてくれませんか?」
「未来と…?気持ちは嬉しいけど…きっと話してくれないわよ?」
「良いんです!聞いて貰うだけで良いんです!」
「そこまで言うなら…。」
麗愛は蒼空を呼んだ。
「ほら、行くよ。」
すると、蒼空はドアをすり抜けて出て来た。
「ああ…。」
未来は相変わらず部屋にこもりっぱなしだった。
特に何をする訳でも無い…ただ、外の世界とのラインを絶っているのだ。
未来の心は、孤独と喪失に支配されてしまった。
「未来?学校の友達が来てるわよ?」
「…………………。」
「あの、夕凪って言います。」
「その、蒼空君は…今、ひもなしバンジーにハマってて…幽霊ライフを楽しんでます!」
「うおい!何テンパって余計な事話してんの!」
「わ、分かってるよ…えっと…。」
「私は、蒼空君に頼まれて…言葉を伝えに来ました…!」
「………………………。」
「蒼空君…未来さんに酷い事言ったよね?」
「病気で死ぬかもしれない自分を忘れて欲しくて、酷い事言ったよね?」
「…………………………。」
「未来さんを、悲しませた事が未練で残って…蒼空君は成仏できずにいるの。」
お母さんは驚いた顔で言った。
「夕凪さん…?何を話して…。」
「私の事は信じなくて良い!だけど、蒼空君の事は信じてあげて欲しい!!」
「麗愛ちゃん…。」
「……………………。」
未来は話す事は無かった。
「ごめんね。わざわざ来てくれたのに…。」
「いえ、こちらこそ…いきなりすいませんでした。」
「蒼空ちゃん……ここにいるの…?」
「え…。」
「私は信じるわよ?夕凪さん…嘘つかない良い子そうだもん。」
「佐々木さん…。」
「蒼空君は……また綺麗になりましたねって…。」
「ふふ!本当に蒼空ちゃんなのね!」
「あの子、会う度にそんなお世辞言ってくるのよ?」
「ふふ…そうなんですか。」
「今日は、ありがとね。またいつでも来てね。」
「はい!ありがとうございました!」
EP7「幽霊の想い」
私と蒼空は、未来の家の近くの公園に来ていた。
私はベンチに座って言った。
「やっぱり、幽霊が見えるなんてそう簡単に信じて貰えないよね。」
「だけど、おばさんは信じてくれたろ?きっと、未来も信じてくれる。」
「…そうだと良いんだけどね。」
私は下を見ながら、微笑んで言った。
「初めて信じて貰えた…ちょっと嬉しかったかも。」
「うん…そっか。」
私はベンチを立ち上がって言った。
「そういえば……この公園だっけ?タイムカプセル埋めたのは。」
「ああ、そうだけど…確かあの木の下に。」
麗愛はある事を思いつく。
「ここに呼ぼうよ。未来ちゃんをここに…何とか来らせられないかな?」
「だけど、麗愛ちゃんの言葉には耳を貸してくれないだろうし……。」
「…………そうだ!貴方の言葉を伝える方法があるよ!」
「え?」
その日の夜…私は、未来ちゃんの家に行った。
「あら、こんばんわ。どうしたのこんな夜に。」
「これ、この手紙を…未来ちゃんに渡してくれませんか?」
「うん…分かったわ。もう帰るの?」
「はい!お邪魔しました!」
そう言って、私は家を後にした。
「何かしら?」
お母さんは、未来の部屋に行った。
「未来?この前の夕凪さんから手紙よ?」
お母さんは、ドアの隙間から手紙を入れた。
未来は、無言でそっと手紙を取った。
書いてあるのは、変な単語のみだった。
「そるろす…?」
そう口に出した瞬間だった。
未来の身体に何かが入ってくる…そんな感覚に襲われる。
な、何…?
自分で話す事が出来ない。
「未来…。」
私じゃない誰かが私の口で話している?
「ちっちゃい時、タイムカプセル埋めた場所覚えてるか?」
…蒼空…?蒼空なの?
「そこで待ってる。」
その瞬間、意識が自分の物に戻った。
「はぁ…はぁ…あれ…。」
「蒼空……!」
あの頃から一度も開ける事が無かったドアを…未来は開ける。
「未来?あなた、どうしたの!?」
未来は夢中で家を飛び出した。
凄く星が綺麗だった。
あの公園に必死に走って行く。
ずっと運動していないのからか分からないが…。
身体が以上に重かった。
公園に着くと、私がいた。
「始めまして、未来さん。私が夕凪だよ。」
「……あなたが…。」
笑は、未来の隣を指差した。
「蒼空君なら、隣にいるよ?」
「蒼空君と一緒に掘り起こそうよ。タイムカプセル。」
未来は小さく頷いた。
「ほら、これスコップ。」
2人は木の下を掘り進めて行くと…硬い物にぶつかった。
「あ、これ…。」
未来は手に取った。
「もう、10年以上前になるかも。」
そっとその箱を開けると…中から2人で集めたビー玉が出てきた。
「…懐かしい……。」
麗愛は、そのビー玉の中にノートを見つけた。
「なにこれ、ノート?」
「それは、入れた覚えないんだけど…。」
蒼空は話した。
「それ、俺が最後にここに来た時に…遺書として…タイムカプセルに入れたノートだ。」
麗愛はノートを開くと、物凄い汚い字で文字が書かれていた。
「うわ、汚い字…全然読めないよ。」
未来はノートを手に取った。
「蒼空…昔から字は汚かったんだよ。でも、私は読めるよ。」
それは、蒼空の闘病生活を書いた日記だった。
EP8「幽霊が残したモノ」
9月16日火曜日
この時期に入院なんてついてねぇな。
でも、未来が無事で良かった。
入院して5日目なんだけど…どうも暇でしょうがない。
だから、今日から日記つけてみる訳だけど…俺の事だから長くは続かないだろうな。
まぁ、変わった事があったらつけてみる程度にするか。
10月20日木曜日
今日は未来が友達連れていきなり入ってくるもんだから…日記書いてるのバレる所だった。
危ねえ危ねえ。
まだ怪我完治してねぇのに色々触ってきやがるし…全く。
だけど、今日が俺の誕生日だって覚えててくれたんだな。
さすがに皆の前でキスするのはさすがに恥ずかしかったけど…久しぶりだったし、嬉しかった。
みんな、ありがとな。
未来も、絶対同じ高校行こうな。
11月13日火曜日
聞いた。
どうりで入院が長引いてるなって思ったら…そういう事だったのか。
白血病、血液のガンなんて言うらしいじゃねぇか。
俺の余命も4ヶ月くらいだってよ。
マジか、俺なんか生活習慣がわるかったのかなぁ。
イマイチ死ぬっていう実感がわかない。
未来に話したら、どんな顔すんだろうな。
怖くて話せねぇや。
11月2日日曜日
最近になって、死ぬっていうのがどういうもんか分かってきた。
いつも、ヘラヘラ病院に来てる未来の顔が見れなくなる事なんだなって。
マジか、それはマジで困るな。
俺がこのまま死んだら…未来はもうヘラヘラしなくなんのかな。
最悪だな。
もし、未来が俺の事忘れてくれるなら…俺が死んでもヘラヘラしてくれんのかな。
12月24日土曜日
未来、ごめん。
きっと、俺はもうダメだ。
自分から突き放した癖に…悲しくて仕方ねぇよ。
マジでキモイな俺。
涙がとまんねぇよ…。
お前が俺を忘れても、俺は忘れられそうにねぇよ。
2月15日水曜日
今日は最後の外出許可だ。
久しぶりに外の空気吸ってくるか。
明日から、本格的にくるらしいし…今日が最後の日記だろうな。
薬の副作用で髪が全部抜けたよ、ハゲだよハゲ。
まぁ、こんな姿見たら…未来は絶対バカにしそうだけだど。
とりあえず、ハゲ見られないで済んだのは幸運だったのか…。
今日の外出許可はどこに行こうか…公園とか?
ってか、タイムカプセル埋めた場所だな…ビー玉しか入って無いけど…。
さて、未来は今頃どうしてんだろうな。
未来、結構男子からも人気あったし…俺がいなくなったら…新しい奴でもできるだろ。
それに、もう俺は死ぬ覚悟した。
大丈夫、きっと死後の世界も楽しいはずだ。
って何度も思ったはずなのに…。
未来と話したい、電話したい、今すぐ会いたい。
まだフォアグラ食べてないし、アメリカとか外国にも行きたい。
母さんに親孝行もしたかった。
ベタだけど、父さんと酒飲みたかった。
中学卒業したい。
未来と同じ高校行きたい、同じ大学にも行きたい。
未来をもっと大切にしたかった。
ずっと一緒にいたかった。
冗談抜きで結婚もしたかった。
年とっても、良い夫婦でいたかった。
未来の笑った顔をもっと見たかった。
まだ…まだ死にたくねぇよ…!
でももう叶わない。
後悔してばかりだった。
俺はマジでかっこ悪い奴だよな。
死ぬ時は、笑って行きたいってそんなギザなセリフ言いたいけど…。
俺には無理みたいだ。
これで最後だ。
俺が死んでも、お前の事ずっと見守ってる。
幸せになれよ。
未来、ずっと好きだ。
EP9「幽霊に出来る事」
その日記を読み終わる頃には、涙でくしゃくしゃになっていた。
「蒼空…!」
「ごめんね…ごめんね…私…蒼空の事…何も分かってあげられなかった…!」
「私も会いたいよ…蒼空…さよならも言ってないのに…!」
蒼空はずっと、未来の側にいた。
「……未来さん…もう一度…蒼空君と話してみない?」
「え…?」
「ほら、蒼空君!早く私に乗り移って!」
「良いのか…?」
「良いから、早く!」
「そるろす。」
蒼空はゆっくり私の中に入っていった。
私は目を開いた。
「未来……。」
「蒼空…なの…?」
私は未来から目を逸らした。
「ごめん……あの時、俺は……!」
「良いの!もう…良いの…もう分かったよ…?」
「未来……。」
「あたし、もう大丈夫だから…ずっと見守ってくれてて…ありがと。」
「蒼空…ずっと好きだよ…さよなっ……。」
未来は顔を背けた。
「未来…?」
「あれ…笑って送り出したかったのに…おかしいな…涙が…。」
未来の声は震えていた。
「未来…泣いてても良い!だから…こっち見て?」
蒼空にそう言われると、未来は大きく泣き出した。
「…うっ…さよならぁぁ!ありがとぉぉ!」
「さよなら…未来…ずっと…ずっと好きだから…!」
「あたしもだよ…!これからもずっと好きだから!」
私の目から、蒼空の涙が流れて行く。
徐々に私の意識が戻って来た。
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「ふぅ、まだ身体がだるいよ…。」
麗愛は、未来を家に送り届けて…公園のベンチに座った。
「ごめんな、また体借りちゃって。」
「良いんだよ、私が言い出した事だしね。」
蒼空は星がいっぱいの夜空を見て言った。
「もう、大丈夫だな。未来は…。」
「うん、きっとね。」
蒼空は、最後に聞いた。
「なぁ、なんであんな一生懸命になってくれたんだ?」
「…うん…。」
麗愛は静かに語りだした。
「私も、恋人…火事で無くしてるの。」
「その人は、私の無事確認したら…すぐに成仏したから…もう会えないよ。」
「その日からなんだ、幽霊が見えるようになったのは。」
麗愛は目を閉じながら言った。
「だけど、大切な人にも会えないこの能力は…ずっと意味無いモノなんだって思ってた。」
そして、目を開けて蒼空を見て言った。
「だけどね、蒼空君の過去の話しを聞いたら…未来ちゃんの気持ちが痛いくらい分かったんだ。」
「ずっと信じて貰えなくて、意味無い能力だと思ってたけど…力になれるかもって。」
「そうだったんだな。」
蒼空は立った。
「もう…行くの?」
「ああ、もう未練とか無いし…あるとすれば…ひも無しバンジーが出来なくなる事くらいかな。」
「ふふ、そっか。」
蒼空の幽体が光りを放ちながら徐々に消えて行く。
「あのさ…。」
「きっと、麗愛ちゃんの恋人も…俺と同じだよ。」
「え?」
「幸せになって欲しいって…天国からずっと見守ってる。」
「蒼空君…。」
「それじゃあ、ありがとな!麗愛ちゃんに会えて良かった!」
「私も!未来さんの事は後は任せて!」
「ああ、さよなら…!」
そして、満足そうな表情で蒼空は消えて行った。
麗愛は空を見て語る。
「さよなら、蒼空君。」
「さよなら…守春…。」
Last EP「幽霊と私」
何日か経ったある日。
私と未来さんは蒼空の墓に来ていた。
2人で手を合わせた後…未来は語った。
「そっか、蒼空は成仏したんだね。」
「うん、でもずっと…未来さんを見守ってくれてるよ。」
「そっか…。」
2人は墓のある丘を降りて行く。
「あの、未来さん?」
「ううん、未来で良いよ?」
「あ、じゃあ未来……。」
「何?」
「蒼空君も言ってたけど…やっぱり…ポニテ似合うね。」
「…えへへ、ありがとね。」
やっぱり、笑顔が素敵な子なんだな。
「麗愛は、その…幽霊が見えるんだよね?」
「うん、ほら…今ビルから飛び降りた。」
「えっ!?ほらって言われても!」
「うーん、なんかこの光景に慣れちゃってね。」
「大変そうだね。」
「うん、でも…この能力持ってて良い事あるって…蒼空君が教えてくれたんだ。」
「そっか…その能力はこれからどうして行く気なの?」
「うーんまぁ、いつも通りでも良いんだけど…たまには幽霊と話すのも良いかなって。」
「へぇ、なんか良いね!それ!」
「そう?ふふ…あ、じゃあそろそろ学校行こうか!」
そう言って2人は歩き出す。
「あれ、あいつだよ。幽霊が見えるって子!駅のじいさんから聞いたんだ!」
「マジで!?俺も悩み聞いて貰いてぇ!」
麗愛は、異変に気づく。
「なんだろ?いっぱい人が歩いてくるけど?」
「え、見えないけど?」
「え、まさか…。」
「おーい!俺達の未練も何とかしてくれー!」
大量の幽霊が麗愛目掛けて走ってくる。
「げっ!なんであんな広まってんの!?」
麗愛は走り出す。
「あ、麗愛!」
「あんないっぱい無理に決まってるでしょ!?」
こうして
蒼空君の本当の一生が終わり。
未来の新しい一生が始まった訳ですが…。
「で、ここが中間テストで出るから良く学習するように。」
「で、麗愛ちゃんだっけ?まず、わしの悩み聞いて欲しいんだけど!」
「いや、私が先!おじいさんは引っ込んでよ!」
「いやいや、俺が先だ!なぁ、麗愛ちゃん頼むよ!」
「あー!!うるさぁぁぁい!!!」
「やっぱりこの能力は嫌いだー!!!」
私の一生はまだ終わらなそうです。
VISIBLE (完結)
いかがだったでしょうか?
この物語を作るきっかけになったのは、私達が思っている幽霊のイメージを覆すような…そんな物語を作りたかったからです。
この物語で、一人でも共感してくれたなら…とても嬉しい限りです。
あなたの周りの建物から、幽霊が飛び降りてるのかもしれませんね。