夜と霧
夜と霧
1947年ヴィクトール・E・フランクル著
ユダヤ人の精神科医で心理学者のフランクルが強制収容所にいた2年半の間に観察した仲間たちの記録。
医師であるが、最後の少しの期間しか医師として活動することはできず、ほとんどを肉体労働をして過ごした。
彼の生き様を見ていると、ほんのささいなことで生死が分かれることがわかる。
トラックに乗れなかった(偶然数に数えられなかったという理由だけで)ために、結果的に生き延びたというようなことが頻繁に起きているのだ。
残るべくして残る、神に選ばれたとしか思えない。
そこには人知を超えたなにかがある。
別の収容所に移る集団に入るか入らないかでも、生死の葛藤がある。
病人はガス室送りになるという事実から、病人を移送する集団に付いていくのは命取りになるのだ。
その集団に医師として付いて行くことを決めたフランクル。
当然、そこに残る仲間たちは彼に同情した。
ところが、彼がその収容所を去ってから、そこは飢餓状態になり、人肉食にまでなってしまったのだ。
あとでそれを仲間から聞いたフランクル。
収容所を移ったことで彼は助かったのだ。
こんなことが起きている中で、彼は仲間の心理状態を冷静に観察している。
彼の視点はとても温かくて愛に満ちている。
けっして行動の善し悪しを批判しない。
行動をただあるがままに見つめ続けた。
極限状態の行動の善し悪しを批判するのは簡単だが、意味がない。
人はこのような状態ではなにをするかわからない生き物なのだ。
それでも、このような環境でも、良い方に振れる人もいることは書いている。
非常に希望の持てる本だと思う。
嫌な記述はなく、客観的に書かれているので、暗い気持ちにはならなかった。
強制収容所というと気持ちの悪い感じなのかなと思ってたけど、さっぱりした文章で良かった。
さすが医師ですね。
読みやすかったです。
私はフランクルが生き残った奇跡が素晴らしいと思った。
そしてドイツ人将校の見せた優しさや愛はすごく気持ちの良いものだった。
人はグループを超えて良い人も悪い人もいて、けっして同じ集団にかたまっているわけではなく、境界を超えて存在するのだというのが心に残った。
良い人だけのグループなんて存在しないのだ。
同時に悪い人だけのグループも存在しない。
夜と霧